説明

導電性パターン形成用組成物及び導電性パターンの形成方法

【解決手段】硬化性オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含有するシリコーンゴム組成物に、最大粒径が1μm未満の導電性微粒子を配合してなることを特徴とする導電性パターン形成用組成物。
【効果】本発明の導電性パターン形成用組成物を用いることによって、インクジェット法やスタンプ法のような印刷方法により半導体基板上に微細な導電性パターンを塗布描画することができ、描画された回路を、組成物中に含まれる硬化剤によって架橋形成してゴム化することで、応力耐性を持つ導電性回路とすることができる。これにより、導電性回路の微細化が可能となると共に、信頼性の高い半導体回路を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な導電回路を形成するための材料に関し、特に、半導体装置を積層する際、基板間に微細な導電性回路を形成するための導電性パターン形成用組成物、及び、導電性パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールが限界に近くなり、積層化の方向で微細化が進行している。その中でも半導体チップ同士を積層して回路を形成する際の配線の形成方法が重要になる。チップ間に配線を行う方法としては、シリコン貫通電極(TSV)により形成した回路にメタルプラグを作製し、積層する際にハンダボールを介してメタルプラグと接点を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1:特開2010−080897号公報)。しかし、この方法は、硬度の高い金属同士の接触を必要とするので、ハンダボール、メタルプラグのそれぞれを基板より突出させた上、全ての接触位置の高さを均一とすることができないと、ひずみが集中した部分の接点に割れや変形等の問題を生ずることがあった。
【0003】
また、金属微粉末を用いた回路形成技術も多数提案されているが、それらの方法により形成した回路は、いずれも上述と同様、金属粒子を回路状に配置する方法が基本となっており、安定性の高い導通はとれるものの、上述の方法と同様、応力に弱い材料によるものである。
【0004】
一方、ひずみに対する耐性を持つゴム系材料として、パターン化された導電領域を有するシリコーンゴムの形成体を介して接点を形成する手法は、基板同士の接点形成する方法として既に実用化されている(特許文献2:特開2001−172506号公報)。
【0005】
特許文献2では、シリコーンゴムのゴム弾性により、基板間が圧縮された際に、導電パターンに含有される導電フィラー同士が接触し、導電性回路が形成される。またこの時、シリコーンゴムのゴム弾性のために、基板上の配線の高さが少々違っていても、ひずみがシリコーンゴムにより吸収されるために配線へのダメージが少ないという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−080897号公報
【特許文献2】特開2001−172506号公報
【特許文献3】特開2001−23435号公報
【特許文献4】特開平6−157764号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】West R.,David L.D., Djurovich P.I.,Stearley K. L., Srinivasan K. S., Yu H., J. Amer. chem. Soc., 103, 7352, (1981)
【非特許文献2】Aitkin C.T., Harrod J.F., Samuel E., J. Organomet. Chem., 1985, 279, C11.
【非特許文献3】工業技術28(8)42,1987
【非特許文献4】Chemistry and Technology of Silicones, pp387−409, Noll W., 1968, Academic Press.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のような導電領域のパターン形成は、上述のような基板間の応力に対する耐性に問題がある。一方、従来のシリコーンゴム系の材料への置き換えでは微細化への対応が難しく、半導体チップ同士を積層する場合の接点形成法として実用化には至っていない。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、半導体チップ同士等の接合のような微細な回路形成に対応でき、かつ応力に耐性を持つ、パターン化された微細導電性回路の形成を可能にする導電性パターン形成用組成物、及び、該組成物を用いた微細な導電性パターンの形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、サブミクロンサイズの球状シリカ表面に金属メッキを施した導電性フィラー又は金属微粒子を代表とする導電性微粒子を含有する、好ましくは液状のシリコーンゴム組成物を、インクジェット法によるパターン印刷等により回路状に塗布した後、ゴム状に硬化させる方法により、応力耐性を持つ微細な導電性パターンを形成できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は下記導電性パターン形成用組成物及び導電性パターンの形成方法を提供する。
請求項1:
硬化性オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含有するシリコーンゴム組成物に、最大粒径が1μm未満の導電性微粒子を配合してなることを特徴とする導電性パターン形成用組成物。
請求項2:
上記導電性微粒子は、表面が金属メッキされたシリカである請求項1記載の導電性パターン形成用組成物。
請求項3:
上記導電性微粒子は、金属微粉末である請求項1記載の導電性パターン形成用組成物。
請求項4:
請求項1乃至3のいずれか1項の導電性パターン形成用組成物を回路状に塗布した後、硬化してゴム化することを特徴とする導電性パターンの形成方法。
請求項5:
上記回路状の塗布が印刷による方法であることを特徴とする請求項4記載の導電性パターンの形成方法。
請求項6:
