説明

導電性ポリマーを含有するポリマーコーティング

本発明は、導電性ポリマーおよび無水物化合物を含有するコーティングに、その製造および使用に、ならびにこのようなコーティングを製造するための分散液に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーおよび無水物化合物を含有するコーティングに、その製造および使用に、ならびにこのようなコーティングを製造するための分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、加工性、重量、および化学修飾によって特性を狙った設定にできることの点で、金属に勝る利点を有するので、導電性ポリマーは、ますます経済的に重要になってきている。公知のπ共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p−フェニレンビニレン)である。導電性ポリマーでできた層は、産業界で広く使用されている。
【0003】
導電性ポリマーは、導電性ポリマーの製造のための前駆体、例えば任意に置換されたチオフェン、ピロールおよびアニリンなど、ならびにそれらのそれぞれの任意にオリゴマー状の誘導体から化学的にまたは電気化学的酸化によって、製造される。化学的酸化による重合は液体媒体の中または幅広い範囲の基板の上で、技術的に簡単に行うことができるので、化学的酸化による重合は、特に広まっている。
【0004】
特に重要でかつ工業的に使用されるポリチオフェンは、例えば特許文献1に記載されているポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)(PEDOTまたはPEDT)であり、これは、エチレン−3,4−ジオキシチオフェン(EDOTまたはEDT)の化学重合によって製造され、その酸化された形態において、非常に高い伝導率を呈する。数多くのポリ(アルキレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、特にポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、その単量体基本単位、合成および応用例の概説は、非特許文献1によって与えられている。
【0005】
ポリスチレンスルホン酸(PSSA)を伴うPEDOTの分散液は、特に工業的に重要になってきた。透明な導電性の膜をこれらの分散液から製造することができる;そのような膜は、非常に多くの応用例を見出している。しかしながら、PEDOT−PSSAから製造される層の電気伝導率および透過率はまだあまりに低いため、特定の用途領域は、まだ未開発のまま残っている。酸化インジウムスズ(ITO)でできた層は、例えば5,000S/cm超の電気伝導率で際立っており、そして5〜20オーム/スクエア(ohms/sq)の表面抵抗が、90%の透過率を伴って成し遂げられている。
【0006】
導電性ポリマーにおいて電気伝導率を高めるための添加剤の使用は、Mac DairmidおよびEpsteinによって初めて記載された(非特許文献2)。この種の添加剤は、電気伝導率添加剤とも記載される。Mac DairmidおよびEpsteinは、m−クレゾールを電気伝導率添加剤として、導電性ポリマーであるポリアニリンに添加し、顕著な電気伝導率の上昇を得た。とは言うものの、190S/cmまでという記載された電気伝導率は、まだ十分ではない。
【0007】
2002年に、J.Y.Kimら(非特許文献3)は、PEDT/PSSA膜の電気伝導率を、極性の高沸点化合物(high boilers)の使用の結果として大きく高めることができる方法を記載した。ジメチルスルホキシド(DMSO)をPEDOT/PSSA分散液へと添加すると、電気伝導率を、0.8S/cmから80S/cmへと2桁高めることが可能になる。しかしながら、80S/cmという電気伝導率でさえ、例えばITOを置き換えるにはまだ十分ではない。
【0008】
Ouyangら(非特許文献4)は、PEDOT:PSSAの電気伝導率を上昇させることを可能にする添加剤の一覧を公開した。200S/cmという、この刊行物に記載された最も高い電気伝導率は、エチレングリコールの添加の結果として成し遂げられる。
【0009】
特許文献2では、PEDOT:PSSAと組み合わせたジカルボン酸誘導体の使用が試験された。この目的のために、PSSAは、最初に3回透析された。その後、EDTは、このPSSAの存在下で重合され、生成したPEDOT:PSSA錯体は、さらに6回透析された。最後に、生成した生成物は、種々のジカルボン酸と混合された。この場合、チオ二酢酸との混合物について、チオ二酢酸の濃度に応じてそれぞれ770S/cmおよび1,473S/cmという電気伝導率が見出された。ジグリコール酸との混合物について、ジグリコール酸の濃度に応じてそれぞれ290S/cmおよび596S/cmという電気伝導率が見出された。この手順の欠点としては、一方で、多数回の透析工程を伴うPEDOT:PSSAの錯体合成;他方で、比電気伝導率の測定が詳細に記載されていないことが挙げられる。さらなる欠点は、この種の化合物は、加熱されたときに、水を脱離させる可能性があるということである。
【0010】
特許文献3では、PEDOT/PSSA分散液の電気伝導率は、スクシンイミドの使用の結果として高まり、200〜1,000S/cmという電気伝導率を成し遂げることが可能になる。しかしながら、スクシンイミドは123〜135℃という融点および285〜290℃という沸点を特徴とするため、スクシンイミドは、透明な導電性の層を製造するには、限定的な適性しか有しない。それゆえ、100〜200℃という従来の乾燥条件下では、スクシンイミドは、例えばジメチルスルホキシドなどの他の電気伝導率添加剤とは対照的に、最終の導電性フィルムの中に留まり、そこでスクシンイミドは結晶性領域を形成し、膜の曇りを導く。それゆえこの手順も、透明な、非常に高い導電性の層を製造するのには適していない。
【0011】
特許文献4は、真空を使用する、PEDOT:PSSA分散液の合成を記載する。DMSOを電気伝導率添加剤として添加した後、704S/cmという電気伝導率が成し遂げられ、得られた層は透明であった。とは言うものの、これらの電気伝導率も、例えばITOを置き換えるためには十分ではない。
【0012】
このように、公知のコーティングより高い電気伝導率値を有する透明なコーティング、およびこの種のコーティングを製造するための適切な分散液に対する要求がまだあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第339 340(A2)号明細書
【特許文献2】特開2007−119548号公報
【特許文献3】特開2006−328276号公報
【特許文献4】国際公開第2009/030615(A1)号パンフレット
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】L.Groenendaal,F.Jonas,D.Freitag,H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater.、2000年、第12巻、481−494頁
【非特許文献2】Synthetic Metals、1994年、第65巻、103−116頁
【非特許文献3】Synthetic Metals、2002年、第126巻、311−316頁
【非特許文献4】Polymer、2004年、第45巻、8443−8450頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、より高い電気伝導率値を有するこの種の透明なコーティングおよびその製造のための適切な分散液を提供することにあった。本発明は、用語「分散液」と「溶液」とを区別しない、すなわちそれらは、同義語であると見なす。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、少なくとも1つの導電性ポリマーおよび少なくとも1つの無水物化合物を含有する分散液が、より高い電気伝導率値を有する透明なコーティングを製造するのに適しているということが見出された。
【0017】
従って、本発明の主題は、少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤D)とを含む分散液であって、この混合物は、少なくとも1つの一般式(I)の無水物化合物
【化1】

