説明

導電性ペースト組成物

【課題】特に高価な材料または技術を必要とせず、通常の混合技術を用いることにより、低温で硬化することができ、低い抵抗率を持つことができる、導電性ペースト組成物を提供すること。
【解決手段】平均粒径1μm以下の導電性粉末と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンを含むコポリマーバインダーとを溶媒に分散させたことを特徴とする導電性ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペースト組成物に関する。より詳細には、本発明は、200℃以下の低温で硬化することができ、抵抗率が10-5Ω・cm未満の導電性塗膜を形成することができる導電性ペースト組成物に関する。この組成物は、プラスチックなどの耐熱性の低い基板に使用することができ、得られる塗膜の抵抗率が低いので薄い導電性配線の形成に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、200℃以下で乾燥および硬化することができる導電性組成物は、例えば、導電性粉末を、ポリエステル樹脂およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂およびウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂と混ぜ、次いでこの生成物を適切な溶媒と混ぜることによって得ることが多い。
【0003】
しかしながら、導電性粉末を一般の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と混ぜることによって得られるペースト組成物では、この組成物を乾燥および硬化して得られる膜の抵抗率は十分に低くなく、通常10-5Ω・cm以上である。膜の抵抗率の上昇には問題があり、特にこれらのペースト組成物から薄い導電性配線を形成するときに問題を生じる。さらに、こうしたペーストを乾燥および硬化することによって得られる膜ははんだ付性が良くないことが知られている。はんだ付性を改良するために、銀被覆粉末、銀−銅合金粉末、および傾斜材料粉末(graded material powders)などの特定の導電性粉末を使用することが提案されている(特許文献1から3を参照)。
【0004】
抵抗率がさらに低い膜を得るためには、焼付け型の導電性ペースト組成物が一般に使用される。焼付け型導電性ペースト組成物は、一般に導電性粉末、ガラスフリット、および分散剤を含有する組成物である。焼付け型導電性ペースト組成物は抵抗率が約10-6Ω・cmの膜を生成するが、このレベルの抵抗率を得るには、少なくとも500℃以上の温度で焼付けを行う必要がある。
【0005】
最近、より微細な導電性粉末(ナノサイズに至るまでの)を使用することにより約200℃の温度で焼付けを行うことが可能になり、抵抗率が約10-6Ω・cmの塗膜を形成することができる焼付け型導電性ペースト組成物が提案されている(特許文献4参照)。 より微細な酸化銀粉末と第三級脂肪酸銀塩(ナノサイズに至るまでの)とを混ぜることによって得られ、且つ抵抗が低い膜を低温で形成することが可能な導電性ペースト組成物の使用も提案されている(特許文献5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平07−014429号公報
【特許文献2】特開平06−215617号公報
【特許文献3】特開平06−052721号公報
【特許文献4】特開2002−299833号公報
【特許文献5】特開2003−203622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼付け型導電性ペースト組成物の高い焼付け温度は、耐熱性が低い基板に適用することができない点で限界がある。一方、ナノサイズの導電性粉末を使用するすべての方法(特許文献4および5)は、通常の導電性粉末と有機樹脂バインダーとを混ぜて導電性ペースト組成物を得る方法と比べて費用がかかり、今のところまだ実用的な価値が高いとみなすことはできない。
【0008】
