説明

導電性ブラシ

【課題】安定した導電性を有し、導電性能のバラツキの少ない導電性繊維からなるブラシを提供する。
【解決手段】ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維において、芯成分2中に、(A)JIS K 5101に規定されている吸油量が100〜600ml/100gである導電性カーボンブラックと、(B)上記(A)の導電性カーボンブラックに対する平均粒径の比が1.1〜3であり、かつ上記(A)の導電性カーボンブラックに対する上記吸油量の比が0.9〜0.2である導電性カーボンブラックを、(A)/(B)(重量比)=90/10〜10/90の割合で混合した導電性カーボンブラック混合物を含む導電性繊維を使用した導電性ブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維を用いたブラシに関するものである。更に詳しくは、導電性能のバラツキの少ない安定した導電性を有する繊維を用いた、複写機やプリンターなどのOA機器に組み込まれる帯電ブラシ、除電ブラシ、クリーニングブラシとして好適な導電性ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、除電性能を有する繊維として、例えば導電性カーボンブラックを含有させ、導電性能を付与した繊維が知られている(特許文献1、特許文献2など)。このように、カーボンブラックは、安価であり、かつ導電性に優れるためブラシの材料として広く用いられている。しかしながら、従来の導電性繊維は、導電抵抗が10〜1012Ω/cmの範囲、いわゆる中高抵抗領域での抵抗バラツキが大きいという問題があった。これは、カーボンの導電性発現機構によるものであって、カーボンブラックが低濃度の場合、導電性を有さないが、ある程度の濃度を超えると急激に導電性が発現することによる。したがって、上記導電抵抗が10〜1012Ω/cmの範囲は、ちょうど導電性の発現から飽和までの間にあたり、カーボンブラックが同一の濃度においても導電性にバラツキが生じ易い問題があった。このため、この繊維をブラシとして使用すると、除電効果が不安定で耐久性等に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−194650号公報
【特許文献2】特開2006−9177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、導電性物質として導電性カーボンブラックを含有する導電性繊維であって、その導電性能のバラツキが少ない安定した導電性能を有する繊維からなる導電性ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の如き本発明の課題は、以下のごとき特徴を有する新規な導電性ブラシによって達成される。
〔1〕ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維であって、芯成分中に導電性成分として下記(A)、(B)2種類の導電性カーボンブラックを(A)/(B)(重量比)=90/10〜10/90の割合で混合した導電性カーボンブラック混合物を含む、導電性繊維を使用したことを特徴とする導電性ブラシ。
(A)JIS K 5101に規定されている吸油量が100〜600ml/100gである導電性カーボンブラック。
(B)上記(A)の導電性カーボンブラックに対する平均粒径の比が1.1〜3であり、かつ上記(A)の導電性カーボンブラックに対する上記吸油量の比が0.9〜0.2である導電性カーボンブラック。
〔2〕芯成分に上記(A)および(B)の導電性カーボンブラックを10〜35重量%含有する上記〔1〕の導電性ブラシ
〔3〕ヤング率が70cN/dtex以上である導電性繊維からなる上記〔1〕または〔2〕の導電性ブラシ。
【発明の効果】
【0006】
本発明のブラシを構成する導電性繊維は、導電性を付与するにあたり、上記の如き特性を有する少なくとも2種類の導電性カーボンブラック(A)、(B)を含有させることで、より、抵抗値が安定した導電性繊維を提供することができ、これを用いたブラシはより実用性に高い導電性ブラシとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の導電性繊維の断面模式図である。
【図2】本発明の導電性繊維の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のブラシを構成する導電性繊維(以下「本発明の導電性繊維」ということがある)は、導電性カーボンブラックを芯成分に配合した芯鞘型複合繊維である
【0009】
