説明

導電性ポリマーを調製するためのプロセス

本発明は、少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つのポリアニオンとを含む水系または非水系の分散液または溶液を調製するための新規なプロセスであって、重合が大気圧よりも低い圧力で行われることを特徴とするプロセス、このプロセスにより調製される水系または非水系の分散液または溶液、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニオンの存在下で導電性ポリマーを調製するための新規なプロセス、このプロセスによって調製される水系または非水系の分散液または溶液、およびその使用に関する。
【0002】
導電性ポリマーは、ますます経済的意義を増している。なぜなら、ポリマーは加工性、重量および化学修飾による特性の制御された調整に関して金属よりも有利な点を有するからである。公知のπ−共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p−フェニレン−ビニレン)である。導電性ポリマーの層は、例えばコンデンサの高分子対電極としての、帯電防止コーティングとしてのまたは電子回路基板の完全接触(Durchkontaktierung)ための種々の産業上の用途を有する。
【0003】
導電性ポリマーは、化学的または電気化学的な、酸化的手段によって単量体の前駆体、例えば任意に置換されたチオフェン、ピロールおよびアニリンならびにそれらのそれぞれの誘導体(これらはオリゴマー状であってもよい)から調製される。とりわけ化学的酸化重合は広く行われている。なぜなら、化学的酸化重合は液体媒体中および種々の基材上で成し遂げるには技術的に簡単だからである。
【0004】
特に重要かつおよび産業上利用されるポリチオフェンはポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)(PEDOTまたはPEDT)であり、これはエチレン−3,4−ジオキシチオフェン(EDOTまたはEDT)を化学的に重合させることにより調製され、かつその酸化された形態において非常に高い電気伝導率を有し、そして例えば特許文献1に記載されている。多くのポリ(アルキレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、とりわけポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)誘導体、ならびにその単量体単位、合成および応用例の概観は非特許文献1によって与えられる。
【0005】
具体的な産業上の意義は、例えば特許文献2に開示されているように、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を伴うPEDOTの分散液によって得られている。これらの分散液から、多くの応用例が見出されている透明な導電性フィルムを得ることが可能である。しかしながら、これらの分散液から得られる層の電気伝導率およびこれらの層の透過率は、いまだ桁が小さすぎて、例えばタッチスクリーンまたは有機発光ダイオードにおけるインジウムスズオキシド(ITO)を置き換えることはできない。インジウムスズオキシド(ITO)の層は、例えば、90%の透過率を有して5000S/cmを超える電気伝導率を特徴とし、5〜20オーム/スクエア(ohm/sq)の表面抵抗が達成されている。
【0006】
J.Y.Kimらは、極性の高沸点化合物の使用によってPEDT/PSSフィルムの電気伝導率を著しく高めることができるということを示した(非特許文献2)。ジメチルスルホキシド(DMSO)をPEDT/PSS分散液に添加すると、電気伝導率が2桁、具体的には0.8S/cmから80S/cmへと高まった。DMSOの使用は曇りのない透明な導電性フィルムを導き、そのためDMSOは電気伝導率を増大させるための添加剤として非常に適している。しかしながら、80S/cmの電気伝導率は、例えばタッチスクリーンまたは有機発光ダイオードにおけるインジウムスズオキシド(ITO)を置き換えるためには、まだ不十分である。
【0007】
特許文献3は、スクシンイミドの使用によってPEDT/PSS分散液の電気伝導率を高める。スクシンイミドによって、200〜1000S/cmの電気伝導率を達成することができる。しかしながら、スクシンイミドは、透明な導電層を製造するには限られた適性しか有していない。なぜなら、それは123〜135℃の融点および285〜290℃の沸点を特徴とするからである。それゆえ100〜200℃という慣用的な乾燥条件下では、スクシンイミドは、ジメチルスルホキシドとは異なって、最終の導電性フィルムの中に残り、そこで結晶領域を形成し、これがフィルムの曇りにつながる。それゆえ、高い割合のスクシンイミドはフィルムを導く。それゆえこの手順は、透明な、高電気伝導率の層を得るのにも適していない。
【0008】
特許文献4は、窒素雰囲気下で行われる、ポリアニオンの存在下でのPEDT合成を開示する。
【0009】
特許文献5および特許文献6は、低酸素媒体中におけるポリアニオンの存在下でのEDTの重合は、反応生成物の電気伝導率の改善につながると記載している。このプロセスでは、開始剤添加時の酸素濃度が反応媒体1リットルあたり3mg未満であることが重要である。その後、この重合は大気圧下で実施される。このプロセスは、2900ohm/sq〜1200ohm/sqの表面抵抗に達する導電性フィルムを製造することができる。これらの表面抵抗は、同様に、例えばタッチスクリーンまたは有機発光ダイオードにおけるITOを置き換えるためには、まだ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第339 340 A2号明細書
【特許文献2】欧州特許第0440 957号明細書
【特許文献3】特開2006−328276号公報
【特許文献4】特開2001−323137号公報
【特許文献5】欧州特許第1323764号明細書
【特許文献6】国際公開第03048227号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】L.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater.、2000年、第12巻、481−494頁
【非特許文献2】J.Y.Kimら、Synthetic Metals、2002年、第126巻、311−316頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ、高い電気伝導率および可視領域での高い透明性を有し、かつ容易に加工することができる導電性ポリマーを調製するためのプロセスに対する必要性がいまだ存在する。
