説明

導電性布帛およびこれを用いた平面電極

【課題】電極としての導電性を確保し、公知公用の方法で容易に着色が可能で、手触り、柔軟性等を含めファッション性の面で通常の布帛として用いても何ら違和感のない導電性布帛を提供する。また、この導電性布帛を用いることで、ファッション性に優れた平面電極を提供する。
【解決手段】繊維にめっきしてなる導電糸と非導電糸からなる布帛で、布帛の一方の表面はその面積の70%以上を導電糸が占め、もう一方の表面はその面積の70%以上を非導電糸が占めることを特徴とする導電性布帛である。また、前記導電性布帛に電気絶縁層を貼り合わせてなる絶縁層付き導電性布帛である。更に、前記導電性布帛の、面積の70%以上を導電糸が占める面を内側とし、間に絶縁層を介して積層することにより形成された平面電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣類としての機能とディバイスの電源供給路、通信路としての導電性を兼ね備えた素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウエアラブルコンピューター、ユビキタスコンピューティング、メディアファッションといった言葉が注目を浴びている。これらはコンピュータ、各種センサー、アクチュエーター、ディスプレー等を衣服や装身品に装着することにより成り立つ。
【0003】
従来の技術ではコンピュータ、各種センサー、アクチュエーター、ディスプレー等を衣服に装着しそれらの有機的な結合を実現するため電源とデータ通信路の確保の為に多くのケーブルを用いていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、電源及びデータ通信路を確保するにあたり、各々のディバイスに対し独立したケーブルを連結することになる。ケーブルを衣服、装身品に装着した場合、重い、動きの邪魔になる、外観的にもファッショナブルとは言い難い等々、衣服、装身品としての機能が大幅に損なわれてしまい、日常生活で使用可能なものではなかった。またディバイス毎に単独電源と通信経路を持たねばならず、システムとしての拡張性にも乏しくコスト面でも問題があった。本発明は衣服、装身品として必要な機能である柔軟性、軽さ、色、素材感、手触り等のファッション性を具備した上で電源、通信路用ケーブルとしての機能を持つ平面電極及びそれを構成するのに最適な導電性布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明をするに至った。つまり、本発明は第一に、繊維にめっきしてなる導電糸と非導電糸からなる布帛で、布帛の一方の表面はその面積の70%以上を導電糸が占め、もう一方の表面はその面積の70%以上を非導電糸が占めることを特徴とする導電性布帛である。ここで、繊維にめっきしてなる導電糸と非導電糸からなる布帛は、編物であることが好ましい。
【0006】
また、本発明は第二に、上記導電性布帛に電気絶縁層を貼り合わせてなる絶縁層付き導電性布帛である。絶縁層としては繊維布帛、高分子フィルム、エラストマーシートから選ばれる一種以上である事が好ましい。加えて、これら絶縁層が透湿防水性を有する事が好ましい。
【0007】
更に、本発明は第三に、第一の発明である導電性布帛二枚の間に絶縁層を挟み形成された平面電極である。絶縁層としては繊維布帛、高分子フィルム、エラストマーシートから選ばれる一種以上である事が好ましい。また、第二の発明である絶縁層付き導電性布帛を二枚重ねて形成された平面電極である。或いは第一の発明の導電性布帛と第二の発明である絶縁層付き導電性布帛により形成された平面電極である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電糸が主となる面は電極としての導電性を確保し、非導電糸が主となる面は通常の繊維布帛に用いる方法で容易に着色が可能で、手触り、柔軟性等を含めファッション性の面で通常の布帛として用いて何ら違和感のない導電性布帛を得る事が出来る。また、この導電性布帛を二枚用い、非導電糸が主となる面を外側として構成することで、ファッション性に優れた平面電極を得る事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
