説明

導電性ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体

【課題】機械的特性、耐熱性、導電性に優れつつも、成形性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部および導電性付与剤5〜50質量部を含有する導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドを構成するジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計を用いて測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6T、ポリアミド9Tに代表される半芳香族ポリアミドは、耐熱性や機械的特性に優れることから、電気・電子、自動車等の広範な分野に用いられている。近年、これらの分野の中でも、燃料電池のセパレータ用途等においては、導電材を分散して用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−222937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物に用いられているポリアミド9Tには、1,9−ノナンジアミンの他に、2−メチルー1,8−オクタンジアミンが共重合されている。そのため、金型内での結晶化時間が長くなる、すなわち、成形サイクルが長くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、優れた機械的特性、耐熱性、導電性に加えて、成形性にも優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部および導電性付与剤5〜50質量部を含有する導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドを構成するジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計を用いて測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。
(2)ポリアミドが、分子量140以上のモノカルボン酸により末端封鎖されていることを特徴とする(1)に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミドを構成するジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする(1)または(2)に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
(4)ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
(5)導電性付与剤がカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の導電性半芳香族ポリアミドが有する優れた機械的特性、耐熱性、導電性に加えて、成形性にも優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリアミドは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とから構成される。本発明においては、高結晶性の点から、特定の化学構造を有するジカルボン酸成分とジアミン成分とを用いることが必要である。
【0009】
ポリアミドを構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分として用いる必要がある。テレフタル酸は芳香族ジカルボン酸の中でも化学構造の対称性が高いため、高い結晶性を有し、成形性が良好なポリアミドを得ることができる。
【0010】
ポリアミドを構成するジアミン成分は、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンの群から選ばれた1種以上を主成分として用いる必要がある。1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンは、直鎖脂肪族ジアミンであり、化学構造の対称性が高いため、これらのモノマーを用いることで、高い結晶性を有し、成形性が良好なポリアミドを得ることができる。
【0011】
ジアミン成分の主成分のジアミンの炭素数は、偶数であることが必要である。一般的に、ポリアミドにおいては、いわゆる偶奇効果が発現し、用いられるジアミン成分のモノマー単位の炭素数が偶数である場合の方が、炭素数が奇数である場合よりも、より安定な結晶構造をとり、結晶性が向上するためである。
【0012】
ジアミン成分の主成分のジアミンの炭素数は、8、10、12である必要がある。ジアミンの炭素数が8未満の場合、得られるポリアミドの融点が340℃を超え、アミド結合の分解温度を上回るため好ましくない。一方、ジアミンの炭素数が12を超える場合、得られるポリアミドの耐熱性が不足するため好ましくない。なお、偶奇効果により、ジアミンの炭素数が9、11であるポリアミドは、ジアミンの炭素数が8、10、12であるポリアミドよりも結晶性が低い。
【0013】
本発明で用いるポリアミドには、主成分となるテレフタル酸成分以外の他のジカルボン酸成分、および/または炭素数が8、10または12である直鎖脂肪族ジアミン成分以外の種類の他のジアミン成分(以下、「共重合成分」と略称する場合がある。)が共重合されていてもよい。共重合成分は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に共重合成分を含まないことがより好ましい。共重合成分を5モル%以下とすることで、結晶性を向上させることができる。
【0014】
他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0015】
他のジアミン成分としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。なお、上記に列挙された1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−オクタンジアミンのいずれかは、本発明のポリアミドに必須のジアミン成分である。1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかを必須のジアミン成分として用いた場合には、それ以外のジアミン成分が共重合成分として用いられる。例えば、1,8−オクタンジアミンを必須のジアミン成分として用いる場合には、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンが共重合成分として用いられる。
【0016】
ポリアミドには、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸や11−アミノウンデカン酸等のω−アミノカルボン酸を共重合させてもよい。
