説明

導電性ペースト

【課題】シリコーンブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に比較的容易に完全転写させることができる上、硬化後の導電パターンに所望の硬化物性を付与できる紫外線硬化型の導電性ペーストを提供する。
【解決手段】シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上である溶剤に、不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、および導電性粉末を加えた導電性ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるシリコーンブランケットを用いた印刷法に用いる紫外線硬化型の導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム等の樹脂フィルムの表面(片面または両面、以下同様)に、導電性ペーストを用いて導体配線や電極等の導電パターンをパターン形成してフレキシブルプリント配線板等を製造する場合、前記導電性ペーストとしては熱硬化性のバインダ樹脂と、導電性粉末とを含む熱硬化性の導電性ペーストを用いるのが一般的である。
【0003】
前記導電性ペーストを前記樹脂フィルムの表面に所定のパターン形状となるように印刷後、120〜200℃程度に加熱してバインダ樹脂を硬化反応させると、導電性ペーストが硬化するとともに樹脂フィルムに対する密着性、および導電性粉末による導電性が発現されて導電パターンが形成される。
導電性ペーストの印刷法としては、比較的厚みがあり、しかもその厚みが均一な導電パターンを形成しうる凹版オフセット印刷法が好適に採用される。
【0004】
前記凹版オフセット印刷法では、印刷する導電パターンに対応した凹部を有する版(凹版)の前記凹部に充てんした導電性ペーストを、前記版からブランケットの表面に転写させ、次いで前記ブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に再転写させることで、前記樹脂フィルムの表面に硬化前の導電パターンが形成される。
前記再転写時の導電性ペーストの転写率は100%、すなわちブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に導電性ペーストが完全転写され、いわゆるパイリング(ブランケット側と樹脂フィルム側への導電性ペーストの分離)を生じないのが理想的である。そのためブランケットとしては、少なくともその表面を導電性ペーストとの離型性に優れたシリコーンゴムによって形成した、いわゆるシリコーンブランケットが広く用いられる。
【0005】
しかし熱硬化性の導電性ペーストを用いる場合、前記導電性ペーストを印刷後、硬化反応させる際の加熱によって樹脂フィルムがダメージを受けるおそれがある。
また、例えば長尺の樹脂フィルムを捲回した原反ロールから前記樹脂フィルムを一定速度で繰り出しながら、その表面に連続的に導電性ペーストを印刷して熱硬化させた後、ロールに巻き取るいわゆるロールtoロール法によってフレキシブルプリント配線板等を連続的に生産する場合、そのライン上に、硬化反応に要する加熱時間に応じた熱処理ゾーンを設ける必要があり生産設備が大掛かりになるという問題もある。
【0006】
例えば、樹脂フィルムの搬送速度(=印刷速度)が5m/分で加熱に要する時間が10分間である場合には、50mもの長さの熱処理ゾーンが必要となる。
そこで発明者は、例えば特許文献1等に記載の紫外線硬化型のインキの技術を応用して、前記の問題を生じない紫外線硬化型の導電性ペーストを調製し、前記導電性ペーストを用いて導電パターンを形成してフレキシブルプリント配線板等を製造することを検討した。
【0007】
紫外線硬化型の導電性ペーストであれば、紫外線照射による硬化反応時に高温に加熱する必要がないため樹脂フィルムがダメージを受けにくい上、硬化反応を、熱硬化性の導電性ペーストに比べてごく短時間で完結できるため、フレキシブルプリント配線板等の生産設備をコンパクト化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−280804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
紫外線硬化型の導電性ペーストとしては、例えばアクリレート系、不飽和ポリエステル系等の紫外線硬化性成分〔樹脂分(プレポリマー、オリゴマー)やモノマー(反応性希釈剤を含む、以下同様)等〕と、光重合開始剤と、導電性粉末とを含み、基本的に溶剤を含まないものを用いるのが一般的である。
溶剤を含むと、前記溶剤が紫外線硬化性成分の硬化反応を阻害したり、硬化後の導電パターン中に多くの溶剤が残留したりする結果、前記導電パターンに所望の硬化物性、すなわち強度や良好な導電性等を付与できないおそれがあるためである。
【0010】
ところが無溶剤型の導電性ペーストは、たとえ離型性に優れたシリコーンブランケットと組み合わせたとしても、再転写時に、樹脂フィルムの表面に完全転写するのが難しいという別の問題がある。
すなわち溶剤を含む導電性ペーストは、凹版の凹部に充てんしてから樹脂フィルムの表面に再転写させるまでの間の溶剤の蒸発や、前記溶剤、およびモノマーのシリコーンブランケット中への浸透による濃度の上昇に伴って、前記シリコーンブランケットの表面上で凝集力が徐々に上昇する。そのため、本来的に樹脂フィルムより導電性ペーストとの離型性に優れたシリコーンブランケットを用いていることと相まって、前記導電性ペーストを、前記シリコーンブランケットの表面から樹脂フィルムの表面へ比較的容易に完全転写させることができる。
【0011】
