説明

導電性塗料

【課題】本発明は、乾燥後に密着性に優れると共に、耐久試験において高い耐久性を有する塗膜を形成する溶剤系導電性塗料を提供するものである。
【解決手段】(A)〜(D)成分を含む導電性塗料;
(A)成分:スチレンと、モノエンおよび/またはジエンとの共重合体である熱熱可塑性エラストマー
(B)成分:導電性粉体
(C)成分:溶剤
(D)成分:(d1)または(d2)
(d1)有機チタン錯体または有機ジルコニウム錯体
(d2)アミノ基を有するカップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や基板等に使用できる溶剤系の導電性塗料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されている様に、ゴム系エラストマーに導電性フィラーである銀粉やニッケル粉が含有されてなる組成物は従来から知られていた。しかしながら、この様な組成物は密着性が無く、導電性のマスキング剤として使用されていた。
【0003】
組成物の密着性を向上させるため、特許文献2では、ポリビニルアセタール樹脂を用いると共に、200℃以上で焼成を行うことが開示されている。ただし、焼成を行える被着体は無機材料に限られるため、組成物の用途は限定される。
【0004】
さらには、特許文献3に記載されている様に、特有の構造を有するバインダー成分を使用して密着性を向上させると共に、酸化されやすく扱いが困難な銅粉を使用することで安価な導電性樹脂を得ようとする試みも知られている。しかしながら、バインダー成分が特殊なので、安価な導電性フィラーを用いることによって生じるコストの削減分が、バインダー成分が高価であることにより相殺されてしまう。また、銅粉自体は安価であるが、導通性が不安定である。ニッケル粉は銀粉よりもコストが低い。しかしながら、耐湿性試験(85℃および85%RH(相対湿度))や耐ヒートサイクル性試験(1サイクル:80℃で30分間および−40℃で30分間)等の信頼性試験において、ニッケル粉の酸化により抵抗値の上昇が発生する場合がある。さらには、塗料は接着剤と異なり、接着力が弱いため、界面剥離が発生しやすい。当然のことながら、界面剥離が発生すれば被着体との導通が失われ、回路としての役割も失う。ニッケル粉より酸化しやすい銅粉では信頼性向上は技術的に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−43704号公報
【特許文献2】特開2007−294361号公報
【特許文献3】特開平3−2283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の導電性塗料は塗膜が硬質であるため、耐湿性試験、耐ヒートサイクル性試験などの耐久試験において塗膜に亀裂が入るなどの劣化が起こりやすく、耐久性が低かった。また、アルミニウムは酸化しやすいため、これが被着体である場合、耐久試験で使用するような条件下では表面状態が不安定となり、塗膜との密着性が低下する。従来、このような不安定な被着体に対する塗膜の信頼性を向上させることは困難であった。導電性塗料は、一方の被着体(電極、筐体等)と他方の被着体との電気的な接続を目的として使用される。そのため、塗膜と被着体との界面において密着していなければ、導電性の塗膜を形成しても電気的接続が寸断されてしまう。特に、ゴム系の材料を樹脂成分として使用した塗料は、塗膜が軟質であり、耐ヒートサイクル性試験の耐久試験において亀裂が入りにくいが、被着体に対する密着性が発現しにくい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、乾燥後の塗膜が密着性に優れると共に、高い耐久性を有する塗膜を形成することができる溶剤系導電性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、導電性塗料に関する本発明を完成するに至った。本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)〜(D)成分を含む導電性塗料である。
(A)成分:スチレンと、モノエンおよび/またはジエンとの共重合体である熱可塑性エラストマー
(B)成分:導電性粉体
(C)成分:溶剤
(D)成分:(d1)または(d2)
(d1)有機チタン錯体または有機ジルコニウム錯体
(d2)アミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂。
【0009】
本発明の第二の実施態様は、(A)成分両末端にスチレン残基を有する熱可塑性エラストマーである第一の実施態様に記載の導電性塗料である。
【0010】
本発明の第三の実施態様は、(B)成分がニッケル粉である第一または第二の実施態様に記載の導電性塗料である。
【0011】
本発明の第四の実施態様は、(A)成分の含有量100質量部に対し、(B)成分の含有量は300〜700質量部であり、(C)成分の含有量は100〜1000質量部であり、(d1)成分を含む場合の(d1)成分の含有量は5〜20質量部であり、(d2)成分を含む場合の(d2)成分の含有量は50〜200質量部である第一〜第三のいずれかの実施態様に記載の導電性塗料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、乾燥後の塗膜が密着性に優れると共に、高い耐久性を有する塗膜を形成することができる溶剤系導電性塗料を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用される(A)成分としては、スチレンと、モノエンおよび/またはジエンとの共重合体である熱可塑性エラストマーが挙げられる。当該熱可塑性エラストマーは、溶剤に可溶な熱可塑性エラストマーであることが好ましい。なお、本明細書において、「モノエン」とは分子中にエチレン性不飽和二重結合を1つ有する化合物(但し、スチレンを含まない)を意味し、「ジエン」とはエチレン性不飽和二重結合を2つ有する化合物を意味する。
