説明

導電性接着組成物、導電性フィルム、電池用電極、並びに、導電性フィルム及び電池用電極の製造方法

【課題】生産性の向上、品質ムラ及び劣化を抑制する導電性接着組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂A、カーボンファイバー、カーボンブラックを含み、AのメルトフローレートはJISK7210法において0.1〜500g/10min。Aは式IでR、Rは水素、炭素数10以下の飽和炭化水素基、フェニル基。n、mは自然数。Xは式IIで、lは自然数。Y〜Yは水素、置換基、YとY、YとYが環状構造でもよい。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着組成物、導電性フィルム、電池用電極、並びに、導電性フィルム及び電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電池用電極の生産方法として、電極活物質、導電助剤及びバインダーを溶媒に分散して活物質スラリーを作製し、このスラリーを薄膜の金属集電体に塗布、乾燥した後、高い圧力で圧延して生産することが知られている。
【0003】
しかし、この方法では、金属集電体に塗布した後の乾燥工程や圧延工程でしわが発生しやすい。活物質層と金属集電体との密着性や均一性を保ちつつ、繰り返し充放電特性が良好な二次電池用電極を作製するためには、塗布速度や圧延速度を高めることが難しく、十分な生産性が得られていない。また、活物質スラリーは、時間の経過とともに電極活物質及び導電助剤が下方に沈殿するため、電池用電極を大量生産する際に品質のムラが生じ易い。
【0004】
この問題を解決するため、電極活物質85〜90質量部、導電助剤6〜10質量部及びバインダー3〜5質量部を溶媒に分散した後、転写フィルム上にコーターを用いて塗布、乾燥及び圧延することで電極活物質層を作製し、金属集電体に、バインダーを溶解可能な液体であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を塗布し、この液体を介して金属集電体と電極活物質層とを圧着することで電池用電極を生産することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−199022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような溶剤系やエマルジョン系等の湿式方式では、バインダーの量が極めて少ないため、時間の経過とともに電池用電極から電極活物質が剥離してしまう。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、メルトフローレートがJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minであり、所定の構造式を有する熱可塑性樹脂を原料とした導電性接着組成物を提供することで、その後に導電性フィルム及び電池用電極を生産したときの生産性の向上、個体間の品質のムラの抑制及び時間の経過による品質の劣化の抑制の全てを満たすことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に本発明は以下のものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を含有する導電性接着組成物であって、前記熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレートは、JIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minであり、前記熱可塑性樹脂(A)は、下記一般式(I)で表される導電性接着組成物である。
【化1】

(一般式(I)中、R及びRは、水素、炭素数10以下の飽和炭化水素基又はフェニル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。n及びmはいずれも自然数である。Xは、下記一般式(II)で表され、lは自然数である。一般式(II)中、Y〜Yは、それぞれ独立に水素又は置換基を表し、同一であっても異なっていてもよい。前記置換基は、脂肪族飽和炭化水素基、又はアシル基を有する飽和脂肪族基を表し、YとYが結合して環状構造を形成していてもよいし、YとYが結合して環状構造を形成していてもよい。前記環状構造は、飽和炭化水素であってもよいし、エステル結合を有していてもよい。)
【化2】

【0009】
(2)また、本発明は、前記熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレートがJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.5〜60g/10minである、(1)に記載の導電性接着組成物である。
【0010】
(3)また、本発明は、前記一般式(II)中、Yは、H、COOH又はYと結合した環状構造を表し、Yは、H、CH、COOH又はYと結合したエステル結合を有する環状構造を表し、Yは、H、CH、CHCOOH又はYと結合した環状構造を表し、Yは、COOH、無水マレイン酸基及びその誘導体又はYと結合したエステル結合を有する環状構造を表す、(1)又は(2)に記載の導電性接着組成物である。
【0011】
(4)また、本発明は、前記熱可塑性樹脂(A)が側鎖にカルボキシル基又は無水マレイン酸基を有するポリオレフィンである、(1)から(3)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0012】
(5)また、本発明は、前記熱可塑性樹脂(A)がエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂である、(1)から(4)のいずれか記載の導電性接着組成物である。
【0013】
(6)また、本発明は、前記カーボンファイバー(B)が前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して300質量部以下である、(1)から(5)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0014】
(7)また、本発明は、前記カーボンファイバー(B)が前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10〜240質量部含有し、前記カーボンブラック(C)は前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して1〜50質量部含有し、前記カーボンファイバー(B)の前記カーボンブラック(C)に対する質量比B/Cは、0.5〜100である、(1)から(6)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0015】
(8)また、本発明は、前記カーボンファイバー(B)の主原料がメソフェーズピッチからなる異方性炭素繊維であり、前記カーボンファイバー(B)の繊維径は7〜15μmであり、前記カーボンファイバー(B)のアスペクト比が1.5〜12.5である、(1)から(7)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0016】
(9)また、本発明は、前記カーボンブラック(C)の成分がファーネスブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラックである、(1)から(8)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0017】
(10)また、本発明は、前記カーボンブラック(C)のDBP吸収量がJIS K6217−4法において140〜495cm/100gである、(1)から(9)のいずれかに記載の導電性接着組成物である。
【0018】
(11)また、本発明は、(1)から(10)のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる厚さ5μm以上30μm以下の導電性フィルムである。
【0019】
(12)また、本発明は、(1)から(10)のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質が積層されている電池用電極である。
【0020】
(13)また、本発明は、前記導電性接着層が厚さ5μm以上30μm以下の導電性フィルムである、(12)に記載の電池用電極である。
【0021】
(14)また、本発明は、(1)から(10)のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質が積層されているリチウムイオン二次電池用電極である。
【0022】
(15)また、本発明は、(14)に記載のリチウムイオン電池用電極を正極又は負極の少なくとも一方に備えるリチウムイオン二次電池である。
【0023】
(16)また、本発明は、(1)から(10)のいずれかに記載の導電性接着組成物を溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形する導電性フィルムの製造方法である。
【0024】
(17)また、本発明は、(16)に記載の製造方法によって製造された導電性フィルムを介して金属集電体及び電極活物質を積層した後、加熱加圧により一体化する電池用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、本発明に係る導電性接着組成物の層を介して金属集電体及び電極活物質を積層する際、金属集電体の表面に導電性接着組成物の層を積層した後は、乾燥工程及び圧延工程を経ることがないため、この導電性接着組成物を導電性フィルム及び電池用電極の生産に利用する際、その生産の速度を高めてもしわの発生を抑えることができる。
【0026】
また、この導電性接着組成物は、時間が経過してもカーボンファイバー及びカーボンブラックが沈殿等して移動することはないため、導電性接着組成物を導電性フィルム及び電池用電極の生産に利用した際、その後の製品において品質のムラが生じにくい。
【0027】
また、溶剤系やエマルジョン系の湿式工程ではなく、熱可塑性の導電性接着組成物を介して金属集電体と電極活物質層とを圧着させる乾式工程で電極を製造できるので充分なバインダー量となり、これにより時間の経過による電極活物質、カーボンファイバー及びカーボンブラックの剥離を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電池用電極1における垂直面の導電性及び水平面の導電性を説明するための図である。
【図2】電池用電極1の面直抵抗値を測定する面直抵抗測定装置2を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0030】
[導電性接着組成物]
本発明の導電性接着組成物は、熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を含有し、所定の構造式を有する熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)がJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minである。
【0031】
本発明の導電性接着組成物では、熱可塑性樹脂のMFR及び構造式を適宜調整し、かつ、導電性接着組成物にカーボンファイバー及びカーボンブラックを含めた点に特徴がある。以下、本発明の導電性接着組成物について、具体的に説明する。
【0032】
<熱可塑性樹脂(A)>
本発明の導電性接着組成物は、熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を含有する。このうち、熱可塑性樹脂(A)は、MFRがJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minである。このMFRは、高い接着強度を有する点で0.5〜60g/10minであることがより好適である。また、本発明は、導電性接着組成物から導電性フィルム及び電池用電極を製造する際に溶融押出し法を用いて製造できること特徴とする。MFRが0.1g/10min未満であると、溶融押出し装置において導電性接着組成物の詰まりを生じる可能性があるため、好ましくない。MFRが500g/10minを超えると、耐電解液性が劣り、A成分の電解液による膨潤及び溶出による電池特性の低下が生じ得る点で好ましくない。
【0033】
熱可塑性樹脂(A)は、下記一般式(I)で表される。
【化3】