したがって、特に費用のかかる材料または技術を必要とせず、通常の混合技術を用いることによって、低温で硬化し、且つより低い抵抗率を得ることができる導電性ペースト組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題に対処することを目的として、本発明の導電性ペースト組成物は、平均粒径1μm以下の導電性粉末と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンからなるコポリマーバインダーとを溶媒に分散させることを特徴とする。本発明はまた、この組成物を200℃以下の温度で乾燥することによって形成した導電性塗膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性ペースト組成物は、200℃以下の温度で硬化することができ、10-5Ω・cmの抵抗率と高度の微細度を有する導電性塗膜を形成することができる。こうして得られた導電性塗膜ははんだ付性に優れている。さらに、本発明の導電性ペースト組成物は、費用のかかる材料または特別な技術を使用しないで調製することができ、したがって実用的な価値が高い。
【0011】
本発明の導電性ペースト組成物は、スクリーン印刷することができ、可撓性基板を含むプリント基板上に配線などを形成するのに特に好適である。
【0012】
本発明の導電性ペースト組成物は、平均粒径1μm以下の導電性粉末と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンからなるコポリマーバインダーとを溶媒に分散させる方法によって形成される。
【0013】
導電性粉末は、銀粉末、銀で被覆された粉末状の導電性/絶縁性材料、粉末状の銀合金などとすることができる。本発明による導電性ペースト組成物の平均粒径は、1μm以下であり、好ましくは0.01μmから1μm、理想的には0.1から1μmである。導電性粉末の少なくとも80質量%は、粒径が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μmから1μm、理想的には0.1から1μmである。導電性粉末は、球形状、回転楕円形状、または多面形状とすることができる。
【0014】
本発明において使用することができるバインダーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、およびフッ化ビニリデン(VdF)の共重合によって形成されるコポリマーである。本発明で使用するコポリマーの融点は、好ましくは200℃未満であることが望ましく、好ましくは100から195℃、より好ましくは110から150℃である(ASTM D4591)。このコポリマーのメルトフローインデックスは、好ましくは10g/10分以上であることが望ましく、好ましくは15g/10分以上、より好ましくは20g/10分以上である(ASTM D1238、265℃、重量:5kg)。融点およびメルトフローインデックスがこのような範囲であると、バインダーを有機溶剤に溶解するのに有利である。さらに、下記の有機溶媒へのバインダーの溶解度は、好ましくは10質量%以上(固形分)であることが望ましく、より好ましくは20質量%以上(固形分)である。
【0015】
本発明で使用する有機溶媒の具体例としては、シクロヘキサノン、その誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤;およびテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤などが挙げられる。本発明で使用する溶媒は、バインダーの溶解度、得られるペースト組成物の粘度、沸点(保管時は蒸発が抑えられ、乾燥時は蒸発が促進される溶媒が好ましい)などを考慮して選択することができる。本発明の好ましい溶媒はトリメチルシクロヘキサノン(沸点:189℃)である。
【0016】
本発明の導電性ペースト組成物は、導電性粉末とバインダーを溶媒に分散させることによって調製される。初めにバインダーを溶媒に溶解してバインダー溶液を調製し、次いで導電性粉末をこのバインダー溶液に分散させることができる。分散は、ロールミル(例えば、3本ロールミルなど)、ボールミルなどの通常の分散装置を用いて行うことができる。得られた導電性ペースト組成物において、導電性粉末/バインダーの重量比は、好ましくは90:10以上、より好ましくは92:8以上、理想的には94:6以上である。この比をこの範囲に保つことによって、導電性ペースト組成物を乾燥して得られる塗膜の抵抗率を、所望のレベルに保持することができる。導電性ペースト組成物の粘度は、25℃で、50から500Pa・s以下、好ましくは100から300Pa・sであることがさらに好ましい(JIS K5400)。粘度をこの範囲に保持することによって、より容易に導電性ペースト組成物をスクリーン印刷し、微細なパターンを形成することが可能である。
【0017】