上記印刷による方法がインクジェット法であることを特徴とする請求項5記載の導電性パターンの形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性パターン形成用組成物を用いることによって、インクジェット法やスタンプ法のような印刷方法により半導体基板上に微細な導電性パターンを塗布描画することができ、描画された回路を、組成物中に含まれる硬化剤によって架橋形成してゴム化することで、応力耐性を持つ導電性回路とすることができる。これにより、導電性回路の微細化が可能となると共に、信頼性の高い半導体回路を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導電性パターン形成用組成物は、ゴム状の導電性回路を形成できる、インクジェット法やスタンプ法のような印刷方法によって塗布描画可能な好ましくは液体材料であり、本発明の導電性パターン形成用組成物には、必須成分として、シリコーンゴム組成物の基材となるポリシロキサン及び硬化剤と、サブミクロンサイズの導電性微粒子を含有する。
【0013】
上記本発明の導電性パターン形成用組成物に配合される導電性微粒子は、その粒径をサブミクロンとすることによって、インクジェット法やスタンプ法による好ましい形状のパターン形成が可能となる。
【0014】
上記配合されるサブミクロンサイズの導電性粒子として、具体的には、最大粒径が1μm未満であり、好ましくは、平均粒径が20〜500nm、更に好ましくは30〜300nmであるものが用いられる。また、比較的狭い粒度分布を有するものを使用することが更に好ましい。ここで最大粒径及び平均粒径は、レーザー光を用いた動的光散乱理論(FFT−パワースペクトル法)によって測定した結果より得た値であり、最大粒径はこの測定データより得た粒度分布プロットより得た値である(以下同様)。
【0015】
上記導電性微粒子としては、表面が金属メッキされたシリカ又は金属微粉末が好適に用いられる。
まず、表面が金属メッキされたシリカにおいて、基材シリカとしては、平均粒径が10〜250nm、特に20〜200nmの粒状シリカが好ましい。
【0016】
上記粒状シリカの導電性は、例えば、特許文献2(特開2001−172506号公報)や特許文献3(特開2001−23435号公報)に開示されている方法に従って、導電性微粒子とすることができる。即ち、平均粒径が100nm程度、あるいはそれ以下の平均粒径の球状シリカは、例えば、日産化学工業(株)製コロイダルシリカ「スノーテックス」シリーズや信越化学工業(株)製X24−9163Aとして市販されているが、これらの球状シリカに対して、Si−SiあるいはSi−H結合を有するケイ素系ポリマーで表面処理し、更に、塩化パラジウム溶液を作用させ、シリカ表面にパラジウムコロイドを析出させた後、ニッケルメッキ、次いで金メッキを順次行う方法である。
【0017】
上記導電性は、より具体的には次のような操作で行う。
第1工程:シリカ粉体をケイ素系化合物、好ましくは還元性を有するケイ素系化合物で処理し、シリカの表面に該ケイ素系化合物の層を形成する第1工程。
第2工程:第1工程で得られた粉体を標準酸化還元電位0.54V以上の金属からなる金属塩を含む溶液で処理し、上記シリカ表面のケイ素系化合物層上に該金属コロイドを析出させる第2工程。
第3工程:上記金属コロイドを触媒として無電解ニッケルメッキを行い、上記ケイ素系化合物層表面に金属ニッケル層を形成する第3工程。
第4工程:更に金メッキを行い、上記金属ニッケル層上に金層を形成する第4工程。
【0018】
上記第1工程に使用される還元性を有するケイ素系化合物としては、Si−Si結合、あるいはSi−H結合を有するケイ素系ポリマーが好ましく、具体的にはポリシランやSi−Si結合又はSi−H結合を有するポリシロキサンやポリシラザン等が挙げられる。
【0019】
上記ポリシランとしては例えば下記式(1)
(R12Si)n (1)
(式中、R1、R2は、水素原子、又は置換もしくは非置換の1価炭化水素基であり、R1とR2とは互いに同一であっても異なっていてもよい。nは下記分子量とする数である。)
に示す構造のものが好ましく用いられる。
【0020】
上記式(1)中、R1、R2の1価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12、特に炭素数5〜12のアルキル置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜10の芳香環にアルキル置換基を有していてもよい芳香環含有炭化水素基が好ましく用いられる。上記1価炭化水素基の好ましい具体例としては、アルキル基である、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等、脂環式基である、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等、また、芳香環を含有する炭化水素基である、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0021】
また、上記ポリシランの分子量には特に制限がないが、一般的にはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量として、800〜1,000,000のものが好ましく用いられる。
【0022】
上記ポリシランは、基本的には公知のいずれの方法を用いて合成されたものでもよいが、例えば非特許文献1(West R.,David L.D., Djurovich P.I.,Stearley K. L., Srinivasan K. S., Yu H., J. Amer. chem. Soc., 103, 7352, (1981))に開示された方法を用いて合成することができる。なお、非特許文献2(Aitkin C.T., Harrod J.F., Samuel E., J. Organomet. Chem., 1985, 279, C11.)に開示されたポリシランは Si−Si結合と共にSi−H結合も含んでいるので更に好適である。
【0023】
また、ポリシロキサンの例としては下記式(2)
(R34SiO)a(R5HSiO)b(R67Si)c (2)
(式中、R3、R4、R5、R6、R7は、それぞれ独立に、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン原子である。また、a+b+c=1であるが、bとcが同時に0にはならない。)
