説明

導電性ナノロッド構造体、導電性ナノロッド構造体の製造方法

【課題】導電性かつ透明な基板上にナノロッドアレイ構造を形成することを課題とした。
【解決手段】本発明は、多数の微細貫通孔を有する膜である多孔性膜の片面に電極基板を形成する電極基板形成ステップと、金属イオンを含有する溶液に前記多孔性膜を浸して前記微細貫通孔に溶液を充填する溶液充填ステップと、前記微細貫通孔内の溶液に含まれる金属イオンを還元反応により析出させて、前記微細貫通孔の内側に導電性ナノロッドを形成する導電性ナノロッド形成ステップと、前記電極基板を除去する電極基板除去ステップと、前記電極基板を除去した面に透明導電性基板を形成する透明導電性基板形成ステップと、前記多孔性膜をその溶媒に浸して溶解させ、前記導電性ナノロッドと透明導電性基板とからなる導電性ナノロッド構造体を取り出す導電性ナノロッド構造体取出ステップと、からなる導電性ナノロッド構造体の製造方法などを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノロッド構造体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によって、金属ナノロッドアレイ膜は、光学素子や電極への応用が検討されてきている。金属ナノロッドアレイ膜の特徴は、基板上に金属のナノメートルオーダーの構造が配列されていることである。金属ナノロッドアレイ膜からなる電極(以下、金属ナノロッドアレイ電極という)は、平らな電極と比較して作用面積が大きくなるため、充電用バッテリーや二重層構造キャパシター、太陽電池などの改良につながると期待されている。
【0003】
本発明者は、先に出願した特許文献1において、Auフィルムを基板とするAuナノロッドアレイ膜を開示している。特許文献1におけるAuナノロッドアレイ膜は、円柱状のAuナノロッドが基板上に配列した構造を有する。当該Auナノロッドアレイ膜は、化学プロセスによって簡便・安価に製造することができ、かつ、新規な反射光学素子として用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−237448
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先の出願にかかるAuナノロッドアレイ膜は、Auフィルム基板が背面からの光を遮っていたため、Auフィルム基板の背面からの光を検出したり、Auフィルム基板の背面に光を射出したりすることができなかった。また、Auナノロッドアレイ膜を電極として用いる場合、当該電極の前面にある電解液などによって減光されてしまうという問題があった。本発明者は、Auフィルム基板に代えて、導電性かつ透明な基板上にナノロッドアレイ構造を形成することができれば、基板背面から効果的に受光できると考え、鋭意研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は透明導電性基板と、透明導電性基板上に起立して配置される複数の導電性ナノロッドと、からなる導電性構造体を提案する。また、多数の微細貫通孔を有する膜である多孔性膜の片面に電極基板を形成する電極基板形成ステップと、金属イオンを含有する溶液に前記多孔性膜を浸して前記微細貫通孔に溶液を充填する溶液充填ステップと、前記微細貫通孔内の溶液に含まれる金属イオンを還元反応により析出させて、前記微細貫通孔の内側に導電性ナノロッドを形成する導電性ナノロッド形成ステップと、前記電極基板を除去する電極基板除去ステップと、前記電極基板を除去した面に透明導電性基板を形成する透明導電性基板形成ステップと、前記多孔性膜をその溶媒に浸して溶解させ、前記導電性ナノロッドと透明導電性基板とからなる導電性ナノロッド構造体を取り出す導電性ナノロッド構造体取出ステップと、からなる導電性ナノロッド構造体の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性構造体は、導電性ナノロッドアレイの基板が透明であるため、基板背面からの光を検出したり、基板背面に光を射出したりすることが可能になる。また、Auナノロッドアレイ膜を電極として用いる場合、当該電極の背面から受光可能であるため、減光作用の影響を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態の導電性ナノロッド構造体の概要を示す図