上記芯成分において、導電性カーボンブラックを混合するマトリックスポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステルが用いられる。これらのマトリックスポリマーには、第3成分を共重合したものでもよく、二酸化チタンなどの艶消し剤を含有してもよい。例えば、マトリックスポリマーにポリエチレンテレフタレート系のポリエステルを用いる場合、イソフタル酸やアジピン酸などを全酸成分に対して10〜20モル%程度共重合させると製糸性上好ましく、またグリコール成分をエチレングリコールのほかにトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのグリコール成分を共重合してもよい。
【0010】
上記導電性成分(芯成分)分の比率は、製糸性およびコストの面から、通常、繊維全体の10〜20重量%の範囲が適当である。この繊維は、成分を導電性成分としたことで、特に製糸性および繊維強度に優れ、さらに鞘ポリマーに艶消し剤を含有させることで審美性に優れたものとなるので好ましい。
【0011】
一方、導電性成分ではない鞘成分は、特に良好な風合いや、加工工程の取り扱いが優れていること、耐薬品性も良好であることから、ポリエステル、とりわけポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、ポリエステルの特徴として、ナイロンなどに比べ繊維の腰が強いが、特にヤング率を70cN/dtex以上に調整することで、コピー機で用いる導電性ブラシに使用した場合、トナーのかきとり性が向上するなどの良好な結果が得られる。
【0012】
本発明の導電性繊維は、導電性を付与させるために芯成分に導電性カーボンブラックを含有させるが、該導電性カーボンブラックは公知の物が使用でき、例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどが示され、これらは、通常、マトリックスポリマーに分散して用いることができる。ここで、マトリックスポリマーとしては、上記の各種の繊維形成性ポリマーが用いられる。
【0013】
本発明の導電性繊維を得るには、導電性カーボンブラックとして、少なくとも(A)および(B)の2種類をブレンドして使用することが重要である。
【0014】
一方の導電性カーボンブラック(A)、その平均粒径、好ましくは20〜70nm、さらに好ましくは30〜60nmである。平均粒径が20nm未満の場合、カーボンブラックをマトリックスポリマーに分散した場合に均一分散が難しく、凝集により製糸時の糸切れが多くなるなど、工程上の歩留まりが低下する。一方、平均粒径が70nmを超えるような場合には、製糸時の糸切れの問題のほか、所望の導電性能を得るためにより多量のカーボンブラックが必要となりコスト上も好ましくない。
【0015】
さらに、上記カーボンブラック(A)は、JIS K 5101に規定されている吸油量、100〜600m1/100g、好ましくは150〜300m1/100gである。吸油量が100m1/100g未満の場合は、繊維中でカーボンブラックのストラクチャーが発達し過ぎて、流動性の低下により製糸時の糸切れが多くなるなど、工程上の歩留まりが低下する。一方、吸油量が600ml/100gを超える場合は、ストラクチャーの発達度が低く、導電性発現のために多量のカーボンブラックが必要となり、コスト高になり好ましくない。
【0016】
上記の導電性カーボンブラック(A)は、1種単独使用してもよく、2種以上を併用することもできる。かかる導電性カーボンブラックの市販品としては、三菱化学社製「ケッチェンブラック」シリーズである「EC300J」(平均粒径39.5nm)、[EC600JD](平均粒径34.0nm)、東海カーボン社製「トーカブラック」シリーズである「#5500」(平均粒径25nm)、「#4500」(平均粒径40nm)、「#4400」(平均粒径38nm)、「#4300」(平均粒径55nm)、電気化学工業社製「デンカブラック」シリーズである「FX−35」(平均粒径26nm)、「HS−100」(平均粒径48nm)などが挙げられる。
【0017】
従来の導電性繊維では、カーボンブラックを通常の単一特性成分のみ配合しているがこの繊維は、繊維の導電抵抗が10〜1012Ω/cmのような中〜高抵抗領域で抵抗値がバラツキ易い課題があった。これは、カーボンブラックの導電性発現機構によるもので、カーボンブラックが低濃度の場合、導電性を有さないが、ある程度の濃度を超えると急激に導電性が発現し、さらに添加量を上げると飽和するという挙動の丁度中間部分に相当するためである。これらを抑制するために、本発明では、導電性カーボンブラックとして、少なくとも異なる特性をもつ2種のカーボンブラックをブレンドすることにより、抵抗値がより安定化するようにしたものである。
