説明

導電性ペースト、光起電力装置および光起電力装置の製造方法

【課題】導電性ペーストを用いて電極を形成する場合に、電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することが可能な導電性ペーストを提供する。
【解決手段】この導電性ペーストは、エポキシ樹脂(バインダ樹脂)と、エポキシ樹脂中に分散された銀粒子(導電材)と、エポキシ樹脂中に分散された層状構造の二硫化モリブデン粒子(添加材)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、光起電力装置および光起電力装置の製造方法に関し、特に、バインダ樹脂中に導電材が分散された導電性ペースト、この導電性ペーストを用いて形成された電極を含む光起電力装置およびこの光起電力装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バインダ樹脂中に、導電材としての銀(Ag)粒子が分散された導電性ペーストが知られている。また、従来では、上記した導電性ペーストを用いて形成された集電極を含む光起電力装置も知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、透光性導電膜上の所定領域に、フィンガー部とバスバー部とを有する櫛状の集電極が形成された光起電力装置が開示されている。なお、集電極のフィンガー部は、電流を収集する機能を有するとともに、バスバー部は、フィンガー部において収集された電流を集合させる機能を有する。この特許文献1に開示された従来の光起電力装置の集電極は、スクリーン印刷法を用いて透光性導電膜上の所定領域に導電性ペーストを印刷した後、その印刷された導電性ペーストを硬化させることによって形成されている。
【0004】
ところで、上記した集電極を含む従来の光起電力装置では、光の入射量を増大させるために、集電極のフィンガー部を細線化することにより遮光領域(集電極の形成領域)を小さくすることが重要である。したがって、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する際に、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制する必要がある。なお、印刷された導電性ペーストの横方向(幅方向)への広がりを抑制する方法としては、たとえば、導電性ペーストを構成するバインダ樹脂や溶剤の配合比を調整することによって、導電性ペーストの粘度を制御する方法がある。具体的には、導電性ペーストを構成する溶剤の量を減らせば、導電性ペーストの粘度が高くなるので、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−76398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電性ペーストを構成する溶剤の量を減らすことにより、印刷された導電性ペーストの横方向(幅方向)への広がりを抑制する方法では、以下のような不都合がある。すなわち、スクリーン印刷法を用いる場合において、溶剤の量を減らすことにより導電性ペーストの粘度を高くすると、スクリーン印刷版の開口部からの導電性ペーストの射出量が減少するので、印刷された導電性ペーストの高さを大きくするのが困難になる。このため、溶剤の量の減少に起因して導電性ペースト中の導電性を有しない成分(バインダ樹脂)の比率が高くなるのに加えて、高さが小さくなることに起因して印刷された導電性ペーストの断面積が小さくなるという不都合が生じる。その結果、導電性ペーストを用いて形成された電極の細線化を図れたとしても、その電極の断面積が小さくなるので、電極の抵抗が高くなるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、導電性ペーストを用いて電極を形成する場合に、電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することが可能な導電性ペーストを提供することである。
【0008】
この発明のもう1つの目的は、導電性ペーストを用いて形成された電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することが可能な光起電力装置およびこの光起電力装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による導電性ペーストは、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散された導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を含む添加材とを備えている。
【0010】
この第1の局面による導電性ペーストでは、上記のように、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を含む添加材を、バインダ樹脂中に分散させることによって、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を含む添加材は、潤滑性を有するので、導電性ペーストを構成する分子間の滑り性を向上させることができる。これにより、導電性ペーストのチクソ性(チクソトロピック性)を向上させることができるので、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、スクリーン印刷版の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させ、かつ、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。また、導電性ペーストのチクソ性を向上させることができるので、オフセット印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、導電性ペーストがブランケットに残留するのを抑制するために、分子量の大きなバインダ樹脂を用いる場合にも、導電性ペーストのチクソ性が低下するのを抑制することができる。このため、オフセット印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、凹版(印刷版)に導電性ペーストを充填するドクタリングを行う際に、導電性ペーストを切断しやすくすることができるとともに、凹版(印刷版)の表面に導電性ペーストが残留するのを抑制することができ、かつ、凹版(印刷版)からブランケットに移行された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、印刷された導電性ペーストの高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、導電性ペーストを用いて電極を形成する場合に、電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。なお、チクソ性とは、攪拌すると流動性を有するとともに、攪拌を中止すると非流動状態を回復する性質のことをいい、チクソ性が高いほど、攪拌により流動化しやすく、かつ、攪拌の中止により非流動状態を回復しやすい。
【0011】
上記第1の局面による導電性ペーストにおいて、好ましくは、層状構造の硫化物粒子は、二硫化モリブデン粒子を含む。このように構成すれば、二硫化モリブデン粒子は、モリブデン原子が硫黄原子により挟まれた構造を有しており、摩擦係数が低く潤滑性を有するため、導電性ペーストを構成する分子間に二硫化モリブデン粒子が配置された場合には、小さい剪断力で導電性ペーストを構成する分子を滑らせることができる。これにより、容易に、導電性ペーストを構成する分子間の滑り性を向上させることができる。また、二硫化モリブデン粒子は、単純な構造を有する分子であるので、二硫化モリブデン粒子を添加材として用いる場合には、添加材の分子サイズを小さくすることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比は、5%以下である。このように導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比を5%以下に設定すれば、導電性ペーストを用いて光起電力装置の電極を形成する場合において、光起電力装置の変換効率を向上させることが可能な幅と高さとを有する電極を形成することができる。
【0013】
上記導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比が5%以下である場合において、好ましくは、導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比は、0.15%以上4%以下である。このように構成すれば、導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比が4%よりも大きくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが大きくなり過ぎるのを抑制することができる。これにより、容易に、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。また、導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比が0.15%よりも小さくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができる。これにより、容易に、スクリーン印刷版の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。また、導電材に対する二硫化モリブデン粒子の質量比を0.15%以上4%以下に設定すれば、導電性ペーストを用いて光起電力装置の電極を形成する場合において、光起電力装置の変換効率をより向上させることが可能な幅と高さとを有する電極を形成することができる。
【0014】
