説明

導電性ローラ

【課題】熱可塑性エラストマ組成物の押出速度を低下させたり、押出温度を上昇させたりすることなしに、全体が単一の前記熱可塑性エラストマ組成物からなり、しかもその外周面に、押出成形によって、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸形状が形成された導電性ローラを提供する。
【解決手段】
ゴム分を混合樹脂中で動的架橋させたエラストマ組成物と、イオン導電性導電剤と、前記両者の相溶化剤とを含み、かつ前記ゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合した熱可塑性エラストマ組成物を、口金の内周面に複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形して製造され、外周面6に前記凹部および凸部に対応する複数の凸条7と凹溝8とが周方向に交互に設けられた導電性ローラ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーザープリンタ等の電子写真装置において、感光体もしくは像担持体の表面に形成されたトナー像を紙の表面に転写するための転写ローラ等として用いることができる導電性ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、あるいはこれらの複合機等の電子写真装置においては、感光体の表面を一様に帯電させた状態で露光して、前記表面に形成画像に対応する静電潜像を形成し(帯電工程→露光工程)、前記静電潜像を、あらかじめ帯電させたトナーを選択的に付着させることでトナー像に現像したのち(現像工程)、前記トナー像を紙(プラスチックフィルム等を含む、以下同様)の表面に転写し(転写工程)、さらに定着させることにより(定着工程)、前記紙の表面に画像が形成される。
【0003】
また、例えばフルカラー対応の電子写真装置では、前記転写工程において、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各色用の感光体の表面に色分解して形成した各色のトナー像を順次、紙の表面に重ねるように転写してフルカラー画像を形成したり、前記各色のトナー像を一旦、像担持体の表面に重ねるように転写してフルカラーのトナー像を形成したのち、前記トナー像を紙の表面に転写してフルカラー画像を形成したりしている。
【0004】
前記各工程のうち帯電工程、現像工程のうちトナーの帯電過程、および静電潜像への付着過程、転写工程、さらにはトナー像を紙の表面に転写後、感光体や像担持体の表面に残留したトナーを除去するクリーニング工程等において、導電性ないし半導電性を有するローラ(以下「導電性ローラ」と総称する場合がある)が広く用いられている。
例えば前記感光体または像担持体と、転写ローラとしての導電性ローラとの間に所定の電圧を印加した状態で両者間に紙を通紙させることにより、前記感光体または像担持体の表面に形成されたトナー像を、転写ローラとの間の静電気力によって紙の表面に転写させることができる。
【0005】
前記導電性ローラとして、従来は、架橋(加硫)されたゴムの多孔質体からなり、前記ゴム中に導電性カーボン等の電子導電性を有する充填剤を配合したり、ゴムそれ自体としてイオン導電性を有するゴムを用いたりして導電性を付与したもの等が用いられてきた。
しかし、架橋されたゴムからなる導電性ローラはリサイクルできる用途が限られている。例えば粉砕して、樹脂やゴム等の充填剤、増量剤等として使用する以外に適当な用途が見出せない。そのため近時、加熱により再溶融させて任意の形状に成形することが可能であるため、前記架橋ゴムのようにリサイクルできる用途が限られない熱可塑性エラストマ組成物を用いて導電性ローラを形成することが検討されている。
【0006】
例えば特許文献1〜3では、いずれも熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマ中でゴムを動的架橋させたエラストマ組成物にイオン導電性導電剤を加えてイオン導電性を付与した熱可塑性エラストマ組成物を用いて導電性ローラを形成している。詳しくは、前記熱可塑性エラストマ組成物を押出成形して得た筒状体を所定の長さにカットして金属製のシャフトを挿入するとともに、外周面を研磨して導電性ローラを構成している。
【0007】
導電性ローラを、例えば電子写真装置の転写ローラ等、紙と直接に接触する部位のローラとして画像形成に繰り返し使用し続けると、画像形成枚数が増加するにつれて、紙に含まれる増量剤、充填剤等が、いわゆる紙粉として紙から離脱して前記導電性ローラの外周面に付着し、前記外周面に徐々に蓄積してゆく傾向がある。
従来の、架橋されたゴムの多孔質体からなる転写ローラの場合、前記紙粉の多くは、外周面に露出した開口を通して多孔質体の内部に取り込まれるため、紙粉が多少蓄積しても直ちに形成画像等に影響を及ぼすことは殆どない。
【0008】
しかし、前記熱可塑性エラストマ組成物を押出成形した導電性ローラは非多孔質体であって、その外周面は、前記多孔質体からなるものとは違って平滑であるため、紙粉が少しでも蓄積されると、蓄積された紙粉が前記外周面から感光体や像担持体等の表面に再付着したりしやすい。しかも紙粉は不定形でトナーに比べて粒径が著しく大きい上、多くの場合はトナーとは異なる帯電特性を有するため、前記再付着が発生すると、形成画像に紙粉による黒点や白抜けといった画像不良が生じやすい。
【0009】
特許文献4には、導電性のシャフトの外周に、導電性のベース層を介して、熱可塑性樹脂からなる導電性層を設けた導電性ローラを製造するに際し、前記導電層を、口金の内周面に複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形することにより、前記導電層の外周面を、前記凹部および凸部に対応する複数の凸条と凹溝とが周方向に交互に設けられた形状に形成することが記載されている。
【0010】
特許文献4において製造される導電性ローラは、主に帯電工程において感光体の表面を帯電させる帯電ローラとして用いられるものであり、その外周面を凹凸形状としているのは、接触帯電法によって感光体の表面を一様に帯電させる際に帯電音が発生したり、トナーの融着特性が悪化したりするのを防止するためである。しかし前記凹溝内に紙粉を取り込むことができるため、前記導電性ローラを転写ローラ等として用いた場合には、蓄積した紙粉の再付着による画像不良の発生を抑制できると考えられる。
【0011】
そこで前記凹凸形状を、先に説明した熱可塑性エラストマ組成物からなる導電性ローラに適用することが考えられる。しかし前記熱可塑性エラストマ組成物は、特許文献4に記載された熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂の中には、単体としての熱可塑性エラストマも含まれるが、前記熱可塑性エラストマ組成物は含まれていない)に比べて、押出成形時にダイの口金との間の摩擦が大きいため、特に凸条の部分が口金からスムースに押し出されずに、導電性ローラの外周面から剥離するといった問題を生じやすく、前記外周面に所定の良好な凹凸形状を有する導電性ローラを形成できないという問題がある。
【0012】
押出速度を低下させたり、押出温度を高めて熱可塑性エラストマ組成物の流動性を向上させたりするといった対策が考えられる。しかし前者の場合、凸条の剥離等を防止するためには押出速度を大幅に低下させなければならず、その場合には導電性ローラの生産性が著しく低下するという問題がある。
また後者の場合、凸条の剥離等を防止するためには押出温度を大幅に上昇させなければならず、その場合には熱可塑性エラストマ組成物を構成する各成分が劣化して、導電性ローラの柔軟性や耐摩耗性、耐久性等が大幅に低下するという問題がある。
【0013】
そのため特許文献4記載の発明では、導電性ローラを、先に説明したようにベース層と導電性層の積層構造とし、ベース層は発泡または非発泡の導電性ゴム、もしくは導電性ポリウレタンフォームで形成して良好な柔軟性を確保するとともに、導電性層はベース層ほど柔軟ではないものの押出成形しやすく、前記押出成形によって所定の良好な凹凸形状を形成するのが容易な前記熱可塑性樹脂によって形成している。
【0014】
ところが、かかる積層構造とした場合には製造工程が増加する分、導電性ローラの生産性が低下する上、ベース層と導電性層の物性や厚みの調整が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−51829号公報
【特許文献2】特開2004−269854号公報
