説明

導電性マスターバッチおよびその製造方法ならびに該導電性マスターバッチを用いて得られる導電性樹脂組成物およびその成形品

【課題】導電性および流動性に優れる導電性マスターバッチを提供すること。また、導電性、耐衝撃性および表面外観に優れた成形品を得ることができる導電性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の導電性マスターバッチは、ポリアミドおよびカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックのBET表面積が900〜1200m2/gであり、前記カーボンブラックの含有量が、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、8〜20質量部であることを特徴とする。また、本発明の導電性樹脂組成物は、前記導電性マスターバッチを用いて得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性マスターバッチおよびその製造方法ならびに該導電性マスターバッチを用いて得られる導電性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、機械的性質、電気的性質および耐熱性が優れており、しかも寸法安定性が優れるため広い範囲で用いられている。しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂単独では成形加工性が劣っている。成形加工性を改良するために、ポリフェニレンエーテル系樹脂にポリアミドを配合する技術が提案されている。そして、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、それ以降も様々な改良が加えられ、現在では非常に多くの用途に用いられる材料となっている。
【0003】
近年、環境意識が高まり、自動車の燃費向上のために、自動車外板材料を樹脂化しようという検討が行われている。
【0004】
特にヨーロッパでは、鋼板と同じ塗装ラインで静電塗装可能な材料へのニーズが高まっており、導電性を付与した材料が要求されている。
【0005】
特許文献1には、ポリフェニレンエーテルとポリアミドのポリマーアロイに導電性を付与するため、カーボンブラックを主にポリアミド相に含有させる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、ポリアミド相に多くのカーボンブラックを配合すると、得られる導電性樹脂混合物の耐衝撃性および流動性が大きく悪化する。
【0007】
静電塗装を必要とする自動車部品や、ICトレー材料などにおいては、導電性だけでなく、耐衝撃性を有する材料が要求されている。
【0008】
導電性だけでなく、耐衝撃性を付与するために、例えば、特許文献2には、ポリフェニレンエーテル、ポリアミドおよび導電用炭素系フィラーを含む物樹脂組成物において、該フィラーをポリフェニレンエーテル相に存在させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−201811号公報
【特許文献2】国際公開第WO01/81473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の技術において、得られる導電性樹脂組成物は、概ね満足できる特性を示すが、しばしば、成形品表面にピッティングと呼ばれる外観不良が生じることがあった。この外観不良は、カーボンブラックの分散不良による凝集塊に起因すると考えられる。結果として成形品塗装後の表面外観の不良や、塗膜の密着不良の懸念があった。
【0011】
このように、従来の技術の導電性樹脂組成物を用いた場合、成形品表面にピッティングと呼ばれる外観不良が生じるという課題があった。
【0012】
また、特許文献1および2に記載の技術に用いられてきたカーボンブラックは、BET表面積の大きいカーボンブラックであった[例えば商品名:ケッチェンブラックEC600JD(ケッチェンブラックインターナショナル社製)]。
【0013】
このようにBET表面積の大きいカーボンブラックを用い、ポリアミドとの導電性マスターバッチを、二軸押出機で生産する場合、導電性マスターバッチ中のカーボンブラック濃度を約12質量%以上へ高濃度化しようとすると、押出機内や押出機ダイヘッド部での樹脂の固化が生じたり、ポリアミドの分解劣化が生じるといった問題点があった。したがって、導電性マスターバッチ中のカーボンブラックの高濃度化は事実上不可能であった。
【0014】
一方、BET表面積の比較的小さいカーボンブラック[例えば商品名:ケッチェンブラックEC300(ケッチェンブラックインターナショナル社製)]を用いた場合には、比較的多量のカーボンブラックを用いないと、自動車外装部品等静電塗装用途に必要な体積固有抵抗値を有する樹脂組成物を得ることができない。比較的多量のカーボンブラックを用いると、得られる樹脂組成物の流動性や耐衝撃性が大きく低下し、実質的に静電塗装を必要とする自動車部品向けの導電性樹脂組成物を得ることはできなかった。
【0015】
本発明は、導電性マスターバッチ中のカーボンブラックの高濃度化を可能とし、導電性および流動性に優れる導電性マスターバッチを提供することを課題とする。また、導電性、耐衝撃性および表面外観に優れた成形品を得ることができる導電性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した。その結果、ポリアミドとともに特定のカーボンブラックを特定量含有させることにより、導電性および流動性に優れた導電性マスターバッチを得ることができることを見出した。また、該導電性マスターバッチを用いることにより、導電性および流動性等の特性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができることを見出した。さらに、該導電性樹脂組成物を用いることにより、導電性だけでなく、表面外観および耐衝撃性に優れる成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、たとえば以下の通りである。
【0018】
[1] ポリアミドおよびカーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックのBET表面積が900〜1200m2/gであり、
前記カーボンブラックの含有量が、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、8〜20質量部であることを特徴とする導電性マスターバッチ。
【0019】
[2] 前記カーボンブラックの含有量が、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、8〜15質量部であることを特徴とする[1]に記載の導電性マスターバッチ。
【0020】
[3] 前記カーボンブラックのpHが6.0以上8.5未満であることを特徴とする[1]または[2]に記載の導電性マスターバッチ。
【0021】
[4] 前記カーボンブラック中の灰分が0.5質量%以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性マスターバッチ。
【0022】
[5] 前記ポリアミドの末端アミノ基濃度が5〜100ミリ当量/kgであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の導電性マスターバッチ。
【0023】
[6] 前記ポリアミドの末端アミノ基濃度が10〜50ミリ当量/kgであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の導電性マスターバッチ。
【0024】
[7] [1]に記載の導電性マスターバッチの製造方法であって、
少なくとも2箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」および「第2原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックおよび第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含むことを特徴とする導電性マスターバッチの製造方法。
【0025】
[8] [1]に記載の導電性マスターバッチの製造方法であって、
少なくとも3箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」、「第2原料供給口」および「第3原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックを供給し溶融混練し、第3原料供給口より第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含むことを特徴とする導電性マスターバッチの製造方法。
【0026】
[9] [1]〜[6]のいずれかに記載の導電性マスターバッチを用いて得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【0027】
[10] [1]〜[6]のいずれかに記載の導電性マスターバッチと、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルとを含有する原料を溶融混練することによって得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【0028】
[11] [7]または[8]に記載の製造方法により得られる導電性マスターバッチと、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルとを含有する原料を溶融混練することによって得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【0029】
[12] 衝撃改良材、相溶化剤および銅化合物からなる群より選択される一種以上を含有することを特徴とする[9]〜[11]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【0030】
