説明

導電性基板

【課題】透明性、耐熱性、光学特性及び機械特性に優れる導電性基板を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される第一の構造単位と、イミド単位を含有する第二の構造単位及び第三の構造単位を有するアクリル系樹脂を含有する樹脂層と、該樹脂層の一面上に設けられた導電層と、を備える導電性基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び導電性に優れる導電性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明な光学材料としては、メタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂、ポリスチレン(PS)、スチレン/メタクリル酸メチル共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)などの非晶性樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの半結晶性樹脂が挙げられる。
【0003】
近年になって、各種光学製品、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイや、小型赤外線センサー、微細光導波路、超小型レンズ、短波長の光を扱うDVD/BlueRayDisk用ピックアップレンズなど、が開発されるに到り、光学材料向け光学樹脂には、透明性に優れるだけでなく、高い耐熱性と、より高度な複屈折性の制御(位相差制御(正/負/ゼロ)及び光弾性係数制御(ゼロ))と、が必要とされるようになってきている(非特許文献1、2)。
【0004】
また、最近では、スマートフォン、タブレットPCなどに代表される携帯情報端末の普及が著しく、それら携帯情報端末には、液晶表示素子の上に透明なタッチパネルを搭載した入力装置などが用いられている。そして、携帯情報端末の薄型化、軽量化、及び表示品位の向上を目的として、タッチパネル機能の液晶表示素子内への組み込みという技術開発が行われ、現在では、液晶表示素子を構成する偏光板とガラス基板の間にタッチパネル機能を組み込んだインナータッチパネル(On−cell方式)や、液晶表示素子内の液晶とガラス基板の間にタッチパネル機能を組み込んだインナータッチパネル(In−cell方式)が出現するに至っている(非特許文献3)。
【0005】
インナータッチパネルでは、タッチパネル機能を構成する部材そのものが、液晶表示素子の2枚の偏光板間に存在するため、光学材料特性として高い等方性(即ち、低複屈折性、低光弾性性)を有する光学樹脂が望まれている(特許文献1)。また、光学樹脂を成形してなる光学材料(フィルム、シート)表面に、金属酸化物(例えば、インジウムとスズの複合酸化物(ITO)など)をDCスパッタリング法などによって透明導電膜として形成させ、タッチパネル用透明導電性フィルム、透明導電性基板が得られる(特許文献2)。
【0006】
透明導電性フィルム、透明導電性基板の光学樹脂として、一般に用いられるPETは低複屈折性が満足できるレベルになく、PCは低複屈折性、耐久性ともに満足できるレベルにないという問題があった。また、環状オレフィン樹脂は、耐熱性を有しており、低複屈折性も制御されているが成形体としてもろく、取り扱いにくいという問題があった。
【0007】
一方、光学樹脂としてのPMMAには、透明性、耐候性などに優れるが、耐熱性が低いために、スパッタリング加工による導電性膜形成や、その他の導電膜形成時に、透明性や平面性が悪化するという問題があった。
【0008】
例えば特許文献3には、耐熱性の改良された透明な新規スチレン系共重合体として、所定量のスチレン、無水マレイン酸及びメタクリル酸メチルからなるスチレン系共重合体が記載されている。また、特許文献4には、光学純度の良い耐熱性アクリル樹脂の製造法として、所定量のメチルメタクリレート単位及びN−アルキル置換マレイミド単位からなる共重合体を、所定の方法で洗浄する製造法が記載されている。しかし、いずれの共重合体も、熱時着色や低複屈折性に問題があった。
【0009】
また、例えば非特許文献4及び5には、メタクリル酸メチル/メタクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル/メタクリル酸ベンジル3元共重合体(=52/42/6wt%)の開示がある。しかし、該アクリル系樹脂は、複屈折と光弾性係数が同時に制御でき、複屈折及び光弾性係数の絶対値を同時にゼロ(ゼロ−ゼロ複屈折)とすることもできるが、耐熱性が不十分であるという問題があった。
【0010】
さらに、例えば特許文献5には、メタクリル酸メチル、N−シクロヘキシルマレイミド、メタクリル酸ベンジルからなる3元共重合体の開示がある。しかし、該アクリル系樹脂は、ある程度の低複屈折性を制御できているが、耐熱性が必ずしも十分ではないという問題があった。
【0011】
なお、特許文献2には主鎖中にラクトン環構造を有し、ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂を主成分とする光学樹脂の開示がある。該アクリル樹脂は、耐熱性を有し、低複屈折性もある程度制御されてはいるが、満足できるものではなく、また成形体としてもろく、取り扱いにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−53118号公報
【特許文献2】特開2008−179677号公報
【特許文献3】特開昭55−102614号公報
【特許文献4】特開昭61−252211号公報
【特許文献5】特開平06−25359号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】化学総説、1988年、No.39(学会出版センター)
【非特許文献2】月刊ディスプレイ、2005年、4月号
【非特許文献3】タッチパネル最前線、2010年、(日経BP)
【非特許文献4】成形加工、2009年、第21巻、第7号、426頁
【非特許文献5】Macromolecules、2006、39、3019−3023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、従来技術の範囲内には、透明性及び耐熱性に優れ、その光学特性として複屈折性(低複屈折及び低い光弾性係数)が高度に制御され、且つその成形体としての取扱い性に優れるアクリル系樹脂を提供しうる技術は存在せず、そのためインナータッチパネルを含むタッチパネルに好適な、透明性、耐熱性、光学特性及び機械特性に優れる透明導電性基板は存在しない。
【0015】
そこで本発明は、透明性、耐熱性、低複屈折性及び成形体としての取扱い性に優れるアクリル系熱可塑性樹脂組成物を提供すること、並びに、透明性、耐熱性、光学特性及び機械特性に優れる導電性基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、特定のアクリル系樹脂を含有する樹脂層が、透明性に優れ、その低複屈折性が高度に制御されうること、並びに、その一面上に透明導電層が設けられた場合でも透明性、低複屈折性を損なわずに透明導電性が発現されることを見出しなされたものである。
【0017】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] 下記式(1)で表される第一の構造単位、下記式(2)で表される第二の構造単位及び下記式(3)で表される第三の構造単位を有するアクリル系樹脂を含有する樹脂層と、該樹脂層の一面上に設けられた導電層と、を備える導電性基板。
【化1】