【0018】
このため、本発明では、芯成分に配合する導電性カーボンブラックとして、ベースとなる上記のカーボンブラック(A)に対し、平均粒径および吸油量が相違する別の導電性カーボンブラック(B)をブレンドする。具体的には、上記カーボンブラック(A)に対する平均粒径の比が1.1〜3であり、かつ、吸油量の比が0.9〜0.2である導電性カーボンブラック(B)をブレンドすることにより、導電抵抗を安定化させ、導電性のバラツキを抑えるものである。平均粒径の比が1.1未満の場合は、導電抵抗安定化の効果はなくこれ以上の平均粒径比のものをブレンドすることが必要である。一方、上記比が3を超えると、あまりに製糸上のパフォーマンスが低下する。また、吸油量については、上記比が0.9を超える場合は、ストラクチャーの発達具合に殆ど差がなく抵抗安定化には効果がない。一方、0.2未満の場合は導電性の安定化にあまり寄与せず効果が認められない。
【0019】
上記の導電性カーボンブラック(B)は、1種単独使用してもよく、2種以上を併用することもできる。かかる導電性カーボンブラック(B)の市販品としては、三菱化学社製「ケッチェンブラック」シリーズである「EC300J」(平均粒径39.5nm)、[EC600JD](平均粒径34.0nm)、東海カーボン社製「トーカブラック」シリーズである「#5500」(平均粒径25nm)、「#4500」(平均粒径40nm)、「#4400」(平均粒径38nm)、「#4300」(平均粒径55nm)、電気化学工業社製「デンカブラック」シリーズである「FX−35」(平均粒径26nm)、「HS−100」(平均粒径48nm)などが挙げられる。
【0020】
導電性カーボンブラック(A)、(B)は、例えば上述した市販品の中から、適宜選択して組み合わせて用いられる。
【0021】
上記(A)の導電性カーボンブラックと上記(B)の導電性カーボンブラックとの混合割合は、通常、(A)/(B)(重量比)が90/10〜10/90、好ましくは30/70〜70/30の範囲でブレンドすれば、導電抵抗の安定化を図ることができる。この理由は今のところ定かではないが、粒径やストラクチャー発達が異なるものをブレンドすることによって、単一使用の際に比べてカーボン添加量に対する電気伝導度変化の挙動が緩慢になると考えられる。
【0022】
複合繊維の導電性成分(芯成分)にブレンドする、上記(A)、(B)の導電性カーボンブラックの添加量(合計量)は、好ましくは10〜35重量%、さらに好ましくは10〜25重量%である。10重量%未満の場合は、電気伝導度が上がらず、一方、35重量%を超えるとポリマーの流動性が悪くなり、製糸工程上好ましくない。導電性カーボンブラックの添加量は、用いるカーボンブラックの種類によって適宜調整できる。
【0023】
本発明のブラシを構成する芯鞘型導電性複合繊維の断面図の例を、図1〜図2に示す。なお、導電性成分を芯にした場合、その芯を図2に示すような異型断面形状としてもよい。その場合、芯の先細り尖鋭端部分は、鞘成分が芯成分を被覆していない部分の割合が鞘成分全外周の5%以下とすることが必要である。仮に鞘成分が芯成分を被覆していない部分の割合が鞘成分全外周の5%を超えると、芯と鞘が剥離したり、導電性カーボンブラックが脱落するなど、汚染の原因となる可能性が高くなる。
【0024】
図1および図2の芯鞘型複合繊維の場合は、芯成分2に、少なくとも上記(A)、(B)2種類の導電性カーボンブラックの混合物を10〜35重量%含有させ、鞘成分1は通常のポリエステルとする。
【0025】
本発明の導電性繊維の断面抵抗値は、好ましくは10〜1012Ω/cm、さらに好ましくは10〜1010Ω/cm、特に好ましくは10Ω/cmオーダーであり、この範囲でバラツキが少ないものである。
【0026】
本発明の導電性繊維は、繊維物性や実使用における耐久性に優れた除電性能を有するものであり、複写機やプリンターなどのOA機器に組み込まれる帯電防止用ブラシ、除電ブラシ、クリーニングブラシとして好適に用いることができる。
【0027】
このような除電性能を有するブラシは、例えば、本発明の導電性繊維をパイルとして製織したのち、導電性を有するバッキング剤でバッキングしたのち、幅10〜30mmにカットしたパイルテープを、円柱状の金属棒に巻きつけるか、単に板にパイルを貼り付けてブラシ状に仕立てることにより得られる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(イ)吸油量
JIS K 5101に準じて測定した。
(ロ)平均粒径
カーボンブラックの平均粒径は、島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−200V ERを使用して測定した。
(ハ)繊維の強度・伸度
