説明

導電性ポリイミドフィルムの製造方法

【課題】化学イミド法により、所望の抵抗率および良好な機械特性を有する導電性ポリイミドフィルムを生産性良く製造する。
【解決手段】(A)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸無水物、および、4,4’−オキシジアニリンを含むジアミン化合物を反応させてなるポリアミド酸、(B)導電付与剤、ならびに、(C)イミド化促進剤を含有する塗膜を、乾燥およびイミド化することにより、導電性ポリイミドフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、高い機械特性、耐熱性、耐薬品性等を有することから、航空宇宙分野から電子材料分野まで幅広い分野において実用化されている。また、そのポリイミドフィルムに導電性を付与した導電性ポリイミドフィルムは、金属系電子材料の代替材料として有用であり、特に電池の電極材料、電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止材、画像形成装置部品、電子デバイスなどに好適に使用され得る。
【0003】
導電性ポリイミドフィルムは、以下の工程で製造される。
(1)導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液を支持体上に流延し、塗膜を形成する工程、
(2)塗膜に含まれる溶媒の揮散および除去、並びにイミド化を行う工程。
【0004】
従来、極性有機溶媒中にカーボンブラック(導電付与剤)を分散させた後に、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを添加して重合させてポリアミド酸溶液とし、これをイミド化することにより、導電性ポリイミドフィルムを製造していた。しかし、この方法には、極性有機溶媒中におけるカーボンブラックの分散性が低いため、重合時等にカーボンブラックの凝集が起こりやすいといった問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、ポリアミド酸希釈溶液に界面活性剤およびカーボンブラックを分散させた後、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを添加して重合させることによって、重合時におけるカーボンブラックの凝集を抑制する方法が提案されている。特許文献2では、極性有機溶媒に、カーボンブラックと共に分散剤としてのポリビニルピロリドンを添加して処理をすることによって、カーボンブラックを良好な分散状態に分散させる方法が提案されている。しかし、界面活性剤または分散剤を使用する方法には、界面活性剤または分散剤の残渣が最終的に得られる導電性ポリイミドフィルム中に残るため、機械特性の低下や抵抗値の環境依存性増大などフィルム特性を悪化させてしまう問題がある。
【0006】
また、特許文献3では、低分子量のアミン化合物を溶媒に添加し、特定の導電性指標のカーボンブラックを分散させることで、溶媒中にカーボンブラックを分散させたポリアミド酸溶液を製造する方法が提案され、実施例では熱イミド化させて半導電性ポリイミドベルトを得ている。
【0007】
しかし、熱イミド化法では、フィルム化工程における溶媒の揮散および除去並びにイミド化の工程が極めて長時間となるため、生産性が低い。一方、化学イミド化法は、触媒および化学脱水剤を含むイミド化促進剤を用いるため、熱イミド化法に比べて、生産性が飛躍的に高いという利点を有しているものの、熱イミド化法とは異なり、最終的に得られる導電性ポリイミドフィルムの抵抗値を所望の範囲に調整するのが困難である。特許文献1〜3のいずれにおいても、このような化学イミド化法において、熱イミド化法と同様の、導電付与剤の良好な分散性や導電性ポリイミドフィルムの低抵抗率を実現する条件などの開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−41214号公報
【特許文献2】特開2009−91500号公報
【特許文献3】特開2007−302769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、化学イミド化法で高い導電性を有する導電性ポリイミドフィルムを得ることを検討した。その結果、このような方法では、溶媒の揮散および除去並びにイミド化の工程で、導電付与剤の再凝集が起こることが判明した。
【0010】
本発明は、所望の抵抗率を有する導電性ポリイミドフィルムを生産性良く製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の知見に基づき、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−オキシジアニリンを含有するジアミン化合物とを用い、化学イミド化法で導電性ポリイミドフィルムを製造する方法を見出した。この方法によれば、導電付与剤の再凝集が抑えられ、熱イミド化法と遜色ない程度に所望の抵抗率に調整でき、かつ、イミド転化時間を短縮できるため、生産性よく導電性ポリイミドフィルムを製造可能であることを本発明者らは知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、導電付与剤とポリイミド樹脂を含有する導電性ポリイミドフィルムの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称することがある。)に関するものあって、(A)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物、および、4,4’−オキシジアニリンを含むジアミン化合物を反応させてなるポリアミド酸、(B)導電付与剤、ならびに、(C)イミド化促進剤を含有する塗膜を、乾燥およびイミド化することを特徴とする、導電性ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0013】
本発明の製造方法は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量がテトラカルボン酸二無水物全体中50〜100モル%であり、および/または、4,4’−オキシジアニリンの含有量が前記ジアミン化合物全体中50〜100モル%であることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法は、(B)導電付与剤が炭素性導電性粒子を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法は、(B)導電付与剤の含有量が、(A)ポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法は、(C)イミド化促進剤が触媒と化学脱水剤を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法は、触媒の使用量が、(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、0.1〜4.0モル当量の範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法は、化学脱水剤の使用量が、(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、1.0〜5.0モル当量の範囲内であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法は、導電性ポリイミドフィルムの厚みが1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、導電性ポリイミドフィルムの厚み方向の体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×102Ωcmの範囲内であり、および、表面抵抗率が1.0×101〜1.0×104Ω/□の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る製造方法によれば、熱イミド化方法と同様に、得られる導電性ポリイミドフィルムの抵抗率を所望通りに調整することが出来る。