説明

導電性材料及び中間転写体及び画像形成装置

【課題】画素単位で通電可能な導電性材料及びこれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】導電性インクIを吐出するノズル21aを有する記録ヘッド21と、ノズル21aとの間に導電性インクIからなる液柱を一時的に形成することによりインク画像を形成することが可能な表面に弾性層12を有する導電性材料11を含む中間転写体10と、弾性層12と導電性インクIとの間に対して液柱に含まれる水分を電気分解可能な電圧を印加する電圧印加手段30と、転写手段40とを有する画像形成装置100に用いられる導電性材料11であって、弾性層12の表面に対して50μm以上300μm以下の電極を用い、10V以下の電圧を印加して抵抗率を間隔2mm以下の複数点で計測する測定装置によって計測された抵抗率が50Ωcm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の中間転写体に用いられる導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピエゾ方式に代表される可動アクチュエータ方式、サーマル方式に代表される加熱膜沸騰方式等によりノズルからインクを吐出する記録ヘッドを備えたインクジェット記録方式の画像形成装置が知られている。このような画像形成装置は、記録ヘッドから記録紙にインクを直接吐出する構成において、記録ヘッドと記録紙が近接するため紙粉や塵埃等がノズルに付着し易い。その結果、ノズルから吐出される液滴の飛翔方向が乱れたりノズルが閉塞したりして、画像品質や信頼性が低下する。また、ノズルからの吐出性を優先して粘度が小さいインクを使用することが一般的であるが、記録紙に着弾する際にインクの滲みが発生し易い。
【0003】
このため、画像形成装置において顔料が水を含む溶媒中に分散されている導電性インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドと、ノズルとの間に導電性インクからなる液柱を一時的に形成することによりインク画像を形成することが可能なカーボンナノチューブを含む弾性層が表面に形成されている中間転写体と、弾性層と導電性インクとの間に液柱に含まれる水が電気分解することが可能な電圧を印加する電圧印加手段と、中間転写体に形成されたインク画像を記録媒体に転写する転写手段を有する装置において、用いられているカーボンナノチューブを含む弾性層の抵抗率が均一であることが必要不可欠となる。
【0004】
そこで、電極が13.2mmと画素に対して大きな電極を用いてその抵抗率を計測し、ばらつきの範囲を規定することにより画像形成装置に用いられる材料における抵抗率のばらつきを制御する技術が、例えば「特許文献1」に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の画像形成システムではインク像を形成する液柱の領域が100μm未満であるため、従来の測定方法において選択した材料では抵抗率が均一なものが選ばれておらず、機能が不十分であるという問題がある。また「特許文献1」では最大抵抗率と最小抵抗率との対数(Log抵抗最大/抵抗最小)が0.4未満であることを規定しているが、導電性インクの抵抗よりも低い抵抗領域で変化がある場合には「特許文献1」に記載された方法では規定することができず、例えば弾性材料の抵抗率が最大3Ωcm、最小0.3Ωcmであった場合、Log(抵抗最大/抵抗最小)は1となるが、インクの抵抗が(1S/m)100Ωcmを使用した場合、インクへの通電は十分に行われることとなる。
本発明は上述の問題点を解決し、画素単位で通電可能な導電性材料及びこれを用いた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、導電性インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドと、前記ノズルとの間に前記導電性インクからなる液柱を一時的に形成することによりインク画像を形成することが可能な表面に弾性層を有する導電性材料を含む中間転写体と、前記弾性層と前記導電性インクとの間に対して前記液柱に含まれる水分を電気分解可能な電圧を印加する電圧印加手段と、前記中間転写体に形成されたインク画像を記録媒体に転写する転写手段とを有する画像形成装置に用いられる導電性材料であって、前記弾性層の表面に対して50μm以上300μm以下の電極を用い、10V以下の電圧を印加して抵抗率を間隔2mm以下の複数点で計測する測定装置によって計測された抵抗率が50Ωcm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分散剤により分散されている顔料が凝集しているため、記録紙が普通紙の場合でもフェザリングやブリーディングを抑制しながら高画像濃度で高画質のインク画像を高速で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態を採用した画像形成装置の概略正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられる記録ヘッドと中間転写ドラムとの部分拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に用いられるアニオン性分散剤により分散された顔料がプロトンを介して凝集した状態を示す概略図である。
