説明

導電性基板

【課題】優れた初期特性が長期間維持された発光素子、例えば有機EL発光素子、を得ることができる導電性基板を提供する。
【解決手段】基板、導電層および発光促進層をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層と前記導電層とが隣接して配置されてなることを特徴とする導電性基板、およびこの導電性基板からなる電極基板、有機EL発光素子用導電性基板および発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電性基板は、各種の光学装置あるいは電子装置、例えばディスプレイ装置、発光装置、太陽電池、サーキットボード、半導体装置等において用いられている。
【0003】
このような透明導電性を支持する基板としては、透明性や化学的安定性ならびにガスバリヤ性が特に優れていることから、ガラス基板が広く用いられている。一般にガラス基板にはフレキシブル性が乏しいこと、そして特に厚さが薄い場合には十分な機械的強度を得ることが難しい等の理由から、ガラス基板の代わりに透明樹脂基板が用いられるようになってきている。このような透明樹脂基板は軽量である点でも好ましいものである。
【0004】
しかし、透明樹脂基板は酸素や水蒸気の透過性が大きいことから、透明樹脂基板を用いた場合には、ガラス基板を用いた場合に比べて電子機器の性能が劣化しやすく、耐久性が低下しがちであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素や水蒸気等の透過量は、透明樹脂基板に金属酸化物あるいは金属窒化物からなるガスバリヤ層を設けることによってある程度抑制することができる。しかし、そのようなガスバリヤ層によっても、用途によっては十分ば耐久性が得られない場合があってその改良が望まれている。たとえばフレキシブル有機EL発光素子においては、発光寿命の長いものが要求されているが、様々な理由により未だ6万時間を越えるものは作製されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、特定の発光促進層を所定の位置に配置することによって、電子機器の性能劣化を効果的に抑制し、耐久性を向上させることが可能な導電性基板を提供するものである。
【0007】
本発明による電子基板は、基板、導電層および発光促進層をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層と前記導電層とが隣接して配置されてなること、を特徴とするものである。
【0008】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、前記発光促進層が、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、鉛、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、チタンからなる群から選ばれた少なくとの一種の導電性材料を含有するもの、を包含する。
【0009】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、前記発光促進層が、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、鉛、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、チタンからなる群から選ばれた少なくとの一種の導電性材料と、酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとの一種の無機化合物とを含有するもの、を包含する。
【0010】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、前記発光促進層の表面抵抗値が1×10Ω/□以上、1×1014Ω/□以下であるもの、を包含する。
【0011】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、エステル・ウレタン・アミド・アラミド・イミド・カーボネート・スチレン・アセタール・アクリレート・メタクリレート・エポキシ・オレフィン・イソシアネート・エチレンイミン・ブタジエン系の樹脂からなる高分子化合物層がさらに形成されたもの、を包含する。
【0012】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、光透過率が70%以上であるもの、を包含する。
【0013】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、水蒸気透過率が1g/m・day未満であるもの、を包含する。
【0014】
このような本発明による電子基板は、好ましい態様として、180℃の温度雰囲気中に1時間曝すことからなる加熱処理を4回経た後においてもクラックの発生が認められないもの、を包含する。
【0015】
本発明による電極基板は、前記の導電性基板からなること、を特徴とする。
【0016】
本発明による有機EL発光素子用導電性基板は、前記の導電性基板からなること、を特徴とする。
【0017】