[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基。]
【化2】


[式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
B群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。]
【化3】


[式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
C群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基。]
[2] 前記アクリル系樹脂の光弾性係数の絶対値が3.0×10−12Pa−1以下である、[1]に記載の導電性基板。
[3] 前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、100μm厚換算で、30nm以下となる樹脂である、[1]又は[2]に記載の導電性基板。
[4] 前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が、100μm厚換算で、30nm以下となる樹脂である、[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性基板。
[5] 前記アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の導電性基板。
[6] 前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の全光線透過率が、100μm厚換算で85%以上となる樹脂である、[1]〜[5]のいずれかに記載の導電性基板。
[7] 前記導電層がインジウム−錫酸化物を含有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の導電性基板。
[8] 前記アクリル系樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の前記第一の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第三の構造単位とを有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の導電性基板。
[9] 前記アクリル系樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の前記第一の構造単位と、0.1〜20質量%の前記第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第三の構造単位とを有する、[1]〜[8]のいずれかに記載の導電性基板。
[10] 前記Rが、メチル基又はベンジル基であり、
前記Rが、フェニル基又は前記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有するフェニル基であり、
前記Rが、シクロヘキシル基である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の導電性基板。
[11] 前記アクリル系樹脂は、GPC測定法により測定されるポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量Mwが3000〜1000000であり、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが1〜10である、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の導電性基板。
[12] 前記樹脂層が、前記アクリル系樹脂を含有する樹脂シートを、少なくとも一軸方向に延伸してなるフィルム状又はシート状の成形体からなる層である、[1]〜[11]のいずれかに記載の導電性基板。
[13] [1]〜[13]のいずれかに記載の導電性基板を備える、タッチパネル。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、透明性、耐熱性、低複屈折性及び成形体としての取扱い性に優れるアクリル系熱可塑性樹脂組成物が提供でき、それを用いることで透明性、耐熱性、光学特性及び機械特性に優れる導電性基板が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の導電性基板の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の切断線I−Iに沿った断面を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の導電性基板の一実施形態を示す斜視図であり、図2は、図1の切断線I−Iに沿った断面を示す模式断面図である。図1及び図2において、導電性基板100は、樹脂層10と、該樹脂層の一面上に設けられた導電層12と、を備える。
【0022】
樹脂層10は、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位を有するアクリル系樹脂を含有し、例えば、該アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物をフィルム状又はシート状に成形して得られる成形体からなる層である。
【0023】
[アクリル系樹脂]
樹脂層10が含有するアクリル系樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位を有する。以下、各構造単位について詳述する。
【0024】
(第一の構造単位)
第一の構造単位は、下記式(1)で表される構造単位である。
【0025】
【化4】

【0026】
式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。ここで、A群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群である。
【0027】
なお、本明細書中、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、アリールアルキル基中のアルキル基及びアルコキシ基中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0028】
における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、樹脂層10の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0029】
また、Rにおける炭素数5〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基が好適である。
【0030】
また、Rにおける炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基が好適である。
【0031】
また、Rにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、フェニル基が好適である。
【0032】
また、Rは置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。
【0033】
において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
【0034】
アクリル系樹脂において、第一の構造単位は、メタクリル樹脂の優れた透明性、耐候性及び機械特性を保持するために他の構造単位より優位量含まれていることが好ましい。第一の構造単位の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で、50〜95質量%である。好ましくは60〜95質量%であり、より好ましくは65〜90質量%、さらに好ましくは70〜90質量%、最も好ましくは70〜85質量%である。第一の構造単位の含有量がこの範囲内にあるとき、アクリル系樹脂は、透明性、耐候性及び機械特性に一層優れ、また好ましい耐熱性改良効果が得られる。
【0035】
アクリル系樹脂は、第一の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第一の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0036】
例えば、アクリル系樹脂は、Rがアルキル基である構造単位と、Rがアリールアルキル基又はアリール基である構造単位と、を有するものとすることができる。このとき後者の構造単位の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.1〜6質量%であることがさらに好ましい。この範囲にあるアクリル系樹脂によれば、大きな耐熱性低下を伴わずに、複屈折等の光学特性の改良効果が得られる。
【0037】
第一の構造単位は、例えば、メタクリル酸単量体及びメタクリル酸エステル類から選ばれる第一の単量体から形成される。第一の単量体は、下記式(1−a)で表すことができる。
【0038】
【化5】

【0039】
式中、Rは式(1)におけるRと同義である。
【0040】
メタクリル酸エステル類としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ビシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸シクロアルキルエステル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル、メタクリル酸2−フェニルエチル、メタクリル酸3−フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル等のメタクリル酸アリール系エステル;等が挙げられる。これらの第一の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0041】
(第二の構造単位)
第二の構造単位は、下記式(2)で表される構造単位である。
【0042】
【化6】

【0043】
式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。B群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群である。
【0044】
における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好適である。
【0045】
また、Rにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0046】
また、Rは置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(B群)より選ばれる基である。
【0047】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0048】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0049】
置換基としての炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基として例示された基が同様に例示される。
【0050】
において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
【0051】
及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、樹脂層の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0052】
及びRにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0053】
及びRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0054】
アクリル系樹脂中の第二の構造単位の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で、0.1〜49.9質量%であることが好ましく、0.1〜35質量%であることがより好ましく、0.1〜20質量%であることがさらに好ましい。第二の単量体の含有量がこの範囲内であると、樹脂層10の耐熱性及び光学特性が一層向上する。
【0055】
アクリル系樹脂は、第二の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第二の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0056】
第二の構造単位は、例えば、下記式(2−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第二の単量体から形成される。
【0057】
【化7】

