説明

導電性弾性体組成物

【課題】優れた機械的特性,導電性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性を有する導電性弾性体組成物を得る。
【解決手段】少なくとも高分子弾性材料,導電性材料,架橋剤から成る導電弾性物において、前記の導電性材料としてそれぞれ粒子形状の異なる2種類の金属粉体を用い、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状のものを用いる。前記の導電性材料におけるブドウ状の金属粉体の他には、例えば球状,薄片状の金属粉体を用いる。前記の2種類の金属粉体のうち粒子径の大きい方の平均粒子径は、0.5μm〜30μmで粒子径比率が300以下にすることが好ましい。導電性材料は、高分子弾性材料100部に対して、240部〜450部の範囲で配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性弾性体組成物に関するものであり、例えば電気機器等の電流の接点部分,静電気対策部材,レーザー式プリンタ用の電極,電子機器の電磁波シールド部材,コネクタ類のシール部材等に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
導電性材料(カーボンブラック,金属紛等の導電性材料),高分子弾性材料(ゴム等の高分子材料)等から成る組成物(導電性弾性体組成物;以下、導電弾性物と称する)は種々の技術分野で利用され、例えば電気機器(例えば、家庭用コンピュータ,テレビ)等のキーボードやリモートコントロールにおける電流の接点部分、OAフロアー,工場床材料における静電気対策部材、レーザー式プリンタ用の帯電,現像ローラー等の電極、電子機器の外部電波防止用の電磁波シールド部材,コネクタ類に用いられるシール部材等に利用されている。
【0003】
前記のような導電弾性物によれば、適度な弾力性,柔軟性を有することから、例えば該導電弾性物と他の部材(例えば、導電弾性物と対向する電極)とを接触させても損傷(例えば、2つの金属部材を接触させる場合、両部材が互いに擦れる損傷)が起こり難く、シール性を要する箇所に適用する場合には優れた効果を発揮する。
【0004】
導電弾性物には種々の高分子弾性材料が用いられているが、特に加工性の優れたシリコーンゴムが多用されている。また、導電性材料においても種々の材料を用いることができ、例えば銀,金,銅,亜鉛,錫,鉛,タングステン,アルミニウム,ニッケル,鉄等の単体や、半田,真鍮,ステンレス,洋白等の合金から成る金属粉体を適用することができる。例えば、導電性,耐酸化性等に優れ,コスト性(目的とする導電弾性物のコストが低いこと)等が要求される用途においては、銀,ニッケル等から成る金属粉体(例えば、銀粉や、表面に金属メッキ層を有する紛体(例えば、基材粒子表面に銀メッキ層を形成した粉体))が多用されている。
【0005】
一般的な導電弾性物(例えば、特許文献1)としては、例えば平均組成式がR1nSiO(4-n)/2で示され分子中に脂肪族不飽和基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン(組成式中のR1は、同一または異種の非置換または置換1価の炭化水素基)に対し、金属粉体(例えば、銀粉),所定量の架橋剤(オルガノポリシロキサンを架橋させ得る量の架橋剤)等を加え、オープンロール,ニーダー,インターナルミキサー等の混練分散装置により混合・分散し、所定の条件で硬化させて成るものが知られている。
【0006】
また、前記の金属粉体は、例えば化学還元法,電解法,アトマイズ法,スタンプミル法等の製法により薄片状(Flake)やブドウ状(ブドウの房状)等に成形されたものが知られているが、各粉体同士の凝集を抑える点で球状のものが好ましいとされている。
【0007】
なお、球状の金属粉体の場合は,例えば図6Aに示すように球状の粒子61から成り、該各粒子61が融合されていないものを示す。これに対し、ブドウ状の金属粉体の場合は、例えば図6Bに示すように球状の粒子61が少なくとも2つ以上融合(境目を有することなく融合)してなるもの(図6中では符号60で示す融合体)を示す。
