説明

導電性ペースト

【課題】電極または配線パターンを印刷する際に、微細なパターンを安定して印刷することができ、焼成後の電気的特性の低下が発生しにくい導電性ペースト用の溶剤を提供する。
【解決手段】導電性ペーストの溶剤成分として、(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物を含有する導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた印刷性を有する導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルディスプレイやフラッシュメモリー等の情報電子機器の電極または配線パターンを形成する方法として、基板の表面又は裏面にそれぞれ必要な種々の層を積層した後、導電性ペーストをこれらの層の上に印刷して乾燥させ、所定の温度で焼成する方法が広く用いられている。
【0003】
このような方法に用いられる導電性ペーストは、バインダー樹脂となる樹脂成分を有機溶剤に溶解して得られるビヒクル組成物中に、導電性を有する金属粉末(導電性粉末)を分散させることによって製造される。
【0004】
導電性ペーストに用いられるバインダー樹脂としては、従来、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルブチラール等のブチラール樹脂が使用されており、一方、有機溶剤としては、ターピネオールやブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ケロシンなどの溶剤が使用されてきた(特許文献1)。
【0005】
近年、情報機器の小型化、薄型化、高機能化に伴い、回路や配線基板も更なる小型化が求められてきており、配線を形成するライン幅及びスペース幅の微細化が必要とされてきている。しかしながら、ラインを微細化するにつれて、印刷工程中での溶剤の乾燥が顕著となり、断線や凹凸の発生、線幅の乱れが生じてしまい、安定した配線印刷が困難になってくる。
【0006】
これらの問題を解決するため、トリプロピレングリコールやトリエチレングリコール等のポリグリコール系溶剤またはそれらのメチルエーテルやブチルエーテル類、あるいはドデカノール等の高級アルコール類のうち、従来の溶剤よりも高い沸点を有する溶剤を用いることで解決を試みることが提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、前記溶剤を用いた場合、印刷中の乾燥は防ぐことができるが、バインダー樹脂の溶解性が従来溶剤よりも劣るため導電性粉末の分散性及び安定性が悪く、焼成後の電気的特性がばらつく問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−5591号公報
【特許文献2】特開2009−245844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電極または配線パターンを印刷する際に、微細なパターンを安定して印刷することができ、焼成後の電気的特性の低下が発生しにくい導電性ペースト用の溶剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、導電性ペーストの溶剤成分として、(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物を含有することを特徴とした導電性ペーストである。
【0011】
(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物としては、式(I)、(II)、(III)のような構造を有するものが、性能的に好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
〔ただし、式(I)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH3, nは1〜2である。〕
【0014】
【化2】

【0015】
〔ただし、式(II)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH3, nは1〜2である。〕
【0016】
【化3】

【0017】
〔ただし、式(III)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH3, nは1〜2である。〕
【0018】
本発明は、好ましくは微細配線印刷用である。
【0019】
また、本発明は、バインダー樹脂、導電性粉末、および溶剤を含む導電性ペーストを製造するための原料であり、溶剤成分として(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物からなる導電性ペースト製造用原料である。さらに、バインダー樹脂を含む導電性ペースト製造用原料である。
【0020】
また、本発明は、前記導電性ペーストを用いて、基板に微細配線を印刷する、配線基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性ペーストによれば、溶剤成分として(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物を含有することにより、微細配線を印刷する際に、断線や線幅の乱れが生じず、また焼成後でも電気的特性の低下が発生しにくい導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物