[13] [9]〜[12]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、導電性マスターバッチ中のカーボンブラックを高濃度化することができ、導電性および流動性に優れる導電性マスターバッチを得ることができる。また、該導電性マスターバッチを用いることにより、導電性および流動性等の特性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができる。さらに、該導電性樹脂組成物を用いることにより、導電性だけでなく、表面外観および耐衝撃性にも優れる成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0033】
<導電性マスターバッチ>
本実施の形態に係る導電性マスターバッチは、ポリアミドおよび特定のカーボンブラックを特定量含有する。
【0034】
〈カーボンブラック〉
本実施の形態に用いるカーボンブラックについて説明する。
【0035】
本実施の形態に用いるカーボンブラックは、樹脂に導電性能を付与するために添加されるカーボンブラック(以下、「導電用カーボンブラック」とも記す。)である。
【0036】
本実施の形態に用いるカーボンブラックのBET表面積は、900〜1200m2/gであり、1000〜1200m2/gであることがより好ましく、1050〜1200m2/gであることがさらに好ましい。BET表面積が前記範囲内であると、導電性マスターバッチ中の導電用カーボンブラック濃度を高濃度化することができ、導電性および流動性に優れる導電性マスターバッチを得ることができる。また、該導電性マスターバッチから、導電性および流動性等の特性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができる。さらに、該導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品は、導電性に優れるだけでなく、表面外観および耐衝撃性にも優れる。
【0037】
なお、本実施の形態において、カーボンブラックのBET表面積はISO4652に従った測定方法により得られる値である。
【0038】
本実施の形態に用いるカーボンブラックのpH値は、6.0以上9.0以下であることが好ましく、6.0以上8.5未満であることがより好ましく、7.0以上8.5未満であることがさらに好ましい。カーボンブラックのpH値が前記範囲内であると、導電性マスターバッチ中の導電用カーボンブラック濃度を高濃度化できる傾向がある。
【0039】
なお、本実施の形態において、カーボンブラックのpH値はISO787−9に従った測定方法により得られる値である。
【0040】
本実施の形態に用いるカーボンブラックの灰分は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。カーボンブラックの灰分の上限は、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。カーボンブラックの灰分が前記範囲内であると、最終的に得られる成形品の表面外観が向上する傾向がある。
【0041】
なお、本実施の形態において、カーボンブラックの灰分はISO1125に従った測定方法により得られる値である。
【0042】
市販品で入手可能な上記特性を満足する導電用カーボンブラックとしては、エボニック デグサ ジャパン社製のカーボンブラックPRINTEX XE2−B[BET表面積=1000m2/g、pH=7.8、灰分=1.6質量%]およびPRINTEX XE2[BET表面積=910m2/g、pH=8、灰分=0.35質量%]が挙げられる。その他にケッチェンブラックインターナショナル社製のケッチェンブラックEC−600JD[BET表面積=1270m2/g、pH=9、灰分=0.1質量%]およびケッチェンブラックEC[BET表面積=800m2/g]のカーボンブラックなどを用い、2種以上のカーボンブラックと混合割合を適宜調整することにより、BET表面積等の上記特性を満足する導電用カーボンブラックを得ることもできる。
【0043】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチ中のカーボンブラックの含有量は、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計100質量部に対して、8〜20質量部であり、8〜15質量部であることが好ましく、8〜13質量部であることがより好ましい。前記カーボンブラックの含有量が前記下限値未満であると、導電性マスターバッチの導電性が劣り、前記カーボンブラックの含有量が前記上限値を超えると、導電性マスターバッチの高粘度化が生じる。
【0044】
従来技術で主に用いられてきたケッチェンブラックEC600JDを単独で用いた場合、導電性マスターバッチ中のカーボンブラックの含有量は、ポリアミドの分解や導電性マスターバッチの高粘度化が生じるおそれがあるため、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計100質量部に対して、12質量部程度が限度であった。一方、本実施の形態に係る導電性マスターバッチは、特定のカーボンブラックを用いるため、前記範囲のとおりカーボンブラックの含有量を増大させても、ポリアミドの分解や導電性マスターバッチの高粘度化は生じない。さらに、本実施の形態に係る導電性マスターバッチは、導電用カーボンブラックを高濃度に含有することが出来るため、その生産性の向上が可能である。
【0045】
〈ポリアミド〉
本実施の形態に用いるポリアミドとしては、ポリマー主鎖に、アミド結合{−NH−C(=O)−}を有するものであれば、いずれも使用することができる。
【0046】
ポリアミドの製造方法としては、一般的にラクタム類の開環重合、ジアミンおよびジカルボン酸の重縮合、アミノカルボン酸の重縮合などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
ポリアミドの製造に用いるラクタム類の具体例としては、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムが挙げられる。
【0048】
ポリアミドの製造に用いるジアミンとしては大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジアミンが挙げられる。このようなジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンが挙げられる。
【0049】
ポリアミドの製造に用いるジカルボン酸としては、大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジカルボン酸が挙げられる。このようなジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸が挙げられる。
【0050】
ポリアミドの製造に用いるアミノカルボン酸の具体例としては、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸が挙げられる。
【0051】
本実施の形態においては、上述のラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸を、単独あるいは二種以上の混合物にして重縮合を行って得られる共重合ポリアミド類のいずれも使用することができる。
【0052】
また、上述のラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸を、重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合し、押出機等で高分子量化したポリアミドも好適に使用することができる。
【0053】
特に本実施の形態で有用に用いることのできるポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド9T、ポリアミド9T/2Me5T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD,6(MXD:m−キシリレンジアミン)、ポリアミド6/MXD,6、ポリアミド6,6/MXD,6、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,Iが挙げられ、複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も使用することができる。
【0054】
これらのポリアミドは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本実施の形態に用いるポリアミドの好ましい数平均分子量は5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜30,000である。
【0056】
本実施の形態に用いるポリアミドは、数平均分子量の異なる複数のポリアミドの混合物であってもよい。例えば数平均分子量10,000以下の低分子量ポリアミドと、数平均分子量30,000以上の高分子量ポリアミドとの混合物、数平均分子量10,000以下の低分子量ポリアミドと、数平均分子量15,000程度の一般的なポリアミドとの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
なお、本実施の形態において、ポリアミドの数平均分子量は、昭和電工製GPC装置[SYSTEM21]で、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、40℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量とする。
【0058】
また、同種のポリアミドを混合してもよく、異種のポリアミドを混合してもよい。