【図2】導電性ナノロッド構造体を太陽電池素子の電極として用いる場合の一例を示す図
【図3】実施形態の導電性ナノロッド構造体の製造方法の一例を示すフローチャート図
【図4】製造過程における導電性ナノロッド構造体の一部を示す図
【図5】ケミカルエッチングを行う前(b)と行った後(a)のポリカーボネートフィルター膜の表面の拡大写真(25×10倍)
【図6】ケミカルエッチングを行う前(d)と行った後(c)のポリカーボネートフィルター膜の表面の拡大写真(100×10倍)
【図7】ポリカーボネートを除去して取出したAuナノロッドアレイ膜のFE−SEMの表面写真(左:5000倍、右:30000倍)
【図8】Auナノロッドアレイ膜のFE−SEMの側面写真である(30000倍)
【図9】Auナノロッドアレイ膜の透過スペクトルを表す図
【図10】Auナノロッドアレイ膜の反射スペクトルを表す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、種々なる態様で実施することが可能である。
【0010】
<実施形態1>
【0011】
<概要>
図1は、本実施形態の導電性ナノロッド構造体の概要を示す図である。この図に示すように、本実施形態の導電性ナノロッド構造体1は、透明導電性基板2と、透明導電性基板上に起立して配置される複数の導電性ナノロッド3と、からなる。本実施形態の導電性ナノロッド構造体は、基板が透明であるため、基板背面からの光を検出したり、基板背面に光を射出したりすることが可能になる。
【0012】
「透明導電性基板」とは、光透過性を有し、導電性を有する基板である。具体的には、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜又は酸化インジウム錫(ITO)膜又は酸化亜鉛アルミニウム(AZO)膜などが挙げられる。なお、光透過性を有し、導電性を有するものであれば足り、この例に限定されるものではない。
【0013】
「導電性ナノロッド」は、導電性を有し、ナノメートルオーダーの直径に対して長手方向の長さが大きい構造である。例えば、50−800nmの直径に対して、長手方向の長さが6−10μmとなる構造などが挙げられる。導電性ナノロッドの素材は主として金属であり、例えば、金、白金、銅、パラジウム、ニッケル、スズ、またはこれらの合金などが挙げられる。また、酸化亜鉛や酸化チタンなどの無機物質を用いることも可能であるし、酸化インジウム亜鉛又は酸化インジウム錫又は酸化亜鉛アルミニウムなどを用いることも可能である。
【0014】
複数の導電性ナノロッドは、透明導電性基板上に直立して配置される必要はなく、斜めに起立して配置されていてもよい。また、各導電性ナノロッドはそれぞれ異なる方向を向いていてもよいし、その長さがそれぞれ異なるものであってもよい。ここで、各導電性ナノロッドの方向を揃えると、光の透過率及び反射率が高くなり、その発色は鋭い光沢色になる。また、各導電性ナノロッドの方向をランダムにすると、乱反射が起こりやすくなるため、光の透過率及び反射率が低くなり、その発色は柔らかい色調になる。
【0015】
<導電性ナノロッド構造体の応用>
本実施形態の導電性ナノロッド構造体は、太陽電池素子の電極に応用することが可能である。図2は、導電性ナノロッド構造体を太陽電池素子の電極として用いる場合の一例を示す図である。この図に示すように、太陽電池素子の電極として用いる場合、複数の導電性ナノロッド3の間に色素増感酸化チタンなどの光電変換層4を設けることが考えられる。光電変換層に到達した光はそこで吸収され、あらたに電子などの電荷担体が生じる。当該電荷担体は、導電性ナノロッドを介して透明導電性基板に輸送される。また、イオンは電解液5の中を移動する。なお、電解液5に代えて、光電変換層4とは異なる種類の光電変換層を設けることも可能である。光電変換層4にて電荷担体を生成させるための光は透明導電性基板2を介して入射するため、透明導電性基板側から光が入射するように配置することで受光機構を形成することが可能である。また、光電変換層の上に配置される他の電極6についても透明電極とすることによって両方向から光を受光可能な構成としてもよい。
【0016】
