説明

導電性放熱フィルム及びその製造方法

【課題】耐熱性に優れ、かつ少量の無機フィラーであっても高い導電性及び熱伝導性を有する導電性放熱フィルム及びその製造方法の提供。
【解決手段】有機粒子、無機フィラー及び硬化樹脂を含み、かつ前記無機フィラーが導電性及び熱伝導性を有する導電性放熱フィルム。硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能な溶媒と、この溶媒に対して不溶性である有機粒子と、無機フィラーと、硬化樹脂の前駆体とを含む組成物の膜を形成した後、硬化樹脂の前駆体を硬化する上記導電性放熱フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性及び熱伝導性を有し、電気・電子機器などに利用される導電性放熱フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは可撓性に富むため、電気・電子機器の部品などに広く利用されているが、汎用のプラスチックは、絶縁性であり、熱伝導性も低い。そのため、導電性や熱伝導性が要求される用途では、無機フィラーと組み合わせて複合材料とすることにより導電性や熱伝導性を付与するのが一般的である。しかし、このような複合材料では、導電性や熱伝導性を向上させるために、無機フィラーの割合を増加させると、プラスチックの機械的特性や成形性が低下する。そこで、両特性を両立するための複合材料として、各種の複合材料が提案されている。
【0003】
例えば、特開平3−200397号公報(特許文献1)には、マトリックス樹脂中に、板状熱伝導性フィラーと粒状熱伝導性フィラーの2種類の熱伝導性フィラーが分布した放熱シートであって、板状熱伝導性フィラーが、それ自体の板面を放熱シートの長手方向に沿わせた状態でかつ厚み方向に多段状に分布し、前記粒状熱伝導性フィラーが、多段状に分布した前記板状熱伝導性フィラーの層間を中心に分配している放熱シートが開示されている。この文献には、板状熱伝導性フィラーとして窒化ホウ素が記載され、粒状熱伝導性フィラーとして窒化アルミニウムが記載されている。
【0004】
また、Polymer Preprints, Japan. Vol.58, No.2 (2009)(非特許文献1)には、高熱伝導性ナノフィラーフェノール樹脂とのハニカム状コンポジットが開示されている。この文献には、アルコキシシランで表面修飾した窒化ホウ素粒子とフェノール樹脂粒子とをエポキシ基の開環触媒の存在下、水系で混合後、真空加熱下で水分を蒸発させる方法が記載されている。
【0005】
しかし、これらの放熱シートでは、無機フィラーとして窒化ホウ素を用いるため、導電性が低い。また、特許文献1の放熱シートでも、無機フィラーの割合が多いため、マトリックス樹脂の機械的特性や成形性が十分でない。さらに、特許文献2のハニカム状コンポジットでは、成形加工性が低い上に、目的の硬化物を得るまでに多くの工程を要し、生産性が低い。
【0006】
一方、導電性及び熱伝導性を有する無機フィラーとしてカーボンを利用した例として、特開2005−54094号公報(特許文献2)には、カーボンを2種以上の樹脂混合物中に分散させた熱伝導性樹脂材料が開示されている。この文献では、カーボン繊維を一方の樹脂に選択的に分散させることにより一方の樹脂相に偏在させ、少量のフィラーで高い導電性を発現させている。さらに、樹脂の組み合わせとしては、熱可塑性樹脂同士の組み合わせが記載されている。
【0007】
しかし、この熱伝導性樹脂材料では、熱可塑性樹脂同士を組み合わせているため、用途によっては溶融によりカーボンの分散形態が崩れ、熱及び電気の導通路(パス又はチャンネル)が分断されることにより熱伝導性及び導電性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−200397号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−54094号公報(特許請求の範囲、段落[0010]、実施例)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Polymer Preprints, Japan. Vol.58, No.2 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、耐熱性に優れ、かつ少量の無機フィラーであっても高い導電性及び熱伝導性を有する導電性放熱フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、機械的特性に優れ、成形性及び生産性も高い導電性放熱フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、電気・電子機器の部品として長期間に亘り使用しても、導電性及び熱伝導性の低下を抑制できる導電性放熱フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、有機粒子と導電性及び熱伝導性を有する無機フィラーと硬化樹脂とを組み合わせることにより、導電性放熱フィルムの耐熱性を向上できるとともに、少量の無機フィラーであっても導電性及び熱伝導性も向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の導電性放熱フィルムは、有機粒子、無機フィラー及び硬化樹脂を含み、かつ前記無機フィラーが導電性及び熱伝導性を有している。前記無機フィラーは粒状であり、かつ有機粒子と無機フィラーとの平均粒径の比率が、有機粒子/無機フィラー=1000/1〜10/1程度であってもよい。前記有機粒子の平均粒径は1〜50μm程度であってもよい。本発明の導電性放熱フィルムは、無機フィラーが互いに接触して有機粒子間に局在化した状態で、硬化樹脂により固定化されていてもよい。前記有機粒子はポリアミド系粒子及び/又は架橋熱可塑性樹脂粒子であってもよい。前記無機フィラーは導電性カーボンブラックであってもよい。前記硬化樹脂は熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)及び硬化剤の硬化物であってもよい。本発明の導電性放熱フィルムにおいて、前記硬化樹脂と前記有機粒子との割合(重量比)は、2/1〜1/2程度であってもよい。また、前記無機フィラーの割合は、硬化樹脂100重量部に対して10〜100重量部程度であってもよい。さらに、前記無機フィラーの割合は、フィルム全体に対して5〜30重量%であり、かつ体積抵抗率が10Ω・cm以下であってもよい。本発明の導電性放熱フィルムは、さらに可塑剤を含んでいてもよい。
