説明

導電性微生物担体

【課題】担持された微生物の特定の機能を十分に発現する導電性を有し、例えば、安定した脱硫効果を維持できる導電性微生物担体を提供すること。
【解決手段】ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体、及び、ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体、及び、生物脱硫槽の導電性充填材として用いる上記導電性微生物担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性微生物担体に関し、詳しくは、バイオリアクター等の充填材として好適な導電性微生物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導電性物質に微生物を担持し、メディエーター(キノン)を介して導電性物質と微生物との間の電子移動を行って、微生物を培養する技術が開示されている。そして、導電性物質として、粉末活性炭を、1300℃以上の温度で空気を遮断して焼成して得られる導電性炭素粒状物を用いることが培養微生物を増殖する上で好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−65940号公報
【特許文献2】特開2007−175048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の活性炭を再焼成した導電性活性炭を微生物坦持体として用いてメタンガスや硫化水素ガスを含むバイオガスを生物脱硫する際に、ガス透過の圧損が時として大きくなり、一時に気泡として透過してしまうため、脱硫効率が大きく低下する問題があった。
【0005】
また、特許文献2は、竹炭の比表面積に着目して微生物吸着材として利用する技術を開示しているが、高温焼成の竹炭の導電性に着目していない。
【0006】
従来、導電性について竹炭内部の結晶構造のX線回折に関する研究は知られているが、竹炭表面(数〜10数原子層程度)の構造解析は知られていない。
【0007】
本発明者は、竹炭に担持された微生物の活動(代謝)を制御する上で、ラマン分光スペクトル及びESCAによる表面構造の規定が非常に重要であることを見出した。
【0008】
本発明者は、高温焼成(再焼成も含む)された竹炭のラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)を求めたところ、所定値以上の場合に、微生物の活動(代謝)を制御するための表面導電性や微生物担持性に優れるばかりでなく、各種反応槽の充填材として用いても圧力損失増大させて反応性低下を招くことなく、特に、生物脱硫槽の導電性充填材として用いた場合に、微生物担持性に優れ、ガス透過の際の圧力損失増大に起因する脱硫効果の低下を招かないことを見出した。
【0009】
また、これらの優れた効果を発揮する竹炭について、ESCA(X線光電子分光)による表面分析を行ったところ、C1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%であることがわかった。
【0010】
そこで、本発明の課題は、担持された微生物の特定の機能を十分に発現する導電性を有し、例えば、安定した脱硫効果を維持できる導電性微生物担体を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体。
【0014】
(請求項2)
ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体。
【0015】
(請求項3)
生物脱硫槽の導電性充填材として用いる請求項1又は2記載の導電性微生物担体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、担持された微生物の特定の機能を十分に発現する導電性を有し、例えば、安定した脱硫効果を維持できる導電性微生物担体導電性微生物担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】炭素表面における顕微ラマンスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明において、導電性微生物担体は、たとえばバイオリアクターやバイオセンサーにおいて気体又は液体(スラリー)からなる被処理流体を微生物による生物化学的な処理を行う充填層を形成する充填材に用いられる。
【0020】
本発明の導電性微生物担体を形成する竹炭を製造する原料は、例えばモウソウ竹などの竹(竹を破砕又は裁断したものを含む)である。
【0021】
本発明の導電性微生物担体は、竹原料を、好ましくは1250℃以上、より好ましくは1400℃以上で、還元雰囲気下で焼成または再焼成して竹炭を製造し、それらの中から、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上のものを選別する。
【0022】
また、ESCA(X線光電子分光)による表面分析において、C1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%であるものを選別することが好ましい。
【0023】
高温焼成又は再焼成すれば必ず上記特性を備えるわけではないので、この選別は本発明において重要である。
【0024】
なお、還元雰囲気下とは、酸素元素を含まない気体中を意味し、酸素元素を含まない気体としては、窒素等を好ましく例示できる。
【0025】
また、「還元雰囲気下で焼成または再焼成する」とは、例えば1250℃で焼成または再焼成する場合、焼成温度(1250℃)で還元雰囲気であればよく、その後降温時には空気などを注入してもよい。
【0026】