しかし無用剤型の導電性ペーストでは、前記溶剤の蒸発や浸透による凝集力の上昇が期待できない分、完全転写が難しくなるのである。
本発明の目的は、シリコーンブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に比較的容易に完全転写させることができる上、硬化後の導電パターンに所望の硬化物性を付与できる紫外線硬化型の導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、紫外線硬化型の導電性ペーストに溶剤を含有させて、前記溶剤の蒸発や、あるいは溶剤を含む液状の成分のシリコーンブランケット中への浸透による濃度の上昇と、それに伴う凝集力の上昇とによって再転写時の完全転写を容易としながら、前記樹脂フィルムの表面に印刷した硬化前の導電パターン中に残留する溶剤量を極力少なくして、硬化後の導電パターンに所望の硬化物性を付与するべく種々検討をした。
【0013】
その結果、樹脂として不飽和ポリエステル樹脂を用い、前記不飽和ポリエステル樹脂と、光重合開始剤、導電性粉末、および溶剤とを含む導電性ペーストにおいて、前記溶剤として、シリコーンブランケット中にできるだけ速やかに浸透できるもの、具体的には実際に印刷に使用するシリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを23±1℃で5時間浸漬した前後の質量変化率ΔWが30質量%以上となるものを選択して用いればよいことを見出した。
【0014】
これにより、導電性ペースト中に配合した前記溶剤は、前記導電性ペーストをシリコーンブランケットの表面に転写してから樹脂フィルムの表面に再転写させるまでの間に、シリコーンブランケット中に速やかに浸透するため、前記導電性ペースト中から蒸発する分と合わせて、前記導電性ペーストの凝集力を大幅に上昇させて、再転写時に、導電性ペーストをより一層確実に完全転写させることが可能となる。
【0015】
また樹脂フィルムの表面に再転写後、硬化前の導電パターン中に残留する溶剤量を極力少なくして、硬化後の導電パターンに所望の硬化物性、すなわち強度や良好な導電性等を付与することも可能となる。
したがって本発明は、少なくとも表面がシリコーンゴムからなるシリコーンブランケットを用いた印刷法に使用される紫外線硬化型の導電性ペーストであって、不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、導電性粉末、および溶剤を含み、前記溶剤として、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを前記溶剤中に23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上であるものを用いることを特徴とする導電性ペーストである。
【0016】
なお2種以上の溶剤を併用する場合は、前記2種以上の溶剤の混合溶剤を用いて前記と同様にして求めた質量変化率ΔWが30質量%以上となるように、その組み合わせおよび配合を選択すればよい。
また導電性ペーストが液状のモノマーを含有する場合は、前記モノマーおよび溶剤の混合液を用いて前記と同様にして求めた質量変化率ΔWが30質量%以上となるように、その組み合わせおよび配合を選択すればよい。
【0017】
すなわち本発明は、モノマーをも含み、前記モノマーおよび溶剤として、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを、前記モノマーおよび溶剤の混合液中に23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上となるように組み合わせおよび配合したものを用いる導電性ペーストである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリコーンブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に比較的容易に完全転写させることができる上、硬化後の導電パターンに所望の硬化物性を付与できる紫外線硬化型の導電性ペーストを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、少なくとも表面がシリコーンゴムからなるシリコーンブランケットを用いた印刷法に使用される紫外線硬化型の導電性ペーストであって、不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、導電性粉末、および溶剤を含み、前記溶剤として、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを前記溶剤中に23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上であるものを用いることを特徴とするものである。
【0020】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば無水フタル酸、無水マレイン酸等の多塩基酸と、グリコール類等の多価アルコールとを重縮合反応させて生成される不飽和アルキドを、さらに必要に応じてスチレン等のラジカル重合性のビニルモノマーと混合して調製される種々の、ラジカル重合性を有する不飽和ポリエステル樹脂がいずれも使用可能である。
前記不飽和ポリエステル樹脂は光重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)の存在下、紫外線の照射によって硬化反応しうるものである。前記不飽和ポリエステル樹脂は、固形(パウダー状〜粒状等)ないし液状の任意の形態で供給され、本発明ではこのいずれの形態のものを採用することもできる。
【0021】
