説明

導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法

【課題】本発明では、活性表面を比較的容易に露出させることが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法であって、(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を焼成して、導電性マイエナイト化合物を含む部材を得る工程であって、前記部材の表面に、アルミニウム炭化物を含む層を生成させる工程と、(3)前記アルミニウム炭化物を含む層を除去する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト化合物は、12CaO・7Alで表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸素イオンで占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有しており、このため、ケージ内の酸素イオンは、特にフリー酸素イオンと呼ばれている。マイエナイト化合物は、[Ca24Al2864]4+・2O2−とも表記される(非特許文献1)。
マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンの一部または全部を電子と置換した場合、マイエナイト化合物に導電性が付与される。これは、マイエナイト化合物のケージ内に包接された電子は、ケージにあまり拘束されず、結晶中を自由に動くことができるためである(特許文献1)。このような導電性を有するマイエナイト化合物は、特に、「導電性マイエナイト化合物」と称される。
【0003】
導電性マイエナイト化合物は、2.4eVと比較的仕事関数が低く、さらに導電性を有すると言う特徴を有するため、例えば蛍光ランプ等の電極材料としての適用が期待されている。
【0004】
導電性マイエナイト化合物は、例えば、マイエナイト化合物の粉末を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素ガス雰囲気下1300℃で熱処理することにより製造することができる(特許文献2)。以下、これを従来方法1という。また、マイエナイト化合物の成形体をアルミニウムとともに蓋付きアルミナ容器に入れ、真空中で1300℃で熱処理することにより製造することができる(特許文献2)。以下、これを従来方法2という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号
【特許文献2】国際公開第2006/129674号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、導電性マイエナイト化合物は、還元雰囲気において、マイエナイト化合物を含む成形体を還元焼結処理することにより製造することができる。
【0008】
ここで、前述の従来方法1では、得られた導電性マイエナイト化合物の焼結体は、表面が絶縁層で覆われている。
【0009】
また、前述の従来方法2では、マイエナイト化合物をアルミニウムと接触させて加熱することが必要であり、アルミニウムはその融点である660℃以上では液体となるため、導電性マイエナイト化合物の焼結体の表面は、アルミニウムの液体で濡れることになる。このような状態で室温まで温度を下げると、導電性マイエナイト化合物の表面にアルミニウムの固体が固着した状態となる。
【0010】
一方、マイエナイト化合物をアルミニウム固体と接触させずにアルミニウム蒸気雰囲気下で加熱すると、得られた導電性マイエナイト化合物の焼結体は、表面がカルシウムアルミネート(例えばCaO・Al)を含んだ酸化物の絶縁層で覆われている。この状態では、例えば、蛍光ランプ等の電極材料としては、良好な電子放出性能が得られ難いという問題がある。従って、得られた導電性マイエナイト化合物を、蛍光ランプの電極部材として使用するためには、使用前に、導電性マイエナイト化合物表面の絶縁層を除去して、導電性表面(活性表面)を露出させる必要がある。
【0011】
しかしながら、通常の場合、導電性マイエナイト化合物表面に生成した絶縁層は、母材部分(すなわち導電性マイエナイト化合物)と強固に固着しており、絶縁層を母材から除去することは容易ではないと言う問題がある。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、活性表面を比較的容易に露出させることが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を焼成して、導電性マイエナイト化合物を含む部材を得る工程であって、前記部材の表面に、アルミニウム炭化物を含む層を生成させる工程と、
(3)前記アルミニウム炭化物を含む層を除去する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0014】
ここで、本発明による製造方法において、前記アルミニウム炭化物を含む層は、AlまたはAlCを含む層であっても良い。
【0015】
また、本発明による製造方法において、前記(2)の工程は、COガスおよびアルミニウム源を含む環境下で、前記被処理体を、1230℃〜1360℃の温度範囲で、4時間以上保持する工程を有しても良い。
【0016】
また、本発明による製造方法において、前記COガスは、カーボンを含む容器から供給されても良い。
【0017】
また、本発明による製造方法において、前記(2)の工程は、前記被処理体および前記アルミニウム源を、前記カーボンを含む容器中に入れた状態で行われても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、活性表面を比較的容易に露出させることが可能な、導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【図2】実施例1に使用した処理装置の構成を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、
導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を焼成して、導電性マイエナイト化合物を含む部材を得る工程であって、前記部材の表面に、アルミニウム炭化物を含む層を生成させる工程と、
(3)前記アルミニウム炭化物を含む層を除去する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
