説明

導電性ポリビニルアルコール系繊維

【課題】 実用上十分な機械的特性、及び耐熱性、導電性能を兼ね備え、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用なPVA系繊維、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維断面がスキン−コア構造であり、且つそのコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子が微細に分散されてなることを特徴とする導電性ポリビニルアルコール系繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、弾性率といった実用上十分な機械的特性、耐熱性および導電性能を兼ね備えたポリビニルアルコール(以下、PVAと略する)系繊維とその製造方法及び、該繊維を用いてなる導電性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維に導電性を付与する方法として提案されている、カーボンブラックなどの導電性フィラーを練りこんだ導電性繊維は、コストが比較的安く、しかも量産化にも適しているため、多くの産業分野で広く使用されている。例えば、静電複写機に用いられる帯電用、除電用ブラシとして、かかる導電性繊維が広く使われているが、複写機等では定着時の加熱によって、機内の温度が高温になることから、これら用途に使用される導電繊維には長時間にわたって熱を受けても変形しないことが要求されている。
【0003】
ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、溶融紡糸によって得られるポリオレフィン系繊維などの大部分の汎用合成繊維は、耐熱性や高温下での形態安定性が不十分であることから、かかる用途においては導電性の再生セルロース系繊維が広く使用されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。しかしながら導電性セルロース繊維は力学物性が低いために、帯電用ブラシや除電用ブラシを製造する段階での取り扱い性や、長時間使用する場合の耐久性など、更なる高性能化要求に対して十分対応できなくなっている。
【0004】
一方、耐熱性及び機械的性能に優れたPVA系繊維を導電性繊維としてこれらの用途に用いることも提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、この導電性PVA繊維は、50μm程度の多量の導電性フィラーをあらかじめ紡糸原液に添加させるため、原液中でのフィラーの凝集や沈降などが起こり、製造工程の安定性は低下するばかりでなく、得られた糸の延伸性などが導電性フィラー無添加系に比べて著しく劣ってしまい、その結果、導電性は付与できても、繊維の強度、弾性率などの機械的性質の低下を招くなどの問題があった。これに対して、工程性、品位の問題を改善した導電性PVA系繊維として、原液に仕込むカーボンブラックなどの導電性フィラーの平均粒径を小さくすること、及びポリオキシアルキレン系などのノニオン系分散剤を併用し、原液中での凝集、沈降を防ぐことが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。この場合、導電性フィラーの粒子径は1μm程度まで小さくすることができ、粒子の表面積を増加させて導電性を付与する観点からは望ましいが、やはり、所望の導電性を得るためには、数10%以上の添加が必要となり、原液での凝集や延伸性の低下などの問題を抱えていた。
【0005】
また、近年、携帯電話や電子機器の飛躍的な普及に伴い、それらから漏洩する電磁波の人体への影響、または他電子機器への誤動作などの問題が取り沙汰されている。それを遮蔽する電磁波遮蔽材として、導電性布帛がよく用いられるが、この用途では、より高い導電性能が必要であり、先述した導電性フィラーの練り込み繊維などでは遮蔽性能を発現させることは出来ない。一般的には、軽量で柔軟性のある合成繊維からなる布帛表面に、金属被膜を形成させることが広く知られており、真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法などによって達成できる。しかしながら、このような方法で作られた金属被膜は、耐摩耗性や耐候性、長期の使用による化学的変化による物性低下などの問題があり一層の改善が求められている。更には、これらの方法による導電化処理は、非常にコスト高になり実使用に制限がかかるものであった。
【0006】
このような高い導電性能を付与する方法としては、上記に示したような導電性フィラーを原液または原料の段階から仕込む方法とは別に、ポリアクリロニトリル系繊維で知られているように、塩化第二銅などの銅化合物を繊維表面に吸着させた後、これを硫化物で還元処理することにより、繊維自体の表面に導電性を示す硫化銅薄厚層を形成させる技術が広く提案されている(例えば特許文献7及び8参照。)。これらの方法で得られる導電性繊維は、繊維の表面に存在するシアノ基やメルカプトン基の銅イオン捕捉基を介して硫化銅が繊維に対して5〜15質量部程度結合されたもので、繊維表面に薄厚の表面層を有するものであり、高い導電性能を示すものとなる。しかしながら、これらの繊維は、100nm程度の極薄い表面の硫化銅層のみで導電性能を発現させるものであり、それ故、耐久性が不十分であり、また、繊維表面に所望の量の硫化銅を付着させるには、高温、長時間の処理が必要になり、更には、上記のシアノ基やメルカプトン基などは、一価の銅イオン捕捉能に優れており、工程中にて二価の銅塩をわざわざ一価の銅イオンに還元する必要があるなど、コストが高くなるなどの問題を抱えていた。
