説明

導電性付与剤及び導電性樹脂組成物

【課題】 熱可塑性樹脂またはゴム等へ混練させる際に、相溶性が良く、耐熱性に優れ、樹脂あるいはゴム表面へのブリードが改善され、また発熱、発火の危険性が低減され、より安全性に優れた導電性付与剤及び該導電性付与剤が添加されてなる導電性樹脂組成物を提供。
【解決手段】 イオン導電剤として、一般式〔1〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物または該化合物と過塩素酸塩類とが含有されてなる導電性付与剤であり、該導電性付与剤を熱可塑性樹脂、ゴムまたは紫外線硬化型樹脂に添加させてなる導電性樹脂組成物である。


一般式〔1〕中、mは2〜8の正整数、nは1または2の正整数、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムに添加して、導電性を付与するための導電性付与剤及び該導電性付与剤が添加されてなる導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性付与剤を添加した熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴム等の導電性樹脂組成物は、防塵シート、帯電防止フィルム、除電マット、帯電防止床材などの導電性シート、電子写真式プリンターや複写機の導電性ロール(帯電ロール、現像ロール、転写ロールなど)、磁気記録媒体用基材、半導体用素材などとして用いられている。
【0003】
従来、イオン導電剤として、過塩素酸リチウムを用いた導電性付与剤が提案されている(例えば特許文献1参照)。過塩素酸リチウムは、帯電防止性、すなわち導電性に優れ、低価格でコスト的にも有利な導電性付与剤であるが、該化合物は消防法に定める危険物第1類に属する酸化性固体であり、可燃物と混合すると発熱、発火の危険性があるため、取り扱い上、特段の注意を要し、また安全面から、樹脂等への添加量が制限されるという欠点があった。
【0004】
近年、イオン導電剤として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムやトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン酸リチウム等の含フッ素有機アニオン塩類を用いた導電性付与剤が提案されている(例えば特許文献2参照)。該化合物は、比較的導電性が高いが、熱可塑性樹脂またはゴム等へ混練させる際の相溶性、あるいは加工時または加工後の耐熱性および耐ブリード性に関しては、さらなる性能向上が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平08−176255号公報
【特許文献2】特開2002−146178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂またはゴム等へ混練させる際に、相溶性が良く、耐熱性に優れ、樹脂あるいはゴム表面へのブリードが改善され、また発熱、発火の危険性が低減され、より安全性に優れた導電性付与剤及び該導電性付与剤が添加されてなる導電性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、イオン導電剤として、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物、または該環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類とが含有されてなる導電性付与剤が、取り扱いが容易で、上記課題を解決し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、イオン導電剤として、一般式〔1〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種が含有されてなることを特徴とする導電性付与剤である。
【0009】
【化1】

一般式〔1〕中、mは2〜8の正整数、nは1または2の正整数、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す。
【0010】
また、上記環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物が一般式〔2〕で表されるシクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド化合物であることを特徴とする導電性付与剤である。
【0011】
【化2】

一般式〔2〕中、nは1または2の正整数、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す。
【0012】
また、本発明は、イオン導電剤として、一般式〔1〕または一般式〔2〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種と過塩素酸塩類から選択される少なくとも1種とが含有されてなることを特徴とする導電性付与剤である。
【0013】
本発明は、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物、または該イミド化合物と過塩素酸塩類とからなるイオン導電剤が、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体、ポリエチレン−ポリアルキレングリコールグラフト共重合体からなるポリエーテルポリオール類から選択される少なくとも1種に添加されてなり、また該ポリエーテルポリオール類100質量部に対して過塩素酸塩類が20質量部未満添加されてなることを特徴とする導電性付与剤である。
【0014】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂、ゴムまたは紫外線硬化型樹脂100質量部に、本発明の導電性付与剤が、0.1〜30質量部添加されてなることを特徴とする導電性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性付与剤は、イオン導電剤として環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物、または環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類とが含有されてなり、該環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物は、樹脂等への相溶性が良く、耐熱性に優れ、樹脂あるいはゴム表面へのブリードによる汚染が低減されるという効果を有し、さらに、過塩素酸塩類との併用により、導電性が高く、経済性にも優れた導電性付与剤を得ることができる。加えて、過塩素酸塩類の添加量が20質量部未満の場合には、発熱、発火の危険性が低減され、取り扱いが容易である。