【0034】
一般式(I)中、R及びRは、水素、炭素数10以下の飽和炭化水素基又はフェニル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。n及びmはいずれも自然数である。Xは、下記一般式(II)で表され、lは自然数である。
【化4】

一般式(II)中、Y〜Yは、それぞれ独立に水素又は置換基を表し、同一であっても異なっていてもよい。この置換基は、脂肪族飽和炭化水素基、又はアシル基を有する飽和脂肪族基を表し、YとYが結合して環状構造を形成していてもよいし、YとYが結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造は、飽和炭化水素であってもよいし、エステル結合を有していてもよい。
【0035】
上記脂肪族飽和炭化水素基、飽和脂肪族基及び環状構造の炭素数は、工業的な合成のし易さの観点から10以下であることが好適であり、市販品を利用できるという観点から8以下であることがより好適である。
【0036】
市販品を利用できるという観点から、一般式(II)は、次の構造で表されるものが特に好適である。第一の態様として、YがH又はCOOHであり、YがH、CH又はCOOHであり、YがH、CH又はCHCOOHであり、YがCOOH又は無水マレイン酸基及びその誘導体であるものが挙げられる。
【0037】
第二の態様として、次の構造で表されるものが挙げられる。
【化5】

【0038】
第三の態様として、次の構造で表されるものが挙げられる。
【化6】

【0039】
第四の態様として、次の構造で表されるものが挙げられる。
【化7】

【0040】
その他、具体例として、オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体、オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル共重合体又はこれらの不飽和カルボン酸を付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性体が挙げられる。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレン等が挙げられ、不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。特に、熱可塑性樹脂(A)は、側鎖にカルボキシル基又は無水マレイン酸基を有するポリオレフィンであることが好ましく、具体的には、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂(A)は、1種類を単独で使用することに限るものではなく、2種類以上を併用して使用してもよい。また、併用にあたっては、上記の条件を満たすものだけを併用することに限るものではなく、接着性及び耐電解液性を損なわない範囲であれば、上記の条件を満たす熱可塑性樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂(例えば、オレフィン樹脂)とを併用して用いてもよい。
【0042】
一方で、アイオノマー樹脂を熱可塑性樹脂の主成分とすると、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しくなるため、好ましくない。これは、金属イオンによる凝集力が、フィラーに対し、導電性接着組成物層を厚くする方向に作用させるためであると推測される。
【0043】
<カーボンファイバー(B)>
カーボンファイバー(B)は、特に限定されるものではなく、一般に有機物を焼成したものが用いられる。具体的には、ポリアクリロニトリル(PAN)から得られるPAN系炭素体、石炭又は石油等のピッチから得られるピッチ系炭素体、セルロースから得られるセルロース系炭素体、低分子量有機物の気体から得られる気相成長炭素体等が挙げられるが、そのほかに、ポリビニルアルコール、リグニン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、フルフリルアルコール等を焼成して得られる炭素体であってもよい。
【0044】
中でも、本発明の電池用電極における垂直面の導電性に優れることからピッチ系炭素体が好ましく、特に主原料がメソフェーズピッチからなる異方性炭素繊維が好ましい。なお、本発明の電池用電極については、後に詳しく説明する。
【0045】
図1は、電池用電極1における垂直面の導電性及び水平面の導電性を説明するための図である。本明細書において、垂直面の導電性とは、電池用電極1における垂直方向(図1のA−A’方向)で示される面の導電性をいい、面直抵抗値として数値化できる。面直抵抗値は、図2に示す面直抵抗測定装置2を用いて測定できる。面直抵抗測定装置2は、2つの電流測定端子21,22と、これら2つの電流測定端子21,22の測定面の略中央において、電流測定端子21,22と電気的に絶縁されて設けられている2つの電圧測定端子23,24と、上記2つの電流測定端子21,22と銅線を介して電気的に接続され、電流計を兼ねる第1の安定化電源装置25と、上記2つの電圧測定端子23,24と銅線を介して電気的に接続され、電圧計を兼ねる第2の安定化電源装置26とによって構成される。電流測定端子21,22は、直径2cm,厚さ5cmの円柱形状の真鍮である。電圧測定端子23,24は、圧力が印加されていない状態においては、電流測定端子21,22の測定面から1mm突出して配置されている、直径1mmの真鍮棒である。電圧測定端子25,26の突出部分は、圧力が印加されると電流測定端子21,22に沈み込むように動き、電池用電極1を傷つけないようにする。測定者は、測定対象となる電池用電極1を2つの電流測定端子21,22に挟み、1MPaの圧力を印加することで、電池用電極1の面直抵抗値を測定できる。
【0046】
水平面の導電性とは、電池用電極1における水平方向(図1のB−B’方向)で示される面の導電性をいい、体積抵抗値として数値化できる。体積抵抗値は、ロレスターMCP−T360(三菱化学社製)を用い、JIS K7194法にしたがって測定できる。
【0047】
カーボンファイバー(B)のアスペクト比は、1.5〜12.5であることが好適である。アスペクト比が1.5未満であると、導電性フィルムの十分な異方導電性が得られない可能性があるため、好ましくない。アスペクト比が12.5を超えると、熱可塑性樹脂(A)との混練が不良となる可能性があるため、好ましくない。
【0048】
カーボンファイバー(B)は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して300質量部以下であることが好適であり、10〜240質量部であることがより好適であり、20〜200質量部であることがさらに好適である。カーボンファイバー(B)が、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して10質量部未満であると、導電性フィルムの十分な異方導電性が得られない可能性があるため、好ましくない。300質量部を超えると電池用電極の薄膜化が困難となる可能性があるため、好ましくない。
【0049】
<カーボンブラック(C)>
カーボンブラック(C)は、特に限定されるものではないが、気体若しくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラック、エチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、又はガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック等から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0050】
カーボンブラック(C)のフタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量)は、JIS K6217−4法において140〜495cm/100gであることが好ましく、140〜400cm/100gであることがより好ましい。140cm/100g未満であると導電性接着組成物の導電性が悪化するため好ましくない。495cm/100g以上であると組成物の粘度が高くなりすぎ、調製が困難となるため好ましくない。
【0051】
カーボンブラック(C)は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して1〜50質量部の範囲であることが好適であり、5〜30質量部の範囲であることがより好適である。カーボンブラック(C)が、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して1質量部未満であると、導電性フィルムの十分な導電性が得られない可能性があるため、好ましくない。50質量部を超えると電池用電極の薄膜化が困難となる可能性があるため、好ましくない。
【0052】
カーボンファイバー(B)のカーボンブラック(C)に対する質量比B/Cは、0.5〜100であることが好適であり、1〜10であることがより好適である。B/Cが0.5未満であると、導電性フィルムの十分な異方導電性が得られない可能性があるため、好ましくない。100を超えると電池用電極の薄膜化が困難となる可能性があるため、好ましくない。
【0053】
<導電性接着組成物の調製>
導電性接着組成物の調製は、上記熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を常法に従って混合することにより行われる。その他添加剤を本願発明の効果を損なわない範囲で添加することが出来る。添加剤としては、例えば、粘着付与剤(タッキファイヤー)として用いられる石油樹脂のほか、老化防止剤、滑剤、充填剤等が挙げられる。
【0054】
カーボンファイバー(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対し、300質量部以下であることが好適である。カーボンファイバー(B)の含有量が300質量部を超えると、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しくなるため、好ましくない。
【0055】
ところで、カーボンファイバー(B)の繊維径及び平均繊維長が短いほど、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して大量のカーボンファイバー(B)を含有させても、導電性接着組成物層の厚みを抑えることができる。この点で、カーボンファイバー(B)の繊維径及び平均繊維長は、短い方が好適である。繊維径及び平均繊維長が短いものの市販品として、異方性炭素繊維「ラヒーマXA101」(繊維径:8μm,平均繊維長:15μm,アスペクト比:1.88,帝人社製)が挙げられる。
【0056】
一方で、コストが低く、汎用性が高いカーボンファイバー(B)を用いても、電池用電極を薄膜化できる点で、カーボンファイバー(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対し、250質量部以下であることがより好適であり、190質量部以下であることがさらに好適である。コストが低く、汎用性が高いカーボンファイバー(B)の例として、異方性炭素繊維のミルドファイバー「ダイアリード K223HM」(繊維径:11μm,平均繊維長:50μm,アスペクト比:4.54,三菱樹脂社製)、等方性炭素繊維「ドナカーボ・ミルドSG−241」(繊維径:13μm,平均繊維長:110μm,アスペクト比:8.46,大阪ガスケミカル社製)が挙げられる。
【0057】
カーボンブラック(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対し、1質量部以上であることが好適である。カーボンブラック(C)の含有量が1質量部未満であると、カーボンファイバー(B)が十分に入っていても、適切な導電性能が得られないため好ましくない。
【0058】
カーボンファイバー(B)とカーボンブラック(C)との合計は、20〜300質量部であることが好適である。上限につき、より好ましくは255質量部以下、最も好ましくは170質量部以下である。合計が20質量部未満であると、適切な導電性能が得られないため好ましくない。また、合計が300質量部を超えると、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しくなるため、好ましくない。
【0059】
カーボンファイバー(B)とカーボンブラック(C)との質量比は、B/C=0.25〜100であることが好適であり、より好ましくは0.5〜45、最も好ましくは1.0〜30である。この質量比が0.25未満であると、樹脂のMFRが適性であっても、加熱溶融したポリマーにフィラー(カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C))が均一に混ざらず、導電性接着組成物の安定した製造が難しくなるため、好ましくない。質量比が100を超えると、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しくなるため、好ましくない。また、カーボンファイバー(B)が十分に入っていても、適切な導電性能が得られない点でも好ましくない。
