説明

導電性ポリアニリン組成物とその製造方法

【課題】耐水性にすぐれる導電性ポリアニリン組成物の製造方法とそのような導電性ポリアニリン組成物からなるフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、式(I)
【化1】


で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンを化学酸化又は電解酸化しながら、これをフェノールスルホン酸ノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリン組成物の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、上記イミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンのフィルムに酸化剤の存在下にフェノールスルホン酸ノボラック樹脂の水溶液を接触させて、上記ポリアニリンを上記ノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリンフィルムの製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性と耐熱性にすぐれた導電性ポリアニリン組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンとドーパントからなる導電性ポリアニリン組成物は、近年、注目を集めており、種々の分野で用いられている。例えば、アルミニウム電解コンデンサやタンタル電解コンデンサにおける固体電解質膜として、上記ポリアニリン導電性組成物からなるフィルムを用いることが記載されている(特許文献1参照)。即ち、ポリアニリン溶液を誘電体皮膜上に塗布し、乾燥させて、ポリアニリンフィルムとした後、これにプロトン酸をドーピングすることによって、周波数特性にすぐれた電解コンデンサを得ることができることが記載されている。ポリアニリン導電性組成物は、このほかにも、帯電防止材料、電磁波シールド材料、磁気記録媒体、フィルムコンデンサ、電池等、多くの分野で実用化が検討されている。
【0003】
また、ポリアニリンは、ドーパントを適宜に選択することによって、際立って高い耐熱性を有することも見出されている。例えば、カルボキシル基を有する脂肪族モノスルホン酸をドーパントとするポリアニリン組成物は、非常に高い耐熱性を示し、125℃で650時間放置しても、電導度の低下は当初の値の1/10以内であることが記載されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかし、耐熱性と共に、実用面から重要な耐水性においては、導電性ポリアニリン組成物は必ずしも十分ではないことが、従来、指摘されている。そこで、ドーパントとして、ポリマースルホン酸を用いることが提案されており、これによれば、低分子化合物であるスルホン酸を用いた場合に比べて、耐水性が改善された導電性ポリアニリン組成物を得ることができることが既に知られている(特許文献3参照)。
【0005】
例えば、ポリマースルホン酸であるポリビニルスルホン酸をドーパントとして用いるとき、確かに、低分子スルホン酸化合物を用いる場合に比べれば、得られるポリアニリン組成物は、耐水性は明らかに向上しているが、しかし、長期間、水に浸漬すると、ある程度の電導度の低下が避けられない。この電導度の低下の程度は、500時間の水への浸漬によって、当初の値の約1/400となる。
【特許文献1】特開平03−035516号公報
【特許文献2】特開平10−036667号公報
【特許文献3】特開平03−028229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性ポリアニリン組成物における上述した問題を解決するためになされたものであって、耐水性と耐熱性にすぐれる導電性ポリアニリン組成物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンがフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングされてなることを特徴とする導電性ポリアニリン組成物が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記式(I)で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンを化学酸化又は電解酸化しながら、これをフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリン組成物の製造方法が提供される。
【0011】
更に、本発明によれば、上記式(I)で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンのフィルムに酸化剤の存在下にフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂の水溶液を接触させて、上記ポリアニリンを上記ノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリンフィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って、還元脱ドープ状態のポリアニリンにフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂をドーピングして得られる導電性ポリアニリン組成物とそのフィルムは、すぐれた耐水性と耐熱性を有しており、種々の分野において、導電性高分子材料として好適に用いることができる。特に、本発明による導電性ポリアニリン組成物は、例えば、アルミニウム電解コンデンサやタンタル電解コンデンサにおける陰極材料として好適に用いることができ、このほか、帯電防止材、有機エレクトロルミネッセンス用電極、電磁波シールド材、防食材等、種々の用途において耐水性と耐熱性を有する材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による導電性ポリアニリン組成物は、式(I)