本発明の(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物について説明する。(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテルとは、モノあるいはポリアルキレングリコールの片方の水酸基末端にモノテルペン構造がエーテル結合で付加した化合物である。このモノテルペン構造とは、天然植物精油中に含まれるモノテルペノイド化合物が通常有する骨格構造のことで、一般的にはイソプレン(C5H8)を1単位として、このイソプレン2分子が頭と尾で結合(head to tail)した化合物の構造を指す。本発明のモノテルペン構造の具体的な例として、(イソ)ボルニル基、ピナニル基、パラメンチル基、パラメンテニル基、フェンチル基、ゲラニル基、リナリル基、シトロネル基が挙げられ、これらの内、特に式(I)、式(II)、式(III)に示される、(イソ)ボルニル基、パラメンテニル基、パラメンチル基を含有することがより好ましい。
【0023】
製造方法は特定の方法に限定されないが、例えば、モノテルペン類に(ポリ)アルキレングリコール類を酸触媒下において付加反応させる、あるいはターピネオール、ボルネオールやイソボルネオール等のテルペンモノオール類と(ポリ)アルキレングリコール類を脱水縮合反応させる、またはテルペンモノオール類とアルキレンオキサイドを触媒下において付加反応させる等によって得ることができる。
【0024】
本発明に用いられるモノテルペン類としては、α―ピネン、β―ピネン、リモネン、カンフェン、トリシクレン、フェンチェン、テルピネン、β―ミルセン、オシメン、アロオシメン、あるいはこれらの混合物などが挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、工業的に比較的潤沢に入手できる、カンフェン、トリシクレン、α―ピネン、β―ピネン、リモネンが挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるテルペンモノオール類としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ボルネオール、イソボルネオール、リナロール、メントール、カルベオール、ピノカルベオール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、アロオシメノール、ゲラニオール、シトロネロール、あるいはこれらの混合物などが挙げられるが、特に限定されない。
【0026】
本発明に用いられる(ポリ)アルキレングリコールとしては特に限定はされないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコールなどが挙げられる。好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールである。また、トリエチレングリコールやトリプロピレングリコール等、アルキレングリコール鎖が3以上になると、溶剤の乾燥性が悪くなり、プレ乾燥時に十分乾燥させることができないため好ましくない。
【0027】
本発明に用いられるアルキレンオキサイドとしては特に限定はされないが、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0028】
反応方式は特に限定されないが、バッチ反応でも連続反応でも反応できる。
なお、モノテルペン類、またはテルペンモノオール類と(ポリ)アルキレングリコールとの反応は、モノテルペン類、またはテルペンモノオール類1モルに対し、通常、(ポリ)アルキレングリコールが0.2〜4.0モル、好ましくは0.5〜2.0モルである。0.2モル未満ではモノテルペン類、またはテルペンモノオール類が過剰になり製造コスト的に好ましくなく、一方、4.0モルを超えると(ポリ)アルキレングリコールが過剰になり製造コスト的に好ましくない。
【0029】
反応温度は、通常、0〜120℃、好ましくは30〜100℃で反応が行なわれる。反応温度が0℃未満では反応速度が極端に遅く、一方、120℃を超えると、モノテルペン類、またはテルペンモノオール類の重合・異性化などの副反応が顕著になり好ましくない。
【0030】
溶媒は使用しなくてもよいが、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルシクロヘキサン、パラメンタン等、二重結合やアルコールのような、反応に影響を与える官能基を有さない溶媒を使用してもよい。
【0031】
モノテルペン類と(ポリ)アルキレングリコールの付加反応、またはテルペンモノオール類と(ポリ)アルキレングリコールの脱水縮合反応における触媒としては、特に限定されないが、好ましくは、通常、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、BF、B、塩化アルミニウム、リン酸、ヘテロポリ酸、活性白土、強酸性イオン交換樹脂などが用いられる。
【0032】
テルペンモノオール類とアルキレンオキサイドの付加反応における触媒としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコキシド、金属ナトリウムといった塩基性触媒、あるいはアルミニウムイオンや亜鉛イオンを担持させた酸化マグネシウム触媒のような金属触媒が用いることができるほか、無触媒で実施してもよい。
【0033】
