説明

導電性伸縮性編地

【課題】柔軟で高い伸縮性を持ちながら生地が変形・伸長した場合でも電気抵抗の変化が小さく、且つ優れた導電性を保持する特性を有し、衣料製品のみならず配線やセンサー用途にも使用可能な導電性伸縮性編地を提供すること。
【解決手段】導電糸と、非導電糸からなる編地を構成する全編目数に対する導電糸が形成する編目数の割合が70%以下であり、面方向に導通性があり、好適には、導電糸が間欠的に編目を形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編物特有の柔軟性を有し、変形・伸縮をしても安定した導電性を保持することができる導電性伸縮性編物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェアラブルコンピューター、ユビキタスコンピューティングが注目を浴びており、衣料等の繊維製品に導電性を持たせ、様々な電子デバイスとして利用しようとする考え方がある。
しかしながら、伸縮性のある繊維材料に対して、その変形・伸縮時の電気抵抗値の変化率が小さい材料は、実用に到っていないのが現状である。
【0003】
繊維材料に導電性を持たせる方法は、種々考案されているが、繊維の特性である、柔軟性を損ねずに導電性を付与する方法としては、メッキ、金属蒸着、スパッタリングなどにより繊維材料の表面に金属薄膜を形成させる方法が挙げられる。
ところで、このような方法で導電性を付与された繊維材料は、その変形によって金属被膜の割れや剥離などにより、電気抵抗値の増大や、最悪の場合、導電性の喪失という事態となることは避けられない。ましてや伸縮性のある繊維材料に関しては、その変形や伸縮によって、電気抵抗値が大きく変化してしまうという欠点があった。
【0004】
以下の特許文献1には、高捲縮繊維を主体とする高伸度布に無電解めっき、金属蒸着、スパッタリング又は導電塗料の塗布にて導電加工を施した導電繊維シートが開示されている。この導電繊維シートは伸張させても捲縮繊維の捲縮が伸ばされることより、金属層に亀裂が生じない状態でシートを伸張させることができるので、表面抵抗が大きくならず、電子機器のプラスチック成型品のシールド材として安定したシールド効果と成形性を有することができる。
しかしながら、このような導電繊維シートは、柔軟性や伸度の不足から、その応用範囲は限られる。
【0005】
また、以下の特許文献2には、伸縮性のある糸を、めっき、金属蒸着、スパッタリング、導電塗料のいずれか一つの方法で導電性を持たせた合成繊維でカバーリングした複合糸を、全部又は一部に用いて製編された編物が開示されている。
しかしながら、特許文献2の伸縮性導電布帛では、編地内で複合糸が形成する編目ループ同士が接触しており、生地を変形・伸長した場合に編目ループが非接触となり電気抵抗値に大きな変化が生じ、生地の変形・伸長しても未変形時・未伸縮時と同等の安定した電気抵抗値の求められる用途では、その要求を満足することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2908543号明細書
【特許文献2】特開2007−191811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、柔軟で高い伸縮性を持ちながら生地が変形・伸長した場合でも電気抵抗の変化が小さく、且つ優れた導電性を保持する伸縮性編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、伸縮性編地において、導電糸が形成する編目数が全編目数の70%以下にすることにより、面方向に導通性があり、かつ、編地を50%伸長した際の電気抵抗値の変化率が、編地のタテ及びヨコ方向において20%以下となることを予想外に見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]編地を構成する全編目数に対する導電糸が形成する編目数の割合が70%以下であり、面方向に導通性があることを特徴とする導電性伸縮性編地。
【0010】
[2]編地を構成する全編目数に対する導電糸が形成する編目数の割合が35%以下である、前記[1]に記載の導電性伸縮性編地。
【0011】
[3]前記導電糸が間欠的に編目を形成している、前記[1]又は[2]に記載の導電性伸縮性編地。
【0012】
[4]前記編地を50%伸長した際の電気抵抗値の変化率が、該編地のタテ及びヨコ方向で20%以下である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性伸縮性編地。
【発明の効果】
【0013】
本発明の伸縮性編地は、高い柔軟性、導電性を有し、変形・伸縮をした際にも安定した導電性を保持する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の編組織図
【図2】実施例2の編組織図
【図3】実施例3の編組織図
【図4】実施例4の編組織図
【図5】実施例5の編組織図
【図6】実施例6の編組織図
【図7】比較例1の編組織図
【図8】比較例2の編組織図
【図9】比較例3の編組織図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における導電性伸縮性編地は、導電糸と非導電糸からなる。