のようなSi−H又はSi−Si含有のポリシロキサンを用いることができる。
【0024】
上記式(2)中、R3、R4、R5、R6、R7に用いることができる1価炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の置換基を有してもよい直鎖状、分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜14、特に炭素数6〜10の置換基を有してもよい芳香環含有基が挙げられる。また、上記置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0025】
上記1価炭化水素基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が、芳香環含有基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0026】
また、上記R3、R4、R5、R6、R7に用いることができるアルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基を用いることができ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0027】
更に上記式(2)中のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0028】
また、上記ポリシロキサンの分子量には特に制限がないが、一般的にはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量として、200〜1,000,000のものが好ましく用いられる。
【0029】
上記Si−H又はSi−Si含有のポリシロキサンは、基本的には公知のいずれの方法を用いて合成されたものでもよく、例えばSi−Si結合を含有する加水分解性シラン化合物をポリシロキサンを得るための加水分解性縮合時の原料である加水分解性シラン化合物の一部又は全部として添加する方法が挙げられるなど、常法を採用し得る。
【0030】
ポリシラザンの例としては下記式(3)に示すようなポリマーが挙げられる。
(R89SiNR10d(R11HSiNR12e(H2SiNR13f (3)
(式中、R8、R9、R11は、それぞれ独立に、置換もしくは非置換の1価の炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、R10、R12、R13は1価の炭化水素基である。また、d+e+f=1であるが、eとfが同時に0にはならない。)
【0031】
上記式(3)中、R8、R9、R10、R11、R12、R13に用いることができる1価炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の置換基を有してもよい直鎖状、分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜14、特に炭素数6〜10の置換基を有してもよい芳香環含有基が挙げられる。また、上記置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0032】
上記1価炭化水素基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が、芳香環含有基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0033】
また、上記R8、R9、R11に用いることができるアルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基を用いることができ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0034】
更に上記式中のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0035】
また、上記ポリシロキサンの分子量には特に制限がないが、一般的にはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量として、200〜1,000,000のものが好ましく用いられる。
【0036】
上述のポリシラザンは、公知のいずれの方法を用いて合成されたものでもよいが、例えば特許文献4(特開平6−157764号公報)のような方法で合成することができる。
【0037】
シリカ表面にケイ素系化合物の層を形成する工程(第1工程)は、具体的には、上述のようなケイ素系化合物を有機溶剤に溶解させ、この中にシリカ粉体を投入混合した後に有機溶剤を除き、シリカの表面にケイ素系化合物の層を形成するという方法によって行うことができる。
【0038】
この工程において、ケイ素系化合物を溶解させる有機溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒や、ニトロメタン、アセトニトリル等が好適に用いられる。ケイ素系化合物含有溶液の濃度は、0.01〜50%(質量%、以下同様)、好ましくは0.01〜30%、より好ましくは1〜20%が好適であり、濃度が0.01%未満では大量の溶剤を使用することになるのでコストが上昇し、50%を超えるような濃度ではケイ素系化合物を粉体表面全面に十分形成できない場合がある。
【0039】
粉体を有機溶剤に溶解したケイ素系化合物で処理する方法としては、ケイ素系化合物を溶剤に溶解させて希釈した状態で粉体と混合し、このスラリーを容器内で撹拌羽根を回転させ分散接触させる撹拌式、気流中にこのスラリーを分散させ瞬時に乾燥させる噴霧式等が好適に採用できる。
【0040】
上記処理工程では、温度を上げたり減圧にすることにより、有機溶媒を留去するが、通常は溶媒の沸点以上の温度、具体的には1〜100mmHgという減圧下で40〜200℃程度の温度で撹拌しながら乾燥することが効果的である。
【0041】
処理後は、しばらく乾燥雰囲気下、あるいは減圧下で40〜200℃程度の温度で静置することで、溶剤が効果的に留去して処理粉体が乾燥し、ケイ素系化合物処理粉体を製造できる。
【0042】
ケイ素系化合物層の厚さは、好ましくは1〜10nm、特に好ましくは1〜5nmである。1nmより薄いと、シリカを完全に覆うことができなくなるため、メッキが起こらない部分ができるおそれがある。また、厚すぎると、粒子の粒径が大きくなったり、凝集の原因となる場合がある。