【0007】
上記課題である導電性、耐久性の改良を目的に、硫化銅粒子を繊維内部にまで浸透させる方法として、硫化染料含有高分子材料を用いて、該高分子中で硫化染料を介して硫化銅が結合されている繊維が提案されている(例えば、特許文献9参照。)。また、その実施例では具体的に導電性PVA繊維が提案されている。この方法では、硫化染料を含有する高分子材料を得る工程と、この硫化染料高分子材料に硫化銅を結合させて導電性高分子材料を得る工程によって初めて達成されるものであるが、湿熱処理などを幾つも設定する必要があり工程が複雑になることに加えて、この処理中にPVA系繊維が膨潤してしまい、導電性が付与できても、力学物性が低下してしまい、布帛を製造することができないなどの問題を抱えていた。また、硫化銅粒子を繊維内部にまで浸透させるためには硫化染料を用いらなければならず、コスト高になるなどの問題も抱えていた。
【0008】
また、アミド基や水酸基を有する高分子材料に導電性を付与する方法も提案されている(例えば、特許文献10参照。)。この方法は、銅塩と緩和な硫化能を有する還元剤の混合水溶液中に高温、長時間、成形体を浸漬することにより、成形体の内部にまで導電性を示す硫化銅層を形成せしめようとするものであるが、実質的には、成形体のごく表面近傍にしか硫化銅層は存在せず、それ故、得られる導電性能も低いものであった。すなわち、水溶液中の銅塩と硫化還元剤を直接、高温で長時間反応させるため、生成する硫化銅粒子は大きく成長してしまい、成形体内部での分散粒子径は大きくならざるをえず、内部導電というよりはむしろ表面導電層が主体であった。このため、導電性能は低いばかりでなく、耐久性にも劣るものであり、更にはコストが高くなるなどの問題も抱えていた。これらの事より、PVA系繊維の本来の強度、弾性率などの力学的性質に加えて、繊維自体が高い導電性能を兼備するPVA系繊維の開発と、それを安価に製造する方法の提案が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−249185号公報
【特許文献2】特開平4−289876号公報
【特許文献3】特開平4−289877号公報
【特許文献4】特公平1−29887号公報
【特許文献5】特開昭52−144422号公報
【特許文献6】特開2002−212829号公報
【特許文献7】特開昭57−21570号公報
【特許文献8】特開昭59−108043号公報
【特許文献9】特開平7−179769号公報
【特許文献10】特開昭59−132507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、強度、弾性率等の機械的特性、耐熱性などの従来のPVA系繊維の性能を損なうことがなく、優れた導電性及びその耐久性が付与されたPVA系繊維とその製造方法及び該繊維を用いてなる導電性布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は上記したPVA系繊維を得るべく鋭意検討を重ねた結果、PVA系ポリマーに対して特別に高価な設備を必要とせず、通常の繊維製造工程中において、銅イオンを含む化合物を繊維中に含浸させ、その後の工程で銅を硫化処理することにより、繊維断面がスキンーコア構造を有する繊維のコア層に微細に分散した硫化銅微粒子を形成させることで、機械的特性と優れた導電性を兼備したPVA系繊維を安価に製造できることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、繊維断面がスキン−コア構造であり且つそのコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅粒子が微細に分散されてなることを特徴とする導電性PVA系繊維であり、好ましくは体積固有抵抗値が1.0×10−3〜1.0×10Ω・cmであることを特徴とする上記の導電性PVA系繊維であり、さらに好ましくはPVA系ポリマー100質量部に対して、硫化銅微粒子が1〜50質量部含有されてなることを特徴とする上記の導電性PVA系繊維である。
【0013】
また本発明は、銅イオンを含む化合物が10〜400g/Lの濃度で溶解された浴と、硫化物イオンを含む化合物が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴を通して、繊維中に各々の化合物を含有、銅を硫化させることで、スキン−コア構造を有する繊維のコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子を微細に生成させることを特徴とする上記の導電性PVA系繊維の製造方法であり、さらに本発明は、上記の導電性PVA系繊維を用いてなる導電性布帛に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強度、弾性率などの力学的特性、耐熱性と共に、優れた導電性を兼備したPVA系繊維を提供することが可能である。また本発明のPVA系繊維は、特別な工程を必要とせず、通常の繊維製造工程で達成可能であり、安価に製造することができ、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。まず本発明のPVA系繊維を構成するPVA系ポリマーについて説明する。本発明に用いるPVA系ポリマーの重合度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、より好ましくは、平均重合度が1500〜5000である。