本製造方法は、(A)特定のポリアミド酸、(B)導電付与剤および(C)イミド化促進剤を含む塗膜の加熱(イミド化)が短時間で済むため、装置の小型化や運転速度の高速化を図ることができ、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の製造方法は、(A)特定のポリアミド酸、(B)導電付与剤、および(C)イミド化促進剤を含む塗膜を、乾燥およびイミド化することを特徴とする。塗膜は、例えば、上記(A)〜(C)の各成分を有機溶媒に溶解および/または分散させた溶液または分散液を、支持体に塗布することにより形成される。
【0024】
(A)成分であるポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることによって得られるものであり、テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン化合物として4,4’−オキシジアニリンを必須とすることを特徴とする。換言すれば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−オキシジアニリンを含有するジアミン化合物とを用いることを必須とする。
【0025】
テトラカルボン酸二無水物としては、3,3'、4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に加えて、他のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。他のテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物などが挙げられる。
【0026】
これら他のテトラカルボン酸二無水物の中でも、工業的に入手しやすい点から、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’−オキシフタル酸二無水物を好ましく併用できる。他のテトラカルボン酸二無水物は1種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
ジアミン化合物としては、4,4’−オキシジアニリンに加えて、他のジアミン化合物を併用してもよい。他のジアミン化合物の具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3‘−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などが挙げられる。
【0028】
これら他のジアミン化合物の中でも、工業的に入手しやすい点から、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、及び4,4'−ジアミノベンゾフェノンが好ましく併用できる。これら他のジアミン化合物は1種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明において、テトラカルボン酸二無水物における3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量は、特に限定されるわけではないが、高い導電性を有する導電性ポリイミドフィルムが得られる点で、テトラカルボン酸二無水物全体(全モル数100モル%)において50〜100モル%であることが好ましく、70〜100モル%であることがより好ましい。
【0030】
本発明において、ジアミン化合物における4,4’−オキシジアニリンの含有量は、特に限定されるわけではないが、高い導電性を有する導電性ポリイミドフィルムが得られる点では、ジアミン化合物全体(全モル数100モル%)において50〜100モル%であることが好ましく、70〜100モル%であることがより好ましい。
【0031】
本発明においては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物または4,4’−オキシジアニリンが上記好ましい含有量であることが好ましい。いずれか一方が上記好ましい含有量であれば、高い導電性を有する、あるいは、機械特性を有する導電性ポリイミドフィルムが得られやすい。導電性および機械特性が優れる点で、両方ともが上記好ましい含有量である場合がより好ましい。
【0032】
ポリアミド酸は公知のあらゆる方法を用いて製造することができ、通常、テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物の実質的等モル量をそれぞれ有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合が完了するまで攪拌することによって製造される。
【0033】
ポリアミド酸を合成するための好ましい有機溶媒としては、ポリアミド酸を溶解する有機溶媒であればいかなるものも用いることができるが、その中でもアミド系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが好ましく、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドがより好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合方法としては、あらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の製造における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。本発明において、ポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次の1)〜5)のような方法が挙げられる。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0035】
1)ジアミン化合物を極性有機溶媒中に溶解し、溶解したジアミン化合物と実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物とを反応させて重合する方法。