本発明における導電糸とは、導電体からなる糸のことであり、非導電糸とは絶縁体からなる糸のことである。ここで導電体とは比抵抗(体積抵抗率ともいう。)が10Ω・cm未満のものを言い、比抵抗が10Ω・cm以上のものを絶縁体という。ここで「比抵抗」とは、どのような材料が電気を通しにくいかを比較するために用いられる物性値であり、例えば、「JIS K−7194」に準拠して測定することができる。
【0016】
本発明において導電糸は特に限定されるものではなく、銅やステンレス等の金属繊維、炭素繊維、導電性ポリマーで形成された繊維、合成繊維にスパッタリング法、鍍金法など従来技術の方法により金属を繊維表面にコーティングした導電糸、カーボンナノチューブをコーティングした導電糸、硫化銅を繊維表面に結合させた導電糸、合成繊維の中に導電性カーボンブラックや金属粉末、硫化銅、硫化亜鉛などの金属化合物、導電ポリマーなどの導電物質を練り込んだ糸などが挙げることができる。ここで使用される合成繊維は特に限定されない。合成繊維としては、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系などが挙げられ。繊維形態としては、フィラメント、ステープルのいずれでもよく、また混繊状態であってもよい。また、繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、丸形でも、三角、四角形等の多角形状や扁平等の異形断面形状であっても、また、中空部を有するものであってもよい。
【0017】
これらの導電糸の中でも硫化銅を繊維表面に結合させた導電糸は、化学変化による経時変化が少なく導電性に優れていることから好ましく、この硫化銅をアクリル系繊維表面に結合させた導電糸(例えば、日本蚕毛染色株式会社製の「サンダーロン」)では、繊維に対する硫化銅の結合量を適宜調節するなどして所望の抵抗値を付与することができるため、より好ましい。
【0018】
導電糸の10cmあたりの抵抗値は、10−1〜10Ωであることが好ましい。ここで「10cmあたりの抵抗値」とは、5V程度の低電圧をかけたときの導電糸10cm間の抵抗値であり、汎用のテスター(抵抗測定値の最大値が60MΩ程度)を用いて測定することができる。尚、本発明の編地は、典型的には配線やセンサとして使用するため、帯電防止を目的とした高電圧での評価は適切ではない。導電糸の10cmあたりの抵抗値が10Ωより大きいと、編地の導電性が十分ではない。導電糸の10cmあたりの抵抗値は、より好ましくは10−1〜×10Ωであり、さらに好ましくは10−1〜×10Ωである。
【0019】
使用する導電糸の繊度は特に限定されるものではなく、繊維形態がフィラメントの場合、例えば、22〜5600dtex、好ましくは33〜3300dtex、より好ましくは56〜1670dtexである。導電糸のフィラメント数は特に限定されるものではなく、電気抵抗値の安定性の観点からは、モノフィラメントやフィラメント数が少ないほうが好ましいが、伸縮性編地に柔軟性が要求される場合、単糸繊度が1〜5dtexのマルチフィラメントが好ましい。また、繊維形態がステープルの場合、導電糸の繊度は毛番手で1/2〜1/300、好ましくは1/3〜1/180、より好ましくは1/6〜1/120である。
【0020】
本発明において導電糸とともに用いる非導電性の糸については特に限定されるものではなく、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、人造繊維、無機繊維、それらの2種類以上の併用などのいずれであってもよい。また、編地に優れた伸縮性を持たせるために弾性糸を併用することが好ましい。本発明において使用する弾性糸は、繊維自体が本来的にゴム状弾性を有する弾性繊維から構成される糸であることが好ましい。この弾性繊維としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸など、天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、これらを主体とした他の有機合成樹脂との複合又は混合によって得られる弾性糸等が挙げられる。とりわけ、細繊度でも優れた弾性特性を発揮できることからポリウレタン弾性糸が好ましい。この弾性糸は、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの糸条形態であってもよい。また、弾性糸は、そのまま生糸として使用してもよく、非弾性糸又は弾性糸で被覆した加工糸として使用してもよい。
【0021】
本発明の導電性伸縮性編地としては、緯編、丸編、経編のいずれも使用することができる。糸使い、編組織等は用途、ストレッチ性、厚み、目付け等の要求によって適宜選択できるが、本発明の導電性伸縮性編地は、非導電性の糸で伸縮性を持った地組織を構成し、導電糸が地組織に編み込まれており、さらに生地の面方向に導通性を持つ必要がある。
【0022】
本発明の導電性伸縮性編地において面方向に導通性を持たせるためには、隣り合う導電糸同士が接触している必要がある。例えば、導電糸のみで丸編の天竺組織で編地を形成した場合、全ての導電糸が隣り合う導電糸と接触しているため面方向に導電性があるが、導電糸と非導電糸を単純に一本交互に配列して天竺組織で編地を形成した場合、隣り合う導電糸同士が接触していないため、一方向への導電性はあるものの、他方向への導電性が無いものとなってしまう。そのため、面方向に導通性を持たせるためにはタックやウェルト等の編組織変化により隣り合う導電糸同士を接触させる必要がある。その場合、同一の編目内で隣り合う導電糸同士が接触していることが好ましく、また、挿入編などでループを形成していない場合、導電糸同士が非接触となり面方向の導電性が失われる場合があるため、接触部分では導電糸はニットループを形成していることがより好ましい。