【0016】
本発明で用いるPVA系ポリマーのケン化度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性の点から、88モル%以上であることが好ましい。PVA系ポリマーのケン化度が88モル%よりも低いものを使用した場合、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない。
【0017】
また本発明の繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。しかしながら、本発明の目的とする繊維を得るためにはビニルアルコール単位が88モル%以上のポリマーがより好適に使用される。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、難燃剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0018】
本発明の繊維は上記PVA系ポリマー以外の構成成分として、平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子が、繊維断面がスキン−コア構造である繊維のコア層に微細に分散されていることが本技術のキーポイントである。先述した通り、繊維表面にのみ硫化銅粒子が付着している繊維や、繊維断面がスキン−コア構造を有する繊維であっても、そのコア層に硫化銅微粒子が存在しない繊維は本発明のPVA系繊維の範囲外であり、目的である導電性能が発揮されない。本発明の繊維は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて初めてその存在形態を確認することができる。なお、本発明におけるスキン−コア構造とは、図1に示すように繊維の横断面を光学顕微鏡で観察したときに、一本の繊維の中で明るく見える外周部分をスキン層、比較的黒く見える中心部をコア層のことを示す。すなわち、繊維横断面を光学顕微鏡で観察すると明暗が見られる繊維が、スキン−コア構造を有する繊維ということになる。
【0019】
本発明のPVA系繊維の体積固有抵抗値は1×10−3〜1×10Ω・cmであることが好ましい。体積固有抵抗値が1×10Ω・cmより高い場合、もはや導電性繊維とは言えず、半導体材料として使用できない。より好ましくは、1×10−3Ω・cm〜1×10Ω・cmの範囲である。本発明のPVA系繊維の固有抵抗値は、後述するが、硫化銅の導入量や配向度などの繊維構造によって適宜コントロールできる。
【0020】
本発明の導電性繊維は、PVA系ポリマー100質量部に対して、硫化銅微粒子を1〜50質量部含有することが好ましく、より好ましくは2〜40質量部含有するものである。硫化銅微粒子の含有量が1質量部より少ない場合、所望の導電性能が得られにくい。一方で、硫化銅粒子の含有量が多くなりすぎると、繊維の機械的性質や耐摩耗性が不十分になることから、硫化銅微粒子の含有量は50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0021】
かかる硫化銅微粒子の平均粒子径は、500nm以下の微粒子であることが必要であり、300nm以下であるような微粒子であることが好ましく、100nm以下であるような微粒子であると更に好ましい。このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となる。例えば、同じ質量部の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。また、このような場合、粒子間の相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも粒子と同じような機能を示すことも知られている〔例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照〕。従って、本発明で初めて達成できる、このサイズ効果により、トンネル電流がより流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性能を付与することができることが本発明のキーポイントである。一方で、平均粒子径が500nmより大きい場合、上記の理由で導電性改良効果が小さくなるので、本発明の目的とする導電性能を得ることはできない。
【0022】
一般にPVA系ポリマーはその水酸基を介して銅などの金属イオンと強く配位結合することが知られている〔例えば、Polymer、Vol37,No.14、3097、(1996)参照〕。本発明ではこのPVA系ポリマー独自の挙動に着目し、硫化銅微粒子を繊維内部で均一に分散させることを試み、さらには、繊維断面がスキン−コア構造であるPVA系繊維を使用することにより、コア層に積極的に硫化銅微粒子を均一分散させることができ、さらに同じ硫化銅微粒子含有量であれば繊維内部全体に分散させるよりも導電性能に優れ、繊維の機械的特性にも優位であることを見出し、遂に本発明を完成したものである。本発明では、この銅イオンを、スキン−コア構造を有する繊維のコア層に含有させ、PVA系ポリマーの有する水酸基と配位させて、PVAと銅との配位結合を形成させる。詳細は後述するが、これを達成するには、銅イオンを含有する化合物が溶解された浴にPVA系繊維を通過させることにより、繊維のコア層に銅イオンを均一に浸透させ、配位させることができる。