【0016】
また、本発明の導電性付与剤を用いてなる導電性樹脂組成物は、耐ブリード性、耐熱性、帯電防止性に優れ、長期間安定した特性を持続できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の導電性付与剤について詳細に説明する。
【0018】
本発明の導電性付与剤は、イオン導電剤として前記一般式〔1〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種が含有されてなるものである。
【0019】
上記環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物としては、一般式〔1〕中、mが2〜8の正整数で表され、Mがアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)またはアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム)で表される化合物であり、本発明においては、これら両成分を組み合わせてなる化合物の少なくとも1種が用いられる。これらの化合物の中でも、工業的に入手が容易で、経済的に優れる観点から一般式〔2〕で表されるシクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド化合物が好ましい。
【0020】
上記環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物は、樹脂等への相溶性が良好であり、耐熱性に優れ、樹脂あるいはゴム表面へのブリードによる汚染が低減されるという特徴を有しているが、該化合物単独では経済的に不利となる場合がある。
【0021】
本発明の導電性付与剤においては、経済性及び導電性を高める点から、上記環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と同時に、過塩素酸塩類を併用して用いることができる。
【0022】
本発明に用いられる過塩素酸塩類としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等のアルカリ金属塩及び過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩があげられ、これらの中でも、過塩素酸リチウムは、導電性が高くより好ましい。
【0023】
すなわち、本発明の導電性付与剤は、イオン導電剤として環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種と過塩素酸塩類から選択される少なくとも1種とが含有されてなり、過塩素酸塩類の配合割合が多くなると、発熱、発火等の危険性が増大し、取り扱い難くなり、一方、含フッ素有機アニオン塩類の割合が多くなると、経済的に不利となることから、両者の配合割合は、通常、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類の質量比が、1:10〜10:1、好ましくは1:5〜5:1の範囲である。
【0024】
本発明の導電性付与剤は、上記イオン導電剤に、ポリエーテルポリオールであるポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体及びポリエチレン−ポリアルキレングリコールグラフト共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することにより、導電性を高めるとともに、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムへの相溶性をさらに向上させることができ、好ましくは、イオン導電剤1質量部に対して、該ポリエーテルポリオールが、2〜100質量部の範囲で添加される。
【0025】
次に、本発明の導電性樹脂組成物について、以下、詳細に説明する。
【0026】
本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムに、本発明の導電性付与剤が含有されてなるものである。
【0027】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール、アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン等があげられ、これらの中でも、導電性に優れる点から、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらの樹脂の少なくとも1種が好ましい。
【0028】
本発明に用いられる紫外線硬化型樹脂に導電性付与剤を含有させる方法としては、本発明のイオン導電剤を含有するポリエーテルポリオールをジイソシアネート類によりウレタン化し、ついで単官あるいは多官能のアクリレートと反応させることによってポリウレタンアクリレートからなる紫外線硬化型樹脂を得ることができる。また、本発明のイオン導電剤を含有するポリエーテルポリオールをアクリル酸またはメタクリル酸と脱水エステル化反応させることによっても得ることが可能である。
【0029】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック共重合体などがあげられる。ジイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどがあげられる。また、アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートなどがあげられる。
【0030】
本発明に用いられるゴムとしては、ウレタンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン/エチレンオキサイド共重合ゴム、シリコンゴム、フルオロオレフィン/ビニルエーテル共重合体ウレタンゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム及びそれらの発泡体等から選ばれる少なくとも1種があげられる。
