説明

導電性含水ゲル

【課題】 水の凝固点以下の温度域からなる雰囲気に曝された場合でも、良好な導電性を維持することが可能であり、かつ、界面活性剤やアルコ−ルのようなゲル化剤を添加する必要が無く、簡便な作業工程により安定して製造できる、光透過性の良好な導電性高分子ゲルを提供する。
【解決手段】 親水性の主鎖に、ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を少なくとも有するポリマ−と、水とを含有する導電性含水ゲルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿あるいは水中で膨潤する主鎖を有する有機ラジカルポリマーから形成される導電性含水ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性含水ゲルとしては、例えば以下に示すものが知られている。
【0003】
(1)局部的な生体電気信号の測定および電気治療などに使用される生体用電極に好適に利用できる導電性高分子ゲルが開発されている(特許文献1参照)。具体的には、架橋された合成高分子、水、多価アルコールおよび電解質塩を含む導電性高分子ゲルに関し、架橋された合成高分子が8〜25質量%の範囲にあるときに、作成されたゲル中に含まれる高分子主鎖の割合が最適となり、ゲル強度が高くて腰強度の大きな導電性含水ゲルが得られると記載されている。
【0004】
(2)容易にゲル化し、良好な導電性を備えてなる導電性高分子ゲルおよびその製造方法、該導電性高分子ゲルを用いたアクチュエータ、イオン導入用パッチラベル、生体電極が開発されている(特許文献2参照)。具体的には、水、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)、界面活性剤および/またはアルコールを含み、水の含有量が66質量%以上、98質量%以下のものであり、このゲルは電子伝導とイオン伝導の両者を備えていることから、水の凝固点以下の温度域からなる雰囲気に曝されるような事態に陥っても、導電性が損なわれないと記載されている。
【0005】
(3)モノマーを電解重合する製法により、三次元的なネットワークを形成したゲル状のポリチオフェン誘導体からなる固体フィルムが得られることが知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記の従来例における導電性高分子ゲルおよびその製法には、次に述べるような課題が残されている。
【0007】
上記(1)の導電性高分子ゲルは、電解質を含み、この電解質が導電性を発揮する機能を担っていることから、水の凝固点以下の温度域に曝された場合、導電性が不安定となるか、あるいは導電性が確保できなくなる虞があった。つまり、従来の導電性高分子ゲルは、水の凝固点以下とした低温の雰囲気では、良好な導電性を維持することは困難であった。
【0008】
上記(2)の導電性高分子ゲルは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)の導電性により、水の凝固点以下の温度域からなる雰囲気に曝されるような事態に陥っても、導電性が損なわれないものの、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)と水のみの組み合わせではコロイド分散液となるのみで、ゲル化剤として界面活性剤、および、またはアルコールを添加しなければゲル化することができないものである。またポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)は黒色材料であるため光透過性が悪く、透明電極の用途には用いることができない。
【0009】
上記(3)の導電性高分子ゲルは、電解質を含むことなく導電性を発揮するが、モノマーの重合とゲル化が同一の工程で行われる必要があるため、工程が複雑となり、制御性という観点からは高度な技術を求められる。
【0010】
一方、安定ラジカル分子を高分子化したポリマーが、酸化還元樹脂の一つとして従来から合成されている。このようなポリマーは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下「TEMPO」と略すことがある)が置換したアクリレートやスチレン誘導体のポリマーに代表され、例えばアルコールのアルデヒドやケトンへの酸化触媒能等を示す。
【0011】
本発明者は、電極反応が一般に一電子移動であるため安定ラジカル経由の有機電極反応が可逆性高く生起する点に着目し、このような酸化還元能を電子の授受機能としてとらえ、電荷貯蔵材料として応用している。
【0012】
【化1】