【0014】
【化2】

【0015】
で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンがフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングされてなる。このような導電性ポリアニリン組成物は、本発明に従って、上記式(I)で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンを化学酸化又は電解酸化しながら、これをフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングすることによって得ることができる。
【0016】
上記式(I)で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンは、特開平3−52929号公報に記載されているように、既に、知られているものであって、先ず、プロトン酸にてドーピングされた導電性ポリアニリン組成物を製造し、これを脱ドーピングして、有機溶剤に可溶性の酸化脱ドープ状態のポリアニリンとし、その後、この酸化脱ドープ状態のポリアニリンを還元することによって得ることができる。
【0017】
即ち、適宜のプロトン酸、例えば、硫酸の存在下に適宜の溶剤中、例えば、水やメタノール中にて、アニリンにペルオキソ二硫酸アンモニウムのような酸化剤を反応させ、析出した粉末を濾取することによって、上記プロトン酸でドーピングされた導電性ポリアニリン組成物を得る。次いで、この粉末を、例えば、アンモニアのようなアルカリ物質の水溶液に加えて、導電性ポリアニリン組成物を中和(即ち、脱ドーピング)することによって、一般式(IV)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、m及びnはそれぞれ繰り返し単位中のキノンジイミン構造単位及びフェニレンジアミン構造単位のモル分率を示し、0<m≦1、0≦n<1、m+n=1である。)
で表される有機溶剤に可溶性の酸化脱ドープ状態のポリアニリンの粉末を得る。以下、このようなポリアニリンを「酸化脱ドープ状態のポリアニリン」ということとする。
【0020】
このようにして得られる酸化脱ドープ状態のポリアニリンは、高分子量を有し、しかも、種々の有機溶剤に溶解する。通常、N−メチルピロリドン中、30℃で測定した極限粘度〔η〕が0.40dL/g以上を有し、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の有機溶剤に溶解する。このような有機溶剤への脱ドープ状態のポリアニリンの溶解度は、その平均分子量や溶剤にもよるが、通常、ポリアニリンの0.5〜100%が溶解し、1〜30重量%濃度の溶液を得ることができる。特に、この脱ドープ状態のポリアニリンは、N−メチル−2−ピロリドンに高い溶解性を示し、通常、ポリアニリンの20〜100%が溶解し、3〜30重量%溶液を得ることができる。
【0021】
次いで、このような酸化脱ドープ状態のポリアニリンのキノンジイミン構造を完全に還元すれば、特開平3−52929号公報に記載されているように、前記式(I)で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンを得ることができる。以下、このようなポリアニリンを「還元脱ドープ状態のポリアニリン」ということとする。
【0022】
このような還元脱ドープ状態のポリアニリンも、通常、N−メチルピロリドン中、30℃で測定した極限粘度〔η〕が0.40dL/g以上を有し、前記酸化脱ドープ状態のポリアニリンに比べて、一層、多様な有機溶剤に可溶性である。例えば、酸化脱ド−プ状態のポリアニリンに比べて、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤に一層よく溶解する。
【0023】
上記酸化脱ドープ状態のポリアニリンを還元するための還元剤としては、フェニルヒドラジン、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン化合物、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム等の還元性水素化金属化合物等が好適に用いられる。還元反応後に残渣を生じないので、ヒドラジン水和物又はフェニルヒドラジンが還元剤として特に好ましく用いられる。
【0024】
上記酸化脱ドープ状態のポリアニリンを上記還元剤にて還元する方法は、通常の還元反応の方法によればよく、特に、限定されるものではない。例えば、酸化脱ドープ状態のポリアニリンをN−メチル−2−ピロリドンのような有機溶剤に溶解させ、この溶液に上記還元剤を加える方法、還元剤をN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の有機溶剤に溶解させ、この溶液に上記酸化脱ドープ状態のポリアニリンを加える方法、上記酸化脱ドープ状態のポリアニリンを非溶剤に分散させ、不均一系にて還元反応を行う方法等によることができる。
【0025】