【特許文献3】特開2008−45031号公報
【特許文献4】特開平8−74835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、熱可塑性エラストマ組成物の押出速度を低下させたり、押出温度を上昇させたりすることなしに、全体が単一の前記熱可塑性エラストマ組成物からなり、しかもその外周面に、押出成形によって、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸形状が形成された導電性ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、熱可塑性エラストマ組成物を、口金の内周面に複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形して製造され、外周面に前記凹部および凸部に対応する複数の凸条と凹溝とが周方向に交互に設けられた導電性ローラであって、
前記熱可塑性エラストマ組成物は、
(1) ジエン系ゴム、およびエチレン・プロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、パラフィン系オイルとを、スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンの混合樹脂中に分散させたエラストマ組成物、
(2) フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩、
(3) エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、
(4) エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種、および
(5) 前記ゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン
を含み、
前記凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上で、かつ隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、導電性ローラを形成する熱可塑性エラストマ組成物に前記所定の割合で配合したアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが、押出成形時に、前記熱可塑性エラストマ組成物の溶融張力を高めるとともに、ダイの口金との間の摩擦を低下させるために機能する。
そのため、押出速度を低下させたり押出温度を上昇させたりすることなしに、全体が単一の熱可塑性エラストマ組成物からなり、外周面に、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸が形成された導電性ローラを、押出成形によって製造することが可能となる。
【0019】
なお通常の押出成形において、溶融樹脂とダイの口金との間の摩擦を低下させるために機能する成分としては、非変性の通常のポリテトラフルオロエチレンがよく知られている。
しかし、かかる非変性のポリテトラフルオロエチレンは、熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマ中でゴムを動的架橋させたエラストマ組成物を主体とする熱可塑性エラストマ組成物を用いて、押出成形により、外周面に前記範囲内の微細な凹凸が形成された導電性ローラを製造する際には、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンと同等の効果を得ることはできない。
【0020】
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが前記の特異的な効果を発揮するのは、前記(1)〜(5)の成分を配合し、加熱下で混練して熱可塑性エラストマ組成物を調整する際のせん断力によって前記アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンがフィブリル化して、前記熱可塑性エラストマ組成物中で微細な繊維状のネットワークを構成するため、非変性のポリテトラフルオロエチレンに比べて溶融張力を高める働きに優れるとともに、かかる機能と、ポリテトラフルオロエチレンが本来的に持つ、ダイの口金との間の摩擦を低減させる働きとの相乗効果によって、押出成形時に凸条の剥離等をより確実に防止できるためと考えられる。
【0021】
本発明において、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの配合割合がゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下に限定されるのは次の理由による。
すなわち配合割合が前記範囲未満では、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合したことによる先に説明した効果が得られず、押出成形によって、外周面に凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸を形成することができない。
【0022】
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、導電性ローラの柔軟性が低下し、硬度が高くなって紙に対する摩擦係数が低下する結果、例えば転写ローラ等として使用した際に紙送りの不良等を生じるおそれがある。
また本発明において、導電性ローラの外周面の凹凸形状のうち凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上に限定されるのは次の理由による。
【0023】
すなわち高低差が前記範囲未満では、前記凹溝内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、前記凹凸形状を設けることによる、先に説明した、紙粉の再付着と、それに伴う画像不良の発生を抑制する効果が得られない。
また、隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下に限定されるのは次の理由による。
【0024】
例えば本発明の導電性ローラを転写ローラとして使用する際、感光体または像担持体との間に電圧を印加して生じる静電気力には、前記凹凸形状に基づく強弱の差が生じる。すなわち感光体または像担持体と紙を挟んで接する凸条の部分では静電気力が強くなり、前記感光体または像担持体と離れた凹溝の部分では静電気力が弱くなる。
前記ピッチが800μm以下であれば、隣り合う凸条における強い静電気力の重なりによって凹溝での静電気力を補って、前記静電気力の強弱の差を小さくできるため、形成画像には殆ど影響を生じない。
【0025】
しかしピッチが前記範囲を超える場合には、凹凸形状に基づく静電気力の強弱の差が大きくなって、感光体または像担持体から紙の表面に転写されるトナー像に、目で見て判る濃度ムラを生じてしまう場合がある。
凸条および凹溝は、導電性ローラの外周面に螺線状に形成してもよいが、軸方向に平行に設けるのが好ましい。
【0026】
凸条および凹溝を螺線状に設けた場合には、たとえ隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが前記範囲内であっても、静電気力の強弱の差に基づく濃度ムラが、形成画像の種類によっては目立ってしまう場合がある。これに対し、凸条および凹溝を軸方向に平行に設けた場合には、前記濃度ムラをより一層、目立たなくすることができる。
熱可塑性エラストマ組成物のもとになる(1)のエラストマ組成物は、未架橋のゴム分とパラフィン系オイルと混合樹脂とを含む混合物を加熱しながら混練してゴムを架橋させる動的架橋によって調製するのが好ましい。
【0027】
これによりゴムの架橋物を混合樹脂中により微細かつ均一に分散できるため、均一な特性を有する熱可塑性エラストマ組成物、ひいては導電性ローラを得ることができる。
熱可塑性エラストマ組成物は、ゴム分100質量部あたり、
50質量部以上、250質量部以下のパラフィン系オイル、
10質量部以上、150質量部以下の混合樹脂、
0.01質量部以上、10質量部以下の、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩、
1質量部以上、20質量部以下のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、