前記不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば日本ユピカ(株)製のユピカ(登録商標)8523〔軟化点(JIS K2531:1960準拠、以下同様):92〜98℃、粒状〕、8524(軟化点:92〜98℃、パウダー状)、8542(軟化点:100〜104℃、パウダー状)、8552(軟化点:88〜94℃、粒状)、8553(軟化点:88〜94℃、粒状)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
溶剤としては、前記不飽和ポリエステル樹脂を良好に溶解しうる種々の溶剤のうち、先に説明したように、実際に印刷に使用するシリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを23±1℃で5時間浸漬した前後の質量変化率ΔWが30質量%以上となる溶剤を選択して使用することができる。
例えばシリコーンブランケットとして、基材としてのPETフィルムの片面に、室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状シリコーンゴム〔モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSE3450、TSE34555、あるいは信越化学工業(株)製のKE−1600等〕の主剤と硬化剤との混合物からなる塗布液を塗布したのち室温で24時間静置して硬化反応させて表面ゴム層を形成した2層構造を有するものを用いる場合、前記溶剤としては、
(1) プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA):質量変化率ΔW=33質量%、
(2) α−テルピネオール(TPO):質量変化率ΔW=81質量%、
等が挙げられる。
【0023】
前記溶剤に不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、および導電性粉末を加えることにより導電性ペーストが調製される。前記溶剤は、導電性ペーストに、前記導電性ペーストを使用して印刷をする印刷法(凹版オフセット印刷法等)に適した流動性や粘度等を付与できる任意の割合で含有させることができる。
また2種以上の溶剤を併用することもできる。その場合は、これも先に説明したように、前記2種以上の溶剤の混合溶剤を用いて前記と同様にして求めた質量変化率ΔWが30質量%以上となるように、その組み合わせおよび配合を選択すればよい。
【0024】
例えば前記2層構造のシリコーンブランケットを用いる場合、前記混合溶剤としては、
(3) 前記PGMEA60質量部、TPO30質量部、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(別名ブチルカルビトールアセタート、BCA)10質量部の混合溶剤:質量変化率ΔW=45.4質量%
等が挙げられる。
【0025】
前記混合溶剤における溶剤の組み合わせおよび配合を維持しながら不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、および導電性粉末を加えることにより導電性ペーストが調製される。前記混合溶剤は、導電性ペーストに、前記導電性ペーストを使用して印刷をする印刷法(凹版オフセット印刷法等)に適した流動性や粘度等を付与できる任意の割合で含有させることができる。
【0026】
なおBCA単独での質量変化率ΔWは13質量%である。
本発明の導電性ペーストは、モノマーを含んでいてもよい。前記モノマーとしては液状で、光重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)の存在下、紫外線の照射によってそれ自体同士で、あるいは前記不飽和ポリエステル樹脂との間で硬化反応しうる種々のラジカル重合性を有するモノマーがいずれも使用可能である。
【0027】
前記モノマーとしては、純粋にモノマーとして分類されるものと反応性希釈剤として分類されるものとがあり、このうち前者のモノマーとしては、例えばアクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アルキル変性ジペンタエリスリトールアクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレート等が挙げられる。
【0028】
また反応性希釈剤に分類されるモノマーとしては、例えばアクリル酸イソボルニル、アクリル酸3−メトキシブチル、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等が挙げられる。
【0029】
前記モノマーを含む場合には、当該モノマーも導電性ペーストの凝集性に関与し、かつシリコーンブランケットに浸透する性質を有するため、溶剤とモノマーとの混合液の質量変化率ΔWが30質量%以上となるように、その組み合わせおよび配合を選択する。
例えば前記2層構造のシリコーンブランケットを用いる場合、前記混合液としては、
(4) 前記PGMEA40質量部、TPO40質量部、BCA10質量部、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)10質量部の混合液:質量変化率ΔW=47質量%、
(5) 前記PGMEA35質量部、TPO20質量部、BCA35質量部、およびTMPTA5質量部の混合液:質量変化率ΔW=32.4質量%、
(6) 前記PGMEA40質量部、TPO40質量部、BCA10質量部、および1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)10質量部の混合液:質量変化率ΔW=47質量%、
(7) 前記PGMEA35質量部、TPO20質量部、BCA35質量部、およびHDDA5質量部の混合液:質量変化率ΔW=32.4質量%、
