説明

導電性フィルムおよび該導電性フィルムの製造方法

【課題】優れた導電性を有するフィルムを提供する。
【解決手段】4級アンモニウム塩基を有する重合体セグメントがフィルムの表面に化学的に結合した導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4級アンモニウム塩基を有するビニル重合体をフィルム表面にグラフト化した導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン系重合体、塩化ビニル系重合体、スチレン系重合体、ウレタン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体およびフッ素系重合体などの重合体に導電性を付与する方法としては、電解質塩や界面活性剤をポリエーテルエステルアミドに配合する方法(例えば、特許文献1参照);カーボンや金属の繊維または粉体などの導電性物質をポリエーテルエステルアミドに配合する方法(例えば、特許文献2参照);熱減成ポリオレフィンに導電性セグメントを導入する方法(例えば、特許文献3〜4参照)などが知られている。しかしながら、上記の方法では、配合した電解質塩や界面活性剤が、時間の経過と共に成形品の表面にブリードアウトして物性を著しく損ねるという問題があった。
【特許文献1】特開平7−10989号公報
【特許文献2】特開平7−216224号公報
【特許文献3】特開平3−290464号公報
【特許文献4】特開2001−278985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は優れた導電性を有するフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性重合体セグメントをフィルムの表面に導入するという従来の方法とは全く異なる新しいコンセプトに基づいて、4級アンモニウム塩基を有するビニル重合体を表面にグラフト化したフィルムが機械物性を損なうことなく、優れた導電性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は以下の事項を含む。
〔1〕4級アンモニウム塩基を有する重合体セグメントがフィルムの表面に化学的に結合した導電性フィルム。
〔2〕前記4級アンモニウム塩基が、下記一般式(1)または(2)で表される基であることを特徴とする〔1〕に記載の導電性フィルム。
【0006】
【化1】

ただし、式(1)および式(2)中、R1およびR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪
族炭化水素基を表し、R3は炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基また
は炭素数2〜10のヒドロキシルアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、ハロゲ
ン化アルキルイオン、アルキルカルボキシレートイオン、ニトロキシドイオン、アルキルスルフェートイオン、スルホネートイオン、ホスフェートイオンまたはアルキルフォスフェートイオンを表し、Y-はカルボキシレートイオン基、ニトロキシドイオン基、アルキ
ルスルフェートイオン基、スルホネートイオン基、ホスフェートイオン基またはアルキルフォスフェートイオン基を表す。
【0007】
〔3〕前記フィルムがポリオレフィンフィルムであることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の導電性フィルム。
〔4〕4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーを原子移動ラジカル重合法により重合することにより、フィルムの表面に、重合体セグメントを導入することを特徴とする導電性フィルムの製造方法。
〔5〕4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーと、4級アンモニウム塩基を有しないビニルモノマーとを共重合することにより、フィルム表面に、重合体セグメントを導入することを特徴とする〔4〕に記載の導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフィルムは優れた導電性を示すため、工業的に極めて価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の導電性フィルムは、4級アンモニウム塩基を有する重合体セグメントがフィルムの表面に化学的に結合していることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る4級アンモニウム塩基は、下記一般式(1)または、一般式(2)の基であることが好ましい。
【0011】
【化2】

ただし、式(1)および式(2)中、R1およびR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基を表し、R3は炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基また
は炭素数2〜10のヒドロキシルアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、ハロゲ
ン化アルキルイオン、アルキルカルボキシレートイオン、ニトロキシドイオン、アルキルスルフェートイオン、スルホネートイオン、ホスフェートイオンまたはアルキルフォスフェートイオンを表し、Y-はカルボキシレートイオン基、ニトロキシドイオン基、アルキ
ルスルフェートイオン基、スルホネートイオン基、ホスフェートイオン基またはアルキルフォスフェートイオン基を表す。
【0012】