【0059】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチに用いるポリアミドと、後述する導電性樹脂組成物を得る際に添加するポリアミドとは、同一種のポリアミドでもよいし、異なってもよいが、ポリアミドの末端アミノ基濃度に関しては、好ましい範囲が異なる。
【0060】
ポリアミドの末端基はカーボンブラックの表面官能基と関与すると考えられる。
【0061】
カーボンブラックのpH値がアルカリ性を示す場合はポリアミドのカルボキシル基と関与し、酸性を示す場合はポリアミドのアミノ基と関与すると考えられる。
【0062】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチに用いるポリアミドの末端アミノ基濃度は、5〜100ミリ当量/kgであることがカーボンブラックの高濃度化の観点から好ましく、10〜50ミリ当量/kgであることがより好ましい。
【0063】
なお、本実施の形態において、ポリアミドの末端アミノ基濃度は、1H−NMRにより、末端アミノ基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。当該末端アミノ基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7−228775号公報に記載された方法を用いることができる。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H−NMRの積算回数は、充分な分解能を有する機器で測定した場合でも、少なくとも300スキャンは必要である。
【0064】
また、本実施の形態において、ポリアミドの末端カルボキシル基濃度も上述の末端アミノ基濃度と同様の方法で求めることができる。
【0065】
ポリアミドの末端基の調整方法は、当業者には明らかであるような公知の方法を用いればよい。例えばポリアミドの重合時にジアミン類やジカルボン酸類を添加する方法、モノカルボン酸を添加する方法が挙げられる。
【0066】
本実施の形態に用いるポリアミドは、末端基濃度の異なる複数のポリアミドの混合物であってもよい。
【0067】
本実施の形態に用いるポリアミドは、アミノ基とカルボキシル基との比(アミノ基/カルボキシル基)が、9/1〜1/9であることが好ましく、より好ましくは8/2〜1/9、さらに好ましくは6/4〜1/9である。
【0068】
また、ポリアミドに添加してもよいとされている公知の添加剤等を、ポリアミド100質量部に対して10質量部未満の量で添加しても構わない。
【0069】
<導電性マスターバッチの製造方法>
本実施の形態に係る導電性マスターバッチは、上述したカーボンブラックおよびポリアミドを溶融混練することにより得ることができる。溶融混練温度としては、230〜340℃の範囲内が好ましく、230〜330℃の範囲内がより好ましく、230〜320℃の範囲内がさらに好ましい。
【0070】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチを得るための具体的な加工機械としては、以下に制限されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフおよびバンバリーミキサーが挙げられる。中でも二軸押出機が好ましく、上流側供給口と1箇所以上の下流側供給口とを備えた二軸押出機がより好ましい。
【0071】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチの製造方法は、少なくとも2箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」および「第2原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックおよび第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含むことが好ましい。
【0072】
また、本実施の形態に係る導電性マスターバッチの製造方法は、少なくとも3箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」、「第2原料供給口」および「第3原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックを供給し溶融混練し、第3原料供給口より第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含む製造方法であってもよい。
【0073】
さらに、本実施の形態に係る導電性マスターバッチの製造方法は、少なくとも3箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」、「第2原料供給口」および「第3原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックおよび第2のポリアミドを供給し溶融混練し、第3原料供給口より第3のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含む製造方法であってもよい。
【0074】
またさらに、本実施の形態に係る導電性マスターバッチの製造方法は、少なくとも2箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」、「第2原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドおよびカーボンブラックを供給し溶融させた後、第2原料供給口より第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含む製造方法であってもよい。
【0075】
なお、本実施の形態に係る導電性マスターバッチの製造方法で用いるカーボンブラックおよびポリアミドについては、<導電性マスターバッチ>の段落で説明したものと同様である。
【0076】
<導電性樹脂組成物>
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、上述した導電性マスターバッチを用いて得られる。また、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、上述した導電性マスターバッチと、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルとを含有する原料を溶融混練することによって得られることが好ましい。当該導電性マスターバッチは、上述した導電性マスターバッチの製造方法により得られるものが好ましい。
【0077】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、1.5〜5質量部であることがより好ましく、1.7〜3.5質量部であることがさらに好ましい。カーボンブラックの含有量は、所望の体積固有抵抗率に応じて前記範囲内で調整することができる。本実施の形態に係る導電性樹脂組成物中に含有するカーボンブラックは、通常、上述した導電性マスターバッチ由来の導電用カーボンブラックである。したがって、カーボンブラックの含有量は、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物を得る際の導電性マスターバッチの添加量を適宜調整することによって、前記範囲内に制御することができる。
【0078】
前記カーボンブラックの含有量が前記範囲内であると、得られる導電性樹脂組成物は、導電性だけでなく、流動性に優れる傾向がある。また、該導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品は、導電性に優れるだけでなく、表面外観および耐衝撃性にも優れる傾向がある。このような成形品は、自動車部品用として好ましい。
【0079】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物に用いるポリアミドについては、上述の導電性マスターバッチに用いるポリアミドと同様である。また、導電性樹脂組成物を得る際に添加するポリアミドは、上述の導電性マスターバッチに用いたポリアミドと同一種のポリアミドでもよいし、異なってもよいが、ポリアミドの末端アミノ基濃度に関しては、好ましい範囲が異なる。
【0080】
ポリアミドの末端基は、ポリフェニレンエーテルとの反応に関与する。ポリアミドは末端基として一般にアミノ基、カルボキシル基を有している。ポリアミド/ポリフェニレンエーテル系アロイにおいては、一般的にカルボキシル基濃度がアミノ基濃度を上回ると、耐衝撃性が低下し、流動性が向上し、逆にアミノ基濃度がカルボキシル基濃度を上回ると、耐衝撃性が向上し、流動性が低下する。
【0081】
ポリフェニレンエーテルを含む導電性樹脂組成物を得る際に、添加するポリアミドの末端アミノ基濃度は、少なくとも10ミリ当量/kgであることが好ましく、更に好ましくは30ミリ当量/kg以上である。当該ポリアミドの末端アミノ基濃度の上限は、60ミリ当量/kgである。
【0082】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニルフェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロフェニレンエーテル)、および2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されているような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)といったポリフェニレンエーテル共重合体が挙げられる。
【0083】
これらの中でも、より好ましくは、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、および2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、ならびにこれらの混合物である。
【0084】
これらのポリフェニレンエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
上記した2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合、2,3,6−トリメチルフェノールの量として、好ましくは15〜40モル%の範囲内である。
【0086】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテルの製造方法は、公知の方法であれば特に制限されることはない。例えば、米国特許第3306874号明細書、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報、および特公昭63−152628号公報などに記載の製造方法が挙げられる。
【0087】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテルの還元粘度(0.5g/dLクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定)は、0.35〜0.65dL/gの範囲であることが好ましく、0.40〜0.60dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0088】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテルは、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであってもよい。
【0089】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテルは、全部または一部が変性されたポリフェニレンエーテルであってもよい。前記変性されたポリフェニレンエーテルとは、1種以上の変性化合物により変性されたポリフェニレンエーテルを指す。ここで変性化合物とは、分子構造内に一以上の炭素同士の二重結合および/または三重結合、ならびにカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびグリシジル基からなる群より選択される一以上の基を有する化合物のことをいう。
【0090】
当該変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に制限されないが、たとえば以下の(1)〜(3)のような方法が挙げられる。
(1)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法。
(2)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物とを溶融混練し反応させる方法。
(3)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物とを溶液中で反応させる方法。
【0091】
中でも好ましくは、上記(1)または(2)の方法である。
【0092】
分子構造内に一以上の炭素同士の二重結合および/または三重結合、ならびにカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびグリシジル基からなる群より選択される一以上の基を有する、1種以上の変性化合物が、上記の方法において好適に使用できる。これらの変性化合物について以下具体的に説明する。
【0093】
分子構造内に炭素同士の二重結合と、カルボン酸基または酸無水物基とを同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、およびシス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ならびにこれらの酸無水物が挙げられる。中でも、好ましくは、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸であり、より好ましくはクエン酸、イタコン酸および無水マレイン酸である。また、上記変性化合物として、これら不飽和ジカルボン酸における2個のカルボキシル基のうちの1個または2個がエステルになっているものでもよい。
【0094】
分子構造内に炭素同士の二重結合およびグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、およびエポキシ化天然油脂が挙げられる。中でも、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタアクリレートが好ましい。
【0095】
分子構造内に炭素同士の二重結合および水酸基を同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オール等の一般式Cn2n−3OH、Cn2n−5OH、およびCn2n−7OH(いずれもnは正の整数)で表される不飽和アルコールが挙げられる。
【0096】
上述した変性化合物は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部である。
【0098】
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜1質量部である。
【0099】
また、変性されたポリフェニレンエーテルへの変性化合物の付加率は、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.10〜3質量%である。
【0100】
当該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物および/または変性化合物の重合体が1質量%未満の量であれば残存してもよい。
【0101】
さらに、ポリフェニレンエーテルに添加可能な公知の添加剤なども、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもよい。
【0102】
本実施の形態において、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの質量比は、両者の合計を100質量部としたときに、好ましくはポリアミド40〜90質量部およびポリフェニレンエーテル60〜10質量部である。より好ましくはポリアミド50〜80質量部およびポリフェニレンエーテル50〜20質量部であり、さらに好ましくはポリアミド50〜70質量部およびポリフェニレンエーテル50〜30質量部である。
【0103】
〈その他の含有物〉
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、衝撃改良材、相溶化剤および銅化合物からなる群より選択される一種以上をさらに含有していてもよい。衝撃改良材および/または相溶化剤を含有することがより好ましい。
【0104】
本実施の形態に用いる衝撃改良材は、室温(23℃)において弾性体である、天然および合成の重合体物質であることが好ましい。
【0105】
この重合体物質の具体例としては、天然ゴム、共役ジエン化合物重合体、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加物、ポリオレフィン、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、およびアクリル酸エステル系コアシェル共重合体が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加物、およびポリオレフィンが好ましく、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物、およびエチレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる1種以上が最も好ましい。
【0107】
ここでいう芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックセグメント(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックセグメント(B)とから構成されるブロック共重合体である。芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体としては、各ブロックの結合形式が、AB型、ABA型およびABAB型からなる群から選ばれる1種以上であるブロック共重合体が好ましく、より好ましくは、ABA型、ABAB型である。
【0108】
なお、本実施の形態において、「芳香族ビニル化合物を主体とする」とは、芳香族ビニル化合物を50質量%以上含有することを意味する。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、「共役ジエン化合物を主体とする」に関しても同様で、共役ジエン化合物を50質量%以上含有することを意味する。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0109】
また、ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との重量比(芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物)は、10/90〜90/10であることが好ましく、15/85〜80/20であることがより好ましく、15/85〜65/35であることがさらに好ましく、20/80〜45/55であることが最も好ましい。
【0110】
更に、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との重量比が異なるブロック共重合体を2種以上ブレンドしても構わない。
【0111】
芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
【0112】
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
【0113】