【0023】
本発明の導電性伸縮性編地は、編地を50%伸長した際の電気抵抗値の変化率が、タテ及びヨコ方向においていずれも20%以下となることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
例えば、特許文献2に開示されている伸縮性を持つ糸を導電糸でカバーリングした複合糸を用いて製編された編物では、編地内で複合糸が形成する編目ループ同士が接触しており、生地を変形・伸長した場合に編目ループが非接触となり電気抵抗値に大きな変化が生じ、生地の変形・伸長しても未変形時・未伸縮時と同等の安定した電気抵抗値の求められる用途では、その要求を満足することができない。
【0024】
導電糸を使用した編地において、生地の伸縮により電気抵抗値が変化する要因は、編地が伸長されていない時には編地内で同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触することにより電気的短絡が発生しているが、生地が伸長された場合にはこの接触部分の乖離が生じて電気的短絡が無くなるためである。
これらのことから、編地を伸長しても未伸長時と同等の安定した電気抵抗値を得るためには、編地内での導電糸の接触をできるだけ少なくする必要があり、鋭意検討した結果、導電糸の形成する編目数の割合が、編地を構成する全編目数の70%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下であれば、前記した伸縮による電気抵抗値の変化率はタテ及びヨコ方向においていずれも20%以下となることが判明した。
【0025】
本発明において、「編地を構成する全編目数」とは、編地の一完全組織の編目数をいう。また、「導電糸が形成する編目数」とは、該完全組織内に存在する導電糸により形成された編目の数をいう。編地において、「編地を構成する全編目数」に対する「導電糸が形成する編目数」の割合が70%を超える場合、生地が伸長されていない際に編地内で同一の導電糸が形成するループが隣り合う数が多くなり、その結果、生地の伸長時に接触部分の乖離が生じる数も多くなってしまい電気抵抗値が大きくなり50%伸長時の電気抵抗値の変化率は20%を超えてしまう。
【0026】
本発明において、導電糸が形成する編目数の割合を、編地を構成する全編目数の70%以下にするためには、糸抜きや間欠的な編目編成とすることが好ましい。糸抜き編成とは丸編、緯編であれば、導電糸のコース列を連続させずに部分的に導電糸を抜いて非導電糸を編み込むことをいい、経編であれば導電糸を供給する筬の全ガイドから部分的に導電糸を抜いた状態で導電糸を編み込むことをいう。経編において、筬の全ガイドに糸が入った状態を「オールイン」といい、糸抜き編成の場合、例えば糸を15本おきに1本の割合でガイドに入れる場合、「1イン/15アウト」、7本おきに1本の割合でガイドに入れる場合、「1イン/7アウト」と表現する。また、間欠的な編目編成とは、丸編、緯編であれば導電糸の編組織にタック、ミス等の変化組織を組み込むことによって、経編であればループを構成する編目の前後に挿入編を組み込むことによって導電糸が連続的に編目を形成せず編目数を減らして編成することをいう。間欠的な編目編成により、同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触することを減らすことができる。特に経編においては、非導電糸からなる地組織に、導電糸を糸抜きのアトラス組織によって格子柄状に編み込むことで、導電糸同士の編目の接触を大幅に減らすことができ好ましい。更に好ましくは、導電糸をアトラス組織にて編み込む場合にニットループと挿入編を組み合わせて同一の導電糸で形成されるニットループが連続しない編組織にすることにより同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触することが殆ど無くなり、生地伸長時の電気抵抗の変化率が極めて小さくなる。
【0027】
本発明の導電性伸縮性編地において、非導電糸からなる地組織に導電糸を格子柄状に編み込む場合、格子柄としては菱格子、三角格子、正方格子、六角格子等が挙げられる。格子柄の形や大きさは用途によって適宜選択できる。ここで、格子柄の大きさとは三角格子であれば三角形の高さのことをいい、菱格子、正方格子、六角格子であれば最も長い対角線の長さのことをいう。格子柄の大きさは、面方向の導通性を向上させるためには2〜30mmが好ましく、より好ましくは2〜20mm、さらに好ましくは2〜10mmである。
【0028】
本発明において、編地の面方向に導電性を付与するために、上下又は左右に隣り合う導電糸を接触させる方法としては、製編において上下又は左右に隣り合う導電糸が少なくとも一部分で同一のニットループを形成する方法、1本の導電糸のニットループに別の導電糸のニットループが連なる方法、1本の導電糸のニットループと別の導電糸のシンカーループ、挿入糸、又はタック糸が接触する方法、隣り合う導電糸の挿入糸が部分的に重なり合って接触する方法等のいずれの方法であってもよい。このうち、上下又は左右に隣り合う導電糸が少なくとも一部分で同一のニットループを形成する方法が、導電糸の接触が強固になる上で好ましく、さらに少なくとも1本の導電糸の形成するニットループを閉じ目の編目で形成すると、同一ニットループ内での導電糸の接触がより強固になると共に、生地が伸張した時でも導電糸同士の接点にズレが生じ難く電気抵抗値の変化が小さくなることからより好ましい。