【0021】
ここで、本願において、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0022】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×1018cm−3以上のマイエナイト化合物を表す。全てのフリー酸素イオンが電子で置換されたときの電子密度は、2.3×1021cm−3である。
【0023】
従って、「マイエナイト化合物」には、「導電性マイエナイト化合物」および「非導電性マイエナイト化合物」が含まれる。
【0024】
本発明では、「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、1.0×1019cm−3以上であることが好ましく、1.0×1020cm−3以上であることがより好ましく、1.0×1021cm−3以上であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、一般に、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度は、1.0×1018〜3.0×1020cm−3未満の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法について説明する。
【0026】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×1014〜1.0×1019cm−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×1019〜3.0×1020cm−3では検量線を外挿した値である。
【0027】
電子密度は、3.0×1020〜2.3×1021cm−3の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:

n=(−(Esp−2.83)/0.199)0.782

ここで、nは電子密度(cm−3)、Espはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0028】
また、本発明において、導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0029】
本発明では、導電性マイエナイト化合物を含む部材を製造する際に、該導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に、アルミニウム炭化物を含む層(以下、「アルミニウム炭化物含有層」と称する)を生成させるという特徴を有する。
【0030】
このアルミニウム炭化物含有層は、導電性マイエナイト化合物のような酸化物との親和性が悪く、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に強固に固着してはいない。このため、従来の製造方法において導電性マイエナイト化合物表面に生成するカルシウムアルミネート等の絶縁層とは異なり、アルミニウム炭化物含有層は、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面から、比較的容易に除去することができる。
【0031】
例えば、本願発明者によれば、生成したアルミニウム炭化物含有層は、生成条件によっては、指で触れただけでも、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面から、容易に剥離除去されることが確認されている。また、本願発明者によれば、アルミニウム炭化物含有層の直下には、従来のカルシウムアルミネート層のような、母材に固着した絶縁層は、ほとんど存在しないことが確認されている。
【0032】
従って、本発明による製造方法では、固着性の悪いアルミニウム炭化物含有層を、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に積極的に形成した後、この層を表面から除去することにより、部材の活性表面を容易に露出させることができる。また、このため、本発明による製造方法では、得られた導電性マイエナイト化合物を含む部材を、そのまま蛍光ランプ等の電極として使用することが可能となり、製造工程を有意に簡略化させることが可能となる。
【0033】
なお、本願において、導電性マイエナイト化合物を含む部材の活性表面が露出したことの確認は、テスターを用いて、部材の表面の電気抵抗を測定することにより、容易に判断することができる。すなわち、テスターによる測定において、テスターの端子間を5mm以下としたときに、電気抵抗値が40MΩ以下の場合には、導電性マイエナイト化合物を含む部材の活性表面が露出しており、抵抗値が40MΩよりも大きい場合には、導電性マイエナイト化合物を含む部材の活性表面が露出していないと判断することができる。
【0034】
(本発明による導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明の製造方法について、詳しく説明する。
【0035】
図1には、本発明による導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法を示す。
【0036】
図1に示すように、本発明による製造方法は、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程(工程S110)と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を焼成して、導電性マイエナイト化合物を含む部材を得る工程であって、前記部材の表面に、アルミニウム炭化物含有層を生成させる工程(工程S120)と、
(3)前記アルミニウム炭化物含有層を除去する工程(工程S130)と、
を有する。以下、それぞれの工程について説明する。
【0037】
(工程S110:粉末調製工程)
まず、マイエナイト化合物粉末を合成するための原料粉末が調合される。
【0038】
原料粉末は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)の割合が、CaO:Alに換算したモル比で、12.6:6.4〜11.7:7.3となるように調合される。CaO:Al(モル比)は、約12:7であることが好ましい。
【0039】