1質量部以上、20質量部以下のエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種、および
1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン
を含んでいるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、熱可塑性エラストマ組成物の押出速度を低下させたり、押出温度を上昇させたりすることなしに、全体が単一の前記熱可塑性エラストマ組成物からなり、しかもその外周面に、押出成形によって、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸形状が形成された導電性ローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例の全体を示すとともにその一部を拡大して示す斜視図である。
【図2】図1の例の導電性ローラの一部をさらに拡大した側面図である。
【図3】図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成する一工程を説明する、一部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〈熱可塑性エラストマ組成物〉
本発明の導電性ローラのもとになる熱可塑性エラストマ組成物は、
(1) ジエン系ゴム、およびエチレン・プロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、パラフィン系オイルとを、スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンの混合樹脂中に分散させたエラストマ組成物、
(2) フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩、
(3) エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、
(4) エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種、および
(5) 前記ゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン
を含んでいる。
【0031】
このうち(1)のエラストマ組成物は、ジエン系ゴム、およびエチレン・プロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種の未架橋のゴム分と、パラフィン系オイルと、混合樹脂とを含む混合物を加熱しながら混練してゴムを架橋させる動的架橋によって調製できる。
ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等が挙げられる。またエチレン・プロピレンゴムとしては、例えばエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)等が挙げられる。ゴム分としては、前記ゴムのいずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0032】
特にEPDMが好ましい。EPDMは、主鎖が飽和炭化水素からなり二重結合を含まないため、高濃度オゾン雰囲気、紫外線を含む光照射等の環境下に長時間曝されても主鎖の切断が起こりにくい。そのため導電性ローラの耐オゾン性、耐紫外線性、耐熱性等を向上できる。EPDMは単独で用いるのが好ましいが、EPDMと他のゴム分とを併用してもよく、その場合にはゴム分の全体に占めるEPDMの割合が50質量%以上、特に80質量%以上であるのが好ましい。
【0033】
パラフィン系オイルは、ゴム分を動的架橋させる際に混合物を混練しやすくして、前記ゴム分の架橋物を混合樹脂中により微細かつ均一に分散させる軟化剤としての働きをするとともに、前記エラストマ組成物を含む熱可塑性エラストマ組成物にて形成した導電性ローラの柔軟性を高めて、先に説明した紙送りの不良等を生じにくくする働きをする。
パラフィン系オイルとしては、鉱物油(原油)から精製され、基油がパラフィン系である種々のパラフィン系オイルがいずれも使用可能である。
【0034】
パラフィン系オイルの配合割合は、ゴム分100質量部あたり50質量部以上、250質量部以下、特に80質量部以上、120質量部以下であるのが好ましい。
パラフィン系オイルの配合割合が前記範囲未満では、前記パラフィン系オイルを配合したことによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。また配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、過剰のパラフィン系オイルが導電性ローラの表面に滲出(ブリード)して、感光体や像担持体の表面を汚染したり、紙を汚したりするおそれがある。
【0035】
混合樹脂のうちスチレン系熱可塑性エラストマは、熱可塑性エラストマ組成物の熱可塑性を維持しつつ、導電性ローラに良好な柔軟性を付与する働きをする。前記スチレン系熱可塑性エラストマとしては、例えばスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
中でもSEP、SEPS、SEBS、およびSEEPS、特にSEEPSが好ましい。これらのスチレン系熱可塑性エラストマは主鎖が飽和炭化水素からなり二重結合を含まないため柔軟で、圧縮永久歪みが小さい上、耐久性にも優れている。また動的架橋時に架橋剤と反応して架橋されることがないので、熱可塑性エラストマ組成物に良好な熱可塑性を付与できる。さらに動的架橋時にゴム分の架橋を阻害しないので、導電性ローラに良好なゴム弾性を付与できる。
【0037】
スチレン系熱可塑性エラストマとともに混合樹脂を構成するポリプロピレンは、熱可塑性エラストマ組成物の、押出成形時の加工性を向上する働きをする。前記ポリプロピレンとしては、プロピレンのみを重合させたホモポリマタイプの他、前記ホモポリマタイプのポリプロピレンの低温脆性等を改善するためにエチレン等の他のオレフィンを若干量、共重合させたランダムもしくはブロックコポリマタイプの種々のポリプロピレンの1種または2種以上が挙げられる。
【0038】
前記ポリプロピレン、およびスチレン系熱可塑性エラストマを少なくとも含む混合樹脂の配合割合は、ゴム分100質量部あたり10質量部以上、150質量部以下、特に50質量部以上、100質量部以下であるのが好ましい。
混合樹脂の配合割合が前記範囲未満では、熱可塑性成分としての混合樹脂の量が少なすぎるため、熱可塑性エラストマ組成物に良好な熱可塑性を付与できないおそれがある。また動的架橋によって架橋させたゴム分を混合樹脂中に良好に分散できないおそれもある。一方、混合樹脂の配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的にゴム分の量が少なくなるため、導電性ローラに良好なゴム弾性を付与できないおそれがある。
【0039】
またスチレン系熱可塑性エラストマ100質量部に対するポリプロピレンの配合割合は1質量部以上、100質量部以下、特に30質量部以上、50質量部以下であるのが好ましい。
ポリプロピレンの配合割合が前記範囲未満では、前記ポリプロピレンを配合したことによる、先に説明した熱可塑性エラストマ組成物の、押出成形時の加工性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。またポリプロピレンの配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的にスチレン系熱可塑性エラストマの量が少なくなるため、導電性ローラの柔軟性が低下して紙送りの不良等を生じるおそれがある。
【0040】
ゴム分を動的架橋させる場合、前記各成分の混合物には、前記ゴム分を架橋させる架橋剤を添加する。架橋剤としては、樹脂架橋剤が好ましい。
樹脂架橋剤は、加熱等によってゴム分に架橋反応を起こさせることができる合成樹脂であり、通常の硫黄架橋系(硫黄と加硫促進剤等との併用系)のようにブルームを生じない上、架橋後のゴム分の圧縮永久歪みや物性の低下を小さくでき、耐久性を向上できるといった利点を有している。
【0041】
また樹脂架橋剤によれば、硫黄架橋系に比べて架橋時間を短くできる。そのため、例えば前記未架橋のゴム分、パラフィン系オイル、混合樹脂、および樹脂架橋剤を2軸押出機内で加熱しながら混練して動的架橋させるとともに押し出して(1)のエラストマ組成物を連続的に製造する際に、前記2軸押出機内に滞留している短い時間内に動的架橋を進行させることができる。