本発明による発光素子は、前記の導電性基板からなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による導電性基板は、基板、導電層および発光促進層をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層と前記導電層とが隣接して配置されてなることから、電圧−電圧(I−V)特性および輝度−電圧(L−V)特性、特に低電圧時でのI−V特性およびL−V特性、が優れた発光素子を得ることができ、かつこの優れた初期特性が長期間維持された、耐久性に優れた高寿命の発光素子を得ることができる。そして、本発明による導電性基板によれば、発光素子の発光むらや表示欠陥を低減することができる。
【0019】
以上の効果は、導電性基板が透明フレキシブル材料である場合にも同様に得ることができる。よって、本発明による導電性基板は、耐久性の向上が特に求められている透明フレキシブル基板として特に適したものである。
【0020】
従って、本発明によれば、透明性およびフレキシブル性に優れ、かつ優れた初期特性が長期間維持された発光素子、例えば有機EL発光素子、を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<導電性基板>
図1は、本発明による導電性基板の好ましい具体的について示すものであって、本発明による導電性基板も最も簡単な基本構成を示すものである。この図1に示されるように、本発明による導電性基板1は、基板2、導電層3および発光促進層4をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層4と前記導電層3とが隣接して配置されてなるものである。
【0022】
図2は、上記基本構成を具備した本発明による導電性基板の好ましい具体的を示すものである。この図2に示される導電性基板1は、基板2、導電層3および発光促進層4をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層4と前記導電層3とが隣接して配置されてなるものであって、基板2の両面にガスバリア層5および5’が形成され、このガスバリア層5’に接してさらに高分子層6が形成されているものである。
【0023】
なお、図1または図2に示される本発明による導電性基板は、必要に応じて、上記導電性基板1の表面に、あるいは導電性基板1を構成する各層間(但し、発光促進層4と前記導電層3との間を除く)に、図1および2に具体的に記載された層を複数、あるいは具体的に記載されていない他の層を一層または複数形成することができる。
【0024】
<基材>
本発明による導電性基板1における基材2は、特に制限なく用いることができる。従って、基板2は、具体的用途や目的等に応じ、(イ)ガラス基板や硬質樹脂基板、好ましくは、例えばウエハー、プリント基板、また様々なカードやボトル等成型された樹脂からなる非フレキシブル基板、あるいは(ロ)フレキシビリティを有する樹脂基板、好ましくは例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等によって形成することができる。樹脂基板である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
【0025】
基板2の厚さについても特に制限はない。フレキシビル基板である場合、基板2の厚さは、可とう性および形態保持性の観点から例えば50〜400μmの範囲とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明による導電性基板に透明性が必要とされる場合には、この基板2は高度の透明性を有する材料によって形成することが好ましい。
【0027】
<導電層>
本発明による導電性基板1の導電層3は、主として、この導電性基板1を用いて構成された各種の電子素子ないし電子機器等に電気を供給する配線層または電極として機能しうるものである。そのような導電層3は、従来公知の各種の導電性材料によって形成することが可能である。
【0028】
本発明による導電性基板に透明性が必要とされ、この導電性3が導電性基板1の光透過領域内に形成される場合には、この導電性3は透明性材料によって形成することが好ましい。そのような透明な導電層3としては、インジウム酸化物(In)またはこれにスズ酸化物(SnO)を1〜35重量%混合した酸化インジウム−酸化スズ薄膜(ITO薄膜)の単独層とするのが好適である。その厚さは、たとえば500〜10000Åが好ましく、この範囲以内であれば表面抵抗を100Ω/cm、さらには10Ω/cm以下にすることができる。この範囲よりずれると透光性が低下したり導電性等の特性が不十分となる。
【0029】
導電層3の厚さは特に制限はないが、フレキシブル基板の耐屈曲性の観点からは、例えば0.05〜0.8μm、特に0.1〜0.4μm、が好ましい。
【0030】
透明導電層の形成には1回の成膜であっても複数回に分けて積層しても構わない。また、単独層とすることにより、多層構造に比べてエッチング性が向上する。そして、層間剥離の発生が防止される。エッチング性の向上により、導電性3に配線パターンを形成したり、電極への加工が容易になる。
【0031】
なお、図1および図2には、基板2上の発光促進層4のほぼ全面にわたって実質的に同一厚さの連続した導電性3が示されているが、本発明での導電層3は、そのようなもののみに限定されない。すなわち、本発明による導電性基板1は、例えば、発光促進層4の一部領域に、電気的に接続されたあるいは接続されていない、単独または複数の導電性3が形成されたものであってもよい。また、導電性3の厚さは、部分的に異なっていてもよい。