また、本実施形態の導電性ナノロッド構造体は一定の反射性能も有するため、先の出願である先行文献1に示した発明と同様に、光学素子として用いることが可能である。また、その光学素子はディスプレイや電子ペーパーの表示素子に応用することができる。本実施形態の導電性ナノロッド構造体を用いて光学素子を形成する場合、導電性ナノロッド構造体の上部と下部に透明なガラス基板を配置し、当該ガラス基板で挟まれた領域に導電性ナノロッドを浸漬するための電解液と、電解液に電圧を印加するための電圧印加手段を設けることが考えられる。
【0017】
<導電性ナノロッド構造体の製造方法>
図3は、本実施形態の導電性ナノロッド構造体の製造方法の一例を示すフローチャート図である。また、図4は、当該製造過程における導電性ナノロッド構造体の一部(導電性ナノロッド一つ分)を示す図である。まず、ステップS1において、多数の微細貫通孔11を有する膜である多孔性膜12の片面に電極基板13を形成する(電極基板形成ステップ:図4(a)(b))。ここで、多孔性膜としては、ポーラスアルミナ(陽極酸化アルミナ)やポリカーボネート、ポリエステルなどの多孔質フィルタ膜が挙げられる。なお、内部にナノメートルオーダーの微細貫通孔を備えるものであり、溶媒等によって溶かすことができるものであればよく、材質などは特に限定されるものではない。ただし、多孔性膜の微細貫通孔の形状によって、導電性ナノロッド構造体の光学的性質が変化する。例えば、ポーラスアルミナフィルター膜などのように微細貫通孔の方向が比較的そろっている多孔性膜を用いると導電性ナノロッドの方向もそろうため、乱反射が起こりにくくなり、透過率が上がる。また、ポリカーボネートフィルタ膜などのように微細貫通孔の方向が比較的ランダムな多孔性膜を用いると導電性ナノロッドの方向もランダムになるため、乱反射が起こりやすくなり、透過率が下がる。
【0018】
電極基板としては、金、白金、銅、パラジウム、ニッケル、スズなどの金属基板を用いることが可能である。電極基板は、取りはがしを容易にするために、数十〜数百nm程度の薄いフィルムを用いることが好ましい。なお、多孔質膜の片面に電極基板を形成する方法として、スパッタリング法や、真空蒸着などを用いて貼付する方法が考えられる。
【0019】
次に、ステップS2において、金属イオンを含有する溶液に前記多孔性膜12を浸して前記微細貫通孔11に溶液を充填する(溶液充填ステップ)。ここで、金属イオンとしては、例えば、金、白金、銅、パラジウム、ニッケル、スズなどの金属イオンが該当する。多孔性膜の微細貫通孔11に溶液をいきわたらせるため30分〜1時間程度溶液に浸しておくことが好ましい。
【0020】
次に、ステップS3において、前記微細貫通孔11内の溶液に含まれる金属イオンを還元反応により析出させて、前記微細貫通孔11の内側に導電性ナノロッド3を形成する(導電性ナノロッド形成ステップ:図4(c))。金属イオンの還元反応は、電極基板形成ステップにて形成された電極を作用電極とする。また、水溶液中において余計な電気化学的な反応を防ぐため、印加電位-1.2 Vの定電位下で実行することが好ましい。また、ガスの発生を防ぐために、還元電流を小さくなるように電解液における金属イオン濃度を低濃度(例えば、10mM)とすることが好ましい。金属イオンの還元反応を2〜3時間程度行うことによって、多くの微細貫通孔11の内側に導電性ナノロッド3が形成される。
【0021】
次に、ステップS4において、前記電極基板13を除去する(電極基板除去ステップ:図4(d))。電極基板の除去は、粘着テープを電極基板に貼り付けて剥がすことによって除去することも可能であるし、研磨によって除去することも可能である。
【0022】
次に、ステップS5において、前記多孔質膜12の溶媒で前記電極基板13を除去した面14を擦ってエッチングする(ケミカルエッチングステップ:図4(d)(e))。例えば、多孔質膜がポリカーボネートからなる場合は、クロロホルムを用いてその表面14をエッチングする。上記エッチングを行うことにより、微細貫通孔11の入口径が導電性ナノロッドの径よりも大きくなり、導電性ナノロッド3と微細貫通孔14の入口との間に若干の隙間15ができる。
【0023】
次に、ステップS6において、前記電極基板を除去した面14に透明導電性基板2を形成する(透明導電性基板形成ステップ:図4(f))。ここで、透明導電性基板は、例えば酸化インジウム亜鉛膜(IZO)又は酸化インジウム錫膜(ITO)又は酸化亜鉛系Al−Zn−O(AZO)からなる。酸化インジウム亜鉛(IZO)フィルムなどは導電性でかつ透明であり、ポリカーボネートなどの多孔質膜にRFスパッタリング技術を使って室温で固定することができる。