2)テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量のジアミン化合物とを極性有機溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、このプレポリマーと、全工程においてテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が実質的に等モルとなるようにジアミン化合物とを用いて重合させる方法。
3)テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量のジアミン化合物とを極性有機溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここにジアミン化合物を追加添加した後、全工程においてテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が実質的に等モルとなるようにテトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)テトラカルボン酸二無水物を極性有機溶媒中に溶解及び/または分散させた後、テトラカルボン酸二無水物と実質的に等モルとなるようにジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との混合物を極性有機溶媒中で反応させて重合する方法。
【0036】
上記したポリアミド酸の製造方法により、ポリアミド酸を、ポリアミド酸溶液の形態で得ることができる。ポリアミド酸溶液は、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは10〜30重量%のポリアミド酸濃度で得られることが好ましい。ポリアミド酸濃度がこの範囲である場合に、適当な分子量を有するポリアミド酸が得られると共に、ポリアミド酸溶液の粘度を適切な範囲とすることができる。ポリアミド酸溶液は、そのまま(A)成分として使用できる。
【0037】
(B)成分である導電付与剤としては、合成樹脂に混合可能な導電性材料であれば特に限定されないが、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物に含有されうる導電性フィラーを好ましく使用できる。このような導電性フィラーとしては公知のものを用いることでき、例えば、炭素性導電性粒子や、アルミニウム粒子、ステンレス鋼(SUS)粒子、銀粒子、金粒子、銅粒子、チタン粒子、合金粒子などの金属粒子などが挙げられる。これらの中でも、比重が小さく、導電性ポリイミドフィルムの軽量化が容易であるなどの理由で炭素性導電性粒子を好ましく用いることができる。炭素性導電性粒子としては、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、オイルファーネスブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられるが、材料そのものの導電性が比較的高く、樹脂に対して少量の添加量で所望の高い導電性が得られやすいとの理由で特にケッチェンブラックやカーボンナノチューブ、を好ましく用いることが出来る。
【0038】
(B)成分である導電付与剤の含有量は、(A)成分であるポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましく、5〜20重量部であることがより好ましい。導電付与剤の含有量が1重量部より少ないと、導電性ポリイミドフィルムの導電性が低下し、導電性フィルムとしての機能が損なわれる場合がある。逆に導電付与剤の含有量が50重量部より多いと、得られる導電性ポリイミドフィルムの機械特性が低下し、取り扱いが困難となる場合がある。
【0039】
ポリアミド酸と導電付与剤との複合化、すなわち、導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液の調製方法としては、いかなる方法を用いてもよいが、例えば、
1.重合前または途中に重合反応液に導電付与剤を添加する方法、
2.重合完了後、3本ロールなどを用いて導電付与剤を混錬する方法、
3.導電付与剤を含む分散液を用意し、これをポリアミド酸溶液に混合する方法
などが挙げられる。
【0040】
これらの方法のうち、導電付与剤による製造ラインの汚染を最も小さく抑える点から、上記「3.」の導電付与剤を含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に塗液を製造する直前に混合する方法が好ましい。導電付与剤を含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合に用いられる有機溶媒と同じ有機溶媒を用いるのが好ましい。導電付与剤を良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等を、フィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いてもよい。凝集を伴わずに導電付与剤を安定的に分散させやすい点から、分散剤として上記(A)成分であるポリアミド酸溶液を少量添加することが好ましい。
【0041】
上記複合化では、分散機として、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、コロイドミル、ジェットミル、ローラーミルなどを用いることが好ましい。ビーズミル、ボールミル等の分散機で流動性のある液体状態になるように導電性付与剤をポリアミド酸溶液に分散させると、後述するフィルム化工程において、導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液の取り扱いが良好となる。メディア径は、特に限定されるわけではないが、10mm以下が好ましい。
【0042】
最終的に得られる導電性ポリイミドフィルムのすべり性、摺動性、熱伝導性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的で、フィラーを使用してもよい。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としては酸化チタン、アルミナ等の金属酸化物、窒化珪素、窒化ホウ素等の窒化物、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム等のリン酸塩、シリカ、雲母などが挙げられる。
【0043】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径として好ましくは0.05〜100μm、より好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。平均粒径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくい場合があり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械特性が大きく低下したりする場合がある。
【0044】
フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量は、ポリイミド100重量部に対して、好ましくは0.01〜100重量部、より好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくい場合があり、この範囲を上回ると導電性ポリイミドフィルムの機械特性が大きく損なわれる場合がある。
