説明

導電性ポリマー組成物、導電性硬化膜、及び、有機電界発光素子

【課題】有機溶剤耐性が高く、発光素子の耐久性を優れた導電性膜用ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)導電性ポリマーと、(B)下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有する第1ポリマー、又は、前記下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位と下記一般式(II’)で表される繰り返し単位とを有する第2ポリマーと、(C)硬化剤を含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマー組成物、導電性硬化膜、及び、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を利用したデバイスとして、有機電界発光素子(以下、OLEDともいう)、有機半導体を利用したトランジスタなどの研究が活発に行われている。特に、有機電界発光素子は、固体発光型の大面積フルカラー表示素子や安価な大面積な面光源としての照明用途としての発展が期待されている。一般に有機電界発光素子は発光層を含む有機層及び該有機層を挟んだ一対の対向電極から構成される。このような有機電界発光素子に電圧を印加すると、有機層に陰極から電子が注入され陽極から正孔が注入される。この電子と正孔が発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出することにより発光が得られる。
【0003】
OLEDは、しばしば、陽極と発光層との間に正孔注入層を有しており、正孔注入層を構成する材料としては、PEDOT/PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート))に代表される、導電性ポリマーと、酸基を有するポリマー(ドーパント)とからなる材料が知られている(特許文献1参照)。PEDOT/PSSの正孔注入層を形成する場合、ドーパントであるPSSの親水性が高いことから、層形成のため塗布液としては、通常、PEDOT/PSSの水分散液が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−500463号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Organic Electronics Vol.9 869−872(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PEDOT/PSSの水分散液を用いて得られた正孔注入層は、(1)乾燥処理が施されても、充分な脱水がなされず、あるいは(2)PSSが分解することにより、発生するイオンによる金属電極の劣化(非特許文献1参照)などの問題があり、その結果、OLEDの耐久性を悪化させるという不具合があった(より具体的には、輝度半減期寿命が短いという問題があった)。
【0007】
そこで、ドーパントとして、酸基を有するフッ素ポリマー(より具体的には、ナフィオン(登録商標))を使用する技術が提案されている(特許文献1参照)。
このような酸基を有するフッ素ポリマーによれば、(1)正孔注入層用の塗布液の媒体としてエチレングリコールや2−n−ブトキシエタノール等の非水系溶剤を使用することが可能になり、正孔注入層の含水率を低減する、(2)安定なフッ素ポリマーを用いることが可能になるという利点がある。
【0008】
しかしながら、ドーパントとして、このような酸基を有するフッ素ポリマーを使用しても、正孔注入層が塗布により形成されたOLEDの耐久性は、依然、不十分であった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、有機溶剤に対する耐性が高く、かつ、発光素子の耐久性を優れたものにできる(すなわち、発光素子の輝度半減期寿命を長期化することができる)導電性膜を作製することのできる導電性ポリマー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、有機溶剤に対する耐性が高く、かつ、発光素子の耐久性を優れたものにできる導電性硬化膜を提供することを目的とする。
更に、本発明は、耐久性に優れた(すなわち、輝度半減期寿命が長い)有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記状況を鑑み、本発明者は、鋭意研究を行なったところ、以下の知見を得た。
すなわち、上記したような導電性ポリマーと酸基を有するフッ素ポリマーとで構成されている正孔注入層の上に、発光材料を含有する塗布液(発光層用塗布液)を塗布して発光層を形成しようとする場合に、発光層用塗布液の媒体として、発光材料に対する親和性の観点から、N−メチルピロリドン(NMP)等の高極性溶媒やクロロホルム等のハロゲン系溶媒を選択すると、正孔注入層中の構成材料が発光層用塗布液に溶解し、結果、正孔注入の性能、すなわち導電性が損なわれるという知見を得、この知見に基づいて更に検討して本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
〔1〕
(A)導電性ポリマーと、
(B)下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有する第1ポリマー、又は、前記下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位と下記一般式(II’)で表される繰り返し単位とを有する第2ポリマーと、
(C)硬化剤と
を含有することを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、Mは1価のカチオンを表し、nは独立して任意の整数を表す。
【0014】
〔2〕
前記導電性ポリマー(A)が、チオフェン、チオフェン誘導体、ピロール及びピロール誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーの重合体又は共重合体であることを特徴とする上記〔1〕に記載の導電性ポリマー組成物。
【0015】
〔3〕
前記硬化剤(C)が、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物(Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、Rは1価の疎水性基を表す)であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の導電性ポリマー組成物。
【0016】
〔4〕
前記硬化剤(C)が、多価アルコールであることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の導電性ポリマー組成物。
【0017】
〔5〕
(D)溶剤を更に含むことを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【0018】
〔6〕 前記溶剤(D)が非水系溶剤であることを特徴とする上記〔5〕に記載の導電性ポリマー組成物。
【0019】
〔7〕
前記非水系溶剤が、脱水処理又はカラム精製処理が施された溶剤であることを特徴とする上記〔6〕に記載の導電性ポリマー組成物。
【0020】
〔8〕
上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物を用いて膜を形成し、該膜に硬化エネルギーを与えることによって得られる導電性硬化膜。
【0021】
〔9〕
1層以上の有機層を有する有機電界発光素子であって、前記有機層のいずれかの層が上記〔8〕に記載の導電性硬化膜であることを特徴とする有機電界発光素子。
【0022】
〔10〕
前記有機層のいずれかの層が正孔注入層であることを特徴とする上記〔9〕に記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有機溶剤に対する耐性が高く、かつ、発光素子の耐久性を優れたものにできる(すなわち、発光素子の輝度半減期寿命を長期化することができる)導電性膜を作製することのできる導電性ポリマー組成物を提供できる。
また、本発明によれば、有機溶剤に対する耐性が高く、かつ、発光素子の耐久性を優れたものにできる導電性硬化膜を提供できる。
