説明

導電性接着剤ならびにそれを使用した電極接合構造体及び半導体パッケージ

【課題】半導体パッケージの製造において、電子部品専用の基板を使用することなく、接続抵抗の低減及び熱応力の低減を維持しつつ、電子部品の電極とパッケージの電極を電気的に接続するのに有用な導電性接着剤を提供すること。
【解決手段】導電性接着剤を、バインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に配合せしめられた、(1)導電性金属フィラー、(2)還元剤、及び/又は(3)酸化防止剤とを少なくとも含むように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤ならびにそれを使用した電極接合構造体及び半導体パッケージに関し、さらに詳しく述べると、過酷な使用環境下でも高度の信頼性を各種の電子デバイス、特に車載用半導体パッケージに付与することのできる導電性接着剤及び電極接合構造体と、それを使用した車載用半導体パッケージ及びその他の電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、電子技術の進歩とあいまって、乗用車、トラック等の自動車やその他の車両に搭載される電子デバイス、すなわち、車載用電子デバイスの性能の信頼性が重要となっている。なぜなら、車載用電子デバイスの多くは、自動車等のエンジンルーム近傍に配置されるため、高温・多湿という過酷な使用環境や、走行中の絶え間ない振動環境にさらされるため、そのような劣悪な条件下でも安定に動作し、高度の性能を維持し続けなければないからである。加えて、車載用電子デバイスも、他の電子デバイスと同様に、小型、軽量化することが望まれている。
【0003】
図4は、従来一般的に使用されている車載用半導体パッケージの一例を模式的に示したものである。半導体パッケージ10(詳細な構成を省略)は、例えばエポキシ樹脂のような絶縁性樹脂からなるコネクタ部3を備えている。また、半導体パッケージ10のコネクタ部3には、外部の電子部品1との電気的接続を行うため、例えば銅などの導電性金属からなるターミナル部4が備わっている。一方、電子部品1は、半導体チップやコンデンサなどであり、例えば銅などの導電性金属からなる部品電極2を備えている。また、電子部品1は、それを搭載するための、エポキシ樹脂のような絶縁性樹脂からなる専用基板17を備えており、専用基板17の上方にはさらに、例えば銅などの導電性金属からなる基板電極16が備わっている。部品電極2と基板電極16とは、例えばエポキシ樹脂とそれに分散された例えば銀(Ag)からなる導電性粒子とを含む導電性接着剤15によって電気的に接合されている。電子部品1の下方は、それを電気的に絶縁するため、例えばエポキシ樹脂を主剤としたアンダーフィル材18で封止されている。電子部品1と半導体パッケージ10のターミナル部4とは、図示されるように、例えば金(Au)ワイヤからなるボンディングワイヤ19で電気的に接続されている。
【0004】
ところで、従来の車載用半導体パッケージには、解決されるべき課題が依然として存在している。一つの課題は、上記したように、劣悪な条件下でも安定に動作し、高度の性能を維持しなければならないということ、すなわち、信頼性の向上である。もう一つの課題は、構造の簡略化、デバイスの小型、軽量化である。また、振動等により断線が発生することを考慮すると、ワイヤボンディングによる接続を回避し、直接的な接続方法を採用することが望ましい。
【0005】
さらに、部品電極や基板電極などの導電性部材は、通常、銅などの金属のみから形成されているのではなくて、導通性能の向上のため、スズ(Sn)などの導電性金属のめっきで表面処理されているのが一般的である。しかしながら、これらの金属めっきは、導電しにくい金属酸化物膜をその最上層に形成する傾向を有しているのが一般的であり、導電性接着剤を介した電極どうしの良好な接続を妨害する傾向にある。よって、Snめっきなどで表面処理され電極どうしを、導電性接着剤の使用により良好に接続しうる手段を提供することが望まれている。
【0006】
ところで、車載以外の分野では、導電性接着剤を介して電極どうしの良好な接続を達成するため、いろいろな試みが進められている。例えば、特許文献1では、配線回路の最上層に形成された好ましくは金めっき層の表面に多数の凹凸を形成することで、接着剤に導電性粒子を配合することなく、接続抵抗の低減を接着剤だけで達成することが提案されている。また、特許文献2では、導電性接着剤の調製において、樹脂(ベースレジン)と導電性粒子(銅−スズフィラー)との系に、接触抵抗値を低下させるための添加剤として、キレート剤、酸化防止剤及び金属表面活性剤の少なくとも一つを添加することが提案されている。さらに、特許文献3では、過酷な環境条件に曝された場合に改良された接触抵抗をもたらすよう、導電性接着剤に酸素捕捉剤又は防食剤あるいはその両方を配合することが提案されている。