【0015】
本発明には、硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能な溶媒と、この溶媒に対して不溶性である有機粒子と、無機フィラーと、硬化樹脂の前駆体とを含む組成物の膜を形成した後、硬化樹脂の前駆体を硬化する前記導電性放熱フィルムの製造方法も含まれる。
なお、本明細書では、フィルムはシートと同義で用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、有機粒子と、導電性及び熱伝導性を有する無機フィラーと、硬化樹脂とを組み合わせることにより、導電性放熱フィルムの耐熱性を向上できるとともに、少量の無機フィラーであっても導電性及び熱伝導性も向上できる。また、少量の無機フィラーで高い導電性及び熱伝導性を実現できるため、樹脂成分の機械的特性を保持でき、成形性及び生産性も向上できる。このような導電性放熱フィルムを電気・電子機器の部品として長期間に亘り使用しても、導電性及び熱伝導性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の導電性放熱フィルムの概略断面図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例で得られたフィルムの導電性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[導電性放熱フィルム]
本発明の導電性放熱フィルムは、有機粒子、無機フィラー及び硬化樹脂を含む。本発明の導電性放熱フィルムにおいて、前記無機フィラーは、導電性及び熱伝導性を有しており、フィルム中で有機粒子間に局在化して導通路又は経路(チャンネル又はパス)を形成している。図1は、本発明の導電性放熱フィルムの概略断面図である。図1に示すように、本発明の導電性放熱フィルム1は、フィルム中に略均一に分散している有機粒子2間において、無機フィラー3が互いに接触して密に局在化して、硬化樹脂4によって固定化されている。すなわち、無機フィラー2は、フィルム中において、有機粒子3間でネットワーク構造を形成することにより、少量の無機フィラーであっても、導電性及び熱伝導性も向上できる。さらに、無機フィラー2で形成されたチャンネルは、硬化樹脂4の硬化に伴って固定されているため、高温でもネットワーク構造が保持され、導電性及び熱伝導性の低下が抑制される。なお、図1においては、各成分の関係を明瞭にするため、隣接する無機フィラー3同士は必ずしも接触していないが、導電性及び熱伝導性の点からは、隣接する無機フィラー同士は接触するのが好ましい。
【0019】
(有機粒子)
有機粒子は、フィルム中で略均一に分散することにより、無機フィラーを局在化させるために配合され、導電性放熱フィルムに要求される機械的特性(耐熱性、剛性、弾性など)などに応じて、樹脂粒子及びゴム粒子から適宜選択できる。本発明では、有機粒子を用いることにより、フィルムの柔軟性を向上できるとともに、硬化樹脂との接着性を高めて機械的特性も向上できる。
【0020】
樹脂粒子には、熱可塑性樹脂粒子、架橋熱可塑性樹脂粒子及び熱硬化性樹脂粒子が含まれる。熱可塑性樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、脂肪酸ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマー(ポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなど)、セルロース誘導体などが挙げられる。架橋熱可塑性樹脂粒子は、前記熱可塑性樹脂の架橋体などであってもよく、熱可塑性樹脂の種類に応じて、慣用の架橋剤を用いて得られた架橋体や、電子線などの活性エネルギー線を用いて得られた架橋体などであってもよい。熱硬化性樹脂粒子を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0021】
ゴム粒子を構成するゴムとしては、例えば、ジエン系ゴム(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンゴムなど)、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム状共重合体、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0022】
これらの有機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機粒子のうち、硬化樹脂との接着性に優れる点から、アミド結合やエステル結合などの極性を示す結合又は基を有する有機粒子や、硬化樹脂と類似の骨格を有する有機粒子(例えば、硬化樹脂がエポキシ樹脂の場合、芳香族骨格を有する有機粒子など)などが好ましい。また、製造上の観点から、硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能な溶媒(前駆体の調製に用いる溶媒)に対して不溶な耐溶剤性を有する有機粒子が好ましい。
【0023】
さらに、硬化樹脂が熱硬化性樹脂である場合、硬化温度において粒子形状を保持可能な耐熱性を有する有機粒子が好ましい。有機粒子が熱可塑性樹脂粒子である場合は、熱可塑性樹脂粒子の融点は、例えば、80〜300℃、好ましくは100〜280℃、さらに好ましくは120〜250℃(特に150〜220℃)程度であってもよい。
【0024】