【0032】
ITO層は結晶性であることが好ましい。特に、(222)面の強度が(440)面の強度に対して5倍以上あるのが好ましく、またその半価幅が0.95以下であるものが好ましい。これらはX線回折装置(XRD)により測定可能である。
【0033】
<発光促進層>
本発明による導電性基板1の発光促進層4は、前記の導電層3と隣接して配置されている。導電層3と隣接して配置されていない場合には、発光促進層としての機能を十分発揮することが困難になる。なお、発光促進層4は、導電層3の全部分(全領域)が接するように、導電層3に隣接して配置することが好ましいが、本発明はそのようなもののみに限定されない。
【0034】
本発明での発光促進層4としては、導電性材料を含有する無機化合物からなる層を例示することができる。好ましい発光促進層4としては、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、鉛、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、チタンからなる群から選ばれた少なくとの一種の金属材料を含有するものを挙げることができる。本発明では、特に銅、銀、金および白金が好ましい。なお、本発明での発光促進層4における導電性材料には、例えば、(イ)上記の金属原子のいずれか一種類のみからなるもの、(ロ)上記金属原子の任意の二種類以上の金属がそれぞれ独立した状態で混在したもの、(ハ)上記金属原子の任意の二種類以上の金属の化合物からなるもの、(ニ)上記金属原子と他原子(例えば、好ましくは酸素原子、窒素原子、炭素原子、珪素原子等)との化合物からなるもの、(ホ)上記(イ)〜(ニ)が混在したもの、等が包含される。また、本発明では、上記の金属のみならず、他の導電性材料、例えば半導体、導電性セラミック、カーボンナノチューブのような導電性物質やアイオノマーや、金属錯体、導電性ペースト、帯電防止剤等のような導電性材料等を利用することができる。
【0035】
一方、発光促進層4を形成する無機化合物の好ましい具体例としては、酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとの一種の無機化合物を挙げることができる。本発明では、特に、酸化珪素、窒化珪素および酸化窒化珪素が好ましい。
【0036】
本発明では、この発光促進層4を導電層3と隣接して配置することによって、電子素子ないし電子機器の性能劣化を効果的に抑制して、その耐久性を向上させることができる。なお、この発光促進層4を構成している無機化合物自体は、後述のガスバリヤ層を構成する無機化合物と同一のものを使用可能である。このことから、この発光促進層4は、一定のガスバリヤ性を示すが、単なるガスバリヤ層(即ち、所定の導電性材料を含有していない無機化合物層)では得ることができない発光促進作用を有する点で、従来のガスバリヤ層と明確に区別できるものである。このことは、例えば後記の各実施例および比較例に示されるように、同一の無機材料を用いかつ同一厚さ無機化合物層であっても、所定の導電性材料を含有させた無機化合物層(即ち、発光促進層)(実施例)では、導電性粒子を分散させていない従来の無機化合物層(比較例)に比べて、発光輝度の低下が効果的に抑制されていることから明らかである。
【0037】
なお、導電性材料を含有した無機化合物層(発光促進層)によって発光輝度の低下が抑制される機構は未だ明確にはなっておらず、そして本発明はいかなる理論によって制限を受けることはないが、無機化合物層に含まれる導電性材料が、発光継続によって生じてくる電圧上昇を抑制したり、また透明導電層からの正孔注入性の向上等によって、発光輝度の向上および寿命の向上、面内の発光むらの改善に好ましい影響を与えているものと考えられる。また、この導電性材料の発光促進作用以外の副次的効果として、フレキシブル性の向上が見られる。
【0038】
本発明による発光促進層4において、この導電性材料の含有割合は、0.01重量%以上、50重量%以下、好ましくは0.1重量%以上30重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以上、10重量%以下、であるが、導電性材料の種類等により適宜調整することができる。また。例えば前記導電性層3のエッチング加工における酸やアルカリ処理する工程にも十分耐えられるよう、材料およびその含有量を適宜定めることが好ましい。なお、発光促進層4中の導電性材料の含有量に関してはX線光電子分光分析装置(XPS)により測定できる。
【0039】
発光促進層4の厚さは、5nm〜1000nm、好ましくは10nm〜500nm、特に好ましくは50nm〜200nm、である。
【0040】
発光促進層4は、導電層3と隣接してただ1層設けるだけで本発明の効果を得ることが可能であるが、同一または異なる複数の発光促進層からなるものであってもよい。
【0041】
発光促進層の表面抵抗値は、1×10Ω/□以上、1×1014Ω/□以下、特に1×10Ω/□以上、1×1014Ω/□以下、であることが好ましい。発光促進層の表面抵抗値を上記範囲内とすることにより、耐エッチング性を付与した発光促進性が達成される。
【0042】