上記第1の局面による導電性ペーストにおいて、好ましくは、球状構造の粒子は、フラーレン粒子を含む。このように構成すれば、フラーレン粒子は、他の球状構造の粒子に比べて小さい分子サイズを有するので、フラーレン粒子を添加材として用いる場合には、添加材の分子サイズを小さくすることができる。
【0015】
この場合、好ましくは、導電材に対するフラーレン粒子の質量比は、0.5%以上5.5%以下である。このように構成すれば、導電材に対するフラーレン粒子の質量比が5.5%よりも大きくなることに起因するフラーレン粒子の凝集を抑制することができるので、フラーレン粒子が潤滑材として機能しにくくなるのを抑制することができる。これにより、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができるので、容易に、スクリーン印刷版の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。さらに、導電材に対するフラーレン粒子の質量比が0.5%よりも小さくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができるので、この場合にも、容易に、スクリーン印刷版の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。また、導電材に対するフラーレン粒子の質量比を0.5%以上5.5%以下に設定することによって、導電性ペーストを用いて光起電力装置の電極を形成する場合において、光起電力装置の変換効率を向上させることが可能な幅と高さとを有する電極を形成することができる。
【0016】
上記第1の局面による導電性ペーストにおいて、好ましくは、導電材は、銀粒子を含む。このように構成すれば、銀粒子を含む導電材がバインダ樹脂中に分散された導電性ペーストを用いて電極を形成する場合に、電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0017】
この場合、好ましくは、銀粒子は、扁平状の銀粒子と、粒状の銀粒子とを含む。このように構成すれば、扁平状の銀粒子と粒状の銀粒子とを導電材として用いることにより導電性ペーストの比抵抗を向上させることができるので、導電性ペーストの比抵抗をより向上させることができる。
【0018】
この発明の第2の局面による光起電力装置は、光電変換層と、光電変換層の光入射面側に導電性ペーストを用いて形成された電極とを備え、電極は、導電材と、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む。
【0019】
この第2の局面による光起電力装置では、上記のように、電極を、導電材と、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含むように構成することによって、光起電力装置の電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0020】
この発明の第3の局面による光起電力装置の製造方法は、光電変換層を形成する工程と、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散された導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、電極パターンと対応する開口領域が形成された印刷版を介して光電変換層の光入射面側に転写する工程とを備える。
【0021】
この第3の局面による光起電力装置の製造方法では、上記のように、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散された導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、電極パターンと対応する開口領域が形成された印刷版を介して光電変換層の光入射面側に転写することによって、スクリーン印刷版の開口領域の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させ、かつ、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、印刷された導電性ペーストの高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、光起電力装置の電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0022】
この発明の第4の局面による光起電力装置の製造方法は、光電変換層を形成する工程と、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散された導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、印刷版に電極パターンと対応する形状に配置する工程と、電極パターンと対応する形状に配置された導電性ペーストを、印刷版からブランケットに移行させる工程と、ブランケットに移行された導電性ペーストを、光電変換層の光入射面側に転写する工程とを備える。
【0023】
この第4の局面による光起電力装置の製造方法では、上記のように、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散された導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、印刷版に電極パターンと対応する形状に配置することによって、凹版(印刷版)に導電性ペーストを充填するドクタリングを行う際に、導電性ペーストを切断しやすくすることができるとともに、凹版(印刷版)の表面に導電性ペーストが残留するのを抑制することができ、かつ、凹版(印刷版)からブランケットに移行された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、印刷された導電性ペーストの高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、光起電力装置の電極の細線化を図ることができるとともに、その電極の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による光起電力装置を示した断面図である。まず、図1を参照して、第1実施形態による光起電力装置の構造について説明する。
【0026】
第1実施形態による光起電力装置では、図1に示すように、光電変換層30と、光電変換層30の上面上(光入射面上)および裏面上に形成された透光性導電膜31と、導電性ペースト33を用いて形成された電極32とを備えている。
【0027】
光起電力装置の光電変換層30は、少なくとも1つのpn接合、または、pin接合を有する半導体から構成されている。この半導体としては、結晶系半導体、非晶質系半導体または化合物半導体などの中から選択される半導体を単独で用いてもよいし、これらの半導体の中から選択される複数の半導体を組み合わせて用いてもよい。なお、結晶系半導体としては、単結晶シリコンおよび多結晶シリコンなどがあり、非晶質系半導体としては、非晶質シリコンおよび非晶質シリコンゲルマニウムなどがあり、化合物半導体としては、GaAs、CdTeおよびCuInSeなどがある。また、光電変換層30が結晶系半導体のみから構成される場合には、透光性導電膜31を形成しなくてもよい。
【0028】
また、光電変換層30は、たとえば、n型の単結晶シリコン基板の光入射面上に、p型の非晶質シリコン層を形成するとともに、n型の単結晶シリコン基板の裏面上に、n型の非晶質シリコン層を形成するようにしてもよい。このように構成すれば、光入射面側に、p型の非晶質シリコン層とn型の単結晶シリコン基板とにより、pn接合が形成されるとともに、裏面側に、n型の単結晶シリコン基板とn型の非晶質シリコン層とにより、BSF(Back Surface Field)構造が形成される。なお、n型の単結晶シリコン基板と、p型およびn型の非晶質シリコン層との間に、それぞれ、i型の非晶質シリコン層を形成するようにしてもよい。
【0029】
光起電力装置の電極32は、光入射面側の透光性導電膜31の表面上に、櫛状に形成されている。また、電極32は、光電変換層30の裏面上に形成された透光性導電膜31の裏面上にも、櫛状に形成されている。これにより、光電変換層30の裏面側からも光を入射させることが可能なように構成されている。
【0030】
また、光電変換層30の裏面上に透光性導電膜31および導電性ペースト33を用いて形成された電極32を設ける代わりに、光電変換層30の裏面上の略全面に金属電極を形成するようにしてもよい。この金属電極は、導電性ペースト33を用いて形成してもよいし、導電性ペースト33を用いることなく、スパッタ法または蒸着法などにより形成するようにしてもよい。
【0031】
ここで、第1実施形態では、導電性ペースト33は、バインダ樹脂と、バインダ樹脂中に分散されたAgを主成分とする導電材と、バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む。
【0032】
図2および図3は、本発明の第1実施形態による光起電力装置の電極をスクリーン印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。次に、図2および図3を参照して、本発明の第1実施形態による光起電力装置の電極32をスクリーン印刷法により形成するプロセスについて説明する。
【0033】
まず、図2に示すように、透光性導電膜31が形成された光電変換層30をスクリーン印刷版34に対して所定の位置に配置する。また、スクリーン印刷版34上に導電性ペースト33を塗布する。なお、このスクリーン印刷版34は、電極パターンと対応する開口領域34a以外の領域が乳剤により覆われていることにより、開口領域34aの開口部34bのみを介して導電性ペースト33が透光性導電膜31上に転写されるように構成されている。
【0034】
その後、図2に示す状態から図3に示すように、スキージ35を矢印A方向に移動させることによって、導電性ペースト33を、スクリーン印刷版34の電極パターンと対応する開口領域34aの開口部34bのみから透光性導電膜31の上面上に転写する。その後、導電性ペースト33を硬化させることによって、透光性導電膜31の上面上に導電性ペースト33からなる電極32が形成される。