【0013】
従って、かかるプロセスを提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
導電性ポリマーを調製するプロセスが減圧で実施される場合に導電性ポリマーが上述の特性を有するということが、本発明において、驚きをもって見出された。
【0015】
従って、本発明は、少なくとも1つの導電性ポリマーおよび少なくとも1つのポリアニオンを含む水系または非水系の分散液または溶液を調製するためのプロセスであって、重合が大気圧より低い圧力で実施されることを特徴とするプロセスを提供する。これに関して、大気圧は、海面位で1013.25ヘクトパスカル(hPa)である大気の平均の空気圧を意味すると理解される。
【0016】
本発明に係るプロセスは、重合が開始する前に反応容器中の全圧力を低下させることに基づく。これに関して、減圧は、反応容器中の圧力が、外側でその反応容器に隣接する大気圧よりも低いことを意味すると理解される。
【0017】
本発明に関しては、導電性ポリマーは、好ましくは、任意に置換されたポリピロール、任意に置換されたポリアニリンまたは任意に置換されたポリチオフェンであってもよい。これらの導電性ポリマーの2以上の混合物が本発明に係るプロセスによって調製されるということも許容されてもよい。
【0018】
特に好ましい導電性ポリマーは、一般式(I)の繰り返し単位
【化1】

(式中、
およびRは各々独立に、H、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルもしくは任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカルであるか、または
およびRは一緒になって、1以上の炭素原子が1以上の同一のまたは異なるOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、好ましくはC〜C−ジオキシアルキレンラジカル、任意に置換されたC〜C−オキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜C−ジチアアルキレンラジカル、または少なくとも1つの炭素原子がOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって任意に置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキリデンラジカルである)
を含む任意に置換されたポリチオフェンである。
【0019】
好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(I−a)および/または一般式(I−b)の繰り返し単位
【化2】

(式中、
Aは、任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、好ましくは任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカルであり、
YはOもしくはSであり、
Rは、直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカル、好ましくは直鎖状もしくは分枝状の、任意に置換されたC〜C14−アルキルラジカル、任意に置換されたC〜C12−シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC〜C14−アリールラジカル、任意に置換されたC〜C18−アラルキルラジカル、任意に置換されたC〜C−ヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルであり、
xは0〜8、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1の整数であり、
複数のRラジカルがAに結合されている場合は、それらは同じであってもよいし異なっていてもよい)
を含むポリチオフェンである。
【0020】
一般式(I−a)は、置換基RはこのアルキレンラジカルAにx回結合されていてもよいというように理解されるべきである。
【0021】
さらなる好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(I−aa)および/または一般式(I−ab)の繰り返し単位
【化3】

(式中、Rは上で定義されたとおりであり、xは0〜4、好ましくは0、1または2、より好ましくは0または1の整数である)を含むポリチオフェンである。
【0022】
この一般式(I−aa)および一般式(I−ab)は、置換基Rはこのエチレンラジカルにx回結合されていてもよいというように理解されるべきである。
【0023】
なおさらに好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(I−aaa)および/または一般式(I−aba)のポリチオフェンを含むポリチオフェンである。
【化4】

【0024】
本発明に関しては、接頭辞「ポリ」は、複数の同一または異なる繰り返し単位が当該ポリチオフェンの中に存在するというように理解される。当該ポリチオフェンは、合計n個の一般式(I)の繰り返し単位を含み、ここでnは2〜2000、好ましくは2〜100の整数であってもよい。一般式(I)の繰り返し単位は、各々、ポリチオフェン内で同じであってもよいし、異なっていてもよい。各々同一の一般式(I)の繰り返し単位を含むポリチオフェンが好ましい。
【0025】
末端基に、このポリチオフェンは、好ましくは各々Hを有する。
【0026】
特に好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチアチオフェン)またはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン、すなわち式(I−aaa)、(I−aba)または(I−b)(この場合、式(I−b)中のYはSである)の繰り返し単位から構成されるホモポリチオフェンである。
【0027】
さらに特に好ましい実施形態では、一般式(I)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、式(I−aaa)および(I−aba)、(I−aaa)および(I−b)、(I−aba)および(I−b)、または(I−aaa)、(I−aba)および(I−b)の繰り返し単位から形成される共重合体であり、式(I−aaa)および(I−aba)、ならびにまた(I−aaa)および(I−b)の繰り返し単位から形成されるコポリマーが好ましい。