直鎖の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、
ヘキサデシル基、オクタデシル基およびオレイル基などが挙げられ、分岐の炭化水素基としては、イソプロピル基および2−エチルヘキシル基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数が1〜14の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基、さらに好ましくはメチル基およびエチル基、特に好ましくはメチル基である。
【0013】
長期的な抗菌性の発現の観点より、R1とR2のいずれか一方あるいは両方が水素原子以外でないことが好ましい。
ヒドロキシルアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシイソプロピル基および6−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0014】
-としてはハロゲン化物イオン、ハロゲン化アルキルイオン、アルキルカルボキシレ
ートイオン、ニトロキシドイオン、アルキルスルフェートイオン、スルホネートイオン、ホスフェートイオンおよびアルキルフォスフェートイオンであり、Y-としてはカルボキ
シレートイオン基、ニトロキシドイオン基、アルキルスルフェートイオン基、スルホネートイオン基、ホスフェートイオン基およびアルキルフォスフェートイオン基が挙げられる。
【0015】
-およびY-は、一般式(1)または一般式(2)中のアンモニウムカチオンと安定な塩を形成することが必要であり、X-およびY-がアルキル基を有する場合は、該アルキル基はR1、R2またはR3と共有結合していてもよい。
【0016】
本発明に係る重合体セグメントは上記4級アンモニウム塩基が導入されたものである。ここで、「重合体セグメント」とは、炭素−炭素二重結合を有するビニルモノマーの付加重合体をいい、4級アンモニウム塩基が重合体セグメントの側鎖に導入されたものである。この4級アンモニウム塩基はビニルモノマーの付加重合体の側鎖のすべてに導入されていてもよいし、側鎖の一部に導入されていてもよい。すなわち、4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーを単独で重合してもよいし、4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーと4級アンモニウム塩基を有さないビニルモノマーとを共重合してもよい。導電性および親水性を充分に発現させるには、重合体セグメントの側鎖に4級アンモニウム塩基を通常10モル%以上100モル%以下、好ましくは50モル%以上100モル%以下の量で有していることが望ましい。
【0017】
4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーは、一般式(1)または一般式(2)の構造を有するビニルモノマーであれば特に限定されるものではないが、製造上の利用しやすさの観点から、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびスチリル等の4級アンモニウム塩誘導体が用いられる。具体的には、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(メタクロイルコリンクロリド)、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルホン酸塩、2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、1−メチル−2−ビニルピリジニウムトリフレート、1−メチル−2−ビニルピリジニウムクロリド、1−メチル−4−ビニルピリジニウムクロリド、1−メチル−4−ビニルピリジニウムブロミド、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートのアルキルリン酸塩、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートのカルボン酸塩、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートのスルホン酸塩およびアシッドホスホオキシエチルメタクリレートのアルキルアミン塩が例示される。
【0018】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重合体セグメントの分子量は、通常200〜1,000,000g/mol、好ましくは2,000〜1,000,000g/m
olである。分子量が上記範囲にあると成型体の機会物性を損なうことなく、良好に導電性を発現するので好ましい。
【0019】
また、重合体セグメントはその一部または全部が架橋していてもよい。この場合、分子量には特に制限はないが、分子量が極度に小さいと、長期に渡って使用すると重合体セグメントがフィルムの内部に埋没してしまい、導電性不良を起こす場合がある。
【0020】
フィルムの表面の重合体セグメントに由来する膜厚は、水分や有機溶剤等を除いたときの平均膜厚として1nm以上、好ましくは10nm以上ある。膜厚は透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、断面を切削・染色したサンプルを測定することにより直接評価して行う。
【0021】
重合体セグメントは、該重合体セグメントの少なくとも一方の末端が、基材フィルムの表面に化学的に結合している。すなわち、重合体セグメントの末端は基材フィルムの表面に共有結合している。このとき、重合体セグメントは基材フィルムの表面に存在するいずれかの基と直接共有結合で結合してもよいし、基材フィルムの表面を導電性を損なわない程度に被覆した短いスペーサーを介して結合してもよい。なお、基材フィルムの表面をスペーサーで被覆する場合、スペーサーの重量は重合体セグメントの重量の5%未満であることが望ましい。また、スペーサーの構造は特に制限されないが炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。