【0013】
例えば、電荷貯蔵材料の例として、有機ラジカルを側鎖に用いたポリマーの蓄電性能に着目し、正極、負極およびプロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを用いた有機電解液を構成要素とする非水系二次電池の電極活物質として応用した例を先に出願した(特許文献3〜10参照)。
【0014】
しかしながら、これらの出願は、非水系二次電池向けの蓄電材料としての開発に関するものであり、水中における安定的な導電性については全く検討されていない。
【0015】
【特許文献1】特許第3437124号公報
【特許文献2】特許第3983731号公報
【特許文献3】特開2004−227945号公報
【特許文献4】特開2004−227946号公報
【特許文献5】特開2004−228008号公報
【特許文献6】特開2004−259618号公報
【特許文献7】特開2006−73239号公報
【特許文献8】特開2006−73241号公報
【特許文献9】特開2007−35375号公報
【特許文献10】特開2007−184227号公報
【非特許文献1】Synthetic Metals 99 (1999) 53−59
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような事情に鑑み、水の凝固点以下の温度域からなる雰囲気に曝された場合でも、良好な導電性を維持することが可能であり、かつ、界面活性剤やアルコールのようなゲル化剤を添加する必要が無く、簡便な作業工程により安定して製造できる、光透過性の良好な導電性高分子ゲルを提供することを課題とする。
【0017】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、親水性の主鎖を有し、ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を少なくとも有するポリマーを含水させた導電性含水ゲルが、良好な導電性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
かかる本発明の第1の態様は、親水性の主鎖に、ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を少なくとも有するポリマーと、水とを含有することを特徴とする導電性含水ゲルにある。
【0019】
本発明の第2の態様は、前記ポリマーの主鎖が、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、およびそれらの共重合体からなる群から選択される一種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性含水ゲルにある。
【0020】
本発明の第3の態様は、前記ニトロキシドラジカル基からなる側鎖が、前記ポリマーの主鎖に環状ニトロキシドが置換することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性含水ゲルにある。
【0021】
本発明の第4の態様は、前記環状ニトロキシドが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(=TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(以下PROXYLと略すことがある)、又は4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−オキシル−3−オキシド(以下ニトロニルニトロキシドと略すことがある)であることを特徴とする請求項3に記載の導電性含水ゲルにある。
【0022】
本発明の第5の態様は、前記ポリマーの主鎖が架橋構造を含むものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の導電性含水ゲルにある。
【0023】
本発明の第6の態様は、前記水と共に支持電解質を含有していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性含水ゲルにある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水の凝固点以下の温度域からなる雰囲気に曝された場合でも、良好な導電性を維持することが可能であり、かつ、界面活性剤やアルコールのようなゲル化剤を添加する必要が無く、簡便な作業工程により安定して製造できる、導電性高分子ゲルを提供することができる。
【0025】
ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を有するポリマーの主鎖が架橋構造を含むことで、任意に導電性含水ゲルの機械的強度を高めることも可能となる。
【0026】
導電性含水ゲルは支持電解質を含有した場合には、水の凝固点より高い温度域とした雰囲気に曝された場合において、一段と優れた導電性を備えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明で用いられるポリマーは、親水性の主鎖を有し、ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を少なくとも有する有機ラジカルポリマーである。
【0028】
ここで、有機ラジカルポリマーの主鎖は、親水性を有し、高分子鎖内に水分あるいは水溶性電解質を取り込んでゲル化できるものであればいかなるものでもよい。
【0029】
ここでいう親水性を有するポリマーの主鎖とは、水に対する親和性が高いポリマー鎖を指す。より具体的には、主鎖となるポリマー鎖からなるポリマー単体と多量の水とを接触させることで、ポリマーの10質量%以上の水が含浸できて、かつゲル化するポリマー鎖を指す。
【0030】
具体的には、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、およびそれらの共重合体からなる群から選択されるものを主鎖とすることができる。
【0031】
また、有機ラジカルポリマーの主鎖は、架橋構造を含むものであってもよい。架橋構造を含むことにより、任意に導電性含水ゲルの機械的強度を高めることが可能となる。
【0032】
本発明において、主鎖が架橋構造を有するとは、高分子化合物が共有結合等により分子間に結合を生じ、三次元ポリマーもしくは網目ポリマーが形成された構造を有することを意味する。本発明の架橋構造を有する重合体は、架橋点の割合に依存して、ある程度の架橋点間距離で、三次元的又は網目状の高分子構造が形成されたものとなる。
【0033】
架橋構造を有する重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、重合反応後に親水性の主鎖を形成するモノマーと、少なくとも一種の多官能性モノマーとを共重合させることにより製造することができる。
【0034】
多官能性モノマーとしては、重合反応後に親水性の主鎖を形成するモノマーと重合する部位を2つ以上、例えば2〜4程度有するモノマーを使用する。重合反応後に親水性の主鎖を形成するモノマーと共重合することができる官能基としては、例えばエチレン系二重結合が挙げられる。多官能性モノマーとして、具体的には、ジビニルベンゼン、多官能アクリレート、多官能メタクリレート等の多官能ビニル系モノマー等が挙げられる。
【0035】
本発明使用できる有機ラジカルポリマーの側鎖置換基を構成するためには、水中でも安定な酸化還元を繰り返すラジカル化合物を使用することができ、水中で安定な一電子移動を行うラジカル化合物であればいかなるものでもよく、例としては、環状ニトロキシドラジカルが挙げられる。
【0036】
環状ニトロキシドラジカルは、環状ニトロキシドを主鎖に置換することに形成され、より詳しくは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(=TEMPO)、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(=PROXYL)、又は4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−オキシル−3−オキシド(=ニトロニルニトロキシド)を置換させることにより形成されたものを挙げることができる。
【0037】
また、ラジカル化合物は、ラジカル化合物の前駆体となる化合物、すなわち、電極反応等で酸化又は還元されてラジカル状態となる化合物でもよく、この場合、ゲルを作成した後に電極反応等の酸化もしくは還元反応によりラジカル部位を生起させればよい。
【0038】
本発明に使用できる有機ラジカルポリマーの数平均分子量は、水に膨潤するが溶け出さない限り特に限定されないが、好ましくは500以上500000以下である。
【0039】
本発明の導電性含水ゲルは、このような有機ラジカルポリマーと水とを含有するものであり、水の少なくとも一部がポリマーの主鎖に取り込まれてゲル化したものである。
【0040】
本発明の導電性含水ゲルとする場合、有機ラジカルポリマーの含水前と含水後の重量変化が、膨潤時にそれほど大きな体積変化を伴わない範囲であることが好ましい。具体的には、0.1質量%以上1000質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
また、本発明の導電性含水ゲルは水と共に支持電解質を含有してもよい。支持電解質を含有することにより、水の凝固点より高い温度域とした雰囲気に曝された場合には、一段と優れた導電性を備えることが可能となる。支持電解質を含有する場合の濃度は、水に溶解する限り特に限定されないが、好ましくは0.01〜10mol/lである。
【0042】
本発明で支持電解質として使用できる電解質塩は、当該分野で公知の電解質塩であってよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化ニッケル、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸ニッケルなどを挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の詳細について合成例、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<重合体の合成>
[製造例1]
(製造例1−1)N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミドの合成
【0045】
【化2】