【0058】
式中、R、R及びRは、それぞれ式(2)におけるR、R及びRと同義である。
【0059】
第二の単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3,4−トリフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第二の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0060】
(第三の構造単位)
第三の構造単位は、下記式(3)で表される構造単位である。
【0061】
【化8】

【0062】
式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。C群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群である。
【0063】
における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が好適であり、樹脂層10の耐候性及び透明性などの光学特性が一層向上するとともに、樹脂層10に低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好適である。
【0064】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、樹脂層10の耐候性及び透明性などの光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好適である。
【0065】
また、Rは置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(C群)より選ばれる基である。
【0066】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0067】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0068】
において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。
【0069】
及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、樹脂層の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0070】
及びRにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0071】
及びRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0072】
アクリル系樹脂中の第三の構造単位の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で、0.1〜49.9質量%であることが好ましく、0.1〜40質量%であることがより好ましく、0.1〜35質量%であることがさらに好ましい。第三の単量体の含有量がこの範囲内であると、樹脂層10の耐候性、耐吸水性及び透明性などの光学特性が一層向上する。
【0073】
アクリル系樹脂は、第三の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第三の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0074】
第三の構造単位は、例えば、下記式(3−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第三の単量体から形成される。
【0075】
【化9】

【0076】
式中、R、R及びRは、それぞれ式(3)におけるR、R及びRと同義である。
【0077】
第三の単量体としては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド、1−シクロヘキシル−3−メチル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジメチル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第三の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0078】
アクリル系樹脂において、第二の構造単位及び第三の構造単位の総含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で5〜50質量%である。好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%、より一層好ましくは15〜30質量%である。この範囲内にあるとき、アクリル系樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、第二の構造単位及び第三の構造単位の総含有量が50質量%を超えると、重合反応時に単量体成分の反応性が低下して、未反応で残存する単量体量が多くなり、アクリル系樹脂の物性が低下してしまう場合がある。
【0079】
アクリル系樹脂において、第二の構造単位の含有量Cと第三の構造単位の含有量Cのモル比C/Cは、0より大きく15以下であることが好ましく、0より大きく10以下であることがより好ましい。モル比C/Cがこの範囲にあるとき、アクリル系樹脂は一層良好な光学特性を発現する。
【0080】
アクリル系樹脂において、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位の合計の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で、80質量%以上であってもよい。これにより、アクリル系樹脂は一層良好な光学特性を発現する。
【0081】
(第四の構造単位)
アクリル系樹脂は、上記以外の構造単位をさらに含有していてもよい。例えば、アクリル系樹脂は、発明の目的を損なわない範囲で、上記第一、第二及び第三の単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構造単位を、さらに有していてもよい。以下、アクリル系樹脂中の第一、第二及び第三の構造単位以外の構造単位を、第四の構造単位と称する。
【0082】
共重合可能なその他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基又は炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;オレフィン;ジエン;ビニルエーテル;ビニルエステル;フッ化ビニル;プロピオン酸アリル等の飽和脂肪酸モノカルボン酸のアリルエステル又はメタリルエステル;多価(メタ)アクリレート;多価アリレート;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類等を挙げることができる。その他の単量体は、これらの群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり得る。
【0083】
上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0084】
また、上記オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ジイソブチレン等が挙げられる。また、上記ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、上記ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等が挙げられる。また、上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。また、上記フッ化ビニルとしては、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0085】
上記多価(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ、又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0086】
多価アリレート単量体としては、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。グリシジル化合物単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物が挙げられる。
【0087】
アクリル系樹脂中の第四の構造単位の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.1〜15質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。第四の構造単位の含有量が上記範囲であると、アクリル系樹脂からなる樹脂層10のの吸湿性が一層改善される。樹脂層10の耐候性の観点からは、第四の構造単位の含有量は、10質量%未満であることが好ましく、7重量%未満であることがより好ましい。
【0088】
アクリル系樹脂は、第四の構造単位を一種のみ有していてもよく、第四の構造単位を二種以上有していてもよい。
【0089】
第四の構造単位の一例として、下記式(4)で表される構造単位が挙げられる。
【0090】
【化10】

【0091】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、Rはハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基を示し、aは1〜3の整数を示す。
【0092】
における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうちメチル基が好適である。
【0093】
におけるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0094】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、樹脂層10の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0095】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられ、これらのうち、メトキシ基が好適である。
【0096】
式(4)で表される構造単位は、例えば、下記式(4−a)で表される単量体から形成することができる。
【0097】
【化11】