上記還元反応は、酸化脱ドープ状態のポリアニリンを通常、0.1〜15重量%、好ましくは、0.5〜10重量%含有する溶液中にて行われる。還元剤は、酸化脱ドープ状態のポリアニリンにおけるキノンジイミン量に対して通常、当量を用いればよいが、反応の進行を早めるために、当量を越える量を用いることもできる。
【0026】
しかし、このように、過剰の還元剤を用いた場合、得られた還元脱ドープ状態のポリアニリンを溶液状態にて、そのまま、ドーピングすると、好ましくない副反応を起こしたり、また、還元脱ドープ状態のポリアニリンの溶液の長期保存時に、ポリマー鎖の切断による分子量低下を引き起こすことがある。従って、過剰の還元剤を用いたときは、得られた還元脱ドープ状態のポリアニリンを再沈殿法にて分離精製し、この後にドーピングするのが望ましい。
【0027】
本発明による導電性ポリアニリン組成物は、このような還元脱ドープ状態のポリアニリンがフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングされてなるものである。このような導電性ポリアニリン組成物は、本発明に従って、上記還元脱ドープ状態のポリアニリンを酸化しながら、これをフェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂から選ばれる少なくとも1種のノボラック樹脂にてドーピングすることによって得ることができる。
【0028】
上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂は、好ましくは、一般式(II)
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、R1 は、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を示す。)
で表される。特に、限定されるものではないが、本発明によれば、上記一般式(II)で表されるフェノールスルホン酸ノボラック樹脂のなかでも、R1 が水素原子であり、スルホン酸基の置換位置が水酸基に対してパラ位であるp−フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
また、上記ナフトールスルホン酸ノボラック樹脂は、好ましくは、一般式(III)
【0032】
【化5】

【0033】
(式中、R2 及びR3 は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、p及びqは、それぞれ独立に0、1又は2の整数である。但し、p及びqは同時には0ではない。)
で表される。
【0034】
特に、限定されるものではないが、本発明によれば、上記一般式(III) で表されるナフトールスルホン酸ノボラック樹脂のなかでも、例えば、1−ナフトール−4−スルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、1−ナフトール−8−スルホン酸等のような1−ナフトールスルホン酸や、1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、1−ナフトール−3,8−ジスルホン酸等のような1−ナフトールジスルホン酸ノボラック樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
本発明においては、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂及びナフトールスルホン酸ノボラック樹脂はそれぞれ、アルカリ金属塩やアンモニウム塩、有機アミン塩等を含むものとする。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩を挙げることができ、有機アミン塩としては、例えば、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩等を挙げることができるが、しかし、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明において、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂やナフトールスルホン酸ノボラック樹脂は、その分子量において、特に、限定されるものではないが、通常、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを標準ポリマーとして、GPCにて測定した重量平均分子量が2000から800000の範囲が好ましい。フェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の分子量が2000よりも小さいときは、得られる導電性ポリアニリン組成物が耐水性において十分に改善されず、他方、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の分子量が800000よりも大きいときは、後述するように、ドーピングに用いるフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の水溶液の粘度が高すぎて、ポリアニリンをドーピングし難い。
【0037】
本発明によれば、還元脱ドープ状態のポリアニリンにフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂をドーピングするには、好ましくは、ポリアニリンに酸化剤の存在下で上記ノボラック樹脂を作用させてドーピングを行う。また、酸化剤を用いる代わりに、還元脱ドープ状態のポリアニリンを電解用電極を用いて電解酸化しつつ、上記ノボラック樹脂を作用させることによっても、ポリアニリンをドーピングすることができる。
【0038】