【0043】
なお、上記シリカ粉体は、ケイ素系化合物処理により疎水性となる。このため、金属塩を溶解させる溶媒との親和性が低下し、液中に分散しないため、金属塩還元反応の効率が低下することがある。このことによって起こる金属塩還元反応の効率の低下は、界面活性剤を添加して向上させることができる。界面活性剤としては、発泡を起こさず表面張力のみを下げるものが望ましく、例えば、サーフィノール104,420,504(日信化学工業(株)製)等の非イオン界面活性剤を好適に用いることができる。
【0044】
次の第2工程は、上記第1工程で得られたシリカ表面にケイ素系化合物層が形成された粉体を標準酸化還元電位0.54V以上の金属からなる金属塩を含む溶液で処理し、ケイ素系化合物層上に該金属のコロイドを析出させる工程である。これは、ケイ素系化合物処理粉体の表面を金属塩を含む溶液と接触させるもので、この処理では、ケイ素系化合物の還元作用により、金属コロイドがケイ素系化合物の被膜表面に形成され、金属被膜が形成されるものである。
【0045】
ここで、標準酸化還元電位0.54V以上の金属の塩として、より具体的には、金(標準酸化還元電位1.50V)、パラジウム(標準酸化還元電位0.99V)、銀(標準酸化還元電位0.80V)等の塩が好適に用いられる。なお、標準酸化還元電位が0.54Vより低い銅(標準酸化還元電位0.34V)、ニッケル(標準酸化還元電位0.25V)等の塩では、ケイ素系化合物で還元し難い。
【0046】
金塩としては、Au+又はAu3+を含んでなるもので、具体的には、NaAuCl4、NaAu(CN)2、NaAu(CN)4等が例示される。パラジウム塩としては、Pd2+を含んでなるもので、通常Pd−Z2の形で表すことができる。Zは、Cl、Br、I等のハロゲン、アセテート、トリフルオロアセテート、アセチルアセトネート、カーボネート、パークロレート、ナイトレート、スルフェート、オキサイド等の塩である。具体的には、PdCl2、PdBr2、PdI2、Pd(OCOCH32、Pd(OCOCF32、PdSO4、Pd(NO32、PdO等が例示される。銀塩としては、溶剤に溶解し、Ag+を生成させ得るもので、通常Ag−Z(Zはパークロレート、ボレート、ホスフェート、スルフォネート等の塩とすることができる)の形で表すことができる。具体的には、AgBF4、AgClO4、AgPF6、AgBPh4、Ag(CF3SO3)、AgNO3等が例示される。
【0047】
ここで、金属塩を溶解させる溶媒としては、水や、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、中でも水が好適に用いられる。
【0048】
金属塩の濃度は、塩を溶解させる溶媒によって異なるが、0.01%以上、塩の飽和溶液までが好ましい。濃度が0.01%未満では、メッキ触媒の効果が十分でない場合があり、飽和溶液を超えると、固体塩の析出がある場合がある。なお、溶媒が水の場合は、金属塩の濃度が0.01〜20%、特に0.1〜5%の範囲であることが好ましい。上記ケイ素系化合物処理粉体を室温〜70℃の温度で0.1〜120分、より好ましくは1〜15分程度、金属塩溶液に浸漬すればよい。これにより、金属コロイド処理粉体が製造できる。
【0049】
なお、この第2工程は、まずケイ素系化合物処理粉体を、水で希釈した界面活性剤と接触させ、次いで上記金属塩を含む溶液と接触させることが好ましく、これによりシリカ表面が第1工程のケイ素系化合物処理により疎水性となることで、金属塩を溶解させる溶媒との親和性が低下し、液中に分散し難くなって金属塩還元反応の効率が低下するのを防止することができ、ケイ素系化合物処理粉体を金属塩を含む溶液に短時間で簡単に分散させることができる。
【0050】
ここで、界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤を用いることができる。
【0051】
陰イオン界面活性剤としては、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、カルボン酸塩系、リン酸エステル塩系を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、アンモニウム塩系、アルキルアミン塩系、ピリジニウム塩系を用いることができる。両イオン界面活性剤としては、ベタイン系、アミノカルボン酸系、アミンオキシド系、非イオン界面活性剤としては、エーテル系、エステル系、シリコーン系を用いることができる。
【0052】
より具体的に陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルフォコハク酸エステル、ポリオキシエチレン硫酸アルキル塩、アルキルリン酸エステル、長鎖脂肪酸セッケン等を用いることができる。また、陽イオン界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化アルキルピリジニウム塩等を用いることができる。両イオン界面活性剤としては、ベタイン系スルホン酸塩、ベタイン系アミノカルボン酸アミン塩を用いることができる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等を用いることができる。また、市販されているこのような界面活性剤を混合した水溶液、例えば商品名ママレモン(ライオン(株)製)等を利用することもできる。
【0053】
なお、必要によっては、上記したような界面活性剤を金属塩溶液100質量部に対して0.0001〜10質量部、特に0.001〜1質量部、とりわけ0.01〜0.5質量部の範囲で使用することができる。
【0054】
また、上記金属塩処理後は、金属塩を含まない上記と同様の溶剤で処理し、粉体に担持されなかった不要な金属塩を除き、最後にこの粉体から不要な溶媒を乾燥除去することができる。乾燥は、通常0〜150℃で常圧又は減圧下で行うのが好ましい。
【0055】
次の第3工程は、表面に上記金属コロイドが付着された粉体にこの金属コロイドを触媒として無電解ニッケルメッキを行い、上記ケイ素系化合物層表面に金属ニッケル層を形成する工程である。
【0056】
この無電解ニッケルメッキ液は、通常、硫酸ニッケル、塩化ニッケル等の水溶性ニッケル金属塩、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤、酢酸ナトリウム、フェニレンジアミンや酒石酸ナトリウムカリウムのような錯化剤等を含み、市販品を用いることができる。