本発明において、導電性微生物担体を形成する竹炭(それらの破砕片であってもよい)は、充填層を形成した際に圧力損失を増大させない形状が好ましい。活性炭粒子の場合に、圧力損失増加に伴う脱硫効率の低下を招く原因は、活性炭粒子の粒子形状や粒径に起因する充填密度が極めて密であることによって、ガス透過流路が閉塞されやすいことが起因していると思われるので、本発明では、充填密度を疎にする手法が好ましい。充填密度を疎にする手法は、竹炭の粒径を大きくする手法や、充填した際に必然的に疎になるような形状の竹炭を使用する手法などがある。
【0027】
竹炭の粒径を大きくする手法の場合には、粒径が小さい方が、脱硫効果に対して制限的な要因となりえるので、最低の粒径を規定することは意味がある。本発明では、破砕された竹炭の場合に、その粒径(直径)は、1cm以上が好ましく、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは5cm以上であることである。粒径は、破砕された竹炭が円形でない場合には円形に換算した径を意味する。
【0028】
充填した際に必然的に疎になるような形状の竹炭を使用する手法では、原料の形のまま焼成した竹炭を用いることが挙げられる。たとえば竹炭の場合には、長さ5cm〜10cm程度の円筒竹炭をそのまま充填材として用いれば、充填された状態で間隙が大きく、圧損が、脱硫効果に対して制限的な要因にはならない。また竹原料を線状に裁断して、格子状に平織りして、その後焼成して得られた網状竹炭を用いれば、それらを積層するだけでも、充填された状態で間隙が大きく、圧損が、脱硫効果に対して制限的な要因にはならない。また網状竹炭の層と円筒竹炭の層を交互に積層する手法も好ましい態様として例示できる。
【0029】
本発明の導電性微生物担体は、充填材として充填された竹炭は、担持された微生物の特定の機能を十分に発現する導電性を有する。ここで特定の機能とは、脱硫、脱窒、発酵等、微生物の特定の代謝反応を利用したものである。本発明の導電性微生物担体は、その導電性により、微生物の特定の代謝反応に好適な電位を印加することができ、特定の代謝反応を促進し、特定の機能を十分に発現することを可能にする。
【0030】
本発明では、その導電性を利用する上で、竹炭の内部の結晶構造ではなく、表面構造が重要であることを見出した。
【0031】
竹炭内部の結晶構造のX線回折に関する研究は進んでおり、知られているが、竹炭表面(数〜10数原子層程度)の構造解析は研究されていない。
【0032】
本発明者は、担持された微生物の活動(代謝)を制御する上で、ラマン分光スペクトル及びESCAによる表面構造の規定が非常に重要であることを見出した。
【0033】
本発明の導電性微生物担体を構成する竹炭は、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.2以上のものが選別されて得られたものである。
【0034】
前述のように高温焼成又は再焼成すれば必ず上記特性を備えるわけではないので、この選別は本発明において重要である。
【0035】
炭素表面における顕微ラマンスペクトルを図1に示す。
【0036】
このスペクトルには、グラファイト質を示すピーク(1580cm−1)と炭素質を示すピーク(1360cm−1)とが現われている。
【0037】
炭素質が十分にグラファイト化されていると、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低くなる。導電性は主にグラファイト質によって与えられるものであるから、上記のように、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低いことが好ましい。
【0038】
本発明において、前述のように、1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.20以上であるものが選別使用されるのである。
【0039】
本発明の導電性微生物担体において、竹炭表面(数〜10数原子層程度)の構造が、顕微ラマン分光分析によって特定されたものを選別使用することにより、充填電極としての用途において、担持された微生物の活動(代謝)を制御するための表面導電性を発現して、微生物の特定の機能を十分に発現することができる。上述の範囲外である場合、導電性微生物担体が形成する充填層が導電性不十分となり、電極として機能せず、担持された微生物の機能を発現することが困難になる。
【0040】
また、本発明の導電性微生物担体を構成する竹炭は、ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%、好ましくは1〜5%、より好ましくは2〜3%のものが選別されて得られたものである。
【0041】
前述のように高温焼成又は再焼成すれば必ず上記特性を備えるわけではないので、この選別は本発明において重要である。
【0042】
ESCAによるC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cは、竹炭表面(数〜10数原子層程度)における酸素含有官能基(ヒドロキシ基、カルボキシル基、オキソ基など)の形成状態を示し、この値が高いと酸素含有官能基が多く形成されており、低いと形成が少ないと判断できる。
【0043】
竹炭の表面に酸素含有官能基が多く形成された場合(元素数比O/Cが10%を超える場合)、酸素含有官能基は、竹炭の表面に導電性を付与するグラファイト質を被覆してしまうため、粒状炭素間の電気的な接続に対して立体障害となり、その結果、導電性が低下する。竹炭と担持微生物との間や、粒状炭素と電子メディエーターとの間の導電性の低下にも繋がる。
【0044】
さらに、多量に形成された酸素含有官能基は、竹炭の表面の物性にも大きな影響を及ぼす。つまり、酸素含有官能基は、酸素原子の影響により負電荷を帯び易いため、竹炭の表面が負電荷を帯びることになる。その結果、竹炭同士の接触は、酸素含有官能基が静電的障害となって、静電反発力により阻害される。その結果、導電性が更に低下する。
【0045】