(式中、Wは、0〜80個の炭素原子を有する任意に置換された有機ラジカルを表す)
を含むことを特徴とする、分散液である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の範囲内では、用語「有機ラジカルR」は、0〜80個の炭素原子を含有し、かつ例えば以下の基のうちの1以上から構成される化合物を指し、この場合、個々の基はこのラジカルの中に繰り返し現れてもよい。ラジカルR中の基としては、エーテル、スルホン、スルホラン、スルフィド,アミン、エステル、カーボネート,アミド、イミド、芳香族基 −特にフェニレン、ビフェニレンおよびナフタレン− ならびに脂肪族基、特にメチレン、エチレン、プロピレンおよびイソプロピリデンが挙げられる。これらの芳香族基および脂肪族基は、さらに置換されていてもよい。その置換基は、アルキル、好ましくはC〜C20アルキル;シクロアルキル、好ましくはC〜C12シクロアルキル;アリール、好ましくはC〜C14アリール、ハロゲン、好ましくはCl、BrまたはJ;エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート,アミノ,アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボキシレート、ホスホン酸、ホスホネート、シアノ,アルキルシランおよびアルコキシシラン基ならびにカルボキシルアミド基からなる群から選択することができる。
【0019】
本発明の範囲内の好ましい無水物化合物は、一般式(Ia)の化合物である。
【化2】

式中、Xは、S、OまたはNH、好ましくはOを表す。
【0020】
当該分散液の中の一般式(I)または(Ia)の化合物の割合は、全分散液の重量に基づいて0.001〜40重量パーセント(重量%)であり;好ましくは、この割合は0.1〜10重量%であり、特に好ましくはこの割合は、0.2〜5重量%である。
【0021】
一般式(I)および(Ia)の化合物は市販されている。
【0022】
導電性ポリマーは、本発明の範囲内では、好ましくは、任意に置換されたポリピロール、任意に置換されたポリアニリンまたは任意に置換されたポリチオフェンであってもよい。これらの導電性ポリマーのうちの2以上の混合物が使用される場合もあってよい。
【0023】
好ましい導電性ポリマーは、一般式(II)の繰り返し単位を含む任意に置換されたポリチオフェンである。
【化3】

式中、
およびRは、互いに独立に、各々H、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカルまたは任意に置換されたC〜C18アルコキシラジカルを表すか、または
およびRは一緒に、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル(ここで、1以上のC原子は、OもしくはSから選択される、1以上の同一のまたは異なるヘテロ原子によって置き換えられてもよく、好ましくはC〜Cジオキシアルキレンラジカル)、任意に置換されたC〜Cオキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜Cジチアアルキレンラジカル、または任意に置換されたC〜Cアルキリデンラジカル(ここで、任意に少なくとも1つのC原子は、OもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられてもよい)を表す。
【0024】
さらなる好ましい実施形態では、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(II−a)および/または一般式(II−b)の繰り返し単位を含むポリチオフェンである。
【化4】