【0031】
本発明の導電性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムに、本発明の導電性付与剤を所定量添加、混練し、フィルム状、シート状あるいはロール状等に成形して用いられる。
【0032】
また、本発明の導電性付与剤と、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムとを、可溶性溶媒に溶解させることにより、コーティング液組成物として用いることができ、該コーティング液組成物を、樹脂フィルム、ガラス等の基材に塗布した後、乾燥、硬化させることにより、これら基材表面に導電性塗膜を形成させることが可能である。
【0033】
上記熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴムに、本発明の導電性付与剤を添加させる場合、通常、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂またはゴム100質量部に、イオン導電剤である環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物、または環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物及び過塩素酸塩類の合計量が、0.1〜30質量部となる範囲で添加される。イオン導電剤の添加量が0.1質量部より未満の場合、得られる導電性樹脂組成物の導電性が不十分となる場合があり、また、30質量部より超の場合、導電性は十分であるが、ブリードが発生しやすくなる場合がある。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例により、なんら限定されない。実施例中、「部」は「質量部」を表す。
【0035】
実施例1
ポリエチレン−ポリエチレングリコールグラフト共重合体(住友化学工業(株)登録商標:スミエード300G、以下「PE−PEG共重合体」と略記する。)85部に、イオン導電剤である環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物(以下「CFASI」と略記する。)として、シクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム(以下「CFPSI―K」と略記する。)15部を加えた後、温度70℃で加熱混練させて導電性付与剤を得た。
【0036】
ついで、熱可塑性樹脂であるメタクリル樹脂(三菱レーヨン(株)登録商標:アクリペットIR H−70、以下「PMMA」と略記する。)100部に、先に得られた導電性付与剤5部を添加し、テストロール機(日新科学(株)製HR−2型)中、温度180℃で加熱、混練させて、厚さ1mmの導電性シートを得た。
【0037】
得られた導電性シートの温度25℃、湿度40%における表面抵抗を、表面抵抗測定機(三菱化学(株)製HT−210)を用いて測定した結果、5.0×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示した。また、表面へのブリード発生は、導電性シートを2つに折り曲げ、温度40℃、湿度80%の環境下100日間放置した後、導電性付与剤の染み出しの有無を目視により観察した。この結果、ブリードの発生は観察されなかった。表1に導電性シートの組成及びその評価結果を示す。
【0038】
実施例2
PE−PEG共重合体(スミエード300G)80部に、イオン導電剤であるシクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム(以下「CFPSI―Li」と略記する)10部と過塩素酸リチウム10部とを加えた後、温度70℃で加熱混練させて導電性付与剤を得た。
【0039】
ついで、熱可塑性樹脂であるポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業(株)、パンデックスT−8190N、以下「PU」と略記する。)100部に、先に得られた導電性付与剤10部を添加し、テストロール機中、温度180℃で加熱、混練させて、厚さ1mmの導電性シートを得た。
【0040】
得られた導電性シートについて、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、0.9×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
発泡性ゴムであるウレタン(日本ポリウレタン工業(株)、商品名:ニッポラン5119、以下「UR」と略記する。)100部に、実施例1と同様にして得られた導電性付与剤10部を添加し、温度110℃で加熱、混練させて発砲及び架橋させた後、成型用金型に流し込んで、厚み12mmの導電性ゴム成型体を得た。
【0042】
得られた導電性ゴム成型体について、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、1.5×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0043】
実施例4
発泡性ゴムであるエピクロルヒドリン((株)ダイソー登録商標:エピクロマーCG−102、以下「EP」と略記する。)100部に、実施例2と同様にして得られた導電性付与剤5部を添加し、ついで、温度100℃で加熱、混練させて発砲及び架橋させた後、成型用金型に流し込んで、厚み12mmの導電性ゴム成型体を得た。
【0044】
得られた導電性ゴム成型体について、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、4.0×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例5
ポリエーテルポリオールであるポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体(日本油脂(株)登録商標:プロノン201、以下「PEO−PPO共重合体」と略記する。)70部に、イオン導電剤として、CFPSI―K20部と及び塩素酸リチウム10部を溶解させ、導電性付与剤を得た。
【0047】
得られた導電性付与剤100部に、硬化剤としてトリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、以下「TDI」と略記する。)30部を添加し、さらに有機溶媒として、メチルエチルケトン100部を添加、溶解させて、コーティング液組成物を得た。