【0060】
導電性接着組成物のMFRは、JIS K7210法(試験温度:230℃、荷重:10.0kg)において0.5g/10min以上であることが好適であり、より好ましくは5g/10min以上であり、最も好ましくは10g/10min以上である。本実施形態に係る導電性接着組成物は、加熱溶融したポリマー(熱可塑性樹脂(A))に、フィラー(カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C))を混合して作製したものである。通常、フィラー含有量が多いと溶融粘度が上昇して混合が困難となる。MFRは、この溶融粘度を評価するためのパラメータであり、MFRが0.5g/10min未満であると、電池用電極の薄膜化が難しくなるため、好ましくない。
【0061】
本発明の導電性接着組成物は、熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を、熱可塑性樹脂(A)の溶融温度以上で混練し、冷却後、ペレット状、粉末状、塊状等適当な形状に成形して製造される。混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、2本ロールミル、バンバリーミキサー、インターミックス、加圧ニーダー等の公知の装置を用いることができる。これらの中でも、良好な混練効果を持ち、連続生産性に優れている点で二軸押出機が好ましい。混練温度は、好ましくは100〜400℃、より好ましくは150〜350℃である。100℃未満であると樹脂の溶融が不十分で混練不良となりやすいため、好ましくない。400℃を超えると、樹脂の熱変性が生じるおそれがあるため、好ましくない。
【0062】
[電池用電極]
本発明の電池用電極は、上記導電性接着組成物からなる導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質が積層されたものである。
【0063】
〔導電性接着層の形成〕
導電性接着層を形成する手法として、例えば、従来公知の溶融押出装置を用いて、シリコーン等で易剥離処理された保護フィルム(剥離シート)に上記導電性接着組成物からなる層を形成することが挙げられる。この場合、導電性接着層の片面だけに保護フィルムがあってもよいし、導電性接着層の両面に保護フィルムがあっても良い。
【0064】
(保護フィルムへの溶融押出)
フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶剤を使用せず薄いフィルム成形が可能である点で溶融押出法が好ましい。
【0065】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられる。その際、押出しフィルムの成形温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは110〜250℃である。100℃未満であると組成物の溶融が不十分で安定した成形物が得られないため、好ましくない。300℃を超えると、組成物の熱変性が生じるおそれがあるため、好ましくない。
【0066】
Tダイ法で押出しフィルム成形する場合、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出したフィルムを巻き取り、ロール状のフィルムを得る事ができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出し方向に延伸を加えることで、一軸延伸工程とすることも可能である。また、押出し方向と垂直な方向にフィルムを延伸する工程を加えることで、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの工程を加えることも可能である。
【0067】
なお、押出しフィルムの力学特性を安定化させるため、延伸処理後に熱処理(アニーリング)等を行うこともできる。また、Tダイによって得られたフィルムをさらに圧延ロールで圧延することもできる。圧延ロールを有する装置として、例えば、カレンダー装置を例示でき、製品の安定性や合理性を考慮すると、カレンダー装置によるフィルム化が望ましい。フィルムの成形温度は、好ましくは50〜300℃、より好ましくは100〜250℃である。50℃未満であると組成物の軟化が不十分で安定した成形物が得られないため、好ましくない。300℃を超えると、組成物の熱変性が生じるおそれであるため、好ましくない。
【0068】
(導電性接着組成物を溶かした溶液の金属集電体又は保護フィルムへの塗布)
また、導電性接着層を形成する他の手法として、導電性接着組成物を有機溶媒に溶解し、その溶液を金属集電体に塗布し乾燥させて導電性接着層を形成することや、上記溶液を保護フィルム上に塗布し乾燥させて導電性接着層を形成することも挙げられる。
【0069】
有機溶媒として、トルエン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を使用できる。また、金属集電体又は保護フィルムに導電性接着組成物を塗布する手法として、ロールコーター、スプレーコーター、ダイコーター等を使用できる。
【0070】
(導電性接着組成物の粉末の金属集電体又は保護フィルムへの塗布・定着)
また、導電性接着層を形成する他の手法として、導電性接着組成物を粉末化し、金属集電体に塗布し、定着させで導電性接着層を形成することや、上記粉末を保護フィルム上に塗布し、定着させて導電性接着層を形成することも挙げられる。
【0071】
粉末化の方法として、例えば、ロールミル、ハンマーミルやジェットミル等の乾式機械粉砕法、ビーズミル等の湿式機械粉砕法が挙げられる。乾式機械粉砕法では液体窒素等の冷媒を使用しても良い。また、上記の有機溶媒を用いて導電性接着組成物を溶液とし、スプレー噴霧し粉末を得るスプレードライ法、溶液に貧溶媒を添加し粉末状の沈殿物を得る再沈殿法、溶液を撹拌しながら乾燥させ粉末を得る化学粉砕法等も挙げられる。貧溶媒としては例えばメタノール等アルコール系溶媒が用いられる。
【0072】
金属集電体又は保護フィルムに導電性接着組成物の粉末を塗布する手法として、粉体を帯電させることで均一に吹付けて製膜することが可能な静電塗装法、粉体を半溶融状態で吹きつけて製膜する溶射法、粉体を高速で吹付け、基材との衝突エネルギーによって粉体を溶融させ製膜するエアロゾルデポジション法等が挙げられる。
【0073】
ここにおいて、定着とは、接着組成物の粉末を金属集電体又は保護フィルム上で加熱によって溶融して膜化する工程をいう。この場合、加熱と同時にプレスしても良い。プレスすることによって膜の厚みを均一とすることができる。プレスには、平板プレス、ロールプレスを使用できる。
【0074】
(好ましい態様)
中でも、有機溶媒を使用せず導電性接着層が得られ、かつ、厚み均一性に優れる点で、導電性接着層は、溶融押出し法で形成され、導電性フィルムとして供給されることが好ましい。
【0075】
導電性接着層を形成する手法にかかわらず、導電性接着層の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。厚さが5μm未満であると、十分な接着強度が得られない場合があり、30μmを超えると、導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質を積層させた後の電極が厚過ぎるため、好ましくない。
【0076】
〔金属集電体〕
金属集電体は、箔体であっても網体であってもよい。正極に使用する金属集電体としてはアルミニウム箔が広く知られ、負極に使用する金属集電体としては銅箔が広く知られている。その他、近年では、薄型軽量化を図るため、正極に使用する金属集電体としてアルミニウム箔を用い、負極に使用する金属集電体として、表面に炭素粉が付着されたアルミニウム箔を用いることも知られている。
【0077】
〔電極活物質〕
正極活物質としては、電解液が水溶液系であれば、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀等が広く知られ、電解液が有機電解液であるか、又は有機電解液に代えて固体電解質を用いるときは、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム等が広く知られている。負極活物質としては、電解液が水溶液系であれば、水銀、亜鉛、カドミウム、鉛等が広く知られ、電解液が有機電解液であれば、グラファイト等の炭素系活物質、シリコン等のリチウム合金系活物質、チタン酸リチウム等の酸化物系活物質、金属リチウム等が広く知られている。
【0078】
電極活物質シートの形成は、まず、電極活物質を溶媒に分散させて電極活物質層ペーストを作製する。その後、易剥離処理された保護フィルム上に電極活物質層ペーストを10μm以上100μm以下の厚さでコーターを用いて塗布、乾燥した後、圧延して電極活物質シートを作製する。
【0079】
〔電池用電極の形成〕
電池用電極は、上記導電性接着層を介して金属集電体及び上記電極活物質シートを積層した後、加熱加圧により一体化して製造される。まず、導電性フィルムから保護フィルムを剥がし、導電性接着層と金属集電体とを対面させ、加熱加圧により転写して一体化する。この段階では、金属集電体/導電性接着層/保護フィルムの積層体となっている。
【0080】
その後、もう1つの保護フィルムを剥がし、導電性接着層と電極活物質シートとを対面させ、加熱加圧により転写して一体化する。この段階で、金属集電体/導電性接着層/電極活物質シートの積層体としての電池用電極が作製される。
【0081】
なお、市場への供給の形態としては、保護フィルム/導電性接着層/保護フィルムの積層体を導電性フィルムとして供給してもよいし、金属集電体/導電性接着層/保護フィルムの積層体を導電性フィルムとして供給してもよい。
【0082】
本発明は、正極又は負極のいずれかの表面積が500cm以上で容量が30Ah以上の大型・大容量の電池用電極として用いることが好適である。大型・大容量の電池用電極は、主として、自動車、無停電電源、日照条件等による太陽光の照射むらを補うためのソーラーパネル用補助電源等に用いられる。電極が大型・大容量であると、電極の一部がデンドライト等により内部短絡すると、瞬時に短絡電流が流れ、過度に発熱し得る。本発明の電池用電極は、高い異方導電性を有することから、短絡電流を抑制し、過度な発熱を緩和することが期待される。
【0083】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した電池用電極を用いてなり、例えば、本発明の正極と負極とをセパレータを介して対向して配置し、電解質を注入することにより得ることができる。また、この他にも、通常当該分野において使用されるガスケット、封口板、ケースなどをさらに備えていてもよい。
【0084】
セパレータとしては、正極と負極の電子伝導を絶縁する機能を有し、リチウムイオン二次電池で通常的に使われるものであればいずれも使用可能である。例えば、微多孔性のポリオレフィンフィルムを使用できる。
【0085】
有機電解液の溶媒としては、リチウムイオン伝導性を有する各種のものを使用できる。有機電解液の溶媒の具体例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ―ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒、あるいはこれらの溶媒のうちの2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。
【0086】
有機電解液の電解質には、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiCSO、LiN(CFSO等のリチウム塩からなる電解質の1種または2種以上を混合させたものを用いることができる。
【0087】
また、上記の有機電解液に代えて固体状のリチウムイオン伝導体を用いることができる。例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等からなるポリマーに前記リチウム塩を混合した固体高分子電解質や、高分子材料に電解液を含浸させゲル状に加工した高分子ゲル電解質を用いることができる。
【0088】
さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を無機固体電解質として用いてもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0090】
[熱可塑性樹脂(A)の検討]
【表1】