また、本発明の(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物は、これら化合物を水素添加(水添)した化合物であってもよい。
【0034】
水添する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの貴金属またはそれらを活性炭素、活性アルミナ、珪藻土などの坦体上に担持したものを触媒として使用して行う方法が挙げられる。この時、粉末状の触媒を懸濁攪拌しながら反応を行うバッチ方式にすることも、成形した触媒を充填した反応塔を用いた連続方式にすることも可能であり、反応形式に特に制限はない。水添の際、反応溶媒は用いなくてもよいが、通常、アルコール類、エーテル類、エステル類、飽和炭化水素類が使用される。
【0035】
水添の際の反応温度は、特に限定されないが、通常0〜200℃、好ましくは、10〜150℃である。反応温度が0℃未満であると、水素化速度が遅くなり、一方、200℃を超えると、水添時の分解が多くなる恐れがある。
【0036】
式(I)、(II)、(III)
式(I)の化合物は、例えば、カンフェンとエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、またはジプロピレングリコールを、酸触媒下において付加反応して得られる。得られた化合物は、各々、エチレングリコールモノ(イソ)ボルニルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ボルニルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ボルニルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ボルニルエーテルに相当する。
式(II)の化合物は、例えば、α―ピネンとエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、またはジプロピレングリコールを、酸触媒下において付加反応して得られる。得られた化合物は、各々、エチレングリコールモノパラメンテニルエーテル、プロピレングリコールモノパラメンテニルエーテル、ジエチレングリコールモノパラメンテニルエーテル、ジプロピレングリコールモノパラメンテニルエーテルに相当する。
式(III)の化合物は、例えば、式(II)の化合物を水添反応して得られる。得られた化合物は、各々、エチレングリコールモノパラメンチルエーテル、プロピレングリコールモノパラメンチルエーテル、ジエチレングリコールモノパラメンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノパラメンチルエーテルに相当する。
上記の場合において、エチレングリコールのときR=H,R=H,n=1、ジエチレングリコールのときR=H,R=H,n=2、プロピレングリコールのときR=CH,R=H(またはR=H,R=CH),n=1、ジプロピレングリコールのときR=CH,R=H(またはR=H,R=CH),n=2となる。
【0037】
なお、本発明の導電性ペーストの溶剤中には、テルペン系反応物などを含有することが可能である。
また、本発明の導電性ペーストの溶剤中には、必要に応じて、各種添加剤、フィラー、通常導電性ペーストに用いる他の溶剤を含有させてもよい。
【0038】
導電性ペースト、バインダー樹脂、導電性粉末
本発明の導電性ペーストについて説明する。本発明の導電性ペーストは、好ましくは微細配線印刷用である。
本発明の導電性ペーストは、貴金属電極層に相当するもので、有機バインダーとなる樹脂(バインダー樹脂)を有機溶剤((ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物)に溶解して得られる有機ビヒクル中に、銀、銅、金、白金、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末(導電性粉末)を分散させたものである。金属粉末(導電性粉末)としては、銀粉末、銅粉末、金粉末、ニッケル粉末が好ましい。
有機ビヒクル中の(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物の割合は、特に限定はないが、60〜95重量%であることが好ましい。さらに、70〜90重量%が好ましい。60重量%未満では、エチルセルロースなどの溶解性が悪くなる場合があり、95重量%を超えると、有機ビヒクルの粘度が低くなり過ぎて好ましくない場合がある。
導電性ペースト中の導電性粉末の割合は、特に限定はないが、通常、30〜95質量%、好ましくは40〜90質量%である。30質量%未満では、形成された配線の電気抵抗が高くなるため好ましくない場合があり、95質量%を超えると、導電性ペーストの粘度が高くなり、印刷性が著しく悪化するため好ましくない場合がある。
有機バインダー(バインダー樹脂)としては、エチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂や、ポリビニルブチラール等のブチラール系樹脂、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂が使用される。より好ましくは、エチルセルロース、ポリビニルブチラールである。
導電性ペースト中には、粘度調整用の希釈溶剤を使用してもよい。具体的には、塗布膜厚などを考慮して粘度調整する場合、一般に、例えばB型粘度計でスピンドルS21、回転数5rpm、温度25℃の測定条件において粘度が40,000cps以下になるようにエチルアルコール、トルエン、トリメチルベンゼンなどの希釈溶剤を加えていることが多い。