これらの特性を有する有機粒子としては、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂などの熱可塑性樹脂、架橋(メタ)アクリル系樹脂や架橋ポリスチレン系樹脂などの架橋熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で構成された粒子が好ましく、ポリアミド系粒子、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル系粒子が特に好ましい。
【0025】
ポリアミド系粒子を構成するポリアミドとしては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミド、ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸など)とジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミドなどが挙げられる。これらのポリアミドは、ホモポリアミドに限らずコポリアミドであってもよい。
【0026】
架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル系粒子を構成するポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキル、特にメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%程度)とするメタクリル酸メチル系樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、慣用の架橋剤を利用でき、例えば、2以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)C2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなど)などが利用できる。架橋剤の割合は、全単量体のうち0.1〜10モル%(特に1〜10モル%)程度であってもよい。
【0027】
これらの有機粒子のうち、硬化樹脂がエポキシ樹脂である場合、C8−16アルキレン鎖を有する脂肪族ポリアミド(特に、ポリアミド11やポリアミド12などのC10−14アルキレン鎖を有する脂肪族ポリアミド)などのポリアミド系粒子、架橋ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルや架橋ポリスチレンなどの架橋熱可塑性樹脂粒子などが汎用される。
【0028】
有機粒子の形状としては、例えば、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状又は鱗片状、棒状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、フィルム内に均一でかつ導通性の高いチャンネルを形成し易い点から、略球状などの等方形状が好ましい。
【0029】
有機粒子の平均粒径は、無機フィラーの粒径やフィルムの厚みなどに応じて、0.1〜100μm程度の範囲から選択でき、例えば、1〜50μm、好ましくは2〜30μm、さらに好ましくは3〜20μm(特に4〜10μm)程度である。
【0030】
後述する硬化樹脂と前記有機粒子との割合(重量比)は、硬化樹脂/有機粒子=10/1〜1/10程度の範囲から選択でき、例えば、2/1〜1/2、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2程度であってもよい。
【0031】
(無機フィラー)
無機フィラーとしては、導電性及び熱伝導性を有していればよく、例えば、炭素材(例えば、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、コークス、導電性カーボンブラックなど)、金属単体又は合金(例えば、鉄、銅、マグネシウム、アルミニウム、金、白金、亜鉛、マンガン、ステンレスなど)、セラミックス類(例えば、フェライト、トルマリン、珪藻土など)などが挙げられる。これらの無機フィラーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
無機フィラーの形状は、例えば、粒子状(粉末状)、板状(又は鱗片状)、繊維状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、前記有機粒子の間隙に密に分散して導通性を向上できる点から、略球状や多角体状などの粒子状が好ましい。
【0033】
無機フィラーの平均粒径は、有機粒子の粒径に応じて10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択できるが、前記有機粒子の間隙に密に分散できるとともに、フィルムの機械的特性の低下も抑制できる点から、例えば、10〜500nm、好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは30〜100nm(特に40〜80nm)程度である。
【0034】
無機フィラーが有機粒子間で密に分散し、互いに接触してチャンネルを形成するために、有機粒子と無機フィラーとの平均粒径の比率は、例えば、有機粒子/無機フィラー=1000/1〜10/1程度であってもよく、好ましくは500/1〜30/1、さらに好ましくは300/1〜50/1(特に200/1〜80/1)程度である。
【0035】
本発明では、このような平均粒径を有し、かつ導電性に優れる粒子状無機フィラーとして、導電性カーボンブラックを好ましく使用できる。
【0036】
導電性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、アークブラック、ケッチェンブラックなどが例示できる。これらの導電性カーボンブラックのうち、導電性などの点から、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが好ましい。さらに、これらの導電性カーボンブラックを組合せた導電性複合カーボンブラックでもよい。
【0037】