<実施例1>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRがJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において7g/10minであるエチレン−メタクリル酸共重合体(EMA、商品名:ニュクレルAN4214C,極性基含有量:4質量%,三井・デュポン ポリケミカル社製)100質量部と、カーボンファイバー(B)として、繊維径が13μmであり、平均繊維長が110μmであり、アスペクト比が8.46であり、主原料がアイソフェーズピッチである黒鉛質の炭素繊維(商品名:ドナカーボ・ミルドSG−241,大阪ガスケミカル社製)120質量部と、カーボンブラック(C)として、粒子径が40nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において365cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC300J,ライオン社製)20質量部とを溶融混練して、実施例1の導電性接着組成物を得た。
【0091】
<実施例2>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において60g/10minであるEMA(商品名:ニュクレルN1560,極性基含有量:15質量%,三井・デュポン ポリケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2の導電性接着組成物を得た。
【0092】
<実施例3>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において300g/10minであるエチレン−アクリル酸共重合体(EEA,商品名:プリマコール5980I,極性基含有量:20質量%,ダウ・ケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2の導電性接着組成物を得た。
【0093】
<実施例4>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において500g/10minであるEMA(商品名:ニュクレルN1050H,極性基含有量:10質量%,三井・デュポン ポリケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例4の導電性接着組成物を得た。
【0094】
<比較例1>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において1300g/10minであるEEA(商品名:プリマコール5990I,極性基含有量:20質量%,ダウ・ケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて比較例1の導電性接着組成物を得た。
【0095】
[耐電解液性の評価]
実施例及び比較例の導電性接着組成物を一辺25mm、厚さ50μmの正方形に切り取り、試験サンプルを作製した。このときの重量を浸漬前重量とする。その後、炭酸エチル(商品名:鹿特級,関東化学社製)と、炭酸ジエチル(商品名:鹿特級,関東化学社製)とを重量比2:3で混合した模擬電解液50mLを100mL瓶に入れ、その中に試験サンプルを浸漬し、70℃で168時間静置した。その後、試験サンプルを電解液から引き上げ、表面に付着している液滴を拭き取り、重量を測定した。このときの重量を浸漬直後重量とする。その後、アルミカップ(直径5cm,深さ3cm程度)の重量を測定し(この重量を「アルミカップ重量」とする。)、このアルミカップに試験サンプルを入れ、105℃で3時間乾燥させ、乾燥後の重量を測定した。このときの重量を浸漬後乾燥重量とする。以上のパラメータを用いて、膨潤率(%)及び溶出率(%)を次のとおり算出した。
【0096】
【数1】