【0035】
第1実施形態では、上記のように、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペースト33中に分散させることによって、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子は、潤滑性を有するので、導電性ペースト33を構成する分子間の滑り性を向上させることができる。これにより、導電性ペースト33のチクソ性を向上させることができるので、スクリーン印刷法を用いて導電性ペースト33を印刷する場合に、スクリーン印刷版34の開口領域34aの開口部34bからの導電性ペースト33の射出量を増加させ、かつ、印刷された導電性ペースト33が横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、スクリーン印刷法を用いて導電性ペースト33を印刷する場合に、印刷された導電性ペースト33の高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、導電性ペースト33を用いて電極32を形成する場合に、電極32の細線化を図ることができるとともに、その電極32の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0036】
次に、上記第1実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、下記の実施例1および2による光起電力装置を実際に作製して特性を評価した。以下、詳細に説明する。
【0037】
(実施例1)
[光起電力装置の作製]
この実施例1では、導電材としての銀(Ag)粒子を主成分とする導電性ペースト中に、層状構造を有する硫化物粒子としての二硫化モリブデン(MoS)粒子を添加して分散させるとともに、そのMoS粒子が添加された導電性ペーストを硬化させることによって、光起電力装置の集電極を形成した。なお、二硫化モリブデン粒子は、本発明の「硫化物粒子」の一例である。また、実施例1では、集電極を形成する際に、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を変化させることによって、10種類の光起電力装置(実施例1−1〜実施例1−10)を作製した。
【0038】
図4は、本発明の実施例1による光起電力装置の平面図であり、図5は、図4の100−100線に沿った断面図である。図6は、図5に示した実施例1による光起電力装置の電極をスクリーン印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。まず、図4〜図6を参照して、実施例1−1〜実施例1−10による光起電力装置の作製プロセスについて説明する。
【0039】
(実施例1−1)
実施例1−1による光起電力装置の作製プロセスとしては、まず、図5に示すように、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、n型単結晶シリコン基板1上に、約5nmの厚みを有するi型非晶質シリコン層2および約5nmの厚みを有するp型非晶質シリコン層3を順次形成した。この後、プラズマCVD法を用いて、n型単結晶シリコン基板1の裏面上に、約5nmの厚みを有するi型非晶質シリコン層4および約5nmの厚みを有するn型非晶質シリコン層5を順次形成した。
【0040】
次に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、p型非晶質シリコン層3上に、約100nmの厚みを有するITO(Indium Tin Oxide)膜からなる透光性導電膜6を形成した。また、マグネトロンスパッタリング法を用いて、n型非晶質シリコン層5のn型単結晶シリコン基板1とは反対側の表面上にも、約100nmの厚みを有するITO膜からなる透光性導電膜7を形成した。
【0041】
次に、図4および図5に示すように、透光性導電膜6上の所定領域に、複数の細長状のフィンガー部8aと、2つの細長状のバスバー部8bとを有する表面側の集電極8を形成した。この際、複数の細長状のフィンガー部8aを、フィンガー部8aの短手方向に互いに所定の間隔を隔てて配置した。また、2つの細長状のバスバー部8bを、フィンガー部8aが延びる方向と直交する方向に延びるように、バスバー部8bの短手方向に互いに所定の間隔を隔てて配置した。この集電極8のフィンガー部8aは、電流を収集する機能を有するとともに、バスバー部8bは、フィンガー部8aにおいて収集された電流を集合させる機能を有する。なお、集電極8は、本発明の「電極」の一例である。
【0042】
実施例1−1の集電極8の具体的な作製プロセスとしては、まず、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペーストを準備するとともに、その導電性ペースト中に、MoS粒子を添加して分散させた。なお、このMoS粒子は、層状構造を有するとともに、導電性ペーストに添加される前において、約100nmの長手方向の平均粒径を有する。また、実施例1−1では、Ag粒子およびMoS粒子の各々の質量を279gおよび0.2gに設定することにより、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を0.07%にした。また、導電材(Ag粒子)としては、6μmの最大長さを有する扁平状のAg粒子と、1.1μmの平均直径を有する粒状のAg粒子とを含む導電材を用いた。また、バインダ樹脂としては、エポキシ樹脂からなるバインダ樹脂を用いた。
【0043】
次に、図6に示すように、集電極8(フィンガー部8aおよびバスバー部8b)の形状に対応する形状を有する開口領域40aに複数の開口部(図示せず)が形成されたスクリーン印刷版40を、透光性導電膜6の上面と対向するように設置した。また、そのスクリーン印刷版40上に、上記した実施例1−1の導電性ペーストを配置した。そして、スキージ42を矢印B方向に移動させることにより、スクリーン印刷版40上に配置された導電性ペーストに対してスキージング(掻く動作)を行うことによって、透光性導電膜6上の所定領域に導電性ペーストを印刷した。この後、200℃の温度条件下で導電性ペーストを硬化させることによって、フィンガー部8aとバスバー部8bとを有する表面側の集電極8を形成した。なお、実施例1−1では、スクリーン印刷版40のフィンガー部8aに対応する開口部の幅を、80μmに設定した。
【0044】
最後に、図5に示すように、表面側の集電極8と同様のプロセスを用いて、透光性導電膜7のn型単結晶シリコン基板1とは反対側の表面上の所定領域にも、フィンガー部9aとバスバー部(図示せず)とを有する裏面側の集電極9を形成した。なお、集電極9は、本発明の「電極」の一例である。このようにして、実施例1−1による光起電力装置を作製した。
【0045】
(実施例1−2)
実施例1−2では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、271gおよび0.4gに設定した。すなわち、実施例1−2では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、0.15%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−2による光起電力装置を作製した。
【0046】
(実施例1−3)
実施例1−3では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、260gおよび1.0gに設定した。すなわち、実施例1−3では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、0.41%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−3による光起電力装置を作製した。
【0047】
(実施例1−4)
実施例1−4では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、255gおよび1.5gに設定した。すなわち、実施例1−4では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、0.64%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−4による光起電力装置を作製した。
【0048】
(実施例1−5)
実施例1−5では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、251gおよび1.9gに設定した。すなわち、実施例1−5では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、0.89%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−5による光起電力装置を作製した。
【0049】
(実施例1−6)
実施例1−6では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、246gおよび2.9gに設定した。すなわち、実施例1−6では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、1.38%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−6による光起電力装置を作製した。
【0050】
(実施例1−7)
実施例1−7では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、240gおよび3.9gに設定した。すなわち、実施例1−7では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、1.92%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−7による光起電力装置を作製した。
【0051】
