説明

導電性ペースト用銅粉およびその製造方法

【課題】単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉およびそのような導電性ペースト用銅粉を安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、硫酸銅、硝酸銅またはこれらの混合物の水溶液である2価の銅イオンを含む水溶液と、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸またはこれらの混合物を含む還元剤との少なくとも一方に、凝集防止剤としてポリエチレンイミンやメチルセルロースなどの水溶性ポリマーを含む反応促進剤(核剤)として平均粒子径10〜100nmのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト用銅粉およびその製造方法に関し、特に、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極や、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極を形成するための導電性ペーストに使用する銅粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの一般的な製造方法では、まず、チタン酸バリウム系セラミックなどの誘電体セラミックグリーンシートを複数枚用意し、各々のシートの上に、内部電極用の導電性ペーストを所定のパターンで印刷し、これらのシートを積み重ねて圧着することによって、誘電体セラミックグリーンシートと導電性ペースト層が交互に積層された積層体を作製する。この積層体を所定の形状の複数のチップに切断した後、高温で同時に焼成して、積層セラミックコンデンサの素体を作製する。次いで、この素体の内部電極が露出する端面に、導電性粉体、ガラス粉末および有機ビヒクルを主成分とする外部電極用の導電性ペーストを塗布し、乾燥した後、高温で焼成することによって外部電極を形成する。その後、必要に応じて外部電極にニッケルやスズなどのめっき層を電気めっきなどにより形成する。
【0003】
従来、このような積層セラミックコンデンサなどの内部電極を形成するための導電性ペーストに使用する金属材料として、パラジウム、銀−パラジウム、白金などが使用されていたが、これらは高価な貴金属であるため、コストがかかるという問題があった。そのため、近年では、ニッケルや銅などの卑金属を使用するのが主流になってきており、現在では、主にニッケル微粒子(積層セラミックコンデンサの大きさや容量などにもよるが、一般に平均粒径0.1〜0.5μmのニッケル微粒子)が使用されている。また、銅は、ニッケルと比べて、導電率が高く、融点が低いため、積層セラミックコンデンサの特性を改善し、焼成時の低温化などの生産時の省エネに寄与することが可能であり、今後の内部電極用の金属材料の有望な一つとして期待されている。
【0004】
一方、近年、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために、内部電極の薄層化が求められている。また、積層セラミックコンデンサなどの用途の拡大により、内部インダクタが小さく、高周波数特性としてGHzオーダーまで使用可能な特性を有する積層セラミックコンデンサなどが求められている。
【0005】
このような背景から、積層セラミックコンデンサなどの内部電極用の金属材料として、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子が求められている。
【0006】
現在、銅微粒子は、主に積層セラミックコンデンサなどの外部電極用の導電性ペーストに使用されており、銅微粒子の大きさは、積層セラミックコンデンサなどの大きさにもよるが、0.5〜10μm程度であり、球状、フレーク状、不定形状などの様々な形状の銅微粒子が使用されている。また、一般的な外部電極用の導電性ペーストには、上記の大きさや形状の銅微粒子が混合されて使用されている。
【0007】
このような銅微粒子の製造方法として、硫酸銅溶液をL−アルコスビン酸またはL−アスコルビン酸塩類で還元する方法(例えば、特許文献1参照)、硫酸銅溶液をD−エリソルビン酸またはD−エリソルビン酸塩類で還元する方法(例えば、特許文献2参照)、硫酸銅溶液を水素化ホウ素化合物で還元する方法(例えば、特許文献3参照)、硫酸銅溶液をヒドロキシル(−OH)基を含む芳香族化合物で還元する方法(例えば、特許文献4参照)、銅イオン、還元剤および錯化剤からなる混合水溶液に反応開始剤を添加して還元反応させた後に、銅イオン、還元剤、pH調整剤を添加して銅微粉末を製造する方法(例えば、特許文献5参照)、2価の銅イオンを有する銅塩水溶液に水酸化アルカリを混合して酸化第二銅を生成し、還元糖を加えて酸化第二銅を酸化第一銅に還元し、さらにヒドラジン系還元剤を加えて酸化第一銅を還元する方法(例えば、特許文献6参照)、硫黄系化合物と保護コロイドを存在させた溶媒液中において、酸化銅をヒドラジンなどの還元剤と反応させて銅微粒子を製造する方法(例えば、特許文献7参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−186803号公報(第1頁)
【特許文献2】特開昭63−186805号公報公報(第1頁)
【特許文献3】特開昭63−186811号公報(第1頁)
【特許文献4】特開平1−225705号公報(第1頁)
【特許文献5】特開昭63−274706号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2003−342621号公報公報(段落番号0012)
【特許文献7】特開2004−256857号公報(段落番号0006−0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、1.0〜1.8μmであり、内部電極用の銅微粒子として使用するには十分ではない。また、pHを調整した銅イオンの水溶液とpHを調整した還元剤の水溶液を用いて、銅イオンから亜酸化銅を経て銅粒子に還元させるため、粒径の制御が不安定であり、凝結(粒子同士の結合)が生じ、形状が一定にならず、粒度分布がブロードになる場合がある。
【0010】
また、特許文献2の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、0.8〜2.0μmであり、内部電極用の銅微粒子として使用するには十分ではない。また、pH調整した銅イオンの水溶液とpH調整した還元剤の水溶液を用いて、銅イオンから亜酸化銅を経て銅粒子に還元させるため、粒径の制御が不安定であり、凝結(粒子同士の結合)が生じ、形状が一定にならず、粒度分布がブロードになる場合がある。
【0011】
また、特許文献3の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、0.3〜0.7μmであり、特許文献1および2の方法で得られる銅微粒子と比べれば小さい銅微粒子を得ることができるが、この場合も内部電極用の銅微粒子として使用するには、まだ十分ではない。また、還元剤として水素化ホウ素化合物を使用するため、還元剤のpH調整時にpHが低いと、自己分解が起こり、作業性や安定性が悪くなる場合がある。一方、pHを高くすれば水素化ホウ素化合物は安定するが、その場合、銅イオンの還元反応が亜酸化銅を経て行われるので、粒径の制御が不安定であり、凝結(粒子同士の結合)が生じ、形状が一定にならず、粒度分布がブロードになる場合がある。
【0012】
また、特許文献4の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、0.7〜1.5μmであり、内部電極用の銅微粒子として使用するには十分ではない。また、還元剤としてヒドロキノンを使用しており、反応pHや反応温度などを調整しても、銅粒子をさらに微粒子化するのは困難である。また、pH調整した銅イオンの水溶液とpH調整した還元剤の水溶液を用いて、銅イオンから亜酸化銅を経て銅粒子に還元させるため、粒径の制御が不安定であり、凝結(粒子同士の結合)が生じ、形状が一定にならず、粒度分布がブロードになる場合がある。
【0013】