式中、
Aは、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカルを表し、
Yは、OまたはSを表し、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカル、好ましくは直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C14アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜Cヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルを表し、
xは、0〜8、好ましくは0、1または2、特に好ましくは0または1の整数を表し、
複数のラジカルRがAに結合されている場合、これらのラジカルは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0025】
一般式(II−a)は、置換基RはアルキレンラジカルAにx回結合されていてもよいというように理解されたい。
【0026】
なおさらに好ましい実施形態では、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(II−aa)および/または一般式(II−ab)の繰り返し単位を含むポリチオフェンである。
【化5】

式中、Rは上記の意味を有し、xは、0〜4、好ましくは0、1または2、特に好ましくは0または1の整数を表す。
【0027】
一般式(II−aa)および(II−ab)は、同様に、置換基Rはこのエチレンラジカルにx回結合されていてもよいというように理解されたい。
【0028】
なおさらに好ましい実施形態では、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(II−a)および/または一般式(II−b)のポリチオフェンを含むポリチオフェンである。
【化6】

【0029】
本発明の範囲内では、接頭辞「ポリ」は、複数の同一のまたは異なる繰り返し単位がこのポリチオフェンの中に含有されるということを意味するとして理解されたい。当該ポリチオフェンは、合計n個の一般式(I)の繰り返し単位を含有し、ここでnは2〜2,000、好ましくは2〜100の整数であることができる。一般式(II)の繰り返し単位は、各々、1つのポリチオフェンの中で同じであってもよいし異なっていてもよい。各々が同一の一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェンが好ましい。
【0030】
末端基に、当該ポリチオフェンは、好ましくは各々Hを保有する。
【0031】
特に好ましい実施形態では、一般式(II)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチアチオフェン)またはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)、すなわち式(II−aaa)、(II−aba)または(II−b)の繰り返し単位(式(II−b)において、Yは、この場合は、Sを表す)から構成されるホモポリチオフェンである。
【0032】
さらに特に好ましい実施形態では、一般式(II)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、式(II−aaa)および(II−aba)、(II−aaa)および(II−b)、(II−aba)および(II−b)または(II−aaa)、(II−aba)および(II−b)の繰り返し単位から構成される共重合体であり、式(II−aaa)および(II−aba)ならびに(II−aaa)および(II−b)の繰り返し単位から構成される共重合体が好ましい。
【0033】
〜CアルキレンラジカルAは、本発明の範囲内では、メチレン、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレンまたはn−ペンチレンであり;C〜Cアルキレンラジカルは、加えてn−ヘキシレン、n−ヘプチレンおよびn−オクチレンである。C〜Cアルキリデンラジカルは、本発明の範囲内では、少なくとも1つの二重結合を含有する上に記載したC〜Cアルキレンラジカルである。C〜Cジオキシアルキレンラジカル、C〜CオキシチアアルキレンラジカルおよびC〜Cジチアアルキレンラジカルは、本発明の範囲内では、上に記載したC〜Cアルキレンラジカルに対応するC〜Cジオキシアルキレンラジカル、C〜CオキシチアアルキレンラジカルおよびC〜Cジチアアルキレンラジカルを表す。C〜C18アルキルは、本発明の範囲内では、例えばメチル、エチル、n−またはイソプロピル、n−、iso−、sec−もしくはtert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシルまたはn−オクタデシルなどの直鎖状もしくは分枝状のC〜C18アルキルラジカルを表し、C〜C12シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルなどのC〜C12シクロアルキルラジカルを表し、C〜C14アリールは、フェニルまたはナフチルなどのC〜C14アリールラジカルを表し、C〜C18アラルキルは、例えばベンジル、o−、m−、p−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−キシリルまたはメシチルなどのC〜C18アラルキルラジカルを表す。C〜C18アルコキシラジカルは、本発明の範囲内では、上に記載したC〜C18アルキルラジカルに対応するアルコキシラジカルを表し、C〜Cヒドロキシアルキルは、本発明の範囲内では、好ましくは、1以上の、しかし好ましくは1つのヒドロキシ基で置換されている、上に記載したC〜Cアルキルラジカルを表す。上記の一覧は、例として本発明を説明する役割を果たすが、排他的なものであると考えられるべきではない。
【0034】
上記のラジカルの任意にさらなる置換基は、多くの有機基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボキシレート、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基ならびにカルボキシルアミド基であってもよい。