等が挙げられる。
【0030】
前記混合液におけるモノマーと溶剤の組み合わせおよび配合を維持しながら不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、および導電性粉末を加えることにより導電性ペーストが調製される。混合液は、導電性ペーストに、前記導電性ペーストを使用して印刷をする印刷法(凹版オフセット印刷法等)に適した流動性や粘度等を付与できる任意の割合で含有させることができる。
【0031】
なおTMPTA単独での質量変化率ΔWは1質量%である。HDDA単独での質量変化率ΔWも1質量%である。
前記溶剤や混合溶剤、あるいは混合液の質量変化率ΔWは、前記範囲内でも50質量%以下であるのが好ましい。質量変化率ΔWが前記範囲を超える場合には、導電性ペーストをシリコーンブランケットの表面に転写してから樹脂フィルムの表面に再転写させるまでの間に、前記シリコーンブランケットに過剰の溶剤が浸透して導電性ペーストの粘度が上昇しすぎる結果、却ってパイリングを生じやすくなって完全転写が難しくなるおそれがある。
【0032】
光重合開始剤としては、紫外線照射によってラジカルを発生して前記不飽和ポリエステル樹脂、およびモノマーを硬化反応させることができる種々の化合物がいずれも使用可能である。
前記光重合開始剤としては、例えば、いずれもチバ社製のイルガキュア(登録商標)651〔2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン〕、イルガキュア184〔1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〕、ダロキュア(登録商標)1173〔2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン〕、イルガキュア500〔イルガキュア184とベンゾフェノンとの共融混合物〕、イルガキュア1000〔イルガキュア184とダロキュア1173の1:4混合物〕、イルガキュア2959〔1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン〕、イルガキュア907〔2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン〕、イルガキュア369〔2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1〕、イルガキュア1700〔ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドとダロキュア1173の1:3混合物〕、イルガキュア1800〔ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドとイルガキュア184の1:3混合物〕、イルガキュア1850〔ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドとイルガキュア184の1:1混合物〕、およびイルガキュア819〔ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド〕等の1種または2種が挙げられる。
【0033】
光重合開始剤の含有割合は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部(モノマーを含まない場合)あたり、または不飽和ポリエステル樹脂とモノマーの総量100質量部あたり1質量部以上、特に3質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に8質量部以下であるのが好ましい。
含有割合が前記範囲未満では、導電性ペーストに良好な紫外線硬化性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、経時変化によって増粘を生じるおそれがある。
【0034】
導電性粉末としては、例えば銀、銅、金、白金、ニッケル、アルミニウム、鉄、パラジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、コバルト等の金属の粉末や前記金属の2種以上の合金の粉末、銀メッキ銅等のメッキ複合体の粉末、酸化銀、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末などの1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
中でも高い導電性を有する上、高絶縁性の酸化物を生成しにくい耐酸化性に優れるため導電性に優れた導電パターンを形成できる銀が好ましい。
導電性粉末は、粒度分布の50%累積径D50が0.05μm以上、特に0.1μm以上であるのが好ましく、10μm以下、特に2μm以下であるのが好ましい。導電性粉末の粒径を前記範囲内とすることにより、凹版オフセット印刷法に使用する際の印刷適性に優れる上、微細な導電パターンを細部まで良好に再現できる導電性ペーストを調製できる。
【0036】
また導電性粉末の形状は、前記印刷適正を向上するためには球状ないし粒状であるのが好ましく、前記導電性粉末同士の接触面積を大きくして導電パターンの導電性を高めるためには鱗片状であるのが好ましい。また、導電性粉末を細密充填して導電パターンの導電性をさらに高めるためには、前記鱗片状の導電性粉末と球状または粒状の導電性粉末とを併用してもよい。
【0037】
導電性粉末の含有割合は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部(モノマーを含まない場合)あたり、または不飽和ポリエステル樹脂とモノマーの総量100質量部あたり500質量部以上、特に700質量部以上であるのが好ましく、1500質量部以下、特に1100質量部以下であるのが好ましい。