なお、原料粉末に使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0040】
原料粉末は、カルシウムアルミネートを含むか、または、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、およびカルシウムアルミネートからなる群から選定された少なくとも2つを含むことが好ましい。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物とを含む混合粉末であっても良い。原料粉末は、例えば、カルシウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、アルミニウム化合物とカルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。また、原料粉末は、例えば、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物と、カルシウムアルミネートとを含む混合粉末であっても良い。さらに、原料粉末は、例えば、カルシウムアルミネートのみを含む混合粉末であっても良い。
【0041】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、およびハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムが好ましい。
【0042】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが好ましい。
【0043】
次に、原料粉末が高温に保持され、マイエナイト化合物が合成される。合成は、不活性ガス雰囲気下や真空下で行ってもよいが、大気下で行うことが好ましい。合成温度は、特に限られないが、例えば、1200℃〜1415℃の範囲であり、1250℃〜1400℃の範囲であることが好ましく、1300℃〜1350℃の範囲であることがより好ましい。1200℃〜1415℃の温度範囲で合成した場合、C12A7の結晶構造を多く含むマイエナイト化合物が得られ易くなる。合成温度が低すぎると、C12A7結晶構造が少なくなるおそれがある。一方、合成温度が高すぎると、マイエナイト化合物の融点を超えるため、C12A7の結晶構造が少なくなるおそれがある。
【0044】
高温の保持時間は、特に限られず、これは、合成量および保持温度等によっても変動する。保持時間は、例えば、1時間〜12時間である。保持時間は、例えば、2時間〜10時間であることが好ましく、4時間〜8時間がより好ましい。原料粉末を1時間以上、高温で保持することにより、固相反応が十分に進行し、均質なマイエナイト化合物を得ることができる。
【0045】
合成により得られるマイエナイト化合物は、一部または全てが焼結した塊状である。塊状のマイエナイト化合物は、スタンプミル等で、例えば、5mm程度の大きさまで粉砕処理される。さらに、自動乳鉢や乾式ボールミルで、平均粒径が10μm〜100μm程度まで粉砕処理が行われる。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法で測定して得た値を意味するものとする。以下、粉末の平均粒径は、同様の方法で測定した値を意味するものとする。
【0046】
さらに微細で均一な粉末を得たい場合は、例えば、C2n+1OH(nは3以上の整数)で表されるアルコール(例えば、イソプロピルアルコールを溶媒として用いた、湿式ボールミル、または循環式ビーズミルなどを用いることにより、粉末の平均粒径を0.5μm〜50μmまで微細化することができる。
【0047】
以上の工程により、マイエナイト化合物の粉末が調製される。
【0048】
粉末として調整されるマイエナイト化合物は、導電性マイエナイト化合物であってもよい。導電性マイエナイト化合物は非導電性の化合物より粉砕性に優れるからである。なお、導電性マイエナイト化合物の粉末を用いても、後の工程において被処理体(特に成形体)を調整する際に、酸化され導電性のないマイエナイト化合物となる場合がある。
【0049】
導電性マイエナイト化合物の合成方法は、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。例えば、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器中に入れて、1600℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2005/000741号)、マイエナイト化合物を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2006/129674号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末から作られる、カルシウムアルミネートなどの粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(国際公開第2010/041558号)、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を混合した粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れて、窒素中1300℃で熱処理して作製する方法(特開2010−132467号公報)などがある。
【0050】
導電性マイエナイト化合物の粉砕方法は、上記マイエナイト化合物の粉砕方法と同様である。
【0051】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物の粉末が調整される。なお、マイエナイト化合物と導電性マイエナイト化合物の混合粉末を用いても良い。
【0052】
(工程S120:加熱処理工程)
次に、以下に示すように、得られたマイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を還元性雰囲気下で高温に保持することにより、マイエナイト化合物粉末が焼結されるとともに、マイエナイト化合物のケージ中の酸素イオンが電子と置換(還元)され、導電性マイエナイト化合物が製造される。
【0053】
マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体としては、工程S110で調製した粉末をそのまま使用しても良い。ただし、通常の場合、被処理体としては、工程S110で調製したマイエナイト化合物の粉末を含む成形体が使用される。