【0035】
他の導電性ポリマー、ポリアニリンまたはポリピロール、についての置換基は、例えば、上に記載したラジカルAおよびR、ならびに/またはこのラジカルAおよびRのさらなる置換基であってもよい。非置換のポリアニリンおよびポリピロールが好ましい。
【0036】
任意に置換された導電性ポリマー、特に、任意に置換された、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェンの固形分含量は、当該分散液において、0.05〜20.0重量パーセント(重量%)、好ましくは0.1〜5.0重量%、特に好ましくは0.3〜4.0重量%である。
【0037】
本発明の範囲は、すべての上記および下記の、一般的なラジカルの定義、パラメータおよび注釈を、または好ましい範囲内において記載されたラジカルの定義、パラメータおよび注釈を互いとともに、すなわち、任意の所望の組み合わせのそれぞれの範囲と好ましい範囲との間を含めて、包含する。
【0038】
当該分散液中の導電性ポリマーとして使用されるポリチオフェンは、中性またはカチオン性であることができる。好ましい実施形態では、このポリチオフェンはカチオン性である。用語「カチオン性」は、単にこのポリチオフェン主鎖上に存在する電荷のみに関する。ラジカルR上の置換基に応じて、当該ポリチオフェンは正電荷および負電荷をその構造単位の中に有することができ、この場合、この正電荷は当該ポリチオフェン主鎖上に存在し、負電荷は、存在する場合、スルホネート基またはカルボキシレート基によって置換されたラジカルR上に存在する。これに関して、当該ポリチオフェン主鎖の正電荷は、ラジカルR上に任意に存在し得るアニオン性基によって部分的にまたは完全に飽和されていてもよい。全体的に見ると、このポリチオフェンは、これらの場合にはカチオン性であってもよく、電荷を帯びていなくてもよく、またはアニオン性でさえあってもよい。とは言うものの、本発明に関しては、それらは、すべてカチオン性ポリチオフェンであると考えられる。なぜなら、このポリチオフェン主鎖上の正電荷が非常に重要だからである。この正電荷は、上記式の中には示されていない。なぜなら、それらの正確な数および位置は明確に特定できないからである。しかしながら正電荷の数は、少なくとも1であり、多くともnである(nは、このポリチオフェン内のすべての(同じまたは異なる)繰り返し単位の総数である)。
【0039】
任意にスルホネートまたはカルボキシレート置換された、従って負に帯電したラジカルRによってこの正電荷と均衡がまだとられていない限りでは、この正電荷と均衡をとるために、このカチオン性ポリチオフェンは対イオンとしてアニオンを必要とする。
【0040】
対イオンは、単量体状アニオンであってもよくまたは高分子アニオンであってもよく、後者は、本願明細書中では、以降、ポリアニオンとも呼ばれる。
【0041】
使用される単量体状アニオンは、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などのまたはより高級のスルホン酸(ドデカンスルホン酸など)などのC〜C20−アルカンスルホン酸の単量体状アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸、ペルフルオロブタンスルホン酸またはペルフルオロオクタンスルホン酸などの脂肪族ペルフルオロスルホン酸の単量体状アニオン、2−エチルヘキシルカルボン酸などの脂肪族C〜C20−カルボン酸の単量体状アニオン、トリフルオロ酢酸またはペルフルオロオクタン酸などの脂肪族ペルフルオロカルボン酸の単量体状アニオン、およびベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸などのC〜C20−アルキル基によって任意に置換された芳香族スルホン酸の単量体状アニオン、およびカンファースルホン酸などのシクロアルカンスルホン酸の単量体状アニオン、またはテトラフルオロホウ酸の単量体状アニオン、ヘキサフルオロリン酸の単量体状アニオン、過塩素酸の単量体状アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸の単量体状アニオン、ヘキサフルオロひ酸の単量体状アニオンまたはヘキサクロロアンチモン酸の単量体状アニオンである。好ましい単量体状アニオンは、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはカンファースルホン酸のアニオンである。
【0042】
高分子アニオンは単量体状アニオンよりも好ましい。なぜなら、高分子アニオンは膜形成に寄与し、かつそのサイズに起因して、熱的により安定な、電気伝導性の膜を導くからである。しかしながら、この高分子アニオンに加えて、当該分散液は、単量体状アニオンも含有することができる。
【0043】
本発明においては、高分子アニオンは、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはポリマレイン酸などの高分子カルボン酸のアニオン、またはポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸などの高分子スルホン酸のアニオンであってもよい。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸は、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と他の重合性単量体(アクリル酸エステルおよびスチレンなど)との共重合体であってもよい。このポリカチオンおよびポリアニオンの組み合わせは、ポリカチオン−ポリアニオン錯体とも呼ばれる。
【0044】
好ましくは、本発明に係る分散液は、高分子カルボン酸または高分子スルホン酸の少なくとも1つのアニオンを対イオンとして含有する。特に好ましい高分子アニオンは、ポリスチレンスルホン酸(PSSA)のアニオンである。
【0045】
このポリアニオンを供給するポリ酸の分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、特に好ましくは2,000〜500,000である。このポリ酸またはそのアルカリ金属塩は市販されており、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸などは、公知の方法(例えばHouben Weyl、Methoden der organischen Chemie、第E20巻、Makromolekulare Stoffe、第2部、(1987)、1141頁以下参照)を使用して調製することができる。