【0022】
本発明の導電性フィルムの製造に用いる基材フィルムとしては、汎用の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなるフィルムを用いることができる。フィルムは市販されているものを用いてもよいし、従来公知の方法により作製してもよいし。市販されているものとしては、例えば、F113G((株)プライムポリマー製、ポリプロピレン二軸延伸フィル
ム)、オピュラン(三井化学(株)製メチルペンテンコポリマー)およびアペルAPL6011T(三井化学(株)製環状オレフィンコポリマー)などを挙げることができる。基材フィルムの原料となる樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、ポリエステルならびにポリアミドなどの樹脂を挙げることができる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましく挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、炭素数4以上のα−オレフィン、環状オレフィン、共役ジエンおよび非共役ジエンなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。これらの樹脂は一種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂を、無延伸フィルム、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムなどに成形することによって、本発明の導電性フィルムの基材フィルムを作製することができる。
【0023】
上記基材フィルムは、単層フィルムであってもよいし、多層フィルムであってもよい。多層フィルムである場合は少なくとも表面層に導電性付与の処理を行えばよい。
上記基材フィルムに用いられる原料樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を添加してもよい。他の成分としては、従来公知の耐熱安定剤、耐候安定剤、各種安定剤、酸化防止剤、分散剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックスおよび充填剤等が挙げられる。
【0024】
本発明の導電性フィルムは、導電性付与の処理を行っていない基材フィルムと比べて表面固有抵抗率の値が小さい。表面固有抵抗率の測定方法は特に限定されないが、例えば、日本工業規格(JIS)のK6911に準じて測定することができる。フィルムの表面固有抵抗率の値が小さいと、導電性を発現するのに有利である。本発明の導電性フィルムの表面固有抵抗率の値は、基材フィルムの表面固有抵抗率の値より小さければその範囲は特に制限を受けないが、通常1015Ω以下であり、好ましくは1012Ω以下であり、より好
ましくは1010Ω以下であり、さらに好ましくは108Ω以下である。本発明の導電性フ
ィルムの下限は所望の物性を損なわない限り特にない。
【0025】
次に、本発明の導電性フィルムの製造方法について説明する。
本発明の導電性フィルムの製造方法としては、基材となるフィルムの表面上で、4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーをグラフト重合させる方法が挙げられる。この場合、4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーを基材フィルムの表面上で直接グラフト重合(または共重合)させる方法の他に、4級アンモニウム塩基を有さないビニルモノマーをグラフト重合させた後に、官能基変換等により、4級アンモニウム塩を導入する方法がある。製造方法の選択にあたっては、グラフト重合の速度やカルボン酸塩の形成しやすさ等を勘案して選択する。
【0026】
グラフト重合の方法としては、有機過酸化物等のラジカル発生剤を作用させる方法あるいはX線照射、ガンマ線照射、電子線照射、マイクロ波または紫外線照射等を用いたグラフト化させる方法が知られており、これらの方法によって本発明に係る重合体セグメントを導入することができる。しかしながら、これらの方法では、(1)基材フィルムの表面の分解反応等が進行する、あるいは、グラフト化していないビニルモノマーホモ重合体が生成してしまう(2)基材フィルムの表面上に重合体セグメントが高密度にグラフト化されたり、高分子量化し難い(3)設備コストが大きい等の問題点を有する場合がある。
【0027】
このような問題点を解決する製造方法として、制御ラジカル重合の適用が挙げられる。制御ラジカル重合とは、従来の過酸化物添加系によるフリーラジカル重合技術と異なり、重合系中のラジカル濃度を低く抑えることで、停止反応や連鎖移動反応などの副反応を抑えたラジカル重合技術である。本方法によれば、しばしば重合がリビング重合様に進行することから、高分子量でかつ分子量分布の狭いセグメントを得ることができる。
【0028】
本発明に適用される制御ラジカル重合法としては、Trend Polym. Sci.,(1996), 4, 456 に開示された方法であってニトロキシドを有する基と結合し、熱的な開裂によりラジ
カルを発生させてモノマーを重合させる方法(NMRP: Nitroxide-Mediated Radical Polymerization)や原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)方