ブロック共重合体の共役ジエン化合物ブロック部分のミクロ構造は、1,2−ビニル含量、または1,2−ビニル含量および3,4−ビニル含量の合計量が、5〜80%であることが好ましく、さらには10〜50%であることが好ましく、15〜40%であることが最も好ましい。
【0114】
また、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体の水素添加物とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を水素添加処理することにより、ジエン化合物を主体とする重合体ブロックセグメントの脂肪族二重結合を、0を越えて100%の範囲で制御したものをいう。該ブロック共重合体の水素添加物の好ましい水素添加率は50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0115】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物の具体例としては、3型高分子量水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(結合形式=3型(ABA型)ブロック[A成分がスチレンブロック,B成分がブタジエンブロック])が挙げられる。
【0116】
また、本実施の形態に用いる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体およびその水素添加物の数平均分子量(Mn)は、10,000〜500,000であることが好ましく、40,000〜250,000であることがより好ましい。なお、当該数平均分子量(Mn)は、昭和電工製GPC装置[SYSTEM21]で、クロロホルムを溶媒とし、40℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)とする。
【0117】
これら芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体は、結合形式の異なるもの、分子量の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−ビニル含量もしくは1,2−ビニル含量および3,4−ビニル含量の合計量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を2種以上混合して用いても構わない。
【0118】
本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィン1種以上との共重合体であることが好ましい。より好ましくはエチレンと炭素数3〜16のα−オレフィン1種以上との共重合体であり、最も好ましくはエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン1種以上との共重合体である。
【0119】
エチレンと共重合できるα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、トリデセン−1、テトラデセン−1、ペンタデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1、オクタデセン−1、ノナデセン−1、エイコセン−1、イソブチレンを挙げることができる。
【0120】
本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体において、好ましいエチレン単位の含有率は、エチレン−α−オレフィン共重合体全量に対し30〜95質量%である。
【0121】
また本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体は、シングルサイト触媒を使用して製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体であることがより好ましい。シングルサイト触媒を使用して製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体は市販されており、公知である。例えば、特公平4−12283号公報、特開昭60−35006号公報、特開昭60−35007号公報、特開昭60−35008号公報、特開平5−155930号公報、特開平3−163088号公報、米国特許第5272236号明細書に記載されている。
【0122】
シングルサイト触媒とは、シクロペンタジエニルあるいは置換シクロペンタジエニルを1〜3分子含有するメタロセン触媒および幾何学的制御による触媒などの活性点の性質が均一である触媒である
本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の重合方法は、前記の公報等に示される気相法あるいは溶液法などが挙げられる。好ましい重合方法は溶液法である。
【0123】
本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量(Mn)は、10,000以上であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、20,000〜60,000であることがさらに好ましい。なお、当該数平均分子量(Mn)は、ウオータース製150c−GPC装置で、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)である。
【0124】
また、本実施の形態に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の、前述のGPCによる測定で求めた分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、3以下であることが好ましく、1.8〜2.7であることがより好ましい。
【0125】
また、本実施の形態に用いる衝撃改良材は、全部または一部が変性された衝撃改良材であっても構わない。
【0126】
変性された衝撃改良材とは、少なくとも1種の変性化合物で変性された衝撃改良材を指す。ここで変性化合物とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または三重結合を有し、かつ少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、またはグリシジル基を有する化合物である。
【0127】
該変性された衝撃改良材の製造方法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下もしくは非存在下、衝撃改良材の軟化点温度以上250℃以下の範囲の温度で、衝撃改良材を変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下もしくは非存在下、衝撃改良材の軟化点以下の温度で、衝撃改良材と変性化合物とを溶液中で反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下もしくは非存在下、衝撃改良材の軟化点以下の温度で、衝撃改良材と変性化合物とを溶融させることなく反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)の方法が好ましく、更には(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法が最も好ましい。
【0128】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または三重結合を有し、かつ少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、またはグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物とは、上述した変性されたポリフェニレンエーテルにおける変性化合物と同じである。
【0129】
また、本実施の形態に用いる衝撃改良材中には、パラフィンを主成分とするオイルをあらかじめ混合したものを用いても構わない。
【0130】
この際の好ましいパラフィンを主成分とするオイルの量は衝撃改良材100重量部に対して、70重量部以下である。
【0131】
ここでいうパラフィンを主成分とするオイルとは、芳香環含有化合物、ナフテン環含有化合物、およびパラフィン系化合物の三者が組み合わさった重量平均分子量500〜10000の範囲の炭化水素系化合物の混合物であり、パラフィン系化合物の含有量が50質量%以上のものである。
【0132】
より好ましくは、パラフィン系化合物が50〜90質量%,ナフテン環含有化合物が10〜40質量%、芳香環含有化合物が5質量%以下のものである。
【0133】
これら、パラフィンを主成分とするオイルは市販されており、例えば出光興産(株)製のPW380等が挙げられる。
【0134】
衝撃改良材への上記オイルの混合方法としては、ペレット状またはパウダー状の衝撃改良材に所望量のパラフィン系オイルを均一になるように添加し放置する方法、押出機の途中から所望量のパラフィン系オイルを添加し衝撃改良材と溶融混練する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0135】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物において、衝撃改良材の含有量は、1.0〜40質量%であることが好ましく、3.0〜30質量%であることがより好ましく、3.0〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0136】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの相溶性を向上させる観点から、相溶化剤をさらに含むことが好ましい。相溶化剤を使用する主な目的は、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの混合物の物理的性質を改良することである。
【0137】