【0028】
本発明に関しては、C〜C−アルキレンラジカルAは、メチレン、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレンまたはn−ペンチレンであり、C〜C−アルキレンラジカルはさらにn−ヘキシレン、n−ヘプチレンおよびn−オクチレンである。本発明に関しては、C〜C−アルキリデンラジカルは、少なくとも1つの二重結合を含む、上に列挙されたC〜C−アルキレンラジカルである。本発明に関しては、C〜C−ジオキシアルキレンラジカル、C〜C−オキシチアアルキレンラジカルおよびC〜C−ジチアアルキレンラジカルは、上に列挙されたC〜C−アルキレンラジカルに対応するC〜C−ジオキシアルキレンラジカル、C〜C−オキシチアアルキレンラジカルおよびC〜C−ジチアアルキレンラジカルである。本発明に関しては、C〜C18−アルキルは、直鎖状もしくは分枝状のC〜C18−アルキルラジカル、例えばメチル、エチル、n−またはイソプロピル、n−、イソ−、sec−またはtert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシルまたはn−オクタデシルを表し、C〜C12−シクロアルキルは、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルなどのC〜C12−シクロアルキルラジカルを表し、C〜C14−アリールは、フェニルまたはナフチルなどのC〜C14−アリールラジカルを表し、C〜C18−アラルキルは、C〜C18−アラルキルラジカル、例えばベンジル、o−、m−、p−トリル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−キシリルまたはメシチルを表す。本発明に関しては、C〜C18−アルコキシラジカルは、上に列挙されたC〜C18−アルキルに対応するラジカルアルコキシラジカルである。上記の列挙は例として本発明を例証する働きをするが、他を排除するものと考えられるべきではない。
【0029】
上記のラジカルの任意のさらなる置換基としては、多くの有機基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボキシレート、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基,およびまたカルボキシアミド基が挙げられる。
【0030】
好ましくは3,4−ポリアルキレンジオキシチオフェンを含む上述の水系の分散液または溶液は、例えば、欧州特許第440957号に記載されるプロセスと同様にして調製することができる。有用な酸化剤および溶液としては、同様に、欧州特許第440957号に列挙されるものが挙げられる。本発明に関しては、水系の分散液または溶液は、少なくとも50重量パーセント(重量%)の水、より好ましくは少なくとも90重量%の水と、任意に、アルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールまたはオクタノール)、グリコールまたはグリコールエーテル(例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオールまたはジプロピレングリコールジメチルエーテル)、またはケトン(例えばアセトンまたはメチルエチルケトン)などの少なくとも部分的に水と混和性である溶媒とを含む分散液または溶液を意味するものと理解される。水系の分散液または溶液においては、任意に置換されたポリチオフェン、特に一般式(I)の繰り返し単位を含む任意に置換されたポリチオフェンの固形分含量は、0.05〜3.0重量パーセント(重量%)、好ましくは0.1〜1.0重量%であってもよい。
【0031】
一般式(I)のポリチオフェンおよびその誘導体の調製のための単量体前駆体を調製するためのプロセスは当業者に公知であり、例えばL.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.PielartzikおよびJ.R.Reynolds、Adv.Mater.12(2000)481−494およびその中で引用される文献に記載されている。
【0032】
本発明に関しては、上述のチオフェンの誘導体は、例えば、これらのチオフェンの二量体または三量体を意味するものと理解される。単量体前駆体のより高分子量の誘導体、すなわち四量体、五量体なども誘導体として可能である。これらの誘導体は、同一のまたは異なる単量体単位のいずれからも形成されてよく、かつ純粋な形態で使用されてもよく、または互いとの混合物および/もしくは上述のチオフェンとの混合物で使用されてもよい。本発明に関しては、これらのチオフェンおよびチオフェン誘導体の酸化形態または還元形態もまた、用語「チオフェンおよびチオフェン誘導体」に包含されるが、ただしそれは、それらの重合によって上に列挙したチオフェンおよびチオフェン誘導体の場合と同じ導電性ポリマーが形成される場合に限る。
【0033】
当該チオフェンは、任意に、溶液の形態で使用されてもよい。適切な溶媒としては、特に、反応条件下で不活性である以下の有機溶媒が挙げられる:メタノール、エタノール、i−プロパノールおよびブタノールなどの脂肪族アルコール;アセトンおよびメチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン;酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどの塩素化炭化水素;アセトニトリルなどの脂肪族ニトリル、ジメチルスルホキシドおよびスルホランなどの脂肪族スルホキシドおよびスルホン;メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドなどの脂肪族カルボキシアミド;ジエチルエーテルおよびアニソールなどの脂肪族エーテルおよび芳香環を含む脂肪族エーテル。加えて、水、または水と上記の有機溶媒との混合物を当該溶媒として使用することも可能である。好ましい溶媒は、アルコールおよび水、ならびにアルコールもしくは水を含む混合物、またはアルコールおよび水の混合物である。酸化条件下で液体であるチオフェンは、溶媒の不存在下でも重合することができる。
【0034】