【特許文献1】特開2002−212426号公報(段落[0007]〜[0014]等)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、単に球状の金属粉体を導電性材料として用いた場合、導電弾性物の低抵抗化を図る(例えば、体積固有抵抗値を低減する)には多量の金属粉体を必要とし(高充填)、その金属粉体の使用量の増加に伴って該導電弾性物が過剰に硬化(弾力性,柔軟性が低下)して脆弱になり機械的特性(引張り強度等)が低下すると共に、単にブドウ状または薄片状の金属粉体を用いた場合と比較して、十分な耐腐食性が得られない(例えば、高温および高湿雰囲気下に曝され体積固有抵抗値が上昇し易くなる)恐れがある。
【0009】
また、単にブドウ状の金属粉体を用いた場合、その金属粉体が高次構造(球状のものより高次構造)を有するため、前記の球状の金属粉体を用いた場合と比較して導電弾性物の低抵抗化を図ることが容易であるが、十分な耐久性が得られない(例えば、導電弾性物に負荷が加えられて高次構造が変化し体積固有抵抗値が上昇し易くなる)とみなされていた。
【0010】
さらに、単に薄片状の金属粉体を用いた場合、その金属粉体がブドウ状のものと同様に高次構造を有するため導電弾性物の低抵抗化を図ることが容易であると共に、該金属粉体が導電弾性物の機械的特性を補強し得る形状(すなわち、球状やブドウ状よりも、薄片状の金属粉体は補強性が高い)を有するため十分な耐久性が得られるが、該金属粉体は表面が平坦であるため導電弾性物から脱落し易く、十分な耐久性が得られないとみなされていた。
【0011】
本発明は前記課題に基づいてなされたものであり、導電弾性物(例えば、薄膜の導電弾性物)において低抵抗化(導電性の向上)を図ると共に、機械的特性(引張り強度等),導電材保持性(金属粉体の脱落防止),耐腐食性(例えば、腐食等に起因して体積固有抵抗値が上昇しないようにすること),耐久性を良好にできる導電性弾性体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題の解決を図るために、請求項1記載の発明は少なくとも高分子弾性材料(例えば、シリコーンゴム等),導電性材料,架橋剤から成る導電性弾性体組成物であって、前記導電性材料は、それぞれ粒子形状が異なる2種類の金属粉体から成り、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状であることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記の2種類の金属粉体のうち粒子径の大きい方は、平均粒子径(例えば、50%平均粒子径)が0.5μm〜30μmで粒子径比率が300以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記の導電性材料は、高分子弾性材料100部に対して、240部〜450部配合したことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3記載の発明において、前記の導電性材料は、ブドウ状の金属粉体と、薄片状または球状の金属粉体と、から成ることを特徴とする。
【0016】
本発明のように、2種類の金属粉体(例えば、銀,金,ルビジウム等の抵抗値の低い金属から成る金属粉体)を導電性材料として用い、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状のものを用いることにより、十分な耐腐食性が得られ、それぞれ高次構造を有するため導電弾性物の低抵抗化が容易になる。また、導電弾性物中にて各金属粉体が互いに干渉し、機械的特性が補強されると共に各金属粉体の脱落が起こり難くなる。
【0017】
