説明

導電性ペースト

【課題】低抵抗率で電気的に高い信頼性を有する導体を形成することができる導電性ペーストを提供すること。
【解決手段】Snを含有する低融点金属(A成分)と、この低融点金属と合金を形成する金属(B成分)と、樹脂成分(C成分)と、溶剤(D成分)を含有する導電性ペーストにおいて、A成分のB成分に対する重量配合比率は、60/40≦(A成分/B成分)≦85/15であり、A成分とB成分を合計した成分のC成分に対する重量配合比率は、96/4≦((A成分+B成分)/C成分)≦98/2であり、A成分とB成分のそれぞれの酸素含有量が3000ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板の外層部、内層部およびビアホール部の配線導体として使用される導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化、小型化および軽量化に伴って、電子機器に搭載されるプリント配線基板の多層化、小型化が進められている。そして、プリント配線基板の多層化に伴い、積層される各層の配線パターンを電気的に接続するために、接続位置にドリルやレーザー等でビアホールを形成した後、そのビアホール内壁にメッキを施して層間を接続する方法が用いられている(以下、前者方法という)。また、ビアホール内壁にメッキを施す代わりに、銀、銅、半田などの導電性粉末と、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂と、溶剤等を混合して得られる導電性ペーストをビアホール内に充填、乾燥および硬化してビアホール導体とし、層間を接続する方法も実用化されている(以下、後者方法という)。
【0003】
前者方法と後者方法を比べると、後者方法には次のような利点がある。
【0004】
生産性については、後者方法はメッキ工程を省略できるため、製造工程を簡略化できる。環境面および製造コストの点からは、メッキ工程を有しない後者方法では、メッキに伴う廃液の処理が不要である。さらに、設計の点からは、前者方法では任意の層間にビアホールを形成できないため全層貫通ビアホールを形成するので、基板の実装密度の向上が難しいが、後者方法では任意の層間にビアホールを形成できるため、基板の高密度化が可能である。
【0005】
例えば、この種の導電性ペーストとして、特許文献1には、特定平均粒径と特定の比表面積を有する導電性粉末を、特定粘度の液状エポキシ樹脂と硬化剤を有するペースト組成物中に分散させたものが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、導体パターンを有する絶縁基板に設けられたビアホール中に、上記導体パターンを形成する金属と合金を形成しうる低融点金属と層間接続時の加熱温度よりも高い融点を有する金属との合金からなる導電性組成物が充填され、上記導体パターンを形成する金属と上記導電性組成物中の低融点金属とが相互に固相拡散して形成された固相拡散層を介して上記導体パターン間相互を上記導電性組成物により電気的に接続したプリント基板が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、熱硬化性樹脂成分5〜20重量%と、融点がその熱硬化性樹脂の熱硬化温度よりも10℃以上低い低融点金属を20〜80重量%含有する導体成分80〜95重量%とからなる導体ペーストが開示されている。
【特許文献1】特開平7−176846号公報
【特許文献2】特開2003−110243号公報
【特許文献3】特開2002−109956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の導電性ペーストは、導電性粉末をエポキシ樹脂中に分散させたものであり、導電性粉末同士や導電性粉末と配線パターンの接触のみで電気的導通を得ているため、抵抗率が高いという問題がある。また、エポキシ樹脂の接着性を利用して導電性粉末間および導電性粉末と配線パターンとの接触を保持するので、温度変化や吸湿による樹脂の膨張・収縮に追随することができず、抵抗率が増加したり、樹脂の劣化により導通不良が発生しやすいという問題が生じる。
【0009】
また、特許文献2では金属結合を十分に形成するために樹脂を無くしたので、ビアホール内壁や配線パターンとビアホール導体との間にボイドや隙間が形成されやすく、そこに水分が溜まることで半田リフロー時に基板が膨れ、導通不良が発生しやすいという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献3に記載された導体ペーストは樹脂の含有量が多いため、低融点金属が溶融する温度まで達しても、樹脂成分に阻害されて金属間結合が不充分となり抵抗率が増加しやすいという問題がある。