【0046】
4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 2.5g(15.9mmol)をベンゼン中、アクリルクロライド 1.29ml(15.9mmol)と反応させる。室温で2時間攪拌後、析出した固体を回収し、再結晶精製を経て白色板上結晶としてN−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミド 1.38g(収率41%)を得た。
【0047】
得られたN−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミドのNMR測定データ、質量分析、および元素分析結果を以下に示す。
【0048】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):6.30(d, 1H, J=1.5Hz), 6.09−6.04(q, 1H), 5.63(d, 1H, J=11.6Hz), 5.40(s, 1H), 4.36(m, 1H), 1.92(d, 1H, J=12.5Hz), 1.27(s, 6H), 1.13(s, 6H), 0.95(t, 2H, J=12.2Hz)
【0049】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):164.7, 131.3, 126.0, 50.9, 45.2, 42.7, 35.1, 28.6.
【0050】
Mass(m/z): [M+1]: found,211;calcd,211.
【0051】
元素分析Found:C,62.9; H, 9.5; N, 11.1%. Calcd : C,63.9; H, 9.7; N, 11.7%
【0052】
(製造例1−2)ポリ(N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミド)の合成
【0053】
【化3】

【0054】
N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミド 100mg(0.47mmol)をエタノ−ル中、アゾビスイソブチロニトリル(AIBNと略す) 3.8mg(24μmol)を開始剤として、70℃で二時間攪拌し、ポリ(N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミド)を無色透明固体83mg(収率83%)として得た。
【0055】
(製造例1−3)ポリ(N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル)−アクリルアミド)の合成
【0056】
【化4】

【0057】
ポリ(N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アクリルアミド) 100mgを、3等量のm−クロロ過安息香酸(mCPBAと略す)246mgとアセトン中で24時間攪拌した。橙色固体を回収し、メタノールを用いて洗浄した。得られたポリマーの分子量は数平均分子量38000(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)2.2であった。(収量80mg、収率80%)ESR測定およびSQUID磁化測定よりラジカルの定量的な発生を確認した。
【0058】
[製造例2]
(製造例2−1)4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの合成
【0059】
【化5】