【0048】
上記コーティング液組成物を、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する。)フィルム上に、バーコーター(#20コーティングロッド)を用いて塗布後、乾燥、硬化させて、厚み5μmのウレタン樹脂からなる導電性塗膜を形成させた。
【0049】
得られた導電性塗膜について、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、3.5×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。表2に、塗膜の主要成分とその評価結果を示す。
【0050】
実施例6
PEO−PPO共重合体(三洋化成工業(株)登録商標:ニューポールPE−62)75部に、イオン導電剤であるCFPSI―Li25部を添加、溶解させ、導電性付与剤を得た。
【0051】
得られた導電性付与剤100部に、TDI32部を添加し、さらに溶媒として、メチルエチルケトン100部を添加、溶解させて、コーティング液組成物を得た。
【0052】
上記コーティング液組成物を用い、実施例5と同様にして、PETフィルム上に厚み5μmのウレタン樹脂からなる導電性塗膜を形成させた。
【0053】
上記導電性塗膜について、実施例1と同様にして、表面抵抗を測定した結果、5.3×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表2に示す。
【0054】
実施例7
PEO−PPO共重合体(プロノン201)70部に、イオン導電剤として、CFPSI―K20部及び過塩素酸リチウム10部を溶解させ、導電性付与剤を得た。
【0055】
得られた導電性付与剤100部にヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、以下「HDI」と略記する。)26部及びジブチルスズジラウレート0.01部を加え、85℃で3時間ウレタン化反応を行った。次いでトリメチロールプロパントリアクリレート(以下、「TPT」と略記する。)45部、重合禁止剤ハイドロキノン0.1部を加え80℃で4時間反応を行った。
【0056】
上記反応生成物100部に、光重合開始剤(長瀬産業(株)登録商標:ダロキュア1173)を4部及びメチルエチルケトン100部を添加、溶解させて、コーティング液組成物を得た。
【0057】
上記コーティング液組成物を、PETフィルム上に、バーコーター(#5コーティングロッド)を用いて塗布後、100mJ/cmの紫外線を照射し硬化させて、厚み10μmのポリウレタンアクリレートからなる導電性塗膜を形成させた。
【0058】
上記導電性塗膜について、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、7.5×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、また、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表2に示す。
【0059】
実施例8
PEO−PPO共重合体(ニューポールPE−62)80部に、イオン導電剤であるCFPSI―Li20部を添加、溶解させて、導電性付与剤を得た。
【0060】
得られた導電性付与剤100部にメタクリル酸(以下、「MAA」と略記する。)30部、硫酸7部、n−ヘキサン100ml及びフェノチアジン0.1部を加え、60℃で12時間脱水エステル化反応を行い、減圧蒸留により水分、ヘキサンを溜去した。
【0061】
上記反応生成物100部に、光重合開始剤(ダロキュア1173)を4部、及びメチルエチルケトン100部を添加、溶解させて、コーティング液組成物を得た。
【0062】
上記コーティング液組成物を用いて、実施例7と同様の操作により、PETフィルム上に厚み8μmのポリエステルアクリレートからなる導電性塗膜を形成させた。
【0063】
上記導電性塗膜について、実施例1と同様にして、表面抵抗値を測定した結果、9.7×10Ω/□であり、帯電防止に十分な導電性を示し、ブリードの発生は観察されなかった。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
<危険物確認試験>
実施例9
PEO−PPO共重合体(ニューポールPE−62)80部に、イオン導電剤であるCFPSI―Li20部を溶解し、導電性付与剤を得た。
【0066】
得られた導電性付与剤について、消防法の第5類危険物判定試験に準じて熱分析試験(示差走査熱量測定)を行った。本試験は、標準物質(2,4−ジニトロトルエン、過酸化ベンゾイル)の発熱開始温度及び発熱量を示差走査熱量測定装置により測定し、試験検体の発熱開始温度及び発熱量が、標準物質から求められた危険性の基準以上である場合を、危険性有りと判定するものである。導電性付与剤の組成比及び危険物確認試験を表3に示す。
【0067】
実施例10
PEO−PPO共重合体80部に、イオン導電剤であるCFPSI―Li10部と過塩素酸リチウム10部を溶解し、導電性付与剤を得た。
【0068】
得られた導電性付与剤について、実施例9と同様にして危険物確認試験を行った。結果を表3に示す。
【0069】
比較例1
PEO−PPO共重合体90部に、イオン導電剤である過塩素酸リチウム10部を溶解し、導電性付与剤を得、この導電性付与剤について、実施例9と同様にして危険物確認試験を行った結果を表3に示す。
【0070】
比較例2
PEO−PPO共重合体80部に、イオン導電剤である過塩素酸リチウム20部を溶解し、導電性付与剤を得、この導電性付与剤について、実施例9と同様にして危険物確認試験を行った結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3の危険物確認試験結果から、イオン導電剤として過塩素酸リチウムのみを10部添加(比較例1)した場合、危険性なしの判定であったが、同20部添加(比較例2)では発熱量が高くなり、危険性有りの判定となった。これに対して、過塩素酸リチウム10部及びCFPSI―Li10部を混用させて添加した本発明の導電性付与剤(実施例10)は危険性なしの判定であり、またCFPSI―Li20部を添加した本発明の導電性付与剤(実施例9)は、さらに安全性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の導電性付与剤は、イオン導電剤として環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物、または環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類とが含有されてなり、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物は、樹脂等への相溶性が良く、耐熱性に優れ、樹脂あるいはゴム表面へのブリードによる汚染が低減されるという効果を有し、さらに、過塩素酸塩類と併用により、導電性が高く、経済性にも優れた導電性付与剤が得ることができる。また、過塩素酸塩類の添加量が20質量部未満の場合には、発熱、発火の危険性が低減され、取り扱いが容易である。