【0011】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、低抵抗率で電気的に高い信頼性を有する導体を形成することができる導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の導電性ペーストは、Snを含有する低融点金属(A成分)と、この低融点金属と合金を形成する金属(B成分)と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる樹脂成分(C成分)と、溶剤(D成分)を含有している。 そして、
A成分のB成分に対する重量配合比率は、60/40≦(A成分/B成分)≦85/15であり、
A成分とB成分を合計した成分のC成分に対する重量配合比率は、96/4≦((A成分+B成分)/C成分)≦98/2であり、
A成分とB成分のそれぞれの酸素含有量が3000ppm以下であることを特徴としている。
【0013】
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含有する未硬化または半硬化の絶縁基材に形成したビアホールに本発明の導電性ペーストを充填し、絶縁基材上に配線パターンを形成し、多層化する場合には、ビアホールに導電性ペーストを充填し且つ配線パターンを形成した絶縁基材を多数積層し、低融点金属の融点以上の温度で熱プレスすることで層間の電気的導通を図ることができる。
【0014】
本発明によれば、Snを含有する低融点金属成分とこの低融点金属と合金を形成する金属成分を特定比率で配合し、上記低融点金属およびこの低融点金属と合金を形成する金属との合計金属成分と樹脂成分を特定比率で配合し、上記低融点金属成分とこの低融点金属と合金を形成する金属成分中のそれぞれの酸素含有量を一定以下に抑えることにより、低抵抗率で電気的に高い信頼性を有する導体を形成することができる導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明する。
(1)Snを含有する低融点金属(A成分)
低融点金属としては、Sn、またはSnとIn、Bi、CuおよびAgから選ばれる少なくとも1種類の金属との合金あるいは混合物であって溶融温度が250℃以下のものが好ましい。溶融温度が250℃を超えると、絶縁基板の樹脂の熱分解が進行し、基板特性の劣化(例えば、耐吸湿リフローの劣化)が進行するため好ましくない。
【0016】
低融点金属の平均粒径は10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると、ビアホールへの金属の充填率が低下し、高抵抗率となるという不都合があるからである。本明細書において、平均粒径とは、マイクロトラック粒度分布測定法による累積50容積%での粒径をいう。
(2)Snを含有する低融点金属と合金を形成する金属(B成分)
Snを含有する低融点金属と合金を形成する金属としては、Cu、AgまたはAgによって被覆されたCuが好ましい。CuおよびAgは低抵抗であるとともにSnとも容易に合金を形成し、生成した合金は低融点金属よりも高融点となるので、半田リフロー時の再溶融を防止することができる。また、近接するビアホール間やビアホールと配線間のマイグレーションを抑制することが必要である場合は、Cuを含有することが好ましい。
【0017】
Snを含有する低融点金属と合金を形成する金属の平均粒径は10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると、ビアホールへの金属の充填率が低下し、高抵抗率となるという不都合があるからである。
(3)Snを含有する低融点金属(A成分)とこの低融点金属と合金を形成する金属(B成分)の配合比率
A成分が60重量部以上でB成分が40重量部より少ないと、低融点金属の拡散が不充分となり、B成分との合金化が進行しないことにより、抵抗率が増加する。というのは、従来の導電性ペーストが樹脂成分の収縮により金属同士を接触させるのに対して、本発明の導電性ペーストは低融点金属が金属を結合させる機能を担うため、低融点金属が少ないと金属間の結合が進行しにくくなるからである。一方、A成分が85重量部超でB成分が15重量部未満であると、金属成分の合金化は進行するものの余剰の低融点金属成分が残るため、半田リフロー時に低融点金属の再溶融が起こり、ビアホール導体の形状変化に伴う抵抗率増加が起こる。
(4)Snを含有する低融点金属(A成分)およびこの低融点金属と合金を形成する金属(B成分)との合計金属成分と樹脂成分(C成分)の配合比率