JIS L 1013に準じて測定した。
【0029】
(ニ)繊維端面間内部電気抵抗値(以下「断面抵抗値」と称する)
繊維軸方向の長さが2.0cmとなるよう両端を横断面方向にカットした繊維の該両断面にAgドウタイト(銀粒子含有の導電性樹脂塗料、藤倉工業製)を付着させた試料を電気絶縁性ポリエチレンテレフタレートフィルム上で、温度20℃相対湿度40%の条件のもとに1kVの直流電圧を該Agドウタイト付着面を使って印加して両断面間に流れる電流値を求め、オームの法則により電気抵抗値(Ω/cm)を算出した。
【0030】
〔実施例1〕
導電性物質として、吸油量220ml/100gの導電性カーボンブラック(A)(電気化学工業社製「デンカブラック FX−35」10重量部に、吸油量140ml/100gの導電性カーボンブラック(B)(電気化学工業社製「デンカブラック HS−100」9重量部を、イソフタル酸を15mol%共重合したポリエチレンテレフタレート81重量部にブレンドした。これを導電性成分とし芯に、ポリエチレンテレフタレートを鞘成分に重量比で10/90の割合で溶融押し出した後、図1に示すような断面の50dtex/24フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。この作業を3度繰り返し、3本の複合繊維について各々断面抵抗値を測定したところ、抵抗値は5×10Ω/cm〜9×10Ω/cmの範囲でバラツキが少なく良好であった。この導電性複合繊維をパイルとして製織し、導電性を有するバッキング剤でバッキングしたのち、幅20mmにカットしたパイルテープを、円柱状の金属棒に巻きつけてブラシ状に仕立てた導電性ブラシは、除電性能の耐久性に優れたものであった。
【0031】
〔比較例1〕
導電性物質として、吸油量220ml/100gの導電性カーボンブラック(A)(電気化学工業社製「デンカブラック FX−35」15重量部を、イソフタル酸を15mol%共重合した、実施例1で使用したと同様のポリエチレンテレフタレート85重量部にブレンドした。これを導電性成分とし芯に、実施例1と同様のポリエチレンテレフタレートを鞘成分に重量比で10/90の割合で溶融押し出した後、図1に示すような断面の50dtex/24フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。この作業を3度繰り返し、3本の複合繊維について各々断面抵抗値を測定したところ、抵抗値は5×10Ω/cm〜7×1010Ω/cmの範囲でバラツキが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の導電性繊維は、導電性物質として導電性カーボンブラックを含有し、その導電性能のバラツキが少ない安定した導電性能を有するので、繊維物性や実使用における耐久性に優れた除電性能を有するものであり、複写機やプリンターなどのOA機器に組み込まれる帯電ブラシ、除電ブラシ、クリーニングブラシとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
1:鞘成分
2:芯成分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維であって、芯成分中に導電性成分として下記(A)、(B)2種類の導電性カーボンブラックを(A)/(B)(重量比)=90/10〜10/90の割合で混合した導電性カーボンブラック混合物を含む、導電性繊維を使用したことを特徴とする導電性ブラシ。
(A)JIS K 5101に規定されている吸油量が100〜600ml/100gである導電性カーボンブラック。
(B)上記(A)導電性カーボンブラックに対する平均粒径の比が1.1〜3であり、かつ上記(A)導電性カーボンブラックに対する上記吸油量の比が0.9〜0.2である導電性カーボンブラック。
【請求項2】
芯成分に上記(A)および(B)の導電性カーボンブラックを10〜35重量%含有する請求項1記載の導電性ブラシ
【請求項3】
ヤング率が70cN/dtex以上である導電性繊維からなる請求項1または2記載の導電性ブラシ


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−137764(P2012−137764A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8177(P2012−8177)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【分割の表示】特願2009−71649(P2009−71649)の分割
【原出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】