【0014】
(A)成分が、スチレンと、モノエンとの共重合体(以下、「非ジエン系共重合体」とも称する)である熱可塑性エラストマーである場合の具体例としては、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−エチレン共重合体)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。一方、(A)成分が、スチレンと、ジエンとの共重合体(以下、「ジエン系共重合体」とも称する)である熱可塑性エラストマーである場合、当該ジエン系共重合体は、プラスチックとゴムの中間的な特性を有することが好ましい。より詳しくは、当該ジエン系共重合体は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのジエン系ゴム骨格を有することが好ましい。具体例としては、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明で使用できる(B)成分としては、導電性粉体であればよく、粒子の材質、粒子の形状は限定されない。粒子の材質としては、銀、ニッケル、パラジウム、カーボン、タングステン、絶縁性酸化金属被膜を有する金属や絶縁体を銀メッキした材料などが挙げられる。形状としては、球状、不定形、フレーク状(鱗片状)、フィラメント状(針状)などが挙げられる。特に、原料の原価が安いことから、ニッケル粉、絶縁性酸化金属被膜を有する金属や絶縁体を銀メッキした粉体好ましい。樹脂成分に混練するためには、二次凝集粉の粒径が50μm以下であることが好ましい。ニッケル粉の具体例としては、三井金属鉱業株式会社製の球状粉、CuloxTechnologies社製の球状粉、フレーク粉、東邦チタニウム株式会社製の球状粉、Inco Limited製の球状粉やフィラメント状粉、NOVAMET製のフレーク粉などが知られる。
【0016】
本発明の導電性塗料において、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量は300〜700質量部であることが好ましく、400〜600質量部であることがより好ましい。含有量が700質量部以下であると密着性が向上する傾向があり、300質量部以上であると、導通性が安定化する傾向がある。
【0017】
本発明で使用できる(C)成分としては、(A)成分を溶解することができる溶剤であれば特に限定されない。本発明ではヘキサンなどの炭化水素系溶剤、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶剤が(C)成分として好ましい。(C)成分は粘度を調整する役割を有する。
【0018】
本発明の導電性塗料において、(A)成分100質量部に対する(C)成分の含有量は100〜1000質量部であることが好ましく、400〜800質量部であることがより好ましい。含有量が1000質量部以下であると導電性粉体の沈降が抑えられ、100質量部以上であると塗料の粘性を適度に保つことができるので取扱に支障をきたさない。
【0019】
本発明で使用できる(D)成分としては、(d1)成分として触媒活性を有するチタンおよび/またはジルコニウムの有機金属錯体、または、(d2)成分としてアミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂を挙げることができる。
【0020】
(d1)成分の有機チタン錯体の具体例としては、アルコキシド系チタン錯体としてチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド;キレート系チタン錯体としてチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコール)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート);アシレート系チタン錯体としてポリヒドロキシチタンステアレートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機ジルコニウム錯体の具体例としては、アルコキシド系ジルコニウム錯体として、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド;キレート系ジルコニウム錯体として、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般式1〜3はそれぞれ、アルコキシド系、キレート系、アシレート系の有機金属錯体の一般式を表す。Mはチタン原子又はジルコニウム原子を表し、Rはそれぞれ独立して飽和又は不飽和の炭化水素基(好ましくは炭素原子数1〜30の飽和又は不飽和炭化水素基、より好ましくは炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和炭化水素基)を表し、nは1〜4の整数を表す。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明の導電性塗料において、(A)成分100質量部に対して、(d1)成分の含有量は5〜20質量部であることが好ましい。含有量が20質量部以下の場合はアウトガスの増加が抑えられる傾向があり、5質量部以上の場合は密着性が安定化する傾向がある。