更に、本発明は、耐久性に優れた(すなわち、輝度半減期寿命が長い)有機電界発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の有機電界発光素子の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】実施例5の有機電界発光素子の正孔注入層及び発光層に含有されるIr元素、F元素の膜厚方向の含有率変化を示す図である。
【図3】比較例3の有機電界発光素子の正孔注入層及び発光層に含有されるIr元素、F元素の膜厚方向の含有率変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0026】
本発明の導電性ポリマー組成物は、(A)導電性ポリマーと、(B)下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有する第1ポリマー、又は、前記下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位と下記一般式(II’)で表される繰り返し単位とを有する第2ポリマー(以下、成分(B)を“酸ポリマー”ともいう)と、(C)硬化剤とを含有している。
【0027】
【化2】

【0028】
式中、Mは1価のカチオンを表し、nは独立して任意の整数を表す。
【0029】
以下、本発明の導電性ポリマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0030】
〔(A)導電性ポリマー〕
導電性ポリマーは、公知のものをいずれも使用できるが、チオフェン、チオフェン誘導体、ピロール及びピロール誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーの重合体又は共重合体であることが好ましい。このような重合体又は共重合体としては、チオフェンの重合体(ポリチオフェン)、チオフェン誘導体の重合体、ピロールの重合体(ポリピロール)、ピロール誘導体の重合体、チオフェンとチオフェン誘導体との共重合体、ピロールとピロール誘導体との共重合体、チオフェン又はチオフェン誘導体とピロール又はピロール誘導体との共重合体などを挙げることができる。
【0031】
チオフェン誘導体としては、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−ビニレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−フェニルチオフェン、イソチアナフテン等を挙げることができる。
【0032】
重合体又は共重合体のモノマーとして、チオフェン及びチオフェン誘導体の内、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−ヘキシルチオフェンがより好ましく、3,4−エチレンジオキシチオフェンが更に好ましい。
【0033】
ピロール誘導体としては、3,4−アルキルピロール、1−アルキルピロール、3−アルキルピロール、3,4−エチレンジオキシピロール、3,4−プロピレンジオキシピロール等を挙げることができる。
【0034】
重合体又は共重合体のモノマーとして、ピロール及びピロール誘導体の内、ピロール、3−アルキルピロールがより好ましく、ピロールが更に好ましい。
【0035】
導電性ポリマーが共重合体である場合、各繰り返し単位のモル比は特に限定されるものではなく、導電性ポリマー組成物の用途に応じて、適宜、設定される。
【0036】
導電性ポリマーとしては、特に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることが好ましい。
【0037】
導電性ポリマー組成物の全固形分に対する導電性ポリマーの含有量は、10質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましい。
また、導電性ポリマー膜の導電率としては、10―6〜10S/cmの範囲であり、好ましくは10−4〜10−2S/cmの範囲である。
【0038】
〔(B)酸ポリマー〕
本発明の導電性ポリマー組成物で使用される酸ポリマーは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(以下、単に繰り返し単位(I)ともいう)と下記一般式(II)で表される繰り返し単位(以下、単に繰り返し単位(II)ともいう)とを有する第1ポリマー、又は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位(以下、単に繰り返し単位(II)ともいう)と下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(以下、単に繰り返し単位(II’)ともいう)とを有する第2ポリマーである。
【0039】
【化3】

【0040】
式中、Mは1価のカチオンを表し、nは独立して任意の整数を表す。通常、nは、100〜100000の整数を表す。Mの1価のカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどを挙げることができる。
【0041】
第2ポリマーは、例えば、第1ポリマーの繰り返し単位(II)の一部の繰り返し単位におけるスルホン酸とカチオンMを提供可能なアルカリ化合物との酸塩基反応により好適に得られる。
【0042】
第1ポリマーにおける“繰り返し単位(I):繰り返し単位(II)”(モル比)、及び、第2ポリマーにおける“繰り返し単位(I):[繰り返し単位(II)+繰り返し単位(II’)]”(モル比)は、特に限定されないが、それぞれ、1:100〜1:3000であることが好ましく、5:2000〜13:2000であることがより好ましい。
【0043】
第2ポリマーにおける繰り返し単位(II)と繰り返し単位(II’)とのモル比は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜、決定される。
【0044】
酸ポリマーは、繰り返し単位(II’)を含まない第1ポリマーであることがより好ましい。
【0045】
上記した酸ポリマーは、国際公開WO98/31716号、米国特許4、940、525号等に記載の手法に準じて合成可能であるほか、デュポン社製のナフィオン(登録商標)DE521、DE520、DE1020、DE1021、DE2020、DE2021等の市販品を使用することもできる。
【0046】
第1ポリマーは、繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意の繰り返し単位(ただし、繰り返し単位(II’)を除く)を適宜含有してもよい。
また、第2ポリマーは、繰り返し単位(I)、繰り返し単位(II)及び繰り返し単位(II’)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意の繰り返し単位を適宜含有してもよい。
【0047】
導電性ポリマー組成物の全固形分に対する酸ポリマーの含有量は、20質量%〜90質量%であることが好ましく、40質量%〜70質量%であることがより好ましい。
【0048】
導電性ポリマーと酸ポリマーとを含有する導電性ポリマー組成物は、酸ポリマーの存在下、導電性ポリマー用のモノマーを重合させることによって、好適に得ることができ、例えば、特開平7−90060号公報、特表2006−500463に記載の手法に基づくことにより、導電性ポリマー組成物を水分散物として得ることができる。
【0049】
〔(C)硬化剤〕
硬化剤としては、硬化エネルギーを受けて、導電性ポリマー組成物の固形物を硬化し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、公知のシランカップリング剤や多価アルコールを好適に挙げることができる。
【0050】
硬化エネルギーは硬化反応を起こすものであれば特に限定されず、熱エネルギー、光エネルギー(紫外線エネルギーを含む)等を挙げることができる。
【0051】
例えば、硬化剤をシランカップリング剤とした場合には、硬化エネルギーとして熱エネルギーを選択することにより、すなわち、導電性ポリマー組成物の固形物(例えば、固形膜)を加熱することにより、シランカップリング剤同士がシランカップリング反応を起こし、固形膜がより硬化されてなる硬化膜が形成される。