さらに、前記の2種類の金属粉体のうち粒子径の大きい方の平均粒子径が0.5μm〜30μmで粒子径比率が300以下であれば、導電弾性物中にて各金属粉体が互いに干渉し、導電弾性物の抵抗を十分低くすることができる。さらにまた、高分子弾性材料100部に対して導電性材料240部〜450部配合することにより、導電弾性物において適度な弾力性,柔軟性が得られると共に、導電弾性物の抵抗を十分低くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上示したように本発明によれば、優れた機械的特性,導電性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性を有する導電弾性物が得られ、その導電弾性物を例えば電気機器等の電流の接点部分,静電気対策部材,レーザー式プリンタ用の電極,電子機器の電磁波シールド部材,コネクタ類のシール部材等に適用することにより、それら製品の耐久性,電気的特性等を向上させることができると共に、種々の設計変更(例えば、薄膜の導電弾性物による小型化)が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態における導電性弾性体組成物を図面等に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本実施の形態は、少なくとも高分子弾性材料,導電性材料,架橋剤から成る導電弾性物において、前記の導電性材料としてそれぞれ粒子形状の異なる2種類の金属粉体を用い、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状のものを用いたものである。前記の導電性材料におけるブドウ状の金属粉体の他には、例えば球状,薄片状の金属粉体を用いる。
【0021】
前記のような高分子弾性材料,導電性材料,架橋剤等を用いて薄膜の導電弾性物を得る方法の一例としては、まず高分子弾性材料に対し導電性材料,架橋剤等を加えて混練し、その架橋構造の混練物を有機溶剤等に溶解(インキ化)する。その後、前記の溶解された混練物を被支持体表面(例えば、薄板の一端面側に敷設された耐熱性フィルム表面)に塗布し流延した後、その混練物を乾燥し硬化することにより、目的とする薄膜状の導電弾性物を得ることができる。
【0022】
前記の高分子弾性材料としては、例えば平均組成式がR1nSiO(4-n)/2で示され分子中に脂肪族不飽和基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン等のシリコーンゴム(組成式中の「R1」は、同一または異種の非置換または置換1価の炭化水素基)を用いることができる。前記の平均組成式における「R1」の具体例としては、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基,オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基,アリル基,プロペニル基,ブテニル基,ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基,トリル基等のアリール基、ベンジル基,フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0023】
前記の金属粉体は、種々の方法を適用することによって得ることができる。例えば、前記ブドウ状の金属粉体(例えば、図6に示す融合体60)においては化学還元法(目的とする金属(銀等)がイオン化されている溶液中に還元剤を添加し、該金属を精製する工程を含む方法)等が適用され、薄片状の金属粉体においてはスタンプ法(例えば、球状の金属粉体をスタンプミル等で薄片状に圧延する方法(Stamping))等が適用され、球状の金属粉体においてはアトマイズ法(未精製の金属粗鋼を溶解し空気中(または水中)で噴霧して粉状体を取り出す方法(Atomization))等が適用される。なお、前記の化学還元法においては、目的とする金属(銀等)がイオン化されている溶液のpH,温度,濃度,撹拌等を適宜設定することにより、ブドウ状あるいは球状の金属粉体が選択的に得られる。
【0024】
前記の金属粉体は、予め表面処理して用いることが好ましい。例えば、まず目的とする金属粉体をエタノール中に投入(例えば、200mlのエタノールに対して50gの金属粉体を投入)して金属スラリーを得る。また、前記の金属スラリーとは別に、エタノールに対してシランカップリング剤(例えば、トリエトキシビニルシラン)を滴下(例えば、50mlのエタノールに対して2mlのトリエトキシビニルシランを2ml滴下)してカップリング溶液を得る。このカップリング溶液を前記の金属スラリーに加え撹拌(例えば、室温雰囲気下で2時間撹拌)してから、その撹拌されたものを濾過し、その残留物である金属粉体を乾燥することにより前記の表面処理が達成される。