当該水系の分散液または溶液は、さらに少なくとも1つの高分子結合剤を含んでいてもよい。適切な結合剤は、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/アクリル酸エステルおよびエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂またはセルロース誘導体などの高分子有機結合剤である。高分子結合剤の固形分含量は0〜3重量%、好ましくは0〜1重量%である。
【0035】
この分散液または溶液はさらに、接着促進剤、例えば有機官能性シランまたはその加水分解生成物、例えば3−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはオクチルトリエトキシシランを含んでいてもよい。
【0036】
本発明に関しては、少なくとも1つの導電性ポリマー、好ましくは任意に置換されたポリチオフェン、および少なくとも1つのポリアニオンを含む非水系の分散液または溶液は、欧州特許第1373356号に開示されるプロセスと同様にして調製することができる。
【0037】
第1のプロセス工程では、水系または非水系の分散液または溶液が本発明に係るプロセスによって調製され、第2のプロセス工程では、水混和性溶媒または水混和性溶媒混合物がこの水系の分散液または溶液に添加され、次いで得られた混合物から少なくとも部分的に水が除去され、任意に有機溶媒で希釈される。これに関して有用な溶媒は、アミド系溶媒、例えばホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルカプロラクタムまたはN−メチルホルムアミド、アルコールおよびエーテル、例えばエチレングリコール、グリセロール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルまたはジオキサンである。アミド系溶媒、および標準圧力で100℃を超える沸点を有する溶媒、および水と共沸混合物を形成する水混和性溶媒または水混和性溶媒混合物が好ましい。この水は、例えば限外濾過などの膜プロセスによって、または蒸留によって除去することができる。有機溶媒で希釈する場合は、好ましい溶媒は、上述の溶媒および脂肪族アルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ネオペンチルアルコール)、脂肪族ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルtert−ブチルケトン)、エーテル(例えばテトラヒドロフラン、メチルtert−ブチルエーテル)、脂肪族および芳香族カルボン酸のエステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、グリコールモノメチルエーテルアセテート、フタル酸ブチル)、または脂肪族または芳香族の炭化水素(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカン、トルエン、o−キシレン、m−キシレンまたはp−キシレンなど)である。
【0038】
当該導電性ポリマー、特に上記ポリチオフェンは、電荷を帯びていなくてもよく、またはカチオン性であってもよい。好ましい実施形態では、それらはカチオン性であり、「カチオン性」は、当該ポリチオフェン主鎖上に存在する電荷のみに関する。Rラジカル上の置換基に従って、上記ポリチオフェンは、構造単位に正電荷および負電荷を有していてもよく、この場合この正電荷はポリチオフェン主鎖上に存在し、負電荷は、存在する場合は、スルホネートまたはカルボキシレート基によって置換されたRラジカル上に存在する。このポリチオフェン主鎖の正電荷は、Rラジカル上に存在していてもよいアニオン性基によって一部または完全に飽和していてもよい。全体で見ると、これらの場合のポリチオフェンは、カチオン性であってもよく、電荷を帯びていなくてもよく、またはアニオン性でさえあってもよい。とはいうものの、本発明に関しては、それらはすべてカチオン性ポリチオフェンと考えられる。なぜなら、このポリチオフェン主鎖上の正電荷が重要だからである。正電荷は式には示されていない。なぜなら、その正確な数および位置を明確に記述することができないからである。正電荷の数は、しかしながら、少なくとも1でありかつ多くともnである(ここでnはこのポリチオフェン内の(同一のまたは異なる)すべての繰り返し単位の総数である)。
【0039】
任意にスルホネート置換またはカルボキシレート置換された、従って負に帯電したRラジカルによって正電荷を打ち消すことがまだなされていない場合、正電荷を打ち消すために、このカチオン性ポリチオフェンは、対イオンとしてアニオンを必要とする。
【0040】
有用な対イオンとしては、単量体アニオンまたは高分子アニオンが挙げられ、後者は本明細書中で以降、ポリアニオンとも呼ばれる。
【0041】
使用される単量体アニオンは、例えば、メタン−、エタン−、プロパン−もしくはブタンスルホン酸、または高級スルホン酸(例えばドデカンスルホン酸)などのC〜C20−アルカンスルホン酸の単量体アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸、ペルフルオロブタンスルホン酸もしくはペルフルオロオクタンスルホン酸などの脂肪族ペルフルオロスルホン酸の単量体アニオン、2−エチルヘキシルカルボン酸などの脂肪族C〜C20−カルボン酸の単量体アニオン、トリフルオロ酢酸もしくはペルフルオロオクタン酸などの脂肪族ペルフルオロカルボン酸の単量体アニオン、およびベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸またはジノニルナフタレンジスルホン酸などのC〜C20−アルキル基によって任意に置換された芳香族スルホン酸の単量体アニオン、ならびにカンファースルホン酸などのシクロアルカンスルホン酸の単量体アニオン、またはテトラフルオロホウ酸の単量体アニオン、ヘキサフルオロリン酸の単量体アニオン、過塩素酸の単量体アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸の単量体アニオン、ヘキサフルオロひ酸の単量体アニオンまたはヘキサクロロアンチモン酸の単量体アニオンである。
【0042】
p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはカンファースルホン酸のアニオンが特に好ましい。
【0043】
使用される酸化剤のアニオンまたは還元後にその酸化剤から形成されるアニオンが対イオンとしての役割を果たすことも可能であり、従って、さらなる対イオンの添加が必ず必要であるわけではない。
