説明

導電性フィルムの製造方法

【課題】 高度な透明性と高度な導電性とを有し、例えば、タッチパネルの電極フィルム等に用いられる導電性フィルムや、液晶テレビ、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに用いられる電磁波シールドフィルム用等の導電性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 基板フィルムの少なくとも片面に網目状の金属導電層を積層し、当該金属導電層を水で処理することを特徴とする導電性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルムの製造方法および導電性フィルムに関するものであり、例えば、タッチパネルの電極フィルム等に用いられる導電性フィルムや液晶テレビ、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに用いられる電磁波シールドフィルム用等の導電性フィルム、ならびにその導電性フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性フィルムは、タッチパネル、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ、太陽電池、電磁波シールドフィルムなどに用いられている。
【0003】
現在、導電性フィルムとして、ITO(酸化インジウムスズ)が主流であるが、ITOフィルムにはレアメタルであるインジウムの供給不安やそれに伴う高コスト化などの問題がある。また、ITOフィルムは曲げによってクラックが入り、導電性が著しく低下するという問題点もある。
【0004】
上記問題点を解決するために、各種の方法が検討されている。例えば、銅箔をメッシュ状にエッチングすることで、導電性部分が銅であるメッシュ状導電性フィルム(特許文献1)や、ポリチオフェン系導電性ポリマーを塗布した導電性フィルム(特許文献2)、金属微粒子をスクリーン印刷などによりパターン化して設けた導電性フィルム(特許文献3、4)、金属微粒子含有溶液を塗布して、導電層を積層した後に酸で処理する方法(特許文献5)が提案されている。
【0005】
しかし、前述した従来の技術には次のような問題点がある。すなわち、特許文献1に記載の銅箔をエッチングする方法は、一般的に収率が悪く、各工程の製品ロスが発生しやすい。特許文献2に記載の導電性ポリマーをコーティングして導電性層を得る方法では、導電性レベルとしては不十分な点がある。特許文献3、4に記載の金属微粒子をパターン化して導電性層を得る方法では、塗布した金属微粒子の大部分がエッチング工程などで除去されるため、金属微粒子のロスが問題となっている。また、特許文献3には導電性を高める処理として導電層に通電して焼結する方法が提案されているが、通電するためには電源や、端子の接続など、特別な装置、作業が必要となるなどの問題がある。特許文献5には、導電性を高める処理として、導電層を酸で処理することが提案されているが、設備の腐食の問題、中和処理など排水に関わる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-210988号公報
【特許文献2】特開2006−28214号公報
【特許文献3】特開2004-79243号公報
【特許文献4】特開2009−275227号公報
【特許文献5】特開2006−313891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、高度な透明性と高度な導電性とを有し、例えば、タッチパネルの電極フィルム等に用いられる導電性フィルムや、液晶テレビ、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに用いられる電磁波シールドフィルム用等の導電性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、基板フィルムの少なくとも片面に、金属の網目状導電層が積層された導電性フィルムの製造方法において、特定の方法によれば、上記課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、基板フィルムの少なくとも片面に、金属の網目状導電層が積層された導電性フィルムの製造方法において、該導電層を水で処理することを特徴とする導電性フィルムの製造方法に存ずる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、生産性、導電性、透明性に優れた導電性フィルムを提供でき、特に、基板フィルムに熱可塑性樹脂フィルムを用いた導電性フィルムを作るのに好ましく用いられる製造方法である。本発明の導電性フィルムの製造方法により得られる導電性フィルムは、例えば、タッチパネルの電極フィルム等に用いられる導電性フィルムや液晶テレビ、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに用いられる電磁波シールドフィルム用等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における導電性フィルムを構成する基板フィルムとしては、特に限定されるものではないが、透明性、柔軟性、加工性などに優れるという点で、熱可塑性樹脂フィルムが好ましい。
【0012】
熱可塑性樹脂フィルムとは、常温では弾性をもち、変形しにくいが、加熱により軟化して成形することができるフィルムの総称であって、特に限定されるものではないが、具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、フッ素系フィルム等のポリビニルフィルム、セルロースジアセテートフィルム、セルローストリアセテートフィルム等のセルロースエステルフィルム、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリフェニレンサルファイトフィルム等を用いることができる。これらのフィルムは、ホモポリマーであっても、共重合ポリマーであってもよい。これらのフィルムのうち、透明性、寸法安定性、汎用性などの点でポリエステルフィルムが好ましい。
【0013】
本発明における導電性フィルムを構成する基板フィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0014】