【0097】
【数2】

【0098】
膨潤率は、100%を超え105%以下のものを“◎”とし、105%を超え110%以下のものを“○”とし、110%を超えるものを“×”とした。溶出率は、98%以上100%未満を“◎”とし、95%以上98%未満を“○”とし、95%未満を“×”とした。
【0099】
【表2】

【0100】
MFRがJIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minである熱可塑性樹脂(A)(実施例1〜4)は、いずれも良好な耐電解液性を示した。一方、MFRがJIS K7210法、190℃において500g/10minを超える熱可塑性樹脂を用いた場合、耐電解液性において劣ることが確認された(比較例1)。
【0101】
【表3】

【0102】
<実施例11>
熱可塑性樹脂(A)として、上記ニュクレルAN4214Cを100質量部、カーボンファイバー(B)として、繊維径が13μmであり、平均繊維長が110μmであり、アスペクト比が8.46であり、主原料がアイソフェーズピッチである黒鉛質の炭素繊維(商品名:ドナカーボ・ミルドSG−241,大阪ガスケミカル社製)120質量部を、カーボンブラック(C)として、粒子径が40nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において365cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC300J,ライオン社製)20質量部を溶融混練して、導電性接着組成物を得た。
【0103】
その後、溶融押出装置を用いて剥離シート(商品名:テトロンフィルム,膜厚:25μm、帝人デュポンフィルム社製)の剥離面上に上記導電性接着組成物を膜厚が20μmとなるように積層して導電性接着組成物層を得た。次いで、導電性接着組成物層上に上記剥離シートをさらに積層し、保護フィルム/導電性接着層/保護フィルムの積層体としての実施例11の導電性フィルムを得た。
【0104】
<実施例12>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において25g/10minであるEMA(商品名:ニュクレルN1525,極性基含有量:15質量%,三井・デュポン ポリケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例12の導電性フィルムを得た。
【0105】
<実施例13>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において35g/10minであるEMA(商品名:ニュクレルN1535,極性基含有量:10質量%,三井・デュポン ポリケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例13の導電性フィルムを得た。
【0106】
<実施例14>
熱可塑性樹脂(A)として、上記ニュクレルN1560を100質量部用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例14の導電性フィルムを得た。
【0107】
<実施例15>
熱可塑性樹脂(A)として、上記ニュクレルN1050Hを100質量部用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例15の導電性フィルムを得た。
【0108】
<実施例16>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において20g/10minであるEEA(商品名:プリマコール3460,極性基含有量:9.5質量%,ダウ・ケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例16の導電性フィルムを得た。
【0109】
<実施例17>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において300g/10minであるEEA(商品名:プリマコール5980I,極性基含有量:20質量%,ダウ・ケミカル社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例17の導電性フィルムを得た。
【0110】
<実施例18>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において0.5g/10minである無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAb−PE,商品名:モディックDH0200,三菱化学社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例18の導電性フィルムを得た。
【0111】
<実施例19>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において2.4g/10minであるMAb−PE,商品名:モディックDL6700,三菱化学社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例19の導電性フィルムを得た。
【0112】
<実施例20>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において6g/10minであるMAb−PE,商品名:モディックM545,三菱化学社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例20の導電性フィルムを得た。
【0113】
<実施例21>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において1g/10minである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAb−PP,商品名:モディックP553A,三菱化学社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例21の導電性フィルムを得た。
【0114】
<比較例11>
熱可塑性樹脂(A)として、MFRが同法において0.9g/10minであるアイオノマー樹脂(IO,商品名:ハイミラン1707,三井デュポン社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて比較例11の導電性フィルムを得た。
【0115】
実施例11〜20及び比較例11のそれぞれについて、コバルト酸リチウム90質量部と、導電剤として、粒子径が34nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において495cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600JD,ライオン社製)6質量部とをポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液(商品名:KFポリマー♯1120,クレハ社製)25質量部に分散させて正極活物質層ペーストを作製した。転写フィルムである厚さ25μmの剥離シート(商品名:テイジンテトロンフィルム,膜厚:25μm,帝人デュポン社製)に前記正極活物質層ペーストを、押出しコーターを用いて膜厚120μmで塗布、乾燥した後、圧延して正極活物質層を作製した。
その後、導電性フィルムの一方の剥離シートを剥がして、接着層面と厚さ20μmのアルミニウム箔とを対面させ、加熱圧着により転写して一体化する。そして、他方の剥離シートを剥がして接着層面と電極活物質シートとを対面させ、加熱圧着により転写して一体化する。これにより、金属集電体層25μm/導電性接着層20μm/電極活物質層100μmの電池用電極を作製した。なお、加熱圧着は、ホットプレスを用いて温度130℃、圧力2MPaで行った。
【0116】
<比較例12>
実施例11〜20及び比較例11と同様の方法にて比較例12の正極活物質層ペーストを作製した。その後、転写フィルムである厚さ20μmのアルミニウム箔(日本製箔社製)に上記正極活物質層ペーストを、押出しコーターを用いて膜厚120μmで塗布、乾燥した後、圧延して比較例12の電池用電極を作製した。
【0117】
<比較例13>
実施例11〜20及び比較例11、12と同様の方法にて比較例13の正極活物質層ペーストを作製した。その後、上記アルミニウム箔の表面にN−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)を厚さ5μmとなるように塗布した後、その塗布面と上記電極活物質層とを対面させ、圧力300kg/cm、転写速度100m/minで転写し、比較例13の電池用電極を作製した。
【0118】
[導電性の評価]
導電性の評価は、厚さ25±5μmの導電性接着層の体積抵抗を測定することによって行った。体積抵抗の測定は、ロレスターMCP−T360(三菱化学社製)を用い、JIS K7194法にしたがって行った。結果を表4及び表5に示す。導電性の体積抵抗は、5Ω・cm以下であるものを“◎”とし、5Ω・cmを超え10Ω・cm以下であるものを“○”とし、10Ω・cmを超えるものを“×”とした。
【0119】
[接着性の評価]
接着性の評価は、電池用電極の剥離強度を測定することによって行った。剥離強度の測定は、RTA−100(オリエンテック社製)を用い、JIS K6854−3法にしたがって行った。結果を表4及び表5に示す。剥離強度は、7.5N/25mm以上であるものを“◎”とし、5.0N/25mm以上7.5N/25mm未満であるものを“○”とし、2.5N/25mm以上5.0N/25mm未満であるものを“△”とし、2.5N/25mm未満であるものを“×”とした。
【0120】
[生産性の評価]
生産性の評価は、MFRと導電性接着組成物層の厚みとを測定することによって行った。結果を表4及び表5に示す。
【0121】
本実施形態に係る導電性接着組成物は、加熱溶融したポリマー(熱可塑性樹脂(A))に、フィラー(カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C))を混合して作製したものである。通常、フィラー含有量が多いと溶融粘度が上昇して混合が困難となる。MFRは、この溶融粘度を評価するためのパラメータであり、MFRが高いということは溶融粘度が低く混合が容易であることを意味する。MFRの測定は、セミオートメルトインデクサ 2A(東洋精機社製)を用い、JIS K7210法にしたがって行った。その際、230℃、10kgを荷重の条件とした。MFRは、10g/10min以上であるものを“◎”とし、5g/10min以上10g/10min未満であるものを“○”とし、0.5g/10min以上5g/10min未満であるものを“△”とし、0.5g/10min未満であるものを“×”とした。
【0122】
また、導電性接着組成物層の厚みは、電池用電極の薄膜化の程度を評価するためのパラメータであり、厚みが30μmを超えると、電池用電極の薄膜化が難しくなることを意味する。一方、厚みが5μm未満であると、電池用電極から電極活物質シートが剥離してしまい、生産性が劣ることを意味する。導電性接着組成物層の厚みの測定は、厚み測定器デジタル外側マイクロメータMCD130−25(新潟精機社製)を用い、JIS B7503法にしたがって行った。厚みは、5μm以上30μm以下のものを“○”とし、5μm未満のもの及び30μmを超えるものをいずれも“×”とした。
【0123】
【表4】