導電性カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量(A法)は、用途に応じて、10〜1000cm/100g(例えば、30〜500cm/100g)程度の範囲から選択でき、窒素吸着BET比表面積もは5〜1000m/g(例えば、10〜300m/g)程度の範囲から選択できる。
【0038】
無機フィラーの割合は、硬化樹脂100重量部に対して1〜200重量部程度の範囲から選択でき、例えば、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部(特に50〜60重量部)程度であってもよい。
【0039】
無機フィラーの割合は、有機粒子100重量部に対して1〜200重量部程度の範囲から選択でき、例えば、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部(特に50〜60重量部)程度であってもよい。
【0040】
さらに、前記無機フィラーの割合は、フィルム全体に対して1〜100重量%程度の範囲から選択でき、例えば、2〜80重量%、好ましくは3〜50重量%、さらに好ましくは5〜30重量%(特に10〜25重量%)程度である。
【0041】
本発明では、このように無機フィラーの割合を低減でき、例えば、有機粒子を含まない導電性放熱フィルムに比べて、無機フィラーの割合を30重量%以上低減できる。
【0042】
(硬化樹脂)
硬化樹脂は、例えば、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより硬化した樹脂であり、通常、硬化性樹脂及び硬化剤の硬化物である。硬化樹脂は、前記有機粒子の隙間に無機フィラーが密に分散して形成されたネットワーク構造において、有機粒子と無機フィラーとを硬化接着することにより、前記ネットワーク構造を固定化する。
【0043】
硬化樹脂の前駆体は、熱や活性エネルギー線などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が硬化樹脂の前駆体として使用できる。硬化樹脂の前駆体は、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂であってもよいが、生産性や接着性などの点から、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0044】
熱硬化性樹脂としては、例えば、熱硬化性アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、接着力に優れる点から、熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が好ましく、有機粒子及び無機フィラーのいずれに対しても高い接着力を示す点から、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0045】
エポキシ樹脂としては、慣用のエポキシ樹脂、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族エポキシ樹脂などが例示できる。これらのうち、接着性や寸法安定性などに優れる点から、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が汎用される。
【0046】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂[例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂など]、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、脂肪族型エポキシ樹脂(例えば、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールモノ乃至ジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラグリシジルエーテルなど)、単環式エポキシ樹脂(例えば、レゾルシングリシジルエーテルなど)、複素環式エポキシ樹脂(例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンなどが挙げられる。
【0047】
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤[例えば、脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)、脂環族ポリアミン(イソホロンジアミンなど)、芳香族ポリアミン(キシレンジアミンなど)など]、ポリアミノアミド系硬化剤(例えば、ポリエチレンポリアミンと脂肪酸との縮物など)、酸及び酸無水物系硬化剤[例えば、脂肪族カルボン酸無水物(ドデセニル無水コハク酸など)、脂環族カルボン酸無水物(メチルテトラヒドロ無水フタル酸など)、芳香族カルボン酸無水物(無水フタル酸など)など]などが例示できる。これらの硬化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの硬化剤のうち、前記アミン系硬化剤又はその変性物(エポキシ付加物、アクリロニトリル付加物、エチレンオキシド付加物、マンニッヒ反応物、ミカエル反応物、チオ尿素反応物など)などのアミン系硬化剤(特に脂肪族アミン系硬化剤の変性物)が好ましい。
【0048】
硬化剤の割合は、硬化性樹脂の種類に応じて、硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)100重量部に対して1〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、10〜90重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部(特に40〜60重量部)程度である。
【0049】
(可塑剤)
本発明の導電性放熱フィルムは、有機粒子と硬化樹脂との親和性やフィルムの柔軟性を向上させるために、可塑剤を含んでいてもよい。
【0050】