【0045】
フィラーの添加は、上記複合化および分散方法と同様にして行なうことができ、導電付与剤の複合化および分散時に一緒に添加しても良いし、別途添加しても良い。
【0046】
本発明の製造方法では、(C)成分であるイミド化促進剤を用いる化学イミド化法で上記ポリアミド酸をポリイミドに転化させるため、短時間の乾燥および加熱で済み、生産性に優れる。
【0047】
イミド化促進剤は、触媒及び化学脱水剤を含んでいればよく、これら以外に有機溶媒を含んでいても良い。有機溶媒としては、ポリアミド酸溶液に含まれる有機溶媒と同種であることが特に好ましい。
【0048】
触媒としては、特に限定されないが、イミド化反応に対して適度な活性を有する第3級アミン化合物が使用でき、機械特性に優れる導電性ポリイミドフィルムが得られやすい点を考慮すると、芳香族第3級アミン化合物を好適に用いることが出来る。特に好ましい芳香族第3級アミン化合物として、キノリン、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,5−ジエチルピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリンなどが挙げられる。これら芳香族第3級アミン化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
触媒の使用量は、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜4.0モル当量が好ましく、0.3〜3.0モル当量がより好ましく、0.5〜2.0モル当量がさらに好ましい。触媒の使用量が0.1モル当量より少ないと、触媒としての作用が不十分となり、イミド化が完全に進まず、得られる導電性ポリイミドフィルムの機械特性が低下する問題が生じる場合がある。一方、触媒の使用量を4.0モル当量より多くしても、使用量を増やすことによる効果が殆ど得られない上に、後述するフィルム化工程において乾燥及び加熱を行なっても有機溶媒を蒸発させることが困難となる。その結果、有機溶媒の残存量が多くなるため、得られる導電性ポリイミドフィルムの機械特性がやはり低下してしまう場合がある。
【0050】
化学脱水剤としては特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物等を好適に用いることが出来る。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。上記化学脱水剤の中でも特に好ましい化合物として、無水酢酸、および無水プロピオン酸が挙げられる。これら化合物も、上記と同様、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0051】
化学脱水剤の使用量は、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、1.0〜5.0モル当量が好ましく、1.2〜4.0モル当量がより好ましく、1.5〜3.0モル当量がさらに好ましい。化学脱水剤の使用量が1.0モル当量より少ないと、化学脱水剤の作用によるイミド化が完全に進まず、得られる導電性ポリイミドフィルムの機械特性が低下する問題が生じる場合がある。一方、化学脱水剤の使用量が5.0モル当量より多いと、短時間でイミド化が進行してゲル化してしまうため、塗膜を形成しにくくなる場合がある。
【0052】
ポリアミド酸またはその溶液にイミド化促進剤を添加するときの温度は、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。温度が10℃より高温になると、短時間でイミド化が進行してゲル化してしまうため、塗膜を形成しにくくなる場合がある。
【0053】
本発明の製造方法では、上記したポリアミド酸またはその溶液、導電性付与剤およびイミド化促進剤を含む塗液を支持体表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥およびイミド化させることで導電性ポリイミドフィルムを形成する。この工程が、フィルム化工程である。
【0054】
塗膜を形成する塗布法としては、例えば、ダイコート法、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などの公知の方法を適宜採用することが出来る。支持体としては特に限定されないが、金属ドラム、金属ベルト、金属箔、金属板、別途作製された樹脂フィルム等が挙げられる。塗膜の乾燥は、例えば、室温から200℃程度の温度で行なわれ、自己支持性フィルムが得られる。なお、乾燥中にもイミド化はある程度進行する。乾燥後の自己支持性フィルムのイミド化は、例えば、このフィルムを固定し、加熱速度を適宜選択しながら300℃程度まで第一段階の加熱を行い、さらに最終温度が400℃〜600℃程度の温度まで第二段階の加熱を行なうことにより実施される。これにより、導電性ポリイミドフィルムが得られ自己支持性フィルムの固定には、ピンテンター方式、クリップテンター方式、ロール懸垂方式など公知の方法を適宜採用することが出来、その形態にとらわれない。
【0055】
イミド化における加熱温度は適宜設定できるが、温度が高い方が、イミド化が起こりやすいため、加熱速度を速くすることができ、生産性の面で好ましい。但し、温度が高すぎると熱分解を起こす可能性がある。一方、加熱温度が低すぎると、イミド化が進みにくく、フィルム化工程に要する時間が長くなってしまう。
【0056】
加熱時間に関しては、イミド化および乾燥が実質的に完結するに十分な時間を取ればよく、一義的に限定されるものではないが、一般的には1〜600秒程度の範囲で適宜設定される。
【0057】
本発明の製造方法は、支持体上における塗膜の厚み、塗液中のポリアミド酸の濃度や導電付与剤の重量部数を適宜調節することで、導電性ポリイミドフィルムの厚みを適宜設定できる。塗膜の厚みは1〜1000μmであることが好ましい。塗膜の厚みが1μmより薄いと、最終的に得られる導電性ポリイミドフィルムが機械特性に乏しくなる場合があり、塗膜の厚みが1000μmを超えると、塗膜が支持体上で流動してしまう場合がある。最終的に得られる導電性ポリイミドフィルムの厚みは、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは5〜50μmである。導電性ポリイミドフィルムの厚みが1μmより薄いと、導電性ポリイミドフィルムが機械特性に乏しくなる場合があり、導電性ポリイミドフィルムの厚みが100μmを超えると、均一に乾燥およびイミド化することが困難になるため、機械特性にバラツキが生じたり、発泡等の局所的な欠陥も現れやすくなったりする場合がある。
【0058】
本発明の製造方法は、得られる導電性ポリイミドフィルムの厚み方向の体積抵抗率、および表面抵抗率を所望通りに調整できるため、ポリイミドの種類や導電付与剤の種類、添加量などを適宜設定できる。
【0059】
導電性ポリイミドフィルムの厚み方向の体積抵抗率は1.0×10-1〜1.0×102Ωcmが好ましく、1.0×10-1〜8.0×101Ωcmがより好ましく、1.0×10-1〜5.0×101Ωcmがさらに好ましい。