また、特許文献5の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、0.16〜0.61μmであり、平均粒径から判断すれば、内部電極用の銅粉として使用することができると考えられる。しかし、この方法では、還元反応を高pH領域(pH12〜13.5)で行っているので、銅イオンから水酸化銅、酸化銅、亜酸化銅を経て銅粒子に還元させるため、粒径の制御が不安定であり、凝結(粒子同士の結合)が生じ、形状が一定にならず、粒度分布がブロードになる場合がある。
【0014】
また、特許文献6の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、0.5〜4.0μmであり、内部電極用の銅微粒子として使用するには十分ではない。また、この方法の反応は、2価の銅イオンから生成した酸化第二銅を酸化第一銅に還元した後にさらに銅粒子に還元する反応であり、酸化第二銅から銅粒子への還元反応は、溶解析出型といわれる反応である。この方法をある程度粒径が大きい銅粒子の製造に用いる場合には、安定した制御を行うことができ、粒度分布をシャープすることができるが、内部電極用の銅微粒子として用いられるような微細な銅微粒子を得るのが困難であり、(連晶粒子や凝結粒子を含まない)個々に分離した微細粒子を得るのが困難である。
【0015】
さらに、特許文献7の方法で得られる銅微粒子の平均粒径は、一次粒子径が0.25〜0.5μm、二次粒子径が0.3〜0.6μmであり、平均粒径から判断すれば、内部電極用の銅粉として使用することができると考えられる。また、タップ密度が3.2〜3.4g/cmと微粒子にしては高タップ密度であり、分散性に優れているといえる。しかし、特許文献7の方法の反応は、硫黄化合物の存在下における反応であるため、銅微粒子の内部や表面に硫黄化合物が含まれる可能性がある。一般に、硫黄は電子部品の信頼性に悪影響を与える物質であるため、導電性ペースト用銅粉に含まれるのは好ましくない。
【0016】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉およびそのような導電性ペースト用銅粉を安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に、凝集防止剤を含む反応促進剤を存在させることにより、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉を安定して製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法は、2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に、凝集防止剤を含む反応促進剤を存在させることを特徴とする。この導電性ペースト用銅粉の製造方法において、反応促進剤が銅より貴な金属の粒子からなるのが好ましく、平均粒子径10〜100nmのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方からなるのがさらに好ましい。また、凝集防止剤が水溶性ポリマーであるのが好ましく、ポリエチレンイミンまたはメチルセルロースであるのがさらに好ましい。また、還元剤が、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸またはこれらの混合物であるのが好ましい。さらに、2価の銅イオンを含む水溶液が、硫酸銅、硝酸銅またはこれらの混合物の水溶液であるのが好ましい。また、還元析出した銅粒子の表面にAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物を被着させてもよく、還元析出した銅粒子の表面をAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物で被覆してもよい。
【0019】
また、本発明による導電性ペースト用銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D50)が0.1〜0.5μm、検出の最大粒径(Dmax)が1.5μm以下であり、10〜10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むことを特徴とする。この導電性ペースト用銅粉において、SEMによって観測された銅単体粒子の平均粒径(単体粒子径)に対する、レーザー回折式粒度分布測定装置によって観測された凝集粒子の50%粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が2.0以下であるのが好ましい。また、SEMによって観測された銅粒子の中で単一の略球状の銅粒子の個数の割合が90%以上であるのが好ましい。さらに、導電性ペースト用銅粉の表面にAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物を被着させてもよく、導電性ペースト用銅粉の表面をAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物で被覆してもよい。
【0020】
さらに、本発明による導電性ペーストは、導電性粉体として上記の導電性ペースト用銅粉を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態では、2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に、凝集防止剤を含む反応促進剤(核剤)を存在させる。
【0023】
本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態は、2価の銅イオンを含む水溶液を、水酸化銅、酸化銅、亜酸化銅またはこれらの混合物を経由することなく、銅粒子まで直接還元する方法である。このような反応プロセスを取ることにより、粒径および粒度分布を制御するために存在する反応促進剤が効果的に作用する。また、水酸化銅、酸化銅または亜酸化銅の中間体を経由する溶解析出型の還元反応にならないので、粒子同士の凝集、凝結および結合が抑制された高分散した銅微粒子を得ることができる。すなわち、2価の銅イオンが、反応促進剤の表面で還元されて銅微粒子になる。
【0024】
湿式反応によって銅粉を製造する従来の一般的な方法では、2価の銅イオンを中和して、水酸化銅を作製し、温度調整により脱水反応を促進させて酸化銅を作製している。また、酸化銅を糖類などの弱い還元剤で亜酸化銅まで一次還元して生成した亜酸化銅を、ヒドラジンなどの強力な還元剤で銅粒子まで二次還元する方法も知られている。この方法の二次還元反応(亜酸化銅から銅への還元)では、亜酸化銅の固体から銅イオンが析出した後、その一部が還元されて銅の微細な核が生成され、その核が成長して銅粒子になる。この場合、銅イオンが亜酸化銅から溶解する反応と、溶解した銅イオンが銅粒子に還元される反応との2種類の反応が行われる。そのため、銅の微細な核を生成する工程と、その核が成長する工程とを厳密に分離し難く、その結果、二次核が発生し、粒度分布がブロードになり、粒径を制御し難い反応になる。また、還元初期の銅イオンの供給量が少ないので(大部分の銅は反応溶液中ではなく亜酸化銅中にあるので)、多量の核を発生させ難く、微粒子を得るのが困難である。また、還元剤の添加量を多くしたり、反応温度を高くしたりすることによって、多量の核を発生させるために銅イオンの溶解量を多くすることができたとしても、同時に還元反応を促進させることにもなり、その結果、還元と溶解が同時に起こることによって、異形粒子(粒子同士が凝結または結合して歪んだ形になった粒子)が多く発生するなどの問題がある。加えて、急激な反応になるため、液噴きや突沸が起こり、反応の安全面や再現性の面からも好ましくない。
【0025】
そのため、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態では、反応促進剤が存在する反応系において、2価の銅イオンから、水酸化銅、酸化銅、亜酸化銅またはこれらの混合物を経由することなく、銅粒子まで直接還元させている。
【0026】
2価の銅イオンを使用するのは、1価の銅イオンの場合には、水溶性反応系で簡便に取り扱うことができる原料がないためである。例えば、シアン化銅(I)の場合には、(アルカリ溶液では銅への還元反応時に水酸化銅または亜酸化銅を経由し、)酸性溶液中では有毒なシアン化水素が発生するので、安全に反応するためには相応の設備が必要であり、取扱上の制約も多くなる。2価の銅イオンの供給源になる原料として、コスト、入手し易さ、取り扱いの安全性から、硫酸銅(水和物を含む)、硝酸銅(水和物を含む)またはこれらの混合物を使用するのが好ましい。