【0044】
好ましい高分子アニオンは、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸もしくはポリマレイン酸などの高分子カルボン酸、またはポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸などの高分子スルホン酸のアニオンである。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、アクリル酸エステルおよびスチレンなどの他の重合性単量体との共重合体であってもよい。それらは、例えば、SOまたはCOO基(式中、Mは例えば、Li、Na、K、Rb、CsまたはNH、好ましくはH、NaまたはKである)を含む部分フッ素化またはペルフルオロ化ポリマーであってもよい。
【0045】
特に好ましい高分子アニオンは、上記対イオンとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)のアニオンである。
【0046】
ポリアニオンを与えるポリ酸の分子量は、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは2000〜500000である。このポリ酸またはそのアルカリ金属塩は市販されている(例えばポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸)か、または公知のプロセス(例えば、Houben Weyl、Methoden der organischen Chemie、第E20巻 Makromolekulare Stoffe[Macromolecular substances]、パート2、(1987)、114頁以下を参照)によって調製される。
【0047】
電荷の打ち消しのための対イオンとしてアニオンを含むカチオン性ポリチオフェンは、当該技術分野でポリチオフェン/(ポリ)アニオン錯体とも呼ばれることが多い。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、当該重合は800hPaより低い圧力で実施される。特に好ましい実施形態では、当該重合は200hPaより低い圧力で行われ、さらに特に好ましい実施形態では、当該重合は50hPaより低い圧力 で実施される。
【0049】
当該重合は、好ましくは0〜35℃の範囲の温度で、より好ましくは5〜25℃の範囲の温度で、最も好ましくは10〜20℃の範囲の温度で実施される。
【0050】
当該水系または非水系の分散液または溶液の電気伝導率を高めるために、本発明に関しては、ジメチルスルホキシドなどの電気伝導率向上剤(leitfaehigkeitssteigernde Mittel)を加えることが可能である。しかしながら、欧州特許第0686662号に、またはOuyangら、Polymer、45(2004)、8443−8450頁によって開示される他の電気伝導率向上剤も、本発明に関する電気伝導率向上剤として使用することができる。
【0051】
本発明はさらに、本発明に係るプロセスによって調製される水系または非水系の分散液または溶液を提供し、そして導電性コーティングを製造するためのこれらの水系または非水系の分散液または溶液の使用も提供する。これらの導電性コーティングは、500S/cmより大きい電気伝導率を有していてもよい。
【0052】
本発明は、なおさらに、少なくとも1つの導電性ポリマーと、少なくとも1つのポリアニオンとを含む水系または非水系の分散液または溶液を調製するためのプロセスであって、以下の工程:
1)反応媒体が不活性ガスを用いて不活性化された後でのみ、少なくとも1つの酸化剤を加える工程と、
2)大気圧よりも低い圧力で重合を実施する工程と
を含むことを特徴とするプロセスを提供する。
【0053】
本発明に関しては、その反応媒体は、不活性ガスが反応媒体に少なくとも5分間、好ましくは少なくとも20分間通された場合に不活性化されたと見なされる。適切な不活性ガスは、例えば、アルゴン、ヘリウムまたは窒素である。この反応媒体は、反応容器の内圧が少なくとも一回下がり、そしてその後にその内圧が、不活性ガスを加えることにより高められた場合に不活性化されたと見なされる。
【0054】
本発明に係るこのさらなるプロセスは、一般にまたは言及した第1の本発明に係るプロセスについて好ましい範囲内で、より具体的には少なくとも1つの導電性ポリマー、少なくとも1つのポリアニオンおよび重合が実施される圧力について好ましい範囲内で特定されるすべての定義、パラメータ、説明およびプロセス条件を包含する。
【0055】
本発明はなおさらに、本発明に係るさらなるプロセスによって調製される水系または非水系の分散液または溶液、および導電性コーティングを製造するためのこの水系または非水系の分散液または溶液の使用を提供する。これらの導電性コーティングは、少なくとも500S/cm、好ましくは少なくとも600S/cm、最も好ましくは少なくとも700S/cmの電気伝導率を有する。
【0056】
以下の実施例は、単に例として本発明を例証する働きをし、限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0057】
実施例1:大気圧の窒素雰囲気を使用するPEDT:PSS分散液の調製(比較例)
3リットルのステンレス鋼の槽は、撹拌機、上蓋にある排出口、上蓋にある閉じることができる物質導入口、底部にある排出口およびサーモスタットを取り付けた加熱ジャケットを備えていた。2050gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)および5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液をこの反応容器に加えた。撹拌機を50回転/分間(rpm)で回転させた。温度を18℃に調整した。200 l/hの窒素を、底部にある排出口を通して3時間導入した。この窒素は開かれた物質導入口を通って逃げることができた。3時間後、下側の排出口の窒素ストリームを遮断し、500 l/hの窒素ストリームを上側の排出口で確立した。この窒素ストリームは物質導入口を通って逃げることができた。その後、窒素の向流の中で、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標) M V2、エイチ・シー・スタルク社(H.C.Starck GmbH)、ゴスラー(Goslar))を、シリンジを用いて物質導入口を通して導入した。