【0052】
硬化剤を多価アルコールとした場合にも、硬化エネルギーとして熱エネルギーを選択することにより、すなわち、導電性ポリマー組成物の固形物(例えば、固形膜)を加熱することにより、多価アルコールの水酸基と、酸ポリマーの酸基(スルホン酸基)とが架橋反応を起こすなどして、固形膜がより硬化されてなる硬化膜が形成される。
【0053】
熱エネルギーを付与する方法としては、上記した反応の種類に応じて、適宜、選択され、公知の方法をいずれも採用できるが、例えば、ホットプレートやオーブンを用いた80℃〜200℃の加熱を、5分〜1時間の間で行う方法等を挙げることができる。
【0054】
シランカップリング剤としては、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物(Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、Rは1価の疎水性基を表す)であることが好ましい。
【0055】
としての炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0056】
としての1価の疎水性基は、アルキル基、アリール基、グリシジル基、パーフルオロアルキル基及びフッ素原子から選択される1種以上を含有する基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、3−グリシドキシプロピル基、フェネチル基、ベンジル基、フェニル基等を挙げることができる。
このような疎水性基がシランカップリング剤に導入されていることにより、上記した酸ポリマー(フッ素ポリマー)に対するシランカップリング剤の相溶性が高く、所望の硬化膜をより確実に得ることが可能となる。
【0057】
一般式Si(R(R)で表されるケイ素化合物の具体例としては、フェネチルトリアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、ベンジルトリアルコキシラン、エチルトリアルコキシシランシラン、ヘキシルトリアルコキシシラン、トリフルオロプロピルトリアルコキシシラン、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルトリアルコキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができ、フェネチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランがより好ましい。
【0058】
また、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物を使用すれば、一般式Si(R)で表されるケイ素化合物を使用する場合と比較して、硬化膜に“ひび”が入るのをより抑制できる。
更に、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物を使用すれば、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物を使用する場合と比較して、より充分な強度を有する硬化膜を作製できる。
【0059】
多価アルコールとしては、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアクリレート等を挙げることができる。ここで、ポリビニルアルコール及びポリヒドロキシアクリレートの重合度は、200〜3000であることが好ましい。
【0060】
導電性ポリマー組成物の全固形分に対する硬化剤の含有量は、0.05質量%〜20質量%であることが好ましく、0.1質量%〜15質量%であることがより好ましい。
硬化剤がシランカップリング剤である場合、導電性ポリマー組成物の全固形分に対する硬化剤の含有量は、0.1質量%〜5質量%であること好ましく、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。
硬化剤が多価アルコールである場合、導電性ポリマー組成物の全固形分に対する硬化剤の含有量は、5質量%〜15質量%であること好ましく、10質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0061】
〔他の成分〕
本発明の導電性ポリマー組成物は、更に、その他の添加剤、被膜安定化材料を添加してもよく、例えば、安定剤、粘度調整剤、老化防止剤、pH調整剤、防腐剤、樹脂エマルジョン、レベリング剤等を用いることができる。
【0062】
本発明の導電性ポリマー組成物の粘度は、用途に応じて、適宜、決定されるものであるが、導電性ポリマー組成物をOLEDの有機層を形成するために用いる場合には、1mPa・s〜50mPa・sであることが好ましく、2mPa・s〜10mPa・sであることがより好ましい。
【0063】
また、本発明の導電性ポリマー組成物は、表面張力が20mN/m〜70mN/mであって、25mN/m〜40mN/mが好ましい。この範囲の表面張力にすることにより、はじきやムラがない平滑な塗布膜を形成することができる。
【0064】
また、特にOLEDの有機層を形成することを目的とする場合、本発明の導電性ポリマー組成物は、上述した粘度及び表面張力の少なくとも1つについて、前記数値範囲を満足することが好ましいが、2以上の任意の組合せの特性について条件を満足するもの、更にはすべての特性について満足するものであってもよい。これによって、塗布に適した組成物とすることができる。
【0065】
よって、本発明の導電性ポリマー組成物は、粘度及び/又は表面張力が上記範囲となるように、(D)溶剤を更に含むことが好ましい。
溶剤としては、水(水系溶剤)、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び、グリセリン等(以上、非水系溶剤)から選択される1種以上を挙げることができる。
水系溶剤を選択するか、あるいは、非水系溶剤を選択するかは、上述した(A)導電性ポリマー、(B)酸ポリマー及び(C)硬化剤を、良好に溶解あるいは分散できるかどうかを鑑みて、決定されるのが好ましい。
例えば、硬化剤として、先に例示したポリビニルアルコールを使用する場合には、良好な分散状態を得るべく、溶剤としては水(水系溶剤)を選択するのが好ましい。
【0066】
また、上述した(A)導電性ポリマー、(B)酸ポリマー及び(C)硬化剤を、良好に溶解あるいは分散できる場合、溶剤としては非水系溶剤を選択するのがより好ましい。なぜなら、水系溶剤を使用しないため、得られる硬化膜の含水率を抑えることができ、この硬化膜を例えば発光素子の有機層(例えば、OLEDの正孔注入層)として使用した場合に、耐久性に優れた(すなわち、輝度半減期寿命が長い)有機電界発光素子を得ることができるからである。
【0067】
例えば、硬化剤として上記した一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物を使用すれば、導電性ポリマー組成物の溶剤として非水系溶剤を使用することができ好適である。
【0068】
なお、上記した理由で、非水系溶剤の含水率はできるだけ低いのが好ましいことから、非水系溶剤は、公知の脱水処理又はカラム精製処理がなされた高純度の溶剤であることがより好ましい。
【0069】
以上に、本発明の導電性ポリマー組成物について説明したが、このような構成によれば、酸ポリマーとしてフッ素ポリマーが使用されているため、形成された膜の吸水性あるいは保水性が低く、発光素子の耐久性を優れたものにできる(すなわち、発光素子の輝度半減期寿命を長期化することができる)導電性膜を作製することができる。
また、この導電性ポリマー組成物を用いて作製した固形膜に硬化エネルギーを付与して得られる硬化膜は、膜中の構成材料が、例えば、硬化剤の硬化反応によって形成された三次元網目構造の内部でより確実に捕捉されるなどして、有機溶剤に耐性が高い導電性膜となる。よって、特に、この導電性膜(例えば、OLEDの正孔注入層)の上に別の有機層用塗布液(例えば、OLEDの発光層用塗布液)が塗布された場合、導電性膜の構成材料が別の有機層用塗布液に溶解する恐れを低減できる。更に、この場合、下層としての導電性膜が硬化膜であることによって固く、安定していることから、上記別の有機層用塗布液をより所望の状態で塗布することができる。よって、これらの理由により、高性能の(特に、高耐久性の)発光素子を作製することが可能となる。