【0060】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 2.57g(14.9mmol)、炭酸ナトリウム 944mg(8.92mmol)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ジイリジウム(I)ジクロリド(=[Ir(cod)Cl]2)103mg(141μmol)をトルエン中、アルゴン雰囲気下で攪拌し、さらに酢酸ビニル 2.8ml(29.2mmol)を加え、90℃で5時間反応させた。エーテル抽出、クロロホルムを用いカラム精製を経て4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 1.44g(収率49%)を得た。
【0061】
得られた4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルのNMR測定データ、質量分析、および元素分析結果を以下に示す。
【0062】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):6.44(dd, 1H, J=8.7, 7.7Hz), 4.47(d, 1H, J=5.0Hz), 4.19(m, 2H), 1.68(t, 2H, J=12.1Hz), 1.33(s, 6H), 1.30(s, 6H).
【0063】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):150, 88.0, 58.5, 44.0, 20.3.
【0064】
Mass(m/z): [M]:found,198; calcd,198.
【0065】
元素分析Found:C,66.2; H,9.9; N, 7.0%. Calcd : C,67.0; H, 9.7; N, 7.1%
【0066】
(製造例2−2)ポリ(4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)の合成
【0067】
【化6】

【0068】
4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 97.0g(489mmol)をジクロロメタン溶媒 550ml中、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体 1.23ml(9.8mmol)を開始剤として−20℃で20時間反応させた。メタノール中に分散洗浄させた後、50℃で12時間減圧乾燥することでポリ(4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)を得た(収量92.6g、収率96%)。
【0069】
[製造例3]
(製造例3−1)4−グリシジロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの合成
【0070】
【化7】

【0071】
50質量%水酸化ナトリウム水溶液 4mlにエピクロロヒドリン 2.5ml(30mmol)テトラブチルアンモニウム硫酸水素ナトリウム 84mg(239μmol)を加え、攪拌する。4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチルピペリジン−1−オキシル 1.03g(5.98mmol)をさらに加え、室温で12時間反応させる。エーテル抽出、エ−テル/ヘキサン混合溶媒(混合容積比=1/1)を用いカラム精製を経て4−グリシジロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 1.14g(収率84%)を得た。
【0072】
得られた4−グリシジロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルのNMR測定データ、質量分析、および元素分析結果を以下に示す。
【0073】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):3.71(dd, 1H, J=11.3, 3.0Hz), 3.64(m, 1H), 3.40(dd, 1H, J=11.3, 5.8Hz), 3.11(m, 1H), 2.77(t, 1H, J=4.6Hz), 2.58(dd, 1H, J=5.2, 2.7Hz), 1.92(m, 2H), 1.44(q, 2H, J=12.2Hz), 1.14(s, 6H).
【0074】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):71.1, 68.9, 58.9, 50.9, 44.5, 44.3, 32.0 ,20.5.
【0075】
Mass(m/z): [M]: found,228; calcd,228.
【0076】
元素分析Found:C,62.9; H, 9.5; N, 6.2%. Calcd : C,63.1; H, 9.7; N, 6.1%
【0077】
(製造例3−2)ポリ((2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル)−グリシジルエーテル)の合成
【0078】
【化8】

【0079】
4−グリシジロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 228mg(1.00mmol)をテトラヒドロフラン(=THF)中、tert−ブトキシカリウム(=t−BuOK) 5.6mg(0.05mmol)を重合開始剤として加え、窒素雰囲気下、60℃で24時間反応後、ジエチルエーテルへの再沈殿精製を経て橙色粉末としてポリ((2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル)−グリシジルエーテル)を得た。得られたポリマーの分子量は数平均分子量3600(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)1.4であった(収量150mg、収率66%)。
【0080】
[製造例4]
(製造例4−1)4−ビニルベンズアルデヒドの合成
【0081】
【化9】

【0082】
メチルトリフェニルホスフィンブロミド 2.70g(7.58mmol)をTHF中、炭酸カリウム 1.24gと、氷浴中で攪拌し、イリドを形成させる。テレフタルアルデヒド 1.00g(7.46mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。クロロホルム抽出、およびヘキサン/クロロホルム混合溶媒(混合容積比=1/2)を用いカラム精製を経て4−ビニルベンズアルデヒド 531mg(収率54%)を得た。
【0083】
得られた4−ビニルベンズアルデヒドのNMR測定データ、および質量分析結果を以下に示す。
【0084】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):9.94(s, 1H), 7.78(d, 2H, J=8.5Hz), 7.61(d, 2H, J=8.5Hz), 6.76(dd, 4H, J=10.7, 17.5Hz), 5.86(d, 1H, J=17.4Hz), 5.38(d, 1H, J=11.0Hz).
【0085】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):191.1, 142.9, 135.5, 135.3, 129.6, 126.3, 117.0.
【0086】
Mass(m/z): [M]: found,132; calcd,132.
【0087】
(製造例4−2)4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−1,3−ジオールの合成
【0088】
【化10】