【0042】
前記樹脂架橋剤としては、例えばフェノール樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、トリアジン・ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサメトキシメチル・メラミン樹脂等が挙げられ、特にフェノール樹脂が好ましい。
フェノール樹脂としては、例えばフェノール、アルキルフェノール、クレゾール、キシレノールもしくはレゾルシン等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドもしくはフルフラール等のアルデヒド類との反応により合成される各種フェノール樹脂が挙げられる。フェノール樹脂のアルデヒドユニットに少なくとも一個のハロゲン原子が結合したハロゲン化フェノール樹脂を用いることもできる。
【0043】
特にベンゼンのオルト位またはパラ位にアルキル基が結合したアルキルフェノールとホルムアルデヒドとの反応によって得られるアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂が、ゴム分との相溶性に優れるとともに反応性に富み、架橋反応の開始時間を比較的早くできるため好ましい。
アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のアルキル基としては炭素数が1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基等が挙げられる。またアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のハロゲン化物も好適に用いられる。
【0044】
さらに硫化−p−tert−ブチルフェノールとアルデヒド類とを付加縮合させた変性アルキルフェノール樹脂や、アルキルフェノール・スルフィド樹脂も樹脂架橋剤として使用可能である。
樹脂架橋剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり2質量部以上、20質量部以下、特に5質量部以上、15質量部以下であるのが好ましい。
【0045】
樹脂架橋剤の配合割合が前記範囲未満では架橋が不十分となるため、導電性ローラに良好なゴム弾性を付与できないおそれがある。一方、樹脂架橋剤の配合割合が前記範囲を超える場合にはゴム分が硬くなりすぎるため、導電性ローラの柔軟性が低下して紙送りの不良等を生じるおそれがある。
動的架橋を適切に行うため、混合物には架橋活性剤を添加してもよい。架橋活性剤としては金属酸化物、例えば酸化亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられる。特に酸化亜鉛(亜鉛華)が好ましい。
【0046】
架橋活性剤の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、10質量部以下、特に1質量部以上、5質量部以下程度であるのが好ましい。
動的架橋の条件は特に限定されないが、例えば先に説明した2軸押出機を用いた動的架橋では、前記2軸押出機のホッパから出口までの略中間部等に設けられるミキシング部の平均温度が160℃以上、250℃以下で、時間は1分以上、20分以下程度であるのが好ましい。
【0047】
前記(2)のフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩(以下「リチウム塩」と略記する場合がある)は、熱可塑性エラストマ組成物にイオン導電性を付与するイオン導電性導電剤として機能する。すなわちフルオロ基およびスルホニル基がともに電子吸引性を有するため陰イオンが安定化されて、リチウムイオンがより高い解離度を示す。そのため少量の添加で、熱可塑性エラストマ組成物に良好なイオン導電性を付与できる。
【0048】
前記リチウム塩を構成するフルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとしては、例えばフルオロアルキルスルホン酸イオン、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン等が挙げられる。
前記陰イオンを含む(2)のリチウム塩としては、例えばCFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、(C17SO)(CFSO)NLi、(CFCHOSONLi、(CFCFCHOSONLi、(HCFCFCHOSONLi、〔(CFCHOSONLi、(CFSOCLi、(CFCHOSOCLi等の1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
特にCFSOLi(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、(CFSONLi〔ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム〕が好ましい。
リチウム塩の配合割合は、ゴム分100質量部あたり0.01質量部以上、10質量部以下、特に0.5質量部以上、2質量部以下であるのが好ましい。
リチウム塩の配合割合が前記範囲未満では、熱可塑性エラストマ組成物に良好なイオン導電性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないだけでなく、過剰のリチウム塩が導電性ローラの表面にブリードして、感光体や像担持体の表面を汚染するおそれがある。
【0050】
前記リチウム塩は、(3)のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体(以下「EO−PO−AGE共重合体」と略記する場合がある)とあらかじめ所定の割合で配合して混合物を調製した後、前記混合物を(1)のエラストマ組成物その他と配合し、加熱下で混練して熱可塑性エラストマ組成物を調製するのが好ましい。
【0051】
これにより、リチウム塩由来のイオンがEO−PO−AGE共重合体中のエチレンオキサイド単位およびプロピレンオキサイド単位によって安定化されるため、前記リチウム塩をイオン導電性導電剤として良好に機能させることができる。特にエチレンオキサイド単位は、前記安定化の機能に優れている。
EO−PO−AGE共重合体は架橋させてもよい。
【0052】
すなわち(1)のエラストマ組成物その他と配合する前のEO−PO−AGE共重合体、およびリチウム塩に、さらに架橋剤、架橋助剤等を配合して混合物を調製し、前記混合物を(1)のエラストマ組成物その他と配合し、加熱下で混練して熱可塑性エラストマ組成物を調製するのと同時に、前記架橋剤、架橋助剤等の機能によってEO−PO−AGE共重合体を動的架橋させることができる。
【0053】
また、前記混合物をあらかじめ加熱下で混練してEO−PO−AGE共重合体を架橋させた後、(1)のエラストマ組成物その他と配合し、加熱下で混練して熱可塑性エラストマ組成物を調製することもできる。
EO−PO−AGE共重合体は、エチレンオキサイド単位の含有率が65モル%以上、95モル%以下であるのが好ましい。
【0054】
エチレンオキサイド単位の含有率が前記範囲未満では、先に説明した、前記エチレンオキサイド単位による、リチウム塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られない。また含有率が前記範囲を超える場合には、前記エチレンオキサイド単位が結晶化して、やはりリチウム塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られない。そのためこのいずれの場合にも、リチウム塩をイオン導電性導電剤として良好に機能させることができないおそれがある。
【0055】
前記EO−PO−AGE共重合体は、アリルグリシジルエーテル単位の含有率が1モル%以上、10モル%以下であるのが好ましい。
前記アリルグリシジルエーテル単位の含有率が前記範囲未満では、EO−PO−AGE共重合体がリチウム塩とともに導電性ローラの表面にブリードしたり、ブリードしたリチウム塩が感光体や像担持体の表面を汚染したりするおそれがある。また含有率が前記範囲を超える場合には、EO−PO−AGE共重合体の引張強さや疲労特性、耐屈曲性等が低下して、導電性ローラの耐久性等に影響を及ぼすおそれがある。
【0056】