【0070】
本発明は、上記した本発明の導電性ポリマー組成物を用いて膜を形成し、該膜に硬化エネルギーを与えることによって得られる導電性硬化膜にも関する。本発明の導電性硬化膜によれば、上記したように、有機溶剤に対する耐性が高く、かつ、発光素子の耐久性を優れたものにできる。
【0071】
〔有機電界発光素子〕
以下、本発明に用いられる有機電界発光素子について説明する。
本発明の有機電界発光素子は、1層以上の有機層を有しており、通常、一対の電極間に有機層を有している。有機層は発光層を含み、発光層は燐光発光性化合物を含有することが好ましい。必要に応じて発光層以外の有機層や保護層、封止層等を有していてもよい。
本発明の有機電界発光素子においては、有機層のいずれかの層が上記した本発明の導電性硬化膜となっており、これにより、耐久性に優れた(すなわち、輝度半減期寿命が長い)有機電界発光素子とすることができる。
【0072】
本発明の導電性ポリマー組成物を適用して形成しうる有機層としては、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等が挙げられる。いずれか一層に本発明の導電性ポリマー組成物を適用してもよいし、複数層に適用してもよい。好ましくは、正孔注入層に適用される。
【0073】
素子中における酸素濃度は低いほど好ましく、100ppm以下であればよく、好ましくは50ppm以下である。酸素濃度が100ppm以下の雰囲気を得るための方法は特に限定されない。例えば、酸素濃度100ppm以下の不活性ガス雰囲気下で封止工程を行えばよい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等がコスト及び取り扱い易さの観点から好ましい。
【0074】
図1は各々、本発明の有機電界発光素子の一実施形態を示す概略断面図である。図1に示す発光素子は、基材1の上に透明電極2、有機層3及び背面電極4を積層してなる発光積層体7、並びに有機層3を封止する封止部材9を有する。これらの実施形態においては、封止部材9を封止剤(接着剤)8によって基材1、透明電極リード5、背面電極リード6等に接着し、発光積層体7に設置される。空間10には、水分吸収剤又は不活性液体を挿入してよい。水分吸収剤は特に限定されず、具体例としては酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化リン、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウム等が挙げられる。不活性液体としてはパラフィン類、流動パラフィン類、フッ素系溶剤(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、塩素系溶剤、シリコーンオイル類等が使用可能である。
【0075】
本発明の有機電界発光素子において、発光積層体の構成は、基材上に透明電極/発光層/背面電極、透明電極/発光層/電子注入層/背面電極、透明電極/正孔注入層/発光層/電子注入層/背面電極、透明電極/正孔注入層/発光層/背面電極、透明電極/発光層/電子輸送層/電子注入層/背面電極、透明電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/背面電極等をこの順に積層した構成、これらを逆に積層した構成等であってよい。発光層は燐光発光性化合物を含有し、通常、透明電極から発光が取り出される。各層に用いる化合物の具体例については、例えば「月刊ディスプレイ」1998年10月号別冊の「有機ELディスプレイ」(テクノタイムズ社)等に記載されている。
【0076】
有機層の形成位置は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができるが、透明電極又は背面電極上に形成するのが好ましい。このとき有機層は透明電極又は背面電極の全面又は一部に形成してよい。有機層の形状、大きさ及び厚みも目的に応じて適宜選択することができる。
【0077】
有機層のいずれか一層は本発明の導電性ポリマー組成物を用いた湿式製膜法により製膜することが好ましいが、他の層については乾式製膜法又は湿式製膜法を適宜選択して製膜してよい。湿式製膜法を用いると有機層を容易に大面積化することができ、高輝度で発光効率に優れた発光素子が低コストで効率よく得られ、好ましい。乾式製膜法としては蒸着法、スパッタ法等が使用でき、湿式製膜法としてはディッピング法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、インクジェット法等が使用可能である。これらの製膜法は有機層の材料に応じて適宜選択できる。湿式製膜法により製膜した場合は製膜した後に乾燥してよい。乾燥は塗布層が損傷しないように温度、圧力等の条件を選択して行う。
【0078】
上記湿式製膜法(塗布プロセス)で用いる塗布液は通常、有機層の材料と、それを溶解又は分散するための溶剤からなる。溶剤は特に限定されず、有機層に用いる材料に応じて選択すればよい。溶剤の具体例としては、ハロゲン系溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n−プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、炭酸ジエチル等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。なお、塗布液中の溶剤に対する固形分量は特に制限はなく、塗布液の粘度も製膜方法に応じて任意に選択することができる。
【0079】
本発明の有機電界発光素子は通常、その透明電極と背面電極との間に2〜40ボルト程度の直流電圧(交流成分を含んでもよい)又は直流電流を印加すると発光する。また、本発明の発光素子を駆動する際には、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号、米国特許5828429号、同6023308号、日本特許第2784615号等に記載の駆動方法を利用することができる。以下、本発明で用いる発光積層体をなす各層について詳述するが、本発明はそれらにより限定されない。
【0080】
(A)基材
本発明で使用する基材は、水分を透過させない材料又は水分透過率が極めて低い材料からなるのが好ましい。該材料は、好ましくは有機層から発せられる光を散乱又は減衰させない。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルやポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料等が挙げられる。中でも、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性及び加工性に優れ、かつ低通気性及び低吸湿性である有機材料が特に好ましく使用できる。基材は単一材料で形成しても、2種以上の材料で形成してもよい。基材の材料は透明電極材料に応じて適宜選択してよく、例えば透明電極が酸化インジウムスズ(ITO)である場合には、ITOとの格子定数の差が小さい材料を用いるのが好ましい。
【0081】
基材の形状、構造、大きさ等は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。形状は板状とするのが一般的である。構造は単層構造であっても積層構造であってもよい。基材は無色透明であっても有色透明であってもよいが、発光層から発せられる光を散乱又は減衰させることがない点で無色透明であるのが好ましい。
【0082】
基材の電極側の面、電極と反対側の面又はその両方に透湿防止層(ガスバリア層)を設けてもよい。透湿防止層を構成する材料としては窒化ケイ素、酸化ケイ素等の無機物を用いるのが好ましい。透湿防止層は高周波スパッタリング法等により成膜できる。また、基材には必要に応じてハードコート層やアンダーコート層を設けてもよい。
【0083】
(B)透明電極
通常、透明電極は有機層に正孔を供給する陽極としての機能を有するが、陰極として機能させることもでき、この場合背面電極を陽極として機能させる。以下、透明電極を陽極とする場合について説明する。
【0084】