しかしながら、上記のような導電性接着剤を使用する場合であって、電子部品を、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などのコネクタ部、リードフレーム等から一体成形して形成された半導体パッケージに直接的に実装する場合には、導電性接着剤の接続抵抗が増加し、接着力が低下するという問題が発生する。この問題は、構成部品間の線膨張係数差が大きく、発生する熱応力が過大となることに要因があるものと考察される。特に車載用半導体パッケージにおいては、高温と低温の温度差が大きくなるため、熱応力がさらに過大となることを避けることができない。車載での搭載環境は、車室内搭載、エンジンルーム内搭載、エンジン直載というように環境が厳しくなり、接続抵抗の増加や接合強度の低下の度合いも大きくなる。
【0007】
また、エポキシ系接着剤を使用したときの接着力を向上させることを目的として、特許文献4では、(A)熱硬化性エポキシ樹脂及び(B)末端エポキシ変性シロキサンオリゴマーを必須成分として含有する電子デバイス用熱圧着接着剤を提案している。さらに、特許文献5では、銅又は銅合金からなる金属表面に対する接着力を向上させるため、その金属表面を、酸化剤、無機酸、酸化防止剤及び置換された不飽和アルキル化合物からなる接着力向上剤で予め粗面化することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−165816号公報
【特許文献2】特開2006−225426号公報
【特許文献3】特開2002−348486号公報
【特許文献4】特開2001−164225号公報
【特許文献5】特開2006−511701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、車載用の半導体パッケージなどを製造するとき、電極どうしを導電性接着剤を使用して電気的に接続する場合には、解決されるべき多くの課題が存在している。例えば、過酷な使用環境や、走行中の絶え間ない振動環境等の劣悪な条件下でも安定に動作し、高度の性能を維持し続けることのできることが必要である。また、半導体パッケージなどは、構造が複雑ではなく、小型、軽量であり、製造工程も簡便であることが望ましい。例えばワイヤボンディングで電子部品と半導体パッケージを接続することは回避することが望ましく、また、これに関連して、電子部品を専用の基板上に搭載した状態でワイヤボンディングを介して半導体パッケージに搭載する手法を採用しないで、電子部品を半導体パッケージ上に直接的に実装する手法を可能とすることが望ましい。さらに、例えばSnめっきなどの金属めっきで表面処理された電極どうしを導電性接着剤を介して接続するとき、金属めっき層の表面にすでに形成されている金属酸化膜が、導電しにくいことに原因して、良好な導電性を発現させることの障害が発生するという問題を解決しなければならない。さらに、電子部品を、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などのコネクタ部、リードフレーム等から一体成形して形成された半導体パッケージに直接的に実装する場合には、電子部品及び構成部材間などにおける線膨張係数差による応力が大きくなり、接続抵抗の増加、接続強度の低下、構成部材の剥がれなどが発生するという問題を解決しなければならない。さらに加えて、応力低減のため、従来の手法では電子部品の下にアンダーフィル材を封入する手法を採用しているが、かかる手法は、製造工数を追加するとともに、製造コストの増加に反映してくるので、省略することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述のような課題を解決するため、本発明者らは、導電性部材どうしを電気的に接続するために用いられる導電性接着剤であって、
バインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に配合せしめられた、
(1)導電性金属フィラー、
(2)還元剤、及び/又は
(3)酸化防止剤
とを少なくとも含んでなることを特徴とする導電性接着剤を発明した。
【0011】
本発明の実施において、導電性接着剤を介して相互に接合される導電性部材は、好ましくは、半導体パッケージやその他の電子デバイスを構成する電極である。また、導電性部材は、電極に適用した場合と同等の作用効果を達成できるのであれば、電極以外の導電性部材、例えば銅(Cu)、鉄(Fe)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、はんだ、あるいはこれらを含めた合金などであってもよい。また、電極は、その表面において、表面処理、好ましくはスズ(Sn)等の金属からなる金属めっきで表面処理されているものを包含する。
【0012】