【0023】
何故、本発明においてコア層に積極的に硫化銅微粒子が形成されるかについては定かではないが、本願発明者等は次のように推定している。
上述したように、スキン層とは偏光顕微鏡下で観察した際に白く見える部分、コア層とは黒く見える部分である。従って、スキン層はコア層に比べて、配向結晶化が促進されている層であると考えることができる。銅イオンなどの金属の配位は、PVA系ポリマーの中でもその非晶部にて積極的に起こることが知られている。それ故、スキン層内では銅イオンの拡散は起こるものの配位が起き難いが、コア層内では積極的に配位が起こると考えられる。
【0024】
続いて、スキン−コア構造中のコア層にて、PVA系ポリマーの水酸基と配位結合している銅イオンを硫化処理することで、硫化銅微粒子を形成させることができる。すなわち、前述した銅イオン含浸処理に引き続き、硫化能力を有する硫化物イオンを含む化合物が溶解された浴を通すことで、PVA系ポリマーと銅イオンの配位を外すことにより、硫化銅微粒子をスキン−コア構造中のコア層に形成させることができる。なお、ここでの処理は、特別に高価な工程を設ける必要はなく、通常の繊維製造工程中で処理可能である。
【0025】
本発明で使用する銅イオンを含有する化合物としては、可溶であるものであれば特に限定はなく、酢酸銅、蟻酸銅、硝酸銅、くえん酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、沃化第一銅、沃化第二銅などが用いられる。かかる銅イオンは一価でも二価でもよく、特に限定されるものではない。一価の銅イオンを含有する化合物を用いる場合は、その溶解性を向上させる目的で、塩酸、ヨウ化カリウム、アンモニア等を併用してもかまわない。これらの中でも、溶液状態でPVA系ポリマーと配位結合し易いものがより望ましく、その観点からは、銅イオンを含む化合物は、硝酸銅や酢酸銅、蟻酸銅などが好適に用いられる。
【0026】
PVA繊維中で配位した銅イオンを硫化する硫化剤としては、硫化物イオンを放出し得る化合物が用いられ、例えば、硫化ナトリウム、第二チオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ硫酸ナトリウム、硫化水素、チオ尿素、チオアセトアミド等が挙げられる。これらの中でもコスト、入手し易さ、低腐食性の点で、硫化物イオンを含む化合物としては、硫化ナトリウムが好適である。
【0027】
このように、従来の導電性繊維とは異なり、スキン−コア構造中のコア層に硫化銅微粒子を分散させ、粒子間距離を著しく小さくすることで、これに通電させた時の電流量を高めることができ、導電性、機械的特性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。また、粒子径が小さいことから、これを延伸する場合も何ら問題なく、硫化銅を含有していないPVA系繊維と同等の延伸倍率と力学物性を発現させることが可能である。
【0028】
本発明により得られる繊維の繊度は特に限定されず、例えば0.1〜10000dtex、好ましくは1〜5000dtexの繊度の繊維が広く使用できる。繊維の繊度はノズル径や延伸倍率により適宜調整すればよい。
【0029】
次に本発明のPVA系繊維の製造方法について説明する。本発明においては、PVA系ポリマーを水あるいは有機溶剤に溶解した紡糸原液を用いて後述する方法で繊維を製造することにより、繊維断面がスキン−コア構造を有する繊維のコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子が分散した、力学物性及び導電性に優れた繊維を効率良く安価に製造することができる。紡糸原液を構成する溶媒としては、例えば水、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが挙げられるが、これらの中でも、とりわけ水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で最も好適である。
【0030】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、8〜60質量部の範囲であることが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはPVA系ポリマー以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。更にこれらは、一種類または二種類以上のものを併用して使用してもかまわない。
【0031】
かかる紡糸原液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸を行えばよく、PVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出すればよい。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0032】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。また、PVA系ポリマーと共に、ホウ酸などを加えた水溶液をアルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することもできる。