このように、ポリアニリンを酸化しつつ、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂によってポリアニリンをドーピングすることを本明細書において「酸化ドーピング」ということとする。本発明によれば、還元脱ドープ状態のポリアニリンにこのような酸化ドーピングを行うことによって、非常に速やかにポリアニリンをドーピングして、上記ノボラック樹脂をドーパントとして有する導電性ポリアニリン組成物を得ることができる。
【0039】
このような酸化ドーピングにおいては、ポリアニリンが酸化されて、その窒素原子上の非共有電子対の1つが奪われて、窒素原子上に正電荷が生じ、次いで、この正電荷に反応系中に存在するプロトン酸アニオンが接近して、上記正電荷を打消し、かくして、電気的な中性を保つとみられ、これによって、ポリアニリンの上記窒素原子はカチオンラジカルとなる。このように、ポリアニリンは前述したと同様のセミキノンカチオンラジカル構造を有して、導電性を有することとなる。
【0040】
【化6】

【0041】
上記酸化ドーピングに用いる酸化剤としては、還元脱ドープ状態のポリアニリンを酸化できるものであれば、特に、制限されることはないが、例えば、塩化第二鉄、過塩素酸第二鉄、シュウ酸第二鉄等の第二鉄塩類、塩化第二銅、過塩素酸第二銅等の第二銅塩、塩化第一銅(空気酸化)や、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、重クロム酸カリウム等の重クロム酸塩類、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩、ヨウ素酸ナトリウム等のヨウ素酸塩類、塩素酸ナトリウム等の塩素酸塩、過酸化水素、二酸化マンガン、硝酸セリウムアンモニウム、酸化鉛、キノン系酸化剤等を挙げることができる。キノン系酸化剤の具体例としては、p−ベンゾキノン、o−ベンゾキノン、p−トルキノン、1,2−ナフトキノン、1,4−ナフトキノン、ジフェノキノン、クロラニル、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン、テトラシアノキノジメタン、1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸ナトリウム、1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸ナトリウム、テトラフルオロ−p−ベンゾキノン等を挙げることができる。
【0042】
本発明によれば、還元脱ド−プ状態のポリアニリンの酸化ドーピングに際して、必ずしもポリアニリンのすべてのイミノ−p−フェニレン構造単位を酸化する必要はないので、上述した酸化剤の使用量も、特に限定されるものではない。しかし、通常、酸化剤は、ポリアニリンの有するイミノ−p−フェニレン構造単位に対して、1/10当量から大過剰まで、適宜に用いられる。また、酸化剤は、通常、0.1〜30重量%濃度の溶液、好ましくは、水溶液として用いられる。酸化剤の濃度が余りに小さいときは、ポリアニリンの酸化ドーピングに徒に長時間を必要とし、他方、酸化剤の濃度が余りに大きいときは、ポリアニリンの酸化ドーピングに際して、ポリアニリン分子鎖の切断が起こって、ポリアニリンの分子量が低下する等、ポリアニリンの劣化を招くからである。
【0043】
本発明によれば、還元脱ド−プ状態のポリアニリンのドーピングにおいて、用いるフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の水溶液の濃度は、特に、限定されるものではなく、通常、2〜50重量%の範囲である。
【0044】
還元脱ドープ状態のポリアニリンのドーピングは、室温下でも行うことができる。しかし、50〜100℃の加熱下のドーピングによれば、室温でのドーピングに比べて、処理に要する時間を短縮することができる。
【0045】
ドーピングに要する時間は、得られるポリアニリンの電導度を測定して、適宜に定められるが、通常、10分から10時間程度の範囲である。還元脱ドープ状態のポリアニリンの粉末をフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の水溶液に加えて、ドーピングする場合は、最初、粉末は薄青色であるが、ドーピングによって黒緑色になる。
【0046】
還元脱ドープ状態のポリアニリンは、前述したように、種々の有機溶剤に可溶性であるので、これを適宜の有機溶剤に溶解し、適宜の基材上に流延(キャスティング)し、適宜の温度、例えば、50〜150℃の範囲の温度に加熱、乾燥して、自立性フィルムとし、このフィルムを酸化ドーピングすることによって、導電性ポリアニリンからなるフィルムを得ることができる。例えば、適宜の酸化剤と共にフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂を含む水溶液をドーピング処理液として調製し、これに上記ポリアニリンフィルムを浸漬するか、又はフィルムに上記処理液を塗布した後、必要に応じて、適当な溶剤にてフィルムを洗浄することによって、導電性ポリアニリンフィルムを得ることができる。
【0047】
このように、還元脱ドープ状態のポリアニリンからなるフィルムを酸化ドーピングするときは、最初、薄青色であったフィルムがドーピング後には黒青色に変化する。これに伴って、フィルムの電導度は、ドーピング前には10-10 S/cm程度であるが、ドーピング後には、100 から102 S/cmもの高い電導度を有するようになる。
【0048】