その後、窒素の向流の中で物質導入口を通して23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを加えた。物質導入口を閉じた。大気圧の酸素の侵入を防止するために、20hPaのわずかに高めた窒素圧力で、この重合を実施した。この混合物を18℃で23時間撹拌した。この反応が終了した後、この混合物をプラスチック製ビーカーに移し、500mlのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス社(Lanxess AG))および290mlのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス社)を加えることにより無機塩を除去した。この混合物を6時間撹拌し、このイオン交換体を濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は1.19%の固形分含量を有していた。
【0058】
電気伝導率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合した。洗浄したガラス基材をスピンコーターの上に置き、10mlの上述の混合物をその基材の上に広げた。その後、このプレートを回転させることによりこの上澄み溶液を除去した。その後、このようにコーティングした基材を、ホットプレート上で、130℃で15分間乾燥させた。この層の厚さは70nmであった(テンコール(Tencor)、Alphastep 500)。
【0059】
電気伝導率は、長さ2.5cmの銀電極をシャドーマスクによって10mmの距離で付与することによって測定した。電気比抵抗を得るために、電位計(Keithly 614)を用いて測定した表面抵抗に層の厚さを掛け合わせた。この層の比抵抗は0.00265ohm・cmであった。これは377S/cmの電気伝導率に相当する。このように製造した層は透明であった。
【0060】
実施例2(本発明):減圧下でのPEDT:PSS分散液の調製
実施例1で記載した3リットルのステンレス鋼の槽を使用した。2050gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)および5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液を反応容器の中に導入した。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を60℃に調整し、この槽の内圧を100hPaまで下げた。16時間にわたって、この温度を18℃まで下げた。結果として、内圧は33hPaまで下がった。その後、窒素の向流の中で、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標) M V2、エイチ・シー・スタルク社、ゴスラー)を、チューブを通してこの反応容器の中へ導入した。23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを50gの水に溶解し、同様にチューブを通してこの反応媒体の中へ導入した。物質導入口を閉じ、真空ポンプを用いてこの反応容器の内圧を30hPaに調整した。当該反応を、ここからこの減圧下で23時間実施した。反応が終了した後、この反応容器に通気し、この混合物をプラスチック製ビーカーに移し、500mlのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス社)および290mlのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス社)を加えることにより無機塩を除去した。この混合物を6時間撹拌し、このイオン交換体を濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は1.26%の固形分含量を有していた。
【0061】
電気伝導率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合し、実施例1に記載したように、層をガラス基材に付与し、電気伝導率を測定した。この層の比抵抗は0.00265ohm・cmであった。これは377S/cmの電気伝導率に相当する。このように製造した層は透明であった。
【0062】
透過率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合した。洗浄したガラス基材をスピンコーターの上に置き、10mlの上述の混合物をその基材の上に広げた。その後、このプレートを回転させることによりこの上澄み溶液を除去した。その後、コーティングした基材を、ホットプレート上で、130℃で15分間乾燥させた。この層の厚さは110nmであった(テンコール、Alphastep 500)。
【0063】
光度計(Lambda 900)において、この層の透過率を320〜780nmの範囲で測定した。この透過率データを使用して、光源D65/10°に対する標準色値Yを算出した。標準色値は86.52であると測定した。使用したガラス基材の標準色値は90.94であると測定した。
【0064】
実施例3(本発明):反応混合物を脱気するために窒素を使用する、減圧下でPEDT:PSS分散液の調製
実施例1で記載した3リットルのステンレス鋼の槽を使用した。2050gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)および5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液をこの反応容器に加えた。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を18℃に調整した。200 l/hの窒素を、底部にある排出口を通して3時間導入した。この窒素は開かれた物質導入口を通って逃げることができた。3時間後、下側の排出口の窒素ストリームを遮断し、500 l/hの窒素ストリームを上側の排出口で確立した。この窒素ストリームは物質導入口を通って逃げることができた。その後、窒素の向流の中で、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標) M V2、エイチ・シー・スタルク社、ゴスラー)を、シリンジを用いて物質導入口を通して導入した。その後、窒素の向流の中で物質導入口を通して23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを加えた。物質導入口を閉じ、すぐに真空ポンプを用いてこの反応容器の内圧を30hPaまで下げた。次いで当該反応を、この減圧下で23時間実施した。反応が終了した後、この反応容器に通気し、この混合物をプラスチック製ビーカーに移し、500mlのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス社)および290mlのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス社)を加えることにより無機塩を除去した。この混合物を6時間撹拌し、このイオン交換体を濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は1.21%の固形分含量を有していた。