こうして得られた導電性ペースト組成物を基板に付着させ、この組成物を200℃以下、好ましくは150から200℃で乾燥することによって導電性塗膜を得ることができる。導電性ペーストは、通常の技術、好ましくはスクリーン印刷で塗布することができる。導電性ペーストを付着させる基板は、ガラス、半導体(シリコン)などの耐熱性の高い高抵抗基板、または耐熱性の低いプラスチック基板(普通のプリント板、可撓性プリント板など)とすることができる。堆積したペースト組成物は、溶媒が確実に完全に蒸発する時間、通常2時間以内乾燥することができる。
【0018】
得られた導電性塗膜の抵抗率は、10-5Ω・cm未満、好ましくは2.5〜9.0×10-6Ω・cm、より好ましくは5.0〜8.5×10-6Ω・cmの範囲である。
【0019】
導電性塗膜は通常のはんだを用いて容易にはんだ付けすることができ、膜の表面ははんだをはじくことがない。
【0020】
本発明の導電性塗膜は微細なパターンを形成することもできる。例えば、200μm以下の線幅および200μm以下の線間隔を有する配線パターンの形成が可能である。100μm以下の線幅および100μm以下の線間隔を有する、非常に微細な配線パターンの形成も可能である。
【0021】
用途
本発明は、多層セラミックコンデンサ、タンタルコンデンサ、タッチパネルディスプレー、およびインダクタなどの多くの電子用途で有用である。
【0022】
本発明の組成物は、コンデンサの導電層(一般には官能性高分子銀層)として特に有用である。一般に、コンデンサはタンタルコンデンサである。しかし、本発明の組成物は、ニオブおよび酸化ニオブコンデンサをも含めた他の種類のコンデンサにも利用することができる。
【0023】
様々な方法を利用して導電層を導電性炭素/黒鉛層に塗布し、コンデンサを形成することができる。例えば、スパッタリング、スクリーン印刷、浸漬、電着塗装、電子ビーム蒸着、噴霧、インクジェット印刷および真空蒸着などの通常の技術を用いて導電層を形成することができる。
【実施例1】
【0024】
初めに、熱可塑性フッ素樹脂Dyneon THV220(Sumitomo 3M製のTFE/HFP/VdFコポリマーの登録商標)を、トリメチルシクロヘキサノン(Degussa Co.製)に溶解して、溶液の総重量に対して20質量%の樹脂を含有する樹脂溶液を調製した。
【0025】
次いで、この樹脂溶液9.3質量部、平均粒径が0.7μmの球状銀粉末90.7質量部、およびトリメチルシクロヘキサノン3質量部の混合物を3本ロールミルで混練し、粘度が25℃で191Pa・sの導電性ペースト組成物を調製した。この導電性ペースト組成物の粉末/樹脂比は98:2であった(重量比)。
【0026】
得られた導電性ペースト組成物を用いて、微細度の異なる配線パターンをガラス基板上にスクリーン印刷し、200℃で1時間乾燥した。得られた導電性塗膜の抵抗率は5.4×10-6Ω・cmであった。乾燥条件を160℃、1時間に変えると、得られた導電性塗膜の抵抗率は6.8×10-6Ω・cmであった。
【0027】
どの乾燥条件を用いた場合も、破線または隣接する線の短絡の発生なしに、線幅100μmおよび線間隔100μmを有する配線パターンを形成することが可能であった。さらに、350℃に加熱した電気はんだごてを用いて、得られた導電性塗膜上にはんだを付着させると、はんだは導電性塗膜の全表面を濡らし、この膜ではじかれることはなかった。
【実施例2】
【0028】
混合比を樹脂溶液20.8質量部および球状銀粉末79.2質量部に変えた以外は、実施例1に記載の方法を繰返した。この導電性ペースト組成物の銀粉末/樹脂比は95:5であった(重量比)。得られた導電性ペースト組成物の粘度は25℃で130Pa・sであった。
【0029】
乾燥条件を200℃、1時間とすると、得られた導電性塗膜の抵抗率は5.4×10-6Ω・cmであった。乾燥条件を160℃、1時間とすると、抵抗率は7.4×10-6Ω・cmであった。
【0030】
どちらの乾燥条件でも、破線または隣接する線の短絡の発生なしに、線幅100μmおよび線間隔100μmを有する配線パターンを形成することが可能であった。さらに、350℃に加熱した電気はんだごてを用いて、得られた導電性塗膜上にはんだを付着させると、はんだは導電性塗膜の全表面を濡らし、この膜ではじかれることはなかった。
【実施例3】
【0031】
混合比を樹脂溶液24.2質量部、球状銀粉末75.8質量部、およびトリメチルシクロヘキサン1質量部に変えた以外は、実施例1に記載の方法を繰返した。この導電性ペースト組成物の銀粉末/樹脂比は94.0:6.0であった(重量比)。
【0032】
乾燥条件を200℃、1時間とすると、得られた導電性塗膜の抵抗率は6.3×10-6Ω・cmであった。乾燥条件を160℃、1時間とすると、抵抗率は8.2×10-6Ω・cmであった。