このようにして得られる導電性ポリアニリン組成物は、ドーパントであるフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂に由来するスルホン酸イオンを、通常、ポリアニリン中のアニリン単位のモル数の15〜75%の範囲にて含む。本発明によれば、導電性ポリアニリン組成物においては、ポリアニリンの有する窒素原子のすべての15〜75%がカチオンラジカルとなり、この窒素原子にドーパント由来のアニオン(スルホン酸イオン)が同数、イオン結合している。ポリアニリンの電導度が最も高くなるのは、ポリマー中のアニリン単位の50モル%がこのようにドーピングされたときである。
【0049】
本発明による導電性ポリアニリン組成物とそのフィルムは、非常に高い耐水性を示す。従来、ポリアニリンにポリビニルスルホン酸をドーピングしてなる導電性ポリアニリン組成物は、比較的高い耐水性を有するものとして知られているが、それでも、蒸留水中に500時間、浸漬すれば、その電導度は、初期の値の1/400程度まで低下する。これに対して、本発明に従って、ポリアニリンにフェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂をドーピングしてなる導電性ポリアニリン組成物は、蒸留水に500時間、浸漬しても、その電導度の低下は初期の値の1/10以内である。
【0050】
本発明による導電性ポリアニリン組成物とそのフィルムがこのように高い耐水性を有する理由は必ずしも明らかではなく、また、本発明は、理論によって何ら制約を受けるものではないが、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂又はナフトールスルホン酸ノボラック樹脂の有するフェノール性水酸基がポリアニリンとの相互作用を強める結果、ドーパントである上記ノボラック樹脂のポリアニリンからの脱離、即ち、脱ドープを抑制するためであるとみられる。
【0051】
更に、本発明による導電性ポリアニリン組成物とそのフィルムは、耐熱性においてもすぐれており、ポリビニルスルホン酸をドーパントとして有し、従来、比較的高い耐熱性を有するものとして知られている導電性ポリアニリン組成物やそのフィルムとほぼ同等の耐熱性を有している。
【実施例】
【0052】
以下に参考例と共に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定を受けるものではない。
【0053】
参考例1
(アニリンの酸化重合による導電性ポリアニリン組成物の製造)
攪拌装置、温度計及び直管アダプターを備えた10L容量セパラブルフラスコに蒸留水6000g、36%塩酸360mL及びアニリン400g(4.295モル)をこの順序にて仕込み、アニリンを溶解させた。別に、氷水にて冷却しながら、ビーカー中の蒸留水1493gに97%濃硫酸434g(4.295モル)を加え、混合して、硫酸水溶液を調製した。この硫酸水溶液を上記セパラブルフラスコに加え、フラスコ全体を低温恒温槽にて−4℃まで冷却した。次に、ビーカー中にて蒸留水2293gにペルオキソ二硫酸アンモニウム980g(4.295モル)を加え、溶解させて、酸化剤水溶液を調製した。
【0054】
フラスコ全体を低温恒温槽で冷却して、反応混合物の温度を−3℃以下に保持しつつ、攪拌下にアニリン塩の酸性水溶液に、チュービングポンプを用いて、直管アダプターから上記ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を1mL/分以下の割合にて徐々に滴下した。最初、無色透明の溶液は、重合の進行に伴って緑青色から黒緑色となり、次いで、黒緑色の粉末が析出した。
【0055】
この粉末析出時に反応混合物において温度の上昇がみられるが、この場合にも、本発明に従って、高分子量のポリアニリンを得るためには、反応系内の温度を0℃以下、好ましくは、−3℃以下に抑えることが肝要である。粉末析出後は、ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を例えば8mL/分程度とやや速くしてもよい。しかし、この場合にも、反応混合物の温度をモニターしつつ、温度を−3℃以下に保持するように、滴下速度を調整することが必要である。かくして、7時間を要して、ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液の滴下を終了した後、更に1時間、−3℃以下の温度にて攪拌を続けた。
【0056】
得られた粉末を濾別し、水洗、アセトン洗浄し、室温で真空乾燥して、黒緑色の導電性ポリアニリン組成物の粉末430gを得た。これを直径13mm、厚さ700μmのディスクに加圧成形し、ファン・デル・ポー法によって、その電導度を測定したところ、14S/cmであった。
【0057】
(導電性ポリアニリン組成物の脱ドーピングによる有機溶剤に可溶性の酸化脱ドープ状態のポリアニリンの製造)
上記ドープされている導電性ポリアニリン組成物の粉末350gを2Nアンモニア水4L中に加え、オートホモミキサーにて回転数5000rpmにて5時間攪拌した。混合物は、黒緑色から青紫色に変化した。
【0058】
ブフナー漏斗にて粉末を濾別し、ビーカー中にて攪拌しながら、蒸留水にて濾液が中性になるまで繰り返して洗浄し、続いて、濾液が無色になるまでアセトンにて洗浄した。この後、粉末を室温にて10時間真空乾燥して、黒褐色の酸化脱ドープ状態のポリアニリンの粉末280gを得た。
【0059】
この酸化脱ドープ状態のポリアニリンはN−メチル−2−ピロリドンに可溶性であって、溶解度は同溶剤100gに対して8g(7.4%)であった。また、これを溶剤として30℃で測定した極限粘度〔η〕は1.23dL/gであった。また、このポリアニリンは、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドには1%以下の溶解度であった。テトラヒドロフラン、ピリジン、80%酢酸水溶液、60%ギ酸水溶液及びアセトニトリルには実質的に溶解しなかった。