【0033】
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させるが、抽出時に同時に原糸を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着抑制及び得られる繊維の機械的特性を向上させるうえで好ましい。その際の湿延伸倍率としては2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。
【0034】
湿延伸後、乾燥し、更に場合によっては乾熱延伸、熱処理を施す。このための延伸条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよく、3倍以上の全延伸倍率、好ましくは5〜25倍の全延伸倍率で延伸すると、繊維の結晶化度と配向度が上昇し、繊維の機械特性が著しく向上するので好ましい。温度が100℃未満の場合、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。なお、ここでいう延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0035】
本発明の目的とする導電性PVA系繊維を得るためには、上記の湿延伸後の膨潤状態の糸篠、若しくは乾燥または延伸後の糸篠を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含浸させる。この場合、繊維内部への銅イオンを含む化合物を均一浸透させ、銅イオンをPVA系ポリマーの水酸基と配位結合を形成せしめるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが望ましく、そのためには浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類や水、塩類あるいはこれらの混合物であることが好ましい。その時の浴溶媒による繊維の膨潤率は20質量部以上であることが好ましい。なお、膨潤率調整のため、糸篠を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬することが望ましい場合もある。膨潤率が20質量部未満の場合、銅イオンがPVA系ポリマーの水酸基と十分な配位結合を形成できず、従ってコア層にて硫化銅微粒子を生成させることができない。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVA系ポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。以上のことから、銅イオンを含む化合物が溶解された浴での膨潤率は30質量部以上300質量部以下であることが好ましく、50質量部以上250質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明のPVA系繊維は、先述したように、硫化銅の導入量や配向度などの繊維構造などにより、体積固有抵抗値を適宜コントロール可能である。銅イオンを含む化合物の浴への溶解量は要求される導電性能に応じて適宜設定すればよいが、10〜400g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が10g/L未満の場合、所望の物性が得られず、また400g/Lを越える場合は、ローラーへの付着など、工程性不良をもたらすので好ましくない。より好ましくは20〜300g/Lである。前記したように、所定の膨潤状態にある場合、銅イオンが溶解された浴に糸篠が通過した時点で、銅イオンを含む化合物の繊維への含浸は起こるので、浴での滞留時間については特に制限はないが、スキン−コア構造中のコア層にまで銅イオンを均一に含浸させ、PVA系ポリマーと配位結合を十分にせしめることを目的に、浴での滞留時間は3秒以上、好ましくは30秒以上であることが望ましい。
【0037】
次にPVA系繊維内部と表面で配位結合している銅イオンを硫化処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる必要がある。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴への添加量は銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が1g/L未満の場合、繊維内部の銅イオンまで硫化処理が進まない可能性があるので好ましくない。また100g/Lを超える場合は、PVA系繊維内に含まれる銅イオンを硫化処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維内部にまで十分硫化処理を施すことを目的に、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。
【0038】