【0027】
2価の銅イオンを銅微粒子へ還元する還元剤として、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸またはこれらの混合物を使用するのが好ましい。また、還元剤は、酸性側で2価の銅イオンを銅まで還元するのが好ましい。酸性側が好ましいのは、銅のpH−電位図によれば、中性〜アルカリ性側での還元反応する場合は、2価の銅イオンの中和反応によって水酸化銅が生成するおそれがあり、また、水酸化銅が生成しなくても、亜酸化銅が生成するおそれがあるからである。また、使用する錯化剤やキレート剤などによって2価の銅イオンの各pHにおける還元電位が変化するので、pHを厳密に決定することはできないが、pH5以下、好ましくはpH4以下で2価の銅イオンを銅まで還元する還元剤を使用するのが好ましい。なお、反応pHは、低い程よいわけではない。反応pHが低いと、2価の銅イオンの溶解度が高くなり、還元を阻害するおそれがあり、生成した銅粒子の再溶出が起こるため、反応pHは1〜4であるのが好ましい。
【0028】
このような還元剤として、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸、次亜リン酸、次亜リン酸Na、水素化ホウ素化合物、ヒドラジン類などが挙げられる。しかし、本発明者らが鋭意研究した結果、ヒドラジン類は、酸性側でも2価の銅イオンを還元することができるが、酸性側では還元力が弱く、所望の粒径の銅粒子を得ることができなかった。また、次亜リン酸や次亜リン酸Naでは、異形粒子(粒子同士が凝結または結合して歪んだ形になった粒子)が生じ、所望の形状および粒径の銅粒子を得ることができなかった。さらに、水素化ホウ素化合物は、酸性側では自己分解(水の還元)が生じて取り扱いが困難であった。一方、L−アスコルビン酸やD−エリソルビン酸は、酸性側で2価の銅イオンを銅まで還元することができ、取り扱い易く、所望の銅微粒子を得ることができるので、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸またはこれらの混合物を使用するのが好ましい。
【0029】
反応促進剤として、TEMより観察された平均粒径が10〜100nmのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方を使用するのが好ましい。AgやPdの他に、Au、Pt、白金族元素なども使用することができるが、Ag粒子やPd粒子が好ましいのは、(平均粒径が10〜100nmの)微粒な反応促進剤(核剤)を得るために、還元速度が速く(貴な金属である必要があり)、その結果、少量の使用で済むので、コストがそれ程かからず、また、一般に人体および環境への影響(Hgなど)が懸念されない物質であるからである。
【0030】
得られる銅微粒子の粒子径は、反応促進剤として使用するAg粒子やPd粒子が、仕込みの銅イオンに対して何個存在するかによって決定される。反応促進剤の粒子径が100nmより大きい場合は、使用するAgやPdの割合が多くなり、コスト上不利になる。また、目的とする銅微粒子の粒径が0.1μmである場合は、それより小さいAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方を反応促進剤として使用するのが好ましい。コストおよび制御上の関係から(より多くの反応促進剤を添加すると仕込みの2価の銅イオン量および還元剤量が制約されるため)、目的とする銅粒子径に対して1/50〜1/5の大きさの反応促進剤としてのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方を使用するのが好ましい。したがって、反応促進剤として、TEMより観察された平均粒径が10〜100nmのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方を使用するのが好ましい。
【0031】
反応促進剤中に含まれる凝集防止剤は、銅粒子の凝集を防ぐためではなく、反応促進剤として生成したAg粒子やPd粒子の凝集を防ぐための凝集防止剤であり、その表面に銅が還元析出するのを阻害しないものであればよく、水溶性ポリマーを使用することができる。水溶性ポリマーの量は、生成する粒子径などにもよるが、Ag粒子やPd粒子の重量に対して1〜10倍程度であるのが好ましい。
【0032】
水溶性ポリマーとして、セルロース誘導体、ゼラチン、可溶性デンプン、デキストリン、アラビアゴム、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、アクリル酸(塩)含有ポリマー、スチレン−無水マレイン酸共重合体の水酸化ナトリウム(部分)中和物、水溶性ポリウレタンなどを使用することができる。セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらのケン化物や、カチオン化セルロースなどがある。アクリル酸(塩)含有ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸の水酸化ナトリウム部分中和物、アクリル酸ナトリウム−アクリル酸エステル共重合体などがある。水溶性ポリウレタンとしては、ポリエチレングリコールなどや、ポリイソシアネートの反応生成物などがある。これらの水溶性ポリマーのうち、ポリエチレンイミンまたはメチルセルロースを使用するのが好ましい。
【0033】
凝集防止剤を含む反応促進剤は、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に存在するのが好ましい。また、反応促進剤は、2価の銅イオンを還元する直前に、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に添加してもよいし、まず、反応促進剤を含む水溶液を作製し、この水溶液の中に2価の銅イオンを含む水溶液または還元剤を加えた溶液を用意し、この反応促進剤と2価の銅イオンおよび還元剤の一方が存在する溶液に、2価の銅イオンおよび還元剤の他方を添加することによって、還元反応を行ってもよい。この還元反応では、反応促進剤としてのAg粒子やPd粒子の個数が銅粒子の粒子径を決定する主な因子になるため、反応の自由度があり、また、反応の再現性に優れている。
【0034】
反応促進剤の作製に使用するPd原料またはAg原料は、水溶性であり、入手し易く、取り扱い易いものであればよく、例えば、硝酸Pd、硝酸Ag、硫酸Agなどが挙げられる。
【0035】
また、反応促進剤の水溶液中のAgやPdのイオン濃度は、高過ぎると、還元反応により10〜100nmのAg粒子やPd粒子を得ることが困難になり、低過ぎると、(仕込みの2価の銅イオン量や目的とする粒径にもよるが)添加する反応促進剤の量が多くなるため、0.00001〜0.01モル/Lであるのが好ましい。
【0036】
AgイオンまたはPdイオンの溶液を還元するために使用する還元剤は、なるべく強力な還元力を有するものであればよく、例えば、ヒドラジン類や水素化ホウ素化合物などが挙げられる。この還元剤の添加量は、化学量論的にAgイオンまたはPdイオンを還元することができる量以上であることが必要である。この還元剤の添加量が少ないと、十分な還元力が得られず、AgやPdの粒子径が10〜100nmの大きさにならず、一方、添加量が多過ぎると、次工程において銅に還元する際に残存する還元剤の還元力や溶液のpHなどの影響が無視できなくなる。そのため、AgイオンまたはPdイオンの仕込み濃度の状態や還元条件(銅の仕込み条件など)により一概にはいえないが、還元剤の添加量は、AgイオンまたはPdイオンに対して1〜40当量であるのが好ましい。また、反応温度は、20℃〜80℃程度であればよい。
【0037】
還元剤の添加方法は、溶液内の均一反応を実現する観点から、添加する溶液を一挙に添加するのが好ましい。具体的な添加時間は、反応溶液の攪拌方法(溶液の拡散速度)、反応スケールにより一概にはいえないが、速い程よく、例えば1分以内であるのが好ましい。また、還元の際に反応液を攪拌するのが好ましい。
【0038】
還元により得られたAg粒子やPd粒子の凝集を防ぐために、凝集防止剤としてポリエチレンイミンまたはメチルセルロースを添加するのが好ましい。凝集防止剤は、AgイオンまたはPdイオンの還元前に添加してもよいし、還元終了後に添加してもよい。