【0046】
導電性ポリマー、特に一般式(II)の繰り返し単位を含有する任意に置換されたポリチオフェン、および対イオン、特に高分子アニオンの全体の割合は、当該分散液において、当該分散液の総重量に基づき、例えば0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0047】
本発明に係る分散液は、導電性ポリマー、特に任意に置換された、一般式(II)の繰り返し単位を含むポリチオフェン、および対イオン、特に高分子アニオンを、1:0.3〜1:100、好ましくは1:1〜1:40、特に好ましくは1:2〜1:20、きわめて好ましくは1:2〜1:15の重量比で含有することができる。当該導電性ポリマーの重量は、本発明においては、当該重合において完全反応が起こると仮定して、使用される単量体の秤量された重量に相当する。
【0048】
本発明に係る分散液は、1以上の分散剤D)を含むことができる。分散剤D)の例としては、以下の溶媒が挙げられる:メタノール、エタノール、i−プロパノールおよびブタノールなどの脂肪族アルコール;アセトンおよびメチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン;酢酸エチルエステルおよび酢酸ブチルエステルなどの脂肪族カルボン酸エステル;トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどの塩素化炭化水素;アセトニトリルなどの脂肪族ニトリル、ジメチルスルホキシドおよびスルホランなどの脂肪族スルホキシドおよびスルホン;メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドなどの脂肪族カルボン酸アミド;ジエチルエーテルおよびアニソールなどの脂肪族エーテルおよび芳香環脂肪族エーテル;エチレングリコールなどのグリコール。さらには、水、または水と上述の有機溶媒との混合物も分散剤として使用することができる。
【0049】
好ましい分散剤D)は、水、またはアルコール、例えばメタノール、エタノール、i−プロパノールおよびブタノールなどの他のプロトン性溶媒、ならびに水とこれらのアルコールとの混合物であり;水が特に好ましい溶媒である。
【0050】
本発明に係る分散液は、少なくとも1つの高分子結合剤をさらに含むことができる。適切な結合剤は、高分子有機結合剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸アミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステルおよびエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミンホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂またはセルロース誘導体である。
【0051】
当該分散液は、例えば有機官能性シランまたはその加水分解生成物、例えば3−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはオクチルトリエトキシシランなどの接着促進剤をさらに含むことができる。
【0052】
本発明に係る分散液の中の高分子結合剤の割合は、当該分散液の総重量に基づき0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜30重量%および非常に特に好ましくは0.5〜10重量%である。
【0053】
当該分散液は、さらなる電気伝導率添加剤L)をさらに含むことができる。この種の電気伝導率添加剤L)としては、例えばテトラヒドロフランなどのエーテル基含有化合物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン基含有化合物;カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドン(NMP)、N−オクチルピロリドン、ピロリドンなどのアミドまたはラクタム基含有化合物;例えばスルホラン(テトラメチレンスルホン)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホンおよびスルホキシド;例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ラクトースなどの糖または糖誘導体、例えばソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール;例えばスクシンイミドまたはマレイミドなどのイミド;例えば2−フランカルボン酸、3−フランカルボン酸などのフラン誘導体、ならびに/または例えばエチレングリコール、グリセロールもしくはジエチレングリコールもしくはトリエチレングリコールなどのジアルコールもしくはポリアルコールならびに硫酸が挙げられる。上述の電気伝導率添加剤L)の混合物も、使用することができる。
【0054】
特に好ましくは本発明の範囲内で、一般式(I)または(Ia)の化合物は、単独で、またはテトラヒドロフラン、N−メチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ソルビトールもしくは硫酸などの電気伝導率添加剤L)のうちの少なくとも1つと組み合わせて使用される。
【0055】
当該分散液中の一般式(I)または(Ia)の化合物および少なくとも1つの電気伝導率添加剤L)の全体の割合は、全分散液の重量に基づき0.001〜40重量%であり;好ましくはこの割合は0.5〜20重量%であり、特に好ましくはこの割合は1〜10重量%である。
【0056】
本発明のさらなる主題は、本発明に係る分散液を製造するための方法であって、
a)少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤D)とを含有する分散液を製造する工程であって、重合は、大気圧未満である圧力で行われる工程と、
b)少なくとも1つの一般式(I)の化合物
【化7】