PVA系繊維の導電性能を高める為には、上記の銅イオンを繊維断面がスキン−コア構造を有する繊維のコア層にまで含浸させる工程と、銅イオンを硫化処理する工程を繰り返し通過させ、繊維中の硫化銅含有量を高めることが効果的である。一旦PVA鎖に配位した銅イオンを硫化処理することで硫化銅微粒子が生成するが、その際に、銅イオンと配位結合していた水酸基は回復し、再度銅イオンが配位できる水酸基が存在することになる。従って、上記処理を繰り返すことで、効果的に繊維への硫化銅微粒子を生成させ、導電性能を高めることができる。更には、繊維の配向度が高い繊維ほど、すなわち繊維の総延伸倍率が高いほど、導電性能を高めることができるので望ましい。この理由は現段階では明らかではないが、繊維の配向度が高いほど、硫化銅微粒子が、繊維軸方向に沿って生成し、粒子間の距離が一層短くなるためと考えている。ここでいう繊維の配向度は、銅イオンを含浸させた後の配向度である。繊維中に硫化銅微粒子を生成したものに対して延伸を行うと、繊維中の硫化銅微粒子間距離が増加するためか、導電性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0039】
一方で、硫化銅粒子を予め原液から仕込んだ場合には、繊維中に硫化銅微粒子を分散させることはできず、所望の物性を発現させるには、多量の硫化銅粒子の添加が必要となる。この場合、原液中での分散不良や、凝集、沈降などが起こり、繊維化工程、その後の延伸性が低下し、結果として結晶化度が低く、ある程度の導電性は付与できても、機械的特性の低い繊維しか得られない。また、あらかじめ銅イオンを配位させたPVA系ポリマーを原料として使用した場合は、銅の配位による溶液粘度の上昇や、固化性が悪化するなど、工程性が悪化することに加えて、得られる繊維の力学物性は低いものとなる。
【0040】
このようにして得られた、繊維中に硫化銅微粒子を導入された原糸若しくは延伸糸に、熱処理を施し繊維物性を向上させることで、本発明の導電性PVA系繊維を製造することができる。このための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよい。温度が100℃未満の場合、繊維物性の向上効果が不十分である。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。
【0041】
本発明の繊維は、例えばステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態において優れた導電性を示すので、センサーや電磁波シールド材などの用途に用いることができる。その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、あるいは星型等異型断面であってもかまわない。なかでも、本発明によるPVA系繊維は、導電性、柔軟性にすぐれているので、導電性布帛として有利に用いることができ、例えば、本発明によるPVA系繊維を50重量%以上、好ましくは、80重量%以上、特に、90重量%以上含む布帛とすることによって、高度に導電性を示すPVA系繊維製品を得ることができる。この時、併用しうる繊維として特に限定はないが、硫化銅微粒子を含有しないPVA系繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。
【0042】
本発明の繊維は、力学物性、耐熱性に加えて、柔軟性、導電性に優れることから、フィラメントや紡績糸、更には紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【0043】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、繊維中の硫化銅ナノ微粒子の含有量、存在形態および粒子径、膨潤率、繊維の体積固有抵抗値、繊維の引張強度は下記の方法により測定したものを示す。
【0044】
[スキン−コア構造の有無及び、繊維中の硫化銅微粒子の平均粒子径 nm]
繊維中の硫化銅粒子の存在形態は、(株)日立製作所製H−800NA透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。繊維断面の写真から任意に50個の硫化銅微粒子を選び、その大きを夫々実測し、平均値を平均粒子径とした。
【0045】
[繊維中の硫化銅微粒子の含有量測定 質量部]
繊維中の硫化銅微粒子の含有量測定は、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS−APを用いて行った。
【0046】
[繊維の導電性(体積固有抵抗値)測定 Ω・cm]
PVA繊維を温度105℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度20℃、湿度30%の条件下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維に対して、長さ2cmの単繊維試験片を採取し、該試験片の両端間に、横河ヒューレットパッカード社製の抵抗値測定機「MULTIMETER」を使用して、10Vの電圧をかけてその抵抗値(Ω)を測定した。そして、体積固有抵抗値(ρ)(Ω・cm)=R×(S/L)により、各試験片の体積固有抵抗値を求め、これを25試料片について行い、その平均値を試料の体積固有抵抗値とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、及びLは長さ(2cm)を示す。ここで、試験片の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察することにより算出した。