【0124】
【表5】

【0125】
カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)の合計及び質量比が適切に調整された場合における、熱可塑性樹脂(A)のMFRがJIS K7210法、190℃において0.1〜500g/10minであり、下記一般式(I)で表される導電性接着組成物(実施例11〜21)を用いると、いずれも溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示した。
【化8】

(一般式(I)中、R及びRは、水素、炭素数10以下の飽和炭化水素基又はフェニル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。n及びmはいずれも自然数である。Xは、下記一般式(II)で表され、lは自然数である。)
【化9】

(一般式(II)中、Y〜Yは、それぞれ独立に水素又は置換基を表し、同一であっても異なっていてもよい。前記置換基は、脂肪族飽和炭化水素基、又はアシル基を有する飽和脂肪族基を表し、YとYが結合して環状構造を形成していてもよいし、YとYが結合して環状構造を形成していてもよい。前記環状構造は、飽和炭化水素であってもよいし、エステル結合を有していてもよい。)
【0126】
とりわけ、熱可塑性樹脂(A)のMFRがJIS K7210法、190℃において0.5〜60g/10minである場合、接着性の点で特に優れていた(実施例11〜14、16、18〜21)。
【0127】
一方、熱可塑性樹脂(A)としてアイオノマー樹脂を用いると、樹脂のMFRがJIS K7210法、190℃において0.1〜500g/10minであっても、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しいことが確認された(比較例11)。これは、金属イオンによる凝集力が、フィラーに対し、導電性接着組成物層を厚くする方向に作用させるためであると予想される。
【0128】
なお、参考として、一部の実施例では、導電性の評価とともに実測値(単位:Ω・cm)と測定試験体の厚み(単位:μm)とを記載した。また、厚さ25±5μmの条件だけでなく、厚さ100μmのデータも記載した。厚さ25±5μmでの結果と、厚さ100μmでの結果とを対比すると、厚さが薄くなるにつれて、同じ組成であっても体積抵抗値が増大し、導電性が悪くなることが分かる。
【0129】
比較例の検討に戻る。押出しコーターを用いて金属集電体に電極活物質層を塗布、乾燥した後、圧延して電池用電極を作製した場合(比較例12)及びバインダーを溶解可能な液体を介して金属集電体と電極活物質層とを圧着させた場合(比較例13)は、いずれもバインダーの量が不足し、時間の経過とともに電極活物質、カーボンファイバー及びカーボンブラックが金属集電体から剥離し得ることが確認された。
【0130】
[カーボンファイバー(B)の検討]
【表6】