樹脂成分が2重量部より少なくて合計金属成分が98重量部より多くなると、金属成分を分散安定化させる樹脂成分が少ないために、金属成分の沈降分離が起こり、ペースト中における金属成分の分散性が悪くなるともにビアホールへの充填性が低下し、ビアホールへの導電性ペーストの充填量が不充分となって電気的導通不良が発生するからである。また、樹脂成分は金属結合により生成する隙間を埋める働きもするが、樹脂成分が2重量部より少ないと、その隙間を完全に埋めることができず、吸湿によりその隙間に水分が溜まり、半田リフロー時に水分が蒸発することによって基板が破裂することがある。
【0018】
一方、樹脂成分が4重量部より多くて合計金属成分が96重量部より少ないと、低融点金属が溶融しても金属間に過剰な樹脂が存在するために金属結合が形成されず、抵抗率が増加する。
(5)Snを含有する低融点金属(A成分)とこの低融点金属と合金を形成する金属(B成分)のそれぞれの酸素含有比率
本発明の導電性ペーストは、絶縁基板に形成されたビアホールに充填後、低融点金属の融点以上の温度で熱プレスすることで層間の電気的導通を図るものであるが、絶縁基板の樹脂は未硬化または半硬化の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなるため、熱プレス圧を高くすると樹脂が横方向(絶縁基板の面と同一方向)に流れてビアホール形状を円柱状に保つことができず、隣り合うビアホール同士が短絡したり、抵抗率が増加することがあるため、プレス圧をあまり高くしない方がよい。
【0019】
一方、低融点金属はSnを主成分とする金属からなるが、Snは酸化されやすいので、その表面は高融点のSnO2の被膜で覆われやすい。このSnO2は抵抗を増加させるので、SnO2被膜は破る必要があるが、SnO2の被膜が厚くなればなるほど、被膜を破るためには高圧力が必要となる。従って、金属成分中の酸素含有量が少なければ、Sn表面のSnO2被膜の厚みは薄いので、熱プレス圧を高くする必要はなく、その結果、上記不都合も発生しなくなる。この点で、Snを含有する低融点金属(A成分)とこの低融点金属と合金を形成する金属(B成分)のそれぞれの酸素含有量は3000ppm以下であることが好ましく、理想的には酸素を含有しないことが最も好ましい。
(6)樹脂成分
樹脂成分としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を使用することができ、その他に硬化剤、硬化促進剤および架橋剤を含有することができる。樹脂としては、公知のものが使用できるが、分子量は5000以上が好ましく、10000〜50000がより好ましい。これは金属成分の沈降分離を防ぎ、ペースト中における金属成分の分散の均一化を図るためと、低融点金属の金属拡散を安定化させるために重要である。しかし、分子量が5000未満であると、金属成分の沈降分離が起きやすくなる。そこで、樹脂の分子量は5000以上であることが好ましい。
【0020】
例えば、樹脂としては、ポリエステル系樹脂、フェノキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂などの熱可塑性樹脂や、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。ポリエステル系樹脂の場合は、有機溶剤に可溶な非晶質ポリエステル樹脂が好ましく、イソシアネート化合物、メラミン化合物、フェノール化合物などの架橋剤を併用することができる。フェノキシ系樹脂もポリエステル系樹脂と同様に、架橋剤を併用することができる。エポキシ系樹脂の場合に使用する硬化剤は公知のものを使用することができ、フェノール樹脂、ジシアンジアミド、脂肪族アミン、芳香族アミン、イミダゾール類、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどのルイス酸触媒、酸無水物、またはこれらからなる潜在性硬化剤を使用することができる。
(7)溶剤
溶剤としては樹脂成分を溶解する揮発性のものであればよく、例えば、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、 ターピネオール、N−メチルピロリドン、酢酸ベンジル、シクロヘキサノン等を使用することができる。
(8)ペーストの作製
上記低融点金属、この低融点金属と合金を形成する金属、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、および溶剤を、プラネタリーミキサーや三本ロールミル等の混練機で混練することにより、導電性ペーストを得ることができる。必要に応じて、分散安定性を向上させるための適当な分散剤を適宜添加することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更と修正が可能である。