【0060】
更に、上記酸化脱ドープ状態のポリアニリンについて、N−メチル−2−ピロリドン用のGPCカラムを用いて、GPC測定を行った結果、数平均分子量23000、重量平均分子量160000(いずれも、ポリスチレン換算)であった
【0061】
(還元脱ドープ状態のポリアニリンの製造)
上述したようにして得られた酸化脱ドープ状態のポリアニリンの粉末2.5gをN−メチル−2−ピロリドン97.5gに加え、攪拌下に溶解させた。この溶液にフェニルヒドラジン0.82gを徐々に加えた。このとき、溶液は、濃青色から淡黒褐色に変色し、同時に、窒素ガスの発生が確認された。
【0062】
反応終了後、反応混合物を窒素置換したアセトン1.5L中に滴下したところ、灰白色の沈殿が得られた。この沈殿をガラスフィルターにて濾別し、窒素置換したアセトンにて数回洗浄した後、室温にて減圧乾燥して、イミノ−p−フェニレン構造単位からなる還元脱ドープ状態のアニリン2.3gを灰白色粉末として得た。このポリアニリンのN−メチル−2−ピロリドン中、30℃で測定した極限粘度〔η〕は1.1dL/gであった。
【0063】
実施例1
参考例1で得られた還元脱ドープ状態のポリアニリン粉末10gをN−メチル−2−ピロリドン90gに溶解し、10重量%溶液を調製した。A4サイズのガラス板の両端に厚み120μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂製粘着テープを4枚重ねて貼って土手を作り、ここに上記ポリアニリンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を流延した。ガラス棒にてしごいた後、熱風循環式乾燥機に入れて、80℃にて1時間乾燥させた。かくして得られたポリアニリンフィルムをガラス板から剥がした。このフィルムから1cm四方のフィルム4枚を切り出した。このようにして得られたフィルムの厚みは38μmであった。
【0064】
p−フェノールスルホン酸ノボラック樹脂水溶液(小西化学工業(株)製、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム標準のGPCによる樹脂の重量平均分子量20000)を用い、エバポレーターにて水飴状態になるまで濃縮した。これにエタノールを加えて固形分濃度20重量%に調整した後、p−ベンゾキノンを加え、溶解させて、ベンゾキノン濃度として2.5重量%の溶液を調製し、これを酸化ドーピング用処理液とした。
【0065】
50mL容量のガラス製サンプル管に上記ドーピング用処理液30gを入れ、これに上記還元脱ドープ状態のポリアニリンフィルム4枚を浸漬して、室温で放置した。30分後及び1時間後に上記ポリアニリンフィルムをそれぞれ2枚ずつ取り出し、メタノール30mLにて3回洗浄して、フィルムの表面に付着したフェノールスルホン酸ノボラック樹脂と酸化剤p−ベンゾキノンを除いた後、80℃の乾燥機中で30分間乾燥した。
【0066】
このようにして得られたそれぞれのフィルムの電導度をファン・デル・ポー法にて測定した。ドーピング処理を30分間行った2枚のポリアニリンフィルムA及びBの電導度はそれぞれ、4.2S/cm及び5.3S/cmであり、ドーピング処理を1時間行った2枚のポリアニリンフィルムC及びDの電導度はそれぞれ、8.9S/cm及び10.1S/cmであった。そこで、耐水性試験として、上記4枚のフィルムのうち、A及びCを20mL容量のガラス製サンプル管中の蒸留水15mLに542時間浸漬した後、取り出して、その電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分行ったフィルムAの電導度は2.1S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムCの電導度は8.2S/cmであった。
【0067】
次いで、耐熱性試験として、上記4枚のフィルムのうち、B及びDをそれぞれ10cm角のガラス板に2mm幅のポリテトラフルオロエチレン樹脂製粘着テープで十字に貼り付け、125℃の熱風循環乾燥機中に入れ、542時間後に取りだして、電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分行ったフィルムCの電導度は1.1S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムDの電導度は5.8S/cmであった。
【0068】
このように、いずれのフィルムも、耐水性試験と耐熱性試験の後、その電導度は、初期の電導度から殆ど変化しておらず、本発明による導電性ポリアニリンフィルムが高い耐水性と耐熱性を有することが示された。
【0069】
比較例1
アルドリッチ製ポリビニルスルホン酸ナトリウム水溶液を強酸性カチオン交換樹脂ダウエックスW−50X12(ダウケミカル製)によりイオン交換して、遊離酸型にした20重量%ポリビニルスルホン酸水溶液を得た。
【0070】
このポリビニルスルホン酸水溶液をドーパント溶液として用いた以外は、実施例1と全く同様にして、ポリビニルスルホン酸をドーパントとする導電性ポリアニリンフィルム4枚を調製した。ドーピング処理を30分行った2枚のポリアニリンフィルムA及びBの電導度はそれぞれ18.8S/cm及び15.3S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムC及びDの電導度はそれぞれ、26.7S/cm及び30.3S/cmであった。
【0071】