またEO−PO−AGE共重合体は、前記ブリードとそれに伴う感光体や像担持体の表面の汚染等を防止することを考慮すると、数平均分子量が10000以上、特に30000以上であるのが好ましい。
EO−PO−AGE共重合体の配合割合は、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、20質量部以下、特に1質量部以上、15質量部以下であるのが好ましい。
【0057】
EO−PO−AGE共重合体の配合割合が前記範囲未満では、前記EO−PO−AGE共重合体による、先に説明したリチウム塩由来のイオンを安定化させる効果が十分に得られず、熱可塑性エラストマ組成物に良好なイオン導電性を付与できないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないおそれがある。
EO−PO−AGE共重合体を架橋させる架橋剤としては過酸化物が好ましい。
【0058】
前記過酸化物としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4−ビス[(tert−ブチル)パーオキシイソプロピル]ベンゼン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ベンゾエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジtert−ブチルパーオキシドまたは2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3−ヘキセン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0059】
特にジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンが好ましい。
過酸化物の配合割合はEO−PO−AGE共重合体100質量部あたり0.1質量部以上、5質量部以下であるのが好ましい。
過酸化物の配合割合が前記範囲未満では架橋が不十分となって、先に説明した架橋させる効果が十分に得られない。一方、配合割合が前記範囲を超えると、分子切断による物性低下が起こったり、分散不良などが生じて加工が困難になったりする。
【0060】
架橋助剤は、自身が架橋するとともにEO−PO−AGE共重合体とも架橋して全体を高分子化する働きをする。前記架橋助剤を用いて共架橋することにより架橋密度を向上させることができる。
架橋助剤としては、例えばメタクリル酸あるいはアクリル酸の金属塩、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、複素環ビニル化合物、アリル化合物、1,2−ポリブタジエンの官能基を利用した多官能ポリマー類、ジオキシム類等の1種または2種以上が挙げられる。詳しくはトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド等が挙げられ、特にN,N’−m−フェニレンビスマレイミドが好ましい。
【0061】
架橋助剤の配合割合は、EO−PO−AGE共重合体100質量部あたり0.1質量部以上、20質量部以下、特に0.1質量部以上、15質量部以下であるのが好ましい。
前記(4)のエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体は、(1)のエラストマ組成物と、(2)のリチウム塩を含む(3)のEO−PO−AGE共重合体との相溶化剤として機能して、前記リチウム塩を、熱可塑性エラストマ組成物中に均一に、かつ安定に分散させる働きをする。
【0062】
前記エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体は、アクリル酸エステル単位の含有率が0.1質量%以上、30質量%以下、中でも1質量%以上、20質量%以下、特に3質量%以上、15質量%以下であるのが好ましい。無水マレイン酸単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。またグリシジルメタクリレート単位の含有率は0.05質量%以上、20質量%以下、中でも0.1質量%以上、15質量%以下、特に1質量%以上、10質量%以下であるのが好ましい。
【0063】
アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の1種または2種以上が挙げられる。
エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体の配合割合は、ゴム分100質量部あたり1質量部以上、20質量部以下、特に5質量部以上、15質量部以下であるのが好ましい。
【0064】
配合割合が前記範囲未満では、前記エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、および/またはエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体の、相溶化剤としての機能が不足して、例えば押出成形時に(1)のエラストマ組成物と、(2)のリチウム塩を含む(3)のEO−PO−AGE共重合体とが相分離してしまって、均一なイオン導電性を有するとともに良好なゴム弾性を有する導電性ローラを形成できないおそれがある。
【0065】
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の添加効果が得られないだけでなく、逆に導電性ローラの強度が低下したり硬度が上昇したりするおそれがある。
前記(5)のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば
(a) ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル、塩等の1種または2種以上を含むアクリル樹脂粒子の水性分散液とを混合し、得られた混合液を塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩が溶解した熱水中に投入して凝固させた後に乾燥、粉砕、もしくはスプレードライ等によって粉体化したものや、
(b) ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液の存在下で、アクリル樹脂を構成する前記アクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル、塩等の1種または2種以上を重合させて得られた混合液を同様に塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩が溶解した熱水中に投入して凝固させた後に乾燥、粉砕、もしくはスプレードライ等によって粉体化したもの、あるいは
(c) ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル、塩等の1種または2種以上を含むアクリル樹脂粒子の水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合させて得られた混合液を同様に塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩が溶解した熱水中に投入して凝固させた後に乾燥、粉砕、もしくはスプレードライ等によって粉体化したもの、
等が挙げられる。
【0066】
前記アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンは、先に説明したように(1)〜(5)の成分を配合し、加熱下で混練して熱可塑性エラストマ組成物を調整する際のせん断力によってフィブリル化して、前記熱可塑性エラストマ組成物中で微細な繊維状のネットワークを構成する。
そして押出成形時に、前記熱可塑性エラストマ組成物の溶融張力を高めるとともに、ダイの口金との間の摩擦を低下させるために機能するため、押出速度を低下させたり押出温度を上昇させたりすることなしに、全体が単一の熱可塑性エラストマ組成物からなり、外周面に、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸が形成された導電性ローラを、押出成形によって製造することが可能となる。
【0067】
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの配合割合は、ゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下である必要があり、特に5質量部以上、10質量部以下であるのが好ましい。
アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの配合割合が前記範囲未満では、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合したことによる先に説明した効果が得られず、押出成形によって、外周面に凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸を形成することができない。
【0068】
一方、配合割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、導電性ローラの柔軟性が低下して紙送りの不良等を生じるおそれがある。
前記各成分を含む熱可塑性エラストマ組成物には、さらに導電性ローラの機械的強度を改善するために充填剤を配合してもよい。
充填剤としては、例えばシリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ等の1種または2種以上が挙げられる。
【0069】
充填剤の配合割合は、熱可塑性エラストマ組成物の全質量の15質量%以下であるのが好ましい。
充填剤の配合は、熱可塑性エラストマ組成物の引張強度および引裂強度等の改善には有効であるものの、余り多く配合すると熱可塑性エラストマ組成物の柔軟性が低下する傾向があるためである。
【0070】
また熱可塑性エラストマ組成物には、導電性ローラの柔軟性を向上するために発泡剤を配合してもよい。
発泡剤としては、マイクロカプセル型の発泡剤が挙げられる。マイクロカプセル型の発泡剤を使用すると独立気泡の状態を作ることができ、気泡の孔の大きさおよび数をコントロールしやすいため導電性ローラの摩耗性能等が低下しにくい。
【0071】
発泡剤は熱可塑性エラストマ組成物100質量部あたり0.1質量部以上、10質量部以下、特に0.5質量部以上、10質量部以下の割合で配合するのが好ましい。
その他、熱可塑性エラストマ組成物には老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤または気泡防止剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0072】
前記各成分を含む熱可塑性エラストマ組成物を調製するには、先に説明したように、まず未架橋のゴム分、パラフィン系オイル、混合樹脂、樹脂架橋剤、架橋活性剤等を含む混合物を加熱しながら混練してゴムを架橋させる動的架橋によって(1)のエラストマ組成物を調製する。
混練には2軸押出機、バンバリミキサ、ニーダ等を用いることができ、特に2軸押出機等の押出機が好ましい。押出機を用いる場合、前記押出機のスクリュー部内で、混合物を連続的に加熱しながら混練してエラストマ組成物を調製でき、調製したエラストマ組成物をノズル先端から順次押し出して連続的に次工程(例えばペレット化の工程等)に送ることができるため、エラストマ組成物の生産性を向上できる。
【0073】
動的架橋はハロゲンの存在下で行なうのが好ましい。動的架橋時にハロゲンを存在させるためには、樹脂架橋剤として、先に説明したハロゲン化されたものを用いればよい。また塩化第二スズ、塩化第二鉄、塩化第二銅等のハロゲン供与性物質を添加してもよい。
次いで、調製した(1)のエラストマ組成物のペレットと、(2)のリチウム塩を含み必要に応じて架橋された(3)のEO−PO−AGE共重合体と、(4)のエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種と、(5)のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンとを、本発明の導電性ローラのもとになる筒状体を押出成形するための押出成形機に供給し、前記押出成形機のスクリュー部内で加熱しながら混練することで熱可塑性エラストマ組成物が調製される。
【0074】
またこの際、(3)のEO−PO−AGE共重合体を架橋させる架橋剤等が含まれている場合は、前記EO−PO−AGE共重合体が動的架橋される。
このあと、調製された熱可塑性エラストマ組成物を、押出成形機のスクリュー部の先端に接続されたダイの口金を通して筒状に押出成形することで本発明の導電性ローラが製造される。
【0075】
押出成形の条件は、従来の、外周面に凹凸形状を有しない導電性ローラのもとになる筒状体を押出成形する場合と同等程度に設定できる。すなわち押出温度(スクリュー部先端での設定温度)は160℃以上、250℃以下、特に180℃以上、230℃以下程度、押出速度は0.5m/分以上、7m/分以下、特に0.8m/分以上、5m/分以下程度に設定できる。
【0076】
押出成形の条件を前記範囲内としても、先に説明した(5)のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合した効果により、凸条の剥離等のない所定の良好な凹凸形状が形成された筒状体を押出成形できる。
なお前記各成分を、2軸押出機、バンバリミキサ、ニーダ等を用いて加熱しながら混練したのちペレット化し、前記ペレットを押出成形機に供給して導電性ローラのもとになる筒状体を製造してもよい。この場合、ペレット化に先立つ混練時の温度、および時間は先の動的架橋時と同等程度でよい。また押出成形の条件は前記と同等程度でよい。
【0077】
〈導電性ローラ〉
図1は、本発明の導電性ローラの、実施の形態の一例の全体を示すとともにその一部を拡大して示す斜視図である。図2は、前記図1の例の導電性ローラの一部をさらに拡大した側面図である。図3は、前記図1の例の導電性ローラを押出成形によって形成する一工程を説明する、一部を拡大して示す斜視図である。
【0078】
図1〜図3を参照して、この例の導電性ローラ1は、前記熱可塑性エラストマ組成物からなる円筒状のローラ本体2と、前記ローラ本体2の中心の通孔3に挿通されたシャフト4とを含んでいる。このうちローラ本体2は、先に説明したように熱可塑性エラストマ組成物を押出成形して形成された筒状体5(図3参照)を所定の長さにカットして形成されている。
【0079】
ローラ本体2の外周面6には、複数の凸条7と凹溝8とが周方向に交互に設けられている。前記凸条7と凹溝8とは、図の例の場合、前記外周面6を略サイン波状とすることで形成されている。すなわち略サイン波を構成する、ローラ本体2の径方向外方へ突出した山の部分が凸条7、隣り合う山の間の、径方向内方へ凹入した谷が凹溝8とされている。
図3を参照して、前記凹凸形状を有するローラ本体2は、熱可塑性エラストマ組成物を、口金9の内周面10に複数の凹部11と凸部12とを周方向に交互に設けたダイを備えた押出成形機を用いて押出成形することにより形成された前記筒状体5を所定の長さにカットして製造される。
【0080】
すなわち前記口金9を通して押出成形された筒状体5の外周面6には、前記凹部11に対応して凸条7が形成されるとともに、凸部12に対応して凹溝8が形成される。前記凹部11と凸部12とは、口金9の内周面10に周方向に交互に設けられているため、押出成形された筒状体5の外周面6には、それに対応して凸条7と凹溝8とが周方向に交互に形成される。
【0081】
押出成形された筒状体5を、その中心軸Lを中心として周方向に回転させないように維持しながら冷却したのちカットすると、図1に示すように凸条7および凹溝8が前記中心軸Lの軸方向に平行に設けられたローラ本体2が得られる。かかるローラ本体2を備えた導電性ローラ1は、先に説明したように、凹凸形状による静電気力の強弱の差に基づく濃度ムラをより一層、目立たなくできるという利点がある。
【0082】
なお凸条7と凹溝8とを、前記のように軸方向に平行にではなく、ローラ本体2の外周面に螺線状に形成することも考えられる。その場合には、例えば押出成形された筒状体5を、前記中心軸Lを中心として周方向に一定の速度で回転させながら冷却すればよい。これにより凸条7と凹溝8とを、中心軸Lに対して、前記回転の速度と押し出しの速度とに応じた所定の傾斜角度で傾斜した螺線状に形成できる。
【0083】
図2を参照して、本発明では、前記凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差hが100μm以上で、かつ隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwが800μm以下である必要がある。
すなわち高低差hが100μm未満では、前記凹溝8内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、前記凹凸形状を設けることによる、先に説明した、紙粉の再付着と、それに伴う画像不良の発生を抑制する効果が得られない。