【0025】
前記有機溶剤には、例えば芳香族系(好ましくは、トルエン,キシレン,トリメチルベンゼン等),オレフィン系(好ましくは、石油エーテル,ソルベントナフサ,ミネラルスピリット,ケロシン,ソルベッツ,ノルマルヘキサン,ノルマルペンタン,イソオクタン,イソヘプタン等),エステル系(好ましくは、酢酸エチル,酢酸ブチル,酢酸イソブチル,酢酸アミル,酪酸エチル,酪酸イソブチル,吉草酸イソブチル,乳酸エチル,乳酸プロピル,ぎ酸エチル,ぎ酸ブチル,ぎ酸プロピル等),ケトン系(好ましくは、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,ジメチルケトン,ジエチルケトン等)の溶剤や、これら各溶剤の混合物を用いることができる。
【0026】
前記被支持体には、耐熱性を有する部材(例えば、前記の流延された混練溶液を乾燥や硬化する際の熱に耐えられる部材)が用いられ、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)フィルム,TPX(ポリメチルペンテナン)フィルム,ポリエチレンナフタレートフィルム,ポリエーテルエーテルケトンフィルム,ポリイミドフィルム,ポリアリレートフィルム等が挙げられる。
【0027】
前記の混練物は、例えば高分子弾性材料をオープンロール機(例えば、8インチオープンロール)で撹拌し、その高分子弾性材料をロールに対して十分絡ませた後に架橋剤を投入し、そして金属粉体や必要に応じて所望の架橋触媒等を投入することにより、得ることができる。
【0028】
溶解された混練物を被支持体表面に塗布する場合、一般的なロールコータ法(例えば、リバースコータ法,ドクターブレードコータ法,グラビアコータ法,コンマコータ法等),バーコータ法,スクリーン印刷法等を適用することができる。前記ロールコータ法においては、例えばロールコータ,バーコータ,スクリーン印刷法等を適用することにより、目的とする薄膜の導電弾性物を得ることができる。前記スクリーン印刷法においては、例えばナイロンメッシュ版により作製されたスクリーン版(メッシュ100または75にてレジスト厚みが例えば30μmに調整されたスクリーン版)を用い、前記のインキ化された混練溶液を被支持体表面に印刷することにより、目的とする薄膜の導電弾性物を得ることができる。
【0029】
前記のように混練物を流延させた後、その混練物中の溶剤を除去するように乾燥してから、その乾燥よりも高温にて硬化させることにより、目的とする導電弾性物が得られる。前記の乾燥工程は、前記の流延された混練物を例えば温度40℃の雰囲気下に30分間(もしくは60℃の雰囲気下に20分間)曝すことにより行われる。また、前記の硬化工程は、前記の乾燥された混練物を例えば温度180℃の雰囲気下に20分間(もしくは200℃の雰囲気下に15分間)曝すことにより行われる。
【0030】
[実施例]
次に、本実施の形態に基づいて、高分子弾性材料,導電性材料,架橋剤等として下記表1に示すシリコーンゴム(平均組成式がR1nSiO(4-n)/2で示され分子中に脂肪族不飽和基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン),金属粉体(前記の表面処理が施され、平均粒子径(50%平均粒子径)が約0.1μm〜50μmで形状が球状,ブドウ状(融合体の平均粒子径が約0.1μm〜50μmでブドウ状),薄片状の銀粉(下記表1中に示す銀粉Ag1〜Ag14)またはニッケル粉(下記表1中に示すニッケル粉Ni1,Ni2),ポリハイドロジェンポリシロキサン,白金触媒を用いて種々の導電弾性物を作製し、それぞれの特性変化を調べることにより、該導電弾性物の機械的特性(硬度,引張り強度),導電性(体積固有抵抗値),導電性材料の保持性(以下、導電材保持性と称する),耐腐食性,耐久性を向上させることを検討した。
【0031】
【表1】

【0032】
まず、シリコーンゴム100部を8インチオープンロール機で撹拌(容器内にてロールにより撹拌)しながら架橋剤としてポリハイドロジェンシロキサン2.7部を配合した後、銀粉Ag1〜Ag14,ニッケル粉Ni1,Ni2のうち何れか一つ以上を所定量配合し、さらに白金触媒0.1部を配合し混練することにより、下記表2乃至4に示す混練物G1〜G46を得た。