そこで、耐水性試験として、上記4枚のフィルムのうち、フィルムA及びCを20mL容量のガラス製サンプル管中の蒸留水15mLに542時間浸漬した後、取り出して、電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分間行ったフィルムAの電導度は4.4×10-2 S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムCの電導度は7.1×10-2 S/cmであった。従って、耐水性試験後のフィルムの電導度は、初期の電導度の約1/400であった。
【0072】
また、耐熱性試験として、上記4枚のフィルムのうち、フィルムB及びDを10cm角のガラス板上に2mm幅のポリテトラフルオロエチレン樹脂製粘着テープで十字に貼り付け、125℃の熱風循環乾燥機中に入れ、542時間後に取り出し、電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分間行ったフィルムBの電導度は1.2S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムDの電導度は3.3S/cmであった。従って、耐熱性試験後の電導度は、初期の電導度の約1/10であった。
【0073】
実施例2
実施例1において、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂水溶液の代わりに、1−ナフトール−4−スルホン酸ノボラック樹脂(小西化学工業(株)製、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム標準のGPCによる樹脂の重量平均分子量30000)を用いると共に、酸化剤として、p−ベンゾキノンに代えて、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノンを用いた以外は、実施例1と同様にして、1−ナフトール−4−スルホン酸ノボラック樹脂をドーパントとする導電性ポリアニリンフィルム4枚を得た。この導電性ポリアニリンフィルムの電導度をファン・デル・ポー法によって測定したところ、ドーピング処理を30分間行った2枚のポリアニリンフィルムA及びBの電導度はそれぞれ、1.2S/cmと2.2S/cmであり、ドーピング処理を1時間行った2枚のポリアニリンフィルムC及びDの電導度はそれぞれ、3.4S/cmと4.1S/cmであった。
【0074】
そこで、耐水性試験として、上記4枚のフィルムのうち、フィルムA及びCをそれぞれ20mL容量のガラス製サンプル管中の蒸留水15mLに508時間浸漬した後、取り出して、電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分間行ったフィルムAの電導度は0.78S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムCの電導度は2.1S/cmであった。
【0075】
次に、耐熱性試験として、上記4枚のフィルムのうち、フィルムB及びDを10cm角のガラス板上に2mm幅のポリテトラフルオロエチレン樹脂製粘着テープで十字に貼り付け、125℃の熱風循環乾燥機中に入れ、508時間後に取り出し、電導度を測定したところ、ドーピング処理を30分間行ったフィルムBの電導度は0.54S/cmであり、ドーピング処理を1時間行ったフィルムDの電導度は2.8S/cmであった。
【0076】
このように、本発明による導電性ポリアニリンフィルムは、耐水性試験、耐熱性試験のいずれの後も、電導度は、その電導度は初期の値と殆ど変わらず、高い耐水性と耐熱性を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンを化学酸化又は電解酸化しながら、これをフェノールスルホン酸ノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリン組成物の製造方法。
【請求項2】
フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が一般式(II)
【化2】

(式中、R1 は、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を示す。)
で表されるものである請求項1に記載の導電性ポリアニリン組成物の製造方法。
【請求項3】
式(I)
【化3】

で表されるイミノ−p−フェニレン構造単位からなるポリアニリンのフィルムに酸化剤の存在下にフェノールスルホン酸ノボラック樹脂の水溶液を接触させて、上記ポリアニリンを上記ノボラック樹脂にてドーピングすることを特徴とする導電性ポリアニリンフィルムの製造方法。
【請求項4】
フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が一般式(II)
【化4】

(式中、R1 は、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を示す。)
で表されるものである請求項3に記載の導電性ポリアニリンフィルムの製造方法。


【公開番号】特開2007−277569(P2007−277569A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144659(P2007−144659)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【分割の表示】特願2002−186980(P2002−186980)の分割
【原出願日】平成14年6月26日(2002.6.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】