【0084】
またピッチwが800μm以下に限定されるのは次の理由による。
例えば本発明の導電性ローラ1を転写ローラとして使用する際、感光体または像担持体との間に電圧を印加して生じる静電気力には、前記凹凸形状に基づく強弱の差が生じる。すなわち感光体または像担持体と紙を挟んで接する凸条7の部分では静電気力が強くなり、前記感光体または像担持体と離れた凹溝8の部分では静電気力が弱くなる。
【0085】
前記ピッチwが800μm以下であれば、隣り合う凸条7における強い静電気力の重なりによって凹溝8での静電気力を補って、前記静電気力の強弱の差を小さくできるため、形成画像には殆ど影響を生じない。
しかしピッチwが前記範囲を超える場合には、凹凸形状に基づく静電気力の強弱の差が大きくなって、感光体または像担持体から紙の表面に転写されるトナー像に、目で見て判る濃度ムラを生じてしまう場合がある。
【0086】
なお高低差hは、前記範囲内でも200μm以上、1mm以下、特に300μm以上、800μm以下であるのが好ましい。
高低差hが前記範囲を超える場合、口金9の凹部11に十分に熱可塑性エラストマ組成物を行き渡らせて所定の高低差hを有する凸条7を形成するためには、押出速度を低下させたり、押出温度を高めて熱可塑性エラストマ組成物の流動性を向上させたりする必要を生じ、先に説明した問題を生じるおそれがある。
【0087】
また、高低差hが前記範囲を超える高い凸条7は変形したり欠けたりしやすく、導電性ローラ1の耐久性が低下するおそれもある。さらに、耐久性を向上するために凸条7の幅を広くする場合、ピッチwを、前記範囲を超えて大きくしなければならず、濃度ムラを生じるおそれもある。
またピッチwは、前記範囲内でも200mm以上、特に300mm以上であるのが好ましい。
【0088】
ピッチwが前記範囲未満である場合、凹溝8内に取り込むことができる紙粉の量、および紙粉の大きさが限られるため、前記凹凸形状を設けることによる先に説明した効果が得られないおそれがある。またピッチwが前記範囲未満で、しかも高低差hが前記範囲内である細い凸条は変形したり欠けたりしやすく、導電性ローラ1の耐久性が低下するおそれもある。
【0089】
シャフト4は、導電性ローラ1を構成するために導電性とされる。前記導電性のシャフト4としては、例えばアルミニウムやその合金、ステンレス鋼等の金属によって一体に形成されたもの等が挙げられる。またセラミックや硬質樹脂等によって形成し、その外周面に、ローラ本体2と電気的に接続される導電膜等を設けた複合構造のシャフト4を用いることもできる。
【0090】
ローラ本体2の外周面6はコーティング層で被覆してもよい。前記コーティング層は、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂等のエマルションや溶液、あるいはゴムラテックス等にフッ素樹脂の粉末等を分散させたコーティング剤を塗布し、乾燥させて形成できる。前記コーティング層で被覆することにより、外周面6の表面エネルギーをコントロールして、前記外周面6に紙粉が付着したりトナーが固着したりするのを抑制したり、摩擦係数を調整したりすることができる。
【0091】
前記本発明の導電性ローラは、電子写真装置のうち帯電工程で感光体の表面を帯電させる帯電ローラ、現像工程のうちトナーの帯電過程でトナーをかく拌しながら帯電させる帯電ローラ、静電潜像への付着過程で帯電させたトナーを感光体表面の静電潜像に選択的に付着させてトナー像に現像する現像ローラ、転写工程で前記トナー像を紙または像担持体の表面に転写させる転写ローラ、あるいはクリーニング工程で残留したトナーを除去するクリーニングローラ等に使用できる。
【0092】
特に紙と直接に接触するため紙粉の付着に伴う種々の問題を生じやすい転写ローラとして、本発明の導電性ローラを使用するのが好ましい。
前記導電性ローラを転写ローラとして使用する場合、ローラ本体の抵抗値は、印加電圧1000Vで10Ω以上、10Ω以下、特に10Ω以上、10Ω以下程度であるのが好ましい。
【0093】
抵抗値を前記範囲内に調整するためには、例えばイオン導電性導電剤としての前記(2)のリチウム塩や、前記リチウム塩の安定化に関与する(3)のEO−PO−AGE共重合体の種類や配合割合等を、先に説明した範囲内で適宜調整すればよい。
また転写ローラとして使用する導電性ローラのローラ本体の硬さは、日本工業規格JIS K7312−1996「熱硬化性ポリウレタンエラストマー成形物の物理試験方法」の付属書2で規定されたスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠して、雰囲気温度23±1℃、相対湿度55±1%の条件下で測定したスプリング式タイプC硬さが68以下、特に66以下であるのが好ましい。
【0094】
硬さがこの範囲内であれば、ローラ本体に良好な柔軟性を付与して紙に対する摩擦係数を上昇させることができ、導電性ローラを転写ローラとして使用した際に紙送りの不良等を生じにくくできる。
【実施例】
【0095】
〈実施例1〉
(エラストマ組成物の調製)
ゴム分としてのEPDM〔住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)EPDM505A〕、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマ〔SEEPS、(株)クラレ製のセプトン(登録商標)4077〕、ポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製のノバテック(登録商標)PP〕、パラフィン系オイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380〕、樹脂架橋剤〔臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)製のタッキロール(登録商標)250−III〕、および酸化亜鉛〔三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号〕を配合した。
【0096】
前記各成分を2軸押出機のスクリュー部内で加熱しながら混練してゴム分を動的架橋しながらノズル先端から押し出し、次いで連続的に所定の長さにカットしてペレット化してエラストマ組成物を調製した。
(熱可塑性エラストマ組成物の調製およびローラ本体の作製)
リチウム塩としてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムと、EO−PO−AGE共重合体〔日本ゼオン(株)製のゼオスパン(登録商標)8010〕とを混合して混合物を調製した。
【0097】
次いで前記混合物と、先に調整したエラストマ組成物と、相溶化剤としてのエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体〔アルケマ社製のボンダイン(登録商標)LX4110〕と、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン〔三菱レイヨン(株)製のメタブレン(登録商標)A3000〕とを配合した。
エラストマ組成物を構成する前記各成分の、ゴム分としてのEPDM100質量部あたりの配合割合は、表1に示すとおりとした。
【0098】
【表1】

【0099】
前記各成分を、押出成形機のスクリュー部内で加熱しながら混練して熱可塑性エラストマ組成物を調製し、調整した熱可塑性エラストマ組成物を、前記スクリュー部の先端に接続したダイの口金を通して筒状に押出成形して、ローラ本体のもとになる筒状体を作製した。
押出成形の条件は、押出温度(スクリュー部先端での設定温度)200℃、押出速度約1m/分の低速条件と、同じ押出温度で、押出速度約3m/分の高速条件の2つの条件を設定した。
【0100】
筒状体の外径は14mm、内径は6mmとした。また、図3に示すように口金9の内周面10に略サイン波状の凹凸形状を設けることで、押出成形された筒状体5の外周面6を、前記凹凸形状の凹部11に対応する凸条7と、凸部12に対応する凹溝8とが交互に配列されたサイン波状の凹凸形状とした。
前記凹部11および凸部12は、押出成形された筒状体5の凸条7の最高点と凹溝8の最低点との間の径方向の高低差h(図2参照)が500μm、隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチw(図2参照)が500μmとなるように設定した。
【0101】