可塑剤としては、有機粒子及び硬化樹脂の種類に応じて選択できるが、例えば、フタル酸エステル(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、リン酸エステル(リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチルなど)、脂肪族多価カルボン酸エステル(アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチルなど)、エポキシ系化合物(アルキルエポキシステアレート、エポキシ化大豆油など)、ポリオール類(ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの可塑剤のうち、硬化樹脂がエポキシ樹脂の場合、ポリエチレングリコールなどのポリオール類、特に、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、例えば、100〜6000、好ましくは200〜3000、さらに好ましくは300〜1000(特に500〜800)程度である。
【0051】
本発明の導電性放熱フィルムの体積抵抗率は10Ω・cm以下であってもよく、例えば、10Ω・cm以下、好ましくは10Ω・cm以下、さらに好ましくは10Ω・cm以下(特に10Ω・cm以下)であってもよい。本発明では、フィルム全体に対して無機フィラーの含有量が5〜30重量%程度でも前記体積抵抗率を示し、特に、無機フィラーが15〜25重量%では、1〜10Ω・cm(特に10〜10Ω・cm)程度の体積抵抗率を示す。このように、本発明では、少量の無機フィラーであっても体積抵抗率を低減でき、例えば、有機粒子を含まず、かつ同量の無機フィラーを含む導電性放熱フィルムに比べて、2桁のオーダーで体積抵抗率を低減できる。
【0052】
導電性放熱フィルムは、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、潤滑剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0053】
導電性放熱フィルムの厚みは、用途に応じて選択でき、例えば、1〜1000μm程度の範囲から選択でき、例えば、5〜300μm、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは30〜100μm(特に50〜80μm)程度である。
【0054】
[導電性放熱フィルムの製造方法]
本発明の導電性放熱フィルムは、硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能な溶媒と、この溶媒に対して不溶性である有機粒子と、無機フィラーと、硬化樹脂の前駆体とを含む組成物の膜を形成した後、硬化樹脂の前駆体を硬化することにより得られる。
【0055】
前記溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)など)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。
【0056】
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、これらの溶媒のうち、有機粒子の粒子形状を保持するとともに、硬化樹脂の前駆体を有機粒子及び無機フィラーに対して均一に密着させるために、硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能であり、かつ有機粒子を不溶である溶媒が用いられる。本発明では、このような溶媒を用いることにより、フィルム化工程において有機粒子が粒子形状を保持するため、硬化樹脂の前駆体及び無機フィラーを含む液状組成物が、有機粒子間に均一に分布され、無機フィラーが密に分散したネットワーク構造を形成できる。
【0057】
硬化樹脂の前駆体に用いる溶媒は、硬化樹脂及び有機粒子の種類に応じて適宜選択でき、例えば、硬化樹脂がエポキシ樹脂であり、かつ有機粒子がポリアミド粒子である場合、ケトン類(特に、メチルエチルケトンなどのジアルキルケトン)と芳香族炭化水素類(特に、トルエンなどの芳香族炭化水素)との混合溶媒を用いてもよい。ケトン類と芳香族炭化水素類との割合は、ケトン類/芳香族炭化水素類=10/1〜1/10、好ましくは5/1〜1/5、さらに好ましくは2/1〜1/2(特に1.5/1〜1/1.5)程度であってもよい。
【0058】
前記組成物は、例えば、固形分が10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、さらに好ましくは25〜45重量%程度になるように、各成分を慣用の混合機(ミキサー)を用いて混合して調製してもよい。
【0059】
膜の形成方法は、バーコーターやナイフコーターなどの慣用の方法を利用して、基材(例えば、離型紙など)の上に塗布する方法を利用できる。
【0060】
硬化方法は、硬化樹脂の種類に応じて選択で、慣用の方法を利用でき、熱硬化性樹脂の場合は、樹脂の種類に応じて加熱処理してもよく、光硬化性樹脂の場合は、活性エネルギーを照射して硬化処理してもよい。熱硬化性樹脂では、例えば、硬化温度は、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは70〜100℃程度であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で得られた導電性放熱フィルムの導電性は、以下の方法で測定した。
【0062】
(導電性)
JIS K7194に従い、抵抗率測定装置(三菱化学(株)製「Loresta−GP」)を用いて表面抵抗率を測定し、体積抵抗率を求めた。
【0063】
実施例1