【0098】
式中、R、R及びaはそれぞれ式(4)におけるR、R及びaと同義である。
【0099】
第四の単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン等が挙げられ、これらのうち、共重合が容易なことからスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらの第四の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0100】
アクリル系樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量Mwは、3000〜1000000であることが好ましい。重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、樹脂層10に十分な強度を付与することができる。また、重量平均分子量Mwが1000000以下であれば、プレス成形による成形体とすることができる。重量平均分子量Mwは、より好ましくは4000〜800000であり、さらに好ましくは5000〜5000000である。
【0101】
アクリル系樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10であることが好ましい。アクリル系樹脂は、リビングラジカル重合法で重合することも可能であり、必要に応じて分子量分布を調整可能である。成形加工に適した樹脂粘度に調整する観点からは、分子量分布(Mw/Mn)は1.1〜7.0であることがより好ましく、1.2〜5.0であることがさらに好ましく、1.5〜4.0とすることもできる。
【0102】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であることが好ましい。Tgが120℃以上であれば、近年の液晶ディスプレイ用フィルム成形体として必要十分な耐熱性を有している。Tgは、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上である。一方、Tgの上限としては、180℃以下であることが好ましい。
【0103】
アクリル系樹脂中のハロゲン原子の含有量は、アクリル系樹脂の総量基準で0.47質量%未満であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましい。アクリル系樹脂がハロゲン原子を0.47質量%未満とすることで、溶融成形等に際して高温でアクリル系樹脂を取り扱った場合でも、ハロゲン系ガスが発生し難く、ハロゲン系ガスに起因する装置の腐食や作業環境の悪化が防止される。また、アクリル系樹脂(又はその成形体等)を廃棄する際にも、環境負荷が比較的大きいハロゲン系ガスが発生し難いという利点がある。
【0104】
(アクリル系樹脂の製造方法)
アクリル系樹脂は、例えば下記重合工程により得ることができる。また、下記脱揮工程により精製することができる。
【0105】
(重合工程)
アクリル系樹脂は、第一の単量体、第二の単量体及び第三の単量体を含む単量体群を重合することにより得ることができる。その重合方法としては、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。
【0106】
アクリル系樹脂を光学材料用途として用いるには、微小な異物の混入をできるだけ避けることが好ましく、この観点からアクリル系樹脂の重合方法には懸濁剤や乳化剤を用いないキャスト重合や溶液重合を用いることが望ましい。
【0107】
また、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。
【0108】
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて適宜調整できるが、例えば、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が80〜150℃、重合時間が1〜12時間である。
【0109】
重合反応時に溶剤を使用する場合、重合溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるアクリル系樹脂の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0110】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートなどのアゾ化合物;を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0111】
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
【0112】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が先述の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0113】
また、重合反応時には、必要に応じて、有機リン系化合物や有機酸を添加しても良い。これらの化合物が共存することで、副反応が抑制される、未反応N−置換マレイミド量が低減される、などの好ましい効果が期待できる。これにより、得られるアクリル系樹脂又はそれを含むアクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形加工する場合に、加工時の着色が低減される場合がある。
【0114】
有機リン系化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;アルキル亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸トリエステル;リン酸ジエステル、リン酸モノエステル、リン酸トリエステル等が挙げられる。これらの有機リン系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機リン系化合物の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜5.0質量%である。
【0115】
一方、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等及びこれらの酸無水物などが挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機酸の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜1.0質量%である。
【0116】
重合反応を行う際には、重合体濃度として10質量%以上95質量%以下で実施することが望ましい。重合体濃度が、10質量%以上であれば分子量と分子量分布の調整が容易であり、95質量%以下であれば高分子量の重合体を得ることが可能である。また、重合反応熱の除熱管理の観点から、重合体濃度は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下となるようにする。
【0117】
一方、得られた重合反応液の粘度を適切に保つという観点から、重合溶剤を適宜添加することが望ましい。反応液粘度を適切に保つことで、除熱の制御が容易となり、反応液中のミクロゲル発生を抑制することができる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶剤を適宜添加して重合体濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。
【0118】
重合溶剤を重合反応液に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応液中に生成したアクリル系樹脂の濃度を制御することによって、反応器内部の温度均一性を向上させ、反応液のゲル化をより十分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0119】
アクリル系樹脂を懸濁重合法で重合する場合には、水性媒体中で行い、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の無機物質等がある。水溶性高分子は、単量体の総量に対して0.03〜1質量%使用するのが好ましく、無機物質は、単量体の総量に対して0.05〜0.5質量%使用するのが好ましい。懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤があり、懸濁剤として無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体の総量に対して0.001〜0.02質量%使用するのが好ましい。
【0120】
(脱揮工程)
脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたアクリル系樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、アクリル系樹脂100質量%に対して、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。
【0121】
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置;ベント付き押出機;脱揮装置と押出機を直列に配置したものなどが挙げられる。ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0122】
脱揮工程の温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜330℃、さらに好ましくは200〜300℃である。この温度が150℃未満であると、残存揮発分が多くなることがある。逆に、この温度が350℃を超えると、得られるアクリル系樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0123】
脱揮工程における圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは800〜13.3hPa(600〜10mmHg)、さらに好ましくは667〜20.0hPa(500〜15mmHg)である。この圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、揮発分が残存しやすいことがある。逆に、圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0124】
処理時間は、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られるアクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには短いほど好ましい。
【0125】
重合反応時の単量体反応転化率が低い場合、重合液には未反応単量体が多量に残存している。その場合、得られるアクリル系樹脂の残存揮発分量を減らすには高い処理温度で、長時間処理することになるが、そうすると着色や分解が生じ易いという問題がある。多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、またはアルコール系溶剤などを重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液−液抽出、固−液抽出するなどの前処理を施すことで重合反応液から分離できる。前処理による単量体分離後の重合反応液を前述した脱揮工程に供すると、得られるアクリル系樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を0.5質量%以下に容易に抑えることができる。
【0126】
アクリル系樹脂中に残存する単量体の合計は、アクリル系樹脂100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。残存単量体の合計が0.5質量%を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形体の耐熱性及び耐候性が低下するなど実用に適さない成形体が得られる場合がある。
【0127】
アクリル系樹脂に含まれる異物数は、光学用に用いる場合少ないほど好ましい。異物数を減少させる方法としては、重合反応工程、脱揮工程、及び、後述する成形工程において、アクリル系樹脂の溶液または溶融液を、例えば、濾過精度1.5〜15μmのリーフディスク型ポリマーフィルターなどで濾過する方法などが挙げられる。
【0128】
(アクリル系樹脂の光学特性)
(i)光弾性係数Cの絶対値
アクリル系樹脂は、光弾性係数Cの絶対値が3.0×10−12Pa−1以下であることが好ましく、2.0×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、1.0×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましい。
【0129】
光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i−a)及び(i−b)により定義されるものである。光弾性係数Cの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことが判る。
=|Δn|/σ …(i−1)
|Δn|=nx−ny …(i−2)
【0130】
式中、Cは光弾性係数、σは伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。
【0131】
アクリル系樹脂の光弾性係数は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合と比較して、十分に小さい。従って、外力に起因した(光弾性)複屈折を生じさせないために複屈折変化を受けにくい。また、成形時の残存応力に起因する(光弾性)複屈折を生じにくいために成形体内での複屈折分布も小さい。
【0132】
(ii)面内方向の位相差Re
アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。ここで位相差Reは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0133】
位相差Reの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0134】
一般に、位相差Reの絶対値は、複屈折の大小を表す指標である。アクリル系樹脂の複屈折は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合の複屈折に対して十分に小さく、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途に好適である。