【0023】
(d1)成分は、触媒活性を有し、触媒活性を有さないチタネート系カップリング剤は(d1)成分に含まれない。本発明において(d1)成分により密着性が向上するメカニズムは判っていないが、被着体表面に残留している水分と(d1)成分とが反応することで接着力が向上すると推測される。
【0024】
(d2)成分として、アミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂を使用することができる。本発明において(d2)成分により密着力が発現する理由は充分に判明していないが、少なくともアミノ基を有するシラン系カップリング剤または水酸基を有するテルペン樹脂のいずれか一方を使用しただけでは密着性向上に効果がなく、両方を含有する必要がある。
【0025】
アミノ基を有するシラン系カップリング剤とは、一般式4の様な加水分解性基を有するケイ素原子とアミノ基とを1分子中に有する化合物であり、具体的には信越化学工業株式会社製のKBM−602、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−903、KBM−573、東レ・ダウコーニング株式会社製のZ−6610、Z−6011、Z−6020、Z−6094、Z−6023、Z−6883、Z−6032などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
【化2】

【0027】
(Rはそれぞれ独立して飽和又は不飽和の炭化水素基(好ましくは炭素原子数1〜30の飽和又は不飽和炭化水素基、より好ましくは炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和炭化水素基)を表し、Rはそれぞれ独立してメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30のアルコキシ基、より好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基)を表し、Xは1〜3の整数を表す。)。
【0028】
水酸基を有するテルペン樹脂とは、テルペン樹脂中に水酸基を含んでいる化合物であればよく、例えばテルペンとフェノールの共重合体が挙げられる。具体例としては、ヤスハラケミカル株式会社製 YSポリスターU−130、U−115やYSポリスターT−160、T−145、T−130、T−115、T−100、マイティエースG−150などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、テルペン樹脂は室温(25℃)において固形である場合もあり、(C)成分に溶解し、溶解した状態で(A)成分とも相溶することが好ましい。
【0029】
本発明の導電性塗料において、(A)成分100質量部に対して、(d2)成分の含有量の合計は50〜200質量部であることが好ましい。含有量の合計が200質量部以下であるとアウトガスの増加が抑えられると共に塗膜が硬質になりにくい傾向があり、50質量部以上であると、密着性が安定化する傾向がある。また、アミノ基を有するシラン系カップリング剤と水酸基を有するテルペン樹脂との比率(質量比)は、1:1〜1:20が好ましい。
【0030】
本発明の特性を損なわない範囲において、導電性塗料は、顔料、染料などの着色剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合されてもよい。また、非ジエン系のゴム骨格を含む熱可塑性エラストマーであるウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレンビニルアセテートなどを添加してもよい。これらの添加により、樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた導電性塗料、および当該導電性塗料により形成される塗膜が得られる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
[実施例1〜11および比較例1〜12]
実施例1〜11および比較例1〜12の導電性塗料を調製するために下記成分を準備した。(以下、実施例および比較例の導電性塗料を単に「塗料」とも称する。)
(A)成分:スチレンと、モノエンおよび/またはジエンとの共重合体である熱可塑性エラストマー
・スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)直鎖型コポリマー:クレイトンG1650 クレイトンポリマージャパン株式会社製
・スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)直鎖型コポリマー:クレイトンFG1901X クレイトンポリマージャパン株式会社製
(B)成分:導電性粉体
・フレーク状ニッケル粉:ニッケルフレークHCA−1 ノバメット社製
(C)成分:溶剤
・キシレン:キシロール 三協化学株式会社製
(D)成分:
(d1):有機チタン錯体または有機ジルコニウム錯体
・チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド:オルガチックス(登録商標)TA−30 マツモトファインケミカル株式会社製
・チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート):オルガチックス(登録商標)TC−750 マツモトファインケミカル株式会社製
・ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート:オルガチックス(登録商標)ZC−540 マツモトファインケミカル株式会社製
・ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート):オルガチックス(登録商標)ZC−570 マツモトファインケミカル株式会社製
・ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート):オルガチックス(登録商標)ZC−580 マツモトファインケミカル株式会社製
(d2):アミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂
アミノ基を有するシラン系カップリング剤
・N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン:KBM−603 信越化学工業株式会社製
・3−アミノプロピルトリメトキシシラン:KBM−903 信越化学工業株式会社製
水酸基を有するテルペン樹脂
・テルペン・フェノール共重合体:YSポリスターT−145 ヤスハラケミカル株式会社製
・テルペン・フェノール共重合体:マイティエースG−150 ヤスハラケミカル株式会社製
(D’)成分:比較成分
・エチレン−酢酸ビニルゴム:レバプレン(登録商標)800HV LANXESS社製
・イソプロピルトリイソステアロイルチタネート(チタネート系カップリング剤):プレンアクト(登録商標)KRTTS 味の素ファインケミカル株式会社製
・オクチル酸スズ(非チタン系触媒):ネオスタンU−28 日東化成株式会社製
・水酸基を有さないテルペン樹脂:YSレジンPX1250 ヤスハラケミカル株式会社製
・3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(アミノ基を有さないシラン系カップリング剤):KBM−803 信越化学工業株式会社製
・3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(アミノ基を有さないシラン系カップリング剤):KBM−403 信越化学工業株式会社製
塗料の製造方法は次の通りである。(A)成分と(C)成分とを容器に入れて3時間撹拌した。揮発した(C)成分は後から添加して重量補正を行った。次に(d1)成分を添加して追加で30分間撹拌した後、(B)成分を添加してさらに30分間撹拌した。最後に(C)成分を添加して重量補正を行った。(d2)成分を使用する時は、事前に(A)成分と(d2)成分とを(C)成分に添加した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0033】
【表1】

【0034】
[比較例13]
比較例13として溶剤系の導電性エポキシ樹脂を調製するために下記成分を準備した。詳細な調製量は表2に従い、数値は全て質量部で表記する。エポキシ樹脂、溶剤、硬化剤容器に入れて15時間撹拌した。揮発した溶剤は後から添加して重量補正を行った。次にニッケル粉を添加して追加で30分間撹拌した。最後に溶剤で重量補正を行った。
・ビスフェノールA型とF型エポキシ樹脂の混合物:EXA−835LV 大日本インキ化学工業株式会社製
・フェニルグリシジルエーテル:EX−141 ナガセケムテックス株式会社製
・1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩:U−CAT SA102 サンアプロ株式会社製
・キシレン:キシロール 三協化学株式会社製
・フレーク状ニッケル粉:ニッケルフレークHCA−1 ノバメット社製
・3−アミノプロピルトリメトキシシラン:KBM−903 信越化学工業株式会社製
【0035】
【表2】

【0036】
実施例1〜11および比較例1〜13について粘度測定、密着性試験、耐湿性試験、耐ヒートサイクル性試験を実施した。その結果を表3に示す。
【0037】
[粘度測定]
塗料の温度が室温(25℃)であることを確認してから、以下の条件で「粘度(Pa・s)」を測定した。
【0038】
測定条件
粘度計仕様:東機産業株式会社製 TV−33型粘度計(EHD型)
コーンローター:1°34’×R24
回転速度:5.0rpm
測定時間:3分
測定温度:25℃
[密着性試験]
長さ100mm×幅25mm×厚さ1.6mmのアルミ板(A1050P)の上に長さ100mm×幅20mm×厚さ0.1mmのマスキングを行って塗料をスキージした。このとき、塗膜の表面が平坦となるように、塗料には泡が混入しないようにスキージを行う。最後に、マスキングを剥がし、熱風乾燥炉により90℃雰囲気下で1時間加熱して塗料を乾燥させて塗膜を形成した。比較例12の場合は、120℃雰囲気下で1時間加熱した。当該塗膜に縦横に1mm間隔で11ライン切り込みを入れ、1mm角のマス目が100個出来るようにした。その後、切り込みを入れた塗膜にセロハンテープを貼り、それを剥がした際に剥離するマス目の数によって「密着性」を確認し、「密着性」は下記基準にて評価した。密着性の評価が「◎」〜「△」であることが好ましく、「▲」または「×」であるとアルミ板との界面で体積抵抗率が不安定化するおそれがある。その他の測定条件はJIS K 5400に準ずる。
【0039】
評価基準
◎:100個マス目の中で0〜20個未満が剥離した
○:100個マス目の中で20〜40個未満が剥離した