【0074】
また、本発明の導電性付与剤を用いてなる導電性樹脂組成物は、耐ブリード性、耐熱性、帯電防止性に優れ、長期間安定した特性を持続でき、また透明性にも優れているので、防塵シート、除電マット及び帯電防止床材などの導電性シート、帯電防止フィルム、帯電防止剥離フィルム、各種ディスプレーの帯電防止剤、導電性塗料、導電性コーティング剤、電子写真式プリンターや複写機の導電性ロール(帯電ロール、クリーニングロール、現像ロールなど)、ポリマー2次電池などの電気化学デバイス用電解質、磁気記録媒体用基材、半導体用素材などへ適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導電剤として、一般式〔1〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種が含有されてなることを特徴とする導電性付与剤。
【化1】

(式中、mは2〜8の正整数、nは1または2の正整数、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す。)
【請求項2】
環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物が一般式〔2〕で表されるシクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の導電性付与剤。
【化2】

(式中、nは1または2の正整数、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す。)
【請求項3】
イオン導電剤として、一般式〔1〕または一般式〔2〕で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物から選択される少なくとも1種と過塩素酸塩類から選択される少なくとも1種とが含有されてなることを特徴とする導電性付与剤。
【請求項4】
過塩素酸塩類が、アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項3に記載の導電性付与剤。
【請求項5】
過塩素酸塩類が、過塩素酸リチウムであることを特徴とする請求項3に記載の導電性付与剤。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の導電性付与剤において、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類との質量比が1:10〜10:1の範囲であることを特徴とする導電性付与剤。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の導電性付与剤において、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物からなるイオン導電剤が、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体、ポリエチレン−ポリアルキレングリコールグラフト共重合体からなるポリエーテルポリオール類から選択される少なくとも1種に添加されてなることを特徴とする導電性付与剤。
【請求項8】
請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の導電性付与剤において、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミド化合物と過塩素酸塩類とからなるイオン導電剤が、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体、ポリエチレン−ポリアルキレングリコールグラフト共重合体からなるポリエーテルポリオール類から選択される少なくとも1種に添加されてなり、かつ該ポリエーテルポリオール類100質量部に対して、過塩素酸塩類が20質量部未満添加されてなることを特徴とする導電性付与剤。
【請求項9】
熱可塑性樹脂100質量部に、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の導電性付与剤が、0.1〜30質量部添加されてなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項10】
ゴムまたはエラストマー100質量部に、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の導電性付与剤が、0.1〜30質量部添加されてなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項11】
紫外線硬化型樹脂100質量部に、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の導電性付与剤が、0.1〜30質量部添加されてなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物を用いて作製されてなることを特徴とする導電性樹脂フィルム。
【請求項13】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物を用いて作製されてなることを特徴とするコーティング液組成物。


【公開番号】特開2006−40643(P2006−40643A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216402(P2004−216402)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】