【0135】
一方、面内方向の位相差Reの絶対値が30nmを超える場合、屈折率異方性が高いことを意味し、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途には使用できないことがある。また、光学材料(例えば、フィルム、シートなど)の機械的強度を向上させるために延伸加工をする場合があるが、延伸加工後の面内方向の位相差の絶対値が30nmを超える場合は、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折材料が得られたことにはならない。
【0136】
(iii)厚み方向の位相差Rth
アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。ここで位相差Rthは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0137】
位相差Rthの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0138】
この厚み方向の位相差Rthは、光学材料、特に光学フィルムとしたとき、該光学フィルムを組み込んだ表示装置の視野角特性と相関する指標である。具体的には、厚み方向の位相差Rthの絶対値が小さいほど視野角特性は良好であり、見る角度による表示色の色調変化、コントラストの低下が小さい。
【0139】
アクリル系樹脂は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合と比較して、光学フィルムとしたときの厚み方向の位相差Rthの絶対値が非常に小さいという特徴を有する。
【0140】
(iv)ガラス転移温度Tg
アクリル系樹脂は、使用環境温度下での寸法安定性の観点から、高い耐熱性を有することが望ましい。当該耐熱性が優れることから、アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgは、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、135℃以上であることがさらに好ましい。
【0141】
(v)全光線透過率
アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで全光線透過率は、100μm厚に換算して求めた値である。全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下し、高い透明性を要求される用途に使用できないことがある。
【0142】
以上のとおり、アクリル系樹脂は、光弾性係数Cが十分に小さく(近似的にはゼロ)、また延伸加工の有無に関わらず、光学フィルムとして面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの絶対値がいずれも小さい(近似的にはゼロ)ことで特徴付けられ、従来公知の樹脂では達成できない光学的に完全な等方性を実現することができる。さらに、アクリル系樹脂は、高い耐熱性をも同時に達成することができる。
【0143】
[アクリル系熱可塑性樹脂組成物]
アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、上記アクリル系樹脂を含有し、透明性、耐熱性、低複屈折性に優れる。また、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体は、機械特性が良好であり、取扱い性に優れる。
【0144】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0145】
添加剤としては、例えば、無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤・離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0146】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸エステル系樹脂;ポリアミド;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリスルホン;ポリフェニレンオキサイド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;環状オレフィン系樹脂;ノルボルネン系樹脂;トリアセチルセルロースなどのセルロース樹脂等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂;メラミン樹脂;シリコーン樹脂;エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を含有することができる。
【0147】
[成形体]
樹脂層10は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物をフィルム状又はシート状に成形して得られる成形体からなる層である。
【0148】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、例えば、シート状、フィルム状、ストランド状、パイプ状などの押出成形体、円盤状、立方体状、板状などの射出成形体、及びプレス成形体等に成形することができる。これらの成形体は、アクリル系樹脂の特性に応じた特徴を有する。
【0149】
成形体がシート状又はフィルム状であるとき、その厚さは1〜10000μmであることが好ましく、1〜5000μmであることがより好ましく、1〜3000μmであることがさらに好ましい。
【0150】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形体にする手法として、例えばフィルム状又はシート状の成形体に成形加工するには、押出成形、溶液キャスト成形等の方法を用いることができる。
【0151】
具体的には、例えば押出成形では、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機を用い、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶融させて、シート状又はフィルム状に成形することができる。この際、各種添加剤やアクリル系熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を、アクリル系熱可塑性樹脂組成物とともに溶融混錬させて、成形体を得ることもできる。
【0152】
溶液キャスト成形では、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒にアクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶解してポリマー溶液とした後、キャスト、乾燥固化させてシート状又はフィルム状に成形することができる。
【0153】
シート状又はフィルム状の成形体の延伸は、押出成形、キャスト成形に連続して行うことができる。例えば、未延伸フィルム又はシートを、機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸したり、またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸フィルムとすることができる。
【0154】
延伸により、成形体の強度を向上させることができる。延伸倍率は、少なくとも一方向に0.1%以上300%以下であり、好ましくは0.2%以上290%以下であり、より好ましくは0.3%以上280%以下である。この範囲に延伸することにより、強度、透明性、複屈折などの光学特性に一層優れる成形体が得られる。
【0155】
延伸後の成形体に対して、その機械的特性や光学的特性を安定化させることを目的に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知のシート又はフィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0156】
成形体には、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0157】
成形体は、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基板、レンズ等、また、太陽電池に用いられる透明基板、タッチパネル等の透明導電性基板等に好適に用いることができる。その他にも、成形体は、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、レンズアレイ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなどにも用いることができる。
【0158】
[導電層]
本実施形態に係る導電性基板は、樹脂層10の少なくとも一面上に、導電層12を有するものである。導電層12は透明性に優れる層であることが好ましく、「透明導電層」ということもできる。
【0159】
導電層12を構成する材料としては、従来、当該分野で導電性材料として用いられているものはいずれも使用可能であり、具体的には、有機導電性化合物、有機導電性ポリマー、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、インジウム−錫酸化物(ITO)、アンチモン−錫酸化物(ATO)、亜鉛−アルミニウム酸化物、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物;金、銀、銅、銅、パラジウム、アルミニウムなどの金属が挙げられる。
【0160】
これらの中でも、酸化亜鉛、又は、酸化インジウムを主成分として含むものが好ましく、特に、酸化インジウムを主成分として含むものが好ましい。中でも、インジウム−錫酸化物は、高い透明性と導電性を兼ね備えているため好ましい。なお、ここで「主成分」とは、導電層12中、60質量%以上含まれることを意味し、好ましくは80〜99質量%含まれることを意味する。
【0161】
導電層12は、導電層12の総量基準で、酸化インジウムを80〜99質量%含有することが好ましく、90〜95質量%含有することがより好ましい。
【0162】
上記導電層12の厚みは、20〜300nmとするのが好ましい。より好ましくは25〜200nmであり、さらに好ましくは30〜100nmである。導電層12の厚みが薄すぎる場合には、厚みや組成が不均一になるおそれがあり、一方、厚すぎる場合には、透明性が失われるおそれがある。
【0163】
本発明において、樹脂層10上に導電層12を形成する方法としては、コーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの薄膜形成手段が挙げられる。これらの中でも、導電層12の膜厚および組成の制御が容易で、樹脂層10表面への密着性、生産性に優れるスパッタリング法を採用するのが好ましい。
【0164】
スパッタリング法を採用する場合、所望の導電層と同一の組成を有する金属酸化物ターゲットを用いる通常のスパッタリング法や、金属のターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素、窒素などを混合したものを用い、ターゲットまたは基板(樹脂層10)上で反応させることによって所望の組成の導電層を成膜してもよい。
【0165】
スパッタの方式も特に限定されず、2極スパッタ、3極スパッタ、4極スパッタ、マグネトロンスパッタ、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法、アンバランスドマグネトロンスパッタなどのプラズマ方式、イオンビームスパッタ、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタなどのビーム方式などが挙げられる。これらの中でも、マグネトロンスパッタ法、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法が好ましい。なお、使用する電源は、高周波電源(RF)、直流電源(DC)のいずれであってもよい。
【0166】
スパッタリング法で導電層12を形成する際のスパッタガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの希ガスが用いられる。また、反応性ガスとして、酸素や窒素などを用いてもよい。
【0167】
なお、スパッタリング時の真空度は、0.01〜2.0Paとするのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0Paである。真空度が上記範囲内であれば、放電が安定に起こるため、スパッタリングが安定し、均一な膜厚、組成の導電層12が得られ易い。また、導電層12と樹脂層10との密着性も良好となり易い。
【0168】
また、導電層12を積層する工程では、樹脂層10の表面温度が、樹脂層10を構成するアクリル系樹脂のガラス転移温度+30℃を超えない範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、樹脂層10を構成するアクリル系樹脂のガラス転移温度+20℃を超えない範囲であり、さらに好ましくは、樹脂層10を構成するアクリル系樹脂のガラス転移温度を超えない範囲である。アクリル系樹脂のガラス転移温度+30℃を超えると、樹脂層10が変形したり、樹脂層10の表面平滑性が失われるおそれがある。
【0169】
[導電性基板]
導電性基板100は、樹脂層10と、該樹脂層10の一面上に設けられた導電層12と、を備えるものである。そして、樹脂層10は、例えば、上記アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物をフィルム状又はシート状に成形して得られる成形体からなる層である。
【0170】
樹脂層10として用いられるアクリル系熱可塑性樹脂組成物の成形体(以下、場合により「フィルム状成形体」と称する。)の光学特性について、以下に示す。
【0171】
(i)光弾性係数Cの絶対値
フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、光弾性係数Cの絶対値が3.0×10−12Pa−1以下であることが好ましく、2.0×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、1.0×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましい。
【0172】
(ii)面内方向の位相差Re
フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、面内方向の位相差Reの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。ここで位相差Reは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0173】