(実施例1−8)
実施例1−8では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、233gおよび4.8gに設定した。すなわち、実施例1−8では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、2.53%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−8による光起電力装置を作製した。
【0052】
(実施例1−9)
実施例1−9では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、223gおよび8.5gに設定した。すなわち、実施例1−9では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、3.79%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−9による光起電力装置を作製した。
【0053】
(実施例1−10)
実施例1−10では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびMoS粒子の質量を、それぞれ、224gおよび14.7gに設定した。すなわち、実施例1−10では、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比を、6.56%にした。これ以外は、上記実施例1−1と同様のプロセスを用いて、実施例1−10による光起電力装置を作製した。
【0054】
(比較例)
[光起電力装置の作製]
次に、図5および図6を参照して、上記実施例1に対する比較例としての光起電力装置の作製プロセスについて説明する。なお、比較例による光起電力装置の作製プロセスとしては、集電極8の形成を、MoS粒子を添加しない導電性ペーストにより行う以外は、上記実施例1−1と同様である。
【0055】
比較例の集電極8の具体的な作製プロセスとしては、まず、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペーストを準備した。なお、この比較例では、上記実施例1と異なり、導電性ペーストに層状構造のMoS粒子を添加しなかった。また、導電材(Ag粒子)としては、上記実施例1と同様、6μmの最大長さを有する扁平状のAg粒子と、1.1μmの平均直径を有する粒状のAg粒子とを含む導電材を用いた。また、バインダ樹脂としては、上記実施例1と同様、エポキシ樹脂からなるバインダ樹脂を用いた。
【0056】
次に、上記実施例1と同様のスクリーン印刷版40(図6参照)を用いて、透光性導電膜6上の所定領域に、上記した比較例の導電性ペーストを印刷した。この後、200℃の温度条件下で導電性ペーストを硬化させることによって、フィンガー部8aとバスバー部(図示せず)とを有する表面側の集電極8を形成した。
【0057】
最後に、表面側の集電極8の作製プロセスと同様のプロセスを用いて、透光性導電膜7のn型単結晶シリコン基板1とは反対側の表面上の所定領域にも、フィンガー部9aとバスバー部(図示せず)とを有する裏面側の集電極9を形成した。このようにして、図5に示す構造を有する比較例による光起電力装置を作製した。
【0058】
(実施例1および比較例共通)
[集電極(フィンガー部)の幅および高さの測定]
次に、上記のようにして作製した実施例1および比較例による光起電力装置の集電極(フィンガー部)の幅および高さを測定した。そして、比較例の集電極(フィンガー部)の幅および高さを基準(「1」)として規格化を行った。この結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】

上記表1を参照して、導電性ペーストにMoS粒子を添加した実施例1−1〜実施例1−9の集電極8(フィンガー部8a)の幅は、導電性ペーストにMoS粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の幅よりも小さくなることが判明した。具体的には、実施例1−1〜実施例1−9の規格化幅は、それぞれ、0.99、0.98、0.98、0.92、0.89、0.89、0.83、0.85および0.92であった。なお、導電性ペーストにAg粒子に対する質量比で6.56%のMoS粒子を添加した実施例1−10の集電極8(フィンガー部8a)の幅については、導電性ペーストにMoS粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の幅よりも大きくなった。具体的には、実施例1−10の規格化幅は、1.23であった。
【0060】
また、上記表1を参照して、導電性ペーストにMoS粒子を添加した実施例1−2〜実施例1−10の集電極8(フィンガー部8a)の高さは、導電性ペーストにMoS粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の高さよりも大きくなることが判明した。具体的には、実施例1−2〜実施例1−10の規格化高さは、それぞれ、1.04、1.01、1.16、1.14、1.20、1.19、1.28、1.39および1.22であった。なお、導電性ペーストにAg粒子に対する質量比で0.07%のMoS粒子を添加した実施例1−1の集電極8(フィンガー部8a)の高さについては、導電性ペーストにMoS粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の高さよりも小さくなった。具体的には、実施例1−1の規格化高さは、0.89であった。
【0061】
次に、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と、規格化幅および規格化高さとの関係を示すグラフを作製した。
【0062】
図7は、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化幅との関係を示したグラフであり、図8は、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化高さとの関係を示したグラフである。なお、図7および図8中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0063】
図7に示すように、導電性ペーストにMoS粒子を添加するとともに、そのMoS粒子のAg粒子に対する質量比を4.5%以下に設定すれば、集電極8(フィンガー部8a)の幅を比較例よりも小さくできることが判明した。また、図8に示すように、導電性ペーストにMoS粒子を添加すれば、集電極8(フィンガー部8a)の高さを比較例よりも大きくできることが判明した。これらの結果から、導電性ペーストにMoS粒子を添加するとともに、そのMoS粒子のAg粒子に対する質量比を4.5%以下に設定することによって、導電性ペーストのチクソ性が向上したと考えられる。すなわち、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する際に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量が増加し、かつ、印刷された導電性ペーストの横方向(幅方向)への広がりが抑制されたと考えられる。
【0064】
また、図7に示すように、導電性ペースト中のMoS粒子のAg粒子に対する質量比が4.5%を超えると、集電極8(フィンガー部8a)の幅が比較例よりも大きくなることが判明した。さらに、図8に示すように、導電性ペースト中のMoS粒子のAg粒子に対する質量比が4%を超えると、集電極8(フィンガー部8a)の高さが徐々に小さくなっていくことが判明した。これは、導電性ペースト中において分子の雪崩現象が発生したことにより、印刷された導電性ペーストの横方向(幅方向)への広がりが大きくなったためであると考えられる。したがって、MoS粒子のAg粒子に対する質量比の上限としては、4%に設定するのが好ましいと考えられる。
【0065】
また、導電性ペースト中のMoS粒子のAg粒子に対する質量比が0.15%を下回ると、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎると考えられる。したがって、MoS粒子のAg粒子に対する質量比の下限としては、0.15%に設定するのが好ましいと考えられる。
【0066】
[光起電力装置の変換効率の測定]
次に、上記のようにして作製した実施例1および比較例による光起電力装置について、光スペクトル:AM1.5、光強度:100mW/cm、および、測定温度:25℃の擬似太陽光照射条件下で変換効率を測定した。ここで、AM(Air Mass)とは、地球大気に入射する直達太陽光が通過する路程の標準状態の大気(標準気圧1013hPa)に垂直に入射した場合の路程に対する比である。そして、比較例の変換効率を基準(「1」)として規格化を行った。この測定結果を以下の表2に示す。
【0067】
【表2】

上記表2を参照して、MoS粒子が添加された導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む実施例1−1〜実施例1−9による光起電力装置の変換効率は、MoS粒子が添加されていない導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む比較例による光起電力装置の変換効率よりも高くなることが判明した。具体的には、実施例1−1〜実施例1−9の規格化変換効率は、それぞれ、1.0001、1.0010、1.0009、1.0044、1.0062、1.0060、1.0094、1.0076および1.0041であった。なお、Ag粒子に対する質量比で6.56%のMoS粒子が添加された導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む実施例1−10による光起電力装置の変換効率については、MoS粒子が添加されていない導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む比較例による光起電力装置の変換効率よりも低くなった。具体的には、実施例1−10の規格化変換効率は、0.9853であった。