【0054】
成形体の形成方法は、特に限られず、従来の各種方法を用いて、成形体を形成しても良い。例えば、成形体は、工程S110で調製した粉末、または該粉末を含む混練物からなる成形材料の加圧成形により、調製しても良い。
【0055】
成形材料には、必要に応じて、バインダ、潤滑剤、可塑剤または溶媒が含まれる。バインダとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルブチラール、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂、EEA(エチレンエチルアクリレート)樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(ニトロセルロース、エチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、などが使用できる。潤滑剤としてワックス類やステアリン酸が使用できる。可塑剤としてフタル酸エステルが使用できる。溶媒としては、トルエン、キシレンのような芳香族化合物、酢酸ブチル、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、化学式C2n+1OH(n=1〜4)で表されるアルコール(例えばイソプロピルアルコール)等が使用できる。溶媒として水を使用すると、マイエナイト化合物が水和による化学反応を起こすため、安定したスラリーが得られないおそれがある。n=1、2のアルコール(例えばエタノール)も水和しやすい傾向があり、n=3、4のアルコールが好ましい。
【0056】
成形材料をシート成形、押出成形、または射出成形することにより、成形体を得ることができる。ニアネットシェイプ成形が可能である、すなわち、最終製品に近い形状を生産性よく製造可能であることから、射出成形が好ましい。
【0057】
射出成形では、予めマイエナイト化合物の粉末とバインダを加熱混練して成形材料を用意し、この成形材料を射出成形機へ投入して、所望の形状の成形体を得ることができる。例えば、マイエナイト化合物の粉末をバインダと加熱混練し、冷却することで、大きさ1〜10mm程度のペレットまたは粉末状の成形材料を得る。加熱混練では、ラボプラストミルなどが用いられ、せん断力により粉末の凝集がほぐれ、粉末の1次粒子にバインダがコーティングされる。この成形材料を射出成型機に投入し、120〜250℃に加熱してバインダに流動性を発現させる。金型は予め50〜80℃で加熱しておき、3〜10MPaの圧力で金型へ材料を注入することで、所望の成形体を得ることができる。
【0058】
あるいは、前述の調製した粉末または混練物を金型に入れ、この金型を加圧することにより、所望の形状の成形体を形成しても良い。金型の加圧には、例えば、等方静水圧プレス(CIP)処理を利用しても良い。CIP処理の際の圧力は、特に限られないが、例えば、50〜200MPaの範囲である。
【0059】
また、成形体を調製した場合であって、成形体が溶媒を含む場合は、予め成形体を50℃〜200℃の温度範囲で20分〜2時間程度保持し、溶媒を揮発させて除去しても良い。また、成形体がバインダを含む場合は、予め成形体を200〜800℃の温度範囲で30分〜6時間程度保持し、または50℃/時間で昇温し、バインダを除去することが好ましい。
あるいは、両者の処理を同時に行っても良い。
【0060】
次に、成形体などの被処理体が加熱処理される。また、これにより、マイエナイト化合物が還元され、導電性マイエナイト化合物が生成される。
【0061】
ここで、本発明では、加熱処理の際に、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に、アルミニウム炭化物含有層を積極的に形成させると言う特徴を有する。
【0062】
前述のように、生成したアルミニウム炭化物含有層は、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面にほとんど固着せず、部材の表面から、比較的容易に除去することができる。
【0063】
従って、本発明による製造方法では、固着性の悪いアルミニウム炭化物含有層を、表面から除去することにより、導電性マイエナイト化合物を含む部材の活性表面を容易に露出させることができる。また、このため、本発明による製造方法では、得られた導電性マイエナイト化合物を含む部材を、そのまま蛍光ランプ等の電極として使用することが可能となり、製造工程を有意に簡略化させることが可能となる。
【0064】
なお、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面にアルミニウム炭化物含有層を生成させるための加熱処理の方法は、複数存在するが、ここでは代表的な一例について、説明する。
【0065】
(アルミニウム炭化物含有層の形成)
マイエナイト化合物を還元させ、アルミニウム炭化物含有層を形成させるため、被処理体は、還元剤としてのアルミニウム蒸気、および補助剤としてのCO(一酸化炭素)ガスを含む環境下で、1230℃〜1360℃の温度範囲で4時間以上加熱処理される。
【0066】
アルミニウム蒸気は、マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンを、以下の反応により、電子に置換する:

3O2− + 2Al → 6e + Al(1)式

アルミニウムは還元力が強いため、COガスによる還元よりも、多くのフリー酸素イオンを電子へ置換することができる。すなわち導電性マイエナイト化合物を製造することができる。
【0067】
一方COガスは、導電性マイエナイト化合物の表面に、アルミニウム炭化物含有層を形成する。このアルミニウム炭化物含有層は、高導電性マイエナイト化合物とほとんど固着しないため、アルミニウム蒸気を容易にマイエナイト化合物に通すことができる。このため、マイエナイト化合物のケージ中のフリー酸素イオンは、常に電子へ置換する反応が起きていると考えられる。
【0068】
このアルミニウム炭化物含有層には、具体的には、炭化アルミニウム(Al)、炭化酸化アルミニウム(例えばAlC)、このほかに、アルミニウム酸化物(例えばAl)、カルシウムアルミネート(例えばCaO・6Al)、などが含まれている。
【0069】