導電性ペースト中における、該有機ビヒクルの割合は、特に限定はないが、5〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜30重量%である。
有機ビヒクルは、5重量%未満であると、乾燥膜の強度が弱くなる場合があり、40重量%を超えると、焼成後の電極厚さが薄くなりすぎて好ましくない場合がある。
【0039】
導電性ペースト製造用原料
本発明は、また、バインダー樹脂、導電性粉末、および溶剤を含む導電性ペーストを製造するための原料であり、溶剤成分として(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物からなる導電性ペースト製造用原料を提供する。さらに、バインダー樹脂を含む導電性ペースト製造用原料を提供する。
バインダー樹脂、導電性粉末、(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物については、上記の述べたとおりである。バインダー樹脂と、溶剤成分として(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物を含有する導電性ペースト製造用原料の場合、バインダー樹脂と(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物のみからなる混合物でもよいし、上記で示した添加剤(導電性粉末を除く)を含んでもよい。
【0040】
配線基板の製造方法
本発明は、また、前記導電性ペーストを用いて、基板に微細配線を印刷する、配線基板の製造方法である。使用される基板は、特に限定はないが、例えば、シリコン基板、アルミナ基板、セラミック基板、ガラス基板、樹脂基板などである。印刷する方法は、特に限定はないが、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷、インクジェット印刷などである。配線基板は、通常、配線された導電性ペーストを乾燥させて後、焼成して用いられる。
印刷される微細配線の線幅(ライン)は、特に限定はないが、一般的には5〜500μmであり、10〜350μmが好ましく、20〜200μmがさらに好ましい。また、印刷される微細配線間の間隔(スペース)は、特に限定はないが、一般的には5μm以上であり、10μm以上が好ましく、20μm以上がさらに好ましい。
本発明の製造方法で製造される基板は、例えば、半導体基板、プリント基板、フレキシブルプリント基板、LED、太陽電池、各種ディスプレイの配線・電極、電子ペーパー、RFID、メンブレンスイッチ、電磁波シールド、などに利用可能である。
【0041】
本発明の溶剤成分について説明する。
本発明の溶剤成分は、上記にも記載しているように、有機バインダーとなる樹脂と混合して、有機ビヒクルを形成するものであり、その成分は(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物である。この(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物は、エチルセルロースやポリビニルブチラールなどの有機バインダー樹脂に対する溶解性が良好であり、さらに、常圧における沸騰温度(沸点)がターピネオールやブチルカルビトール等の従来の溶剤よりも高い。
したがって、このようにして得られた導電性ペーストは導電性粉末を微細かつ均一に分散可能で、また乾燥に強く、導電性ペーストの経時での高粘度化等の物性変化を抑制することができる。そのため、本発明は、電極または配線パターンを印刷する際に、微細なパターンを安定して印刷することができ、焼成後の電気的特性の低下が発生しにくい導電性ペースト用の溶剤の提供を可能にするものである。
【実施例】
【0042】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<化合物1の合成>
合成例1〜4は、式(I)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物の合成例である。
合成例1
(溶剤1の合成)
2L反応容器に、エチレングリコール300g(4.84モル)を仕込み、次いで硫酸を15g加え攪拌した。反応容器を75℃まで加熱し、カンフェン286.3g(ヤスハラケミカル(株)製、商品名YSカンフェン、純度95%、4モル)を反応温度が80℃を越えないように徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で4時間攪拌した。反応終了後、エチレングリコール/硫酸層を分液にて除去し、理論量の5%水酸化ナトリウム水溶液で反応液に溶け込んだ余剰の触媒を中和し、次いで水洗を行い、蒸留によって、エチレングリコールモノイソボルニルエーテル(溶剤1、純度97%)を266g(収率67.2%)得た。
【0043】
合成例2
(溶剤2の合成)
エチレングリコール300gの代わりにジエチレングリコール300g(2.83モル)を用いた以外は合成例1と同様の方法で合成し、ジエチレングリコールモノイソボルニルエーテル(溶剤2、純度97%)を276g(収率57.0%)得た。
【0044】
合成例3
(溶剤3の合成)
エチレングリコール300gの代わりにプロピレングリコール300g(3.95モル)を用いた以外は合成例1と同様の方法で合成し、プロピレングリコールモノイソボルニルエーテル(溶剤3、純度98%)を288g(収率67.9%)得た。