本発明においてポリエステルフィルムを基板フィルムとして使用する場合、使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。 ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。
【0015】
本発明に使用する基板フィルム中には、タッチパネルやフラットパネルディスプレイ等の液晶が紫外線により劣化するのを防止するために、紫外線吸収剤を含有させてもよい。 紫外線吸収剤は、紫外線吸収能を有する化合物で、基板フィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されるものではない。
【0016】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点からは有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点から環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種以上併用して用いることもできる。
【0017】
本発明に使用する基板フィルム中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、基板フィルム製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0018】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0019】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜5μm、好ましくは0.1〜3μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、易滑性を十分に付与できなかったり、粒子が凝集して、分散性が不十分となり、フィルムの透明性を低下させたりする場合がある。一方、5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において導電層等、各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0020】
さらに基板フィルム中の粒子含有量は、通常5重量%以下、好ましくは0.0005〜2重量%の範囲である。粒子含有量が5重量%を超える場合には、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0021】
基板フィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成する熱可塑性樹脂フィルムを製造する任意の段階において添加することができる。基板フィルムがポリエステルフィルムの場合は、エステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0022】
なお、本発明に使用する基板フィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
本発明に使用する基板フィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜350μm、好ましくは50〜250μmの範囲である。
【0023】
次に本発明に使用する基板フィルムとして、ポリエステルフィルムを使用した場合のポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0024】
すなわち、先に述べたポリエステル原料を乾燥したペレットを、単軸押出機を用いて、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、ポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0026】
本発明において、ポリエステルフィルムは易接着層、粘着層などの各種の塗布層が積層されていてもよい。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であることから、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0027】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に、延伸後のポリエステルフィルムの熱処理工程で、塗布層を高温で処理することができるため、塗布層上に形成され得る各種の表面機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。また、延伸前にコーティングを行う場合は、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜で均一な塗工を行うことができる。すなわち、インラインコーティング、特に延伸前のコーティングにより、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造することができる。
【0028】
ポリエステルフィルム上の塗布層を形成する塗布液中には任意のポリマー、オリゴマー、架橋剤、粒子等を含有することが可能である。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等のポリマーまたはオリゴマー、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物等の架橋剤、シリカ、金属酸化物等の無機粒子、あるいは架橋高分子粒子等の有機粒子を挙げることができる。
【0029】
塗布層を形成する塗布液中のポリマー中には、導電層との密着性を向上するために親水性基を有することが好ましい。
【0030】
親水性基としては、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、ケイ酸、およびそれらの金属塩または有機塩、硫酸エステル、リン酸エステル、水酸基等が挙げられる。
上述の中でも、特に効率的に親水性基を導入し、密着性が向上するという点で、カルボン酸またはスルホン酸を含有するポリエステル樹脂、またはポリビニルアルコールが好ましい。また、塗布層を強固にし、密着性を向上するために、架橋剤としてオキサゾリン化合物を用いることが好ましい。
【0031】