【0024】
次に、ステップS7において、前記透明導電基板2に透明な支持体16を配置する(透明支持体配置ステップ:図4(g))。透明な支持体としては、ガラス基板やPET等の透明高分子シートなどを用いることが考えられる。透明な支持体を配置することによって全体の強度が高まり、以下のステップS8で多孔質膜を除去する際にも導電性ナノロッド構造体の構造を保ちやすくなる。
【0025】
次に、ステップS8において、前記多孔性膜12をその溶媒に浸して溶解させ、複数の前記導電性ナノロッド3と透明導電性基板2とからなる導電性ナノロッド構造体1を取り出す(導電性ナノロッド構造体取出ステップ:図4(h))。ここで、多孔性膜を除去するために、その溶媒に30分〜1時間程度浸しておくことがこのましい。最後に、室温で乾燥させて、導電性ナノロッド構造体1を得ることができる。
【0026】
<効果>
本実施形態の導電性ナノロッド構造体は、Auフィルム基板の背面からの光を検出したり、Auフィルム基板の背面に光を射出したりすることが可能である。また、Auナノロッドアレイ膜を電極として用いる場合であっても、Auナノロッドアレイ膜の背面から受光可能であるため、電解液などによる減光作用の影響を減らすことができる。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の導電性ナノロッド構造体について、実施例を用いてより具体的に説明を行う。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<Auナノロッドアレイの製造方法>
(電極基板形成ステップ)
多数の微細貫通路を有する多孔質膜として、ポリカーボネートフィルター膜を用意した。ポリカーボネートフィルター膜は、50nm程度の径の微細貫通孔を有し、膜の厚さは6μm程度である。また、ポリカーボネートフィルター膜の片面に100nm程度の薄いAuフィルムをスパッタリング法により電極基板として固定した。
【0029】
(溶液充填ステップ)
金属イオン含有溶液として、10mMの亜硫酸金ナトリウム(Na[Au(SO])を含有する水溶液(pH10)を用いた。上記ポリカーボネートフィルター膜の微細貫通孔に溶液を充填させるために30分以上浸した。
【0030】
(導電性ナノロッド形成ステップ)
次に、Auナノロッドを電気化学的な析出を行った。上記ポリカーボネートフィルター膜において、作用極をAuフィルムとし、Ag−AgClワイヤを参照極とし、Ptワイヤを対極とした。水溶液中において、余計な電気化学的な反応を防ぐため、Auイオンの電解析出を−1.20Vの定電位下で実行した。ポリカーボネートフィルター膜の微細貫通孔は、3時間の電解析出によってAuナノロッドでほぼ埋められた。また、電極膜形成ステップにてスパッタリングされた薄いAuフィルムも電解液にさらされ、Auフィルム上に粗めの厚いAu膜が形成された。
【0031】
(電極基板除去ステップ)
次に、上記Auフィルム及び電解析出により表面に形成されたAu膜を粘着テープで除去した。
【0032】
(ケミカルエッチングステップ)
次に、Auフィルム及びAu膜を除去した後の表面を、ポリカーボネートフィルター膜の溶媒であるクロロホルムを染み込ませた綿棒で数回擦った。その結果、ポリカーボネートフィルター膜の円柱微細孔の入口とAuナノロッドの間に隙間が形成された。
【0033】
(透明導電性基板形成ステップ)
次に、低温RF(13.56MHz)スパッタリングを行い、ケミカルエッチングされた面にインジウム酸化亜鉛(IZO)膜を形成した。スパッタイリングにおいては、10重量%の酸化亜鉛(ZnO)でドープされた酸化インジウム(In)の3インチ直径のターゲットを用いた。その結果、Auナノロッドアレイを含有するポリカーボネートフィルター膜の表面に200nmの厚さの酸化インジウム亜鉛(IZO)膜が形成された。当該酸化インジウム亜鉛(IZO)膜は、ポリカーボネートフィルター膜の微細貫通孔の入口とAuナノロッドの間の隙間に入り込み、Auナノロッドの足元を固定する基板となる。
【0034】
(透明支持体配置ステップ)