【0039】
2価の銅イオンを銅まで還元する際に添加する還元剤の量は、化学量論的に2価の銅イオンを銅まで還元することができる量以上であることが必要である。この還元剤の量が多過ぎるとコスト的に不利になるので、2価の銅イオンの原料に対して1〜10モルであるのが好ましい。
【0040】
この還元反応時の攪拌方法としては、反応液が均一に混ざるような方法であればよく、例えば、マグネットスターラーにより攪拌する方法や、羽根を備え付けた攪拌棒を反応溶液中に設置して外部モーターにより回転させることにより攪拌する方法などが挙げられる。この還元時の反応温度は、20〜100℃程度であればよく、反応の制御性から40〜80℃であるのが好ましい。
【0041】
反応促進剤としてのAg粒子やPd粒子の割合は、生成したAg粒子やPd粒子の粒径(10〜100nm)、銅イオンの仕込み量および目的とする粒径(0.1〜0.5μm)から適宜決定すればよい。
【0042】
銅への還元反応では、溶液内の均一反応を実現する観点から、添加する溶液を一挙に添加するのが好ましい。具体的な添加時間は、反応溶液の攪拌方法(溶液の拡散速度)、反応スケールにより一概にはいえないが、例えば1分以内であるのが好ましい。この還元反応では、2価の銅イオンを含む水溶液と還元剤を混合すると直ぐに反応が発生するため、長時間反応させる必要はなく、具体的には10分以内でよい。
【0043】
このようにして得られた銅粉含有スラリーをろ過し、水洗することによって、塊状の銅ケーキが得られる。ろ過および水洗の方法としては、フィルタープレスなどにより粉体を固定した状態で水洗する方法や、スラリーをデカントし、その上澄み液を除去した後に純水を加えて攪拌し、その後、再びデカントして上澄み液を除去する操作を繰り返し行う方法や、ろ過後の銅粉をリパルプした後に再度ろ過する操作を繰り返し行う方法などのいずれでもよいが、銅粉体中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することができる方法が好ましく、これにより、乾燥処理中の凝集を防止する効果や、銅粉の表面に存在する官能基の活性度合いが高まることにより脂肪酸を表面処理した際の脂肪酸や表面処理剤などの銅粉への付着率が高まる効果があると考えられる。その後、脂肪酸やベンゾトリアゾール(BTA)などの防錆効果ある物質を低級アルコールなどに溶解し、水洗した銅ケーキに通液またはリパルプさせることにより、その物質で被覆してもよいし、また、銅ケーキの乾燥を早めるために、銅ケーキ中の水分を低級アルコールにより置換してもよい。また、得られた銅ケーキを、酸化させない雰囲気において乾燥(窒素雰囲気中の乾燥や真空乾燥)することによって銅微粒子を得ることができる。また、必要に応じて、乾式解砕処理、篩分け、風力分級などの処理を行ってもよい。
【0044】
なお、2価の銅イオンを含む水溶液に、2価の銅イオンと錯体やキレートを形成する物質や、銅微粒子の凝集を抑制する分散剤を添加してもよい(但し、これらの添加により還元反応時に水酸化銅や亜酸化銅を経由するようなpH領域にならないようにする必要がある)。例えば、クエン酸や酢酸などのカルボキシル基を有する物質、グリシンやアラニンなどのアミノ基とカルボキシル基を有する物質、ポリエチレンイミンなどのキレート剤、アラビアゴムやゼラチンなどの分散剤などを添加してもよい。
【0045】
また、作製した銅粉を積層セラミックコンデンサの内部電極に使用する場合に、誘電体グリーンシートとともに焼成する際の銅粉の熱収縮挙動(焼結挙動)を変化させるために、誘電体に使用される金属化合物と同じ種類の金属を含む化合物(例えば、チタン酸バリウム、チタニア、アルミナ、シリカなど)を銅粉の表面に被着させてもよい(またはその化合物で銅粉の表面を被覆してもよい)。このような処理によって、銅粉を積層セラミックコンデンサの内部電極に使用する場合に、誘電体と銅粉の焼結挙動を合わせることが可能になり、その結果、誘電体と電極との剥離(デラミネーション)の発生による不良を防止することができる。
【0046】
銅粉の表面に被着させる方法(または銅粉の表面を被覆する方法)は、生成した銅粒子を凝集させない方法であればよい。例えば、作製した銅粉をアルコール中に分散させた溶液に(誘電体材料を含む物質である)金属アルコキシドを加えて加水分解した後にろ過して乾燥する方法、銅粉と(誘電体材料を含む物質である)金属アルコキシド溶液とを混合する方法、誘電体として使用する物質(銅粉の粒子径と同じか、それ以下の粒子径のもの)と銅粉を乾式または湿式により混合する方法などがある。また、その被着量または被覆量は、内部電極の導電性を劣化させず且つ収縮挙動に効果がある量であればよく、例えば、銅粒子に対して0.1〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0047】
上述した本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いものであり、積層セラミックコンデンサの内部電極の導電性ペースト用や外部電極の導電性ペースト用の銅粉として適した銅粉であり、この導電性ペースト用銅粉を用いて、公知の方法により導電性ペーストを製造することができる。このようにして製造した導電性ペーストは、電気的特性への悪影響を回避しながら電極の薄膜化を可能にし、積層セラミックコンデンサの内部電極用や外部電極用の導電性ペーストとして使用することができる。
【0048】
また、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D50)が0.1〜0.5μm、検出の最大粒径(Dmax)が1.5μm以下であり、10〜10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含む。レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D50)が0.1〜0.5μmであれば、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために必要な内部電極の薄層化(近年では層の厚さ1.5μm以下)を実現することができる。また、検出の最大粒径(Dmax)が1.5μm以下であれば、内部電極と誘電体セラミックグリーンシートを積層させた際に、内部電極の薄層における粗粒の存在により誘電体層を突き破って絶縁不良を引き起こすおそれがない。さらに、10〜10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むのは、上記の粒径の銅微粒子を得るために必要な反応促進剤に含まれるためである。10ppm未満では、上記の粒径の銅微粒子を得る上で困難になり、10000ppmより多いと、コスト高になり、品質に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0049】
また、上述した検出の最大粒径(Dmax)の存在と同様に、凝集粒子の存在も上記の内部電極の形成に悪影響を及ぼす。そのため、導電性ペースト用銅粉は、一次粒子(単体粒子)だけが個々に存在している形態であるのが好ましい。具体的には、電界放出形走査電子顕微鏡(SEM)によって観測される単体粒子(一次粒子)の平均粒径(単体粒子径)に対して、レーザー回折式粒度分布測定装置によって観測される凝集粒子(二次粒子)の50%粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が2.0以下であるのが好ましい。
【0050】
さらに、上述した検出の最大粒径(Dmax)の存在と同様に、結合または凝結粒子(連晶粒子)の存在も内部電極の形成に悪影響(粗大粒子の原因や電極形成時の膜密度の低下(粉体特性のTAP密度の低下))を及ぼす。なお、本明細書中において「凝集粒子」とは、静電気引力などの作用により物理的に単一の粒子が数個〜数十個集まって形成された一つの大きな粒子(還元反応後に生成された粒子)をいい、「結合または凝結粒子(連晶粒子)」とは、銅イオンの還元反応により略球状の粒子の表面に銅粒子が成長して歪んだ形状の粒子をいう。凝集粒子は、比較的弱い力により単一粒子(一次粒子)まで解砕して分散させることができるが、結合または凝結粒子(連晶粒子)は、強力な外力を加えないと解砕する(剥がす)ことができず、解砕することができたとしても、剥がれた部分の面が露出することによって、粒子の表面特性が元からある表面特性と異なり、導電性ペーストに使用した際の悪影響や、解砕作業やペースト混錬作業において良好に分散させることができず、粒子の付着が生じ(結合または凝結粒子が一つの粗大粒子になり)、さらに粗大な粒子になる可能性がある。そのため、SEMによって観測される銅粒子の中で単一の略球状の銅粒子の個数の割合が90%以上であるのが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明による導電性ペースト用銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0052】