位相差Reの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0174】
(iii)厚み方向の位相差Rth
フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、厚み方向の位相差Rthの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。但し、ここで位相差Rthは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0175】
位相差Rthの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0176】
(iv)ガラス転移温度Tg
フィルム状成形体は、使用環境温度下での寸法安定性の観点から、高い耐熱性を有することが望ましい。当該耐熱性が優れることから、フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、135℃以上であることがさらに好ましい。
【0177】
(v)全光線透過率
フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、全光線透過率が、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで全光線透過率は、100μm厚に換算して求めた値である。
【0178】
以上のとおり、フィルム状成形体を構成するアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、光弾性係数Cが十分に小さく(近似的にはゼロ)、また延伸加工の有無に関わらず、光学フィルムとして面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの絶対値がいずれも小さい(近似的にはゼロ)ことで特徴付けられ、従来公知の樹脂では達成できない光学的に完全な等方性を実現することができる。さらに、フィルム状成形体は、高い耐熱性をも同時に達成することができる。
【0179】
そして、このようなフィルム状成形体を樹脂層10として用いることで、透明性、耐熱性、光学特性及び機械特性に優れる導電性基板100を得ることができる。
【0180】
[タッチパネル]
導電性基板100は、高い透明性と低複屈折性とを兼ね備えたものであるため、各種表示装置と組み合わせて使用するタッチパネルに好適に用いられる。
【0181】
また、導電性基板100は、樹脂層10と導電層12との密着性が良好であるため、ペンなどで繰り返し入力を行った場合にも、電極間の摩擦による導電層12の剥離が生じ難い。
【0182】
導電性基板100を用いたタッチパネルとは、例えば、上方と下方の2枚の導電性基板100を、導電層12が対向し、かつ、上下の導電層12間に所定の間隙が保たれるようにスペーサーを介して積層された構造を有するものである。
【0183】
当該積層構造体を、タッチパネルとして使用する場合、一方(上方)の導電性基板100の導電層非形成面(導電層12が形成された面と反対側の面)が、指やペンで押され、その押圧で上下の導電層12が接触することで、指やペンによる入力情報が認識される。すなわち、上下の導電層12が接触箇所でショートされるため、これが電気信号として処理され、指やペンによる入力内容が認識されるのである。
【0184】
なお、本発明に係るタッチパネルは上述のように、2枚の導電性基板100からなるものであっても良く、また、フィルム表面のギラツキや映り込み、耐キズ付き性、耐指紋性、繰り返し使用時の耐久性を向上させるため導電層非形成面に表面処理(ハードコート処理、耐指紋付着処理)を施したり、機能性層を設けてもよい。また、使用時における入力のし易さを確保するため、導電層非形成面に、ガラスや、高分子樹脂フィルムを積層することもできる。
【0185】
本発明に係るタッチパネルは、透明性に優れ、且つ、光学的に等方性である(実質的に複屈折を有さない)導電性基板100を使用するものであるため、これを液晶ディスプレイパネルや、プラズマディスプレイパネル、CRTなどの表示装置に重ねて用いた場合にも、また、インナータッチパネルの構成部材としても用いた場合にもコントラストの低下が生じ難く、高い視認性を有するなど、優れた表示品位を示す。
【0186】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0187】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。まず、各測定値の測定方法について以下に示す。
【0188】
(a)アクリル系樹脂の解析
(a−1)構造単位の解析
H−NMR測定及び13C−NMR測定により、第一の構造単位、第二の構造単位、第三の構造単位及び第四の構造単位を同定し、その存在量を算出した。H−NMR測定及び13C−NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX−400
測定溶媒:CDCl、又は、d−DMSO
測定温度:40℃
【0189】
(a−2)ガラス転移温度Tgの測定
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から、中点法で算出した。
【0190】
(a−3)分子量の測定
重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販標準PMMA換算により求めた。
【0191】
(b)光学特性の評価
アクリル系熱可塑性樹脂組成物から下記の方法でプレスフィルム及び延伸フィルムを作製し、延伸フィルムの光学特性を下記の方法で評価した。
【0192】
[プレスフィルムの作製]
真空圧縮成型機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)を用いて、大気圧下、260℃、で25分間予熱後、真空下(約10kPa)、260℃、約10MPaで5分間圧縮して、プレスフィルムを成型した。
【0193】
[延伸フィルムの作製]
上記プレスフィルムについて、インストロン社製5t引張り試験機を用いて延伸温度(Tg+20)℃、延伸速度(500mm/分)、延伸倍率100%で一軸フリー延伸して延伸フィルムを成形し、下記の特性評価に供した。
【0194】
(b−1)複屈折の測定
大塚電子製RETS−100を用いて、回転検光子法により測定を行った。複屈折の値は、波長550nm光の値である。複屈折(Δn)は、以下の式により計算した。得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して、測定値とした。また、複屈折(Δn)の絶対値(|Δn|)は、以下のように求めた。
Δn=nx−ny
|Δn|=|nx−ny|
(式中、Δnは複屈折、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率を示す。)
【0195】
(b−2)面内方向の位相差Reの測定
大塚電子(株)製RETS−100を用いて、回転検光子法により波長400〜800nmの範囲について測定を行った。得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して測定値とした。複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Re)とは、以下の関係にある。また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
Re=|Δn|×d
(式中、|Δn|は複屈折の絶対値、Reは位相差、dはサンプルの厚みを示す。)
|Δn|=|nx−ny|
(式中、nxは延伸方向の屈折率、nyは面内で延伸方向と垂直な屈折率を示す。)
【0196】
(b−3)厚み方向の位相差Rthの測定
王子計測機器(株)製位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用いて、波長589nmにおける位相差を測定し、得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して測定値とした。複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Rth)は以下の関係にある。また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
Rth=|Δn|×d
(式中、|Δn|は複屈折の絶対値、Rthは位相差、dはサンプルの厚みを示す。)
|Δn|=|(nx+ny)/2−nz|
(式中、nxは延伸方向の屈折率、nyは面内で延伸方向と垂直な屈折率、nzは面外で延伸方向と垂直な厚み方向の屈折率を示す。)
【0197】
なお、理想となる、3次元方向について完全等方的等方性であるフィルムでは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)ともに0となる。
【0198】
(b−4)光弾性係数の測定
Polymer Engineering and Science 1999,39,2349−2357に詳細について記載のある複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引張り装置(井元製作所製)を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)、試験片幅は6mmで測定を行った。複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め光弾性係数(C)を計算した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σ≦10MPaの間のデータを用いた。
=|Δn|/σ
|Δn|=|nx−ny|
(式中、Cは光弾性係数、σは伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向の垂直な屈折率を示す。)
【0199】
(製造例1:アクリル系樹脂(A−1)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルを備えたSUS製反応器(容量0.5L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度はオイルバスで130℃に制御した。
【0200】
メタクリル酸メチル576g、N−フェニルマレイミド61g、N−シクロヘキシルマレイミド83g、メチルイソブチルケトン480gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。また、パーヘキサC(日油(株)製;濃度75wt%)8.63gをメチルイソブチルケトン91.37gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0201】
原料溶液はポンプを用いて8.25ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて500ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液と、抽出溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするアクリル系樹脂(A−1)を得た。
【0202】
得られたアクリル系樹脂(A−1)について、上記の方法で構造単位の解析、ガラス転移温度の測定及び分子量の測定を行った。結果は以下のとおりであった。なお、以下、場合によりメタクリル酸メチル由来の構造単位を「MMA」と表し、N−フェニルマレイミド由来の構造単位を「N−PheMI」と表し、N−シクロヘキシルマレイミド由来の構造単位を「N−CyMI」と表す。
構造単位:MMA/N−PheMI/N−CyMI=81/8/11(質量%)、N−PheMI/N−CyMI(モル比)=0.75
分子量:Mw=22.5×10、Mw/Mn=2.09
Tg:135℃
【0203】
(製造例2:アクリル系樹脂(A−2)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、及び開始剤溶液導入ノズルを備えたガラス製反応器(容量1.0L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度はオイルバスで100℃に制御した。
【0204】
メタクリル酸メチル140g、N−フェニルマレイミド14g、N−シクロヘキシルマレイミド34g、スチレン12g、メチルイソブチルケトン200gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。また、パーヘキサC(日油(株)製;濃度75wt%)0.32gをメチルイソブチルケトン1.00gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
【0205】
原料溶液は圧送でガラス反応器内に原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はシリンジで開始剤溶液導入ノズルから導入し重合反応を開始した。反応開始3時間後を反応終了点とし、ポリマー溶液を回収した。得られたポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするアクリル系樹脂(A−2)を得た。
【0206】
得られたアクリル系樹脂(A−2)について、上記の方法で構造単位の解析、ガラス転移温度の測定及び分子量の測定を行った。結果は以下のとおりであった。なお、以下、場合によりスチレン由来の構造単位を「St」と表す。
構造単位:MMA/N−PheMI/N−CyMI/St=70/5/20/5(質量%)、N−PheMI/N−CyMI(モル比)=0.26
分子量:Mw=15.6×10、Mw/Mn=2.01
Tg:141℃
【0207】
(参考例1)
製造例1で得られたアクリル系樹脂(A−1)を用いて、上述の方法に従いプレスフィルムを作製した。また、該プレスフィルムから上述の方法に従い100%延伸フィルムを作製し、延伸透明フィルム(A−1)とした。
【0208】
得られた延伸透明フィルム(A−1)について、上述の方法で光学特性を評価した。評価結果は、表1に示すとおりであった。
【0209】
(参考例2)
製造例2で得られたアクリル系樹脂(A−2)を用いて、上述の方法に従いプレスフィルムを作製した。また、該プレスフィルムから上述の方法に従い100%延伸フィルムを作製し、延伸透明フィルム(A−2)とした。
【0210】
得られた延伸透明フィルム(A−2)について、上述の方法で光学特性を評価した。評価結果は、表1に示すとおりであった。なお、表中「>85」は85より大きいことを示す。
【0211】
【表1】