次に、透明なガラス基板の上にノーランド81(紫外線硬化樹脂)を数滴滴下し、その上に酸化インジウム亜鉛(IZO)膜がくるように配置し、紫外線を60分間照射した。その結果、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜の下部に透明なガラス基板が付着した。
【0035】
(導電性ナノロッド構造体取出ステップ)
次に、多数のAuナノロッドを含むポリカーボネートフィルター膜をクロロホルムに30分間浸して、ポリカーボネートフィルター膜を除去した。その結果、Auナノロッド構造体が取り出された。Auナノロッド構造体は、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜に多数のAuナノロッドが立設した構造となっている。
【0036】
<Auナノロッド構造体>
(FE−SEM観測)
電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を使って、Auナノロッド膜の表面形態を観察した。帯電の影響を最小限にするために白金(Pt)の薄い膜(<50nm)をスパッタコーティングした。
【0037】
図5、図6は、ケミカルエッチングを行う前(b)(d)と行った後(a)(c)のポリカーボネートフィルター膜の表面の拡大写真(図5:25×10倍、図6:100×10倍)である。この図に示すように、Auナノロッドは、膜表面をクロロホルムで擦ることによって大きく見えるようになる。これは、クロロホルムによってポリカーボネートの微細貫通孔の入口が広がってAuナノロッドと微細貫通孔の入口との間に隙間ができ、Auナノロッドが大きく見えることになる。また、Auナノロッドと微細貫通孔の入口との隙間には酸化インジウム亜鉛(IZO)が入り込むため、Auナノロッドが酸化インジウム亜鉛(IZO)膜上に安定的に固定される。さらに、ケミカルエッチングを行うことにより、わずかに残存しているAu蒸着膜を除去することが可能であり、Auナノロッドアレイ膜の透過性をさらに向上させることが可能である。よって、Auナノロッドの足元を透明導電性基板に埋め込んで固定するだけでなく、Auナノロッドアレイ膜の高い透過性を得る上でもケミカルエッチングを行うことは有益である。
【0038】
図7は、ポリカーボネートを除去して取出したAuナノロッドアレイ膜を上面から写したFE−SEM写真である(左:5000倍、右:30000倍)。また、図8は、Auナノロッドアレイ膜を側面から写したFE−SEM写真である(30000倍)。これらの写真から、Auナノロッドアレイが酸化インジウム亜鉛(IZO)膜に形成されていることが分かる。Auナノロッドの方向や長さは様々であるが、それはポリカーボネートテンプレート膜の構造に起因するものである。また、Auナノロッドが、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜にしっかりと固定されていることが分かる。これは、ケミカルエッチングによってポリカーボネートフィルター膜の孔の入口が大きくなり、Auナノロッドとポリカーボネートフィルター膜との間に酸化インジウム亜鉛(IZO)が入り込むことによるものである。
【0039】
(光学観測)
生成されたAuナノロッドアレイ膜の可視光に対する透過率や反射率について、紫外可視光分光度計の反射プローブを用いて計測した。反射率の値は絶対反射率とし、参照計測には250nm〜2500nmで平らなスペクトルとなる25%反射標準プレートを用いた。図9は、Auナノロッドアレイ膜の透過スペクトルを表す図である。この図にあるように、600nm付近の波長では約10%の透過率となっている。厚さ200nmの酸化インジウム亜鉛(IZO)の透過率が可視光帯において80%以上であることを鑑みると、Auナノロッドアレイ膜の低い透過率はランダムな方向のロッドによって光が分散していることに起因するといえる。図10は、Auナノロッドアレイ膜の反射スペクトルを表す図である。この図にあるように、600nm付近の波長では、約23%の反射率となっている。計測において、光はロッド側から表面に垂直となるように入射させている。基板がAu膜の場合には約20%の反射率であることを鑑みると、基板を酸化インジウム亜鉛(IZO)に変更しても反射率に大きな影響は影響が出ていないといえる。低い透過率と反射率はナノロッドアレイにおいて光の散乱が強く起きていることを示唆する。反射スペクトルの形に関して、500nm波長より短い領域にAuの内部バンド遷移による広い吸収が見られ、600nm波長付近の領域にも吸収帯が見られる。当該吸収帯は、高いアスペクト比のAuナノロッドによるプラズモン吸収に起因するといえる。つまり、