また筒状体5は、その中心軸Lを中心として周方向に回転させないように維持しながら冷却したのちカットした。これにより、図1に示すように凸条7および凹溝8が前記中心軸Lの軸方向に平行に設けられたローラ本体2を作製した。
〈実施例2、比較例1、2、3〉
ゴム分100質量部あたりの、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの配合割合を0質量部(配合せず、比較例1)、1質量部(比較例2)、10質量部(実施例2)、20質量部(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマ組成物を調製し、ローラ本体を作製した。
【0102】
〈実施例3〉
相溶化剤として、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体に代えて、同量(8質量部)のエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体を配合したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマ組成物を調製し、ローラ本体を作製した。
【0103】
〈比較例4〉
凹部11および凸部12の高低差hを50μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてローラ本体を作製した。
〈比較例5〉
隣り合う凸条7の最高点間の周方向のピッチwを1000μmとしたこと以外は実施例1と同様にしてローラ本体を作製した。
【0104】
〈評価試験〉
前記各実施例、比較例で作製したローラ本体の外周面を目視ないし拡大して観察して、下記の基準で押出成形時の加工性を評価した。
○:低速条件、高速条件ともに、外周面にきれいな凹凸形状が形成されており、凸条の剥離等は全く見られなかった。加工性良好。
【0105】
△:低速条件では問題ないが、高速条件では凸条の剥離等が見られた。加工性不良。
×:低速条件でも凸条の剥離等が見られた。加工性さらに不良。
またローラ本体のスプリング式タイプC硬さを、先に説明したスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準拠して測定した。
また前記各実施例、比較例で作成したローラ本体を、転写ローラとして、レーザービームプリンタ〔日本ヒューレットパッカード(株)製のレーザージェット(Laser Jet)4050〕に組み込んで、温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下でハーフトーンの画像を連続して印刷し、印刷した画像を観察した。
【0106】
観察は、連続印刷の最初の1枚目から20枚目までの20枚の画像(初期画像)と、前記1枚目から1000枚連続印刷した後、1001枚目から1020枚目までの20枚の画像(耐久後画像)とについて行ない、下記の基準で、前記初期および耐久後の画像不良の有無を評価した。
○:画像不良は全く観察されないか、あるいは20枚中の1〜2枚程度で画像不良が観察されたが、注意深く見ないと判らない程度の問題ないレベルであった。印刷品質良好。
【0107】
×:半数(10枚)以上で明らかな画像不良が観察された。印刷品質不良。
以上の結果を表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
表2の実施例1〜3より、熱可塑性エラストマ組成物にアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合することで、前記アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンを配合しない場合(比較例1)、および少量しか配合しない場合(比較例2)に比べて押出成形時の加工性を向上して、特に高速条件でも、凸条の剥離等のないきれいな凹凸形状を有するローラ本体を形成できることが判った。
【0110】
ただしアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの配合量が多すぎる場合(比較例3)には、前記ローラ本体の柔軟性が低下し、硬くなって紙送り等の不良を生じやすくなることが判った。
また凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差hが100μm未満である場合(比較例4)には、耐久後に画像不良が発生し、隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチwが800μmを超える場合(比較例5)には初期から画像不良が発生するのに対し、前記高低差hが100μm以上で、かつピッチwが800μm以下であるときには、紙粉の再付着等による画像不良の発生を初期から耐久後まで長期間に亘って確実に防止できることも判った。
【符号の説明】
【0111】
1 導電性ローラ
2 ローラ本体
3 通孔
4 シャフト
5 筒状体
6 外周面
7 凸条
8 凹溝
9 口金
10 内周面
11 凹部
12 凸部
h 高低差
w ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマ組成物を、口金の内周面に複数の凹部と凸部とを周方向に交互に設けたダイを備えた押出成形機を用いて筒状に押出成形して製造され、外周面に前記凹部および凸部に対応する複数の凸条と凹溝とが周方向に交互に設けられた導電性ローラであって、
前記熱可塑性エラストマ組成物は、
(1) ジエン系ゴム、およびエチレン・プロピレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のゴム分の架橋物と、パラフィン系オイルとを、スチレン系熱可塑性エラストマとポリプロピレンの混合樹脂中に分散させたエラストマ組成物、
(2) フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩、
(3) エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、
(4) エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種、および
(5) 前記ゴム分100質量部あたり1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン
を含み、
前記凸条の最高点と凹溝の最低点との間の径方向の高低差が100μm以上で、かつ隣り合う凸条の最高点間の周方向のピッチが800μm以下であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
凸条および凹溝が軸方向に平行に設けられている請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
エラストマ組成物は、未架橋のゴム分とパラフィン系オイルと混合樹脂とを含む混合物を加熱しながら混練してゴムを架橋させる動的架橋によって調製されている請求項1または2に記載の導電性ローラ。
【請求項4】
熱可塑性エラストマ組成物は、ゴム分100質量部あたり、
50質量部以上、250質量部以下のパラフィン系オイル、
10質量部以上、150質量部以下の混合樹脂、
0.01質量部以上、10質量部以下の、フルオロ基およびスルホニル基を有する陰イオンとリチウムとの塩、
1質量部以上、20質量部以下のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、
1質量部以上、20質量部以下のエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、およびエチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種、および
1.5質量部以上、16質量部以下のアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン
を含んでいる請求項1ないし3のいずれか1つに記載の導電性ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−256426(P2010−256426A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103278(P2009−103278)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】