発光促進層4の形成方法としては、促進材料が金属材料の場合、それら金属材料と無機化合物材料とを、それぞれの蒸気圧を確認し、適切な配合比率になるよう供給量設定をして、物理蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等の真空成膜方式により共蒸着する方法がよい。促進材料がペーストやコーティング材料の場合、適切な配合比率になるよう無機化合物材料との混合量を設定をして、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法、スプレーコート法等の塗布方式により形成する方法が良い。
【0043】
<ガスバリア層>
本発明による導電性基板1において必要に応じて設けられるガスバリア層5は、特に制限されることなく、例えば従来から用いられている各種のガスバリア層形成用材料によって得ることができる。そのようなガスバリア層形成用材料としては、酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとの一種の無機化合物を挙げることができる。
【0044】
ガスバリヤ層の形成方法も特に制限されることなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいはCVD法などの各種の成膜方法を用いることにより作製することができる。
【0045】
ガスバリア層の必要性能は用途により異なる。本発明では、水蒸気透過率が1.0g/m/day以下、特に1×10−1g/m/day以下、であることが好ましい。また、酸素ガス透過率が1.0cc/m/day以下、特に1×10−1/m/day以下、であることが好ましい。
【0046】
特に、本発明による導電性基板1を有機EL素子に適用する場合には、水蒸気透過率が1×10−1g/m/day以下がよい。さらに好ましくは、1×10−2g/m/day以下がよい。そしてガス透過率が1×10−1cc/m/day以下、特に1×10−2cc/m/day以下、であることが好ましい。
【0047】
なお、ここでのガスバリア性は、Mocon社製のPARMATRAN3/31を用い、37.8℃100%Rhの条件で測定したときのものである。
【0048】
<高分子層>
本発明による導電性基板1において必要に応じて設けられる高分子層6は、特に制限されることなく、例えば従来から用いられている各種の高分子材料によって得ることができる。そのような高分子材料としては、エステル・ウレタン・アミド・アラミド・イミド・カーボネート・スチレン・アセタール・アクリレート・メタクリレート・エポキシ・オレフィン・イソシアネート・エチレンイミン・ブタジエン系の樹脂からなる群から選ばれた少なくとの一種の高分子化合物を挙げることができる。この中では、特にエステル、ウレタン、アクリレート、エポキシが好ましい。
【0049】
高分子層の形成方法も特に制限されることない。例えば上記高分子材料からなるフィルムを積層したり、あるいは液状の高分子材料を塗布する方法などを挙げることができる。
【0050】
高分子材料の種類、性状、厚さ等は、導電性基板1の具体的用途に応じた必要性能等を考慮して適宜決定することができる。例えば、本発明による導電性基板1に要求される機械的強度、耐熱性、ガスバリヤ性、フレキシブル性、耐薬品性、光学的特性等を考慮して決定することができる。
【0051】
<導電性基板の利用>
本発明による導電性基板は、各用途に広く適用することができる。本発明の導電性基板の主な用途としては、例えばディスプレイ用基板、照明用基板、太陽電池用基板、サーキットボード用基板、半導体用基板、電子ペーパー等のような電子的ないし光学的な素子ないし機械の導電性基板としての用途を挙げることができる。ほかにも、例えば産業資材用途、包装用途、建材用途、情報記録媒体、セキュリティー分野、出版物、バイオ分野において用いられる導電性基板として利用することができる。
【0052】
本発明による導電性基板の効果が特に顕著に発揮される用途としては、発光素子、特に好ましくは有機EL発光素子用の導電性基板を挙げることができる。本発明は、上記の導電性基板1からなる発光素子、特に上記の導電性基板1からなる有機EL発光素子用導電性基板にも関するものである。
【0053】
そのような発光素子、特に有機EL発光素子用の導電性基板、に特に適した導電性基板としては、(イ)光透過率が70%以上であるもの、(ロ)水蒸気透過率が1g/m・day未満であるもの、(ハ)180℃の温度雰囲気中に1時間曝すことからなる加熱処理を4回経た後においてもクラックの発生が認められないもの、が特に好適である。
【0054】
図3は、本発明による導電性基板1からなる有機EL発光素子の好ましい一具体例の断面を示すものである。この図3に示された有機EL発光素子20は、基板2、導電層3(陽極)、発光促進層4、ガスバリア層5、5’および高分子層6からなる本発明による導電性基板1と、正孔輸送層7と、発光層8と、電子輸送層9と、電子注入層10と、陰極11と、封止材12とからなるものである。
【0055】
ここで、発光促進層4の表面抵抗値が1×10Ω/□以上、1×1014Ω/□以下である導電性基板1は、導電層3の陰極11側と反対面に発光促進層4が形成されることにより、導電層3の膜厚方向の電界抵抗が低減されることにより、発光層8への導電効率が高められたものである。なお、表面抵抗値は三菱油化製ハイレスタAPにて測定することができる。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