【0089】
4−ビニルベンズアルデヒド 3.11g(23.5mmol)を水、メタノール混合溶媒中、酢酸ナトリウム 2.12g(25.8mmol)とビスヒドロキシルアンモニウムスルフェート塩 6.36g(25.8mmol)を加え、24時間攪拌した。反応終了後、溶媒を除去し、固体を水洗し、4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−1,3−ジオール 4.92g(収率80%)を得た。
【0090】
得られた4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−1,3−ジオールのNMR測定データ、質量分析、および元素分析結果を以下に示す。
【0091】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):7.48(q, 4H, J=27.7, 4.0Hz), 6.76(dd, 1H, J=10.6, 17.7Hz), 5.84(d, 1H, J=18.0Hz), 5.22(d, 1H, J=10.7Hz), 4.64(s, 1H), 1.15(s, 6H).
【0092】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):165.0, 145.3, 139.8, 131.5, 128.3, 115.8, 93.3, 69.3, 37.5, 32.3, 27.0, 19.7.
【0093】
Mass(m/z): [M+1]: found,263; calcd,263.
【0094】
元素分析Found:C,49.1; H, 5.7; N, 8.9%. Calcd:C,49.5; H,6.1; N,8.9%
【0095】
(製造例4−3)1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジンの合成
【0096】
【化11】

【0097】
4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−1,3−ジオール 3.00g(11.4mmol)をジメチルホルムアミド(=DMF)中、イミダゾ−ル 3.89g(57.2mmol)とtert−ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMS−Clと略す) 8.6g(57.2mmol)を加えて、50℃、アルゴン雰囲気下で12時間攪拌した。クロロホルム抽出、およびヘキサンを用いたカラム精製を経て1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン 3.81g(収率68%)を得た。
【0098】
得られた1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジンのNMR測定データ、質量分析、および元素分析結果を以下に示す。
【0099】
1H−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):7.37(s, 4H), 6.76(dd, 4H, J=17.7, 11.1Hz), 5.79(d, 1H, J=17.7Hz), 5.29(d, 2H, J=11.0 Hz), 4.63(s, 1H), 1.20(s, 12H), 0.83(s, 18H), −0.04(s, 6H), −0.82(s, 6H).
【0100】
13C−NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):137.2, 137.0, 130.9, 125.4, 113.2, 93.9, 24.8, 26.3, 17.9, 17.2, −3.8, −5.04.
【0101】
Mass(m/z): [M]: calcd,489;found,490.
【0102】
元素分析Found:C,66.3; H, 10.0; N, 5.7%. Calcd for C275222Si2:C,66.1; H,10.3; N,5.7%
【0103】
(製造例4−4)1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−アクリルアミド共重合体の合成
【0104】
【化13】

【0105】
1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン 100mg(204μmol)とアクリルアミド 10mg(136μmol)をTHF溶媒中AIBN 2.7mg(17μmol)を開始剤として用い、70℃で12時間攪拌した。ジエチルエーテルへの再沈殿精製を経て白色粉末として1,3−ビス−(t−ブチル−ジメチルシロキシ)−4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−ビニルフェニル)−イミダゾリジン−アクリルアミド共重合体を得た。得られたポリマーの分子量は数平均分子量8600(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)1.5であった(収量84mg、収率76%)。
【0106】
(製造例4−5)ニトロニルニトロキシド置換ポリスチレン−ポリアクリルアミド共重合体の合成
【0107】
【化14】

