説明

導電性ペースト屑廃棄物からの銀とパラジウムの回収方法

【課題】 使用済みの導電性ペースト屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物から貴金属を回収する際に、その廃棄物の焼却灰を溶解した硝酸酸性溶液中に含有される銀とパラジウムを簡単な方法で選択的に回収する方法を提供する。
【解決手段】 導電性ペースト屑などの廃棄物を焼却した焼却灰を硝酸に溶解し、得られた硝酸酸性溶液に塩酸を添加して塩化銀を分離回収した後、銀回収後の溶液に塩化アンモニウムをパラジウム量に対し2モル当量以上添加すると共に、溶液に酸化剤を添加して酸化還元電位を900mV以上に調整することにより、パラジウム塩を選択的に析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀やパラジウムなどの貴金属を含有する導電性ペースト屑などから貴金属を回収する方法、更に詳しくは、導電性ペースト屑などの廃棄物を硝酸で溶解した後、その硝酸酸性溶液から銀とパラジウムを選択的に分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストには銀やパラジウムなどの貴金属が含まれているため、使用済みの導電性ペーストの屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物は貴金属のリサイクルを目的として集められ、種々の精製回収工程を経て貴金属が回収されている。
【0003】
一般的に、導電性ペースト屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物にはプラスチック製のものが含まれている。そのため、使用済みの導電性ペースト屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物は、図2に示すように、まず焼却処理を行い、その焼却灰を集めて硝酸で溶解した後、銀やパラジウムの回収処理を行っていた。
【0004】
具体的には、上記した導電性ペースト屑等の焼却灰を硝酸で溶解した硝酸酸性溶解液は、導電性ペースト屑中の銀やパラジウムなどの貴金属と鉛などが含まれているので、まず塩酸や食塩などを添加して、銀を塩化銀(AgCl)として分離回収する。次に、銀を回収した後の溶液に苛性ソーダなどを添加して中和し、パラジウムや鉛などを水酸化物として沈殿させて回収する。
【0005】
その後、回収した水酸化物を塩酸に溶解し、アンモニア水をpH8以上になるまで添加してパラジウムを溶解性のアンモニア錯体に変換する。このとき、鉛はアンモニア錯体を形成しないため、アンモニア錯体を沈殿物として濾別することができる。次に、濾液のアンモニア水溶液に塩酸を添加し、溶解度の小さいパラジウムのジクロロジアンミン錯体の塩を生成させ、濾過によりパラジウム塩を回収する。
【0006】
しかし、上記した従来の方法では、銀を回収した後の溶液に苛性ソーダなどを添加して中和すると、パラジウムや鉛などの微細な水酸化物が生成されるが、この微細な水酸化物は濾過性が非常に悪かった。そのため、この微細な水酸化物を工業的に処理するには、フィルタープレスなどの高価な設備が必要であった。また、パラジウム回収までの工程が長く、回収時間や薬品コストが高くなるという問題もあった。
【0007】
一方、特開2001−200320号公報(特許文献1)には、銀電解スライムから塩化ジアンミンパラジウムを経由してパラジウムを回収する際に、銀電解スライムを溶解して得た粗塩化ジアンミンパラジウムを精製する方法が記載されている。この精製方法によれば、粗塩化ジアンミンパラジウムをアンモニア水に溶解し、過酸化水素などの酸化剤を添加した後、塩酸を添加して精製された塩化ジアンミンパラジウムを沈殿させている。
【0008】
しかし、上記の方法は粗塩化アンミンパラジウムのアンモニア水溶液から精製された塩化ジアンミンパラジウムを回収する方法であり、また、酸性溶液からの回収方法でもない。尚、硝酸酸性溶液中でのパラジウムの挙動は詳しく知られておらず、特に鉛が共存する場合にパラジウムを選択的に且つ簡単に分離回収する方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−200320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、使用済みの導電性ペースト屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物から貴金属を回収する際に、その導電性ペースト屑などの廃棄物の焼却灰を溶解した硝酸酸性溶液から、含有される銀とパラジウムを簡単な方法で選択的に回収する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者は、パラジウムと共に鉛を含有する硝酸酸性溶液からパラジウムを選択的に回収する方法について検討した。まず、パラジウムは通常は2価の形態で溶液中に存在するため塩化アンモニウム塩の錯体を形成しないが、パラジウムの4価の塩化物は下記化学式1によりアンモニウム塩の錯体を形成することが知られている。