【0029】
本発明の導電性伸縮性編地において、導電糸は編地の表面に露出してもよく、非導電糸によって被覆されていてもよいが、用途に応じて、電気配線を行うための接続端子が編地表面に必要となる場合や、電極等として使用する場合には、導電糸が編地表面により露出している方が好ましい。一方、本発明の導電性伸縮性編地を回路基板等として使用する場合には、回路の短絡を防止するために導電糸の表面露出を抑えるほうが好ましい。
【0030】
経編において、導電糸を表裏両面に露出させるためには、導電糸を編機のフロント側の筬に配置して供給することが好ましく、導電糸の表裏の片面の露出を抑えるためには、導電糸を編機のバック側の筬に配置して供給することが好ましい。
【0031】
本発明の導電性伸縮性編地の編地密度は、用途、ストレッチ性、厚み、目付け等の要求によって適宜選択できる。本発明において、編地密度とは、染色仕上げ後の編地の密度であり、編成時には編地の収縮等を見込んだ編地設計をする必要がある。この編地密度は、2.54cm間当たりのループの数である。編地密度比(コース数/ウエール数)が1.55未満であれば、ツーウェイ経編地の横方向左右の端部にカールが発生しやすく、また、編地密度比が2.35より大きいとツーウェイ経編地の経方向の上下の編地端部にカール現象が発生しやすくなる。編地密度比は、好ましくは1.65〜2.25である。本発明における編地密度比に関する編地の設計は、基本的には編機のゲージが変わっても可能であるが、例えば、28ゲージの場合、最も好ましい編地密度比は1.56〜1.93であり、36ゲージの編機の場合、最も好ましい編地密度比は1.85〜2.35であるなど、ゲージが細かくなるほど編地密度比の最も好ましい範囲が高くなる傾向がある。ツーウェイ経編地の編地密度比を1.55〜2.35となるよう編地設計を行う方法は、例えば、編成時には弾性糸のランナー長(ラン・インとも呼ばれ、1つの編目を形成する糸の長さを示す指標で同じ組織で数字が大きいほど粗な編目となり、経編分野では480コース当りの糸長で表わす。)を、ナイロン繊維やポリエチレンテレフタレート繊維と弾性繊維との交編編地における場合よりも多くし、かつ、機上コース(編成時の1つの編目の高さを示す指標で編地巻取量であるコース数が多いほど高密を表わす。)を粗にして編成する必要がある。
【0032】
本発明の導電性伸縮性編地はストレッチ性を有しており、この特性によりフィット性を得ることができる。伸縮性編地のストレッチ方向はタテ方向、ヨコ方向のいずれか一方でもよいが、2方向にすることで一層フィット性が良好になる。伸縮性編地の伸長率は使用する目的により最適な伸長率に調整することが好ましい。生地の伸長率はJIS−L−1018「メリヤス生地試験方法」の定荷重時伸び率の測定方法に準じて測定する。例えば、シャツやスパッツのように人間の体に密着し、体の動きに追従することを要求される分野では、伸長率は50%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上である。但し、あまりに伸長率が高すぎると、寸法安定性が悪くなる場合があるので、300%以下であることが好ましく、より好ましくは250%以下である。使用時にワライなどの問題が起こらないためには伸長回復率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0033】
本発明の導電性伸縮性編地は、製編された生機を精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットで形状を安定させることが好ましい。また、本発明の導電性伸縮性編地が水分や湿気等の影響を受け難くするために、伸縮性編地の表面にコーティングやラミネート法等によりウレタンやシリコン等の樹脂加工を施すこともできる。
【0034】
本発明において伸縮性編地の電気抵抗値測定方法は実施例にて説明するが、生地を50%伸長した際の電気抵抗値の変化率が、20%であることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。電気抵抗値の変化率が20%を超えると電子デバイスとして編地を使用することができない可能性がかなり高くなる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の導電性伸縮性編地の各特性は以下の方法に従って測定した。
(1)導電糸の編目数割合
伸縮性編地において、編地を構成する一完全組織中の全編目数に対する、導電糸により形成された編目数の割合を算出した。
【0036】
(2)面方向の導通性
120mm×120mmの試料を用意し、試料の外周から約1cm部分で導電糸が生地表面に露出している部分にテスターの端子を当て、他の導電糸が露出している部分にもう一方のテスター端子を当て、面方向の導通性を測定した。
【0037】
(3)生地伸長前後の電気抵抗値、及び電気抵抗値の変化率
25mm×150mmの試料をタテ、ヨコの方向毎にそれぞれ用意し、25mm×25mmの銅板を装着したクリップを端子として用い、タテ又はヨコ方向において該試料の両端を、該端子間距離が100mmとなるように該クリップで挟んだ。次いで、この状態(0%伸長)で、端子間の電気抵抗値をテスターを用いて、タテ方向、ヨコ方向共に測定した。また、クリップ端子を引っ張り、端子間の距離が150mmとなるように(50%伸長)した状態で、同様に伸張時の電気抵抗値を測定した。電気抵抗値の変化率(%)とは、50%伸長時の電気抵抗値を0%伸長時の電気抵抗値で除して100を掛けた値である。