透明電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。透明電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料を用いる。具体例としては、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、半導性金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等)、金属(金、銀、クロム、ニッケル等)、これら金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、無機導電性物質(ヨウ化銅、硫化銅等)、有機導電性材料(ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等)及びこれとITOとの積層物等が挙げられる。
【0085】
透明電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって基材上に形成することができる。形成方法は透明電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、透明電極の材料としてITOを用いる場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等を用いればよい。また透明電極の材料として有機導電性材料を用いる場合には、湿式製膜法を用いてよい。
【0086】
透明電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0087】
透明電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、基材上に形成するのが好ましい。このとき透明電極は基材の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。
【0088】
透明電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜50μmであり、好ましくは50nm〜20μmである。透明電極の抵抗値は102Ω/□以下とするのが好ましく、10Ω/□以下とするのがより好ましい。透明電極は無色透明であっても有色透明であってもよい。透明電極側から発光を取り出すためには、その透過率は60%以上とするのが好ましく、70%以上とするのがより好ましい。透過率は分光光度計を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0089】
また、「透明導電膜の新展開」(沢田豊監修、シーエムシー刊、1999年)等に詳細に記載されている電極も本発明に適用できる。特に耐熱性の低いプラスチック基材を用いる場合は、透明電極材料としてITO又はIZOを使用し、150℃以下の低温で製膜するのが好ましい。
【0090】
(C)背面電極
通常、背面電極は有機層に電子を注入する陰極としての機能を有するが、陽極として機能させることもでき、この場合上記透明電極を陰極として機能させる。以下、背面電極を陰極とする場合について説明する。
【0091】
背面電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。背面電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4.5eV以下の材料を用いる。具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、希土類金属(イッテルビウム等)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させるためには2種以上を併用するのが好ましい。これら材料の中で、電子注入性の観点からはアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性の観点からはアルミニウムを主体とする材料が好ましい。ここでアルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金又は混合物(リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金等)を指す。背面電極の材料としては、特開平2−15595号、特開平5−121172号等に詳述されているものも使用できる。
【0092】
背面電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって形成することができる。形成方法は背面電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、背面電極の材料として2種以上の金属等を用いる場合には、その材料を同時又は順次にスパッタして形成できる。
【0093】
背面電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0094】
背面電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、有機層上に形成するのが好ましい。このとき背面電極は有機層の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。また、背面電極と有機層との間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物等からなる誘電体層を0.1〜5nmの厚みで設置してもよい。誘電体層は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
【0095】
背面電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜5μmであり、好ましくは50nm〜1μmである。背面電極は透明であっても不透明であってもよい。透明背面電極は、上述した材料の層を1〜10nmの厚みに薄く製膜し、更にITOやIZO等の透明導電性材料を積層して形成してよい。
【0096】
(D)発光層
本発明の有機電界発光素子において、発光層は燐光発光性化合物を含有することが好ましい。本発明で用いる燐光発光性化合物は、三重項励起子から発光することができる化合物であれば特に限定されることはない。燐光発光性化合物としては、オルトメタル化錯体又はポルフィリン錯体を用いるのが好ましく、オルトメタル化錯体を用いるのがより好ましい。ポルフィリン錯体の中ではポルフィリン白金錯体が好ましい。燐光発光性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0097】
本発明でいうオルトメタル化錯体とは、山本明夫著「有機金属化学 基礎と応用」, 150頁及び232頁, 裳華房社(1982年)、H. Yersin著「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」, 71〜77頁及び135〜146頁, Springer−Verlag社(1987年)等に記載されている化合物群の総称である。オルトメタル化錯体を形成する配位子は特に限定されないが、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体又は2−フェニルキノリン誘導体であるのが好ましい。これら誘導体は置換基を有してもよい。また、これらのオルトメタル化錯体形成に必須の配位子以外に他の配位子を有していてもよい。オルトメタル化錯体を形成する中心金属としては、遷移金属であればいずれも使用可能であり、本発明ではロジウム、白金、金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム等を好ましく用いることができる。中でもイリジウムが特に好ましい。このようなオルトメタル化錯体を含む有機層は、発光輝度及び発光効率に優れている。オルトメタル化錯体については、特願2000−254171号の段落番号0152〜0180にもその具体例が記載されている。
【0098】
本発明で用いるオルトメタル化錯体は、Inorg.Chem.,30,1685,1991、Inorg.Chem.,27,3464,1988、Inorg.Chem.,33,545,1994、Inorg.Chim.Acta,181,245,1991、J.Organomet.Chem.,335,293,1987、J.Am.Chem.Soc.,107,1431,1985等に記載の公知の手法で合成することができる。