【0057】
無電解ニッケルメッキ法としては、常法に従い、無電解メッキ液中に粉体を投入してメッキを行うバッチ法か、水に分散させた粉体にメッキ液を滴下する滴下法を採用し得る(非特許文献3:工業技術28(8)42,1987)。いずれの方法でも、メッキ速度をコントロールすることで、凝集を防ぎ密着性のよい均一な被膜を得ようとすることに変わりはないが、しかし、こうしたニッケル被覆シリカを得ることが困難な場合がある。これは、比表面積の高い粉体は、本来、メッキ反応が非常に活発になり、急激に始まりコントロールできなくなる一方、メッキの開始が雰囲気の酸素の影響を受けてしばしば遅れるためニッケルメッキに時間がかかり、均一にメッキされた粉体が得にくいからである。
【0058】
このため、シリカのニッケルメッキを以下の方法で行うことが好ましい。即ち、ニッケルメッキ液を還元剤、pH調整剤、錯化剤等を含有した水溶液とニッケル塩水溶液に分離する。シリカは、還元剤、pH調整剤、錯化剤等を含有した水溶液に分散し、ニッケルメッキの最適な温度に保温しておく。これにニッケル塩水溶液を気体と同伴させて、シリカの分散した還元剤含有水溶液に加えることが、凝集のないニッケル被覆シリカを得るために非常に効果的であることを見出したものである。ニッケル塩水溶液は、気体により還元剤、pH調整剤、錯化剤等を含有した水溶液中で速やかに均一に分散され、粉体表面はニッケルメッキ化される。
【0059】
気体の導入は、しばしば発泡によるメッキの効率の低下をもたらすが、これは、消泡性界面活性剤を添加して防止することができる。界面活性剤としては、消泡作用をもち、表面張力を下げるものが望ましく、KS−538(信越化学工業(株)製)等のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0060】
無電解ニッケルメッキにおいては、メッキ液中の酸素濃度がニッケルの析出に影響を及ぼす。溶存酸素の量が多いと、メッキ触媒の核となるコロイド状パラジウムがパラジウムカチオンに酸化され、液中に溶出したり、一度析出したニッケル表面が酸化されたりして、ニッケルの析出が抑制される。逆に、溶存酸素の量が少ないと、メッキ液の安定性が低下し、シリカ以外の場所にもニッケルの析出が起こりやすくなり、微細なニッケル粉の生成やこぶ状の析出物の生成が起こる。このため、メッキ液中の溶存酸素の量を1〜20ppmの間に管理することが好ましい。20ppmを超えると、メッキ速度の低下と未メッキ部の発生が認められるおそれがあり、1ppmより少ないと、こぶ状析出物の発生が認められる場合がある。
【0061】
このために、気体は、空気のような含酸素気体とアルゴンや窒素のような不活性気体を混合して用いるのがよい。粉体のメッキにおいては、しばしばメッキの開始が遅いが、一度メッキが開始されれば反応が暴走するという現象を起こすことがあるので、これを防止するために、例えば窒素を最初に用い、ニッケルメッキ反応が開始するのを確認後、空気に切り替えるということを行うことも効果的である。メッキ温度は35〜120℃、接触時間は1分〜16時間が好適に用いられる。より望ましくは40〜85℃で10〜60分で処理される。
【0062】
次の第4工程は、上記無電解ニッケルメッキ後、金メッキを行って、上記ニッケル層上に金層を形成する工程である。
【0063】
この場合、金メッキ液としては、電気メッキ液でも無電解メッキ液でもよく、公知の組成のものあるいは市販品を用いることができるが、無電解金メッキ液が好ましい。金メッキ方法としては、上述した常法に従って行うことができる。このとき、ニッケルの酸化されて不動態化した表面を希酸で除き、金メッキを行うことは効果的である。メッキ温度、接触時間は、ニッケルメッキの場合と同じである。また、メッキの最後に、不要な界面活性剤を除くため、水洗を行うとよい。
こうして得られたシリカは、シリカ−ケイ素系化合物−ニッケル−金という4層構造を持つ金属メッキシリカとなる。
【0064】
ニッケル層の厚さは、好ましくは5〜100nm、特に好ましくは10〜20nmである。5nmより薄いと、シリカを完全に覆い、かつ十分な硬度や強度が得られにくくなる場合がある。また、100nmより厚いと、ニッケルの量が多くなり、配合時に高価となり、また、粒径の増大及び比重が高くなり過ぎて良好な分散状態を得にくくなること場合がある。
【0065】
金層の厚さは、好ましくは2〜50nm、特に好ましくは5〜10nmである。2nm未満では、抵抗率が高くなるため、配合時に十分な導電性が得られにくくなるおそれがあり、また、50nmを超えると、金の量が多くなって高価となる。
【0066】
最後に、この金属メッキシリカを還元性気体存在下に200℃以上の温度で熱処理することが望ましい。処理条件は、通常200〜900℃、処理時間は1分〜24時間が好適に用いられる。より望ましくは250〜500℃で処理時間は30分〜4時間行うのがよい。これにより、粉体と金属間にあるケイ素系化合物はセラミックに変化し、より高い耐熱性と絶縁性と密着性を持つことになる。このときの雰囲気を水素のような還元系で行うことにより、金属中の酸化物を減少させ、ケイ素系化合物を安定な構造に変えることで、シリカと金属が強固に結合し、高い導電性を示す粉体を得ることができる。
なお、このように水素還元系雰囲気で熱処理すると、ケイ素系化合物は主として炭化ケイ素のセラミックとなる。
即ち、上記高温処理により、粉体と金属間にあるケイ素系化合物が部分的又は全部がセラミックに変化し、より高い耐熱性と絶縁性と密着性を持つことになる。
【0067】
上述の導電性微粒子の抵抗値は100mΩ・cm(100×10-3Ω・cm)以下、より好ましくは10mΩ・cm以下、更に好ましくは5mΩ・cm以下であることが望ましい。
【0068】
本発明の導電性パターン形成用組成物では、導電性を付与するための添加材料として、上述のような表面に金属膜を有するシリカ粒子を使用する方法以外に、粒子径が50〜200nm程度の金属の微粒子を用いることもできる。金属微粒子としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等の微粒子、あるいは、ニッケル等の安価で軽量な金属微粒子の上に金メッキを施した粒子を用いてもよい。このうち、表面材料が腐食性のない金であることが特に好ましい。特に、粒子上にメッキが均一に成長させることが困難な100nm以下の微粒子の場合には、金属の微粒子をそのまま使用すると信頼性の面でよい結果が得られることがある。また、上述のシリカ微粒子に換えて金属微粒子を用いる場合にも、用いる粒子の粒径分布は狭いものが好ましい。