【0065】
電気伝導率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合し、実施例1に記載したように、層をガラス基材に付与し、電気伝導率を測定した。この層の比抵抗は0.00142ohm・cmであった。これは704S/cmの電気伝導率に相当する。このように製造した層は透明であった。
【0066】
透過率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合した。洗浄したガラス基材をスピンコーターの上に置き、10mlの上述の混合物をその基材の上に広げた。その後、このプレートを回転させることによりこの上澄み溶液を除去した。その後、このようにコーティングした基材を、ホットプレート上で、130℃で15分間乾燥させた。この層の厚さは60nm(テンコール、Alphastep 500)であった。
【0067】
光度計(Lambda 900)において、この層の透過率を320〜780nmの範囲で測定した。この透過率データを使用して、光源D65/10°に対する標準色値Yを算出した。標準色値は87.21であると測定した。使用したガラス基材の標準色値は90.94であると測定した。
【0068】
実施例4:窒素を使用しない標準圧力下でのPEDT:PSS分散液の調製(比較例)
3リットルのガラス容器は撹拌機を備えていた。2050gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)および5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液をこの反応容器に加えた。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を18℃に調整した。その後、10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標) M V2、エイチ・シー・スタルク社、ゴスラー)を加えた。その後、23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを加えた。当該重合を標準圧力下で実施した。この混合物を18℃で23時間撹拌した。この反応が終了した後、この混合物をプラスチック製ビーカーに移し、500mlのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス社)および290mlのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス社)を加えることにより無機塩を除去した。この混合物を6時間撹拌し、このイオン交換体を濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は1.12%の固形分含量を有していた。
【0069】
電気伝導率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合し、実施例1に記載したように、層をガラス基材に付与し、電気伝導率を測定した。この層の比抵抗は0.00877ohm・cmであった。これは114S/cmの電気伝導率に相当する。このように製造した層は透明であった。
【0070】
実施例5(本発明):窒素を使用しない減圧下での酸化剤の先添加およびその後の合成を用いたPEDT:PSS分散液の調製
実施例1で記載した3リットルのステンレス鋼の槽を使用した。2100gの水、500gのポリスチレンスルホン酸溶液(5.0%)、5.6gの10%硫酸鉄(III)溶液および23.7gのペルオキソ二硫酸ナトリウムをこの反応容器に加えた。撹拌機を50rpmで回転させた。温度を45℃に調整し、この槽の内圧をおよそ100hPaまで下げた。1時間にわたって、温度を45℃に保った。その後、温度を13℃まで下げた。これにより圧力は25hPaまで下がった。その後、この装置を通気し、物質導入口を通して10.13gのエチレンジオキシチオフェン(Baytron(登録商標) M V2、エイチ・シー・スタルク社、ゴスラー)を加えた。物質導入口を閉じ、真空ポンプを用いてこの反応容器の内圧を再度30hPaまで下げた。当該反応を、ここからこの減圧下で13℃で23時間実施した。反応が終了した後、この反応容器に通気し、この混合物をプラスチック製ビーカーに移し、500mlのカチオン交換体(Lewatit S100 H、ランクセス社)および290mlのアニオン交換体(Lewatit MP 62、ランクセス社)を加えることにより無機塩を除去した。この混合物を6時間撹拌し、このイオン交換体を濾別した。最後に、この混合物を10μmのフィルターに通した。得られた分散液は1.14%の固形分含量を有していた。
【0071】
電気伝導率の測定
19gのこの分散液を1gのジメチルスルホキシドと混合し、実施例1に記載したように、層をガラス基材に付与し、電気伝導率を測定した。この層の比抵抗は0.00192ohm・cmであった。これは520S/cmの電気伝導率に相当する。このように製造した層は透明であった。
【0072】
表1は、実施例1〜5に従って調製した分散液を含む層の電気伝導率の比較を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果から明らかなように、層の電気伝導率は導電性ポリマーについての調製プロセスに大きく依存する。減圧下での重合は生成される層の電気伝導率の根本的な改善につながることは明らかである(実施例2、4および5を参照)。重合を不活性条件下および減圧下で行う場合は、電気伝導率は実施例3から明らかなように、著しく高められうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの導電性ポリマーおよび少なくとも1つのポリアニオンを含む水系または非水系の分散液または溶液を調製するためのプロセスであって、重合が大気圧よりも低い圧力で行われることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