【0033】
どちらの乾燥条件でも、破線または隣接する線の短絡の発生なしに、線幅100μmおよび線間隔100μmを有する配線パターンを形成することが可能であった。さらに、350℃に加熱した電気はんだごてを用いて、得られた導電性塗膜上にはんだを付着させると、はんだは導電性塗膜の全表面を濡らし、この膜ではじかれることはなかった。
【0034】
(比較例1)
アクリル樹脂Elvacite 2041(Lucite Co.製の製品の登録商標)を、DBE(Invista Co.製の製品の登録商標)に溶解することにより、樹脂が溶液総重量の17質量%であるアクリル樹脂溶液を調製した。
【0035】
次に、このアクリル樹脂溶液10.7質量部と実施例1で用いた平均粒径0.7μmの球状銀粉末89.3質量部の混合物を、3本ロールミルで混練し、粘度が25℃で240Pa・sの導電性ペースト組成物を調製した。実施例1と同じく、この導電性ペースト組成物の銀粉末/樹脂比は98:2であった(重量比)。
【0036】
得られた導電性ペースト組成物を用いて、微細度の異なる配線パターンをガラス基板上にスクリーン印刷し、160℃で1時間乾燥した。得られた導電性塗膜の抵抗率は2.1×10-6Ω・cmであった。
【0037】
この比較例の導電性ペースト組成物を用いて、破線または隣接する線の短絡の発生なしに、線幅100μmおよび線間隔100μmを有する配線パターンを形成することができた。しかし、350℃に加熱した電気はんだごてを用いて、得られた導電性塗膜にはんだを付着させると、はんだは膜ではじかれた。
【0038】
(比較例2)
ポリエステル樹脂Elitel UES220(Unitika Co.製の製品の登録商標)を、Dowanol PPH(Dow Chemical Co.製の製品の登録商標)に溶解することにより、樹脂が溶液総重量の30質量%であるポリエステル樹脂溶液を調製した。
【0039】
次に、このポリエステル樹脂溶液6.4質量部、実施例1で用いた平均粒径0.7μmの球状銀粉末93.6質量部、およびDowanol PPH(登録商標)6質量部の混合物を、3本ロールミルで混練し、粘度が25℃で200Pa・sの導電性ペースト組成物を調製した。実施例1と同じく、この導電性ペースト組成物の銀粉末/樹脂比は98:2であった(重量比)。
【0040】
得られた導電性ペースト組成物を用いて、微細度の異なる配線パターンをガラス基板上にスクリーン印刷し、160℃で1時間乾燥した。得られた導電性塗膜の抵抗率は7.7×10-6Ω・cmであった。
【0041】
この比較例の導電性ペースト組成物を用いて、破線または隣接する線の短絡の発生なしに、線幅100μmおよび線間隔100μmを有する配線パターンを形成することができた。しかし、350℃に加熱した電気はんだごてを用いて、得られた導電性塗膜にはんだを付着させると、はんだは膜ではじかれた。
【0042】
以下の頁の表で示した結果から分かるように、本発明の導電性ペースト組成物は、200℃以下の低温で硬化した場合でも、10-5Ω・cm未満という低抵抗率の導電性塗膜を形成することができる。本発明の導電性ペースト組成物を用いて、プリント板上の部品の集積度を上げるのに効果的なきめの細かい導電性塗膜を形成することができる。得られた塗膜の低い抵抗率と合わせて、このペーストは、抵抗率が低く粉末消費量が少ない回路要素の形成に効果的である。得られた導電性塗膜は、容易にはんだ付けすることができ、したがって回路要素の外部接続を単純化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1μm以下の導電性粉末と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンを含むコポリマーバインダーとを溶媒に分散させたことを特徴とする導電性ペースト組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ペースト組成物を、200℃以下の温度で乾燥することによって形成されることを特徴とする導電性塗膜。
【請求項3】
請求項2に記載の導電性塗膜のパターン層を塗布したことを特徴とする基板。
【請求項4】
請求項2に記載の導電性塗膜を含むことを特徴とするコンデンサ。

【公開番号】特開2006−152253(P2006−152253A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−304755(P2005−304755)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】