【0060】
導電性ポリイミドフィルムの表面抵抗率は1.0×101〜1.0×104Ω/□が好ましく、1.0×101〜5.0×103Ω/□がより好ましく、1.0×101〜3.0×103Ω/□がさらに好ましい。
【0061】
本発明の製造方法で得られる導電性ポリイミドフィルムは、導電付与剤の再凝集が抑えられており、最小限の導電付与剤の使用で所望の比較的低い体積抵抗率および表面抵抗率を有し、高い導電性を有する。そのため、本発明の製造方法で得られる導電性ポリイミドフィルムは、金属系電子材料、電池の電極材料、電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止剤、画像形成装置部品、電子デバイス等において長期にわたって安定的に使用可能になり、好適に採用することができる。
【実施例】
【0062】
本発明について、実施例および比較例に基づいて効果をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0063】
(体積抵抗率)
製造した導電性ポリイミドフィルムを15mm□のサイズに切り抜き、両面の中央部10mm□の領域に金薄膜をスパッタ法により形成した。得られた金薄膜にそれぞれ銅箔を1MPaの加圧により密着させ、2つの銅箔の間に電流Iを流したときの、電位Vを測定し、測定値V/Iを抵抗値とした。抵抗値の測定にはLCRメータ抵抗計(商品名:LCR HiTESTER 3522−50、日置電機株式会社製)を用いた。
【0064】
(表面抵抗率)
低抵抗率計(商品名:LORESTA−GP MCP−T610、三菱化学アナリテック株式会社製)を用い、製造した導電性ポリイミドフィルム表面に4探針プローブを押し当てて表面抵抗率を測定した。
【0065】
(加熱時間:生産性)
実施例1および比較例1〜4において、アルミ箔上またはPETフィルム上に流延した塗液(カーボン分散ポリアミド酸溶液)の乾燥および加熱に要した時間(秒)をそれぞれ測定して合計し、加熱時間とした。加熱時間が600秒以内であれば、生産性に優れているといえる。
【0066】
(機械特性:製造安定性)
機械特性は、以下に示す製造安定性に関する基準で評価した。
○:100cm幅の導電性ポリイミドフィルムがピン固定部から滑落することなく製造できる。
△:ピン固定部が広がることがあるため、得られる導電性ポリイミドフィルムは100cm幅に満たない。
×:ピン固定部が引き裂け、導電性ポリイミドフィルムが滑落する。
××:自己支持性フィルムが得られない。
【0067】
(実施例1)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのN,N−ジメチルアセトアミド(有機溶媒、以下「DMAc」とする)を注ぎ、16.4kg(81.95モル)の4,4’−オキシジアニリン(以下「ODA」とする)を溶解させた。ここに、23.62kg(80.25モル)の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下「BPDA」とする)を添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMAcおよび0.48kg(1.7モル)のBPDAよりなるスラリーを上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0068】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とN,N−ジメチルフォルムアミド(以下「DMF」とする)とを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0069】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0070】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を69.2モル含む)に対し、4.5kg(34.6モル)のイソキノリン、10.6kg(103.8モル)の無水酢酸、および17.9kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0071】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を69.2モル含む)を、PETフィルム(商品名:SG−1、パナック株式会社製)に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、実施例1と同様に、160℃で70秒間乾燥を行ったところ、自己支持性フィルムを形成しなかったため、導電性ポリイミドフィルムを得ることができなかった。
【0073】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られたカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を69.2モル含む)を、PETフィルム(SG−1)に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、70℃で600秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETフィルムから剥離した後、ピンテンターに固定し、160℃から300℃まで450秒かけて昇温しながら加熱し、続けて400℃で180秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0074】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、10.9kg(100.7モル)の1,4−ジアミノベンゼン(以下「p−PDA」とする)を溶解させた。ここに、29kg(98.6モル)のBPDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.6kg(2.1モル)のBPDAよりなるスラリーを上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0076】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものを、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0077】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0078】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を69.2モル含む)を、PETフィルム(SG−1)に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、70℃で600秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETフィルムから剥離した後、ピンテンターに固定し、160℃から300℃まで450秒かけて昇温しながら加熱し、続けて400℃で180秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0079】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表1に示す。