【0045】
合成例4
(溶剤4の合成)
エチレングリコール300gの代わりにジプロピレングリコール300g(2.24モル)を用いた以外は合成例1と同様の方法で合成し、ジプロピレングリコールモノイソボルニルエーテル(溶剤4、純度97%)を269g(収率49.8%)得た。
【0046】
<化合物2の合成>
合成例5〜8は、式(II)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物の合成例である。
合成例5
(溶剤5の合成)
2L反応容器に、エチレングリコール300g(4.84モル)を仕込み、次いで硫酸を15g加え攪拌した。反応容器を50℃まで加熱し、α―ピネン286.3g(ヤスハラケミカル(株)製、商品名α―ピネン、純度95%、4モル)を反応温度が55℃を越えないように徐々に滴下し、滴下終了後、50℃で12時間攪拌した。反応終了後、エチレングリコール/硫酸層を分液にて除去し、理論量の5%水酸化ナトリウム水溶液で反応液に溶け込んだ余剰の触媒を中和し、次いで水洗を行い、蒸留によって、エチレングリコールモノパラメンテニルエーテル(溶剤5、純度95%)を225g(収率58.8%)得た。
【0047】
合成例6
(溶剤6の合成)
エチレングリコール300gの代わりにジエチレングリコール300g(2.83モル)を用いた以外は合成例5と同様の方法で合成し、ジエチレングリコールモノパラメンテニルエーテル(溶剤6、純度96%)を244g(収率50.4%)得た。
【0048】
合成例7
(溶剤7の合成)
エチレングリコール300gの代わりにプロピレングリコール300g(3.95モル)を用いた以外は合成例5と同様の方法で合成し、プロピレングリコールモノパラメンテニルエーテル(溶剤7、純度97%)を255g(収率60.1%)得た。
【0049】
合成例8
(溶剤8の合成)
エチレングリコール300gの代わりにジプロピレングリコール300g(2.24モル)を用いた以外は合成例5と同様の方法で合成し、ジプロピレングリコールモノパラメンテニルエーテル(溶剤8、純度97%)を273g(収率50.6%)得た。
【0050】
(化合物3の合成)
合成例9〜12は、式(III)で表される(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物の合成例である。
合成例9
(溶剤9の合成)
500mLオートクレーブ反応容器に、溶剤5を100g仕込み、次いで5%パラジウム担持活性炭触媒を5g加えた。次いでこれを密閉し、雰囲気を窒素ガスで置換した後、水素ガス0.5kg/cm2 の圧力をかけながら導入した。その後攪拌しながら加熱し50℃となったところで、水素の圧力を2kg/cm2 とし、吸収された水素を補うことで圧力を2kg/cm2 に保ちながら3時間反応させた。反応後は触媒をろ過で除去し、エチレングリコールモノパラメンチルエーテル(溶剤9、純度95%)を98g得た。
【0051】
合成例10
(溶剤10の合成)
溶剤5の代わりに溶剤6を用いた以外は合成例9と同様の方法で合成し、ジエチレングリコールモノパラメンチルエーテル(溶剤10、純度96%)を97g得た。
【0052】
合成例11
(溶剤11の合成)
溶剤5の代わりに溶剤7を用いた以外は合成例9と同様の方法で合成し、プロピレングリコールモノパラメンチルエーテル(溶剤11、純度97%)を99g得た。
【0053】
合成例12
(溶剤12の合成)
溶剤5の代わりに溶剤8を用いた以外は合成例9と同様の方法で合成し、ジプロピレングリコールモノパラメンチルエーテル(溶剤12、純度97%)を96g得た。
【0054】
(バインダー樹脂の溶解性試験:実施例1〜12)
50mL共栓付試験管にポリビニルブチラール(和光純薬製:商品名ポリビニルブチラール2400)5gまたはエチルセルロース(和光純薬製:商品名エチルセルロース45)5gと本発明の各溶剤(溶剤1〜溶剤12)30gを入れ、スターラーで撹拌しながら70℃で2時間加温した。加温終了後室温まで冷却して不溶物の有無、並びに濁りの発生を観察し、完全に溶解したものについては○、濁りの発生が確認されたものについては△、不溶解物が確認されたものについては×とした。その結果を表1に示す。
【0055】
(バインダー樹脂の溶解性試験:比較例1〜5、参考例1〜2)
50mL共栓付試験管にポリビニルブチラール(和光純薬製:商品名ポリビニルブチラール2400)5gまたはエチルセルロース(和光純薬製:商品名エチルセルロース45)5gと各比較溶剤(ターピネオール、ブチルカルビトール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソボルニルエーテル、トリエチレングリコールモノパラメンテニルエーテル)30gを入れ、スターラーで撹拌しながら70℃で2時間加温した。加温終了後室温まで冷却して不溶物の有無、並びに濁りの発生を観察し、完全に溶解したものについては○、濁りの発生が確認されたものについては△、不溶解物が確認されたものについては×とした。その結果を表1に示す。
トリエチレングリコールモノイソボルニルエーテル(参考例1)、トリエチレングリコールモノパラメンテニルエーテル(参考例2)は、n=3の化合物である。
【0056】
(導電性ペーストの調製:実施例1〜12、比較例1〜5、参考例1〜2)
以下の方法で、本発明の導電性ペーストを評価した。