[実施例1]
まず、5Lの反応槽内に純水3410gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を200rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を25℃に調整した。次に、硝酸パラジウム(II)(和光純薬工業株式会社製)0.0922gを純水250gに溶解した溶液を反応槽内に入れ、2分間攪拌して均一に混合した。次に、還元剤として0.1%ヒドラジン水和物溶液(大塚化学株式会社製の80%ヒドラジン水和物を純水により希釈した溶液)100gを反応槽内の溶液に一挙に添加して還元反応を行った。次に、凝集防止剤としてポリエチレンイミン(PEI)(和光純薬工業株式会社製、平均分子量10000)0.4256gを純水210gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に添加し、10分間攪拌して反応促進剤の溶液を得た。得られた溶液中の反応促進剤は、透き通った薄い黒色で、この溶液を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径25nmの粒子であった。
【0053】
また、2Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)33.0gを添加して溶解させて、還元剤溶液を得た。この還元剤溶液に上記の反応促進剤447gを計量して添加した後、1分間攪拌して均一になるように混合した。
【0054】
また、5Lの反応槽内に純水3000gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を290rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を60℃に調整しながら、硫酸銅5水和物(小名浜製錬株式会社製)37.5gを添加して溶解させて、2価の銅イオンを含む水溶液を得た。
【0055】
次に、この2価の銅イオンを含む水溶液が入っている反応槽の上部から、上記の反応促進剤を添加した還元剤溶液を一挙に添加して還元反応を行った。この還元剤溶液を添加した直後に銅粒子が発生したのが確認された。なお、添加した反応促進剤中のPd量はCuに対して約500ppmである。反応槽内の溶液を連続して攪拌し、その状態のまま5分間熟成させた後、攪拌を止め、洗浄し、乾燥させて、銅微粒子を得た。
【0056】
[実施例2]
反応促進剤を還元剤溶液に添加せずに2価の銅イオンを含む水溶液に添加した後、この反応促進剤が添加された2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤溶液を添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0057】
[実施例3]
還元剤としてL−アスコルビン酸の代わりにD−エリソルビン酸(和光純薬工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0058】
[実施例4]
2価の銅イオンの原料として硫酸銅5水和物の代わりに硝酸銅(II)3水和物(片山化学工業株式会社製)36.2gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0059】
[実施例5]
還元剤溶液および2価の銅イオンを含む水溶液を作製する際の温度をそれぞれ80℃にした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0060】
[実施例6]
還元剤溶液および2価の銅イオンを含む水溶液を作製する際の温度をそれぞれ40℃のした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0061】
[実施例7]
2価の銅イオンを含む水溶液に、さらにポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、平均分子量10000)を銅の仕込み量に対して1質量%になるように添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0062】
[実施例8]
2価の銅イオンを含む水溶液に、さらにグリシン(関東化学株式会社製)0.125モルを添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0063】
[実施例9]
2価の銅イオンを含む水溶液に、さらにアラビアゴム(和光純薬工業株式会社製)を銅の仕込み量に対して5質量%になるように添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0064】
[実施例10]
反応促進剤の溶液を作製する際に硝酸パラジウムと凝集防止剤としてのポリエチレンイミンを同時に添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。なお、本実施例で得られた反応促進剤は、実施例1と比べて薄い色であり、この反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径20nmの粒子であった。
【0065】
[実施例11]
反応促進剤の溶液を作製する際に硝酸パラジウムと還元剤(ヒドラジン水和物溶液)と凝集防止剤(ポリエチレンイミン)の量を8倍にし、反応促進剤が添加された還元剤溶液を作製する際に還元剤溶液に反応促進剤55.9gを計量して添加(添加した反応促進剤中のPd量がCuに対して約500ppmになるように)した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。なお、本実施例で得られた反応促進剤は、実施例1と比べて濃いグレーの溶液であり、この反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径28nmの粒子であった。
【0066】
[実施例12]
2価の銅イオンを含む水溶液を作製する際に硫酸銅5水和物(小名浜製錬株式会社製)の添加量を187.3gにし、還元剤溶液を作製する際にL−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)の添加量を165.1gにし、還元剤溶液に添加した反応促進剤の量を277.4gにした以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。
【0067】
[実施例13]
反応促進剤を添加した還元剤溶液を2価の銅イオンを含む水溶液に添加する代わりに、反応促進剤を添加した還元剤溶液に2価の銅イオンを含む水溶液を添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅微粒子を得た。すなわち、5Lの反応槽内に純水3000gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を290rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を60℃に調整しながら、L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)33.0gを添加して溶解させて、還元剤溶液を得た。また、2Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、硫酸銅5水和物(小名浜製錬社製)37.5gを添加して溶解させて、2価の銅イオンを含む水溶液を得た。
【0068】
[実施例14]