【0038】
[実施例1]
導電糸として毛番手2/52の硫化銅結合アクリル紡績糸(日本蚕毛染色株式会社製「サンダーロン」)を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸(旭化成せんい株式会社製「ロイカ」)を使用し、28ゲージのトリコット編機(カールマイヤー製KS4)を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L2筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
L3筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/15アウト)
L4筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/15アウト)
・編組織(図1参照)
L1筬(バック1):デンビ
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):16コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
L4筬(フロント2):16コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
【0039】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が10mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が256個であり、一方、導電糸が形成した編目数が14個であるため、導電糸の編目数割合が5.5%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、導電糸が糸抜き編成である上に間欠的に編目を形成しているため、同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触しておらず、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ5.5%と5.1%であった。
【0040】
[実施例2]
導電糸として110dtex/24fの硫化銅結合ナイロン糸(日本蚕毛染色株式会社製「サンダーロン」)を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L2筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
L3筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/15アウト)
L4筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/15アウト)
・編組織(図2参照)
L1筬(バック1):デンビ
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):16コースアトラス
L4筬(フロント2):16コースアトラス
【0041】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が10mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が256個であり、一方、導電糸が糸抜き編成であることにより、導電糸が形成した編目数が30個であるため、導電糸の編目数割合が11.7%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ10.0%と10.9%であった。
【0042】
[実施例3]
導電糸として毛番手2/52の硫化銅結合アクリル紡績糸を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/7アウト)
L2筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/7アウト)
L3筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L4筬: ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
・編組織(図3参照)
L1筬(バック1):8コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
L2筬(バック2):8コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
L3筬(フロント1):デンビ
L4筬(フロント2):コード
【0043】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が5mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が64個であり、一方、導電糸が形成した編目数が6個であるため、導電糸の編目数割合が9.4%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、導電糸が糸抜き編成である上に間欠的に編目を形成しているため、同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触しておらず、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ5.3%と5.2%であった。