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、三菱化学(株)製「jER828」)7重量部、硬化剤(変性脂肪族ポリアミン、三菱化学(株)製「jER キュア ST12」)4重量部、ポリアミド12粒子(平均粒径5μm、融点180℃)11重量部、可塑剤PEG600(和光純薬工業(株)製)2重量部、導電性カーボンブラック(粒経55nm、東海カーボン(株)製「#4300」)6重量部、溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=50/50(重量比))70重量部を、自公転式混合脱泡機(THINKY(株)製「ARE−250」)を使用して混合し、組成物を作製した。得られた組成物を、バーコーター(#90)を使用して離型紙上に塗工し、温度60℃で30分間乾燥した。その後、温度80℃で3時間硬化処理した後、離型紙から剥離して厚み60μmの硬化フィルムを得た。
【0064】
実施例2
カーボンブラックの添加量を5重量部、溶媒の添加量を60重量部にしたこと以外は、実施例1と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0065】
実施例3
カーボンブラックの添加量を2.5重量部、溶媒の添加量を40重量部にしたこと以外は、実施例1と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0066】
実施例4
ポリアミド12粒子を、架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(積水化成品工業(株)製「テクポリマーMBX−20」、平均粒経20μm)にしたこと以外は、実施例1と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0067】
比較例1
ポリアミド12粒子を添加しない以外は実施例1と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0068】
比較例2
ポリアミド12粒子を添加しない以外は実施例2と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0069】
比較例3
ポリアミド12粒子を添加しない以外は実施例3と同じ方法で組成物から硬化フィルムを得た。
【0070】
実施例及び比較例で得られた硬化フィルムの導電性の測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
さらに、表1に示された表面抵抗率と、硬化フィルム中の導電性カーボンブラック濃度とをプロットしたグラフを図2に示す。図2の結果から明らかなように、有機粒子の添加によるフィラー局在化の効果によって、同量の導電性カーボンブラック添加量では体積抵抗率が2桁のオーダーで低下するとともに、約30%少ない導電性カーボンブラックの添加量で同じ体積抵抗率を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の導電性放熱フィルムは、導電性と熱伝導性とを要求される各種用途に利用でき、例えば、画像表示装置、コンピュータ、電池などの電気・電子部品(放熱板、熱電変換素子、光電変換素子、電磁波吸収放熱材、基盤、セパレータなど)に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1…導電性放熱フィルム
2…有機粒子
3…無機フィラー
4…硬化樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機粒子、無機フィラー及び硬化樹脂を含み、かつ前記無機フィラーが導電性及び熱伝導性を有する導電性放熱フィルム。
【請求項2】
無機フィラーが粒状であり、かつ有機粒子と無機フィラーとの平均粒径の比率が、有機粒子/無機フィラー=1000/1〜10/1である請求項1記載の導電性放熱フィルム。
【請求項3】
有機粒子の平均粒径が1〜50μmである請求項1又は2記載の導電性放熱フィルム。
【請求項4】
無機フィラーが互いに接触して有機粒子間に局在化した状態で、硬化樹脂により固定化されている請求項1〜3のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項5】
有機粒子がポリアミド系粒子及び/又は架橋熱可塑性樹脂粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項6】
無機フィラーが導電性カーボンブラックである請求項1〜5のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項7】
硬化樹脂が熱硬化性樹脂及び硬化剤の硬化物である請求項1〜6のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項8】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項7記載の導電性放熱フィルム。
【請求項9】
硬化樹脂と有機粒子との割合(重量比)が、2/1〜1/2である請求項1〜8のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項10】
無機フィラーの割合が、硬化樹脂100重量部に対して10〜100重量部である請求項1〜9のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項11】
無機フィラーの割合が、フィルム全体に対して5〜30重量%であり、かつ体積抵抗率が10Ω・cm以下である請求項1〜10のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項12】
さらに可塑剤を含む請求項1〜11のいずれかに記載の導電性放熱フィルム。
【請求項13】
硬化樹脂の前駆体を溶解又は分散可能な溶媒と、この溶媒に対して不溶性である有機粒子と、無機フィラーと、硬化樹脂の前駆体とを含む組成物の膜を形成した後、硬化樹脂の前駆体を硬化する請求項1記載の導電性放熱フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136575(P2012−136575A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288269(P2010−288269)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】