【0068】
次に、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と、規格化変換効率との関係を示すグラフを作製した。
【0069】
図9は、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化変換効率との関係を示したグラフである。なお、図9中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0070】
図9に示すように、導電性ペースト中のMoS粒子のAg粒子に対する質量比が5%以下の場合には、光起電力装置の変換効率が比較例よりも高くなることが判明した。これは、集電極8(フィンガー部8a)の形状が改善されたためであると考えられる。
【0071】
具体的には、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が4.5%を超え、かつ、5%以下の場合には、図7に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の幅が比較例よりも若干大きくなる一方、図8に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の高さが比較例よりも30%以上も大きくなった。すなわち、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が4.5%を超え、かつ、5%以下の場合には、集電極8(フィンガー部8a)の高さが大きくなったことにより断面積が大きくなったので、集電極8(フィンガー部8a)の抵抗が低くなったと考えられる。
【0072】
また、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が4.5%以下の場合には、図7に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の幅が比較例よりも小さくなり、かつ、図8に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の高さが比較例よりも大きくなった。すなわち、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が4.5%以下の場合には、集電極8(フィンガー部8a)の幅が小さくなったことにより、遮光領域(集電極8の形成領域)が小さくなったので、光の入射が増加したと考えられる。また、集電極8(フィンガー部8a)の高さが大きくなったことにより、集電極8(フィンガー部8a)の断面積が大きくなったので、集電極8(フィンガー部8a)の抵抗が低くなったと考えられる。
【0073】
[集電極(フィンガー部)の抵抗率の測定]
次に、上記のようにして作製した実施例1および比較例による光起電力装置の集電極(フィンガー部)の抵抗率を測定した。なお、抵抗率ρとは、単位体積当たりの電流の流れにくさを示すものであり、抵抗をR、断面積をS、電流の進行方向の距離をLとした場合、以下の式(1)で表される。
【0074】
R=ρ×(L/S) ・・(1)
そして、比較例の集電極(フィンガー部)の抵抗率を基準(「1」)として規格化を行った。この結果を以下の表3に示す。
【0075】
【表3】

上記表3を参照して、導電性ペーストにMoS粒子を添加した実施例1−2および実施例1−4〜実施例1−10の集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率は、導電性ペーストにMoS粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率よりも高くなることが判明した。具体的には、実施例1−2および実施例1−4〜実施例1−10の規格化抵抗率は、それぞれ、1.05、1.09、1.01、1.18、1.20、1.69、1.67および3.84であった。
【0076】
次に、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と、規格化抵抗率との関係を示すグラフを作製した。
【0077】
図10は、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化抵抗率との関係を示したグラフである。なお、図10中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0078】
図10に示すように、導電性ペーストにMoS粒子を添加すれば、集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率が比較例よりも高くなることが判明した。このように集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率が高くなったのは、導電性ペーストに添加されたMoS粒子が導電性を有しないためであると考えられる。ここで、実施例1では、図9に示したように、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が5%以下であれば、光起電力装置の変換効率が比較例よりも高くなっていた。したがって、導電性ペーストにMoS粒子を添加することにより抵抗率が高くなったとしても、Ag粒子に対するMoS粒子の質量比が5%以下であれば、光起電力装置の変換効率にはほとんど影響しないと考えられる。
【0079】
実施例1では、上記のように、層状構造を有する硫化物粒子としてのMoS粒子を、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペースト中に分散させることによって、MoS粒子は、潤滑性を有するので、導電性ペーストを構成する分子間の滑り性を向上させることができる。これにより、導電性ペーストのチクソ性を向上させることができるので、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させ、かつ、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、印刷された導電性ペーストの高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、導電性ペーストを用いて集電極8を形成する場合に、集電極8のフィンガー部8aの細線化を図ることができるとともに、その集電極8のフィンガー部8aの断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0080】
また、実施例1では、上記のように、導電性ペーストのチクソ性を向上させるための添加材として、MoS粒子を用いることによって、MoS粒子は、モリブデン原子が硫黄原子により挟まれた構造を有しており、摩擦係数が低く潤滑性を有するため、導電性ペーストを構成する分子間にMoS粒子が配置された場合には、小さい剪断力で導電性ペーストを構成する分子を滑らせることができる。これにより、容易に、導電性ペーストを構成する分子間の滑り性を向上させることができる。また、MoS粒子は、単純な構造を有する分子であるので、MoS粒子を添加材として用いる場合には、添加材の分子サイズを小さくすることができる。
【0081】
また、実施例1では、上記のように、導電性ペーストのチクソ性を向上させるための添加材として、MoS粒子を用いることによって、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比を0.15%以上4%以下に設定すれば、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が4%よりも大きくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが大きくなり過ぎるのを抑制することができる。これにより、容易に、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。また、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比が0.15%よりも小さくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができる。これにより、容易に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。また、導電性ペースト中のAg粒子に対するMoS粒子の質量比を0.15%以上4%以下に設定することによって、導電性ペーストを用いて光起電力装置の集電極8を形成する場合において、光起電力装置の変換効率を向上させることが可能な幅と高さとを有する集電極8(フィンガー部8a)を形成することができる。
【0082】
(実施例2)
この実施例2では、上記実施例1と異なり、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペースト中に、球状構造を有するフラーレン(C60)粒子を添加して分散させるとともに、そのC60粒子が添加された導電性ペーストを硬化させることによって、光起電力装置の集電極を形成した。また、実施例2では、集電極を形成する際に、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を変化させることによって、8種類の光起電力装置(実施例2−1〜実施例2−8)を作製した。なお、実施例2−1〜実施例2−8による光起電力装置の構造は、集電極8を形成するための導電性ペースト以外は上記実施例1−1と同様である。
【0083】
次に、図5および図6を参照して、実施例2−1〜実施例2−8による光起電力装置の作製プロセスについて説明する。なお、実施例2−1〜実施例2−8による光起電力装置の半導体層の作成プロセスは、上記実施例1−1と同様である。
【0084】
(実施例2−1)