【0099】
発光層中の燐光発光性化合物の含有量は特に制限されないが、例えば0.1〜70質量%であり、1〜20質量%であるのが好ましい。燐光発光性化合物の含有量が0.1質量%未満であるか、又は70質量%を超えると、その効果が十分に発揮されない場合がある。
【0100】
本発明において、発光層は必要に応じてホスト化合物、正孔注入材料、電子注入材料、電気的に不活性なポリマーバインダー等を含有してもよい。
【0101】
上記ホスト化合物とは、その励起状態から燐光発光性化合物へエネルギー移動が起こり、その結果、該燐光発光性化合物を発光させる化合物である。その具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。ホスト化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0102】
正孔注入材料は陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、及び陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に限定されず、低分子材料であっても高分子材料であってもよい。その具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0103】
電子注入材料は陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、及び陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に限定されず、例えばトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタロフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が使用可能である。
【0104】
ポリマーバインダーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等が使用可能である。ポリマーバインダーを含有する発光層は、湿式製膜法によって、容易にかつ大面積に塗布形成することができる。
【0105】
発光層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを超えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0106】
(E)電子注入層
本発明の発光素子は、必要に応じて上述した電子注入材料からなる電子注入層を有してよい。電子注入層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。電子注入層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nm以下であることによって駆動電圧が上昇することを抑制でき、10nm以上であると発光素子が短絡することを抑制できる。
【0107】
(F)正孔注入層
本発明の発光素子は、必要に応じて上述した正孔注入材料からなる正孔注入層を有してよい。正孔注入層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。ただし、上記したように、正孔注入層は本発明の導電性硬化膜であることが好ましく、このような導電性硬化膜は、本発明の導電性ポリマー組成物を用いて膜を形成し、該膜に硬化エネルギーを与えることによって得られるのが好ましい。正孔注入層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nm以下であることによって駆動電圧が上昇することを抑制でき、10nm以上であると発光素子が短絡することを抑制できる。
【0108】
(G)その他
本発明の発光素子は、特開平7−85974号、同7−192866号、同8−22891号、同10−275682号、同10−106746号等に記載の保護層を有していてもよい。保護層は発光素子の最上面に形成する。ここで最上面とは、基材、透明電極、有機層及び背面電極をこの順に積層する場合には背面電極の外側表面を指し、基材、背面電極、有機層及び透明電極をこの順に積層する場合には透明電極の外側表面を指す。保護層の形状、大きさ、厚み等は特に限定されない。保護層をなす材料は、水分や酸素等の発光素子を劣化させ得るものが素子内に侵入又は透過するのを抑制する機能を有しているものであれば特に限定されず、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、二酸化ゲルマニウム等が使用できる。
【0109】
保護層の形成方法は特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子センエピタキシ法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が適用できる。
【0110】
〔封止〕
また、有機電界発光素子には水分や酸素の侵入を防止するための封止層を設けるのが好ましい。封止層を形成する材料としては、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとの共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリユリア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はジクロロジフルオロエチレンと他のコモノマーとの共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、金属(In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Tl、Ni等)、金属酸化物(MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等)、金属フッ化物(MgF、LiF、AlF、CaF等)、液状フッ素化炭素(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、該液状フッ素化炭素に水分や酸素の吸着剤を分散させたもの等が使用可能である。
【0111】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
【0112】
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0114】
(正孔注入層用塗布液E1〜E4,R1の調製)
ナフィオン(登録商標)(DE521)水性コロイド状分散液(5.0%)の60g、脱イオン水240g、及び、過硫酸ナトリウム1.0gを500mLのセパラブルフラスコへ量り入れ、Nフローしながら1時間撹拌した。次に、硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬製、091−02832)を350μg添加した。更に、3,4−エチレンジオキシチオフェン1.5gを添加し、4時間撹拌した。
イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)S100(ランクセス社製)の10g、及び、イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)MP62WS(ランクセス社製)の10gを加え、1時間撹拌することによって反応を停止させた。2つのイオン交換樹脂は、先ず、使用前に水に何の色もなくなるまで別々に脱イオン水で洗浄した。
ろ過により、イオン交換樹脂を分離し、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/ナフィオンの水分散液を得た。
【0115】
得られた水分散液に1Nの塩酸を添加し、遠心分離処理後、固形分を回収し、脱イオン水を添加し、再度遠心分離処理を施すことによって、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)と酸ポリマー(以下、フッ素ポリマー1とも言う)とを含有するスラリーを回収した。なお、フッ素ポリマー1は、上記第1ポリマーに相当する。