乾燥機で160℃で1時間乾燥させた厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン製Q65)からなるプラスチックフィルム基材を透明フィルム基材[基材層]とし、これの両方の面に、膜厚100nmの酸化窒化珪素膜[ガスバリア層](Siターゲット:豊島製作所製(4N)、成膜圧力:0.3Pa、パワー5kW)を、スパッタ法により形成した。その後スピンコートにてエポキシ樹脂組成物(新日鐵化学製V−259−EH)を塗布し、160℃1時間乾燥させることにより1μの有機化合物層[高分子層]を得た。
【0057】
その後、膜厚100nmの酸化窒化珪素膜を、上記同様スパッタ法により形成する際に、銅を共スパッタリング(Cuターゲット:豊島製作所製(4N)、成膜圧力:0.3Pa、パワー1.5kW)し、最表面の無機化合物層に導電性物質を含有させたガスバリア性フィルム[発光促進層]を得た。ガスバリア性を測定したところ測定限界以下の値(0.01g/m/day以下)であった。表面抵抗を測定したところ、2×1010Ω/□であった。
【0058】
ガスバリア性フィルムの片面に、膜厚150nmのITO膜[導電層]をスパッタ法(Ar:180sccm、酸素:1.5sccm、スパッタパワー:2.5kW、成膜圧力:1.7Pa)により形成した。ITO膜面をX線回折装置(XRD)*1にて測定したところ、(222)面配向を主とする結晶膜であった。上記透明導電性基板を用いて有機EL素子を作製した。
【0059】
洗浄済みのITO薄膜付きガスバリア性フィルムを透明導電性基板[導電性基板]として用い、所定のパターン状にエッチングを行なって陽極を形成した。得られた陽極基板の陽極表面を洗浄した後、陽極表面上に、下記の「PEDOT/PSSの分散液」を、スピンコーティングによって塗布し、塗布後、温度;200℃のホットプレート上に載せて30分間加熱して乾燥させた。さらに、純窒素置換されたグローブボックス内に移して再度、温度;200℃のホットプレート上に載せ15分間加熱して乾燥させ、陽極上に、PEDOT/PSSの80nmの薄膜[正孔輸送層]を得た。
【0060】
有機EL素子用蛍光体(シグマアルドリッチ社製、品番;ADS228GE)をトルエン中に1.0%(質量比)になるよう混合した発光層形成用溶液を準備し、この溶液を、上記で得られたPEDOT/PSSの薄膜上に、やはりグローブボックス内にてスピンコーティングによって塗布し、塗布後、温度;130℃のホットプレート上に載せて1時間加熱して乾燥させ、厚みが80nmの発光層を形成した。
【0061】
発光層までの各層が形成された基板上の発光層上に、グローブボックス内にて蒸着を行ない、厚みが3nmのLiFの薄膜、および厚みが10nmのCa薄膜を順次形成して電子注入層とし、さらに電子注入層上に、厚みが180nmのAl薄膜を形成して陰極とした。
【0062】
その後、周囲に凸部を有する封止用のガラスの凸部に紫外線硬化性接着剤(ナガセケムテック(株)製、品番;XNR5516HP−B1)を塗布したものを、上記の陰極まで形成した基板上に重ね合わせ、接着剤の塗布された箇所に紫外線を照射して接着剤を硬化させ、照射後の重ね合わされた基板を、温度;80℃のホットプレート上に載せて1時間加熱して接着剤を十分硬化させて、有機EL素子を得た。
このようにして形成した有機EL素子について、初期の輝度が100Cdになるように連続して電圧を印加し、時間の経過に伴なう輝度の変化を測定し、初期の輝度が半減する時間を有効寿命とし計測したところ、35000hrであった。また発光開始電圧は1.8Vと良好であった。また6Vの電圧に対し、2.1mAの電流が流れ、良好なI−V特性が得られた。また6Vの電圧に対し、600cd/mの輝度が得られ、良好なL−V特性が得られた。
*1:「PEDOT/PSS分散液」=1/20(バイエル社製、バイトロン P VP CH8000)
【0063】
<比較例1>
実施例1において、銅を共スパッタリングして膜厚100nmの酸化窒化珪素膜を形成するかわりに、銅を共スパッタリングすることなく膜厚100nmの酸化窒化珪素膜を形成した。ガスバリア性を測定したところ測定限界以下の値(0.01g/m/day以下)であった。表面抵抗を測定したところ、1×1014Ω/□以上(測定限界以上)であった。
【0064】
このあとの工程は、実施例1に準拠した。発光輝度が初期値の半分になるまでの時間を有効寿命とし計測したところ、8000hrと比較して短いものであった。また発光開始電圧は2.2Vと比較して高電圧であった。また6Vの電圧に対し、0.5mAの電流が流れ、比較的悪いI−V特性が得られた。また6Vの電圧に対し、150cd/mの輝度が得られ、比較的悪いL−V特性が得られた。
【0065】
<実施例2>
実施例1において、銅を共スパッタリングして膜厚100nmの酸化窒化珪素膜を形成するかわりに、銀を共スパッタリングして膜厚100nmの酸化窒化珪素膜を形成した。ガスバリア性を測定したところ測定限界以下の値(0.01g/m/day以下)であった。表面抵抗を測定したところ、7×109Ω/□であった。
【0066】