【図4】本発明の一実施形態においてインク画像が形成されるメカニズムを説明する概略図である。
【図5】本発明の一実施形態においてカソード及びアノードの間に形成される液柱を説明する概略図である。
【図6】本発明の一実施形態の一実施例において中間転写ドラムに形成される網点画像を説明する概略図である。
【図7】本発明の一実施形態の一実施例における判定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に用いられる画像形成装置の一例を示している。同図において、画像形成装置100はインクジェットプリンタであり、外部から受信した画像情報に対応する画像信号に基づいて記録紙Sの片面にフルカラー画像を形成する。なお、本形態では記録紙Sの片面に画像を形成するものを示したが、記録紙Sの両面に画像を形成するものを用いてもよい。記録紙Sとしてはシート状のものであれば何でもよく、一般にコピーに用いられる普通紙、カード、ハガキ等の厚紙、封筒等の他、OHPシート等の紙以外のものであってもよい。
【0010】
画像形成装置100は、中間転写体である中間転写ドラム10の周囲に、導電性インクを吐出して中間転写ドラム10にインク画像を形成する吐出装置20、電圧印加手段である電源30、中間転写ドラム10に形成されたインク画像を記録紙Sに転写する転写手段としての転写ローラ40、インク画像が転写された中間転写ドラム10をクリーニングするクリーニングブレード50、記録紙Sを搬送する搬送ユニット60、及びCPU、メモリ等を有する図示しない制御部を有している。
【0011】
中間転写ドラム10は、図2に示すように導電性材料からなる導電性基体11上に弾性層12を有しており、モータ等の図示しない駆動手段によって図1に矢印A1で示す時計回り方向に回転駆動される。導電性基体11としては特に限定されず、アルミニウム、アルミ合金、銅、ステンレス等の金属が挙げられる。また、導電性基体11に代えて絶縁性基体を用いてもよい。
【0012】
弾性層12は、弾性体中にカーボンナノチューブが分散されている。これにより弾性層12は導電性に優れるため、弾性層12の近傍で後述する液柱に含まれる水を電気分解することができる。また弾性層12は、インク画像に対する離型性に優れるため転写性が優れている。弾性体としては特に限定されず、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。また弾性体の硬度は60°以下が好ましく、60°を超えると転写性が低下する場合がある。またカーボンナノチューブは単層であっても多層であってもよい。
【0013】
弾性層12の抵抗率は通常、ロレスタ、JIS C2123、JIS K6249等で測定される値では50Ωcm以下であることが望ましいとされていたが、通電と電気分解が画素単位で液柱を形成して行われるため、従来の方法で測定された抵抗率の材料では不十分であった。なぜなら、ロレスタやJISの測定端子が50〜100μmの画素単位に対して大きく、平均化された値が測定されていたためである。
【0014】
本発明で望ましい抵抗率が均質な弾性体は、50〜300μmの電極であって2mm間隔で測定された値が50Ωcm以下であることが望ましい。電極が300μmよりも大きいと画素に対して大きくなりすぎるために通電しない欠損箇所を平均化してしまうことがあり、また電極が50μmよりも小さいと弾性体に刺さり損傷してしまう場合がある。さらに測定間隔が1mm以下において抵抗率が50Ωcm以下であることが好ましいが、これはより精密に測定を行うことで均一な抵抗率であることが認識でき、カーボンナノチューブによる抵抗率の分布状態がより明確となるためである。また2mmよりも広い間隔で測定を行った場合は、カーボンナノチューブの分散ばらつきによる抵抗変化と材料の厚み精度ばらつきによる抵抗変化との区別が付き難くなる。
【0015】