少なくとも1つの導電性ポリマーが任意に置換されたポリピロール、任意に置換されたポリアニリンまたは任意に置換されたポリチオフェンであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
少なくとも1つの導電性ポリマーが、一般式(I)の繰り返し単位
【化1】

(式中、
およびRは各々独立に、H、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルもしくは任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカルであるか、または
およびRは一緒になって、1以上の炭素原子が1以上の同一のまたは異なるOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、好ましくは、任意に置換されたC〜C−オキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜C−ジチアアルキレンラジカル、または少なくとも1つの炭素原子がOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって任意に置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキリデンラジカルである)を含む任意に置換されたポリチオフェンであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
少なくとも1つの導電性ポリマーが、一般式(I−aaa)および/または一般式(I−aba)の繰り返し単位を含むポリチオフェンであることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【化2】

【請求項5】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記重合が800hPaより低い圧力で実施されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
電気伝導率向上剤が前記水系または非水系の分散液または溶液に添加されることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
少なくとも1つの導電性ポリマーおよび少なくとも1つのポリアニオンを含む水系または非水系の分散液または溶液を調製するためのプロセスであって、以下の工程:
1)反応媒体が不活性ガスを用いて不活性化された後でのみ、少なくとも1つの酸化剤を加える工程と、
2)大気圧よりも低い圧力で重合を実施する工程と
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項9】
少なくとも1つの導電性ポリマーが、任意に置換されたポリピロール、任意に置換されたポリアニリンまたは任意に置換されたポリチオフェンであることを特徴とする、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
少なくとも1つの導電性ポリマーが一般式(I)の繰り返し単位
【化3】

(式中、
およびRは各々独立に、H、任意に置換されたC〜C18−アルキルラジカルもしくは任意に置換されたC〜C18−アルコキシラジカルであるか、または
およびRは一緒になって、1以上の炭素原子が1以上の同一のまたは異なるOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキレンラジカル、好ましくは、任意に置換されたC〜C−オキシチアアルキレンラジカルまたは任意に置換されたC〜C−ジチアアルキレンラジカル、または少なくとも1つの炭素原子がOもしくはSから選択されるヘテロ原子によって任意に置き換えられていてもよい任意に置換されたC〜C−アルキリデンラジカルである)
を含む任意に置換されたポリチオフェンであることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
少なくとも1つの導電性ポリマーが、一般式(I−aaa)および/または一般式(I−aba)の繰り返し単位を含むポリチオフェンであることを特徴とする、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のプロセス。
【化4】

【請求項12】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする、請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記重合が800hPaより低い圧力で実施されることを特徴とする、請求項8から請求項12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
電気伝導率向上剤が前記水系または非水系の分散液または溶液に添加されることを特徴とする、請求項8から請求項13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
請求項1から請求項6または請求項9から請求項14のいずれか1項に記載のプロセスに従って調製される水系または非水系の分散液または溶液。
【請求項16】
少なくとも500S/cmの電気伝導率を有することを特徴とする、請求項15に記載の水系または非水系の分散液または溶液を含む導電性コーティング。

【公表番号】特表2010−538100(P2010−538100A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522356(P2010−522356)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061213
【国際公開番号】WO2009/030615
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510050269)エイチ・シー・スタルク・クレビオス・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (12)
【Fターム(参考)】