また、本発明の導電性接着剤において主剤として使用されるバインダ樹脂(「ベース樹脂」と呼ばれることもある)は、各種の樹脂を包含する。バインダ樹脂は、ゴム変性されているか、さもなければ、ゴム成分が添加されていることが好ましい。ゴム変性あるいはゴム成分の添加は、バインダ樹脂を低弾性化し、熱応力を低減するのに有効である。よって、本発明では、ゴム変性を「低弾性付与」と呼び、ゴム成分の添加を「低弾性付与剤の添加」と呼ぶ場合もある。
【0013】
さらに、バインダ樹脂には、導電性金属フィラー、還元剤、そして酸化防止剤を添加剤として配合する。ここで、導電性金属フィラーは、電極の如き導電性部材間の導通経路を形成するのに有効であり、したがって、バインダ樹脂は、金属フィラーを均一に分散させ、かつ固定する作用を有している。還元剤は、バインダ樹脂の硬化時に、導電性部材を構成する金属の表面にすでに形成されている金属酸化膜を還元により除去し、接続抵抗を低減させるのに有効である。酸化防止剤は、導電性部材を構成する金属の表面において酸化が進行するのを抑制するのに有効である。酸化防止剤は、必要に応じて、金属フィラーに配合してもよい。
【0014】
また、本発明は、相対する電極どうしを、導電性接着剤を介して、電気的に接続してなる電極接合構造体であって、前記導電性接着剤が、本発明による導電性接着剤であることを特徴とする電極接合構造体にある。ここで、電極は、その少なくとも一方において、金属めっきで表面処理されていることが好ましい。また、電極は、半導体パッケージを構成する電極であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、電子部品と、それをターミナル部に搭載したパッケージとを一体成形してなる半導体パッケージにおいて、電子部品が、本発明による導電性接着剤を介してターミナル部に搭載されていることを特徴とする半導体パッケージにある。この半導体パッケージでは、従来の技術で用いられていたような、電子部品のための専用の基板やボンディングワイヤを使用することが必要でなくなり、また、電子部品の下方に、応力低減のためのアンダーフィル材を封入することも必要でなくなる。
【0016】
本発明の半導体パッケージでは、ターミナル部をもって電子部品のための基板電極を形成し、基板電極上に形成された金属めっき層上に、導電性接着剤を介して電子部品を搭載して、基板電極と電子部品の部品電極とを電気的に接続している構成が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記し、かつ以下で詳細に説明するように、従来技術にはない顕著な作用効果を達成することができる。例えば、バインダ樹脂をそのまま使用しないで、ゴム変性を行った後か、さもなければ、ゴム成分を添加することで、バインダ樹脂の低弾性化とそれに伴う熱応力の低減を達成することができ、よって、半導体パッケージ等の電子デバイスを一体成形により製造したときでも、過大な熱応力が発生するのを回避することができる。また、応力低減の結果、電子部品の下方にアンダーフィル材を封入することも必要なくなる。さらに、製品とパッケージとで線膨張係数の差を小さくすることができるので、耐久性が向上し、パッケージの寿命の長期化を図ることができる。さらに加えて、バインダ樹脂中に還元剤及び酸化防止剤を配合することにより、従来の技術では金属酸化膜の形成により上昇を避けることができなかった接続抵抗を低減させることができるので、良好な導電性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による電極接合構造体の一例を示した断面図である。
【図2】図1の領域Aを拡大して示した断面図である。
【図3】図1の電極接合構造体を組み込んだ半導体パッケージの一例を示した断面図である。
【図4】従来の半導体パッケージの一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による導電性接着剤は、有利には、電子デバイス、例えば半導体パッケージなどの製造において、例えば電極、外部接続端子などの導電性部材どうしを電気的に接続するために用いられる。ここで、導電性部材は、1つの導電性部材にもう一つの導電性部材を接続するものが一般的であるけれども、必要に応じて、1つの導電性部材に対して、2つもしくはそれ以上の導電性部材を接続してもよい。また、接続される導電性部材どうしは、通常、同様な機能を奏する導電性部材であるけれども、必要に応じて、ある機能を奏する導電性部材に対して、別の機能を奏する導電性部材を接続してもよい。
【0020】