【0212】
表1に示すとおり、各製造例のアクリル系樹脂から得られた透明フィルムは、光学的特性である位相差及び光弾性係数の絶対値が極めて小さいことが確認された。特に、参考例1の透明フィルムは、延伸加工しているにも関わらず、その光学特性が既存樹脂では達成しえない高い光学的等方性、いわゆるゼロ−ゼロ複屈折であることが判る。また、優れた耐熱性を有していることが確認される。この特徴は、成形時や延伸加工時に、溶融成形時の流れによる高分子鎖の配向に起因した(配向)複屈折が生じない、及び、成形時の残留応力や外力による(光弾性)複屈折を生じないという点で産業応用上極めて有利である。
【0213】
(実施例1)
参考例1で得られた延伸透明フィルム(A−1)に、スパッタ装置(対向ターゲット式スパッタリング装置、大阪真空機器製作所製)を用いてITO層を形成した。スッパッタリングには、酸化錫を10質量%含む酸化インジウム−酸化錫のターゲットを用い、真空度0.5Paで、5体積%酸素を添加したアルゴンガス雰囲気下、0.4Å/secの速度で20分間スパッタリングを行い、ITOの透明導電層(厚さ50nm)を有する透明導電性基板(A−1)を得た。
【0214】
(実施例2)
延伸透明フィルム(A−1)にかえて参考例2で得られた延伸透明フィルム(A−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法及び条件でITO層(厚さ50nm)の形成を行い、透明導電性基板(A−2)を得た。
【0215】
(比較例1)
環状オレフィン樹脂(COP)フィルム(日本ゼオン(株)製)を、上述の方法に従い100%延伸した延伸透明フィルム(B−1)に成型し、実施例1と同様の方法及び条件で当該延伸透明フィルム(B−1)にITO層(厚さ50nm)を形成して、透明導電性基板(B−1)を得た。
【0216】
(比較例2、3)
PCフィルム(帝人(株)製)、PETフィルム(東レ(株)製)をそれぞれ使用し、実施例1と同様の方法及び条件で、各フィルム上にITO層(厚さ50nm)を形成し、透明導電性基板(B−2)、透明導電性基板(B−3)を得た。
【0217】
実施例及び比較例で得られた透明導電性基板の物性は、表2に示すとおりであった。なお、表中「<1」は1未満であることを示す。
【0218】
【表2】