含有割合がこの範囲内であれば、導電性ペーストを印刷して形成した導電パターンに、例えばフレキシブルプリント配線板の導体配線や電極等に適した良好な導電性を付与できる。
【0038】
本発明の導電性ペーストは、前記のように凹版オフセット印刷法等の、少なくともその表面がシリコーンゴムで形成されたシリコーンブランケットを用いる印刷法に用いられる。
シリコーンブランケットとしては、その全体が単層のシリコーンゴムからなるものや、PETフィルム、金属箔等からなる基材の片面にシリコーンゴムからなる表面ゴム層が積層された2層構造を有するもの、あるいは前記基材と表面ゴム層との間に任意の1層または2層以上の層を介在させた多層構造を有するもの等が挙げられる。
【0039】
またシリコーンゴムとしては、例えば未硬化時に液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムが好ましい。
例えば2層構造のシリコーンブランケットの場合、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを基材上に塗布し、硬化させて表面ゴム層を形成すると、前記表面ゴム層の表面を、硬化時に液またはペーストのセルフレベリング効果によって平滑化できる。そのため高精度の導電パターンを形成するために好適な、表面粗さが極めて小さいシリコーンブランケットを得ることができる。
【0040】
また前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを金型内に注入し、表面ゴム層の形状に成形しながら硬化させることによってブランケットを製造してもよい。
前記シリコーンブランケットと本発明の導電性ペーストとを用いた印刷方法としては前記凹版オフセット印刷法が挙げられる他、例えば反転印刷法等も挙げられる。
反転印刷法では、シリコーンブランケットの表面の略全面に導電性ペーストを塗布し、非画線部が突出した版と接触させて、前記非画線部に対応する導電性ペーストを前記版の表面に選択的に転写させることで、前記シリコーンブランケットの表面に導電パターンが形成される。この後、形成した導電パターンを樹脂フィルムの表面に転写させたのち紫外線を照射して硬化反応させることにより、フレキシブルプリント配線板等が製造される。
【実施例】
【0041】
以下のシリコーンブランケットの作製、実施例、比較例における導電性ペーストの調製、測定、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
《シリコーンブランケットの作製》
室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状シリコーンゴム〔モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSE3450〕の主剤10質量部と硬化剤1質量部とを混合したのち脱泡して表面ゴム層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化反応させて、厚みが0.70mm、タイプAデュロメータ硬さ(JIS K6253:2006準拠)がA30/Sである表面ゴム層を形成して、2層構造を有するシリコーンブランケットを作製した。
【0042】
《実施例1》
〈導電性ペーストの調製〉
不飽和ポリエステル樹脂〔日本ユピカ(株)製のユピカ(登録商標)8524〕90質量部、銀粉末〔福田金属箔粉工業(株)製のAgC−A〕900質量部、ラジカル光重合開始剤〔2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、チバ社製のイルガキュア(登録商標)907〕3質量部、およびラジカル光重合開始剤〔2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、チバ社製のダロキュア(登録商標)1173〕3質量部と、下記のモノマーおよび溶剤とを配合し、3本ロールを用いて混練して導電性ペーストを調製した。
【0043】
(モノマー)
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA):10質量部
(溶剤)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA):40質量部
ジエチレングリコールモノブチルエーテルセタート(BCA):10質量部
α−テルピネオール(TPO):40質量部
(質量変化率ΔWの測定)
前記1種のモノマーと3種の溶剤のみを導電性ペーストに含有させたのと同じ割合で配合して混合液を調製し、前記混合液中に、先に作製した2層構造のシリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを秤量したのち23±1℃で5時間浸漬した。
【0044】
この際、サンプルの全体が混合液中に完全に浸漬されるとともに、サンプル中への混合液の浸透による前記混合液の減少とサンプルの体積増加が発生しても、5時間が経過するまでの間、サンプルの全体が混合液中に完全に浸漬された状態が維持されるように、混合液の量や親戚状態に注意した。
そして浸漬から5時間が経過した時点で、サンプルを混合液中から引き上げ、サンプル中に浸透せずに表面に付着した混合液を除去したのち直ちに秤量し、浸漬前後の秤量値から質量変化率ΔWを求めたところ47質量%であった。
【0045】
《実施例2》
不飽和ポリエステル樹脂の量を95質量部とし、かつモノマーおよび溶剤の量を下記の値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
(モノマー)
TMPTA:5質量部