導電性部材は、好ましくは、例えば電極、外部接続端子、リードフレーム、ターミナル、金属の放熱板などである。これらの導電性部材は、電子デバイスの分野で一般的に使用されている導電性材料、好ましくは金属から形成することができる。適当な金属として、例えば、銅及びその合金、鉄及びその合金(例えば、42アロイ)、金及びその合金、アルミニウム及びその合金などを挙げることができる。これらの金属は、単独で使用してもよく、2種類以上の金属を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明の実施において、導電性部材は、さらに好ましくは、電極、例えば電子部品に備わった部品電極や、半導体パッケージなどに備わった基材電極である。これらの電極を含めて導電性部材は、この技術分野で一般的に行われているように、導電効率を向上されるなどの目的で表面処理されているのが一般的である。表面処理としては、本発明の導電性接着剤の機能を十分に引き出す効果があるので、金属めっき、例えばスズ(Sn)めっき、ニッケル(Ni)めっき、銅(Cu)めっき、金(Au)めっき、パラジウム(Pd)めっき、銀(Ag)めっきなどを好適に使用することができる。例えば、部品電極や基材電極は、好ましくは、銅などを本体として、その表面にSnめっきを施した構成を有することができる。これらの金属めっきは、この技術分野で一般的に使用されている技法を使用して実施することができる。また、金属めっきの膜厚も、この技術分野で一般的に使用されている膜厚を適用することができ、一般的な膜厚は、約1〜100μmの範囲であり、好ましくは、約3〜10μmの範囲である。
【0022】
本発明の導電性接着剤は、少なくとも、バインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に配合せしめられた、(1)導電性金属フィラー、(2)還元剤、及び/又は(3)酸化防止剤とを含んでいる。ここで、バインダ樹脂は、導電性接着剤の製造において一般的に使用されているものであってよく、例えば、以下のものに限定されないけれども、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、熱可塑性樹脂あるいはこれらの樹脂の組み合わせを包含する。
【0023】
バインダ樹脂は、そのまま使用してもよいが、バインダ樹脂を低弾性化し、熱応力を低減するため、ゴム変性により低弾性付与されているか、さもなければ、低弾性付与剤としてのゴム成分が添加されていることが好ましい。ゴム変性は、バインダ樹脂の主骨格にゴム成分を付与することによって行われる。ゴム変性としては、好ましくは、CTBN(カルボキシル末端ブタジエン−ニトリルゴム)変性、シリコーンゴム変性、アクリルゴム変性、ウレタンゴム変性、ブタジエンゴム変性などを挙げることができ、とりわけCTBN変性が好適である。ゴム変性のバインダ樹脂は、好ましくは、CTBN変性のエポキシ樹脂である。
【0024】
本発明の実施においては、ゴム変性に代えて、ゴム成分をバインダ樹脂に併用することでも、バインダ樹脂の熱応力を低減することができる。ゴム成分としては、好ましくは、CTBNゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴムなどを挙げることができる。ゴム成分は、単独で使用してもよく、必要に応じて、2種類以上のゴム成分を組み合わせて使用してもよい。とりわけ、CTBNゴムをゴム成分としてエポキシ樹脂に併用するのが有用である。ゴム成分の配合量は、通常、バインダ樹脂の全量を基準にして、約5〜80重量%の範囲である。
【0025】
バインダ樹脂には、その樹脂を硬化させるための硬化剤が通常併用される。使用する硬化剤の種類は、バインダ樹脂の種類に応じて変動するけれども、通常、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤などを挙げることができる。硬化剤の使用量は、バインダ樹脂の種類などのファクタに応じて変動するけれども、通常、バインダ樹脂の全量を基準にして、約2〜20重量%の範囲である。
【0026】
導電性接着剤において所望レベルの導電性を得るため、上記したバインダ樹脂に導電性金属フィラーが配合される。すなわち、導電性接着剤の導電性は、バインダ樹脂に配合される金属フィラーの配合量によって変動可能である。導電性の付与に好適な金属としてはは、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれど、例えば、銀、鉛、はんだ、金、鉄、あるいはこれらの金属の合金を挙げることができる。これらの金属群のうち、その優れた導電性の故、銀が金属フィラーとして特に好適である。これらの導電性金属は、フィラー(充填材)として、通常、粉末、顆粒等の形で用いられる。粉末の形態は、例えば、球体、楕円体、フレーク状体、破砕形状、毬栗(いがぐり)状などである。これらの金属フィラーは、単独で使用してもよく、必要に応じて、2種類以上の金属フィラーを混合して使用してもよい。金属フィラーの寸法は、形態に応じて変動可能であるけれども、通常、約2〜100μmの範囲であり、好ましくは、約5〜40μmの範囲である。また、金属フィラーの配合量は、通常、バインダ樹脂の全量を基準として、約30〜600重量%の範囲であり、好ましくは、約300〜500重量%の範囲である。