相溶化剤とは、ポリフェニレンエーテルおよび/またはポリアミドと相互作用する多官能性の化合物を意味する。かかる相互作用は、化学的(例えばグラフト化)であってもよく、物理的(例えば、分散相の表面特性の変化)であってもよい。いずれにしても、相溶化剤を添加すると、得られるポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの混合物の相溶性は向上する。
【0138】
相溶化剤の例としては、特開平8−8869号公報および特開平9−124926号公報などに記載されているものが挙げられ、これら公知の相溶化剤はすべて使用可能であり、さらに2種以上の併用も可能である。
【0139】
上記した種々の相溶化剤の中でも、好ましくは、クエン酸、マレイン酸およびイタコン酸ならびにそれらの無水物からなる群より選択される一以上である。中でも、無水マレイン酸および/またはクエン酸がより好ましい。
【0140】
相溶化剤の量は、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの混合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.10〜5質量部、さらに好ましくは0.10〜2質量部である。
【0141】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、銅化合物をさらに含有していてもよい。銅化合物の具体例としては、ヨウ化銅、酢酸銅が挙げられる。
【0142】
当該銅化合物は、導電性樹脂組成物の製造時に含有させてもよいし、導電性マスターバッチの製造時に含有させてもよい。
【0143】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物において、銅化合物の含有量は、銅原子換算で、1〜250ppmであることが好ましく、3〜200ppmであることがより好ましく、5〜150ppmであることがさらに好ましい。
【0144】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、無機フィラーをさらに含むことも好ましい。無機フィラーの具体例としては、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、ボロンウィスカ繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ウォラストナイト、ゾノトライト、アパタイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、酸化チタンおよび着色用カーボンブラック(ただし、導電用カーボンブラックを除く)といった、繊維状、粒状、板状および針状の無機質強化材が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは、タルク、ウォラストナイトおよびガラス繊維である。これらの無機フィラーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、無機フィラーはシランカップリング剤などの表面処理剤を用いて公知の方法により表面処理したものを使用してもよい。
【0145】
無機フィラーの量は、導電性樹脂組成物を100質量%としたとき、好ましくは0〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0146】
さらに、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、上述した導電用カーボンブラックの他に種々の導電用フィラーを含んでいてもよい。前記導電用フィラーの例として、以下に制限されないが、例えば、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)、グラファイトおよび炭素繊維が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。中でも好ましくは、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)である。
【0147】
また、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、難燃剤をさらに含んでもよい。かかる難燃剤としては、以下に制限されないが、例えば、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等に代表される公知の無機難燃剤;トリフェニルフォスフェートや水酸化トリフェニルフォスフェートやビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等に代表される有機リン酸エステル類;特開平11−181429号公報に記載されているようなホスファゼン系化合物;シリコーンオイル類;赤燐;臭素化ポリスチレン等の臭素系難燃剤;三酸化アンチモン等のアンチモン化合物;ジエチルホスフィン酸アルミニウム等のホスフィン酸金属塩;その他公知の難燃剤が挙げられる。
【0148】
また、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、滴下防止剤を2質量%未満の量でさらに含んでいてもよい。滴下防止剤としては、テトラフルオロエチレン等に代表されるフッ素系ポリマーが挙げられる。
【0149】
また、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、公知の有機安定剤または無機安定剤を含んでいてもよい。かかる有機安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、イルガノックス1098(チバスペシャリティーケミカルズ製)等に代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤、イルガフォス168(チバスペシャリティーケミカルズ製)等に代表されるリン系加工熱安定剤、HP−136(チバスペシャリティーケミカルズ製)に代表されるラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤、およびヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはリン系加工熱安定剤がより好ましい。
【0150】
上記の無機安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、酸化亜鉛や硫化亜鉛などの金属系安定剤が挙げられる。
【0151】
上記の有機安定剤または無機安定剤の配合量は、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部であり、より好ましくは0.010〜3質量部である。
【0152】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、上記した成分以外であっても、本実施の形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じて付加的成分を含有してもよい。
【0153】
かかる付加的成分としては、以下に制限されないが、例えば、ポリエステルおよびポリオレフィン等の他の熱可塑性樹脂、可塑剤(低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコールおよび脂肪酸エステル類など)、帯電防止剤、核剤、流動性改良剤(例えばステアリン酸金属塩として、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムおよびステアリン酸リチウム)、充填剤、補強剤、各種の過酸化物、展着剤、銅系熱安定剤、ヒンダードフェノール系酸化劣化防止剤に代表される有機系熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ならびに光安定剤が挙げられる。
【0154】
これらの各々の付加的成分の含有量は、導電性樹脂組成物100質量%中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0155】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物は、上述した導電性マスターバッチを用いて得ることができ、たとえば、上述した導電性マスターバッチ、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテル、さらに必要に応じてその他の原料成分を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練温度としては、260〜340℃の範囲内が好ましく、260〜330℃の範囲内がより好ましく、260〜320℃の範囲内がさらに好ましい。
【0156】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物を得るための具体的な加工機械としては、以下に制限されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフおよびバンバリーミキサーが挙げられる。中でも二軸押出機が好ましく、上流側供給口と1箇所以上の下流側供給口とを備えた二軸押出機がより好ましい。
【0157】
本実施の形態に係る導電性樹脂組成物の製造方法は、少なくとも2箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」および「第2原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口よりポリフェニレンエーテル、衝撃改良材および相溶化剤を供給し溶融させた後、第2原料供給口より導電性マスターバッチおよびポリアミドを供給し溶融混練する工程を含む製造方法であることが好ましい。
【0158】
なお、本実施の形態に係る導電性樹脂組成物の製造方法で用いるポリアミド、ポリフェニレンエーテル、衝撃改良材および相溶化剤については、<導電性樹脂組成物>の段落で説明したものと同様である。