(溶剤)
PGMEA:35質量部
BCA:35質量部
TPO:20質量部
また前記モノマーと溶剤のみの混合液について実施例1と同様にして質量変化率ΔWを求めたところ32.4質量%であった。
【0046】
《実施例3》
不飽和ポリエステル樹脂の量を100質量部とし、かつモノマーを省略するとともに、溶剤の量を下記の値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
(溶剤)
PGMEA:60質量部
BCA:10質量部
TPO:30質量部
また前記3種の溶剤のみの混合溶剤について実施例1と同様にして質量変化率ΔWを求めたところ45.4質量%であった。
【0047】
《比較例1》
モノマーおよび溶剤の量を下記の値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
(モノマー)
TMPTA:10質量部
(溶剤)
PGMEA:省略
BCA:75質量部
TPO:15質量部
また前記モノマーと溶剤のみの混合液について実施例1と同様にして質量変化率ΔWを求めたところ22質量%であった。
【0048】
《比較例2》
不飽和ポリエステル樹脂に代えて変性エポキシアクリレート樹脂〔ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYL(エベクリル、登録商標)3708〕100質量部を用い、かつノマーを省略するとともに、溶剤の量を下記の値としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
【0049】
(溶剤)
PGMEA:省略
BCA:40質量部
TPO:60質量部
また前記2種の溶剤のみの混合溶剤について実施例1と同様にして質量変化率ΔWを求めたところ53.8質量%であった。
【0050】
《印刷試験》
先に作製したシリコーンブランケットを、凹版オフセット印刷機〔オリジナル・プリンティング・マシン(株)製〕に装着した。また凹版としては、ソーダライムガラス板の片面に線幅80μm、ピッチ200μm、深さ30μmの凹部をストライプ状にパターン形成したものを用いた。
【0051】
そして前記凹版に実施例、比較例で調製した導電性ペーストを供給しながら、凹版オフセット印刷法によって、PETフィルムの片面に、前記凹部に対応したストライプ状の導電パターンを印刷した後、メタルハライドランプを用いて3000J/cmの条件で紫外線を照射して前記導電パターンを硬化させた。
前記一連の印刷作業のうち、導電性ペーストをシリコーンブランケットの表面からPETフィルムの表面に再転写させる工程における転写性、すなわち前記導電性ペーストがPETフィルムの表面に完全に転写されずに、その一部がシリコーンブランケットの表面に残留する転写不良(パイリング)が発生したか否かを、前記シリコーンブランケットの表面、およびPETフィルムの表面を観察したから判定した。
【0052】
詳しくは、導電性ペーストの一部がシリコーンブランケットの表面に残留していたものをパイリングあり(×)、残留していなかったものを完全転写(○)として評価した。
また完全転写されたものについては、紫外線照射によって硬化させた後の導電パターンの比抵抗〔μΩ・cm〕を測定した。
以上の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の比較例2の結果より、不飽和ポリエステル樹脂に代えて変性エポキシアクリレート樹脂を使用した場合には、たとえ混合溶剤の質量変化率ΔWを30質量%以上に設定したとしても、再転写時に導電性ペーストを完全転写できないことが判った。
また比較例1の結果より、不飽和ポリエステル樹脂を使用したとしても、混合液の質量変化率ΔWが30質量%未満では、硬化後の導電パターンの比抵抗が大幅に上昇したことから、前記導電パターン中に多くの溶剤が残留して所望の硬化物性が得られないことが判った。
【0055】
これに対し実施例1〜3の結果より、不飽和ポリエステル樹脂を使用するとともに、混合液もしくは混合溶剤の質量変化率ΔWを30質量%以上に設定することで、シリコーンブランケットの表面から樹脂フィルムの表面に比較的容易に完全転写させることができる上、硬化後の導電パターン中に残留する溶剤の量を極力少なくして、所望の硬化物性を付与できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面がシリコーンゴムからなるシリコーンブランケットを用いた印刷法に使用される紫外線硬化型の導電性ペーストであって、不飽和ポリエステル樹脂、光重合開始剤、導電性粉末、および溶剤を含み、前記溶剤として、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを前記溶剤中に23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上であるものを用いることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
モノマーをも含み、前記モノマーおよび溶剤として、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを、前記モノマーおよび溶剤の混合液中に23±1℃で5時間浸漬する前後の質量変化率ΔWが30質量%以上となるように組み合わせおよび配合したものを用いる請求項1に記載の導電性ペースト。

【公開番号】特開2011−187179(P2011−187179A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48200(P2010−48200)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】