【0012】
[化学式1]
PdCl+2NHCl→(NHPdCl+2HCl
【0013】
上記化学式1により生成するパラジウムと塩化アンモニウムの錯体は溶解度が小さく、一方で鉛などの卑金属はアンモニウム塩の錯体を形成しないので、パラジウムを鉛などの卑金属と分離することが可能である。しかし、硝酸酸性溶液中においてパラジウムは硝酸塩として存在するため、上記化学式1をそのまま適用して、塩化アンモニウムの添加により鉛と分離することはできない。
【0014】
そこで、更に検討を重ねた結果、導電性ペースト屑などの廃棄物から貴金属を回収する際に、導電性ペースト屑などの廃棄物を焼却し、その焼却灰を溶解した硝酸酸性溶液から銀を塩化銀として沈殿分離した後、得られた溶液(濾液)に塩化アンモニウムを添加し、更に次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加して溶液の酸化還元電位を900mV以上に調整することによって、パラジウムが定量的にアンモニウム塩として沈殿する一方、鉛などの卑金属は沈殿しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、導電性ペースト屑を含む廃棄物から銀とパラジウムを回収する方法であって、該導電性ペースト廃棄物を焼却した焼却灰を硝酸に溶解し、得られた硝酸酸性溶液に塩酸を添加して塩化銀を分離回収した後、銀回収後の溶液に塩化アンモニウムをパラジウム量に対し2モル当量以上添加すると共に、酸化剤を添加して該溶液の酸化還元電位を900mV以上に調整することにより、パラジウム塩を選択的に析出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銀及びパラジウムと共に鉛を含有する使用済みの導電性ペースト屑及び導電性ペースト屑が付着した容器や器具などの廃棄物から、簡単な方法によって、銀を分離回収し、更にパラジウムを鉛と分離して選択的に析出させて効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来方法による導電性ペースト屑などの廃棄物から銀とパラジウムを回収する工程を示すフロー図である。
【図2】本発明による導電性ペースト屑などの廃棄物から銀とパラジウムを回収する工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による導電性ペースト屑などの廃棄物からの銀とパラジウムを回収する方法について、図1を参照して説明する。まず、導電性ペースト屑などの廃棄物を焼却し、その焼却灰を硝酸で溶解する。得られた硝酸酸性溶液には、導電性ペーストの主成分である銀と共に、パラジウムや鉛が含まれている。そこで、まず銀の回収工程として、上記硝酸酸性溶液に塩酸を添加することにより、硝酸酸性溶液中の銀を塩化銀として沈殿させ、濾過することにより分離回収する。
【0019】
次のパラジウムの回収工程では、上記銀回収後の溶液(濾液)に溶液中のパラジウム量に対し2モル当量以上の塩化アンモニウムを添加し、同時に又は前後して酸化剤を添加して、溶液の酸化還元電位を900mV以上に調整することにより、パラジウム塩が選択的に析出される。析出したパラジウム塩は通常の設備により容易に濾過して分離回収することができる。一方、濾液中には鉛が残るので、必要に応じて更に排水処理工程に送って処理する。
【0020】
上記パラジウムの回収工程においてパラジウムが選択的に析出する理由は明らかではないが、銀回収の際に塩酸を硝酸酸性溶液に過剰に添加する結果、銀回収後の溶液は塩酸酸性となり、パラジウムも塩化物の形態となっていると考えられる。そのため、上記した化学式1と同様の反応により、パラジウムは塩化アンモニウムと溶解度の小さいのアンモニウム塩、例えば(NHPdClのような錯体を形成して析出するものと考えられる。
【0021】
また、銀回収後の溶液に添加する塩化アンモニウムの量に関しては、溶液中に含まれているパラジウムに対して2モル当量添加すれば、パラジウムが上記化学式1と同様の反応に従って、定量的にアンモニウム塩の錯体として沈殿することが実験的に確認された。従って、塩化アンモニウムの添加量は、パラジウム量に対して少なくとも2モル当量あればよく、反応を促進するための過剰な添加はほとんど必要ないか、若しくは若干過剰に添加すれば十分である。
【0022】