【0027】
本発明の導電性接着剤は、導電性金属フィラーに追加してその他の添加剤をさらに配合することを必須とする。配合されるべき添加剤の一つは、還元剤である。還元剤には、電極等の、金属からなる導電性部材の表面にその酸化により形成された金属酸化物膜が存在するとき、バインダ樹脂の硬化時にその金属酸化物膜を還元により除去し、金属酸化物膜の存在に由来する接続抵抗を低減させる働きがある。還元剤は、それを導電性接着剤中に含有することで、接続抵抗を50%もしくはそれ以上のレベルで低減させることができる。還元剤としては、例えば、フェノール系還元剤、芳香族アミン系還元剤、硫黄系還元剤、リン系還元剤、キノリン系還元剤、例えばヒドロキシキノリン、キノリン誘導体等、などを挙げることができる。これらの還元剤は、単独で使用してもよく、2種類以上の還元剤を組み合わせて使用してもよい。このような還元剤は、通常、バインダ樹脂の全量を基準として、約0.1〜10重量%の量で、好ましくは、約0.5〜5重量%の量で配合可能である。
【0028】
配合されるべき添加剤のもう1つは、酸化防止剤である。酸化防止剤には、金属からなる導電性部材の表面に形成され、接続抵抗の上昇を引き起こす傾向のある金属酸化物膜の形成を抑制する働き、要するに金属表面の酸化を抑制する働きがある。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤、例えばヒドロキシキノリン、キノリン誘導体等、などを挙げることができる。これらの酸化防止剤は、単独で使用してもよく、必要に応じて、2種類以上の酸化防止剤を組み合わせて使用してもよい。このような酸化防止剤は、通常、バインダ樹脂の全量を基準として、約0.1〜10重量%の量で、好ましくは、約0.5〜5重量%の量で配合可能である。
【0029】
別法によれば、上記のように酸化防止剤をバインダ樹脂に配合することに代えて、同じくバインダ樹脂に配合される導電性金属フィラーに酸化防止剤を含有させてもよい。この場合に使用しうる酸化防止剤は、いわゆる酸化防止性金属、すなわち、酸化防止作用をそれ自体に備えている金属である。酸化防止性金属の典型例として、例えば、インジウム、銅、亜鉛、鉄などを挙げることができる。酸化防止性金属は、それが添加される導電性金属フィラーと同様に、有利には粉末、顆粒等の形で使用され、その形態は、例えば球体、楕円体、フレーク状体などである。これらの酸化防止性金属は、単独で使用してもよく、必要に応じて、2種類以上の金属を組み合わせて使用してもよい。このような酸化防止性金属は、通常、バインダ樹脂の全量を基準として、約10〜500重量%の量で、好ましくは、約25〜100重量%の量で配合可能である。
【0030】
本発明の実施において、バインダ樹脂には、上記した導電性金属フィラー、還元剤、酸化防止剤のほか、導電性接着剤の調製において慣用的に使用される添加剤を任意に配合することができる。適当な添加剤として、例えば、ブチルセロソルブ等の粘度調整剤、シランカップリング剤等の分散剤、分散助剤、界面活性剤、着色剤(無機又は有機顔料)、消泡剤、希釈溶剤、反応性希釈剤などを挙げることができる。
【0031】
本発明による導電性接着剤は、上記したような各種の構成成分をそれぞれ所定の配合量で、任意の混合手段によって均一に配合することによって調製することができる。適当な混合手段として、例えば、攪拌機、ニーダー、3本ロールなどを挙げることができる。混合時の温度は、常温であってもよく、さもなければ、高温あるいは低温であってもよい。また、調製後の導電性接着剤は、この技術分野において一般的に使用されている手法を使用して、例えば電極等の導電性部材の表面に適用することができる。適当な適用手段として、例えば、ポッティング法、塗布法、印刷法などを挙げることができる。印刷法として、例えば、ステンシル印刷、スクリーン印刷などを挙げることができる。印刷法は、導電性接着剤をパターン状に適用するのに有用であり、電子デバイスの作製に好適である。
【0032】
本発明による導電性接着剤を上記のようにして調製し、適用することによって、本導電性接着剤を使用して、電極接合構造体、半導体パッケージ等の電子デバイスを製造することができる。例えば、半導体チップ、チップコンデンサ等の電子部品の電極を、半導体パッケージ等の回路基板の電極に導電性接着剤を介して接合して電極接合構造体を完成することができ、さらにはこの電極接合構造体を内部に組み込んだ電子デバイスを提供することができる。
【0033】
本発明は、上記したような導電性接着剤の他に、相対する電極どうしを、導電性接着剤を介して、電気的に接続してなる電極接合構造体にある。本発明の電極接合構造体は、電極を接続するために使用される導電性接着剤が、本発明の導電性接着剤であることを特徴とする。ここで、電極は、先にも説明した通り、少なくとも2つの電極があるとき、その一方の電極あるいは両方の電極において、電極表面がSnめっき、Niめっき等の金属めっきで表面処理されていることを特徴とする。また、電極は、好ましくは、半導体パッケージを構成するところの、例えば部品電極、基板電極等の電極である。