【0033】
なお、下記表3,4における粒子径比率は、2種類の金属粉体を用いた場合において該各金属粉体のうち粒子径の大きい方の金属粉体に関するものであり、他方の金属粉体(粒子径の小さい方の金属粉体)の平均粒子径に対する比率を示すものである。したがって、2種類の金属粉体の各粒子径が同一の場合には、粒子径比率は「1」となる。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
そして、前記の表2乃至4に示す各混練物G1〜G46において、飽和炭化水素化合物から成る有機溶剤(例えば、芳香族系,オレフィン系,エステル系,ケトン系の有機溶剤;本実施例ではキシレン)でそれぞれインキ化して、それらインキ化された各混練物G1〜G46を図1に示すよう薄板11の一端面側に敷設された耐熱性フィルム(本実施例ではPETから成る薄膜)12の表面に対してそれぞれ塗布し、ガラス棒13を使用(例えば、図1の矢印方向に掃引)して流延した。
【0038】
その後、前記の流延された各混練物(図1中の符号14)を所定条件で乾燥(本実施例では、温度40℃,30分間で乾燥)してから、さらに前記乾燥温度よりも高い温度にて硬化(本実施例では、温度180℃,20分間で硬化)させることにより、前記耐熱性フィルム12上に薄膜(本実施例では、厚さ100μmの薄膜)の導電弾性物の試料S1〜S46をそれぞれ作製した。
【0039】
なお、前記の耐熱性フィルム12が活性水素(化学的構造上の活性水素)を有する場合、前記の試料S1〜S46を耐熱性フィルム12から剥離し易くする必要があるため、前記活性水素による活性度合いに応じて例えば前記耐熱性フィルム12表面を予め離形処理(例えば、フッ素を用いた離形処理)してから、図1に示すように試料S1〜S46をそれぞれ作製しても良い。
【0040】
次に、前記の試料S1〜S46において、硬度(機械的特性;JISのK6253に準拠),引張り強度(機械的特性;JISのK6252に準拠),体積固有抵抗値(導電性;JISのK7194に準拠(4探針法で測定器(三菱化学製のロレスターGP)を使用)を測定すると共に、図2乃至図5に示す方法(詳細を後述する)により、金属粉体の脱落の有無(導電材保持性),腐食により抵抗値が上昇する大きさ(耐腐食性),加重後(負荷を加えた後)の抵抗値の上昇率(耐久性)をそれぞれ調べ、それら結果を後記の表5,6に示した。
【0041】
なお、前記導電弾性物の試料の各物性値の目標値として、前記機械的特性における引張り強度は5MPa以上,導電性における体積固有抵抗値は9.9×10-3Ω・cm以下,導電材保持性における脱落した金属粉体は30個以下,耐腐食性における抵抗値変化は1Ω以下,耐久性における抵抗値上昇率は100%以下に設定した。また、下記表5,6中の総合判定の項目において、記号「○」は機械的特性(硬度,引張り強度),導電性(体積固有抵抗値),導電材保持性,耐腐食性,耐久性の全ての物性が目標値を達成できた場合、記号「×」は各物性のうち少なくとも何れかが目標値を達成できなかった場合を示すものである。
【0042】
図2は導電材保持性試験の概略説明図であり、まず試料21(各試料S1〜S46)の一端面側における一部の領域(10mm×10mmの領域)に対して、カッターナイフを擦りつけることにより長さ10mmの線条痕22をそれぞれ1mm間隔で形成し、それら線条痕を覆うようにセロテープ(NICHIBAN社の登録商標;以下省略)23の粘着面を貼り付けた。そして、前記試料21の一端面側にて、直径30mmの円柱状のローラ24を約4.9N加重しながら回転(一方向に1回転)させた後、前記セロテープ23を試料21から剥離し、そのセロテープに付着した金属粉体の個数(カッターナイフの擦りつけにより脱落した金属粉体の個数)を顕微鏡により調べた。
【0043】
図3は耐腐食性試験の概略説明図を示すものであり、まず2つのプローブ31a,31bを有するテスター31を用い、そのプローブ31a,31bを互いに3cmの間隔を隔てて矩形薄膜状(50mm×50mm)の試料32(各試料S1〜S46)上に当接して抵抗値(以下、腐食前抵抗値と称する)を測定した後、前記試料32を温度70℃,相対湿度70%rhの雰囲気下に500時間曝してから再度テスター31を用いて抵抗(以下、腐食後抵抗値と称する)を測定し、前記腐食前抵抗値と腐食後抵抗値との差(すなわち、抵抗値が上昇した分の大きさ)を算出した。