【0017】
ポリアミドの重量平均分子量は、15000〜50000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましく、26000〜50000であることがさらに好ましい。ポリアミドの重量平均分子量を15000〜50000とすることで、射出成形時の流動性を維持しつつも、機械的特性を向上させることができる。
【0018】
ポリアミドの相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易なポリアミドを得ようとすれば、相対粘度を2.0以上とすることが好ましい。
【0019】
本発明で用いるポリアミドは、トリアミン量が十分に低減されていることが好ましい。ポリアミドは、重合時におけるジアミン同士の縮合反応により、トリアミン構造が副生し易い。トリアミン量が多いと、分子鎖中に架橋構造が生成し、その架橋構造は分子鎖の動きや配列を束縛するため、結晶性が低下する。また、トリアミン量が多いと、ゲルが多く発生するため、得られる成形体の表面にフィッシュアイやブツとして存在し、表面外観を損ねる原因となることがある。そのため、ポリアミド中に含まれるトリアミン単位は、ジアミン単位の0.3モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以下であることがより好ましく、0.12モル%以下であることがさらに好ましく、0.10モル%以下であることが特に好ましい。ポリアミド中のトリアミン構造がジアミン単位の0.3モル%を超える場合には、結晶性が低下したり、ゲルが発生して得られる成形体の表面平滑性を損ねたり、色調が低下することがある。
【0020】
トリアミン単位をジアミン単位の0.3モル%以下とするためには、テレフタル酸成分とジアミン成分とから塩を生成する際、水や有機溶剤の添加量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部未満とすることがより好ましく、全く使用しないことがさらに好ましい。
【0021】
一般的に、ポリアミドの加熱重合反応を均一的に進行させるために、水の共存下、原料を混合し、加熱して脱水反応を進行させる方法が用いられている。しかしながら、このような方法においては、重合時の水と有機溶剤の合計量が、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部を超えて多くなると、重合度の上昇が抑制されることがある。その場合、アミン末端が多い状態での重合装置中の滞留時間が長くなり、ジアミン同士の縮合反応により副生成するトリアミン量が増加する。その結果、ポリアミドの一部が架橋構造をとり、ゲル化が促進されたり、色調が低下したりする。ゲル化はポリアミドの結晶性の低下や、結晶化速度を遅延させる原因となる。そして、本発明のような半芳香族ポリアミドでは、トリアミンの生成が脂肪族ポリアミドより顕著である。従って、本発明のように、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミドを得るためには、水や有機溶剤の添加量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが必要であり、実質的に水を添加しないことがより好ましい。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶化速度が速く、成形性が高い。本発明における結晶化速度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した過冷却度を指標とすることができる。本発明において、用いるポリアミドの過冷却度は40℃以下である必要があり、35℃以下であることが好ましい。用いるポリアミドの過冷却度が40℃を超える場合、結晶性を十分に高めることができず、成形サイクルを短縮することができなかったり、金型からの離型が困難となり成形時の連続生産性が低下したりすることがある。
【0023】
本発明で用いるポリアミドは、ポリアミドを製造する方法として従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0024】
加熱重合法としては、モノマーから反応物を得る工程(i)と、反応物を重合する工程(ii)からなる方法が挙げられる。本発明においては、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミドを得るために、工程(i)の段階を、重合系中の水分や溶媒が少ない条件、すなわち、ジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、水と有機溶剤の合計量が5質量部以下である水および/または有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。
【0025】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を予めジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、ジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度において、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンをジカルボン酸粉末に添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法として、溶融状態のジアミンと固体のテレフタル酸からなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成するポリアミドの融点未満の温度で、テレフタル酸とジアミンとの反応による塩の生成と、前記塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応物の形状の制御が容易な前者の方法の方が好ましい。
【0026】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成するポ
リアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0027】
ポリアミドの製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封鎖剤を用いたりすることができる。
【0028】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられ、重合触媒の添加量としては、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モルに対して2モル%以下で用いることが好ましい。
【0029】