(式中、Wは、0〜80個の炭素原子を有する任意に置換された有機ラジカルを表す)を加える工程と、
を含む方法である。
【0057】
上記の方法の工程a)は、国際公開第2009/030615(A1)号パンフレットに記載される方法のように実施される。この場合、導電性ポリマーの製造のための対応する前駆体から、大気圧未満である圧力を使用して、対イオンおよび分散剤D)の存在下で、電気伝導性ポリマーの分散液が最初に製造される。この工程は、重合の開始の前に反応容器の中の全圧が下げられるということに基づく。用語「減圧」は、本発明においては、反応容器の中の圧力が、その反応容器に外部から加えられる大気圧よりも低いということを指す。これらの分散液を製造するための改良された変法は、無機塩含量またはその一部の除去のためのイオン交換体の使用である。このような変法は、例えば、独国特許出願公開第196 27 071(A)号明細書に記載されている。このイオン交換体は、例えば生成物とともに撹拌されてもよいし、または生成物が、イオン交換体カラムが充填されたカラムにわたって運ばれてもよい。例えば低金属含量は、このイオン交換体を使用することによって成し遂げることができる。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、重合は、800hPa未満である圧力で実施される。特に好ましい実施形態では、重合は200hPa未満である圧力で行われ、非常に特に好ましい実施形態では、重合は50hPa未満である圧力で行われる。
【0059】
この重合は、好ましくは0〜35℃の範囲の温度で、特に好ましくは1〜25℃の範囲の温度で行われる。
【0060】
次に、本発明に係る分散液を製造するための方法の工程b)において、少なくとも1つの一般式(I)または(Ia)の無水物化合物が、例えば撹拌しながら、これらの分散液に加えられ、混合される。任意に、なおさらなる分散剤、電気伝導率添加剤L)、有機高分子結合剤などを、例えば撹拌しながら加えて混合することができる。
【0061】
用語「導電性ポリマーを製造するための前駆体」は、本願明細書中で以降は前駆体とも呼ばれ、これは、例えば対応する単量体を指す。異なる前駆体の混合物も使用することができる。適切な単量体状の前駆体は、例えば任意に置換されたチオフェン、ピロールまたはアニリン、好ましくは任意に置換されたチオフェン、特に好ましくは任意に置換された3,4−アルキレンジオキシチオフェンである。
【0062】
置換3,4−アルキレンジオキシチオフェンの例としては、一般式(III)の化合物が挙げられる。
【化8】