導電糸としては繊維にめっきしてなる導電糸であって、所定の導電性を有していれば、繊維素材、めっきの金属種は特に限定されない。使用時の耐久性、製編・染色時に於ける性能劣化、コスト等を考えると、合成繊維に銀めっきを施した糸が最も好ましい。
【0010】
一方、非導電糸については特に制限はない。導電布の使われ方、用途等にあわせ必要機能、外観、風合い、触感等を考慮して選択すればよい。
【0011】
布帛の全て又は一部に前記導電糸を用いて構成することにより導電性布帛ができる。当目的に使用する導電性布帛は平面電極として用いる為、全方向に導電性を有する必要がある。布帛が編物の場合には、糸をループ状に絡ませることで平面が形成される為、電圧をかけた場合の面方向の導電性は、絡んだ糸間の電流の流れ易さに支配されることになる。つまり交絡した糸間の電気抵抗を小さくすることで導電性を高くすることが出来る。導電糸100%で布帛を構成する場合は問題ないが、導電糸と非導電糸とで布帛を構成する場合には、糸や組織で工夫する事で必要な導電性を有する布帛を得る事が出来る。
【0012】
導電糸と非導電糸を混合して布帛にする方法として(1)導電糸と非導電糸を混合した糸を用いて布帛とする(2)導電糸を布帛全体に均一存在するようにする(3)導電糸を布帛の平面の中で偏在させる(4)導電糸を布帛の片面に偏在させる、等の方法が考えられるが(1)、(2)、(3)の方法は基盤としての全方位の導電性を持つこと及び布帛の構造上糸間での電気抵抗を極力小さくする必要がある点で不適であり、(4)の方法が最適である。
【0013】
布帛の片面に導電糸を偏在させる方法としては、公知公用の手法を用いる事が出来るが、いわゆる二重組織の織編物とすることが好ましい。導電糸が偏在する面では全方位の導電性を持たせ、非導電糸が偏在する面は外観や意匠性、触感などに優れたものとするために、一方の面では導電糸が表面積の70%以上を占め、他方の面では非導電糸が表面積の70%以上を占める事が必要である。一方の面において導電糸の占める面積が70%未満では、全方位において十分な導電性を得る事が出来ない虞があり、他方の面において非導電糸の占める面積が70%未満では、着色性、肌触り、柔軟性が不足する虞がある。
【0014】
このようにして得られる導電性布帛を用いて平面電極とする場合、二枚の導電性布帛と絶縁層を接着剤又は縫製により積層して使われることとなる。通常、布帛とフィルム、布帛同士を貼り合わせると柔軟性が損なわれるため、本発明の導電性布帛としては貼り合わせても比較的柔軟である編物が好ましい。
【0015】
編物としては、丸編み、トリコット、ラッセル、緯編みのいずれも使用することができる。これらの布帛において、一方の表面に導電糸がより多く露出し、他方の表面には非導電糸がより多く露出する様な編み組織、糸使いの編構造にする事で目的を達成できる。糸使い、編み組織等は用途、伸び・厚み・意匠性等の要求に合わせ適宜選択できる。
【0016】
非導電糸と導電糸が布帛の別々の表面に偏在する編み組織にすることで、摩耗、摩擦、汗等による導電性劣化を防ぐことも可能となる。つまり導電糸が表面に露出しないことで、着用、使用時に導電糸が摩擦、摩耗、汗によるストレスを受け難くなる。
【0017】
この導電性布帛を用いて平面電極を形成する場合、二枚の導電性布帛の間に絶縁層を積層する必要がある。つまりこの絶縁層と電極たる二枚の導電性布帛を貼り合わせるか縫製の際に縫い合わせる形で積層し使用されることになる。
【0018】
絶縁層の目的は、両極となる二枚の導電性布帛同士の接触による短絡を防止することである。この目的で繊維布帛、フィルム、エラストマーシート等を用いることができる。通常の着用環境、使用環境に於いては、繊維布帛、好ましくは伸縮性に富む繊維布帛、特に好ましくは編物を用いることで、柔軟性、通気性を阻害せずに目的を達することができる。繊維布帛の厚み、糸密度を増せば絶縁性の信頼性も上がるが、重くなり、最終的な平面電極が厚くなる為、目的に合わせて適宜決定する。発泡樹脂フィルムもこの目的に使用することができる。ウレタンフォームは柔軟性を重要視する場合有効な絶縁層となり得る。