法が挙げられる。このうち原子移動ラジカル重合方法とは、Science,(1996),272,866、Chem. Rev., 101, 2921 (2001)、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報、WO98/40415号公報、WO00/156795号公報、あるいは澤本ら、Chem. Rev., 101, 3689 (2001)、特開平8-41117号公報、特開平9-208616号公報、特開2000-264914号公報、特開2001-316410号公報、特開2002-80523号公報および特開2004-307872号公報に開示された方法で
あって、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒として、ラジカル重合性単量体をラジカル重合する方法または可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT :Reversible Addition Fragmentation Chain
Transfer)する方法をいう。
【0029】
上記の制御ラジカル重合法のうち、原子移動ラジカル重合方法は、ラジカル重合開始基の導入が容易であること、および選択できるモノマー種が豊富であることから、本発明に係る重合体セグメントを導入するのに有効な重合方法である。
【0030】
原子移動ラジカル重合法を用いた製造方法についてさらに具体的に説明する。
Science,(1996),272,866等に開示されるように、原子移動ラジカル重合を開始するには、基材フィルムの表面にハロゲン原子が結合した部位を有していることが必要であり、しかも、該ハロゲン原子の結合解離エネルギーは小さい方がよい。例えば、3級炭素原子に結合したハロゲン原子、ビニル基、ビニリデン基およびフェニル基などの炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子に結合したハロゲン原子あるいはカルボニル基、シアノ基およ
びスルホニル基等の共役性の基に直接またはこれらの共役性の基に隣接する原子に結合したハロゲン原子が存在していることが好ましい。
【0031】
このような原子移動ラジカル重合開始能を有するハロゲン原子を基材フィルムの表面に導入する方法としては、官能基変換法や直接ハロゲン化法などが挙げられる。
官能基変換法は、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、ビニル基およびシリル基等の官能基が基材フィルムの表面に存在する場合に好ましく適用される。これらの官能基を原子移動ラジカル重合開始剤の構造に変換する方法は、例えば、特開2004-131620号公報に
開示され、水酸基含有ポリオレフィンを2−ブロモイソ酪酸ブロミドのような低分子化合物で修飾することにより原子移動ラジカル重合開始能を有する表面ハロゲン化フィルムを得る方法が開示されている。
【0032】
直接ハロゲン化法は、ハロゲン化剤を基材フィルムの表面に直接作用させ、炭素−ハロゲン結合を有するハロゲン化ポリオレフィンを得る方法である。使用するハロゲン化剤や導入するハロゲン原子の種類は特に限定されるものではないが、原子移動ラジカル重合開始骨格の安定性と開始効率とのバランスを考えると、臭素原子を導入した臭素化ポリオレフィンを得る方法が好ましい。ハロゲン化ポリオレフィンの製造に用いるハロゲン化剤としては、臭素やN-ブロモスクシンイミド(NBS)などが挙げられる。臭素化については、
例えば、G. A. RusselらによりJ. Am. Chem. Soc., 77, 4025 (1955) に開示された、臭
素を光照射下で反応させてアルケンを臭素化させる光臭素化反応、P. R. Schneinerらに
よりAngew. Chem. Int. Ed. Engl., 37, 1895 (1998) に開示された、50%NaOH水
溶液および四臭化炭素の存在下に溶液中で環状アルキルを加熱還流して臭素化する方法あるいはM. C. FordらによりJ. Chem. Soc., 2240 (1952) に開示された、N−ブロモスク
シンイミドをアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いてラジカル反応させてアルキル末端を臭素化する方法等が挙げられる。
【0033】
上述のようにして得られた表面ハロゲン化フィルムのフィルム表面に導入されたハロゲン原子の存在はX線光電子分光測定等の分光学的方法により確認される。
原子移動ラジカル重合は表面ハロゲン化フィルムの存在下でビニルモノマーおよび触媒成分と接触させることにより行われる。このとき溶媒を用いてもよい。使用できる溶媒としては、重合反応を阻害せず、かつ、表面ハロゲン化フィルムを変質させない重合温度にできるものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素およびテトラクロロエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン
、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチルおよびジメチルフタレート等のエステル系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキシアニソールのようなエーテル系溶
媒等を挙げることができる。また、水を溶媒に使用してもよい。これらの溶媒は単独でも使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。重合温度は原子移動ラジカル重合開始基が導入された表面ハロゲン化フィルムが変質しない温度で、かつ、ラジカル重合反応が進行する温度であれば任意に設定することができる。重合温度は所望する重合体の重合度、使用するラジカル重合開始剤および溶媒の種類や量によって決定され、通常-50