△:100個マス目の中で40〜60個未満が剥離した
▲:100個マス目の中で60〜80個未満が剥離した
×:100個マス目の中で80個以上が剥離した
[耐湿性試験]
寸法2.0mm×100mm×100mmのガラス板の上に、マスキングテープにより幅10mm×長さ90mm×厚さ50μmのマスキングを行い、塗料をスキージした。このとき、塗膜の表面が平坦となるように、塗膜には泡が混入しないように注意した。次にマスキングを剥がし、熱風乾燥炉により90℃雰囲気下で1時間加熱して塗料を乾燥させた。比較例12の場合は、120℃雰囲気下で1時間加熱した。(以下、塗膜を乾燥させたガラス板を「テストピース」と呼ぶ。)テストピースが室温(25℃)であることを確認した上で、電極間距離50mm(L)の時の抵抗値(R)を測定した。また、テストピースの塗膜厚を測定して、電流方向に対する断面積(A)を求めた。これらの測定値から数式1に従い「体積抵抗率(ρ)」を計算した。前記の体積抵抗率を「初期の体積抵抗率」とする。当該テストピースを温度85℃で相対湿度85%雰囲気下に200時間放置した。テストピースが室温(25℃)に戻った後、再び体積抵抗率の測定を行い「試験後の体積抵抗率」とした。「試験後の体積抵抗率」/「初期の体積抵抗率」×100=「体積抵抗率変化(%)」として、以下の評価基準により評価を行った。耐湿性試験および後述の耐ヒートサイクル性試験では、体積抵抗率変化の評価が「○」であることが好ましい。
【0040】
評価基準
○:体積抵抗率変化が5%未満
△:体積抵抗率変化が5%以上50%未満
×:体積抵抗率変化が50%以上
【0041】
【数1】

【0042】
[耐ヒートサイクル性試験]
耐湿性試験と同様に、テストピースを作成し「初期の体積抵抗率」を計算した。−40℃雰囲気下で30分間および85℃で30分間を連続で行う設定を1サイクルとして、当該テストピースを100サイクル放置した。テストピースが室温(25℃)に戻った後、耐湿性試験と同様に「試験後の体積抵抗率」を測定し、「体積抵抗率変化」を上記と同様の評価基準により評価した。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例1〜6と比較例3、4とを比較すると、触媒活性を有するチタン錯体またはジルコニウム錯体を含有する実施例1〜6では密着性が良好であったが、触媒活性を有さないチタネート系カップリング剤を含有する比較例3と湿気硬化触媒として使用される有機スズ触媒を含有する比較例4では密着性が向上していなかった。また、実施例7〜11と比較例5〜12とを比較すると、アミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂を同時に含有する実施例7〜11では密着性が良好であったが、どちらか一方のみを使用した場合、または水酸基を有さないテルペン樹脂を使用した場合である比較例5〜12では密着性が向上しなかった。また、比較例6では体積抵抗率変化が良好ではなかった。また、比較例9〜12ではアミノ基を有さないシラン系カップリング剤を含有しているが、密着性は向上しなかった。また、比較例13においてはエポキシ樹脂を用いているため密着性は良好であったが、耐湿性試験において吸湿によるニッケルの酸化が原因と推測される体積抵抗率の変化と、塗膜の硬質化が原因と推測される耐ヒートサイクル性試験での体積抵抗率の変化が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
ニッケル粉を含む導電性塗料は、耐久試験により体積抵抗率が劣化する傾向がある。また、塗料であるため密着性が絶対的に低い。従来の導電性塗料が有するこれらの問題点を克服したのが本発明である。特に、ニッケル系導電塗料はコストが安価であるため、電化製品、電子部品の静電気をおろす(アースとり)に使用されることが多く、耐久性を求められるこれら製品・部品にも使用できる本発明は、電気分野全般に使用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(D)成分を含む導電性塗料;
(A)成分:スチレンと、モノエンおよび/またはジエンとの共重合体である熱可塑性エラストマー
(B)成分:導電性粉体
(C)成分:溶剤
(D)成分:(d1)または(d2)
(d1)有機チタン錯体または有機ジルコニウム錯体
(d2)アミノ基を有するシラン系カップリング剤および水酸基を有するテルペン樹脂。
【請求項2】
前記(A)成分が両末端にスチレン残基を有する熱可塑性エラストマーである請求項1に記載の導電性塗料。
【請求項3】
前記(B)成分がニッケル粉である請求項1または2に記載の導電性塗料。
【請求項4】
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分の含有量は300〜700質量部であり、前記(C)成分の含有量は100〜1000質量部であり、前記(d1)成分を含む場合の(d1)成分の含有量は5〜20質量部であり、前記(d2)成分を含む場合の(d2)成分の含有量は50〜200質量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性塗料。

【公開番号】特開2012−153877(P2012−153877A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272399(P2011−272399)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】