(1)導電性ペーストの作製
Snを含有する低融点金属、Cu、樹脂および溶剤を表1に示す割合(重量部)で配合し、3本ロールミルで混練してペースト化することにより、実施例1ないし7および比較例1ないし5の導電性ペーストを得た。
【0022】
表1における各配合成分としては以下のものを用いた。
【0023】
Sn−2.0Ag−0.5Cu−2.0Biの平均粒径は、5.3μmである。
【0024】
Sn−3.0Ag−0.5Cuの平均粒径は、5.8μmである。
【0025】
Snの平均粒径は、5.5μmである。
【0026】
Cuとして、平均粒径が5.6μmで酸素含有量が1300ppmのものを用いた。
【0027】
ポリエステル樹脂としては、日本合成化学社製のポリエスターTP−220(分子量16000の飽和ポリエステル)を使用し、その溶剤としては、酢酸ベンジルとシクロヘキサノンの混合溶媒を使用した。
【0028】
エポキシ樹脂としては、東都化成社製のエポトートYD−020H(エポキシ当量5250[g/eq]のビスフェノールA型エポキシ樹脂で、分子量が約10500のもの)を使用し、その溶媒としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを使用し、硬化剤としては、イミダゾールをエポキシ樹脂に対して0.2重量%添加した。
【0029】
なお、本明細書および特許請求の範囲における金属成分の酸素含有量は、不活性ガス加熱融解による赤外線吸収法(JIS− H1067)に従って測定した数値である。
【0030】
本明細書におけるエポキシ当量は、JIS−K7236に従って求めた数値である。
【0031】
【表1】

(2)配線基板の作製
未硬化のエポキシ樹脂を含む絶縁基板(厚さ0.2mm)に直径150μmのビアホールをドリルによって開け、そのビアホールに上記導電性ペーストを充填した。さらに、その絶縁基板の両面に銅箔の配線パターンを重ね、2ないし3MPaで60分間低融点金属の融点以上の温度で熱プレスし、導電性ペーストにより層間接続された両面配線基板を得た。
(3)特性の評価方法
上記のようにして得られた配線基板について、次に説明するような方法で、抵抗率(×10-6Ωcm)と抵抗変化率(%)を測定した。表1にその測定結果を示す。
【0032】
抵抗率(×10-6Ωcm)は、絶縁基板の両面の銅箔に挟まれたビアホール間の抵抗値(R0)を測定して、算出した。
【0033】
抵抗変化率(%)は、室温における上記抵抗値(R0)に対して、その絶縁基板を121℃、2気圧の環境下に2時間置いた後、260℃のSn−Pb半田浴に20秒間浸漬した後に測定した、絶縁基板の両面の銅箔に挟まれたビアホール間の抵抗値(R1)の変化率の数値をいい、以下の式で算出される。
【0034】
抵抗変化率(%)=((R1−R0)/R0)×100(%)
なお、抵抗率は15×10-6Ωcm以下のものが実用的に好ましく、抵抗変化率は10%以下のものが実用的に好ましい。
(4)本発明と比較例の特性比較
表1に明かなように、本発明の実施例1ないし7は、抵抗率および抵抗変化率ともに低く、実用的に優れた性能を有する導電性ペーストである。
【0035】
しかし、比較例1は低融点金属の含有量が多すぎるので、抵抗変化率が大きい。
【0036】
比較例2は樹脂の含有量が少なすぎるので、抵抗率および抵抗変化率が大きい。
【0037】
比較例3は樹脂の含有量が多すぎるので、抵抗率が大きい。
【0038】
比較例4は低融点金属の含有量が少なすぎるので、抵抗率および抵抗変化率が大きい。
【0039】
比較例5は低融点金属の酸素含有量が多すぎるので、抵抗率および抵抗変化率が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを含有する低融点金属(A成分)と、この低融点金属と合金を形成する金属(B成分)と、樹脂成分(C成分)と、溶剤(D成分)を含有する導電性ペーストにおいて、 A成分のB成分に対する重量配合比率は、60/40≦(A成分/B成分)≦85/15であり、
A成分とB成分を合計した成分のC成分に対する重量配合比率は、96/4≦((A成分+B成分)/C成分)≦98/2であり、
A成分とB成分のそれぞれの酸素含有量が3000ppm以下であることを特徴とする導電性ペースト。




【公開番号】特開2007−273253(P2007−273253A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97465(P2006−97465)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】