本発明のフィルムにおいて、上述した塗布層を設けた面と反対側の面にも塗布層を設けることも可能である。例えば、導電層等を形成する反対側にマイクロレンズ層、プリズム層、スティッキング防止層、光拡散層、ハードコート、導電層等の機能層を形成する場合に、当該機能層との密着性を向上させることが可能となる。反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等のポリマー、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物等の架橋剤等が挙げられ、これらの材料を単独で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよい。
【0032】
本発明においては、基板フィルムの少なくとも片面に、網目状導電層が積層された導電性フィルムの製造方法において、当該導電層を水で処理することを必須の要件とするものである。
【0033】
本発明における導電層は、網目状の金属導電層である。導電層に使用される材料としては、特に限定されないが、例えば、金属微粒子、金属箔、金属酸化物等が挙げられる。これらのうち導電性および生産性の両立の観点より、金属微粒子を含有する組成物であることが特に好ましい。
【0034】
金属微粒子に用いられる金属としては特に限定されず、白金、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ビスマス、コバルト、鉄、アルミニウム、亜鉛、錫などが挙げられる。金属は1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。それらの中でも、導電性に優れるという点で、銀を用いることが好ましい。
【0035】
金属微粒子の調整法としては、例えば、液層中で金属イオンを還元して金属原子とし、原子クラスターを経てナノ粒子へ成長させる化学的方法や、バルク金属を不活性ガス中で蒸発させて微粒子となった金属をコールドトラップで捕捉する手法や、ポリマー薄膜上に真空蒸着させて得られた金属薄膜を加熱して金属薄膜を壊し、固相状態でポリマー中に金属ナノ粒子を分散させる物理的手法などを用いることができる。
【0036】
金属微粒子の大きさは特に限定されるものではないが、数平均粒子径が0.001〜3μmであることが好ましく、より好ましくは0.001〜1μmであり、さらに好ましくは0.002〜0.2μmである。数平均粒子径が0.001μmより小さい場合には、金属微粒子同士の連続的な接触が途切れる場合が多くなり、その結果、十分な導電性が得られない場合がある。数平均粒子径が3μmよりも大きい場合には、後述する焼成後の処理での導電性を高める効果が得られなくなり、十分な導電性が得られない場合がある。導電層を形成し得る組成物中の金属微粒子の粒径分布は大きくても、小さくてもよく、粒径が不揃いであっても、均一であってもよい。
【0037】
基板フィルム上に導電層を積層する方法は、特に制限されないが、金属微粒子を含有する組成物を塗布することで、微粒子が部分的に凝集して、網目線を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を利用して網目状の導電層を形成させる手法が好ましい。このような手法を用いると、網目がランダムになりやすく、さらに線幅が細くなりやすく、透明性を損なわないので、自己組織化する金属微粒子溶液が好ましい。
【0038】
ここで、自己組織化する金属微粒子溶液とは、ポリエステルフィルム上に該溶液を塗布して放置しておくと、自然にポリエステルフィルム上に網目状の構造を形成する溶液である。自己組織化する金属微粒子溶液を用いて網目状の構造を形成させる場合、例えば、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機金属化合物から選ばれる少なくとも1種と、分散剤などの有機成分とからなる粒子を主成分とする溶液、すなわち金属コロイド溶液などを用いることができる。金属コロイド溶液の溶媒としては、水または各種の有機溶媒を用いることができる。
【0039】
金属コロイド溶液には、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機金属化合物、分散剤以外に、他の各種添加剤、例えば、界面活性剤、保護樹脂、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、有機または非金属の無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤などが含有されてもよい。
【0040】
本発明においては、金属の網目状導電層を積層することによって、透明で、導電性のあるフィルムを得ることができる。本発明における製造方法で製造した導電性フィルムの全光線透過率は好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上である。光線透過率が60%より小さいと、導電性フィルムの透明性の点で問題が生じる場合がある。
【0041】
また、網目状の構造は、規則的な構造であっても、不規則な(ランダムな)構造であってもよい。本発明の製造方法で製造した導電性フィルムを、例えばフラットパネルディスプレイの電磁波シールドフィルムとして用いる場合には、網目状の構造をランダムにするとモアレ現象が発生しないため好ましい。
【0042】
本発明においては、金属の網目状導電層を水で処理することにより、導電層の導電性を高めることができる。
【0043】
本発明における水とは、特に限定されず、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水、地下水、海水等から選択することができ、任意の鉱物、電解質などが含まれていても良く、エチルアルコール、アセトン等の各種の有機溶媒を含んでいてもよいが、生産性の観点より、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水が好ましい。
【0044】
導電性フィルムの製造工程内において、いずれの段階で金属の網目状導電層を水で処理するかについては特に限定されず、基板フィルム上に導電層を網目状に積層した後、水で処理してもよく、基板フィルム上の全面に導電層を積層した後、水で処理し、その後、エッチングなどにより、導電層を網目状にしてもよいが、基板フィルム上に導電層を網目状に積層しておいてから水で処理する方法が、導電性を高める効果に優れ、生産性の点で効率がよいため好ましい。水で処理する前や後に、金属の網目状導電層を積層したフィルムに別の層を印刷したり、塗布したりして積層してもよい。また、水で処理する前や後に、金属の網目状導電層を積層したフィルムを乾燥したり、熱処理したり、紫外線、電子線などの活性エネルギー線照射処理等をしてもよい。