【0047】
[電磁波シールド測定 dB]
電磁波シールド特性の測定は、関西電子工業振興センター法(KEC法)に従い、行った。測定温度は24℃、測定周波数は10〜1000MHz、電波発信部と受信部との距離は5mmで行い、n=5の平均値を採用した。100MHzでの電磁波シールド特性(dB)を比較することで、効果の有無を判断した。なお、20dBとは入射電磁波の90%を遮蔽することを意味しており、40dBとは99%の遮蔽、60dBとは99.9%の遮蔽材料であることを意味する。
【0048】
[繊維強度 cN/dtex]
JIS L1013に準じて、予め調湿されたヤーンを試長20cm、初荷重0.25cN/dtex及び引張速度50%/分の条件で測定し、n=20の平均値を採用した。また繊維繊度(dtex)は質量法により求めた。
【0049】
[実施例1]
(1)粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度16質量部となるように水に投入し、90℃にて窒素雰囲気下で加熱溶解した。得られた紡糸原液を孔径0.16mm、ホール数1000のノズルを通して飽和芒硝水溶液からなる凝固浴中へ湿式紡糸した。
(2)さらに、得られた繊維を水中で5倍に湿延伸した後、和光純薬(株)製の硝酸銅を280g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸した。この処理を2回繰り返した後、水洗し、120℃の熱風で乾燥し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価結果を表1に示す。
(3)得られた繊維において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は5.81質量部、平均粒子径は210nmであった。硫化銅微粒子の分散状態のTEM写真を図1に示す。
図1に示すとおり、スキン−コア構造中のコア層に硫化銅微粒子が形成されていた。繊維物性は単糸繊度2.0dtex、繊維強度は5.0cN/dtexであり、体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであった。さらに繊維の外観は良好で糸斑等はなく、従来のPVA系繊維の力学物性を有することに加えて、導電性に優れるものであった。
(4)該実施例1により得られた繊維を、市販の歯ブラシを使って100回ブラッシングした後にも、力学物性及び導電性能は保たれており、耐久性に優れるものであった。
【0050】
[実施例2]
(1)硝酸銅が溶解された浴を通す処理、次いで硫化ナトリウムが溶解された浴を通す処理を10回繰り返した以外は実施例1と同じ条件で紡糸し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価結果を表1に示す。
(2)得られた繊維において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は15.8質量部、コア層中の平均粒子径は300nmであった。繊維物性は単糸繊度2.3dtex、繊維強度は4.3cN/dtexであり、体積固有抵抗値は8.3×10−2Ω・cmであった。さらに繊維の外観は良好で糸斑等はなく、従来のPVA系繊維の力学物性に加えて、導電性に優れるものであった。
(3)該実施例2により得られた繊維を、市販の歯ブラシを使って100回ブラッシングした後にも、力学物性及び導電性能は保たれており、耐久性に優れるものであった。
【0051】
[実施例3]
(1)実施例1と同様な方法にて湿式紡糸して得たPVA系繊維を紡績してC80/1とし、実施例1と同様な方法によって導電化処理を実施した。
(2)得られた紡績糸において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は7.38質量部、該硫化銅微粒子はコア層に形成されており、その平均粒子径は220nmであった。紡績糸の強度は4.4cN/dtexであり、体積固有抵抗値は3.0×10Ω・cmであった。更に繊維の外観は良好で糸斑等はなく、従来のPVA系繊維の力学物性に加えて、導電性に優れるものであった。
【0052】
[実施例4]
実施例2で得られた導電性PVA系繊維を、基布密度経50本/10cm、緯50本/10cmにて、織り幅20cm×20cmの布帛を製造した。得られた布帛の100MHzでの電磁波シールド性能は、40dBであり、電磁波遮蔽性能に優れるものであった。
【0053】
[比較例1]
硝酸銅が溶解された浴及び硫化ナトリウムが溶解された浴を通過させない以外は、実施例1と同様な条件で紡糸し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価を表2に示す。繊維物性は、単糸繊度1.9dtex、繊維強度は5.0cN/dtexであったが、体積固有抵抗値は5.0×1012Ω・cmであり、導電性に劣るものであった。
【0054】
[比較例2]
硝酸銅が溶解された浴は通過させたが、硫化ナトリウムが溶解された浴を通過させない以外は、実施例1と同様な条件で紡糸し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価を表2に示す。繊維物性は単糸繊度2.0dtex、繊維強度は5.3cN/dtexであったが、体積固有抵抗値は7.8×1012Ω・cmであり、導電性に劣るものであった。