【0069】
本発明の導電性パターン形成用組成物中の上記導電性微粒子の配合量は、後述する硬化性オルガノポリシロキサンの配合量100質量部に対し300〜2,000質量部であり、特に600〜1,500質量部、より好ましくは800〜1,200質量部であることが好ましい。配合量が少ないと十分な導電性を付与し得ないことがあり、多すぎると加工性に問題が生じる場合がある。
【0070】
本発明の導電性パターン形成用組成物は、上記導電性粒子をシリコーンゴム組成物に配合してなるもので、この場合、シリコーンゴム組成物は、成形される導電性回路に応力耐性等を与えるためのシリコーンゴム基材として、硬化性オルガノポリシロキサンを配合するが、硬化性オルガノポリシロキサンとしてはアルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を持つオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0071】
このポリシロキサンは、後述する硬化剤によって、ポリシロキサン間に架橋が形成されてゴム化するものであるが、このような脂肪族不飽和炭化水素基を持ったポリシロキサンからシリコーンゴムが得られることはよく知られている(例えば、非特許文献4:Chemistry and Technology of Silicones, pp387−409, Noll W., 1968, Academic Press.)。ここでは、組成物段階で液状であることで、インクジェット法やスタンピング法等の印刷方法によって導電性パターン形成用組成物を回路状に基板に塗布することが可能となり、かつ、塗布後にゴム状に硬化することで回路を応力耐性を持った状態で固定化することができる。
【0072】
上記シリコーンゴム基材となる脂肪族不飽和炭化水素基を持つオルガノポリシロキサンとして、好ましくは下記平均組成式(4)
14nSiO(4-n)/2 (4)
(式中、R14は同一又は異種の非置換又は置換1価炭化水素基であるが、分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和結合を有する炭化水素基を含む。また、nは1.98〜2.02の正数である。)
で示される硬化性オルガノポリシロキサンが好ましい。
【0073】
上記(4)式中、R14に用いることができる1価炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の置換基を有してもよい直鎖状、分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜14、特に炭素数6〜10の置換基を有してもよい芳香環含有基が挙げられる。また、上記置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0074】
上記1価炭化水素基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が、芳香環含有基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などが挙げられる。また、脂肪族不飽和結合を有する炭化水素基としては、炭素数2〜14、特に炭素数2〜10の置換基を有していてもよいアルケニル基、アルキニル基を好ましく用いることができ、具体的にはビニル基、アリル基等を好ましく用いることができる。
上記脂肪族不飽和結合を有する炭化水素基は、上記ポリシロキサンの1分子あたり2個以上含まれることが好ましい。
【0075】
また、上記ポリシロキサンの分子量には特に制限がないが、一般的にはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量として、200〜10,000のものが好ましく用いられる。
【0076】
上記脂肪族不飽和炭化水素基を持つオルガノポリシロキサンは、いずれの方法を用いて合成したものでもよいが、例えば、脂肪族不飽和炭化水素基を有する加水分解性シランと脂肪族不飽和炭化水素基を有しない加水分解性シランを混合して加水分解縮合する方法(例えば非特許文献4)や、脂肪族不飽和炭化水素基を有しないポリシロキサンを合成した後、両末端を脂肪族不飽和炭化水素基を有するシランを添加して平衡化を行い封止する方法(例えば非特許文献4)を用いて合成することができる。
【0077】
本発明の導電性パターン形成用組成物に含まれる第3必須成分の硬化剤は、上述の脂肪族不飽和炭化水素基を持つオルガノポリシロキサンを用いる場合、該ポリシロキサン間に架橋を形成してゴム状に硬化させる触媒として機能するものである。このような材料としては、公知のオルガノハイドロジェンポリシロキサン/白金系触媒(付加反応用硬化剤)(例えば非特許文献4)又は有機過酸化物触媒(例えば非特許文献4)が使用できる。
【0078】
白金系触媒の好ましい具体例としては、白金元素単体、白金化合物、白金複合体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、エーテル化合物、各種オレフィン類とのコンプレックス等が例示される。白金系触媒の添加量は、上記脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンに対し白金原子として1〜2,000ppmの範囲とすることが望ましい。
【0079】
一方、架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するものであれば特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよいが、好ましくは下記一般式(5)
15fgSiO(4-f-g)/2 (5)
(式中、R15は上記式(3)のR8と同じであり、f、gは、0≦f<3、0<g<3、0<f+g<3の数である。)
で表されるものオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましく、特に重合度が300以下のものが好ましい。また、R15は脂肪族不飽和結合を含まないものが好ましい。