また、アルミニウム蒸気源は、特に限られない。アルミニウム蒸気源は、例えばアルミニウム粉末を敷き詰めて構成したアルミニウム層であっても良い。また、アルシック(AlSiC)のような、金属アルミニウムと炭化ケイ素の複合材に代表される、金属アルミニウムを含んだ複合材料であっても良い。
【0070】
COガスは、被処理体の置かれる環境に外部から供給しても良い。被処理体をカーボンを含む容器に配置しても良い。例えばカーボンを含む容器を使用した場合、被処理体の高温保持中に、カーボン容器側からCOガスを供給される。カーボン製シートを環境中に配置してもよく、カーボン製容器を用いることが好ましい。
【0071】
COガスおよびアルミニウム蒸気を供給するため、例えば、蓋付きカーボン製容器内に被処理体とアルミニウム層とを配置した状態で、加熱処理が実施されても良い。
【0072】
なお、アルミニウム蒸気源(例えばアルミニウム層)とCOガス源(例えばカーボンを含む容器)とは、直接接触させないことが好ましい。これは、両者を接触させた状態のまま高温に保持すると、両者が接触部で反応してしまい、反応環境に、十分な量のアルミニウム蒸気およびCOガスを供給することが難しくなるためである。
【0073】
処理環境の圧力は、100Pa以下の減圧状態であることが良い。60Pa以下が好ましく、20Pa以下がさらに好ましく、5Pa以下がもっとも好ましい。
【0074】
あるいは、処理環境は、大気圧の不活性ガス雰囲気であっても良い。ただし、不活性ガスとして、窒素ガスを使用することは好ましくない。高温では、窒素ガスは、アルミニウムと反応して、窒化アルミニウムを生成する。このため、雰囲気中に窒素ガスが含まれる場合、この窒素によってアルミニウム蒸気が消費されてしまい、アルミニウム蒸気の還元剤としての効果が失われるからである。
【0075】
被処理体を保持する温度は、1230℃〜1360℃の範囲であるが、特に、1250℃〜1360℃の範囲であることが好ましい。処理温度が低すぎると、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、処理温度が高すぎると、焼結体の表面に、密着性の悪いアルミニウム炭化物含有層が形成されにくくなるおそれがある。
【0076】
高温の保持時間は、4時間〜48時間が好ましい。短すぎると十分なアルミニウム炭化物含有層が形成されず、除去し難くなるおそれがある。長すぎると、アルミニウム炭化物含有層と導電性マイエナイト化合物が反応し、所望の形状の導電性マイエナイト化合物が得られ難くなるおそれがある。高温の保持時間は、4時間〜24時間が好ましく、6時間〜12時間がさらに好ましい。
【0077】
以上の還元雰囲気下での加熱処理により、マイエナイト化合物粉末が焼結して焼結体が形成されるとともに、マイエナイト化合物が還元され、導電性マイエナイト化合物が生成する。また、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に、ほとんど固着性のないアルミニウム炭化物含有層が形成される。
【0078】
以上、代表的なアルミニウム炭化物含有層の形成方法について説明した。しかしながら、この方法は一例であって、その他の方法で、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面に、アルミニウム炭化物含有層を形成しても良い。
【0079】
(工程S130:アルミニウム炭化物含有層除去工程)
次に、前述の工程S120で得られたアルミニウム炭化物含有層が、導電性マイエナイト化合物を含む部材の表面から除去される。
【0080】
アルミニウム炭化物含有層の除去方法は、特に限られず、従来より使用されている各種方法、例えば湿式研磨法、乾式研磨法、化学的溶解法、および振動法等が利用されても良い。ただし、本発明による方法で生成したアルミニウム炭化物含有層は、従来の導電性マイエナイト化合物の製造方法を経て、導電性マイエナイト化合物の表面に形成された絶縁層とは異なり、母材にはほとんど固着していないため、指で触れただけでも容易に除去することができることに留意する必要がある。
【0081】
以上の工程を経て、活性表面が露出した導電性マイエナイト化合物を含む部材を得ることができる。このような部材は、例えば蛍光ランプ等の電極部材として、そのまま適用することができるという利点を有する。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0083】
(実施例1)
以下の方法で、導電性マイエナイト化合物を作製した後、表面層を露出させた。
【0084】
(マイエナイト化合物の合成)
酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(Al)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0085】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子(以下、粒子「A1」と称する)を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0086】
次に、粒子A1を350gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール350mlとを、2リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度94rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0087】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末(以下、粉末「B1」と称する)を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた粉末B1の平均粒径は、3.3μmであることがわかった。
【0088】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られた粉末B1を79.8g、成形用バインダとしてポリエチレンオキサイドを13.0g、可塑剤としてフタル酸ジブチルを0.2g、および潤滑剤としてステアリン酸を7.0g混合し、この混合物を150℃に加熱して混練した。得られた混練物を射出成形用の成形型に流し込み、室温まで冷却させ、直径3.4mm、長さ15.0mmの円柱状の成形体C1を得た。
【0089】
(脱バインダ処理)
次に、以下の手順で、成形体C1の脱バインダ処理を行った。