溶剤1〜12および比較例で使用したそれぞれの溶剤20重量部に、エチルセルロース樹脂(和光純薬工業(株)製エチルセルロース)5重量部を溶解させ、有機ビヒクルを調合した。次に、この有機ビヒクル25重量部と、銀粉末(平均粒子径2μm)90重量部、ガラスフリット(ホウケイ酸ガラス系、平均粒子径2μm)10重量部を混練して、導電性ペースト(実施例1〜12、比較例1〜5、参考例1〜2)を作製した。
【0057】
(微細配線印刷性)
アルミナ基板に、スクリーン印刷機を用いて、実施例1〜12、比較例1〜5、及び参考例1〜2で得られた上記記載の導電性ペーストをライン/スペース=25μm/50μm、50μm/75μmのラインパターンで50ショット印刷し、50ショット目に得られたラインパターンの評価を行った。評価については、ライン/スペース=25μm/50μmのラインが正確に引けていたものを○、ライン/スペース=25μm/50μmでは断線や隣接ラインへの接触が生じたが、ライン/スペース=50μm/75μmのラインが正確に引けていたものを△、ライン/スペース=50μm/75μmのラインで断線や隣接ラインへの接触が認められたものを×とした。結果を表1に示す。
【0058】
(乾燥工程後の印刷物性状)
実施例1〜12、比較例1〜5、及び参考例1〜2で得られた上記記載の導電性ペーストを50μm/100μmの線幅で10ラインスクリーン印刷し、そのシートを150℃で10分間乾燥させた。乾燥後、ラインを筆で刷き、ラインの乱れが生じたものを×、乱れが生じなかったものを○とした。結果を表1に示す。
【0059】
(電気的特性)
実施例1〜12、比較例1〜5、及び参考例1〜2で得られた上記記載の導電性ペーストを50μm/100μmの線幅で10ラインスクリーン印刷し、そのシートを150℃で10分間乾燥させた後、大気炉にて900℃で2時間焼成した。その後形成された焼結膜にデジタルテスタ(カスタム社製、CDM−6000)を用いて電気抵抗値を測定した。最大値と最小値について、結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、本発明の溶剤(実施例1〜12)は従来の金属ペースト用溶剤として使用されているターピネオールやブチルカルビトールなど(比較例1〜5)と比較して微細印刷性が優れていることが明らかである。また、本発明の溶剤(実施例1〜12)は、従来溶剤(比較例1〜5)と比較して、焼成後にも抵抗値のばらつきが少なく安定していることが明らかである。従って、これら溶剤を用いた導電性ペースト(実施例1〜12)は、従来のもの(比較例1〜5)と比較して、断線や線幅の乱れが生じず、また焼結後でも電気的特性の低下が発生しにくいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、微細配線を印刷する際に好適に用いることのできる導電性ペーストを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、導電性粉末、および溶剤を含む導電性ペーストにおいて、溶剤成分として、(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物を含有することを特徴とした導電性ペースト。
【請求項2】
バインダー樹脂がエチルセルロースまたはポリビニルブチラールである請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物が下記式(I)で表される化合物である請求項1または2記載の導電性ペースト。
【化1】

〔ただし、式(I)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH, nは1〜2である。〕
【請求項4】
(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物が下記式(II)で表される化合物である請求項1または2記載の導電性ペースト。
【化2】

〔ただし、式(II)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH, nは1〜2である。〕
【請求項5】
(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物が下記式(III)で表される化合物である請求項1または2記載の導電性ペースト。
【化3】

〔ただし、式(III)において、R1およびR2は、各々、独立してHまたはCH, nは1〜2である。〕
【請求項6】
微細配線印刷用である請求項1から5いずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
バインダー樹脂、導電性粉末、および溶剤を含む導電性ペーストを製造するための原料であり、溶剤成分として(ポリ)アルキレングリコールモノテルペンエーテル化合物からなる導電性ペースト製造用原料。
【請求項8】
さらに、バインダー樹脂を含む、請求項7記載の導電性ペースト製造用原料。
【請求項9】
請求項1から6いずれかに記載の導電性ペーストを用いて、基板に微細配線を印刷する、配線基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−181988(P2012−181988A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43617(P2011−43617)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】