【0045】
水で処理する方法は特に限定されず、例えば、水を導電層上に流水したり、塗布したり、水中に導電層を積層したフィルムを浸したり、水蒸気を導電層にあてたりする方法が用いられる。これらの中でも、水を導電層上に流水したり、塗布したり、水中に導電層を積層した基板フィルムを浸したりするなど、直接基板フィルムと水を接触させる方法が、導電性向上効果に優れるため好ましい。
【0046】
水処理の時間は、5秒から30分であることが好ましく、より好ましくは10秒〜15分であり、さらに好ましくは15秒から2分である。水処理の時間が5秒より短い場合は、水処理の効果が得られない場合がある。水処理の時間が30分より長い場合は、生産性が低下する場合がある。
【0047】
水処理の温度は、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。150℃より高温で処理を行うと、熱可塑性フィルムを用いた場合には、フィルムが白化し、透明性が損なわれる場合がある。
【0048】
また、導電層を水で処理する前に、有機溶媒で処理を行うと、より優れた導電性が得られやすくなるため好ましい。
【0049】
導電層を有機溶媒で処理する段階としては、基板フィルム上に導電層を網目状に積層した後、有機溶媒で処理してもよく、基板フィルム上の全面に導電を積層した後、有機溶媒で処理し、その後、エッチングなどにより、導電層を網目状にしてもよい。この中でも、基板フィルム上に導電を網目状に積層しておいてから有機溶媒で処理する方法が、導電性を高める効果に優れ、生産性の点で効率がよいため好ましい。 有機溶媒で処理する前や後に、導電層を積層したフィルムに別の層を印刷したり、塗布したりして積層してもよい。また、有機溶媒で処理する前や後に、導電層を積層したフィルムを乾燥したり、熱処理したり、紫外線、電子線などの活性エネルギー線照射処理等をしてもよい。
【0050】
有機溶媒で処理する方法は、特に限定されず、例えば、有機溶媒の溶液の中に導電層を積層した基板フィルムを浸漬したり、有機溶媒を導電層上に塗布したり、有機溶媒の蒸気を導電層にあてたりする方法が用いられる。これらの中でも、有機溶媒の中に導電層を積層した基板フィルムを浸漬したり、有機溶媒を導電層上に塗布したりする方法が、導電性向上効果に優れるため好ましい。
【0051】
有機溶媒の一例を挙げると、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,3ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサンなどのアルカン類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドなどの双極性非プロトン溶媒、トルエン、キシレン、アニリン、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコール、エチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、クロロホルム等、およびこれらの混合溶媒を使用できる。これらの中でも、ケトン類、エステル類、トルエンが含まれていると、導電性向上効果に優れるため、好ましく、特に好ましくはケトン類である。
これらの有機溶媒は必要に応じて2種以上用いても良く、水で希釈したものを用いても良い。
【0052】
有機溶剤による処理時間は、1秒〜30分であることが好ましく、より好ましくは5秒〜15分であり、さらに好ましくは10秒から5分である。有機による処理時間が1秒より短い場合は、有機溶剤による処理の効果が得られない場合がある。有機溶剤による処理時間が30分より長い場合は、導電性の向上効果が悪化する場合や基板フィルムの透明性が損なわれる可能性がある。
【0053】
有機溶媒の処理温度は、50℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは30℃以下である。50℃より高温で処理を行うと、熱可塑性樹脂フィルムを用いた場合には、フィルムが白化し、透明性が損なわれる場合がある。
本発明における導電性フィルムの導電性に関しては、表面抵抗が300Ω以下であることが好ましく、より好ましくは100Ω以下、さらに好ましくは50Ω以下である。表面抵抗が300Ω以下であると、導電性フィルムとして通電して用いる際に、抵抗による負荷が小さくなるため、発熱が抑えられることや、低電圧で用いることができるなどの点から、好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0055】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0056】
(2)金属微粒子の数平均粒子径
導電層形成溶液の金属微粒子をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)で観察し、金属微粒子10個の粒径の平均値を平数平均粒径とした。
【0057】
《導電層形成溶液》
導電層形成溶液として、下記組成からなる銀微粒子溶液を用いた。
平均粒径0.08μmの銀微粒子/BYK−410(ビックケミー株式会社製)/SPAN−60/シクロヘキサノン/アニリン/トルエン/ヘキサデカノール/ヘキサメチロールメラミン/蒸留水=5.0/0.3/0.2/4.6/56.0/0.8/0.1/33.0(重量%)
【0058】
(3)表面観察
ポリエステルフィルムの塗膜形成面に(2)に記載の導電層形成溶液を#24メイヤーバーを用いて塗布した後、150℃で2分間乾燥することにより導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの導電層を、SEM(株式会社堀場製作所製 S3400N)を用いて観察し、網目の形状を観察し、網目構造が形成されていれば◎、網目構造が形成されているが、一部に網目の欠陥があれば○、一部が網目構造を形成していれば△、網目構造を形成していなければ×とした。
【0059】
(4)導電性測定