【0159】
<成形品>
本実施の形態に係る成形品は、上述した導電性樹脂組成物を用いて得られる。
【0160】
本実施の形態に係る成形品は、上述した導電性樹脂組成物を、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形および流延成形などの、一般に熱可塑性樹脂組成物に対する成形方法を用いて各種形状に成形することにより、製造することができる。例えば、上述した導電性樹脂組成物を、シリンダ温度がポリアミドの融点以上340℃以下の範囲内に調整された射出成形機のシリンダ内で溶融させ、所定の形状の金型内に射出することによって、所定の形状の成形品を製造することができる。また、シリンダ温度が上記の範囲内に調整された押出機内で導電性樹脂組成物を溶融させ、口金ノズルより紡出することによって、繊維状の成形品を製造することができる。さらに、シリンダ温度が上記の範囲内に調整された押出機内で導電性樹脂組成物を溶融させ、Tダイから押し出すことにより、フィルム状やシート状の成形品を製造することができる。また、このような方法で製造された成形品の表面に、塗料、金属や他種のポリマー等からなる被覆層を形成してもよい。
【0161】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチはカーボンブックの高濃度化が可能である。そして、該導電性マスターバッチを用いて得られる導電性樹脂組成物は、流動性に優れ、成形加工し易い。また、該導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品は、導電性に優れるだけでなく、成形品表面にピッティングが生じ難いため、表面外観に優れ、またピッティングに起因する塗膜密着不良の懸念が小さい。さらには、耐衝撃性にも優れる。
【0162】
よって、本実施の形態に係る成形品は、静電塗装可能な自動車部品、例えばフェンダー、ボンネットフード、燃料リッド(燃料口部の蓋)などとして使用することができる。また、本実施の形態に係る成形品は、ICトレー用材料としても使用可能である。
【実施例】
【0163】
以下、本実施の形態を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0164】
なお、実施例における分析方法および評価方法は以下のとおりとした。各結果については、表1〜4に示した。
【0165】
[分析方法]
<BET表面積>
カーボンブラックのBET表面積はISO4652に従って測定した。
【0166】
<pH値>
カーボンブラックのpH値はISO787−9に従って測定した。
【0167】
<灰分>
カーボンブラックの灰分はISO1125に従って測定した。
【0168】
<数平均分子量>
ポリアミドの数平均分子量は、昭和電工製GPC装置[SYSTEM21]で、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、40℃、ポリスチレンスタンダードで測定した。
【0169】
<末端アミノ基濃度>
ポリアミドの末端アミノ基濃度は、1H−NMRにより、末端アミノ基に対応する特性シグナルの積分値から求めた。具体的には、特開平7−228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒を重トリフルオロ酢酸とし、1H−NMRの積算回数を300スキャン以上とした。
【0170】
<末端カルボキシル基濃度>
ポリアミドの末端カルボキシル基濃度は、1H−NMRにより、末端カルボキシル基に対応する特性シグナルの積分値から求めた。具体的には、特開平7−228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒を重トリフルオロ酢酸とし、1H−NMRの積算回数を300スキャン以上とした。
【0171】
[評価方法]
<成形品の表面外観>
〈導電マスターバッチ〉
得られた導電性マスターバッチのペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)で成形することにより成形品(平板試験片)を作成した。
【0172】
なお、射出成形機のシリンダー温度を300℃、金型温度を100℃に設定し、ピンゲート径2mmφ、厚み2mm、長さ150mm、幅150mmの金型を用いた。射出成形時の充填時間は、1.0秒となるよう射出速度を調整した。
【0173】
得られた成形品(平板試験片)10枚の両面、合計20面を観察し、ピッティング(カーボンブラックの分散不良に起因する、成形品表面の凹状不良)の個数をカウントした。ピッティングの個数が少ないほど表面外観に優れる。
【0174】
〈導電性樹脂組成物〉
導電性マスターバッチの場合と同様にして、得られた導電性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)で成形することにより成形品(平板試験片)を作成し、得られた成形品(平板試験片)10枚の両面、合計20面を観察し、ピッティング(カーボンブラックの分散不良に起因する、成形品表面の凹状不良)の個数をカウントした。ピッティングの個数が少ないほど表面外観に優れる。
【0175】
<流動性>
得られた導電性樹脂組成物のペレットのメルトボリュームレート(MVR)を、ISO1133に準拠し、280℃、荷重0.49MPaの条件で測定した。メルトボリュームレート(MVR)の値が高いほど、流動性に優れる。
【0176】
<耐衝撃性>
得られた導電性樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)で成形することにより成形品(厚み4.0mmのISO汎用試験片)を作成した。なお、射出成形機のシリンダー温度を300℃、金型温度を90℃に設定した。
【0177】
得られた成形品を用いて、ノッチ付きシャルピー衝撃試験をISO179/1eAに従って行い、シャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度の値が高いほど、耐衝撃性に優れる。
【0178】
<体積固有抵抗>
〈導電マスターバッチ〉
導電マスターバッチの体積固有抵抗を以下のように測定した。
【0179】
まず、導電性マスターバッチを製造する際の溶融混練時に押出機から排出される樹脂ストランドを採取し、該ストランドに、70mmの長さに約0.3mmの深さでノッチを入れ凍結破断した。
【0180】
得られたストランド片の長さ、直径を正確に測定し、ストランド片の両端の破断面に銀ペーストを塗布し、充分乾燥させた後、両端間の抵抗値をテスターで測定した。
【0181】
得られたストランド片の体積固有抵抗を下記式(a)から計算した。
【0182】
式(a) VR=R・S/l
ここで、VRは体積固有抵抗(Ω・cm)、Rはテスターで測定した抵抗値(Ω)、Sは銀ペーストを塗布した部分の断面積(cm2)、lは銀ペースト塗布面間の距離(cm)である。
【0183】
ストランド片10本について体積固有抵抗の測定を行い、該測定の平均値を導電マスターバッチの体積固有抵抗値とした。
【0184】
〈導電性樹脂組成物〉
得られた導電性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)で成形することにより成形品(厚さ3.2mm、幅12.7mm、長さ127mmの試験片)を作成した。なお、射出成形機のシリンダー温度を300℃、金型温度を100℃に設定した。
【0185】
得られた成形品(試験片)中央部に、長さ50mmで約0.5mmの深さでノッチを入れ凍結破断し両端に均一な断面積(12.7×3.2mm)の切断面を持つ、短冊状試験片を得た。この短冊状試験片の両端の切断面に銀ペーストを塗布し、充分乾燥させた後、両端間の抵抗値をテスターで測定した。
【0186】
得られた成形品(短冊状試験片)の体積固有抵抗を上記式(a)から計算した。
【0187】
成形品(短冊状試験片)10本について体積固有抵抗の測定を行い、体積固有抵抗値の概数を算出した。
【0188】
導電性樹脂組成物の静電塗装可能な体積固有抵抗値は、106Ω・cm以下である。
【0189】
[原材料]
(1)カーボンブラック
(1−1)カーボンブラック[エボニック・デグサ・ジャパン社製、商品名:PRINTEX XE2B](以下CB−1と略記)
BET表面積=1,000m2/g
pH=7.8
灰分=1.6質量%
(1−2)カーボンブラック[エボニック・デグサ・ジャパン社製、商品名:PRINTEX XE2](以下CB−2と略記)
BET表面積=900m2/g
pH=8.0
灰分=0.35質量%
(1−3)カーボンブラック[ケッチェンブラック インターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラック EC−600JD](以下CB−3と略記)
BET表面積=1,270m2/g
pH=9.0
灰分=0.1質量%
(1−4)カーボンブラック[ケッチェンブラック インターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラック EC−300J](以下CB−4と略記)
BET表面積=800m2/g
pH=9.0
灰分=0.05質量%
(2)ポリアミド
(2−1)ポリアミド6,6樹脂(以下PA66−1と略記)
数平均分子量=16,000
末端アミノ基濃度=45ミリ当量/kg
末端カルボキシル基濃度=80ミリ当量/kg
微量成分として銅系熱安定剤を100ppmとスリップ剤(ステアリン酸金属塩)を800ppm含む。
【0190】
(2−2)ポリアミド6,6樹脂(以下PA66−2と略記)
数平均分子量=14,000
末端アミノ基濃度=25ミリ当量/kg
末端カルボキシル基濃度=90ミリ当量/kg
微量成分として銅系熱安定剤を100ppmとスリップ剤(ステアリン酸金属塩)を800ppm含む。
【0191】
(2−3)ポリアミド6,6樹脂)(以下PA66−3と略記)
数平均分子量=14,000
末端アミノ基濃度=55ミリ当量/kg