【0219】
表2より、実施例の透明導電性基板は、比較例の透明導電性基板と比較して、光弾性係数が小さく、また、位相差も小さい。特に、実施例1の透明導電性基板(A−1)は、ゼロ−ゼロ特性というべき高い光学的等方性を有するものである。また、全光線透過率も、透明性を要求される用途での使用に十分な透過率を有する。したがって、本発明の透明導電性基板は、各種表示素子と組み合わせて使用するタッチパネルなどに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明の導電性基板は、耐熱性、各種光学特性(透明性、光学等方性、低複屈折性)に優れる特定のアクリル系樹脂からなる成形体を基材(樹脂層)として用いているため、ITO層などの金属酸化物からなる導電層形成後にも、優れた光学特性(透明性、光学等方性、低複屈折性)が維持されるので、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示素子と組み合わせて用いるタッチパネルとして好適である。
【符号の説明】
【0221】
10…樹脂層、12…導電層、100…導電性基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される第一の構造単位、下記式(2)で表される第二の構造単位及び下記式(3)で表される第三の構造単位を有するアクリル系樹脂を含有する樹脂層と、該樹脂層の一面上に設けられた導電層と、を備える導電性基板。
【化1】


[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基。]
【化2】


[式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
B群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。]
【化3】


[式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
C群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基。]
【請求項2】
前記アクリル系樹脂の光弾性係数の絶対値が3.0×10−12Pa−1以下である、請求項1に記載の導電性基板。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、100μm厚換算で、30nm以下となる樹脂である、請求項1又は2に記載の導電性基板。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が、100μm厚換算で、30nm以下となる樹脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgが120℃以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂は、フィルム成形した場合の全光線透過率が、100μm厚換算で85%以上となる樹脂である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項7】
前記導電層がインジウム−錫酸化物を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項8】
前記アクリル系樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の前記第一の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第三の構造単位とを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項9】
前記アクリル系樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の前記第一の構造単位と、0.1〜20質量%の前記第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第三の構造単位とを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項10】
前記Rが、メチル基又はベンジル基であり、
前記Rが、フェニル基又は前記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有するフェニル基であり、
前記Rが、シクロヘキシル基である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項11】
前記アクリル系樹脂は、GPC測定法により測定されるポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量Mwが3000〜1000000であり、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが1〜10である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項12】
前記樹脂層が、前記アクリル系樹脂を含有する樹脂シートを、少なくとも一軸方向に延伸してなるフィルム状又はシート状の成形体からなる層である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の導電性基板を備える、タッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−16312(P2013−16312A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147336(P2011−147336)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】