実施例2−1の集電極8の具体的な作製プロセスとしては、まず、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペーストを準備するとともに、その導電性ペースト中に、球状構造のC60粒子を添加して分散させた。なお、実施例2−1では、Ag粒子およびC60粒子の各々の質量を279gおよび0.3gに設定することにより、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を0.09%にした。また、導電材(Ag粒子)としては、上記実施例1と同様、6μmの最大長さを有する扁平状のAg粒子と、1.1μmの平均直径を有する粒状のAg粒子とを含む導電材を用いた。また、バインダ樹脂としては、上記実施例1と同様、エポキシ樹脂からなるバインダ樹脂を用いた。
【0085】
次に、図6に示すように、集電極8の形状に対応する形状を有する開口領域40aに複数の開口部(図示せず)が形成されたスクリーン印刷版40を、透光性導電膜6の上面と対向するように設置した。また、そのスクリーン印刷版40上に、上記した実施例2−1の導電性ペーストを配置した。そして、スクリーン印刷版40上に配置された導電性ペーストに対してスキージングを行うことによって、透光性導電膜6上の所定領域に導電性ペーストを印刷した。この後、200℃の温度条件下で導電性ペーストを硬化させることによって、フィンガー部8aとバスバー部(図示せず)とを有する表面側の集電極8を形成した。なお、実施例2−1では、上記実施例1と同様、スクリーン印刷版40のフィンガー部8aに対応する開口部の幅を、80μmに設定した。
【0086】
最後に、表面側の集電極8と同様のプロセスを用いて、透光性導電膜7のn型単結晶シリコン基板1とは反対側の表面上の所定領域にも、フィンガー部9aとバスバー部(図示せず)とを有する裏面側の集電極9を形成した。このようにして、図5に示す構造を有する実施例2−1による光起電力装置を作製した。
【0087】
(実施例2−2)
実施例2−2では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、271gおよび1.0gに設定した。すなわち、実施例2−2では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、0.37%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−2による光起電力装置を作製した。
【0088】
(実施例2−3)
実施例2−3では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、265gおよび2.1gに設定した。すなわち、実施例2−3では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、0.78%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−3による光起電力装置を作製した。
【0089】
(実施例2−4)
実施例2−4では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、259gおよび3.2gに設定した。すなわち、実施例2−4では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、1.23%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−4による光起電力装置を作製した。
【0090】
(実施例2−5)
実施例2−5では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、253gおよび4.4gに設定した。すなわち、実施例2−5では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、1.73%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−5による光起電力装置を作製した。
【0091】
(実施例2−6)
実施例2−6では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、252gおよび5.8gに設定した。すなわち、実施例2−6では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、2.29%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−6による光起電力装置を作製した。
【0092】
(実施例2−7)
実施例2−7では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、251gおよび8.3gに設定した。すなわち、実施例2−7では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、3.32%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−7による光起電力装置を作製した。
【0093】
(実施例2−8)
実施例2−8では、集電極8および9を形成するための導電性ペースト中のAg粒子およびC60粒子の質量を、それぞれ、248gおよび13.2gに設定した。すなわち、実施例2−8では、Ag粒子に対するC60粒子の質量比を、5.31%にした。これ以外は、上記実施例2−1と同様のプロセスを用いて、実施例2−8による光起電力装置を作製した。
【0094】
[集電極(フィンガー部)の幅および高さの測定]
次に、上記のようにして作製した実施例2による光起電力装置の集電極(フィンガー部)の幅および高さを測定した。そして、上記した実施例1に対する比較例の集電極(フィンガー部)の幅および高さを基準(「1」)として規格化を行った。この結果を以下の表4に示す。
【0095】
【表4】

上記表4を参照して、導電性ペーストにC60粒子を添加した実施例2−1〜実施例2−8の集電極8(フィンガー部8a)の幅は、C60粒子を添加していない導電性ペーストを用いて形成した比較例の集電極8(フィンガー部8a)の幅よりも小さくなることが判明した。具体的には、実施例2−1〜実施例2−8の規格化幅は、それぞれ、0.98、0.99、0.93、0.94、0.94、0.93、0.95および0.94であった。
【0096】
また、上記表4を参照して、導電性ペーストにC60粒子を添加して形成した実施例2−2〜実施例2−8の集電極8(フィンガー部8a)の高さは、導電性ペーストにC60粒子を添加せずに形成した比較例の集電極8(フィンガー部8a)の高さよりも大きくなることが判明した。具体的には、実施例2−2〜実施例2−8の規格化高さは、それぞれ、1.13、1.13、1.20、1.25、1.30、1.30および1.25であった。なお、導電性ペーストにAg粒子に対する質量比で0.09%のC60粒子を添加した実施例2−1の集電極8(フィンガー部8a)の高さについては、導電性ペーストにC60粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の高さと同じであった。
【0097】
次に、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と、規格化幅および規格化高さとの関係を示すグラフを作製した。
【0098】
図11は、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化幅との関係を示したグラフであり、図12は、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化高さとの関係を示したグラフである。なお、図11および図12中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0099】
図11に示すように、導電性ペーストにC60粒子を添加して形成すれば、集電極8(フィンガー部8a)の幅が比較例よりも小さくなることが判明した。また、図12に示すように、導電性ペーストにC60粒子を添加して形成すれば、集電極8(フィンガー部8a)の高さが比較例よりも大きくなることが判明した。これらの結果から、導電性ペーストにC60粒子を添加することによって、導電性ペーストのチクソ性が向上したと考えられる。すなわち、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する際に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量が増加し、かつ、印刷された導電性ペーストの横方向(幅方向)への広がりが抑制されたと考えられる。
【0100】
また、図12に示すように、導電性ペースト中のC60粒子のAg粒子に対する質量比が0.5%を下回ると、集電極8(フィンガー部8a)の高さが比較例と同じになる場合(実施例2−1)があることが判明した。これは、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなったことにより、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量が減少したためであると考えられる。したがって、C60粒子のAg粒子に対する質量比の下限としては、0.5%に設定するのが好ましいと考えられる。
【0101】
なお、C60粒子を添加することにより導電性ペーストのチクソ性を向上させるためには、導電性ペースト中においてC60粒子が凝集せずに均一に分散していることが好ましいと考えられる。ここで、導電性ペースト中のC60粒子のAg粒子に対する質量比が高過ぎると、導電性ペースト中においてC60粒子が凝集しやすくなるので、C60粒子を均一に分散させるのが困難になる。したがって、C60粒子のAg粒子に対する質量比の上限としては、5.5%に設定するのが好ましいと考えられる。
【0102】
[光起電力装置の変換効率の測定]
次に、上記のようにして作製した実施例2による光起電力装置について、変換効率を測定した。なお、測定条件としては、上記実施例1について行った変換効率の測定と同じ条件である。そして、上記した実施例1に対する比較例の変換効率を基準(「1」)として規格化を行った。この測定結果を以下の表5に示す。