【0108】
前駆体ポリマー 100mg(310μmol)をTHF中でテトラ(n−ブチル)アンモニウムフロリド(=n−Bu4NF) 202mg(775μmol)と室温で24時間攪拌した。続いて過ヨウ素酸ナトリウムの飽和溶液を加え、さらに30分攪拌し、ジクロロメタン抽出、水への再沈殿精製を経てニトロニルニトロキシド置換ポリスチレン−ポリアクリルアミド共重合体を得た。得られたポリマーの分子量は数平均分子量8600(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)1.6であった(収量36mg、収率81%)。
ESR測定およびSQUID磁化測定よりラジカルの定量的な発生を確認した。
【0109】
<ゲル膜の作成>
(実施例1)
製造例1で合成した重合体100mgにアセトニトリル 1mlを添加して50℃雰囲気下、5時間攪拌して溶解(分散)し、重合体溶液を調製した。この溶液を金電極を基板として1ml塗布することで、合成した重合体の薄膜を厚さ23μmで作成した。さらに、薄膜上に、金電極をのせることで薄膜を挟み込み、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させることによりゲル膜を作成し、光透過性の良好な導電性含水ゲルを得た。
【0110】
(実施例2)
製造例2で合成した重合体を用いた以外は実施例1と同様に操作することで、合成した重合体の薄膜を厚さ20μmで作成した。さらに、薄膜上に、金電極をのせることで薄膜を挟み込み、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させることによりゲル膜を作成し、光透過性の良好な導電性含水ゲルを得た。
【0111】
(実施例3)
製造例3で合成した重合体を、および溶液の溶媒にTHFを用いた以外は実施例1と同様に操作することで、合成した重合体の薄膜を厚さ22μmで作成した。さらに、薄膜上に、金電極をのせることで薄膜を挟み込み、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させることによりゲル膜を作成し、光透過性の良好な導電性含水ゲルを得た。
【0112】
(実施例4)
製造例4で合成した重合体を用いた以外は実施例1と同様に操作することで、合成した重合体の薄膜を厚さ20μmで作成した。さらに、薄膜上に、金電極をのせることで薄膜を挟み込み、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させることによりゲル膜を作成し、光透過性の良好な導電性含水ゲルを得た。
【0113】
<電気伝導度の測定>
(試験例1)
実施例1で作成された、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させたゲル膜それぞれについて、AUTOLAB社製PGATAT30アナライザーを用いて、交流インピーダンス法により電気伝導度を測定した。
【0114】
純水を含浸させたゲル膜の伝導度は2×10-8 Scm-1であり、また0.5Mの食塩水を含浸させたゲル膜の伝導度は5×10-8 Scm-1と良好な導電性を示した。
【0115】
(試験例2)
実施例2で作成された、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させたゲル膜を用いた以外は試験例1と同様の操作を行うことで、実施例2で合成した重合体のゲルの電気伝導度を測定した。
【0116】
純水を含浸させたサンプルの伝導度は3×10-8 Scm-1であり、また0.5Mの食塩水を含浸させたゲル膜の伝導度は2×10-7 Scm-1と良好な導電性を示した。
【0117】
(試験例3)
実施例3で作成された、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させたゲル膜をを用いた以外は試験例1と同様の操作を行うことで、実施例3で合成した重合体の含水ゲルの電気伝導度を測定した。
【0118】
純水を含浸させたサンプルの伝導度は4×10-5 Scm-1であり、また0.5Mの食塩水を含浸させたゲル膜の伝導度は2×10-6 Scm-1と良好な導電性を示した。
【0119】
(試験例4)
実施例4で作成された、純水あるいは0.5Mの食塩水をそれぞれ含浸させたゲル膜を用いた以外は試験例1と同様の操作を行うことで、実施例4で合成した重合体のゲルの電気伝導度を測定した。
【0120】
純水を含浸させたサンプルの伝導度は7×10-7 Scm-1であり、また0.5Mの食塩水を含浸させたゲル膜の伝導度は3×10-6 Scm-1と良好な導電性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の主鎖に、ニトロキシドラジカル基からなる側鎖を少なくとも有するポリマーと、水とを含有することを特徴とする導電性含水ゲル。
【請求項2】
前記ポリマーの主鎖が、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、およびそれらの共重合体からなる群から選択される一種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性含水ゲル。
【請求項3】
前記ニトロキシドラジカル基からなる側鎖が、前記ポリマーの主鎖に環状ニトロキシドが置換することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性含水ゲル。
【請求項4】
前記環状ニトロキシドが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、又は4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−オキシル−3−オキシドであることを特徴とする請求項3に記載の導電性含水ゲル。
【請求項5】
前記ポリマ−の主鎖が架橋構造を含むものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の導電性含水ゲル。
【請求項6】
前記水と共に支持電解質を含有していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性含水ゲル。

【公開番号】特開2009−102461(P2009−102461A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273189(P2007−273189)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000222691)東洋合成工業株式会社 (34)
【Fターム(参考)】