【0090】
成形体C1をアルミナ板上に置いた状態で電気炉内に設置し、大気中、40分間で200℃まで加熱した。その後、さらに8時間で600℃まで加熱した後、2時間で室温まで冷却させた。これにより、白色円柱状の脱脂体D1を得た。
【0091】
(導電性マイエナイト化合物の作製)
次に、図2に示す装置を使用して脱脂体D1を高温で焼成処理し、導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0092】
図2には、脱脂体D1の焼成処理に使用した装置を示す。図2に示すように、この装置200は、アルミナ容器210と、カーボン製の蓋235付きの第1のカーボン容器230と、カーボン製の蓋255付きの第2のカーボン容器250と、を備える。また、アルミナ容器210の底部には、3gの金属アルミニウム粉末が敷き詰められて構成されたアルミニウム層220が配置されている。アルミニウム層220は、装置200が高温になった際に、アルミニウム蒸気を発生するアルミニウム蒸気ソースとなる。
【0093】
アルミナ容器210は、外径40mm×内径38mm×高さ40mmの略円筒状の形状を有する。また、第1のカーボン容器230は、外径60mm×内径50mm×高さ60mmの略円筒状の形状を有し、第2のカーボン容器250は、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの略円筒状の形状を有する。
【0094】
この装置200は、以下のように使用した。
【0095】
まず、前述の脱脂体D1を、アルミナ容器210内に配置した。この際には、アルミニウム層220の上に、2つの同一形状のアルミナブロック225を配置し、さらにこのアルミナブロック225の上に、厚さが1mmのアルミナ板228を配置した。このアルミナ板228の上に、脱脂体D1を配置した。この状態では、脱脂体D1は、アルミニウム層220とは直接接触しない。
【0096】
次に、この装置200を、雰囲気調整可能な電気炉内に設置した。また、ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて、炉内を真空引きした。その後、炉内の圧力が5Pa以下になってから、装置200の加熱を開始し、300℃/時間の昇温速度で1320℃まで加熱した後、1320℃で12時間保持した。その後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させた。
【0097】
この処理により、脱脂体D1が焼結され、表面に黄色物質を有する焼結体が得られた。
【0098】
(評価)
この焼結体の表面の黄色物質は、指で軽く擦るだけで除去することができた。また、この黄色物質を用いて、X線回折分析を行ったところ、黄色物質の主成分は、炭化アルミニウム(Al)であり、その他、少量のアルミナ(Al)、炭化酸化アルミニウム(AlC)、およびカルシウムアルミネート(CaAl1219)を含むことがわかった。
【0099】
次に、表面の黄色物質を除去した焼結体(以下、焼結体「E1」と称する)の表面をEDX分析した。分析の結果、焼結体E1の表面におけるCa:Al比は、モル比で12:15.7であった。これは、CaO:Alのモル比に換算すると、約12:7.8となり、マイエナイト化合物の化学量論比とほぼ一致することから、焼結体E1の表面には、マイエナイト化合物が露出していることがわかった。
【0100】
さらに、テスターを用いて、焼結体E1の表面の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は約1kΩであり、良好な導電性を有することがわかった。テスターの端子間は、約5mmであった。このことから、焼結体E1の表面には、活性表面が露出していることが確認された。なお、焼結体E1の相対密度は、95.7%であった。
【0101】
一方、焼結体E1の電子密度測定を行うため、焼結体E1をアルミナ製の乳鉢で粗粉砕した。得られた粉末は、X線回折分析の結果、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求めた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、焼結体D1は、全体が導電性マイエナイト化合物で構成されていることが確認された。
【0102】
(実施例2)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例2では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、焼成温度を1250℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0103】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面に黄色物質を有する焼結体が得られた。
【0104】
この焼結体の表面の黄色物質は、指で軽く擦るだけで除去することができた。また、この黄色物質を用いて、X線回折分析を行ったところ、黄色物質の主成分は、炭化アルミニウム(Al)であることがわかった。
【0105】
次に、表面の黄色物質を除去した焼結体(以下、焼結体「E2」と称する)の表面のEDX分析の結果、焼結体E2の表面におけるCa:Al比は、モル比で12:17.7であった。これは、CaO:Alのモル比に換算すると、約12:8.8となり、マイエナイト化合物の化学量論比と近いことから、焼結体E2の表面には、マイエナイト化合物が露出していることがわかった。
【0106】
さらに、テスターを用いて、焼結体E2の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は1kΩであり、良好な導電性を有することがわかった。このことから、焼結体E2の表面には、活性表面が露出していることが確認された。なお、焼結体E2の相対密度は、96.5%であった。
【0107】
一方、焼結体E2の電子密度測定を行うため、焼結体E2をアルミナ製の乳鉢で粗粉砕した。得られた粉末は、X線回折分析の結果、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求めた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、焼結体E2は、全体が導電性マイエナイト化合物で構成されていることが確認された。