【0131】
<実施例31>
熱可塑性樹脂(A)として、上記ニュクレルN1560を100質量部、カーボンファイバー(B)として、繊維径が13μmであり、平均繊維長が110μmであり、アスペクト比が8.46であり、主原料がアイソフェーズピッチである黒鉛質の等方性炭素繊維(商品名:ドナカーボ・ミルドSG−241,大阪ガスケミカル社製)120質量部を、カーボンブラック(C)として、粒子径が40nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において365cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC300J,ライオン社製)20質量部を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例31の導電性フィルムを得た。
【0132】
<実施例32>
カーボンファイバー(B)として、繊維径が11μmであり、平均繊維長が50μmであり、主原料がメソフェーズピッチであるミルドファイバー(商品名:ダイアリード K223HM,三菱樹脂社製)120質量部を用いたこと以外は、実施例31と同様の方法にて実施例32の導電性フィルムを得た。
【0133】
<実施例33>
カーボンファイバー(B)として、繊維径が8μmであり、平均繊維長が15μmであり、アスペクト比が1.88であり、主原料がメソフェーズピッチである異方性炭素繊維(商品名:ラヒーマXA101,帝人社製)120質量部を用い、カーボンブラック(C)として、上記ケッチェンブラック50質量部を用いたこと以外は、実施例31と同様の方法にて実施例33の導電性フィルムを得た。
【0134】
<実施例34>
カーボンファイバー(B)として、繊維径が10μmであり、平均繊維長が15μmであり、アスペクト比が1.5であり、主原料がメソフェーズピッチである異方性炭素繊維(商品名:ラヒーマXB101,帝人社製)105質量部を用いたこと以外は、実施例31と同様の方法にて実施例34の導電性フィルムを得た。
【0135】
<比較例42>
熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を表6に記載の割合で加えたこと以外は、実施例11と同様の方法にて比較例42の導電性フィルムを得た。
【0136】
実施例31〜34及び比較例42のそれぞれについて、実施例11と同様の方法にて電極活物質シート及び電池用電極を得た。そして、導電性、接着性及び生産性の評価を行うとともに、電池特性の評価を行った。
【0137】
[導電性の評価]
導電性の評価は、体積抵抗の評価のほか、面直抵抗を測定するとともに、異方導電性の評価を行った。
【0138】
体積抵抗の評価は実施例11と同様の方法にて行った。結果を表7Aに示す。
【0139】
面直抵抗の測定は次のとおり行った。天然黒鉛90質量部と、導電剤として、粒子径が34nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において495cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600JD,ライオン社製)6質量部とをポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液(商品名:KFポリマー♯1120,クレハ社製)25質量部に分散させて負極活物質層ペーストを作製した。転写フィルムである剥離シート(商品名:テイジンテトロンフィルム,膜厚:25μm,帝人デュポン社製)に上記負極活物質層ペーストを、押出しコーターを用いて膜厚120μmで塗布、乾燥した後、圧延して負極活物質層を作製した。その後、導電性フィルムの一方の剥離シートを剥がして、接着層面と厚さ20μmの銅箔とを対面させ、加熱圧着により転写して一体化した。そして、他方の剥離シートを剥がして接着層面と電極活物質シートとを対面させ、加熱圧着により転写して一体化する。これにより、金属集電体層20μm/導電性接着層20μm/電極活物質層100μmの電池用電極(負極)を作製した。なお、加熱圧着は、ホットプレスを用いて温度130℃、圧力2MPaで行った。上記電池用電極(負極)を直径2cmの円形に切り取り、直径2cm,厚さ0.1mmの銅円板に挟み込み、図2に示す面積抵抗測装置にセットして1MPaの圧力を印加し、抵抗値を測定した。結果を表7Aに示す。
【0140】
異方導電性指数は体積抵抗の実測値を面直抵抗の実測値で除した値である。結果を表7Aに示す。
【0141】
本明細書において、異方導電性の評価は、異方導電性指数の値に基づいて行っている。異方導電性指数が60以上である場合を“◎”とし、40以上60未満である場合を“○”とし、20以上40未満である場合を“△”とし、20未満である場合を“×”とした。結果を表7Aに示す。
ところで、電極が大型・大容量である場合、電極の一部がデンドライト等により内部短絡すると、瞬時に短絡電流が流れ、過度に発熱し得る。高い異方導電性を有する場合、短絡電流を抑制し、過度な発熱を緩和することが期待される。
【0142】
[接着性及び生産性の評価]
接着性及び生産性の評価は実施例11と同様の方法にて行った。結果を表7Aに示す。
【0143】
[電池特性の評価]
実施例31、34、比較例42の導電性フィルムのほか、導電性接着組成物を用いない電極について、電池特性を評価した。電池特性の評価は次のようにして行った。
【0144】
〔正極の作製〕
実施例11〜20及び比較例11のそれぞれについて作製した手法と同様の手法にて、金属集電体層25μm/導電性接着層20μm/電極活物質層100μmの電池用電極を作製した。その後、電池用電極を直径1.5cmの円形に切り抜き正極とした。理論容量は2.65mAであった。
【0145】
〔負極の作製〕
面直抵抗の測定を行う際に作製した手法と同様の手法にて負極活物質層ペーストを作製した。その後、転写フィルムである厚さ20μmの銅箔に上記負極活物質層ペーストを、押出しコーターを用いて膜厚120μmで塗布、乾燥した後、圧延して電池用電極(負極)を作製し、直径1.6cmの円形に切り抜き負極とした。理論容量は3.02mAであった。
【0146】
〔組み込み〕
真空グローブボックスを用い露点−50℃以下の環境にて、上記負極/セパレーター(製品名:セルガード,セルガート社製)/上記正極の順に、電極活物質層を対面するようにセルに組み込み、電解液(エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート混合物を溶媒とし、6フッ化リン酸リチウムを電解質としたもの)を2mL添加し、密封して電池セルとした。
【0147】
〔測定〕
充放電試験装置HJ−1001SD8(北斗電工社製)に上記セルを接続し、23℃下で測定した。
本明細書では、上記セルを1.0Cレートにて放電したときの理論容量に対する維持率を初期放電容量維持率とした。理論容量に対する容量維持率が80%以上である場合を“◎”とし、60%以上80%未満である場合を“○”とし、40%以上60%未満である場合を“△”とし、40%未満である場合を“×”とした。結果を表7Bに示す。
また、上記セルを5.0Cレートにて放電したときの理論容量に対する維持率を5.0Cレート放電容量維持率とした。理論容量に対する容量維持率が80%以上である場合を“◎”とし、60%以上80%未満である場合を“○”とし、40%以上60%未満である場合を“△”とし、40%未満である場合を“×”とした。結果を表7Bに示す。
【0148】
【表7A】

【0149】
【表7B】

【0150】
MFRが適切に調整され、かつ、上記一般式(I)で表される熱可塑性樹脂(A)を用いた場合、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)の使用量が適正であれば、カーボンファイバー(B)の特性(繊維径、平均繊維長の大小)にかかわらず、いずれも溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示すことが確認された(実施例31〜34)。
【0151】
また、カーボンファイバー(B)が熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10〜240質量部含有し、カーボンブラック(C)が熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して1〜50質量部含有し、カーボンファイバー(B)のカーボンブラック(C)に対する質量比B/Cが0.5〜100であると、異方導電性に優れ(実施例31〜34)、特に、主原料がメソフェーズピッチからなる異方性炭素繊維であると、より好適な結果を示すことが確認された(実施例32〜34)。図1に示すように、電極が大型・大容量である場合、電極の一部がデンドライト等により内部短絡すると、瞬時に短絡電流が流れ、過度に発熱し得るが、高い異方導電性を有する場合、短絡電流を抑制し、過度な発熱を緩和することが期待される。
【0152】
また、実施例の導電性フィルムを使用したものは、導電性接着組成物なし(現行品)と遜色無い初期容量維持率を示した。このことより、実施例の導電性フィルムは電池反応に悪影響を及ぼさず安定して存在していることが確認された。また、実施例の導電性フィルムを使用したものは、導電性接着組成物なし(現行品)に比べ、良好な5.0Cレート放電特性を示した。このことより、実施例の導電性フィルムを使用したものは、5.0Cレートという比較的高速な放電でも電圧上昇を抑制し、より多くのエネルギーを取り出せることが確認された。
【0153】
【表8】

【0154】
<実施例41〜43、比較例41、42>
熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を表8に記載の割合で加えたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例41〜43、比較例41、42の導電性フィルムを得た。
【0155】
実施例41〜43、比較例41、42のそれぞれについて、実施例11と同様の方法にて電極活物質シート及び電池用電極を得た。そして、実施例11と同様の方法にて導電性、接着性及び生産性の評価を行った。結果を表9に示す。
【0156】
【表9】

【0157】
コストが低く、汎用性が高いカーボンファイバー(B)を用いた場合、カーボンファイバー(B)の含有量を、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して20質量部以上140質量部以下にすることで、溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示すことが確認された(実施例31、42、43)。とりわけ、カーボンファイバー(B)の含有量を、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して120質量部以上140質量部以下にすることで、導電性が特に優れることが確認された(実施例31、42)。
【0158】
また、カーボンブラック(C)の含有量を適宜調整することで、カーボンファイバー(B)の含有量を265質量部未満にまで増量できることが確認された(実施例41)。また、カーボンファイバー(B)の含有量が増えるにつれて、接着性及び生産性が下がるため、この点に留意すべきことが確認された。
【0159】
一方、カーボンファイバー(B)の含有量が265質量部以上であると、導電性接着組成物層の厚みが30μmを超え、電池用電極の薄膜化が難しくなることが確認された(比較例41)。また、カーボンファイバー(B)の含有量が20質量部未満であると、導電性が劣り、導電性接着組成物として有効に機能しない可能性があることが確認された(比較例42)。
【0160】
【表10】

【0161】
<実施例51〜54>
熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を表10に記載の割合で加えたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例51〜54の導電性フィルムを得た。
【0162】
実施例51〜54のそれぞれについて、実施例11と同様の方法にて電極活物質シート及び電池用電極を得た。そして、実施例11と同様の方法にて導電性、接着性及び生産性の評価を行った。結果を表11に示す。
【0163】
【表11】