【0044】
[実施例4]
導電糸として110dtex/24fの硫化銅結合ナイロン糸を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/7アウト)
L2筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/7アウト)
L3筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L4筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
・編組織(図4参照)
L1筬(バック1):8コースアトラス
L2筬(バック2):8コースアトラス
L3筬(フロント1):デンビ
L4筬(フロント2):コード
【0045】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が5mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が64個であり、一方、導電糸が糸抜き編成であることにより、導電糸が形成した編目数が14個であるため、導電糸の編目数割合が21.9%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ7.0%と12.3%であった。
【0046】
[実施例5]
導電糸として毛番手2/52の硫化銅結合アクリル紡績糸を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/3アウト)
L2筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(1イン/3アウト)
L3筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L4筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
・編組織(図5参照)
L1筬(バック1):4コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
L2筬(バック2):4コースアトラス(ニットループと挿入編の組み合わせ)
L3筬(フロント1):デンビ
L4筬(フロント2):コード
【0047】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が3mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が16個であり、一方、導電糸が形成した編目数が2個であるため、導電糸の編目数割合が12.5%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、導電糸が糸抜き編成である上に、間欠的に編目を形成しているため、同一の導電糸が形成する隣り合うループ同士が接触しておらず、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ6.5%と13.2%であった。
【0048】
[実施例6]
導電糸として110dtex/24fの硫化銅結合ナイロン糸を使用し、非導電糸として56dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/3アウト)
L2筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(1イン/3アウト)
L3筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L4筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
・編組織(図6参照)
L1筬(バック1):コード
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):デンビ
L4筬(フロント2):コード
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
【0049】
得られた導電性伸縮性編地は、導電糸の形成する格子柄が2mmの大きさの菱格子であり、編地を構成する一完全組織中の全編目数が6個であり、一方、導電糸が糸抜き編成であることにより、導電糸が形成した編目数が2個であるため、導電糸の編目数割合が33.3%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ7.0%と6.9%であった。
【0050】
[比較例1]
導電糸として110dtex/24fの硫化銅結合ナイロン糸を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L2筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
L3筬:硫化銅結合ナイロン糸 110dtex/24f(オールイン)
・編組織(図7参照)
L1筬(バック1):デンビ
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):デンビ