【0108】
(実施例3)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例3では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、焼成温度を1340℃とし、焼成時間を6時間とした。また、図2に示した処理装置200において、アルミナ容器210の上部にアルミナ製の蓋を被せた。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0109】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面に黄色物質を有する焼結体が得られた。
【0110】
この焼結体の表面の黄色物質は、指で軽く擦るだけで除去することができた。また、この黄色物質を用いて、X線回折分析を行ったところ、黄色物質の主成分は、炭化アルミニウム(Al)であることがわかった。
【0111】
次に、表面の黄色物質を除去した焼結体(以下、焼結体「E3」と称する)の表面のEDX分析の結果、焼結体E3の表面におけるCa:Al比は、モル比で12:15.1であった。これは、CaO:Alのモル比に換算すると、約12:7.5となり、マイエナイト化合物の化学量論比とほぼ一致することから、焼結体E3の表面には、マイエナイト化合物が露出していることがわかった。
【0112】
さらに、テスターを用いて、焼結体E3の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は1kΩであり、良好な導電性を有することがわかった。このことから、焼結体E3の表面には、活性表面が露出していることが確認された。なお、焼結体D3の相対密度は、94.5%であった。
【0113】
一方、焼結体E3の電子密度測定を行うため、焼結体E3をアルミナ製の乳鉢で粗粉砕した。得られた粉末は、X線回折分析の結果、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求めた電子密度は、1.6×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、焼結体E3は、全体が導電性マイエナイト化合物で構成されていることが確認された。
【0114】
(実施例4)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例2では、前述の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、使用する粉末をマイエナイト化合物ではなく、電子密度が1.0×1020cm−3の導電性マイエナイト化合物の粉末を用いた。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。導電性マイエナイト化合物の粉末は、前記粉末B1を蓋付きカーボン容器に入れて、窒素中で、1300℃で6時間の熱処理を施すことにより作製した。粉砕方法は、(高マイエナイト化合物の合成)の工程に記載の方法と同じであった。導電性マイエナイト化合物の粉末の外観は、導電性を付与されたために緑色を呈していたが、前述の(脱バインダ処理)の工程後には白色となり、大気中の熱処理により酸化されて、導電性のないマイエナイト化合物になっていた。
【0115】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面に黄色物質を有する焼結体が得られた。
【0116】
この焼結体の表面の黄色物質は、指で軽く擦るだけで除去することができた。また、この黄色物質を用いて、X線回折分析を行ったところ、黄色物質の主成分は、炭化アルミニウム(Al)であることがわかった。
【0117】
次に、表面の黄色物質を除去した焼結体(以下、焼結体「E4」と称する)の表面のEDX分析の結果、焼結体E4の表面におけるCa:Al比は、モル比で12:15.2であった。これは、CaO:Alのモル比に換算すると、約12:7.6となり、マイエナイト化合物の化学量論比とほぼ一致することから、焼結体E4の表面には、マイエナイト化合物が露出していることがわかった。
【0118】
さらに、テスターを用いて、焼結体E4の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は1kΩであり、良好な導電性を有することがわかった。このことから、焼結体E4の表面には、活性表面が露出していることが確認された。なお、焼結体E4の相対密度は、96.2%であった。
【0119】
一方、焼結体E4の電子密度測定を行うため、焼結体E4をアルミナ製の乳鉢で粗粉砕した。得られた粉末は、X線回折分析の結果、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求めた電子密度は、1.5×1021cm−3であり、導電率は、17S/cmであった。このことから、焼結体E4は、全体が導電性マイエナイト化合物で構成されていることが確認された。
【0120】
実施例1〜実施例4から、マイエナイト化合物を含む被処理体を高温に保持して、導電性マイエナイト化合物を還元焼結処理する際に、表面にほとんど固着しない、アルミニウム炭化物含有層を形成させることにより、アルミニウム炭化物含有層を除去した後に、導電性マイエナイト化合物の活性表面を容易に露出させることができることがわかった。
【0121】
(比較例1)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を試みた。ただし、この比較例1では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、焼結させる際の温度を1200℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0122】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が薄白色の焼結体が得られた。
【0123】
しかしながら、この焼結体の表面の白色物質は、軽く擦った程度では、全く除去することができなかった。また、テスターを用いて、この焼結体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は無限大を示し、測定不可能であった。焼結体の表面は、導電性を有さないことがわかった。
【0124】