【0040】
<Auナノロッドアレイ膜の応用例>
上記のように本実施例のAuナノロッドアレイ膜は600nm波長付近の領域においてプラズモン吸収が観測されるため、太陽電池の長波長領域における集光プロセスが改良されるといえる(プラズモン増強による採光効率の増大)。さらに、本実施例のAuナノロッドアレイ膜による作用表面の増大や電荷担体輸送プロセスの向上によって、より効果的な太陽電池が実現されるといえる。これらの効果は、高いアスペクト比を有する金ナノロッドアレイが有効な集電体として機能し、光電変換層を薄くすることが可能であるため光電変換層と集電体の距離が少なくなることに起因するといえる。なお、本実施例のAuナノロッドアレイ膜を電極として用いる場合、当該電極の背面から受光することが可能であるため、対向電極を透明電極とする必要性はない。
【符号の説明】
【0041】
1…導電性ナノロッド構造体、2…透明導電性基板、3…導電性ナノロッド、4…光電変換層、5…電解液、6…他の電極、11…微細貫通孔、12…多孔性膜、13…電極基板、14…エッチングされた面、15…透明支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性基板と、
透明導電性基板上に起立して配置される複数の導電性ナノロッドと、
からなる導電性ナノロッド構造体。
【請求項2】
複数の導電性ナノロッドの間に光電変換層をさらに配置した請求項1に記載の導電性ナノロッド構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性ナノロッド構造体の透明導電性基板側から光が入射するように導電性ナノロッド構造体を配置した受光機構を有する導電性ナノロッド構造体システム。
【請求項4】
多数の微細貫通孔を有する膜である多孔性膜の片面に電極基板を形成する電極基板形成ステップと、
金属イオンを含有する溶液に前記多孔性膜を浸して前記微細貫通孔に溶液を充填する溶液充填ステップと、
前記微細貫通孔内の溶液に含まれる金属イオンを還元反応により析出させて、前記微細貫通孔の内側に導電性ナノロッドを形成する導電性ナノロッド形成ステップと、
前記電極基板を除去する電極基板除去ステップと、
前記電極基板を除去した面に透明導電性基板を形成する透明導電性基板形成ステップと、
前記多孔性膜をその溶媒に浸して溶解させ、前記導電性ナノロッドと透明導電性基板とからなる導電性ナノロッド構造体を取り出す導電性ナノロッド構造体取出ステップと、
からなる導電性ナノロッド構造体の製造方法。
【請求項5】
前記電極基板除去ステップと前記透明導電性基板形成ステップの間に、前記多孔質膜の溶媒で前記電極基板を除去した面を擦ってエッチングするケミカルエッチングステップをさらに有する請求項4に記載の導電性ナノロッド構造体の製造方法。
【請求項6】
前記透明導電基板形成ステップと導電性ナノロッド構造体取出ステップの間に、前記透明導電基板に透明な支持体を配置する透明支持体配置ステップをさらに有する請求項4又は5に記載の導電性微細構造膜の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質膜は、アルミナ又はポリカーボネートの多孔質フィルタ膜である請求項4から6のいずれか一に記載の導電性微細構造膜の製造方法。
【請求項8】
前記透明導電基板は、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜又は酸化インジウム錫(ITO)膜又は酸化亜鉛アルミニウム(AZO)膜からなる請求項4から7のいずれか一に記載の導電性ナノロッド構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−109849(P2013−109849A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251759(P2011−251759)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【Fターム(参考)】