このあとの工程は、実施例1に準拠した。発光輝度が初期値の半分になるまでの時間を有効寿命とし計測したところ、40000hrと比較して短いものであった。また発光開始電圧は1.8Vと良好であった。また6Vの電圧に対し、3.0mAの電流が流れ、比較的良いI−V特性が得られた。また6Vの電圧に対し、750cd/mの輝度が得られ、比較的良いL−V特性が得られた。
【0067】
<実施例3>
実施例1において、厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン製Q65)からなるプラスチックフィルム基材のかわりに、厚さ100μmの透明ポリイミド樹脂(三菱ガス化学製)を透明フィルム基材[基材層]として、ITO付ガスバリアフィルムを作製した。作製したITO付ガスバリアフィルムを180℃の温度雰囲気中に1時間曝すことからなる加熱処理を4回経た後に光学顕微鏡にて、ITO表面を観察したところ、クラックの発生はなく、良好な表面状態を示していた。
【0068】
<比較例2>
比較例1において、厚さ100μmのPEN樹脂(帝人デュポン製Q65)からなるプラスチックフィルム基材のかわりに、厚さ100μmの透明ポリイミド樹脂(三菱ガス化学製)を透明フィルム基材[基材層]として、ITO付ガスバリアフィルムを作製した。作製したITO付ガスバリアフィルムを、180℃の温度雰囲気中に1時間曝すことからなる加熱処理を4回経た後に光学顕微鏡にて、ITO表面を観察したところ、ところどころにクラックの発生が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による導電性基板の好ましい具体的の断面図。
【図2】本発明による導電性基板の他の好ましい具体的の断面図。
【図3】本発明による導電性基板からなる有機EL発光素子の好ましい一具体例の断面図。
【符号の説明】
【0070】
1 導電性基板
2 基板
3 導電層
4 発光促進層
5、5’ ガスバリア層
6 高分子層
7 正孔輸送層
8 発光層
9 電子輸送層
10 電子注入層
11 陰極
12 封止材
20 有機EL発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、導電層および発光促進層をそれぞれ少なくとも1層有し、前記発光促進層と前記導電層とが隣接して配置されてなることを特徴とする、導電性基板。
【請求項2】
前記発光促進層が、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、鉛、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、チタンからなる群から選ばれた少なくとの一種の導電性材料を含有する、請求項1に記載の導電性基板。
【請求項3】
前記発光促進層が、カリウム、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、鉛、銀、インジウム、錫、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、チタンからなる群から選ばれた少なくとの一種の導電性材料と、酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとの一種の無機化合物とを含有する、請求項1または2に記載の導電性基板。
【請求項4】
前記発光促進層の表面抵抗値が、1×10Ω/□以上、1×1014Ω/□以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項5】
エステル・ウレタン・アミド・アラミド・イミド・カーボネート・スチレン・アセタール・アクリレート・メタクリレート・エポキシ・オレフィン・イソシアネート・エチレンイミン・ブタジエン系の樹脂からなる高分子化合物層がさらに形成された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項6】
光透過率が70%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項7】
水蒸気透過率が1g/m・day未満である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項8】
180℃の温度雰囲気中に1時間曝すことからなる加熱処理を4回経た後においてもクラックの発生が認められない、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性基板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性基板からなることを特徴とする、電極基板。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性基板からなることを特徴とする、有機EL発光素子用導電性基板。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性基板からなることを特徴とする、発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−134203(P2007−134203A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327065(P2005−327065)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】