まず、反応槽内に純水1900gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を200rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を25℃に調整した。次に、硝酸銀(関東化学株式会社製)0.34gを純水250gに溶解した溶液を反応槽内に入れ、2分間攪拌して均一に混合した。次に、還元剤として0.1%ヒドラジン水和物溶液(大塚化学株式会社製の80%ヒドラジン水和物を純水により希釈した溶液)625gを反応槽内の溶液に一挙に添加して還元反応を行った。次に、凝集防止剤としてポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、平均分子量10000)2.16gを純水1080gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に添加し、10分間攪拌して反応促進剤溶液を得た。得られた反応促進剤をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径60nmの粒子であった。
【0069】
また、1Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)33.0gを添加して溶解させて、還元剤溶液を得た。この還元剤溶液に上記の反応促進剤875gを計量して添加した後、1分間攪拌して均一になるように混合した。
【0070】
また、5Lの反応槽内に純水2500gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を290rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を60℃に調整しながら、硫酸銅5水和物(小名浜製錬株式会社製)37.5gを添加して溶解させて、2価の銅イオンを含む水溶液を得た。
【0071】
次に、この2価の銅イオンを含む水溶液が入っている反応槽の上部から、上記の反応促進剤を添加した還元剤溶液を一挙に添加して還元反応を行った。この還元剤溶液を添加した直後に銅粒子が発生したのが確認された。なお、添加した反応促進剤中のAg量はCuに対して約5000ppmである。反応槽内の溶液を連続して攪拌し、その状態のまま5分間熟成させた後、攪拌を止め、洗浄し、乾燥させて、銅微粒子を得た。
【0072】
[実施例15]
まず、反応槽内に純水1900gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を200rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を25℃に調整した。次に、硝酸銀(関東化学株式会社製)0.34gを純水250gに溶解した溶液を反応槽内に入れ、2分間攪拌して均一に混合した。次に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.475gを純水625gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に一挙に添加して還元反応を行った。次に、凝集防止剤としてポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、平均分子量10000)2.16gを純水1080gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に添加し、10分間攪拌して、反応促進剤溶液を得た。得られた反応促進剤をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径50nmの粒子であった。
【0073】
また、1Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、硫酸銅5水和物(小名浜製錬株式会社製)12.5gを添加して溶解させて、2価の銅イオンを含む水溶液を得た。
【0074】
また、5Lの反応槽内に純水1250gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を200rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を60℃に調整しながら、還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)99.0gを添加して溶解させて、還元剤溶液を得た。この還元剤溶液に上記の反応促進剤2095gを計量して添加した後、1分間攪拌して均一になるように混合した。
【0075】
次に、この反応促進剤が添加された還元剤溶液が入っている反応槽の上部から、上記の2価の銅イオンを含む水溶液を一挙に添加して還元反応を行った。この反応促進剤を添加した還元剤溶液を添加した直後に銅粒子が発生したのが確認された。なお、添加した反応促進剤中のAg量はCuに対して約4000ppmである。反応槽内の溶液を連続して攪拌し、その状態のまま5分間熟成させた後、攪拌を止め、洗浄し、乾燥させて、銅微粒子を得た。
【0076】
[実施例16]
まず、5Lの反応槽内に純水2560gを入れ、反応槽の上部から5L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転速度を200rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を25℃に調整した。次に、硝酸銀(関東化学株式会社製)0.216gを純水100gに溶解した溶液を反応槽内に入れ、2分間攪拌して均一に混合した。次に、還元剤として80%ヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)0.498gを純水100gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に一挙に添加して還元反応を行った。次に、凝集防止剤としてポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、平均分子量10000)1.373gを純水500gに溶解した溶液を反応槽内の溶液に添加し、10分間攪拌して、反応促進剤の溶液を得た。得られた反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径55nmの粒子であった。
【0077】
また、1Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)118.9gを添加して溶解させて、還元剤溶液を得た。
【0078】
また、1Lビーカーに純水600gを入れ、純水の温度を60℃に調整しながら、硫酸銅5水和物(小名浜製錬株式会社製)134.8gを添加して溶解させて、2価の銅イオンを含む水溶液を得た。
【0079】
次に、上記の反応促進剤の溶液が入っている5Lの反応槽内の攪拌棒の回転速度を290rpmに調整し、反応槽内の純水の温度を60℃に調整しながら、上記の還元剤溶液を添加して、5分間攪拌して均一になるように混合した後、上記の2価の銅イオンを含む水溶液を一挙に添加して還元反応を行った。この2価の銅イオンを含む水溶液を添加した直後に銅粒子が発生したのが確認された。なお、添加した反応促進剤中のAg量はCuに対して約4000ppmである。その後、反応槽内の溶液を連続して攪拌し、その状態のまま5分間熟成させた後、攪拌を止め、洗浄し、乾燥させて、銅微粒子を得た。
【0080】
[実施例17]
反応促進剤を作製する際の温度を40℃にした以外は、実施例16と同様の方法により、銅微粒子を得た。なお、得られた反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径55nmの粒子であった。
【0081】
[実施例18]
反応促進剤を作製する際に添加するポリエチレンイミンの量を0.137gとし、還元剤としてエリソルビン酸を使用した以外は、実施例16と同様の方法により、銅微粒子を得た。なお、得られた反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径70nmの粒子であった。
【0082】
[実施例19]