さらに電極が液柱であって測定間隔が0.1mm以下の場合には、カーボンナノチューブの分散ばらつきによる通電変化と弾性体の厚み精度ばらつきによる通電変化とを管理することができ、抵抗の均一な弾性材料を選択できると共に、0.1mm間隔の測定点を互いに比較することで大きく通電量が変化する箇所のない材料を選択することができる。また電極が液体であるため、転写体に対して一定の距離に置かれた場合に弾性体の厚みによって液体電極の距離が変わり液体電極の抵抗も変化することから、厚みのばらつきが少ない材料を選定することができる。これは、インクの抵抗率が100Ωcm以下であれば通電量が25%以上変動してもシステム上成立するためである。インクの抵抗率は50Ωcm以下が安定的であるが、通電量の変動としては50%変動したときに100Ωcmとなりシステムが不安定となるため、通電量の変動は50%まで可能であるが安全を見ると25%までが可能である。なお、中間転写ドラム10に代えて、弾性層12を有する無端ベルトまたはシート等を用いてもよい。
【0016】
吐出装置20は、イエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の導電性インクを吐出する記録ヘッド21Y,21M,21C,21Kが、図1において紙面垂直方向に複数個並設されている固定式のフルライン型である。各記録ヘッド21は、中間転写ドラム10の外周面と対向する位置に矢印A1方向の上流側から順次設けられている。このとき、制御部はイエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像領域が中間転写ドラム10上で重なるように、矢印A1方向の上流側から下流側に向けて、タイミングをすらして各色の導電性インクを吐出するように、各記録ヘッド21を制御する。
【0017】
吐出装置20は、各記録ヘッド21に供給される各色の導電性インクを収容するインクカートリッジ22Y,22M,22C,22Kと、各インクカートリッジ22に収容された各色の導電性インクを移送する図示しないポンプと、図示しないポンプにより移送された各色の導電性インクを各記録ヘッド21に分配して供給する図示しない供給タンクとを有している。なお各インクカートリッジ22と図示しない供給タンクとの間は図示しないポンプを介して図示しないパイプで接続されており、図示しない供給タンクと各記録ヘッド21との間は他の図示しないパイプで接続されている。また各インクカートリッジ22は、導電性インクが少なくなったときまたはなくなったときに交換できるよう、またメンテナンスを容易化するために着脱可能に構成されている。
【0018】
さらに吐出装置20は、図示しない供給タンク内の導電性インク量を検知する図示しないセンサを有しており、このセンサが供給タンク内の導電性インク量が所定量未満であることを検出すると、制御部は供給タンク内の導電性インク量が所定量以上となるまでポンプを駆動し、各インクカートリッジ22に収容されている導電性インクを供給タンクに移送する。また吐出装置20は、各記録ヘッド21を一体的に支持すると共に個々に独立して着脱可能なキャリッジ23を有している。これにより各記録ヘッド21は交換可能に構成されている。
【0019】
記録ヘッド21は、図2に示すように、ノズル21aが形成されている導電性のノズル板21b、各ノズル21aに対応したインク室21c及び図示しないインク吐出手段を有している。ノズル板21bには複数のノズル21aが形成されており、各記録ヘッド21は単数のノズル21aを有している。すなわち複数の記録ヘッド21がノズル板21bを共有している。インク室21cには図示しない供給タンクを用いて供給された導電性インクIが充填されている。インク吐出手段は圧電素子を有しており、圧電素子に印加される電圧パルスに応じてノズル21aから導電性インクIが吐出される。ノズル板21bはカソードとして機能し、ノズル板21bを構成する材料は特に限定されず、金属やカーボン等が挙げられる。
【0020】
図2に示す構成において、中間転写ドラム10とノズル板21bとのギャップは50〜200μmであることが好ましい。ギャップが50μm未満であると回転する中間転写ドラム10とノズル板21bとのギャップを維持することが困難となることがあり、ギャップが200μmを超えるとノズル21aと中間転写ドラム10との間に液柱を形成し難くなる場合がある。なお、導電性のノズル板21bに代えて導電性インクIと接触する内面のみが導電処理されている絶縁性のノズル板を用いてもよく、また導電性インクIと接触する内面のみが絶縁処理されている導電性のノズル板や、絶縁層及び導電層が積層されているノズル板を用いてもよい。このとき導電性インクIと接触する面を絶縁性とすることにより、電気分解による気泡の発生を抑制することができる。
【0021】
上述の構成において、各記録ヘッド21はピエゾ方式等の形状変形素子方式であってもよく、サーマル方式等の加熱ヒータ方式等の他の方式であってもよい。また吐出装置20は、中間転写ドラム10の表面が移動する方向に対して垂直な方向(主走査方向)に記録ヘッドが移動するシャトル型であってもよく、このときの記録ヘッドの数は複数であってもよい。さらに、各記録ヘッド21に対応する中間転写ドラム10及び転写ローラ40をそれぞれ4個ずつ設ける構成としてもよい。