末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、ステアリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等のモノアミンが挙げられ、これらいずれか一種、あるいはこれらを組み合わせて用いられる。中でも、ラウリル酸、ステアリン酸等の分子量が140以上のモノカルボン酸が好ましい。分子量が140以上のモノカルボン酸を用いることにより、ポリアミドの融点を下げることなく、成形時の流動性を向上させることができる。末端封鎖剤の添加量としては、通常、ジカルボン酸成分とジアミン成分の合計に対して5モル%以下で用いることが好ましい。
【0030】
本発明で用いる導電性付与剤は、特に限定されず、ポリアミドに添加して導電性を付与できるものであればよい。導電性付与剤としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維が挙げられ、中でも、カーボンブラック、炭素繊維が好ましい。
【0031】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンガスを不完全燃焼して得られるアセチレンブラックや、原油を原料にファーネス式不完全燃焼によって得られるケッチェンブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックが挙げられる。中でも、ケッチェンブラックが好ましい。カーボンブラックの平均粒子径は、より少量で体積固有抵抗値を低くすることができることから、500nm以下であることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、10〜70nmであることがさらに好ましい。カーボンブラックの表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、500〜1500m2/gであることがさらに好ましい。カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量は、50mL/100g以上であることが好ましく、100mL/100gであることがより好ましく、300mL/100g以上であることがさらに好ましい。カーボンブラックの灰分は0.5重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。なお、平均粒子径は電子顕微鏡により測定した値、表面積はJIS K6217に従って測定した値、DBP吸油量はASTM D2414に従って測定した値、灰分はJIS K6218に従って測定した値である。
【0032】
炭素繊維としては、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維が挙げられ、中でも、曲げ強度や曲げ弾性率が向上することから、PAN系炭素繊維が好ましい。炭素繊維の平均繊維長は、溶融混練前の状態で0.1〜20mmであることが好ましく、1〜10mmであることがより好ましく、5〜8mmであることがさらに好ましい。また、炭素繊維の繊維径は、5〜15μmであることが好ましい。
【0033】
金属繊維としては、例えば、銅、鉄、ニッケル、金、銀、チタン、アルミニウム、ステンレス、真鍮の繊維が挙げられ、中でも、耐食性の点からステンレス繊維が好ましい。金属繊維の平均繊維長は、溶融混練前の状態で0.1〜15mmであることが好ましく、0.1〜12mmであることがより好ましい。また、金属繊維の繊維径は、3〜30μmであることが好ましく、3〜20μmであることがより好ましく、5〜15μmであることがさらに好ましい。
【0034】
導電性付与剤の含有量は、ポリアミド100質量に対して、5〜50質量部とすることが必要であり、5〜45質量部とすることが好ましく、5〜40質量部とすることがより好ましく、1〜30質量部であることがさらに好ましい。導電性付与剤の含有量が5質量部未満の場合、体積固有抵抗値が1.0×108Ω・cmよりも大きくなり、十分な導電性が得られないので好ましくない。また、導電性が低いため静電気を帯び、ホコリや粉塵が付着し精密製品に不具合を生じるおそれがある。一方、導電性付与剤の含有量が50質量部を超えると流動性が低下し、その結果として成形性が低下するので好ましくない。また、樹脂組成物のストランドを作製することができず、ペレットを得ることができなくなる場合もある。
【0035】
導電性付与剤の添加方法は特に限定されないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度はポリアミドの融点以上とする必要があり、(融点+100℃)未満とすることが好ましい。混練温度が融点未満では混練機が過負荷となり、ベントアップ等の不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、ポリアミドの分解、黄変が起こる場合がある。得られたポリアミド樹脂組成物の採取方法は特に限定されないが、その後の成形を考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、導電性付与材に該当しない繊維状強化材を配合してもよい。そのような繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて他の充填材、安定剤等の添加剤を加えてもよい。添加剤は、例えば、ポリアミドの重合時または溶融混練時に添加される。添加剤としては、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ等の充填材、酸化チタン等の顔料、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。
【0038】
ポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性を十分に向上させることができることから、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上とする必要があり、(融点+100℃)未満とすることが好ましい。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物は十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、DSCを用いて測定した過冷却度が40℃以下のポリアミドを主に用いて作製しているため、結晶化速度が速く、成形体の加工時、特に射出成形において成形サイクルを短縮することができ、成形コストの低減に寄与することができる。
【0040】
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、機械的特性、耐熱性、成形性に加えて、導電性に優れているため、燃料電池用セパレータ、LEDリフレクタ、LEDのハウジング、コネクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、IC、携帯電話の筐体等の電気電子部品に好適に用いることができる。
【0041】
そのほか、本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、自動車部品、電気電子部品、雑貨、土木建築用品等の広範な用途にも使用できる。