銀回収後の溶液に添加する酸化剤としては、溶液の酸化還元電位を900mV以上に維持することができるものであれば特に制限はなく、例えば、次亜塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダ、塩素ガスなどの使用が好ましい。
【0023】
また、上記パラジウムを析出回収する際には、溶液の温度を30℃以下に保持することが望ましい。生成するパラジウムのアンモニウム塩との錯体の溶解度は温度によって差があり、温度が低いほど溶解度が小さくなるからである。ただし、常温でもパラジウムの回収率は99%程度以上となるため、コストをかけて極端な低温にまで冷却する必要はなく、0℃以上30℃以下の温度に保持することが好ましい。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
導電性ペースト屑などの廃棄物の焼却灰を硝酸に溶解し、得られた硝酸酸性溶液に塩酸を添加して、溶液中の銀を塩化銀として分離回収した。銀回収後の溶液(濾液)をビーカーに入れ、撹拌しながら塩化アンモニウム(NHCl)を下記表1に示す添加量で添加すると共に、次亜塩素酸ソーダ20mlを添加した。溶液の酸化還元電位(Ag−AgCl電極値)は790mVから908mVまで上昇し、溶液からパラジウム塩が析出した。
【0025】
更に30分間撹拌を続けた後、析出したパラジウム塩を濾過して回収した。パラジウム塩を濾過した後の溶液(濾液)中のパラジウムと鉛の濃度をICP分析器で測定し、パラジウム(Pd)の沈殿率と鉛(Pb)の沈殿率を算出した。得られた結果を、原液である硝酸酸性溶液の濃度、塩化アンモニウムの添加量及び溶液中のパラジウム量に対する塩化アンモニウムのモル当量と共に、下記表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
この結果から分るように、塩化アンモニウムを溶液中のパラジウム量に対して2モル当量以上添加すれば、パラジウムを99%以上の沈殿率で析出させることができる。一方、鉛の沈殿率は塩化アンモニウムの添加量が増えるに伴って微増しているが、鉛は殆ど沈殿しないため、パラジウムのみを選択的に沈殿させることができた。
【0028】
[実施例2]
導電性ペースト屑などの廃棄物の焼却灰を硝酸に溶解し、得られた硝酸酸性溶液に塩酸を添加して、溶液中の銀を塩化銀として分離回収した。銀回収後の溶液(濾液)をビーカーに入れ、撹拌しながら塩化アンモニウム(NHCl)を下記表2に示す添加量で添加すると共に、次亜塩素酸ソーダの添加量を変えて溶液の酸化還元電位(Ag−AgCl電極値)を下記表2に示す値に調整した。
【0029】
更に30分間撹拌を続けた後、析出したパラジウム塩を濾過して回収した。パラジウム塩を濾過した後の溶液(濾液)中のパラジウムと鉛の濃度をICP分析器で測定し、パラジウム(Pd)の沈殿率と鉛(Pb)の沈殿率を算出した。得られた結果を、塩化アンモニウムの添加量、溶液中のパラジウム量に対する塩化アンモニウムのモル当量、及び酸化還元電位と共に、下記表2に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
上記した結果から、溶液中のパラジウムの99%以上を沈殿させて定量的に回収するためには、溶液の酸化還元電位を900mV以上に制御することが必要であることが分る。また、塩化アンモニウムの添加量は、溶液中のパラジウム量に対して2モル当量あれば十分であり、反応を促進するための過剰な添加はほとんど必要ないことが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ペースト屑を含む廃棄物から銀とパラジウムを回収する方法であって、該導電性ペースト廃棄物を焼却した焼却灰を硝酸に溶解し、得られた硝酸酸性溶液に塩酸を添加して塩化銀を分離回収した後、銀回収後の溶液に塩化アンモニウムをパラジウム量に対し2モル当量以上添加すると共に、酸化剤を添加して該溶液の酸化還元電位を900mV以上に調整することにより、パラジウム塩を選択的に析出させることを特徴とする、導電性ペースト屑廃棄物からの銀とパラジウムの回収方法。
【請求項2】
前記パラジウム塩を選択的に析出させる際に、銀回収後の溶液の温度を0℃以上30℃以下に保持することを特徴とする、請求項1に記載の導電性ペースト屑廃棄物からの銀とパラジウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140675(P2011−140675A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−420(P2010−420)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(503404707)大口電子株式会社 (7)
【Fターム(参考)】