【0019】
しかし繊維布帛を絶縁層として用いた場合、水に濡れると絶縁性が破壊され、2極が短絡してしまう虞がある。この点を解決するためには絶縁層に防水機能を付与すればよい。絶縁層として繊維布帛を選択した場合、布帛に撥水加工、防水コーティング、防水ラミネート等の処理をする事で防水性を付与できる。ここでの撥水加工、防水コーティング、防水ラミネートは公知の方法を用いる事ができ、撥水加工はフッ素系の撥水剤を繊維に付与し熱処理する方法が、またコーティング、ラミネートはウレタンエラストマーを用いる方法がその性能、柔軟性が優れていることで特に好ましい。
【0020】
絶縁層に高分子フィルムを使う場合も湿潤時の短絡を防止することができる。防水フィルムを絶縁層として用い、衣服として着用した場合、着用環境や着用時の運動の状況によってはムレが起こり、場合によっては衣服に結露する等して強い不快感を感じる虞がある。
【0021】
絶縁層として透湿防水性フィルムを採用すればこのムレ、不快感を解消できる。透湿防水フィルムとしては、無孔質タイプと有孔質タイプのいずれのタイプも使用可能である。無孔質タイプとしては、ウレタンエラストマーフィルム、エステルエラストマーフィルムがよく知られているが、透湿防水性があればこれらのフィルムに限らず使用可能である。有孔質フィルムとしては、フッ素系フィルム、ウレタン系フィルム、ポリエチレン系フィルム、ポリプロピレンフィルム等透湿防水性能があれば全て使用可能である。絶縁層としての透湿防水性フィルムは用途、使われ方等を考慮し決定される。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
【0023】
非導電糸としてポリエステルの50dの糸を、導電糸として銀めっきした40dのナイロン糸を用い布帛の表面に非導電糸が、裏面に導電糸が主に露出するような丸編みの布帛を作った。非導電糸と導電糸の使用比率は約4:6であった。その後公知の方法で精練・熱処理後ポリエステル繊維を染色した。このようにして作成した導電性布帛は一方の面はその面積の80%を導電糸が占め、もう一方の面はその面積の85%を非導電糸が占めるものであった。導電糸に富む裏面は導電性に優れ、非導電糸に富む表面はきれいに着色され肌触りも良好であった。
[実施例2]
【0024】
導電糸として50dの銀メッキポリエステル糸を使う以外は実施例1に準じて導電性布帛を作成した。このようにして作成した導電性布帛は一方の面はその面積の90%を導電糸が占め、もう一方の面はその面積の80%を非導電糸が占めるものであった。導電糸の割合に富む裏面は導電性に優れ、非導電糸に富む表面はきれいに着色され肌触りも良好であった。
[実施例3]
【0025】
実施例1で作成した導電性布帛の導電糸の割合に富む裏面にポリエステル糸の丸編み布帛を絶縁層として接着剤ではりあわせた。このようにして作成した絶縁層付き導電性布帛は表面がきれいに着色され、柔軟性にも優れた物であった。また導電性に優れる裏面は非導電糸に富む表面と絶縁層に挟まれており摩耗等の外的ストレスに対し保護される構造であった。
[比較例1]
【0026】
非導電糸としてポリエステルの50dの糸を、導電糸として銀めっきした40dのナイロン糸を用い布帛の両面において非導電糸と導電糸が均一に分散、露出するような丸編みの布帛を作った。非導電糸と導電糸の使用比率は約4:6であった。その後公知の方法で精練・熱処理後ポリエステル繊維を染色した。このようにして出来た布帛は一方の面はその面積の50%を導電糸が占め、もう一方の面はその面積の50%を非導電糸が占めるものであった。この布帛は電極として必要な導電性を得ることが出来なかった。また表面に露出した導電糸が着色性を阻害し任意の色に着色することが出来なかった。