反応促進剤を作製する際に凝集防止剤としてポリエチレンイミンの代わりにメチルセルロース(和光純薬工業株式会社製のメチルセルロース4000)1.373gを使用した以外は、実施例16と同様の方法により、銅微粒子を得た。なお、得られた反応促進剤の溶液をTEMで観察したところ、溶液中の反応促進剤は平均粒径45nmの粒子であった。
【0083】
[実施例20]
実施例16で得られた銅粒子10gとイソプロピルアルコール100gとを200mLビーカー中で十分に攪拌して混合した溶液に、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製のS−75P)0.666gを添加して、1時間攪拌した後、攪拌を継続しながら純水5gを10分間で添加した。純水の添加が終了した後、さらに1時間攪拌し、その後、ろ過、乾燥して、誘電体に使用される金属化合物としてAl化合物が被着した銅粉(またはAl化合物で被覆された銅粉)を得た。
【0084】
[実施例21]
実施例16で得られた銅粒子10gとイソプロピルアルコール100gとを200mLビーカー中で十分に攪拌して混合した溶液に、チタニウムエチルアセトアセテート(三菱ガス化学株式会社製のTEAA)0.5gを添加して、1時間攪拌した後、攪拌を継続しながら純水5gを10分間で添加した。純水の添加が終了した後、さらに1時間攪拌し、ろ過、乾燥して、誘電体に使用される金属化合物としてTi化合物が被着した銅粉(またはTi化合物で被覆された銅粉)を得た。
【0085】
[実施例22]
実施例16で得られた銅粒子10gとイソプロピルアルコール100gとを200mLビーカー中で十分に攪拌して混合した溶液に、チタン(IV)テトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)0.64gとバリウムメトキシド溶液(金属バリウムをメタノールに溶かしてBa濃度0.00075モル/gに調整した溶液)2.9gの混合溶液を添加して、1時間攪拌した後、攪拌を継続しながら純水5gを10分間で添加した。純水の添加が終了した後、さらに1時間攪拌し、ろ過、乾燥して、誘電体に使用される金属化合物としてBa−Ti化合物が被着した銅粉(またはBa−Ti化合物で被覆された銅粉)を得た。
【0086】
[実施例23]
実施例16で得られた銅粒子10gとイソプロピルアルコール100gとを200mLビーカー中で十分に攪拌して混合した溶液に、テトラエトキシシラン(コルコート株式会社製のエチルシリケート28)0.62gを添加して、5分間攪拌した後、28%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)1.3gを45分間で添加した。アンモニア水の添加が終了した後、さらに1時間攪拌し、ろ過、乾燥して、誘電体に使用される金属化合物としてSi化合物が被着した銅粉(またはてSi化合物で被覆された銅粉)を得た。
【0087】
[比較例1]
反応促進剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行った。この比較例では、銅までの還元が5分間で終了しなかったので、反応を中止した。
【0088】
[比較例2]
反応促進剤を添加せず、L−アスコルビン酸の量を264gにした以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行った。この比較例では、5分間の熟成で銅まで還元することができたが、実施例1と比べて銅への還元に時間がかかった。
【0089】
[比較例3]
反応促進剤として硝酸パラジウム(II)0.010gを還元剤溶液ではなく2価の銅イオンを含む水溶液に溶解させた以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、添加した反応促進剤中のPd量はCuに対して約500ppmである。
【0090】
[比較例4]
反応促進剤として硝酸銀0.075gを2価の銅イオンを含む水溶液に溶解させた以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、添加した反応促進剤中のAg量はCuに対して約5000ppmである。
【0091】
[比較例5]
保護剤としてのヘプタン酸の存在下で硝酸銀をヒドラジンで還元することによって作製したナノAg粒子を反応促進剤として使用し、この反応促進剤を界面活性剤とともに水に分散させて使用した以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、添加した反応促進剤中のAg量はCuに対して500ppmである。また、使用したAg粒子をTEM観察したところ、平均粒径23nmであった。
【0092】
[比較例6]
反応促進剤を作製する際に凝集防止剤としてポリエチレンイミンを添加しなかった以外は、実施例16と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。この比較例では、還元反応により反応促進剤(Ag粒子)を得た後に攪拌を継続することにより、生成したAg粒子が凝集していくのを目視により確認することができた。
【0093】
[比較例7]
還元剤溶液に水酸化ナトリウム溶液(50%)を添加してpHを7に調整した以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、還元剤溶液を2価の銅イオンを含む水溶液(硫酸銅溶液)添加したときに、硫酸銅溶液がオレンジ色に変化したため、亜酸化銅が生成していたと予想される。また、銅までの還元が遅かったため、反応時間(熟成時間)を実施例1よりも5分長くして10分間とした。
【0094】
[比較例8]
硫酸銅を水酸化ナトリウムで中和して得られた水酸化銅溶液にブドウ糖を添加して作製した亜酸化銅をろ過し、洗浄し、乾燥し、10.73gを計量して、純水3410gに再分散させて作製した亜酸化銅溶液を2価の銅イオンを含む水溶液の代わりに使用し、2Lビーカーに入れた純水600gに還元剤としてヒドラジン水和物5.85gを添加して均一に混合させた還元剤溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、銅までの還元が終了までに7時間程度かかった。
【0095】
[比較例9]
2Lビーカーに入れた純水600gに還元剤としてヒドラジン水和物23.5gを添加して均一に混合させた還元剤溶液を使用した以外は、比較例8と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。なお、この比較例では、銅までの還元が終了までに3時間程度かかった。
【0096】
[比較例10]
L−アスコルビン酸の代わりに50%次亜リン酸溶液(和光純薬工業株式会社製)39.6gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行って、銅粒子を得た。
【0097】
[比較例11]
硫酸銅5水和物の代わりに硝酸銅3水和物36.2gを使用し、L−アスコルビン酸の代わりに次亜リン酸ナトリウム1水和物(和光純薬工業株式会社製)38.4gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行った。この比較例では、銅までの還元が進まなかったため、20分間攪拌を継続したが、それでも還元反応が起こらなかったので中止した。
【0098】
[比較例12]
還元剤溶液および2価の銅イオンを含む水溶液を作製する際の温度をそれぞれ80℃にした以外は、比較例11と同様の方法により、2価の銅イオンの還元反応を行った。この比較例では、5分間では銅までの還元が進まなかったため、攪拌を継続したところ、還元剤溶液の投入から約15分後に急激な反応が起こり、銅粒子を得ることができた。
【0099】
[比較例13]
L−アスコルビン酸の還元剤溶液の代わりに、ヒドラジン水和物11.8gを純水600gに溶解した溶液を希硫酸でpH3に調整した還元剤溶液を使用し、反応促進剤を還元剤溶液ではなく2価の銅イオンを含む水溶液に添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅粒子を得た。この比較例では、銅までの還元時間は、実施例1ほど速くはないが、5分以内に銅まで還元することができた。
【0100】
[比較例14]