【0103】
【表5】

上記表5を参照して、C60粒子が添加された導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む実施例2−1〜実施例2−8による光起電力装置の変換効率は、C60粒子が添加されていない導電性ペーストを用いて形成された集電極8を含む比較例による光起電力装置の変換効率よりも高くなることが判明した。具体的には、実施例2−1〜実施例2−8の規格化変換効率は、それぞれ、1.0011、1.0005、1.0041、1.0036、1.0036、1.0040、1.0036および1.0031であった。
【0104】
次に、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と、規格化変換効率との関係を示すグラフを作製した。
【0105】
図13は、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化変換効率との関係を示したグラフである。なお、図13中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0106】
図13に示すように、導電性ペーストにC60粒子を添加すれば、光起電力装置の変換効率が比較例よりも高くなることが判明した。これは、集電極8(フィンガー部8a)の形状が改善されたためであると考えられる。
【0107】
具体的には、導電性ペーストにC60粒子を添加した場合には、図11に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の幅が比較例よりも小さくなり、かつ、図12に示したように、集電極8(フィンガー部8a)の高さが比較例よりも大きくなった。すなわち、導電性ペーストにC60粒子を添加した場合には、集電極8(フィンガー部8a)の幅が小さくなったことにより、遮光領域(集電極8の形成領域)が小さくなったので、光の入射が増加したと考えられる。また、集電極8(フィンガー部8a)の高さが大きくなったことにより、集電極8(フィンガー部8a)の断面積が大きくなったので、集電極8(フィンガー部8a)の抵抗が低くなったと考えられる。
【0108】
[集電極(フィンガー部)の抵抗率の測定]
次に、上記のようにして作製した実施例2による光起電力装置の集電極(フィンガー部)の抵抗率を測定した。そして、上記した実施例1に対する比較例の集電極(フィンガー部)の抵抗率を基準(「1」)として規格化を行った。この結果を以下の表6に示す。
【0109】
【表6】

上記表6を参照して、導電性ペーストにC60粒子を添加した実施例2−2〜実施例2−8の集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率は、導電性ペーストにC60粒子を添加していない比較例の集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率よりも高くなることが判明した。具体的には、実施例2−2〜実施例2−8の規格化抵抗率は、それぞれ、1.16、1.20、1.31、1.38、1.72、2.31および5.70であった。
【0110】
次に、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と、規格化抵抗率との関係を示すグラフを作製した。
【0111】
図14は、Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化抵抗率との関係を示したグラフである。なお、図14中の曲線は、上記した測定データに基づいた近似曲線である。
【0112】
図14に示すように、導電性ペーストにC60粒子を添加すれば、集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率が比較例よりも高くなることが判明した。このように集電極8(フィンガー部8a)の抵抗率が高くなったのは、導電性ペーストに添加されたC60粒子が導電性を有しないためであると考えられる。ここで、実施例2では、図13に示したように、導電性ペーストにC60粒子が添加されていれば、光起電力装置の変換効率が比較例よりも高くなっていた。したがって、導電性ペーストにC60粒子を添加することにより抵抗率が高くなったとしても、光起電力装置の変換効率にはほとんど影響しないと考えられる。
【0113】
実施例2では、上記のように、球状構造のC60粒子を、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペースト中に分散させることによって、球状構造のC60粒子は、潤滑性を有するので、導電性ペーストを構成する分子間の滑り性を向上させることができる。これにより、導電性ペーストのチクソ性を向上させることができるので、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させ、かつ、印刷された導電性ペーストが横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、スクリーン印刷法を用いて導電性ペーストを印刷する場合に、印刷された導電性ペーストの高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、導電性ペーストを用いて集電極8を形成する場合に、集電極8のフィンガー部8aの細線化を図ることができるとともに、その集電極8のフィンガー部8aの断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0114】
また、実施例2では、上記のように、導電性ペーストのチクソ性を向上させるための添加材として、C60粒子を用いることによって、C60粒子は、他の球状構造の粒子に比べて小さい分子サイズを有するので、C60粒子を添加材として用いる場合には、添加材の分子サイズを小さくすることができる。
【0115】
また、実施例2では、上記のように、導電性ペーストのチクソ性を向上させるための添加材として、C60粒子を用いることによって、導電性ペースト中のAg粒子に対するC60粒子の質量比を0.5%以上5.5%以下に設定すれば、Ag粒子に対するC60粒子の質量比が5.5%よりも大きくなることに起因するC60粒子の凝集を抑制することができるので、C60粒子が潤滑材として機能しにくくなるのを抑制することができる。これにより、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができので、容易に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。さらに、Ag粒子に対するC60粒子の質量比が0.5%よりも小さくなることに起因して、導電性ペーストを構成する分子間の滑りが小さくなり過ぎるのを抑制することができるので、この場合にも、容易に、スクリーン印刷版40の開口部からの導電性ペーストの射出量を増加させることができる。また、導電性ペースト中のAg粒子に対するC60粒子の質量比を0.5%以上5.5%以下に設定することによって、導電性ペーストを用いて光起電力装置の集電極8(フィンガー部8a)を形成する場合において、光起電力装置の変換効率を向上させることが可能な幅と高さとを有する集電極8(フィンガー部8a)を形成することができる。
【0116】
なお、実施例2のその他の効果は、上記実施例1と同様である。
【0117】
(第2実施形態)
図15〜図20は、本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。次に、図15〜図20を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態の構成において、光起電力装置の電極32をオフセット印刷法により形成するプロセスについて説明する。なお、オフセット印刷には、凹版オフセット印刷および平版オフセット印刷などがあり、印刷版の形状には、平面形状および円柱形状などがあるが、第2実施形態では、平面形状の印刷版51を用いて凹版オフセット印刷を行う場合について説明する。
【0118】
まず、図15に示すように、ウレタンゴムまたは金属からなるスキージ50を矢印C方向に移動させてドクタリングすることによって、導電性ペースト33を、印刷版51の電極パターンと対応するパターン領域51cに設けられた複数の凹部51aおよび51bに埋め込む。なお、印刷版51としては、ステンレス鋼、ガラス、または、樹脂などからなる印刷版51を用いる。
【0119】
また、この印刷版51としては、たとえば、図16に示すような形状を有する印刷版51を用いる。この印刷版51には、電極のフィンガー部に対応する領域に設けられた凹部51aと、電極のバスバー部に対応する領域に設けられた凹部51bとを有するパターン領域51cが形成されている。電極のフィンガー部に対応する凹部51aは、約20μmの深さと、約70μmの幅とを有する。電極のバスバー部に対応する凹部51bは、約20μmの深さと、約1.5mmの幅とを有する。
【0120】
次に、図17に示すように、円柱形状のブランケット52を印刷版51の表面に接触させた状態でD方向に回転させることにより、ブランケット52を印刷版51に対して矢印E方向に移動させることによって、図18に示すように、印刷版51の電極パターンと対応するパターン領域51cの複数の凹部51aおよび51bに埋め込まれた導電性ペースト33がブランケット52に移行する。なお、ブランケット52は、シリコンゴムなどの弾性体からなる。
【0121】
最後に、図19に示すように、導電性ペースト33が移行されたブランケット52を透光性導電膜31の表面に接触させた状態でF方向に回転させることにより、ブランケット52を透光性導電膜31が形成された光電変換層30に対して矢印G方向に移動させる。これにより、図20に示すように、導電性ペースト33をブランケット52から透光性導電膜31の上面上に転写する。その後、導電性ペースト33を硬化させることによって、透光性導電膜31の上面上に導電性ペースト33からなる電極32が形成される。
【0122】