【0042】
自動車部品としては、マフラーカバー、吸気ダクト、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベントグリル、エアアウトレットルーバー、エアスクープ、フードバルジ、フェンダー、バックドア、シフトレバーハウジング、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイドドアミラーステー等の内外装部品、エンジンカバー、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエタータンク、ラジエターサポート、ラジエターホース、ラジエターグリル、タイミングベルトカバー、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンマウント等のエンジン周辺部品、プロペラシャフト、スタビライザーバーリンケージロッド、アクセルペダル、ペダルモジュール、シールリング、ベアリングリテーナー、ギア、ドリブンギア、電動パワステアリングギア等の機構部品、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、燃料タンク、燃料チューブ、フューエルカットオフバルブ、キャニスター、フューエルデリバリーパイプ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダーモジュール、燃料配管用継手等の燃料・配管系部品、ワイヤーハーネス、リレーブロック、センサーハウジング、エンキャプシュレーション、イグニッションコイル、ディストリビューター、サーモスタットハウジング、クイックコネクター、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット、ホーン用ボビン等の電装系部品が挙げられる。
【0043】
電気電子部品としては、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、IC、LEDのハウジング、各種筐体、複写機内のギア、各種インシュレーター等が挙げられる。
【0044】
雑貨としては、樹脂ネジ、時計枠、ファスナー、値札タグ、結束バンド、キャスター等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0046】
1.測定方法
(1)ポリアミドの相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0047】
(2)ポリアミドの重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調整した試料溶液にてGPC分析をおこなった後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調整>
ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mlを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4ml/分
・温度:40℃
【0048】
(3)ポリアミドの降温結晶化温度、融点、過冷却度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した際の発熱ピークのトップを与える温度を降温結晶化温度(Tcc)、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。融点と降温結晶化温度の差(Tm−Tcc)を過冷却度とした。
【0049】
(4)ポリアミド中のトリアミンの定量
ポリアミド10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で20時間加熱後、蒸発乾固し、さらに80℃2時間減圧乾燥した。これにピリジン2mL、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1mLを加え、90℃で30分加熱した。冷却後、メンブランフィルターでろ過した溶液を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置で分析した。別に測定した標準物質のジアミンとトリアミンにより得た検量線を用いてポリアミド中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として用いて、オートクレーブ中にてジアミンを240℃で3時間加熱撹拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
【0050】
(5)メルトフローレート(MFR)
ポリアミド樹脂組成物を用いて、JIS K7210に従って、340℃、1.2kgfの荷重で測定した。実用上、0.1〜50g/10分が好ましく、1〜40g/10分がより好ましい。
【0051】
(6)体積固有抵抗値
ポリアミド樹脂組成物を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて射出成形をおこない、127mm×12.7mm×10mmの成形片を作製した。シリンダー温度は(融点+25℃)、金型温度は(融点−185℃)、射出圧力は100MPa、射出時間は10秒、取り出し時間は5秒とした。
得られた成形片を、東亜電波社製メガオームメーターを用いて、ASTM D257に従って、500Vの電圧下で測定した。
【0052】
(7)曲げ強度、曲げ弾性率
(6)で得られた成形片を用いて、ASTM D790に従って測定した。
【0053】
(8)成形サイクル
(6)で成形体を成形する際、突出ピンで成形体に対し変形を与えないで容易に取出しが可能な最短の時間を計測した。ここで成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の成形体の射出が開始されてから、2ショット目の成形体の射出が開始されるまでの時間をいう。すなわち、一つの成形体を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。実用上、45秒以下が好ましく、30秒以下がより好ましい。
【0054】
2.原料
(1)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
・イソフタル酸
【0055】
(2)ジアミン成分
・1,8−オクタンジアミン
・1,9−ノナンジアミン
・1,10−デカンジアミン
・1,12−ドデカンジアミン
【0056】
(3)導電性付与剤
・炭素繊維(CF) 東邦テナックス社製、商品名「ベスファイトHTA−C6−NR」、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm
・ケッチェンブラック(CB) ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名「EC600JD」