【0022】
導電性インクIは、アニオン性分散剤により顔料が水を含む溶媒中に分散されている。ここで顔料としては特に限定されず、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロ12、C.I.ピグメントイエロ13、C.I.ピグメントイエロ14、C.I.ピグメントイエロ15、C.I.ピグメントイエロ17、C.I.ピグメントイエロ74、C.I.ピグメントイエロ93、C.I.ピグメントイエロ94、C.I.ピグメントイエロ128、C.I.ピグメントイエロ138、C.I.ピグメントイエロ151、C.I.ピグメントイエロ155、C.I.ピグメントイエロ180、C.I.ピグメントイエロ185等のオレンジまたはイエロ用の顔料、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等のレッドまたはマゼンタ用の顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等のグリーンまたはシアン用の顔料、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等のブラック用の顔料が挙げられる。
【0023】
導電性インクI中の顔料の含有量は、通常0.1〜40質量%であり、1〜30質量%が好ましく、2〜20質量%がさらに好ましい。アニオン性分散剤としては特に限定されないが、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン(商標名)縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エスエル塩等が挙げられ、これ等を2種以上併用してもよい。
【0024】
導電性インクIは、転写性の点からカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基を有する樹脂を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を用いて中和することにより得られるアニオン性基を有する樹脂をさらに含むことが好ましい。酸性基を有する樹脂としては特に限定されず、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられ、これ等を2種以上併用してもよい。導電性インクI中のアニオン性基を有する樹脂の含有量は、通常0.5〜10質量%であり、0.5〜5質量%が好ましい。
【0025】
導電性インクIは水に可溶な溶媒をさらに含んでいてもよい。水に可溶な溶媒としては特に限定されず、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリンのエチレンオキサイド付加物等の多価アルコール誘導体、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等の炭酸アルキレンが挙げられ、これ等を2種以上併用してもよい。導電性インクIは、保存安定性の面からアルカリ性であることが好ましい。
【0026】
図2に示すように、電源30はノズル板21bと導電性基体11との間に接続されており、制御部は導電性インクIと弾性層12との間に所定のタイミングで所定の電圧が印加されるように電源30の作動を制御する。このため、ノズル21aと弾性層12との間に導電性インクIからなる液柱を一時的に形成することにより液柱に含まれる水を電気分解することができ、この結果、中間転写ドラム10にインク画像を形成することができる。このときアノードとして機能する弾性層12の表面で、液柱に含まれる水が酸化してプロトン(H)が生成されるため、図3に示すようにアニオン性分散剤Dにより分散されている顔料Pを、プロトンを介して凝集させることができる。これにより、隣接するドット間における滲みの発生を抑制することができ、高精細な画像を形成することができる。また、ノズル21aの目詰まりを抑制することができる。なお制御部は、圧電素子に印加する電圧パルスのピーク電圧とパルス幅とを変化させることにより、液柱の形成時間を制御する。
【0027】
図4は、インク画像が形成されるメカニズムを説明する図である。同図において、ノズル21aにはインク室21cに充填された導電性インクIのメニスカスが形成されており、電源30には所定の電圧が印加されている(図4(a)参照)。次に、圧電素子に電圧パルスが印加されることにより導電性インクIがノズル21aから吐出され、ノズル21aと弾性層12との間に導電性インクIからなる液柱が一時的に形成される(図4(b)参照)。このとき、ノズル板21b及び弾性層12はそれぞれカソード及びアノードとして機能し、ノズル板21b及び弾性層12の表面でそれぞれ反応式4HO+4e→2H+4OHで示される電極反応及び反応式2HO→4H+O+4eで示される電極反応が起こり、液柱に含まれる水が電気分解される。さらに液柱が分断されて中間転写ドラム10にインク画像I’が形成される(図4(c)参照)。