【0044】
図4は、耐久性試験の概略説明図を示すものであり、まず台座41上の薄板42の一端面(平坦面)側に敷設された矩形薄膜状の試料43(各試料S1〜S46)に対し、加圧シリンダ44により圧力約19.6MPa(2000gf/mm2)の加重(図4の矢印方向の加重)を500回繰り返した。その後、図5に示すように、前記の加重後の試料43を抵抗計(日置電機製の抵抗計(型式3540))のを用いて測定)51の端子51a,51b間に介在させ、その試料43の抵抗値(以下、加重後抵抗値と称する)をそれぞれ測定した。また、前記のように加重する前における試料43の抵抗値(以下、加重前抵抗値と称する)においても同様にそれぞれ測定した。そして、前記の加重前抵抗値,加重後抵抗値を用いて、下記式により抵抗値上昇率をそれぞれ算出した。
【0045】
「抵抗値上昇率」=(「加重後抵抗値」÷「加重前抵抗値」)×100……(1)
【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
まず、前記表5に示す結果において、導電性材料として球状の金属粉体(銀粉Ag1)のみを用いた試料S1〜S5の場合、導電材保持性,耐腐食性,耐久性が低く、その金属粉体の充填量を増加させても導電性は殆ど向上せず、その充填量の増加に伴って機械的特性の引張り強度が低下することを読み取れる。
【0049】
また、導電性材料としてブドウ状の金属粉体(銀粉Ag2乃至Ag7のうち何れか一つ)のみを用いた試料S6〜S11の場合、その金属粉体が高次構造であるため良好な導電性が得られ、その金属粉体の平均粒子径が30μm以下であれば十分な引張り強度,導電材保持性,耐腐食性が得られるが、耐久性が低いことを読み取れる。
【0050】
さらに、導電性材料として薄片状の金属粉体(銀粉Ag8〜Ag13のうち何れか一つ)のみを用いた試料S12〜S17の場合、その金属粉体が高次構造であるため試料S1〜S5よりは良好な導電性が得られると共に、その金属粉体が補強性の形状であるため十分な機械的特性,耐腐食性が得られるが、導電材保持性,耐久性が低く、その金属粉体の平均粒子径が0.5μm未満または30μm超になると導電性が低下してしまうことを読み取れる。
【0051】
一方、それぞれ粒子形状の異なる2種類の金属粉体を導電性材料として用い、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状のもの(銀粉Ag2,Ag3,Ag6のうち何れか)を用いた試料S18〜S33において、各金属粉体のうち粒子径の大きい方の平均粒子径が0.5μm〜30μmである試料S18〜S22,S28〜S33の場合は、優れた機械的特性,導電材保持性,耐腐食性が得られることを読み取れる。
【0052】
なお、前記の各金属粉体のうち粒子径の小さい方の平均粒子径が小さくなるに連れて導電性,耐久性は向上するものの、該平均粒子径が一定値未満になると導電性が低下する傾向を有するが、粒子径比率が300以下(および粒子径の大きい方の銀粉の平均粒子径が0.5μm〜30μm)であれば十分良好な導電性を確保できることが読み取れる。
【0053】
また、前記の各金属粉体のうち粒子径の大きい方の平均粒子径が30μm超である試料S23〜S27の場合には、十分な機械的特性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られるが、導電性が低いことを読み取れる。
【0054】
次に、表6に示す結果において、それぞれ粒子形状の異なる2種類の金属粉体をそれぞれ種々の配合量で用いた試料S34〜S46のうち、少なくとも一方の金属粉体がブドウ状のもの(銀粉Ag3)でシリコーンゴム100部に対する導電性材料の配合量(銀粉Ag3,Ag12の総量)が180部である試料S41の場合は、十分な機械的特性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られるが、その導電性材料の配合量が少なすぎるため、導電性が低いことを読み取れる。さらに、前記のシリコーンゴム100部に対する導電性材料の配合量(銀粉Ag3,Ag12の総量)が480部である試料S46の場合は、十分な導電性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られるが、その導電性材料の配合量が多すぎるため、適度な弾力性,柔軟性が得られず引張り強度が低いことを読み取れる。