【0034】
本発明による電極接合構造体では、パッケージの電極や電子部品の電極などの電極の表面がSnめっき、Niめっき等の金属めっきで表面処理されているときであっても、また、パッケージのコレクタ材が、例えばPBT、PPS、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂等の大きな線膨張係数を有する基材から形成されているときであっても、本発明による導電性接着剤を接合媒体として使用することで、上記のような部材間の線膨張係数の差を小さく抑えることができ、よって、コネクタ材のターミナルと電子部品の電極を一体化し、かつ強固に接合することができる。
【0035】
また、本発明は、電子部品と、それをターミナル部に搭載したパッケージとを一体成形してなる半導体パッケージにある。この半導体パッケージは、それを搭載した電子部品が、本発明による導電性接着剤を介してターミナル部に搭載されていることを特徴とする。この半導体パッケージでは、好ましくは、ターミナル部をもって電子部品のための基板電極を形成し、基板電極上に形成された金属めっき層上に、導電性接着剤を介して電子部品を搭載して、前記基板電極と前記電子部品の部品電極とを電気的に接続していることを特徴とする。
【0036】
本発明による半導体パッケージでは、導電性接着剤を接続手段として使用したことで、接続抵抗の低減、そして熱応力の低減が可能となり、したがって、コネクタ材のターミナルと電子部品の電極を一体化し、かつ強固に接合することができ、また、パッケージの一括成形が可能となるとともに、電子部品のための専用基板を省略したり、電子部品の下に封入されていたアンダーフィル材を省略することができる。
【実施例】
【0037】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでない。
【0038】
実施例1
本例では、電極接合構造体の構成を図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明による電極接合構造体の一例を示した断面図であり、図2は、図1の領域Aを拡大して示した断面図である。
【0039】
電極接合構造体は、パッケージ(図示せず)のコネクタ部3を備えている。図示の例において、コネクタ部3は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)から構成されており、その上面に、所定のパターンで形成されたターミナル部4が備わっている。ターミナル部4は銅から構成され、その表面には、図示しないけれども、Snめっきが膜厚2〜20μmで備わっている。また、コネクタ部3には、図示される通り、半導体チップ1が搭載されている。半導体チップ1は、それをパッケージと電気的に接続するため、銅からなる部品電極2を備えている。部品電極2の表面には、ここでも図示しないけれども、Snめっきが膜厚2〜20μmで備わっている。本例では、パッケージのターミナル部4と半導体チップ1の部品電極2の間に導電性接着剤5を介在させることにより、ターミナル部4と部品電極2とを強固に接合している。半導体チップ1の下面には、熱応力を低減するためのアンダーフィル材は不要である。
【0040】
ターミナル部4と部品電極2との間の強固な接合は、図1の領域Aを拡大して示した断面図である図2から容易に理解することができるであろう。
【0041】
ターミナル部4と部品電極2との間には、導電性接着剤5が設けられる。導電性接着剤5は、図示される通り、バインダ樹脂7と、それに分散せしめられた導電性金属フィラー6とからなる。本例において、バインダ樹脂7は、CTBNゴム変性エポキシ樹脂からなり、導電性金属フィラー6は、約5〜40μmの平均粒径を有する球状銀(Ag)粒子からなる。Ag粒子の配合量は、バインダ樹脂の全量を基準にして、約400重量%である。また、本例では、図示しないけれども、バインダ樹脂7中に、バインダ樹脂の全量を基準にして、約2重量%のキノリノール(還元剤として)及びバインダ樹脂の全量を基準にして、約2重量%のキノリノール(酸化防止剤として)を配合している。
【0042】
実施例2
本例では、車載用半導体パッケージの構成を図3を参照して説明する。図3は、図1の電極接合構造体を組み込んだ半導体パッケージの一例を示した断面図である。
【0043】