式中、
Aは、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカルを表し、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜Cヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルを表し、
xは、0〜8、好ましくは0または1の整数を表し、
複数のラジカルRがAに結合されている場合、これらのラジカルは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0063】
非常に特に好ましい単量体状の前駆体は、任意に置換された3,4−エチレンジオキシチオフェンであり、好ましい実施形態では非置換の3,4−エチレンジオキシチオフェンである。
【0064】
上記の前駆体についての、特にチオフェンについての、好ましくは3,4−アルキレンジオキシチオフェンについての置換基は、一般式(III)についてのRについて記載したラジカルであってもよい。
【0065】
ピロールおよびアニリンについての置換基は、例えば、上に記載したラジカルAおよびR、ならびに/またはこのラジカルAおよびRのさらなる置換基であってもよい。
【0066】
ラジカルAおよび/またはラジカルRの任意にさらなる置換基は、一般式(II)に関して記載した有機基であってもよい。
【0067】
導電性ポリマーを製造するための単量体状の前駆体を製造するための方法は当業者に公知であり、例えば、L.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater.、12(2000) 481−494およびその中で引用される文献に記載されている。
【0068】
本発明に係る分散液は、電気伝導性のコーティングを製造するためには理想的である。
【0069】
従って、本発明のさらなる主題は、本発明に係る分散液から得ることができる電気伝導性のコーティングである。
【0070】
本発明に係るコーティングを製造するために、本発明に係る分散液は、例えば公知の方法によって、例えばスピンコーティング、含浸、注ぎ込み(pouring)、滴下、注入、噴霧、ナイフコーティング、ブラッシングまたは印刷、例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷またはパッド印刷によって、0.5μm〜250μmの乾燥前膜厚で、好ましくは2μm〜50μmの乾燥前膜厚で適切な基材へと付与され、次いで少なくとも20℃〜200℃の温度で乾燥される。
【0071】
本発明に係るコーティングは、驚くべきことに1,000S/cm超の電気伝導率を呈する。
【0072】
以下の実施例は、本発明を例によって説明する働きをするが、決して限定を内包するとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0073】
実施例1(参考例):真空下での、かつDMSOまたはチオ二酢酸を電気伝導率添加剤として使用するPEDOT:PSSAの製造
3リットルのステンレス鋼のケトルに、撹拌機、上蓋にある通気弁、上蓋にある可閉式の物質導入口、底部にある通気弁およびサーモスタットが接続された温度制御ジャケットを取り付けた。2,100gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)、5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液ならびに23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを、この反応容器の中へと入れた。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を45℃に設定し、ケトルの中の内圧をおよそ100hPaまで下げた。温度を45℃に1時間保った。その後、温度を13℃まで下げた。この結果として、圧力はおよそ25hPaまで低下した。その後、この装置を通気し、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Clevios(商標) M V2、エイチ・シー・スタルク・ゲーエムベーハー(H.C.Starck GmbH)、ゴスラー(Goslar))を、物質導入口を通して加えた。この物質導入口を閉じ、真空ポンプを用いて反応容器の内圧を再び30hPaまで下げた。ここから、反応を、この減圧下で、13℃で23時間実施した。反応の完結後、この反応容器を通気し、混合物をプラスチック材料のカップに移し、そして無機塩を除去するために、500mLのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス(Lanxess AG))および290mLのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス(Lanxess AG))を加えた。この混合物を6時間撹拌し、このLewatitを濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は、1.23%の固形分含量を有していた。
【0074】
DMSOとのブレンドおよび電気伝導率の測定:
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシド(DMSO)と混合した。この混合物3mLを、24μmの乾燥前膜のドクターブレードを使用して、ガラス基板へと付与した。この後、このようにしてコーティングした基板を、加熱プレート上で、130℃で15分間乾燥した。層の厚さは、202nmであった(テンコール(Tencor)、Alphastep 500)。
【0075】
シャドーマスクを介して10mmの距離で2.5cmの長さを有するAg電極を気相堆積することにより、電気伝導率を測定した。電位計(Keithly 614)を使用して測定した表面抵抗に層の厚さを乗算して、電気抵抗率を得た。当該層の抵抗率は0.00163ohms・cmであった。これは、613S/cmの電気伝導率に相当する。このようにして製造した層は透明である。
【0076】
チオ二酢酸とのブレンドおよび電気伝導率の測定:
50gの上記の分散液を1gのチオ二酢酸と混合した。この混合物3mLを、24μmの乾燥前膜のドクターブレードを使用して、ガラス基板へと付与した。この後、このようにしてコーティングした基板を、加熱プレート上で、170℃で30分間乾燥した。層の厚さは225nmであった(テンコール(Tencor)、Alphastep 500)。
【0077】
シャドーマスクを介して10mmの距離で2.5cmの長さを有するAg電極を気相堆積することにより、電気伝導率を測定した。電位計(Keithly 614)を使用して測定した表面抵抗に層の厚さを乗算して、電気抵抗率を得た。当該層の抵抗率は0.00171ohms・cmであった。これは、585S/cmの電気伝導率に相当する。このようにして製造した層は透明である。
【0078】
実施例2(本発明に係る):真空下での、かつジグリコール酸無水物を電気伝導率添加剤として使用するPEDOT:PSSAの製造
3リットルのステンレス鋼のケトルに、撹拌機、上蓋にある通気弁、上蓋にある可閉式の物質導入口、底部にある通気弁およびサーモスタットが接続された温度制御ジャケットを取り付けた。2,100gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)、5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液、11.5gの95%硫酸溶液ならびに23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを、この反応容器の中へと入れた。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を45℃に設定し、ケトルの中の内圧をおよそ100hPaまで下げた。温度を45℃に1時間保った。その後、温度を13℃まで下げた。この結果として、圧力はおよそ25hPaまで低下した。その後、この装置を通気し、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Clevios(商標) M V2、エイチ・シー・スタルク・ゲーエムベーハー(H.C.Starck GmbH)、ゴスラー(Goslar))を、物質導入口を通して加えた。この物質導入口を閉じ、真空ポンプを用いて反応容器の内圧を再び30hPaまで下げた。ここから、反応を、この減圧下で、13℃で23時間実施した。反応の完結後、この反応容器を通気し、混合物をプラスチック材料のカップに移し、そして無機塩を除去するために、500mLのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス(Lanxess AG))および400mLのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス(Lanxess AG))を加えた。この混合物を6時間撹拌し、このLewatitを濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は、1.15%の固形分含量を有していた。
【0079】
2.1:DMSOとのブレンドおよび電気伝導率の測定:
19gのこの分散液を1gのDMSOと混合した。この混合物3mLを、24μmの乾燥前膜のドクターブレードを使用して、ガラス基板へと付与した。この後、このようにしてコーティングした基板を、加熱プレート上で、150℃で30分間乾燥した。層の厚さは、205nmであった(テンコール(Tencor)、Alphastep 500)。
【0080】
シャドーマスクを介して10mmの距離で2.5cmの長さを有するAg電極を気相堆積することにより、電気伝導率を測定した。電位計(Keithly 614)を使用して測定した表面抵抗に層の厚さを乗算して、電気抵抗率を得た。当該層の抵抗率は0.00129ohms・cmであった。これは、774S/cmの電気伝導率に相当する。このようにして製造した層は透明である。
【0081】
2.2:ジグリコール酸無水物とのブレンドおよび電気伝導率の測定:
19gの上記の分散液を1gのジグリコール酸無水物(DGA)と混合した。この混合物3mLを、24μmの乾燥前膜のドクターブレードを使用して、ガラス基板へと付与した。この後、このようにしてコーティングした基板を、加熱プレート上で、150℃で30分間乾燥した。層の厚さは210nmであった(テンコール(Tencor)、Alphastep 500)。
【0082】
シャドーマスクを介して10mmの距離で2.5cmの長さを有するAg電極を気相堆積することにより、電気伝導率を測定した。電位計(Keithly 614)を使用して測定した表面抵抗に層の厚さを乗算して、電気抵抗率を得た。当該層の抵抗率は0.00105ohms・cmであった。これは、955S/cmの電気伝導率に相当する。このようにして製造した層は透明である。
【0083】
さらに、DGAおよびDMSO、ならびにDGA、DMSOおよび硫酸を用いてブレンドを実施した。すべてのブレンドは、直前の段落に記載したようにして製造し(DGA、DMSOまたは硫酸のそれぞれの割合は表1に記載している)、150℃で30分間乾燥させた。結果を表1に要約する。すべての層が透明であった。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の中の結果から分かるように、電気伝導率添加剤としてのDGAの添加は、公知の電気伝導率添加剤DMSOと比べて、より高い電気伝導率を導く。DGAおよびDMSOまたはDGA、DMSOおよび硫酸を含有する電気伝導率添加剤の混合物も、より高い電気伝導率を導く。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤D)とを含む分散液であって、該混合物は、少なくとも1つの一般式(I)の化合物
【化1】