【0116】
このスラリーと、表1に示す硬化剤と、あらかじめモレキュラーシーブス 3A 1/8(和光純薬製)を用いて脱水処理をした非水系溶剤(イソプロパノールとエチレングリコールとの9:1混合溶剤)とを、それぞれ混合することにより、固形分20質量%の正孔注入層用塗布液E1〜E3,R1を調製した。
また、上記スラリーと、あらかじめモレキュラーシーブス 3A 1/8(和光純薬製)を用いて脱水処理をした非水系溶剤(イソプロパノールとエチレングリコールとの9:1混合溶剤)と、ポリビニルアルコール水溶液(PVA−217、クラレ製、固形分10質量%)とを混合することにより、固形分20質量%の正孔注入層用塗布液E4を調製した。
正孔注入層用塗布液E1〜E4,R1の各成分の種類、及び、塗布液の全固形分に対する含有量を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
(正孔注入層用塗布液R2)
CLEVIOS社製のCLEVIOS AI P 4083(PEDOT/PSSの1.2質量%水分散液)にイソプロパノールを10質量%添加したものを正孔注入層用塗布液R2とした。ここで、正孔注入層用塗布液R2の全固形分に対するPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))の濃度は14.3質量%であり、PSS(ポリ(スチレンスルホネート))の濃度は85.7質量%である。なお、正孔輸注入層用塗布液R2には硬化剤は含まれていない。
【0119】
(発光層用塗布液1の調製)
イリジウム錯体(Ir(ppy))を0.15質量%、下記化合物1を2.85質量%、溶媒としてのNMP/2−n−ブトキシエタノール(質量比6/4)を97質量%で混合し、発光層用塗布液1を得た。
【0120】
(発光層用塗布液2の調製)
イリジウム錯体(下記化合物2)を0.45質量%、下記化合物3を2.55質量%、溶媒としてトルエン97質量%を混合し、発光層用塗布液2を得た。
【0121】
(正孔注入層用塗布液E5の調製)
ナフィオン(登録商標)(DE520)水性コロイド状分散液(5.0質量%)の60g、脱イオン水240g、及び、過硫酸ナトリウム1.0gを500mLのセパラブルフラスコへ量り入れ、Nフローしながら1時間撹拌した。次に、硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬製、091−02832)を350μg添加した。更に、3,4−エチレンジオキシチオフェン1.2gとピロール0.3gを添加し、4時間撹拌した。
イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)S100の10g、及び、イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)MP62WSの10gを加え、1時間撹拌することによって反応を停止させた。2つのイオン交換樹脂は、先ず、使用前に水に何の色もなくなるまで別々に脱イオン水で洗浄した。
ろ過により、イオン交換樹脂を分離し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ピロール)/ナフィオンの水分散液を得た。
【0122】
得られた水分散液に1Nの塩酸を添加し、遠心分離処理後、固形分を回収し、脱イオン水を添加し、再度遠心分離処理を施すことによって、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ピロール)と酸ポリマー(以下、フッ素ポリマー2とも言う)とを含有するスラリーを回収した。なお、フッ素ポリマー2は、上記第1ポリマーに相当する。
【0123】
このスラリーと、フェネチルトリメトキシシランと、あらかじめモレキュラーシーブス 3A 1/8(和光純薬製)を用いて脱水処理をした非水系溶剤(イソプロパノールとエチレングリコールとの9:1混合溶剤)とを、それぞれ混合することにより、固形分20質量%の正孔注入層用塗布液E5を調製した。
【0124】
(正孔注入層用塗布液E6の調製)
ナフィオン(登録商標)(DE520)水性コロイド状分散液(5.0%)の60g、脱イオン水240g、及び、過硫酸ナトリウム1.0gを500mLのセパラブルフラスコへ量り入れ、Nフローしながら1時間撹拌した。次に、硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬製、091−02832)を350μg添加した。更に、3,4−エチレンジオキシチオフェン1.2gとチオフェン0.3gを添加し、4時間撹拌した。
イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)S100の10g、及び、イオン交換樹脂「レバチット」(登録商標)MP62WSの10gを加え、1時間撹拌することによって反応を停止させた。2つのイオン交換樹脂は、先ず、使用前に水に何の色もなくなるまで別々に脱イオン水で洗浄した。
ろ過により、イオン交換樹脂を分離し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/チオフェン)/ナフィオンの水分散液を得た。
【0125】
得られた水分散液に1Nの塩酸を添加し、遠心分離処理後、固形分を回収し、脱イオン水を添加し、再度遠心分離処理を施すことによって、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/チオフェン)と酸ポリマー(フッ素ポリマー2)とを含有するスラリーを回収した。
【0126】
このスラリーと、フェネチルトリメトキシシランと、あらかじめモレキュラーシーブス 3A 1/8(和光純薬製)を用いて脱水処理をした非水系溶剤(イソプロパノールとエチレングリコールとの9:1混合溶剤)とを、それぞれ混合することにより、固形分20質量%の正孔注入層用塗布液E6を調製した。
【0127】
正孔注入層用塗布液E5,E6の各成分の種類、及び、塗布液の全固形分に対する含有量を表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
〔実施例1〕
25mm×25mm×0.7mmのガラス基板上にITOを150nmの厚さで蒸着し製膜したものを透明支持基板とした。この透明支持基板をエッチング、洗浄した。
このITOガラス基板上に、正孔注入層用塗布液E1をスピンコートした後、100℃のホットプレートに10分間載せ、次いで、150℃で30分オーブン乾燥することにより、正孔注入層とした(膜厚約40nm)。
この上に上記発光層用塗布液1をスピンコートし、発光層とした(膜厚約40nm)。
次いで、その上に、真空蒸着法にてBAlqを膜厚40nmに蒸着し電子注入層とした。
そして、この上にフッ化リチウムを1nm蒸着し、更に金属アルミニウムを70nm蒸着し、陰極とした。
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶及び紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止して、実施例1の有機電界発光素子を作製した。
【0130】
〔実施例2〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用塗布液E2に代えた以外は、実施例1と同様とすることにより、実施例2の有機電界発光素子を作製した。
【0131】
〔実施例3〕
正孔輸注入用塗布液E1を正孔注入層用塗布液E3に代えた以外は、実施例1と同様とすることにより、実施例3の有機電界発光素子を作製した。
【0132】
〔実施例4〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用注入液E4に代えた以外は、実施例1と同様とすることにより、実施例4の有機電界発光素子を作製した。
【0133】
〔実施例5〕
発光層塗布液2を用いた以外には、実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0134】
〔実施例6〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用塗布液E5に代えた以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。
【0135】