【0080】
(比較例4)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、19.4kg(96.8モル)のODAを溶解させた。ここに、20.7kg(94.9モル)のピロメリット酸二無水物(以下「PMDA」とする)を添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.42kg(1.9モル)のPMDAよりなる溶液を上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0081】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0082】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0083】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を69.2モル含む)を、PETフィルム(SG−1)に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、70℃で600秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETフィルムから剥離した後、ピンテンターに固定し、160℃から300℃まで450秒かけて昇温しながら加熱し、続けて400℃で180秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0084】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例2)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、9.88kg(49.35モル)のODAと5.34kg(49.35モル)のp−PDAとを溶解させた。ここに、14.5kg(49.35モル)のBPDAと10.4kg(47.37モル)のPMDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.4kg(1.98モル)のPMDAよりなる溶液を上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0087】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0088】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0089】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を83.4モル含む)に対し、5.4kg(41.7モル)のイソキノリン、12.8kg(125.1モル)の無水酢酸、および14.8kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0090】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0091】
(実施例3)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、9.04kg(45.16モル)のODAと4.88kg(45.16モル)のp−PDAとを溶解させた。ここに、26.0kg(88.5モル)のBPDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.53kg(1.80モル)のBPDAよりなるスラリーを上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0092】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0093】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液を100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0094】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を76.3モル含む)に対し、4.9kg(38.2モル)のイソキノリン、11.7kg(114.4モル)の無水酢酸、および16.4kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0095】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0096】
(実施例4)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、17.77kg(88.74モル)のODAを溶解させた。ここに、13.1kg(44.4モル)のBPDAと9.3kg(42.6モル)のPMDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.4kg(1.8モル)のPMDAよりなる溶液を上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0097】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0098】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0099】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を75.0モル含む)に対し、4.84kg(37.5モル)のイソキノリン、11.5kg(112.5モル)の無水酢酸、および16.4kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0100】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0101】
(実施例5)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、4.5kg(22.5モル)のODAと9.7kg(90モル)のp−PDAとを溶解させた。ここに、6.62kg(22.5モル)のBPDAと19.1kg(87.8モル)のPMDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.49kg(2.2モル)のPMDAよりなる溶液を上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0102】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0103】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液を100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0104】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を95.1モル含む)に対し、6.1kg(47.6モル)のイソキノリン、14.6kg(142.7モル)の無水酢酸、および12.3kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0105】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0106】