〜150℃であり、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは0〜50℃である。重合反応は
減圧、常圧または加圧下のいずれの条件下で行ってもよい。反応終了後は従来公知の精製・乾燥方法を用いて、触媒残査、未反応モノマーおよび溶媒を除去する。
【0034】
なお、フィルムがロールシート状である場合などは、上記の臭素化および重合の工程を連続的に行ってもよい。
フィルム表面に重合体セグメントが導入されたことは、イオンクロマトグラフ法、電子線マイクロアナライザーまたは赤外分光法などの分光学的手法により確認される。
【0035】
本発明の導電性フィルムは、特に制限なく各種フィルム用途に使用することができる。例えば、包装用フィルム、レトルトフィルム、ラミネートフィルム、シュリンクフィルムおよび保護フィルムなどの一般包装用途の他、以下の分野において好適に用いられる
表示装置分野:メンブレンスイッチ、液晶表示装置(位相差フィルム、偏光フィルムおよびプラスチック液晶セル)、エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミック、電気泳動表示、プラズマディスプレイパネル、フィールド・エミッションディスプレイおよびバックライト用拡散フィルム;
カラーフィルター記録分野:静電記録基板、OHP、スライドフィルム、マイクロフィルムおよびX線フィルム;
光・磁気メモリー分野:サーモ・プラスチック・レコーディング、強誘電体メモリー、磁気テープ、IDカードおよびバーコード;
帯電防止分野分野:メータ類の窓、テレビのブラウン管、クリーンルーム窓、半導体包装材料、VTRテープおよびフォトマスク用防塵フィルム;
電磁波遮蔽分野:計測器、医療機器、放射線検出器、IC部品、CRT、液晶表示装置、光電変換素子分野:太陽電池の窓、光増幅器および光センサー;
熱線反射分野:窓(建築および自動車等)、白熱電球、調理オーブンの窓、炉の覗き窓および選択透過膜;
面状発熱体分野:デフロスタ、航空機、自動車、冷凍庫、保育器、ゴーグルおよび医療機器;
液晶表示装置電子部品・回路材料分野:コンデンサー、抵抗体および薄膜複合回路;
実装電極分野:ペーパーバッテリー用電極;
光透過フィルター分野:紫外線カットフィルター、紫外線透過フィルター、紫外線透過可視光吸収フィルター、色分解フィルター、色温度変換フィルター、ニュートラルデンシティフィルター、コントラストフィルター、波長校正フィルター、干渉フィルター、赤外線透過フィルター、赤外線カットフィルター、熱線吸収フィルターおよび熱線反射フィルター;
ガス選択透過性膜分野:酸素/窒素分離膜、二酸化炭素分離膜および水素分離膜;
電気絶縁分野:絶縁粘着テープ、モーターのスロットライナおよび変圧機の相間絶縁高分子;
センサー分野:光センサー、赤外線センサー、音波センサーおよび圧力センサー;
表面保護分野:液晶表示装置、CRT、家具およびシステムキッチン;
自動車内外装その他分野:通電熱転写、プリンターリボン、電線ケーブルシールドおよび漏水防止フィルム
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[調製例1]OPPフィルムの臭素化
ポリプロピレン製二軸延伸(OPP)フィルム(F113G ((株)プライムポリマー製)をG
M社製小型シート成形機(TS-300-200)を使用して樹脂温度:230℃、チルロール温度:50℃
、引取速度:1.0m/分にて厚さ500μmのシートを作製した後、ブルックナー社製延伸機(KARO IV)を使用して、予熱温度:153℃、予熱時間:60秒、延伸倍率:5(MD)×7(TD)、延伸速度:6m/分にて延伸(逐次二軸延伸)して、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。この二軸延伸フィルムを窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.2mLを容器の
底に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、300W白熱電球をフィルムよ
り15cmの距離から垂直に光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換した後、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、フィルムの表面に12.8atom%の臭素原子がグラフト化した臭素化OPPフィルムが得られていることを確認した。
【0037】
[調製例2]TPXフィルムの臭素化
メチルペンテンコポリマー(TPX)フィルム(オピュラン:三井化学(株)製)を窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.2mLを容器に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換し、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、10.5atom%の臭素原子がフィルムの表面にグラフト化した臭素化TPXフィルムが得られていることを確認した。
【0038】
[調製例3]COCフィルムの臭素化
環状オレフィンコポリマー(COC)(アペルAPL6011T:三井化学(株)製)のプレスフィルム(フィルム厚:120μm)を窒素置換された内容積1000mLのガラス製容器に入れ、臭素0.1mLを容器に封入した。約5分間後、臭素が完全に蒸気化した後、光照射した。10分後、系内に存在する未反応の臭素蒸気を窒素ガスにより置換し、フィルムを取り出した。