(比較例2)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を試みた。ただし、この比較例1では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、焼結させる際の温度を1400℃とし、保持時間を6時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0125】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が薄白色の焼結体が得られた。
【0126】
しかしながら、この焼結体の表面の白色物質は、軽く擦った程度では、全く除去することができなかった。また、テスターを用いて、この焼結体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は無限大を示し、測定不可能であった。焼結体の表面は、導電性を有さないことがわかった。
【0127】
(比較例3)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例3では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置200において、アルミナ容器210の上部にアルミナ製の蓋を被せて使用し、蓋235付きの第1のカーボン容器230および蓋255付きの第2のカーボン容器250は、使用しなかった。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0128】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が薄白色の焼結体が得られた。
【0129】
しかしながら、この焼結体の表面の薄白色は、軽く擦った程度では、全く除去することができなかった。また、テスターを用いて、この焼結体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は無限大を示し、測定不可能であった。焼結体の表面は、導電性を有さないことがわかった。
【0130】
(比較例4)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例4では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置200において、アルミナブロック225およびアルミナ板228は使用せず、マイエナイト化合物の成形体を、直接アルミニウム層220の上に設置した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0131】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、焼結体が得られたが、焼結体は、アルミニウム層220中に半分沈んでおり、焼結体の表面には、銀白色の金属アルミニウムの溶融物が固着しており、さらにアルミナと考えられる白色物が強固に固着していた。焼結体は、容易に回収することはできなかった。
【0132】
(比較例5)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例5では、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程で使用される装置200において、アルミナ容器210、アルミニウム層220、アルミナブロック225およびアルミナ板228は使用せず、マイエナイト化合物の成形体を、直接カーボン容器230の上に設置した。さらに焼結させる際の温度を1300℃とし、保持時間を6時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の作製)工程後に、表面が黒色を呈する焼結体が得られた。
【0133】
この焼結体の表面をテスターを用いて電気抵抗を測定したところ、電気抵抗は無限大を示し、測定不可能であった。また、焼結体の表面には粉末状のものはみられず、容易には削れなかった。したがって、焼結体の表面を削って導電性を有することは、容易ではないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、蛍光ランプの電極等の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0135】
200 装置
210 アルミナ容器
220 アルミニウム層
225 アルミナブロック
228 アルミナ板
230 第1のカーボン容器
235 カーボン製の蓋
250 第2のカーボン容器
255 カーボン製の蓋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性マイエナイト化合物を含む部材の製造方法であって、
(1)マイエナイト化合物の粉末を準備する工程と、
(2)前記マイエナイト化合物の粉末を含む被処理体を焼成して、導電性マイエナイト化合物を含む部材を得る工程であって、前記部材の表面に、アルミニウム炭化物を含む層を生成させる工程と、
(3)前記アルミニウム炭化物を含む層を除去する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム炭化物を含む層は、AlまたはAlCを含む層である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(2)の工程は、COガスおよびアルミニウム源を含む環境下で、前記被処理体を、1230℃〜1360℃の温度範囲で、4時間以上保持する工程を有する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記COガスは、カーボンを含む容器から供給される請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(2)の工程は、前記被処理体および前記アルミニウム源を、前記カーボンを含む容器中に入れた状態で行われる請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236749(P2012−236749A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107903(P2011−107903)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】