更にまた、一般に微生物の表面は負電荷を帯びているため、竹炭に対する微生物の接触乃至担持も、上述の立体障害及び静電的障害によって阻害され、微生物担持数までもが低下することになる。
【0046】
従って元素数比O/Cが10%を超えると、酸素含有官能基による立体障害及び静電的障害によって、担持微生物による特定の機能の発現は、大幅に阻害されるので好ましくない。
【0047】
酸素含有官能基の形成が少ない場合(元素数比O/Cが1%より少ない場合)は、竹炭の表面の水素、酸素過電圧が著しく低下するため、水素、酸素発生領域を超えて電位を印加するとガス発生(H、O)が起こるため好ましくない。
【0048】
上述したように、本発明の導電性微生物担体を構成する竹炭は、ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%、好ましくは1〜5%、より好ましくは2〜3%のものが選別されて得られたものであり、上記の範囲であれば、担持された微生物の特定の機能を十分に発現する導電性を有することができる。
【0049】
上記性質の他に、導電性微生物担体において、導電性微生物担体と担持微生物との間の電子移動の反応密度は、電極の比表面積に大きく依存する。導電性微生物担体の比表面積を大きくすることは、電子移動の反応密度を増加させることに繋がる。
【0050】
本発明の導電性微生物担体は、窒素吸着により測定したBET比表面積が、好ましくは1m/g(窒素吸着量)以上、より好ましくは4.5m/g(窒素吸着量)以上、さらに好ましくは7.0m/g(窒素吸着量)以上であることである。
【0051】
本発明の導電性微生物担体に担持される対象は、微生物に限定されず、例えば酵素などの生体由来の物質であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0053】
実施例1
<試料の調整>
(試料1)
竹片を還元雰囲気下(窒素気流中)にて1250℃で焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.00の竹炭を得た。得られた竹炭を破砕して、平均長径2〜5cm、平均短形1〜2cmの楕円体状とした。
【0054】
(試料2)
竹片を還元雰囲気下(窒素気流中)にて1400℃で焼成し、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.20の竹炭を得た。得られた竹炭を破砕して、平均長径2〜5cm、平均短形1〜2cmの楕円体状とした。
【0055】
<物性値の測定>
上記の各試料について、以下ア〜ウに示す測定を行った。各測定の結果は表1に示した。
【0056】
ア.ラマン分光ピーク比の測定
顕微ラマン分光分析装置(Jobin−Yvon製U−1000ラマンシステム)を用いて、試料表面における、1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)を測定し、強度比(P1/P2)を算出した。
【0057】
イ.BET比表面積の測定
試料の比表面積を、窒素吸着によるBET法によって測定した。
【0058】
ウ.表面導電性の測定
室温において、長さ140mm、幅、深さ共に10mmの溝を有する容器の溝に、上記の試料を砕いて充填して充填極を形成し、溝の長手方向の両端部に通電極を設け、長手方向に50mmの間隔を開けて充填極に電圧計の電極を差し込み、通電値10mAにおいて、直流四端子法によって充填極の表面導電性を測定した。本発明において、表面導電性は、好ましくは、1kΩcm以下、より好ましくは、200Ωcm以下、最も好ましくは100Ωcm以下である。
【0059】
<生物脱硫試験>
試験用の生物学的ガス処理装置が備える層高約100mm、内径約100mmの充填部に、上記の試料を充填し、28℃、+0.2(V vs Ag/AgCl)の電圧を印加し、該充填部において、下記被処理ガスと下記循環液とを向流で接触させて、生物脱硫試験を連続的に行った。被処理ガスには空気注入は行わなかった。
【0060】
連続運転の過程で脱硫処理後の処理ガスをガスクロマトグラフィー分析に供し、硫化水素濃度の定量を行った。
【0061】
被処理ガス:搾乳牛糞尿メタン発酵処理施設(4t/日)発酵槽からのバイオガスを用いた。組成比(体積)は、CH:53%、CO:47%、HS:1800〜2000ppmである。導入バイオガスの流量は150ml/minとした。
循環液:メタン発酵消化液を循環させた。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
<評価>
試料1、2を用いた各々の試験において、継続運転を行っても、バイオガス流量の低下が確認されなかった。
【0065】
試料1、2は、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上であり、本発明の導電性微生物担体としての要件を満たす場合は、脱硫機能が好適に発現していることがわかる。特に、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が1.2以上である試料2では、脱硫機能も特に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体。
【請求項2】
ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが1〜10%である竹炭からなることを特徴とする導電性微生物担体。
【請求項3】
生物脱硫槽の導電性充填材として用いる請求項1又は2記載の導電性微生物担体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−211977(P2011−211977A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83973(P2010−83973)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】