末端カルボキシル基濃度=95ミリ当量/kg
微量成分として銅系熱安定剤を100ppmとスリップ剤(ステアリン酸金属塩)を800ppm含む。
【0192】
(2−4)ポリアミド6樹脂(以下PA6−1と略記)
硫酸相対粘度(ポリマー1g/98%硫酸100ml、25℃)=2.6
末端アミノ基濃度=45ミリ当量/kg、
末端カルボキシル基濃度=65ミリ当量/kg
(3)ポリフェニレンエーテル
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(以下PPEと略記)
還元粘度(0.5g/dlクロロホルム溶液、30℃測定)=0.52dl/g
(4)衝撃改良材
3型高分子量水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(以下HTRと略記)
結合形式=3型(ABA型)ブロック
[A成分がスチレンブロック,B成分がブタジエンブロック]
スチレン含有量=33質量%
ビニル含量の合計量=33質量%
数平均分子量=150,000
(5)相溶化剤
無水マレイン酸[日本油脂(株)製](MAHと略記)
[実施例1〜14および比較例1〜6]
<導電性マスターバッチの製造>
上流側に1ヶ所(TOP−Fと略記)と、押出機中央部に1ヶ所(Side−F1と略記)、下流部に1ヶ所(Side−F2と略記)の供給口を有する二軸押出機[ZSK−40MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、表1および表2に示したとおり、各供給口から各原料成分を供給し、溶融混練することにより、導電性マスターバッチのペレットを製造した。
【0193】
なお、二軸押出機のシリンダー温度は、270〜280℃に設定した。このときのスクリュー回転数は400回転/分であり、また、揮発成分除去のため、Side−F2とダイとの間に真空ベントを取り付け、真空吸引を行った。
【0194】
得られた導電性マスターバッチのペレットを用いて、上記評価方法にしたがって各種の評価を実施した。得られた結果を表1および表2に示す。
【0195】
[実施例15〜28および比較例7〜10]
<導電性樹脂組成物の製造>
上流側に1ヶ所(TOP−Fと略記)と、押出機中央部に1ヶ所(Side−F1と略記)、下流部に1ヶ所(Side−F2と略記)の供給口を有する二軸押出機[ZSK−40MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、表3および表4に示したとおり、各供給口から各原料成分を供給し、溶融混練することにより、導電性樹脂組成物のペレットを製造した。
【0196】
なお、二軸押出機のシリンダー温度は、280〜315℃に設定した。このときのスクリュー回転数は400回転/分であり、また、揮発成分除去のため、TOP−FとSide−F1との間、およびSide−F2とダイとの間に真空ベントを取り付け、真空吸引を行った。
【0197】
得られた導電性樹脂組成物のペレットを用いて、上記評価方法にしたがって各種の評価を実施した。得られた結果を表3および表4に示す。
【0198】
【表1】

【0199】
【表2】

実施例1〜14は問題なく導電性マスターバッチの製造が可能であった。
【0200】
実施例13がカーボンブラック20質量部であるにもかかわらず、問題なく製造可能であったのに対し、カーボンブラックを22質量部とした比較例5は押出機のダイス部で導電性マスターバッチが固化し製造出来なかった。
【0201】
CB−1を使用した実施例11〜13をみると、カーボンブラックの含有量を20質量部まで増大させても製造可能であったのに対し、BET表面積が大きいCB−3を用いた比較例6では、カーボンブラックの含有量を12.5質量部とした場合、押出機のダイス部で導電性マスターバッチが固化し製造出来なかった。
【0202】
BET表面積が1200m2/以下のカーボンブラックを用いた場合、成形品の表面に現れるピッティングが抑制され、表面外観が優れることがわかった。また、BET表面積が900m2/g以上のカーボンブラックを用いると体積固有抵抗に優れる導電性マスターバッチが得られることがわかった。
【0203】
カーボンブラックの含有量を7質量部とした比較例4では、当然ながら導電性に劣るマスターバッチしか得られなかった。
【0204】
【表3】

【0205】
【表4】

実施例15〜21と比較例7とを対比すると、BET表面積が1200m2/g以下のカーボンブラックを含有する導電性マスターバッチを用いることにより、得られた成形品の表面に現れるピッティングが抑制されていることがわかった。
【0206】
また、実施例15〜21と比較例8および9とを対比すると、BET表面積が900m2/g以上のカーボンブラックを含有する導電性マスターバッチを用いることにより、体積固有抵抗が静電塗装に必要な106Ω・cm以下に安定してなることがわかった。
【0207】
カーボンブラック含有量が7質量部と低い導電性マスターバッチを用いた比較例10と実施例17を対比すると、耐衝撃性が著しく低いものしか得られないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本実施の形態に係る導電性マスターバッチは、特定のカーボンブラックを特定量含有することにより、導電性および流動性に優れた導電性樹脂組成物を提供することができる。また、該導電性樹脂組成物を用いることにより、導電性だけでなく、耐衝撃性や表面外観に優れた成形品を得ることができる。したがって、該成形品は、静電塗装可能な自動車部品、ICトレーをはじめ、導電性を必要とする自動車用部品、電気・電子部品、産業資材、工業材料、家庭用品などの用途に、好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドおよびカーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックのBET表面積が900〜1200m2/gであり、
前記カーボンブラックの含有量が、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、8〜20質量部であることを特徴とする導電性マスターバッチ。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量が、ポリアミドおよびカーボンブラックの合計含有量100質量部に対して、8〜15質量部であることを特徴とする請求項1に記載の導電性マスターバッチ。
【請求項3】
前記カーボンブラックのpHが6.0以上8.5未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性マスターバッチ。
【請求項4】
前記カーボンブラック中の灰分が0.5質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性マスターバッチ。
【請求項5】
前記ポリアミドの末端アミノ基濃度が5〜100ミリ当量/kgであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性マスターバッチ。
【請求項6】
前記ポリアミドの末端アミノ基濃度が10〜50ミリ当量/kgであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性マスターバッチ。
【請求項7】
請求項1に記載の導電性マスターバッチの製造方法であって、
少なくとも2箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」および「第2原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックおよび第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含むことを特徴とする導電性マスターバッチの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の導電性マスターバッチの製造方法であって、
少なくとも3箇所に供給口(上流側から下流側に向かって、順に「第1原料供給口」、「第2原料供給口」および「第3原料供給口」とする。)を備えた二軸押出機を用いて、第1原料供給口より第1のポリアミドを供給し溶融させた後、第2原料供給口よりカーボンブラックを供給し溶融混練し、第3原料供給口より第2のポリアミドを供給し溶融混練する工程を含むことを特徴とする導電性マスターバッチの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性マスターバッチを用いて得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性マスターバッチと、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルとを含有する原料を溶融混練することによって得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7または8に記載の製造方法により得られる導電性マスターバッチと、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルとを含有する原料を溶融混練することによって得られることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項12】
衝撃改良材、相溶化剤および銅化合物からなる群より選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項に記載の導電性樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−162752(P2011−162752A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30650(P2010−30650)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】