【0080】
具体的には、ジメチルハイドロジェンシリル基で末端が封鎖されたジオルガノポリシロキサン、ジメチルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキサン単位[H(CH32SiO1/2]単位とSiO2単位とからなる低粘度流体、1,3,5,7−テトラハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジハイドロジェン−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0081】
この硬化剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの添加量は、上記脂肪族不飽和炭化水素基を持つポリシロキサンの脂肪族不飽和基(アルケニル基等)に対して、ケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)が50〜500モル%となる割合で用いることが望ましい。
【0082】
また、上記脂肪族不飽和炭化水素基を持つポリシロキサンに対して架橋を形成する有機過酸化物触媒としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等が挙げられる。有機過酸化物触媒の添加量は、上記脂肪族不飽和炭化水素基を持つポリシロキサン100質量部に対して0.1〜5質量部とすればよい。
【0083】
本発明に係るシリコーンゴム組成物には、上記必須成分に加え、任意成分として本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ、補強性シリカ粉末を添加してもよい。補強性シリカ粉末は、機械的強度の優れたシリコーンゴムを得るために添加されるものであるが、この目的のためには、比表面積が50m2/g以上、好ましくは100〜300m2/gである。比表面積が50m2/gに満たないと硬化物の機械的強度が十分でないことがある。このような補強性シリカとしては、例えば煙霧質シリカ、沈降シリカ等が挙げられ、またこれらの表面をクロロシランやヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物で疎水化したものも好適に用いられる。
【0084】
補強性シリカ粉末の添加量は、上記脂肪族不飽和炭化水素基を持つポリシロキサン100質量部に対して3〜70質量部、特に10〜50質量部とすることが好ましく、3質量部未満では添加量が少なすぎて補強効果が得られない場合があり、70質量部を超えると加工性が悪くなり、また機械的強度が低下してしまうおそれが生じる。
【0085】
また、本発明に係る導電性微粒子と併用して、従来から知られている導電性カーボンブラック、導電性亜鉛華、導電性酸化チタン等の他の導電性無機酸化物等の導電材や増量剤としてシリコーンゴムパウダー、ベンガラ、粉砕石英、炭酸カルシウム等の充填剤を添加してもよい。
【0086】
本発明の導電性パターン形成用組成物は、微小な導電性微粒子を含む液状材料とすることで、広く知られているインクジェット法やスタンピング法のような印刷技術を用いて基板上に高品位な回路を容易に塗布描画することができる。更に、ゴム基材である硬化性オルガノポリシロキサンを硬化剤による反応でゴム状とすることで上記塗布描画された導電性回路が完成する。上記架橋を形成するための温度条件は、上記硬化剤の活性化温度以上、ポリシロキサンの側鎖等の有機基の分解温度以下であり、好ましくは50〜200℃、より好ましくは70〜180℃で、5〜120分間加熱することで、ゴム状の導電性回路を得ることができる。
【実施例】
【0087】
以下に合成例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0088】
[合成例1]
(1)フェニルポリシラン(以下、PPHSと略記する)の製造
アルゴン置換したフラスコ内に、ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコノセンにメチルリチウムのジエチルエーテル溶液を添加することで、系内で触媒であるビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコノセンを調製した。これにフェニルシランを触媒の50倍モル添加し、150℃で24時間加熱撹拌を行った。この後、モレキュラーシーブスを添加濾過することにより、触媒を除去したところ、ほぼ定量的に重量平均分子量2,600のPPHSの固体を得た。
【0089】
(2)PPHS処理球状シリカの製造
粉体として、球状シリカX24−9163A(信越化学工業(株)製;平均粒径110nm)を用いた。上記(1)の操作で得たPPHS 1gをトルエン180gに溶解させ、この溶液にX24−9163Aを100g加え、超音波洗浄機にて十分に分散させた後、1時間撹拌し、スラリーにした。ロータリーエバポレーターにて、80℃の温度,45mmHgの圧力でトルエンを65g留去させ、乾燥させたところ、PPHS処理球状シリカが得られた。このPPHS処理球状シリカは、最後にローラー等により解砕された。
【0090】
(3)パラジウムコロイド析出シリカの製造
PPHS処理球状シリカは疎水化され、水に投入すると水表面に浮くようになる。界面活性剤としてサーフィノール504(日信化学工業(株)製界面活性剤)の0.5質量%水溶液50gに、上記(2)の操作で得られたPPHS処理球状シリカ100gを投入し、超音波洗浄機による処理を行ったところ、5分間程度の短時間で分散した。パラジウム処理は、上記シリカ−水分散体150gに対し、1質量%PdCl2水溶液を70g(塩化パラジウムとして0.7g、パラジウムとして0.4gを添加して、30分間撹拌後、濾過し、水洗した。これらの処理により、シリカ表面はパラジウムコロイドが付着した黒灰色に着色したパラジウムコロイド析出シリカが得られた。このシリカは濾過により単離し、水洗後、直ちにメッキ化を行った。
【0091】
(4)パラジウムコロイド析出シリカのニッケルメッキ化