(3)に記載の方法により得られた導電性フィルムの導電性は、表面抵抗により測定した。表面抵抗の測定は、常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS−K−7194に準拠した形で、ロレスターEP(三菱化学株式会社製、型番:MCP−T360)を用いて実施した。なお、本測定器は1×10 Ω以下が測定可能である。表面抵抗が300Ω以下であれば導電性は十分である。
【0060】
(5)全光線透過率
全光線透過率は、常態(23℃、相対湿度65%)において、(3)に記載の方法により得られた導電性フィルムを2時間放置した後、その雰囲気下で、JIS−K−7136に準拠した形で、村上色彩科学株式会社製ヘーズメーター「HM−150」を用いて測定した。4回測定した平均値を該導電性フィルムの全光線透過率とした。全光線透過率が60%以上であれば透明性は良好である。なお、導電層を積層した面側より光が入るように導電性フィルムを設置して測定した。
【0061】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・ポリビニルアルコール樹脂:(I)
ケン化度88モル%、重合度500のポリビニルアルコール
・ポリエステル樹脂:(II)下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
・オキサゾリン化合物:(III)
オキサゾリン基含有アクリルポリマー エポクロスWS−500(株式会社日本触媒製)
・粒子:(IV)平均粒径0.07μmのシリカゾル
【0062】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.63であった。
【0063】
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加後、平均粒子径1.6μmのエチレングリコールに分散させたシリカ粒子を0.2重量部、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は、極限粘度0.65であった。
【0064】
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:18:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記に示す塗布層形成溶液を塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、塗布量(乾燥後)が0.1g/mの塗布層を有する厚さ125μmのポリエステルフィルムを得た。
【0065】
《塗布層形成溶液》
I/II/III/IV=10/70/17/3(不揮発成分の重量%)
得られたポリエステルフィルムの塗布面に導電層形成溶液を#24メイヤーバーを用いて塗布した。続いて、150℃で2分間乾燥して、導電層をランダムな網目状に積層したポリエステルフィルムを得た。次に25℃のアセトンに30秒浸漬した後、室温で30秒間乾燥させた。この積層フィルムの金属による導電層を水で処理するために、積層フィルムに25℃の水道水で1分間流水処理した。その後、積層フィルムを取り出し、イオン交換水で洗浄した後、水分を飛ばすために積層フィルムを150℃で1分間乾燥して導電性フィルムを得た。この導電性フィルムの表面抵抗は30Ωであり、全光線透過率は78%であった。得られたポリエステルフィルムに関して表面観察および全光線透過率測定をしたところ、いずれの評価でも良好であった。このフィルムの特性を下記表1に示す。
【0066】
実施例2:
実施例1に記載の方法で得られたポリエステルフィルムの塗布面に導電層形成溶液を#24メイヤーバーを用いて塗布した。続いて、150℃で2分間乾燥して、導電層をランダムな網目状に積層したポリエステルフィルムを得た。次に25℃のアセトンに30秒浸漬した後、室温で30秒間乾燥させた。この積層フィルムの金属による導電層を水で処理するために、積層フィルムごと25℃のイオン交換水に1分間浸漬した。その後、積層フィルムを取り出し、水分を飛ばすために積層フィルムを150℃で1分間乾燥して導電性フィルムを得た。でき上がったフィルムは表1に示すとおりであり、導電層がランダムな網目状に積層し、良好な表面抵抗であった。
【0067】
実施例3:
イオン交換水の代わりに、水道水を用いた以外は実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。でき上がったフィルムは表1に示すとおりであり、導電層がランダムな網目状に積層し、良好な表面抵抗であった。
【0068】
比較例1:
実施例1に記載の方法で得られたポリエステルフィルムの塗布面に導電層形成溶液を#24メイヤーバーを用いて塗布した。続いて、150℃で2分間乾燥して、導電層をランダムな網目状に積層したポリエステルフィルムを得た。次に25℃のアセトンに30秒浸漬した後、室温で30秒間乾燥させた。その後、積層フィルムを取り出し、積層フィルムを150℃で1分間乾燥して導電性フィルムを得た。でき上がったフィルムは表1に示すとおりであり、フィルムの表面抵抗が測定限界より大きいものであり、導電性を示さなかった。
【0069】
比較例2:
イオン交換水の代わりに、エチルアルコールを用いた以外は、実施例2と同様にして導電性フィルムを得た。でき上がったフィルムは表1に示すとおりであり、フィルムの表面抵抗が大きいものであり、十分な導電性を示さなかった。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の導電性フィルムの製造方法で製造した導電性フィルムは、例えば、タッチパネルの透明導電電極、フラットパネルディスプレイ、太陽電池、電磁波シールドフィルムなどの透明性と導電性を必要とする用途に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板フィルムの少なくとも片面に網目状の金属導電層を積層し、当該金属導電層を水で処理することを特徴とする導電性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−84756(P2013−84756A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223507(P2011−223507)
【出願日】平成23年10月8日(2011.10.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】