X線光電子分光法による表面解析の結果、8.0atom%の臭素原子がフィルム表面にグラ
フト化した臭素化COCフィルムが得られていることを確認した。
【0039】
[製造例1]
脱酸素処理されたメタノールおよびメタクロイルコリンクロリド(80%水溶液:東京化成社製)を33/67の体積比で入れたガラス容器に製造例1で得られた臭素化OPPフ
ィルムを完全に浸漬させた。そこに、臭化銅(I)およびN,N,N',N",N"-ペンタメチルジ
エチレントリアミンの1:2(モル比)のエタノール調製液(臭化銅(I)の濃度0.8M)を、臭化銅(I)濃度が2.5mMとなるように添加し、60℃で1時間保持した。フィルムを取り出し、メタノールで2回浸漬洗浄し、80℃で10時間減圧乾燥させることにより、フィルムの表面にメタクロイルコリンクロリド重合体が導入されたポリプロピレンフィルム(F−1)を得た。
【0040】
ポリプロピレンフィルム(F−1)の構造を表1に示す。
得られたポリプロピレンフィルム(F−1)の表面付近の断面をTEM観察したところ、
フィルムの表面にメタクロイルコリンクロリド重合体の層と推定される、約60〜80nmの厚みの染色領域が観察された。
【0041】
[製造例2]
製造例1において、臭素化フィルムとして、調製例2で得られた臭素化TPXフィルム用いたこと以外は製造例1と同様にしてTPXフィルム(F−2)を作製し、TEM観察を行った。
TPXフィルム(F−2)の構造を表1に示す。
【0042】
[製造例3]
製造例1において、臭素化フィルムとして、調製例3で得られた臭素化COCフィルムを用いたこと以外は製造例1と同様にしてCOCフィルム(F−3)を作製し、TEM観察を行った。
【0043】
COCフィルム(F−3)の構造を表1に示す。
【0044】
【表1】

[フィルムの導電性評価]
製造例1〜3で得られたフィルム(F-1〜F-3)と、比較試料として調製例1で用いたポリプロピレン製二軸延伸フィルム(基材フィルム)とをそれぞれ5cm×5cmの大きさに切断し、試料とした。試料の導電性試験はJIS K 6911に準じて行った。
試験条件:温度23±2℃、湿度50±5%、フィルム膜厚約40μm
製造例1で得られたフィルム(F-1)は、上記試験に加えて、室温で水中に8時間浸して
水洗した後、20日間室温減圧下で乾燥したものを試料として、導電性試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表2】

表2から4級アンモニウム塩基を有するビニル重合体がフィルムの表面上にグラフト化した本発明のフィルム(F-1〜F-3)は、比較試料と比べて優れた導電性を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の導電性フィルムは、包装用フィルム、レトルトフィルム、ラミネートフィルム、シュリンクフィルムおよび保護フィルムなどの用途の他、帯電防止膜、電磁波シールド膜、透明電極、透明面発熱体および高分子固体電解質として、表示材、電池材および回路基板などの電子機器関連部材の用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1はポリプロピレンフィルム(F−1)のフィルム表面の断面TEM写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウム塩基を有する重合体セグメントがフィルムの表面に化学的に結合した導電性フィルム。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩基が、下記一般式(1)または(2)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の導電性フィルム。
【化1】

(式(1)および式(2)中、R1およびR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基を表し、R3は炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基または炭素数
2〜10のヒドロキシルアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、ハロゲン化アル
キルイオン、アルキルカルボキシレートイオン、ニトロキシドイオン、アルキルスルフェートイオン、スルホネートイオン、ホスフェートイオンまたはアルキルフォスフェートイオンを表し、Y-はカルボキシレートイオン基、ニトロキシドイオン基、アルキルスルフ
ェートイオン基、スルホネートイオン基、ホスフェートイオン基またはアルキルフォスフェートイオン基を表す。)
【請求項3】
前記フィルムがポリオレフィンフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーを原子移動ラジカル重合法により重合することにより、フィルムの表面に、重合体セグメントを導入することを特徴とする導電性フィルムの製造方法。
【請求項5】
4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーと、4級アンモニウム塩基を有しないビニルモノマーとを共重合することにより、フィルム表面に、重合体セグメントを導入することを特徴とする請求項4に記載の導電性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−292913(P2009−292913A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146953(P2008−146953)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】