【0028】
ここで、図5を用いカソード及びアノードの間に形成される液柱について説明する。液柱Bの内部では、カチオン及びアニオンはそれぞれカソードC及びアノードAの近傍に移動する。その結果、カソードC及びアノードAの表面にそれぞれ電気二重層E及びEが形成されるが、電気二重層E及びEの充電速度は液柱Bの抵抗R、導電性インクIに含まれるイオンの濃度でほぼ決定される。このとき電気二重層Eの電圧が数Vに達すると、水が電気分解してファラデー電流が流れる。その結果、アノードAの表面では水が酸化してプロトンが生成し、アニオン性分散剤により分散されている顔料及びアニオン性基を有する樹脂が凝集する。一方、電気二重層Eの容量CECは、電気二重層Eの容量CEAよりも十分に大きいため、カソードCの表面では水が還元し難い。これは、カソードCとしての導電性インクIが接触するノズル板21bの面積は、アノードAとしての液柱が接触する弾性層12の面積よりも十分に大きいためである。
【0029】
なお制御部は、プロトンの生成量すなわち液柱を形成する時間、電源30に印加する電圧を変化させることにより顔料の凝集の度合いを制御することができる。また、水が酸化してプロトンが生成される際に酸素も発生するが、微量であることに加えて水に溶解すると考えられるため、インク画像I’の形成を阻害しない。
【0030】
液柱が形成されてから分断されるまでの時間は、通常数マイクロ秒〜数十マイクロ秒であり、導電性インクIの導電率は通常数十mS/m〜3S/mである。このため中間転写ドラム10にインク画像I’を形成するためには、電源30の電圧は水の理論分解電圧である1.23Vや一般的な水の電気分解の条件である数V〜十数Vでは不十分であり、数十V〜数百Vであることが好ましい。
【0031】
インクの粘度や添加される電解質の量から、多くとも3S/mまでが実使用可能な導電率であるがそのときの抵抗率は33Ωcmとなるため、最も抵抗率の低いインクのときであって33Ωcm以下の弾性層を用いればよく、通常1S/mのインクを用いた場合は100Ωcmとなるため、100Ωcm以下の弾性層であれば本システムの画像形成が成立する。カーボンナノチューブを均一に分散できる最低量を添加したときの弾性層の抵抗率は50Ωcmと考えられるため、本発明で均一な抵抗率が規定できる弾性層は50Ωcm以下であることが望ましい。なお、アニオン性分散剤により分散されている顔料をアノードとして機能する弾性層12の表面で生成したプロトンを介して凝集させる代わりに、カチオン性分散剤により分散されている顔料をカソードとして機能する弾性層の表面で生成した水酸化物イオンを介して凝集させてもよい。
【0032】
転写ローラ40は、図1において矢印A2の向きに従動回転し、中間転写ドラム10との間に搬送された記録紙Sにインク画像を転写する。なお、転写ローラ40はヒータを内蔵してもよい。また、記録紙Sに転写されたインク画像を定着させるために定着ローラをさらに設けてもよい。
【0033】
クリーニングブレード50は、インク画像を記録紙Sに転写した後の中間転写ドラム10をクリーニングし、カウンタ方式で中間転写ドラム10に当接する。これにより、インク画像を繰り返し形成してもオフセットによる地肌汚れを抑制することができ、インク画像を良好に形成することができる。クリーニングブレード50を形成する材料は特に限定されず、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルブタジエンゴム等の弾性体が挙げられる。なお、クリーニングブレード50に代えて、またはクリーニングブレード50と共に、クリーニングローラを設けてもよい。
【0034】
搬送ユニット60は、記録紙Sを多数枚積載することが可能な給紙トレイ61と、多数枚積載された記録紙Sのうち最上位の記録紙Sのみを中間転写ドラム10と転写ローラ40との間に給紙する給紙ローラ62と、給紙トレイ61及び給紙ローラ62を支持した筐体63と、給紙ローラ62により給紙された記録紙Sを案内する案内板64と、案内板64により案内された記録紙Sが排紙される排紙トレイ65とを有している。給紙ローラ62はモータ等の図示しない駆動手段により図1に示す矢印A3の向きに回転駆動され、制御部は記録紙Sにインク画像が転写されるように駆動手段の回転駆動を制御する。
【0035】
画像形成装置100を用いて記録紙Sに形成されたインク画像は、アニオン性分散剤により分散されている顔料が凝集しているため、記録紙Sが普通紙の場合でもフェザリングやブリーディングを抑制しながら高画像濃度で高画質のインク画像を高速で形成することができる。本発明が適用可能な画像形成装置は、複写機、ファクシミリの単体、これ等の複合機、これ等に関するモノクロ機等の複合機、電気回路の形成に用いられる画像形成装置、バイオテクノロジ分野において用いられる画像形成装置であってもよい。