(式中、Wは、0〜80個の炭素原子を有する任意に置換された有機ラジカルを表す)を含むことを特徴とする、分散液。
【請求項2】
前記混合物は、少なくとも1つの一般式(Ia)の化合物
【化2】

(式中、Xは、S、OまたはNHを表す)を含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記導電性ポリマーは、一般式(I)の繰り返し単位を含む任意に置換されたポリチオフェン
【化3】

(式中、
およびRは、互いに独立に、各々H、任意に置換されたC〜C18アルキルラジカルまたは任意に置換されたC〜C18アルコキシラジカルを表すか、または
およびRは、一緒に、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル、任意に置換されたC〜Cアルキレンラジカル(ここで、1以上のC原子は、OもしくはSから選択される、1以上の同一のまたは異なるヘテロ原子によって置き換えられてもよく、好ましくはC〜Cジオキシアルキレンラジカル)、任意に置換されたC〜Cオキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜Cジチアアルキレンラジカル、または任意に置換されたC〜Cアルキリデンラジカル(ここで、任意に少なくとも1つのC原子は、OもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられてもよい)を表す)
である、請求項1または請求項2に記載の分散液。
【請求項4】
少なくとも1つの導電性ポリマーは、一般式(II−aaa)および/または一般式(II−aba)の繰り返し単位を含むポリチオフェン
【化4】

である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
少なくとも1つの対イオンは、単量体状アニオンまたは高分子アニオンである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記高分子アニオンは、高分子カルボン酸または高分子スルホン酸から選択される、請求項5に記載の分散液。
【請求項7】
前記高分子アニオンはポリスチレンスルホン酸である、請求項6に記載の分散液。
【請求項8】
水、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素、脂肪族ニトリル、脂肪族スルホキシドおよびスルホン、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族エーテルおよび芳香族脂肪族エーテル、またはこれらのうちの少なくとも2つの混合物が分散剤D)として含まれる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
電気伝導率添加剤L)として、エーテル基含有化合物、ラクトン基含有化合物,アミドもしくはラクタム基含有化合物、スルホン、スルホキシド、糖、糖誘導体、糖アルコール、イミド、フラン誘導体、ジアルコール、ポリアルコールもしくは硫酸、またはこれらのうちの少なくとも2つの混合物がさらに含まれる、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項10】
電気伝導性のコーティングを製造するための、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の分散液の使用。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の分散液から得ることができる電気伝導性のコーティング。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の分散液を製造するための方法であって、
a)少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つの対イオンと、少なくとも1つの分散剤D)とを含む分散液を製造する工程であって、重合は、大気圧未満である圧力で行われる工程と、
b)少なくとも1つの一般式(I)の無水物化合物
【化5】

(式中、Wは、0〜80個の炭素原子を有する任意に置換された有機ラジカルを表す)を加える工程と、
を含む方法。
【請求項13】
1以上の電気伝導率添加剤L)がさらに加えられる、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2013−501110(P2013−501110A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523246(P2012−523246)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004813
【国際公開番号】WO2011/015364
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(511221998)ヘレウス プレシャス メタルズ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (8)
【Fターム(参考)】