〔実施例7〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用塗布液E6に代えた以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。
【0136】
〔比較例1〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用塗布液R1に代えた以外は、実施例1と同様とすることにより、比較例1の有機電界発光素子を作製した。
【0137】
〔比較例2〕
正孔注入層用塗布液E1を正孔注入層用塗布液R2に代えた以外は、実施例1と同様とすることにより、比較例2の有機電界発光素子を作製した。
【0138】
〔比較例3〕
発光層塗布液2を用いた以外には、比較例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0139】
以下に実施例及び比較例の有機電界発光素子に使用した化合物等を示す。
【0140】
【化4】

【0141】
(性能評価)
(1)耐溶剤性
発光層を塗布前後の正孔注入層の膜厚変化を、触針式段差・表面形状測定装置XP−200(AMBiOS Technology,Inc製を用いて、測定した。結果を表2に示す。評価基準は以下の通りである。
○:正孔注入層の膜厚変化なし。
×:正孔注入層の溶解、若しくは膜厚の減少。
【0142】
(2)耐久性
初期の発光輝度500cd/mで、室温において、有機電界発光素子に定電流を印加して連続的に駆動を行い、実施例1の有機電界発光素子の発光輝度が1/2に低下するまでの時間を測定し、実施例1を基準として、比較対象を行った。結果を表2に示す。評価基準は以下の通りである。
○:実施例1の有機電界発光素子の発光輝度が1/2に低下するまでの時間の1倍以上
△:実施例1の有機電界発光素子の発光輝度が1/2に低下するまでの時間の0.5倍〜1倍未満
×:実施例1の有機電界発光素子の発光輝度が1/2に低下するまでの時間の0.5倍より短い
【0143】
(評価結果)
得られた結果を表3に示した。
【0144】
【表3】

【0145】
評価の結果、実施例1〜7の有機電界発光素子は、高い耐溶剤性及び高い耐久性を有することが分かった。特に、硬化剤として一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合
物を使用した実施例1〜3、5〜7の有機電界発光素子は、正孔注入層用塗布液の溶剤のほとんどの量を非水系溶剤が占めるので(塗布液中の水の量を非常に少なくできるので)、より高い耐久性を有することが分かった。
【0146】
<Ir元素及びF元素の膜厚プロファイル測定>
なお、実施例5及び比較例3について、X線光電子分析装置(ESCA−XPS)によってIr元素及びF元素の膜厚プロファイル測定を行った。
即ち、X線光電子分光分析装置SSX−100(Surface Science Instruments社製)を用い、実施例5及び比較例3について、正孔注入層及び発光層に含有されるIr元素、F元素の膜厚方向の含有率変化(膜厚プロファイル)を測定し、得られたプロファイルを、それぞれ、図2及び図3として示した。
図2及び図3において、2点鎖線は、発光層と正孔注入層との界面を示す。
実施例5では50倍に拡大したIr元素のプロファイルとF元素のプロファイルのピークが分離しているのに対し、比較例3では、Ir元素とF元素のピークが近接し、発光層と正孔注入層が混合しているのが示唆された。
このように、本発明の導電性ポリマー組成物を使用して得られた導電性硬化膜においては、正孔注入層と発光層の混合を抑制でき、有機溶剤に対する耐性を向上できることが確認された。
【0147】
〔実施例8〕
(発光層用塗布液Aの調製)
イリジウム錯体(Firpic)を0.15質量%、下記化合物4を2.85質量%、溶媒としての2−ブタノンを97質量%で混合し、発光層用塗布液Aを得た。
【0148】
【化5】

【0149】
(有機電界発光素子の作製)
発光層用塗布液Aを用いた以外には、実施例1と同様に有機電界発光素子Aを作製した。この素子に通電したところ、水色のEL発光が観測された。
【0150】
〔実施例9〕
(発光層用塗布液Bの調製)
イリジウム錯体(化合物5)を0.15質量%、下記化合物6を2.85質量%、溶媒としてトルエン97質量%を混合し、発光層用塗布液Bを得た。
【0151】
【化6】

【0152】
(有機電界発光素子の作製)
発光層用塗布液Bを用いた以外には、実施例1と同様に有機電界発光素子Bを作製した。この素子に通電したところ、赤色のEL発光が観測された。
【0153】
〔実施例10〕
(発光層用塗布液Cの調製)
イリジウム錯体(化合物7)を0.15質量%、下記化合物8を2.85質量%、溶媒として2−ブタノン97質量%を混合し、発光層用塗布液Cを得た。
【0154】
【化7】

【0155】
(有機電界発光素子の作製)
発光層用塗布液Cを用いた以外には、実施例1と同様に有機電界発光素子Cを作製した。この素子に通電したところ、赤色のEL発光が観測された。
【符号の説明】
【0156】
1・・・基材
2・・・透明電極
3・・・有機層
4・・・背面電極
5・・・透明電極リード
6・・・背面電極リード
7・・・発光積層体
8・・・封止剤(接着剤)
9・・・封止部材
10・・・空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性ポリマーと、
(B)下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有する第1ポリマー、又は、前記下記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(II)で表される繰り返し単位と下記一般式(II’)で表される繰り返し単位とを有する第2ポリマーと、
(C)硬化剤と
を含有することを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【化1】

式中、Mは1価のカチオンを表し、nは独立して任意の整数を表す。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが、チオフェン、チオフェン誘導体、ピロール及びピロール誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーの重合体又は共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記硬化剤が、一般式Si(R)(R)で表されるケイ素化合物(Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、Rは1価の疎水性基を表す)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が、多価アルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項5】
(D)溶剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記溶剤が、非水系溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記非水系溶剤が、脱水処理又はカラム精製処理が施された溶剤であることを特徴とする請求項6に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物を用いて膜を形成し、該膜に硬化エネルギーを与えることによって得られる導電性硬化膜。
【請求項9】
1層以上の有機層を有する有機電界発光素子であって、前記有機層のいずれかの層が請求項8に記載の導電性硬化膜であることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項10】
前記有機層のいずれかの層が正孔注入層であることを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254962(P2010−254962A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59571(P2010−59571)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】