【0051】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、編地を構成する一完全組織中の全編目数が14個であり、一方、導電糸が形成した編目数が14個であるため、導電糸の編目数割合が100%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富んでいたが、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ28.6%と27.8%であった。
【0052】
[比較例2]
導電糸として毛番手2/52の硫化銅結合アクリル紡績糸を使用し、非導電糸として110dtex/48fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L2筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
L3筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(オールイン)
・編組織(図8参照)
L1筬(バック1):デンビ
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):コード
【0053】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、編地を構成する一完全組織中の全編目数が6個であり、一方、導電糸が形成した編目数が6個であるため、導電糸の編目数割合が100%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富んでいたが、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ33.3%と35.7%であった。
【0054】
[比較例3]
導電糸として毛番手2/52の硫化銅結合アクリル紡績糸を使用し、非導電糸として110dtex/72fのポリエステル糸と44dtex/3fのポリウレタン糸を使用し、28ゲージのトリコット編機を用いて以下の条件にて製編を行い、生機を得た。
・糸使い
L1筬:ポリウレタン糸 44dtex/3f(オールイン)
L2筬:ポリエステル糸 110dtex/48f(オールイン)
L3筬:硫化銅結合アクリル紡績糸 2/52(オールイン)
・編組織(図9参照)
L1筬(バック1):デンビ
L2筬(バック2):コード
L3筬(フロント1):8コースアトラス
【0055】
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットにて形状を安定させ、導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、編地を構成する一完全組織中の全編目数が64個であり、一方、導電糸が形成した編目数が64個であるため、導電糸の編目数割合が100%であり、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富んでいたが、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ48.1%と48.1%であった。
【0056】
〔比較例4〕
導電糸として、44dtex/13fの銀メッキポリエステル糸と、44dtex/13fの銀メッキポリエステル糸を34dtexのポリウレタン糸に500回/m巻き付けたカバーリング糸を使用し、ダブルニット丸編機を用いてポンチローマ組織にて製編を行い、生機を得た(編組織は図示せず)。
次いで、得られた生機を、精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮性編地を得た。
得られた導電性伸縮性編地は、全編目が導電糸で編み込まれており、面方向に導通性があり、柔軟で伸縮性に富んでいたが、50%伸張したときの電気抵抗値の変化率はタテ方向ヨコ方向でそれぞれ59.3%と40.0%であった。
【0057】
以上の実施例1〜6及び比較例1〜4で得た導電性伸縮性編地の各種測定結果を以下の表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の導電性伸縮性編地は、柔軟で高い伸縮性を持ちながら生地が変形・伸長した場合でも電気抵抗の変化が小さく、且つ優れた導電性を保持する導電性伸縮性編地であるため、衣料製品、ウェアラブルコンピューターの部品、各種センサの部品等として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編地を構成する全編目数に対する導電糸が形成する編目数の割合が70%以下であり、面方向に導通性があることを特徴とする導電性伸縮性編地。
【請求項2】
編地を構成する全編目数に対する導電糸が形成する編目数の割合が35%以下である、請求項1に記載の導電性伸縮性編地。
【請求項3】
前記導電糸が間欠的に編目を形成している、請求項1又は2に記載の導電性伸縮性編地。
【請求項4】
前記編地を50%伸長した際の電気抵抗値の変化率が、該編地のタテ及びヨコ方向で20%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性伸縮性編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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