(比較例5)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、10.9kg(100.7モル)のp−PDAを溶解させた。ここに、29kg(98.6モル)のBPDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.6kg(2.1モル)のBPDAよりなるスラリーを上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0107】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0108】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0109】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を85.0モル含む)に対し、5.5kg(42.5モル)のイソキノリン、13.0kg(127.5モル)の無水酢酸、および14.5kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0110】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0111】
(比較例6)
容量500リットルのステンレス釜に220.5kgのDMFを注ぎ、19.4kg(96.8モル)のODAを溶解させた。ここに、20.7kg(94.9モル)のPMDAを添加して攪拌し、反応させた。次いで、9kgのDMFおよび0.42kg(1.9モル)のPMDAよりなる溶液を上記反応溶液の粘度に注意しながら徐々に添加し、粘度が200Pa・sに達したところで添加および攪拌をやめ、固形分濃度15重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0112】
上記ポリアミド酸溶液とケッチェンブラック(商品名:ECP600JD、ライオン株式会社製)とDMFとを重量比で10:1:20の割合で混合したものに、ボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間を要した。
【0113】
さらに、上記カーボン分散液と上記ポリアミド酸溶液とを100:183の重量比で混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。この溶液は、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラック10重量部を含んでいた。
【0114】
このカーボン分散ポリアミド酸溶液150kg(アミド酸を81.8モル含む)に対し、5.3kg(40.9モル)のイソキノリン、12.5kg(122.7モル)の無水酢酸、および15.2kgのDMFよりなるイミド化促進剤を添加して均一にした塗液を、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ100cm幅で流延し、160℃で70秒間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンテンターに固定し、300℃で11秒間加熱し、続けて450℃で60秒間加熱を行って導電性ポリイミドフィルムを得た。
【0115】
得られた導電性ポリイミドフィルムの体積抵抗率および表面抵抗率を測定し、その結果を表2に示す。
【0116】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電付与剤とポリイミド樹脂とを含有する導電性ポリイミドフィルムの製造方法であって、
(A)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物、および、4,4’−オキシジアニリンを含むジアミン化合物を反応させてなるポリアミド酸、
(B)導電付与剤、並びに、
(C)イミド化促進剤
を含有する塗膜を、乾燥およびイミド化することを特徴とする、導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が前記テトラカルボン酸二無水物全体中50〜100モル%であり、および/または、4,4’−オキシジアニリンの含有量が前記ジアミン化合物全体中50〜100モル%である、請求項1に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記(B)導電付与剤が炭素性導電性粒子を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(B)導電付与剤の含有量が、前記(A)ポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記(C)イミド化促進剤が触媒と化学脱水剤とを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記触媒の使用量が、前記(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、0.1〜4.0モル当量の範囲内である、請求項5に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記化学脱水剤の使用量が、前記(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、1.0〜5.0モル当量の範囲内である、請求項5または6に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記導電性ポリイミドフィルムの厚みが1〜100μmの範囲である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記導電性ポリイミドフィルムは、厚み方向の体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×102Ωcmの範囲内であり、および、表面抵抗率が1.0×101〜1.0×104Ω/□の範囲内である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−107231(P2012−107231A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236730(P2011−236730)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】