【0055】
[比較例3]
和光純薬(株)製の硝酸銅を230g/L溶解した水溶液と、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した水溶液を混合し、2次粒子径約10μmの硫化銅粒子を析出させた。これを水で十分洗浄後、80℃で乾燥したものを、PVAに対して30質量部となるように原液に添加する、いわゆる原液添加にて比較例1と同様の方法で紡績した。得られた繊維の性能評価を表2に示す。得られた繊維中の硫化銅粒子の含有量は28.8質量部であったが、体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであった。また、繊維内部での硫化銅粒子の平均粒子径は5μm(5000nm)であり、繊維内部で所々凝集していた。そのため、糸斑が見られるばかりでなく、繊維の強度は2.5cN/dtexと低いものであった。また、短時間でフィルターの昇圧が起こるなど、工程通過性も悪いものであった。
【0056】
[比較例4]
(1)スキン−コア構造を有しない市販のナイロン6繊維を、和光純薬(株)製の酢酸銅を230g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸した。これを、2回繰り返した後、120℃の熱風で乾燥し、繊維を得た。
(2)得られた繊維は、硫化銅量は0.45質量部であり、表面にのみ1μm(1000nm)程度の硫化銅粒子が、大きな塊上に付着して入る状態であった。繊維の強度は3.5cN/dtexであったが、体積固有抵抗値は4.0×1010Ω・cmであった。さらに、該繊維を市販の歯ブラシで100回程度ブラッシングすると、表面の硫化銅が剥がれ落ちてしまった。
【0057】
[比較例5]
比較例4で得られたナイロン6繊維を、基布密度経50本/10cm、緯50本/10cmにて、織り幅20cm×20cmの布帛を製造した。得られた布帛の100MHzでの電磁波シールド性能は、2dBであり、電磁波遮蔽性能に劣るものであった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1、2及び図1の結果から明らかなように、本発明のPVA系繊維は、スキン−コア構造を有する繊維のコア層に、平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子が分散した状態を保っており、PVA本来の力学物性に加えて、優れた導電性を兼ね備えている。一方、表2の結果から明らかなように、スキン−コア構造を有していない繊維や、硫化銅微粒子を原液から添加した場合は、本発明の繊維のように、力学物性と導電性の両特性を兼備することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、従来技術では達成することができなかった力学特性と優れた導電性を兼備したPVA系繊維を提供することができる。また本発明のPVA系繊維は特別に高価な工程を必要とせず、通常の紡糸、延伸工程で安価に製造可能である。さらに本発明のPVA系繊維は、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に期待される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のPVA繊維中において、コア層に硫化銅微粒子が分散している状態を示す透過型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維断面がスキン−コア構造であり、且つそのコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子が微細に分散されてなることを特徴とする導電性ポリビニルアルコール系繊維。
【請求項2】
体積固有抵抗値が1.0×10−3〜1.0×10Ω・cmであることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維
【請求項3】
ポリビニルアルコール系ポリマー100質量部に対して、硫化銅微粒子が1〜50質量部含有されてなることを特徴とする請求項1及び2記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維。
【請求項4】
銅イオンを含む化合物が10〜400g/Lの濃度で溶解された浴と、硫化物イオンを含む化合物が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴を通して、繊維中に各々の化合物を含有、銅を硫化させることで、繊維断面がスキン−コア構造を有する繊維のコア層に平均粒子径が500nm以下の硫化銅微粒子を微細に生成させることを特徴とする請求項1〜3記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維を用いてなる導電性布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2007−131977(P2007−131977A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326790(P2005−326790)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】