【0055】
一方、前記のシリコーンゴム100部に対する導電性材料の配合量(銀粉Ag3,Ag12の総量)が240部〜420部である試料S34〜S39,S42〜S45の場合は、優れた機械的特性,導電性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られることを読み取れる。
【0056】
なお、前記のシリコーンゴム100部に対する導電性材料の配合量(銀粉Ag3,Ag12の総量)が240部〜450部の範囲内であれば、試料S34〜S39,S42〜S45と同様に良好な導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られ、十分良好な機械的特性,導電性が得られることを確認した。
【0057】
また、少なくとも一方の金属粉体がブドウ状のニッケル粉(ニッケル紛Ni2)でシリコーンゴム100部に対する導電性材料の配合量(ニッケル紛Ni1,Ni2の総量)が300部である試料S40の場合には、導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られるが、そのニッケル紛自体が銀粉よりも抵抗値が高いため、銀粉を用いた試料S34〜S39,S42〜S45と比較すると導電性が低いことを読み取れる。
【0058】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0059】
例えば、本実施例では、金属粉体としてそれぞれ粒子形状が異なる2種類の銀粉を用いた例を示したが、銀粉等と同様に抵抗値の低い2種類の金属粉体(例えば、銀,金,白金,銅,鉛,スズ,チタン,ニッケル,ルビジウム等の抵抗値の低い金属から成る金属粉体や、真鍮,洋白,青銅等の合金から成る金属粉体)を用いた場合においても、優れた機械的特性,導電性,導電材保持性,耐腐食性,耐久性が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態における導電弾性物の製造方法を示す概略説明図。
【図2】本実施の形態における導電材保持性試験を示す概略説明図。
【図3】本実施の形態における耐腐食性試験を示す概略説明図。
【図4】本実施の形態における耐久性試験を示す概略説明図(加重方法)。
【図5】本実施の形態における耐久性試験を示す概略説明図(抵抗値測定方法)。
【図6】金属粉体の一例を示す概略説明図。
【符号の説明】
【0061】
11…薄板
12…耐熱性フィルム
13…ガラス棒
14…流延された溶液
21,32,43…試料
22…線条痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高分子弾性材料,導電性材料,架橋剤から成り、
前記導電性材料は、それぞれ粒子形状が異なる2種類の金属粉体から成り、それら金属粉体のうち少なくとも一方はブドウ状であることを特徴とする導電性弾性体組成物。
【請求項2】
前記の2種類の金属粉体のうち粒子径の大きい方は、平均粒子径が0.5μm〜30μmで粒子径比率が300以下であることを特徴とする請求項1記載の導電性弾性体組成物。
【請求項3】
前記の導電性材料は、高分子弾性材料100部に対して、240部〜450部配合したことを特徴とする請求項1または2記載の導電性弾性体組成物。
【請求項4】
前記の導電性材料は、ブドウ状の金属粉体と、薄片状または球状の金属粉体と、から成ることを特徴とする請求項1乃至3記載の導電性弾性体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−66235(P2006−66235A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247629(P2004−247629)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000158840)鬼怒川ゴム工業株式会社 (171)
【Fターム(参考)】