L−アスコルビン酸の還元剤溶液の代わりに、水素化ホウ素ナトリウム3.6gを純水600gに溶解した溶液を希硫酸でpH3.5に調整した還元剤溶液を使用し、反応促進剤を還元剤溶液ではなく2価の銅イオンを含む水溶液に添加した以外は、実施例1と同様の方法により、銅粒子を得た。なお、希硫酸を添加した際にかなり激しい発泡が起こった。この比較例では、還元剤溶液を添加した直後から、色などの変化が見られなかったため、5分後に上記の還元剤溶液と同量の還元剤溶液(pH調整した溶液)を添加することによって、銅まで還元することができた。また、熟成時間は、初めの還元剤溶液の添加から10分間であった。
【0101】
また、実施例および比較例で得られた銅粉の粒度分布、50%粒径(D50)、Dmin(検出の最小粒径)およびDmax(検出の最大粒径)を、レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製のLS−230)を用いて測定した。これらの結果を表1〜表4に示す。なお、測定試料として、実施例および比較例で得られた銅粉と2−プロパノールをビーカーに入れて超音波分散槽などにより十分に分散させた液を使用した。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
また、実施例および比較例で得られた銅粉の粒子形状および平均粒径を電界放出形走査電子顕微鏡(SEM)(日立製作所製のS−4700形)により評価した。なお、SEMによって観測した銅単体粒子の平均粒径(単体粒子径)は、粒子50個のフェレ径の平均値から算出した。また、5万倍の撮影視野を用いて粒子径を算出したが、50個の粒子数を測定できない場合には倍率を下げて撮影した視野を用いて粒子径を算出した。また、SEMによって測定された銅単体粒子の平均粒径に対する、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D50)の比を算出した。さらに、SEMによって観測した50個の銅粒子から単一の略球状の銅粒子(凝結または結合している連晶粒子)の個数および割合を求めた。この結果を表5および表6に示す。
【0107】
また、銅粒子中のAgまたはPdの含有量をICP(日本ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/IRIS−AP)により測定した。この結果を表5および表6に示す。なお、実施例20〜22において、銅粒子に被着(または銅粒子を被覆)しているAl、Ti、Baの量を同様にICPにより測定したところ、実施例20ではAlが0.47質量%、実施例21ではTiが0.52質量%、実施例22ではTiが1.01質量%、Baが2.86質量%であった。また、実施例23において、銅粒子に被着(または銅粒子を被覆)しているSiの量をJIS H1061に準拠して測定したところ、0.72質量%であった。
【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【0110】
表5および表6の結果から、実施例のように、2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、2価の銅イオンを含む水溶液および還元剤の少なくとも一方に、凝集防止剤を含む反応促進剤を存在させることにより、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子を安定して製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明による導電性ペースト用銅粉は、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極や、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極を形成するための導電性ペーストに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の銅イオンを含む水溶液に還元剤を添加して銅粒子を還元析出させる銅粉の製造方法において、前記2価の銅イオンを含む水溶液および前記還元剤の少なくとも一方に、凝集防止剤を含む反応促進剤を存在させることを特徴とする、導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記反応促進剤が銅より貴な金属の粒子からなることを特徴とする、請求項1に記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記反応促進剤が平均粒子径10〜100nmのAg粒子およびPd粒子の少なくとも一方からなることを特徴とする、請求項1に記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項4】
前記凝集防止剤が水溶性ポリマーであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項5】
前記凝集防止剤がポリエチレンイミンまたはメチルセルロースであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤が、L−アスコルビン酸、D−エリソルビン酸またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項7】
前記2価の銅イオンを含む水溶液が、硫酸銅、硝酸銅またはこれらの混合物の水溶液であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項8】
前記還元析出した銅粒子の表面に、Al、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物を被着させることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項9】
前記還元析出した銅粒子の表面を、Al、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物で被覆することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉の製造方法。
【請求項10】
レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D50)が0.1〜0.5μm、検出の最大粒径(Dmax)が1.5μm以下であり、10〜10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むことを特徴とする、導電性ペースト用銅粉。
【請求項11】
SEMによって観測された銅単体粒子の平均粒径(単体粒子径)に対する、レーザー回折式粒度分布測定装置によって観測された凝集粒子の50%粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が2.0以下であることを特徴とする、請求項10に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項12】
SEMによって観測された銅粒子の中で単一の略球状の銅粒子の個数の割合が90%以上であることを特徴とする、請求項10または11に記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項13】
前記導電性ペースト用銅粉の表面に、Al、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物が被着していることを特徴とする、請求項10乃至12のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項14】
前記導電性ペースト用銅粉の表面が、Al、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物で被覆されていることを特徴とする、請求項10乃至12のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉。
【請求項15】
導電性粉体として請求項10乃至14のいずれかに記載の導電性ペースト用銅粉を含むことを特徴とする、導電性ペースト。

【公開番号】特開2010−18880(P2010−18880A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4661(P2009−4661)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】