【0164】
等方性炭素繊維「ドナカーボ・ミルドSG−241」と同様に、異方性炭素繊維のミルドファイバー「ダイアリード K223HM」も同様にコストが低く、汎用性が高いカーボンファイバーであるが、「ダイアリード K223HM」の繊維径及び平均繊維長は、「ドナカーボ・ミルドSG−241」のそれよりも少ない。このように、繊維径及び平均繊維長が短いカーボンファイバーであるほど、大量のカーボンファイバー(B)を加えることができ、カーボンファイバー(B)の含有量を、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して20質量部以上190質量部以下にすることで、溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示すことが確認された(実施例32、51〜54)。とりわけ、カーボンファイバー(B)の含有量を、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して120質量部以上190質量部以下にすることで、導電性が特に優れることが確認された(実施例32、51)。
【0165】
【表12】

【0166】
<実施例61、62>
熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を表12に記載の割合で加えたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例61、62の導電性フィルムを得た。
【0167】
実施例61、62のそれぞれについて、実施例11と同様の方法にて電極活物質シート及び電池用電極を得た。そして、実施例11と同様の方法にて導電性、接着性及び生産性の評価を行った。結果を表13に示す。
【0168】
【表13】

【0169】
異方性炭素繊維「ラヒーマXA101」の繊維径及び平均繊維長は、他のカーボンファイバーに比べて短いため、とりわけ多くのカーボンファイバー(B)を加えることができ、カーボンファイバー(B)の含有量を、熱可塑性樹脂(A)の100質量部に対して240質量部以下に増量しても、溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示すことが確認された(実施例62)。また、カーボンブラック(C)の含有量を適宜調整することで、カーボンファイバー(B)の含有量を280質量部以下にまで増量できることが確認された(実施例61)。
【0170】
[カーボンブラック(C)の検討]
【表14】

(粒子径の単位はnm、DBP吸収量の単位はcm/100g)
【0171】
<実施例71>
熱可塑性樹脂(A)として、上記ニュクレルN1560を100質量部、カーボンファイバー(B)として、上記ドナカーボ・ミルドSG−241を120質量部、カーボンブラック(C)として、粒子径が34nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において495cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC600J,ライオン社製)を12質量部用いたこと以外は、実施例11と同様の方法にて実施例71の導電性フィルムを得た。
【0172】
<実施例72>
カーボンブラック(C)として、粒子径が40nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において365cm/100gであるケッチェンブラック(商品名:ケッチェンブラックEC300J,ライオン社製)20質量部を用いたこと以外は、実施例71と同様の方法にて実施例72の導電性フィルムを得た。
【0173】
<実施例73>
カーボンブラック(C)として、粒子径が43nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において212cm/100gであるアセチレンブラック(商品名:デンカブラックHS−100、電気化学工業社製)60質量部を用いたこと以外は、実施例71と同様の方法にて実施例73の導電性フィルムを得た。
【0174】
<実施例74>
カーボンブラック(C)として、粒子径が40nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において168cm/100gであるオイルファーネスブラック(商品名:トーカブラック♯4500、東海カーボン社製)61質量部を用いたこと以外は、実施例71と同様の方法にて実施例74の導電性フィルムを得た。
【0175】
<実施例75>
カーボンブラック(C)として、粒子径が25nmであり、DBP吸収量がJIS K6217−4法において155cm/100gであるオイルファーネスブラック(商品名:トーカブラック♯5500、東海カーボン社製)70質量部を用いたこと以外は、実施例71と同様の方法にて実施例75の導電性フィルムを得た。
【0176】
実施例71〜75のそれぞれについて、実施例11と同様の方法にて電極活物質シート及び電池用電極を得た。そして、実施例11と同様の方法にて導電性、接着性及び生産性の評価を行った。結果を表15に示す。
【0177】
【表15】

【0178】
MFRが適切に調整され、かつ、上記一般式(I)で表される熱可塑性樹脂(A)を用いた場合、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)の使用量が適正であれば、いずれも溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形でき、かつ、良好な導電性、接着性及び生産性を示すことが確認された(実施例71〜75)。
【符号の説明】
【0179】
1 電極
2 面直抵抗測定装置
21,22 電流測定端子
23,24 電圧測定端子
25 第1の安定化電源装置
26 第2の安定化電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、カーボンファイバー(B)及びカーボンブラック(C)を含有する導電性接着組成物であって、
前記熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレートは、JIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.1〜500g/10minであり、
前記熱可塑性樹脂(A)は、下記一般式(I)で表される導電性接着組成物。
【化1】

(一般式(I)中、R及びRは、水素、炭素数10以下の飽和炭化水素基又はフェニル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。n及びmはいずれも自然数である。Xは、下記一般式(II)で表され、lは自然数である。一般式(II)中、Y〜Yは、それぞれ独立に水素又は置換基を表し、同一であっても異なっていてもよい。前記置換基は、脂肪族飽和炭化水素基、又はアシル基を有する飽和脂肪族基を表し、YとYが結合して環状構造を形成していてもよいし、YとYが結合して環状構造を形成していてもよい。前記環状構造は、飽和炭化水素であってもよいし、エステル結合を有していてもよい。)
【化2】

【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)のメルトフローレートは、JIS K7210法(試験温度:190℃、荷重:2.16kg)において0.5〜60g/10minである、請求項1に記載の導電性接着組成物。
【請求項3】
前記一般式(II)中、
は、H、COOH又はYと結合した環状構造を表し、
は、H、CH、COOH又はYと結合したエステル結合を有する環状構造を表し、
は、H、CH、CHCOOH又はYと結合した環状構造を表し、
は、COOH、無水マレイン酸基及びその誘導体又はYと結合したエステル結合を有する環状構造を表す、請求項1又は2に記載の導電性接着組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)は、側鎖にカルボキシル基又は無水マレイン酸基を有するポリオレフィンである、請求項1から3のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(A)は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1から4のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項6】
前記カーボンファイバー(B)は、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して300質量部以下である、請求項1から5のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項7】
前記カーボンファイバー(B)は前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10〜240質量部含有し、
前記カーボンブラック(C)は前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して1〜50質量部含有し、
前記カーボンファイバー(B)の前記カーボンブラック(C)に対する質量比B/Cは、0.5〜100である、請求項1から5のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項8】
前記カーボンファイバー(B)の主原料はメソフェーズピッチからなる異方性炭素繊維であり、
前記カーボンファイバー(B)の繊維径は7〜15μmであり、
前記カーボンファイバー(B)のアスペクト比が1.5〜12.5である、請求項1から7のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項9】
前記カーボンブラック(C)の成分は、ファーネスブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラックである、請求項1から8のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項10】
前記カーボンブラック(C)のDBP吸収量は、JIS K6217−4法において140〜495cm/100gである、請求項1から9のいずれかに記載の導電性接着組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる厚さ5μm以上30μm以下の導電性フィルム。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質が積層されている電池用電極。
【請求項13】
前記導電性接着層は厚さ5μm以上30μm以下の導電性フィルムである、請求項12に記載の電池用電極。
【請求項14】
請求項1から10のいずれかに記載の導電性接着組成物からなる導電性接着層を介して金属集電体及び電極活物質が積層されているリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウムイオン電池用電極を正極又は負極の少なくとも一方に備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
請求項1から10のいずれかに記載の導電性接着組成物を溶融押出し法で厚さ5μm以上30μm以下に成形する導電性フィルムの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法によって製造された導電性フィルムを介して金属集電体及び電極活物質を積層した後、加熱加圧により一体化する電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−84587(P2013−84587A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−208789(P2012−208789)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(000108111)セメダイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】