第2実施形態では、上記のように、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を、導電材としてのAg粒子を主成分とする導電性ペースト33中に分散させることによって、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子は、潤滑性を有するので、導電性ペースト33を構成する分子間の滑り性を向上させることができる。これにより、導電性ペースト33のチクソ性を向上させることができるので、オフセット印刷法を用いて導電性ペースト33を印刷する場合に、導電性ペースト33がブランケット52に残留するのを抑制するために、分子量の大きなバインダ樹脂を用いる場合にも、導電性ペースト33のチクソ性が低下するのを抑制することができる。このため、オフセット印刷法を用いて導電性ペースト33を印刷する場合に、印刷版51の電極パターンと対応する所定領域51aの複数の凹部51bに導電性ペースト33を充填するドクタリングを行う際に、導電性ペースト33をスキージ50により切断しやすくすることができるとともに、印刷版51の表面に導電性ペースト33が残留するのを抑制することができ、かつ、印刷版51からブランケット52に移行された導電性ペースト33が横方向(幅方向)に広がるのを抑制することができる。このため、オフセット印刷法を用いて導電性ペースト33を印刷する場合に、印刷された導電性ペースト33の高さを大きくすることができ、かつ、幅を小さくすることができる。その結果、導電性ペースト33を用いて電極32を形成する場合に、電極32の細線化を図ることができるとともに、その電極32の断面積が小さくなることに起因して抵抗が高くなるのを抑制することができる。
【0123】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0124】
たとえば、上記実施例1および2では、導電材としての銀粒子を主成分とする導電性ペーストを用いるとともに、その導電性ペーストに、層状構造の硫化物粒子または球状構造の粒子を添加したが、本発明はこれに限らず、銀粒子以外の粒子からなる導電材を主成分とする導電性ペーストを用いてもよい。
【0125】
また、上記実施例1および2では、導電性ペーストを構成する導電材として、扁平状の銀粒子と、粒状の銀粒子とを含む導電材を用いたが、本発明はこれに限らず、扁平状の銀粒子および粒状の銀粒子のいずれか一方の銀粒子のみを含む導電材を用いてもよい。
【0126】
また、上記実施例1では、バインダ樹脂中に、層状構造の二硫化モリブデン粒子を添加したが、本発明はこれに限らず、バインダ樹脂中に、二硫化モリブデン粒子以外の層状構造を有する粒子を添加してもよい。二硫化モリブデン粒子以外の層状構造を有する粒子としては、たとえば、二硫化タングステン粒子および雲母粒子などがある。二硫化タングステン粒子および雲母粒子は、二硫化モリブデン粒子と同様の形状および大きさを有し、かつ、潤滑性を有するので、バインダ樹脂中に二硫化モリブデン粒子を添加した場合と同様の効果が得られる。また、バインダ樹脂中に、層状ペロブスカイト構造を有する金属化合物粒子を添加してもよい。
【0127】
また、上記実施例2では、バインダ樹脂中に、球状構造を有するフラーレン粒子(C60) を添加したが、本発明はこれに限らず、バインダ樹脂中に、C60以外のフラーレン粒子やフラーレン粒子以外の球状構造を有する粒子を添加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態による光起電力装置を示した断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による光起電力装置の電極をスクリーン印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図3】本発明の第1実施形態による光起電力装置の電極をスクリーン印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図4】本発明の実施例1による光起電力装置の平面図である。
【図5】図4の100−100線に沿った断面図である。
【図6】図5に示した実施例1による光起電力装置の電極をスクリーン印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図7】Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化幅との関係を示したグラフである。
【図8】Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化高さとの関係を示したグラフである。
【図9】Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化変換効率との関係を示したグラフである。
【図10】Ag粒子に対するMoS粒子の質量比と規格化抵抗率との関係を示したグラフである。
【図11】Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化幅との関係を示したグラフである。
【図12】Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化高さとの関係を示したグラフである。
【図13】Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化変換効率との関係を示したグラフである。
【図14】Ag粒子に対するC60粒子の質量比と規格化抵抗率との関係を示したグラフである。
【図15】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図16】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図17】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図18】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図19】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【図20】本発明の第2実施形態による光起電力装置の電極をオフセット印刷法により形成するプロセスを説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0129】
8、9 集電極(電極)
30 光電変換層
32 電極
33 導電性ペースト
34、40 スクリーン印刷版(印刷版)
34a、40a 開口領域
51 印刷版
52 ブランケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂と、
前記バインダ樹脂中に分散された導電材と、
前記バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を含む添加材とを備えた、導電性ペースト。
【請求項2】
前記層状構造の硫化物粒子は、二硫化モリブデン粒子を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電材に対する前記二硫化モリブデン粒子の質量比は、5%以下である、請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電材に対する前記二硫化モリブデン粒子の質量比は、0.15%以上4%以下である、請求項3に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記球状構造の粒子は、フラーレン粒子を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記導電材に対する前記フラーレン粒子の質量比は、0.5%以上5.5%以下である、請求項5に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電材は、銀粒子を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記銀粒子は、扁平状の銀粒子と、粒状の銀粒子とを含む、請求項7に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
光電変換層と、
前記光電変換層の光入射面側に導電性ペーストを用いて形成された電極とを備え、
前記電極は、
導電材と、
層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む、光起電力装置。
【請求項10】
光電変換層を形成する工程と、
バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂中に分散された導電材と、前記バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、電極パターンと対応する開口領域が形成された印刷版を介して前記光電変換層の光入射面側に転写する工程とを備えた、光起電力装置の製造方法。
【請求項11】
光電変換層を形成する工程と、
バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂中に分散された導電材と、前記バインダ樹脂中に分散され、層状構造の硫化物粒子および球状構造の粒子の少なくとも一方を有する添加材とを含む導電性ペーストを、印刷版に電極パターンと対応する形状に配置する工程と、
前記電極パターンと対応する形状に配置された導電性ペーストを、印刷版からブランケットに移行させる工程と、
前記ブランケットに移行された導電性ペーストを、前記光電変換層の光入射面側に転写する工程とを備えた、光起電力装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−95663(P2007−95663A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185045(P2006−185045)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】