・ステンレス繊維(MF) 日本精線社製、商品名「ナスロンSUS304」、平均繊維径8μm、平均繊維長6mm
【0057】
(4)繊維状強化材
・ガラス繊維(GF) 旭ファイバーグラス社製、商品名「03JAFT692」、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
【0058】
製造例1
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0059】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−1)を得た。
【0060】
製造例2
[工程(i)]
ジカルボン成分としてテレフタル酸粉末(4870質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム(6質量部)、末端封鎖剤としての安息香酸(72質量部)を、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したデカンジアミン(5050質量部)を、28質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にテレフタル酸粉末に添加し反応物を得た。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。
【0061】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−2)を得た。
【0062】
製造例3〜5、7、12
樹脂組成、製造条件を表1のように変更する以外は、製造例2と同様にしてポリアミドを得た。
【0063】
製造例6
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水400質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して4質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0064】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−6)を得た。
【0065】
製造例8
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン酸成分として平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水9200質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、92質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0066】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−8)を得た。
【0067】
製造例8は、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を92質量部用いて重合をおこなった。そのため、ポリアミド(P−8)は、ポリアミド(P−1)と比較して、重量平均分子量が顕著に低く、トリアミン量が顕著に多かった。
【0068】
製造例9
蒸留水の添加量を表1のように変更する以外は、製造例6と同様にしてポリアミドを得た。
【0069】
製造例10、11
末端封鎖剤の添加量を変更する以外は、製造例1と同様にしてポリアミドを得た。
【0070】
表1に、ポリアミドの樹脂組成、製造条件およびその特性値を示す。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例1
ポリアミド(P−1)100質量部をクボタ社製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給し、サイドフィーダーより炭素繊維(CF)を5質量部供給し溶融混練をおこなった。押出機のバレル温度設定は、320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/時間であった。その後、ストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0073】
実施例2〜18、比較例1、2、4
表2に示すように、樹脂組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0074】
比較例3
実施例1と同様の操作をおこなったが、導電性付与剤の含有量が高かったため、ストランドが切断し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができなかった。
【0075】
実施例と比較例で得られたポリアミド樹脂組成物の樹脂組成およびその特性値を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例1〜18は、本発明で規定するポリアミドと所定量の導電性付与剤を用いて樹脂組成物を作製したため、それから得られた成形体は、曲げ強度や曲げ弾性率に優れ、体積固有抵抗値が低かった。また、用いたポリアミドの過冷却度が40℃以下であったため、射出成形時の成形サイクルが短かった。
実施例18は、末端封鎖剤としてステアリン酸を用いたため、実施例2と比較して、MFRが大きく成形流動性が良好であった。
【0078】
比較例1は、導電性付与材を添加しなかったため、体積固有抵抗値が高かった。
比較例2は、用いたポリアミドのジアミン成分が本発明で規定するモノマーでなかったため、成形サイクルが長かった。
比較例4は、導電性付与材の含有量が5質量部未満であったため、体積固有抵抗値が高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部および導電性付与剤5〜50質量部を含有する導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドを構成するジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計を用いて測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミドが、分子量140以上のモノカルボン酸により末端封鎖されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミドを構成するジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
導電性付与剤がカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2013−60580(P2013−60580A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160580(P2012−160580)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】