半導体パッケージ10は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)からなるコネクタ部3を備えている。また、半導体パッケージ10のコネクタ部3には、外部の電子部品(本例では、半導体チップ)1との電気的接続を行うため、銅からなるターミナル部4が備わっている。ターミナル部4の表面には、図示しないけれども、Snめっきが膜厚2〜20μmで備わっている。一方、半導体チップ1は、銅からなる部品電極2を備えている。部品電極2の表面には、ここでも図示しないけれども、Snめっきが膜厚2〜20μmで備わっている。
【0044】
半導体パッケージ10では、図示される通り、前記実施例1において説明した本発明の導電性接着剤5を介して、半導体チップ1の部品電極2と半導体パッケージ10のターミナル部4とが電気的に接合されている。図示される通り、この半導体パッケージ10は、半導体チップ1の専用基板ばかりでなく、アンダーフィル材やボンディングワイヤも有しておらず、また、一括成形により製造可能である。驚くべきことに、この半導体パッケージ10は、コネクタ材として大きな線膨張係数をもった材料を使用し、かつ電極表面がSnめっきによって表面処理されていたにもかかわらず、接続抵抗や熱応力が小さく、優れた耐久性に由来して、長期間にわたって安定に使用することができる。また、この半導体パッケージ10は、車載時に過酷な使用条件にさらされても、その優れた品質が低下することがない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による導電性接着剤は、良好な導電性をもたらすことができるばかりでなく、電極等の導電性部材間の接続手段として使用したとき、得られる電子デバイスにおいて熱応力を低減することができるので、特に高温多湿、振動等の過酷な使用環境下で使用される電極接合構造体や電子デバイス、例えば半導体パッケージの製造において、高度の信頼性をもって良好な接続手段として利用することができる。加えて、本発明の導電性接着剤は、デバイスの小型化、軽量化や、アンダーフィル材の削減、長寿命化などに貢献することができる。したがって、本発明の導電性接着剤は、特に車載用半導体パッケージの製造に有利に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 電子部品
2 部品電極
3 コネクタ部
4 基板電極兼ターミナル部
5 導電性接着剤
6 導電性フィラー
7 バインダ樹脂
10 半導体パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性部材どうしを電気的に接続するために用いられる導電性接着剤であって、
バインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に配合せしめられた、
(1)導電性金属フィラー、
(2)還元剤、及び/又は
(3)酸化防止剤
とを少なくとも含んでなることを特徴とする導電性接着剤。
【請求項2】
前記バインダ樹脂は、ゴム変性されているか、さもなければ、ゴム成分が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
前記導電性部材は、それぞれ、半導体パッケージを構成する電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記電極は、その少なくとも一方において、金属めっきで表面処理されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
相対する電極どうしを、導電性接着剤を介して、電気的に接続してなる電極接合構造体であって、
前記導電性接着剤が、請求項1又は2に記載の導電性接着剤であることを特徴とする電極接合構造体。
【請求項6】
前記電極は、その少なくとも一方において、金属めっきで表面処理されていることを特徴とする請求項5に記載の電極接合構造体。
【請求項7】
前記電極は、それぞれ、半導体パッケージを構成する電極であることを特徴とする請求項5又は6に記載の電極接合構造体。
【請求項8】
電子部品と、それをターミナル部に搭載したパッケージとを一体成形してなる半導体パッケージにおいて、
前記電子部品が、請求項1又は2に記載の導電性接着剤を介して前記ターミナル部に搭載されていることを特徴とする半導体パッケージ。
【請求項9】
前記ターミナル部をもって前記電子部品のための基板電極を形成し、
前記基板電極上に形成された金属めっき層上に、前記導電性接着剤を介して前記電子部品を搭載して、前記基板電極と前記電子部品の部品電極とを電気的に接続していることを特徴とする請求項8に記載の半導体パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−238798(P2012−238798A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108316(P2011−108316)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】