ニッケルメッキ用還元液として、イオン交換水で希釈した次亜リン酸ナトリウム2.0M、酢酸ナトリウム1.0M、グリシン0.5Mの混合溶液100gを用いた。上記(3)の操作で得たパラジウムコロイド析出シリカをKS−538(信越化学工業(株)製消泡剤)0.5gと共にニッケルメッキ還元液中に分散させた。激しく撹拌しながら液温を室温から65℃に上げた。イオン交換水で希釈した水酸化ナトリウム2.0Mを空気ガスにより同伴させながら滴下し、同時にイオン交換水で希釈した硫酸ニッケル1.0Mを窒素ガスにより同伴させながら、還元液中に滴下した。これにより、細かい発泡と共にシリカが黒色となり、シリカ表面に金属ニッケルが析出した。このシリカは、全面に金属ニッケルが析出しており、凝集もこぶ状物の生成もみられなかった。
【0092】
(5)ニッケルメッキシリカの金メッキ化
金メッキ液として高純度化学研究所製金メッキ液K−24N 100gを希釈せず用いた。全面に上記(4)の操作で得た金属ニッケルが表面に析出したシリカを金メッキ液中に分散させた。超音波洗浄機にて十分に分散させた後、激しく撹拌しながら液温を室温から95℃に上げると、細かい発泡と共にシリカが金色となり、シリカ表面に金が析出した。メッキ水底に沈殿したシリカは、濾過、水洗、乾燥(50℃で30分)の後、水素で置換された電気炉で300℃で1時間焼成した。実体顕微鏡観察により、シリカ全表面が金により覆われたシリカが得られていることがわかった。このシリカは、IPC分析により、パラジウム、ニッケル、金が検出された。
【0093】
(シリカ−ケイ素系高分子化合物−ニッケル−金構造をもつ導電性シリカの特性)
金メッキシリカの抵抗率は、4端子をもつ円筒状のセルに金メッキシリカを充填し、両末端の面積0.2cm2の端子からSMU−257(ケースレ社製電流源)より1〜10mAの電流を流し、円筒の中央部に0.2cm離して設置した端子から2000型ケースレ社製ナノボルトメーターで電圧降下を測定することで求めた。上記(5)の操作で得た金メッキシリカの低効率の測定により得られた抵抗率の値は2.2mΩ・cmであった。このシリカを乳鉢に入れ、1分間すり潰し、熱処理(200℃,4時間)後の変化を調べたところ、外観、抵抗率の変化はなかった。
また、レーザー解析・散乱式微粒子径粒度分布装置(日機装(株)製、ナノトラックUPA−EX)を用いて金メッキシリカの粒度分布を測定したところ、1μmを超える粒子は含まれておらず、平均粒径は160nmであった。
【0094】
[比較合成例1]
粉体として、球状シリカUS−10(三菱レーヨン(株)製;平均粒径10μm)を用いた以外は実施例と同様にシリカを処理し、金メッキシリカ(大)を製造した。この金メッキシリカのナノボルトメーターでの抵抗率は2.0mΩ・cmであり、すり潰し、熱処理後の変化もなかった。
また、合成例1と同様に金メッキシリカの粒度分布を測定したところ、平均粒径は11μmであった。
【0095】
[実験例1〜8]
実験例1〜8より導電性パターン形成用組成物の基本組成を検討すると共に、得られる導電性を確認した。
合成例1で得られた金属メッキシリカ(実験例1〜3及び6)及び金ナノパウダー(アルドリッチ製、平均粒径50〜130nm)(実験例4及び7)及び銀ナノパウダー(アルドリッチ製、平均粒径100nm以下)(実験例5及び8)を表1に示す割合でオルガノポリシロキサン85質量%を含むKE−520−U(信越化学工業(株)製,製品名)に添加して導電性パターン形成材料前駆体(架橋化剤未添加)を作製し、パーオキサイドC−8A(信越化学工業(株)製,製品名)を添加後、170℃で10分間加圧成形し、1mmのシートを得た。その後、150℃で1時間ポストキュアーした後、SRIS−2301の測定方法に準じて抵抗値を測定した。また、環境依存性を把握するために、50℃,90%RHの環境下に7日間放置し、抵抗の変化を確認した。また、比較例として、銀粉末450質量部を添加した場合、金属メッキシリカあるいは金微粉末、銀微粉末の配合量が少ない場合の例を示す。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
インクジェットに対応しうる組成として、新たに導電性パターン形成用組成物を作製し、描画の状態と、架橋反応後の膜状態を比較した。シリコーンゴム系のパターン形成用組成物(実施例1〜3、比較例)に加えて、ポリアミドイミド系のコンパウンドとも比較した。それぞれの組成物をインクジェットにより基板状に塗布し、その後、100℃で1時間ポストキュアーした後、形状の観察、及び接合の様子の観察を行った。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
*1 ポリシロキサン+硬化剤混合物組成
両末端ビニル基含有ポリジメチルシロキサン57質量部、白金触媒0.1質量部、シクロテトラメチルテトラビニルシロキサン0.3質量部、シクロテトラメチルシロキサン4.1質量部
*2 ポリアミドイミド組成物(日立化成(株)製、HPC6000)
×:評価不能 △:接点不良部あり
【0100】
表2に示すように、粒径の大きな金メッキシリカを配合した組成物(比較例1及び2)は、インクジェットの際に詰まりが生じて、良好な塗布性を得られなかった。
また、シリコーンゴム組成に代えて、ポリアミドイミド樹脂による組成物(比較例3)を用いた場合は、接合時に接点不良があり、良好な導通が得られない場合があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含有するシリコーンゴム組成物に、最大粒径が1μm未満の導電性微粒子を配合してなることを特徴とする導電性パターン形成用組成物。
【請求項2】
上記導電性微粒子は、表面が金属メッキされたシリカである請求項1記載の導電性パターン形成用組成物。
【請求項3】
上記導電性微粒子は、金属微粉末である請求項1記載の導電性パターン形成用組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項の導電性パターン形成用組成物を回路状に塗布した後、硬化してゴム化することを特徴とする導電性パターンの形成方法。
【請求項5】
上記回路状の塗布が印刷による方法であることを特徴とする請求項4記載の導電性パターンの形成方法。
【請求項6】
上記印刷による方法がインクジェット法であることを特徴とする請求項5記載の導電性パターンの形成方法。

【公開番号】特開2012−169212(P2012−169212A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31004(P2011−31004)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】