[実施例4]
【0027】
実施例1で作成した導電性布帛を導電性に富む面を内側にして重ね合わせ、その間にポリエステルの丸編み布帛を絶縁材として挟み、縫い合わせて平面電極を得た。平面電極としての性能を評価した結果導電性、絶縁性、着色、肌触り、柔軟性の何れも優れていた。
[実施例5]
【0028】
実施例3で作成した絶縁層付き導電性布帛の絶縁層を内側にして、二枚重ね合わせたうえで縫い合わせ平面電極とした。平面電極としての性能を評価した結果導電性、絶縁性、着色、肌触り、柔軟性の何れも優れていた。
[実施例6]
【0029】
絶縁層としての撥水性能を有する丸編み布帛を用いた以外は全て実施例3に準じて絶縁層付き導電性布帛を作成した。このようにして作成した絶縁層付き導電性布帛の絶縁層を内側にして、二枚重ね合わせたうえで縫い合わせ平面電極とした。平面電極としての性能を評価した結果導電性、絶縁性、着色、肌触り、柔軟性の何れも優れていた。絶縁層に撥水性を付与したことで湿潤時の二極間の絶縁性に改善が見られた。
[実施例7]
【0030】
実施例1で作成した導電性布帛の導電糸の割合に富む裏面に透湿性ウレタンフィルムを貼りあわせ絶縁層付き導電性布帛とした。作成した絶縁層付き導電性布帛の絶縁層を内側にして二枚重ね合わせたうえで縫い合わせ平面電極とした。平面電極としての性能を評価した結果導電性、絶縁性、着色、肌触り、柔軟性の何れも優れていた。また湿潤状態でも両極の絶縁性が確保され平面電極として非常に信頼性の高いものであった。
[実施例8]
【0031】
実施例1で作成した導電性布帛の導電性に富む裏面と、実施例3で作成した絶縁層付き導電性布帛の絶縁層側を内側にして接着し平面電極を作成した。平面電極としての性能を評価した結果導電性、絶縁性、着色、肌触り、柔軟性の何れも優れていた。
[比較例2]
【0032】
実施例1で作成した導電性布帛を二枚用い、導電糸に富む裏面を内側として縫い合わせて平面電極とした。得られた平面電極は、両極が短絡して電極としての用をなさない物であった。
[比較例3]
【0033】
50dのポリエステル糸を用いた平織り組織の織物にニッケルめっきを施して導電性布帛を得た。この導電性布帛の片面に透湿ウレタンラミネートを施し絶縁層付き導電性布帛とした。この絶縁層付き導電性布帛を二枚用意し、透湿ウレタンラミネートを施した面を内側にして縫い合わせ平面電極を得た。得られた平面電極は、非常に硬く、肌触りも悪く、また染色することが出来ず平面電極としては不適であった。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維にめっきしてなる導電糸と非導電糸からなる布帛で、布帛の一方の表面はその面積の70%以上を導電糸が占め、もう一方の表面はその面積の70%以上を非導電糸が占めることを特徴とする導電性布帛
【請求項2】
布帛が編物である請求項1記載の導電性布帛
【請求項3】
請求項1に記載の導電性布帛に絶縁層を貼り合わせてなる絶縁層付き導電性布帛
【請求項4】
絶縁層が繊維布帛、高分子フィルム、エラストマーシートから選ばれる一種以上である請求項3記載の絶縁層付き導電性布帛
【請求項5】
絶縁層が透湿防水性を有する請求項3記載の絶縁層付き導電性布帛
【請求項6】
請求項1記載の導電性布帛二枚の間に絶縁層を挟み形成された平面電極
【請求項7】
絶縁層が繊維布帛、高分子フィルム、エラストマーシートから選ばれる一種以上である請求項6記載の平面電極
【請求項8】
請求項3記載の絶縁層付き導電性布帛二枚により形成された請求項6記載の平面電極
【請求項9】
請求項3記載の絶縁層付き導電性布帛と請求項1記載の導電性布帛により形成された請求項6記載の平面電極


【公開番号】特開2007−314911(P2007−314911A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145520(P2006−145520)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】