【0036】
「実施例」
(導電性インクの調製)
ケッチェンブラックEC−600JD(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)4質量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム2質量%、尿素15質量%、グリセリン5質量%、2−ピロリドン0.5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量%、硝酸テトラメチルアンモニウム15質量%、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール0.1質量%及び蒸留水(残余)からなる混合液を調製した後、平均孔径が0.8μmのメンブレンフィルタを用いて加圧濾過し、ブラックの導電性インクを得た。
ケッチェンブラックEC−600JDに代えてピグメントイエロ152を用いてイエロの導電性インクを得た。
ケッチェンブラックEC−600JDに代えてピグメントブルー15を用いてシアンの導電性インクを得た。
ケッチェンブラックEC−600JDに代えてピグメントレッド83を用いてマゼンタの導電性インクを得た。
【0037】
(実施例1)
カーボンナノチューブが1.5%添加されているサンプルGに対してロレスタで測定した抵抗率の値が5Ωcmであった。この弾性体に対して300μm電極にて5Vの電圧をかけ2mm間隔で100点測定を行ったところ、抵抗率の最大値は20Ωcmであった。さらに0.5mm間隔で測定を行ったところ、最大値30Ωcmの箇所があった。さらに液柱で0.1mm間隔で測定したときの通電量変化は10%未満であった。
【0038】
吐出装置20として、インクジェットプリンタIPSiO CX5000(株式会社リコー製)の吐出装置を有する画像形成装置100を用いてインク画像を形成した。中間転写ドラム10は、図示しないモータにより外周の線速が100mm/秒で図1において矢印A1の向きに回転駆動される。各記録ヘッド21は金属製のノズル板21bを有し、インク室21cにはそれぞれイエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの導電性インクが充填されている。このとき、ノズル板21bと導電性基体11との間に120Vの電源30が接続されている。中間転写ドラム10の弾性層12と各記録ヘッド21のノズル板21bとのギャップは100μmである。転写ローラ40は金属製の芯金に厚さが1mmのゴム層を有している。クリーニングブレード50はフッ素ゴムにより形成されている。また記録紙Sとして、上質紙TYPE6200(株式会社リコー製)を用いた。
【0039】
以上のような画像形成装置100を用い、弾性材料を転写体材料として画像形成を行ったときの画像の滲みを目視したところ、顔料の凝集により滲みが抑えられていた。作成した画像は、中間転写ドラム10にドット径が50μmの孤立ドットからなる100mm角のイエロの網点画像PA及びマゼンタの網点画像PBを35mm間隔で形成した(図6参照)。さらにドット径が50μmの孤立ドットからなる100mm角のブラックのベタ画像を形成した。
【0040】
(比較例1)
カーボンナノチューブが2.2%添加されているサンプルBの弾性体に対してロレスタで測定した抵抗率の値が11Ωcmであった。この弾性体に対して300μmの電極にて5Vの電圧をかけて2mm間隔で100点測定を行ったところ、抵抗率の最大値は3000Ωcmであった。さらに液柱で0.1mm間隔で測定したときの通電量の変化は100%の箇所があり、全く通電しない箇所が確認された。実施例1と同様に本材料を転写体材料として用い、網点画像及びベタ画像を形成したときの画像の滲みを目視したところ、顔料の凝集が起こらない箇所が確認され滲みを生じていた。
【0041】
(比較例2)
カーボンナノチューブが2.5%添加されているサンプルCの弾性体に対して、ロレスタで測定した抵抗率の値は20Ωcmであった。この弾性体に対して300μmの電極にて5Vの電圧をかけて2mm間隔で100点以上測定を行ったところ、抵抗率の最大値は140Ωcmであった。実施例1と同様に本材料を転写体材料として用い、網点画像及びベタ画像を形成したときの画像の滲みを目視したところ、顔料の凝集が起こらない箇所が確認され滲みを生じていた。
【0042】
(実施例2)
カーボンナノチューブが3%添加されているサンプルFの弾性体に対して、ロレスタで測定した抵抗率の値は0.2Ωcmであった。この弾性体に対して300μmの電極にて5Vの電圧をかけて2mm間隔で100点以上測定を行ったところ、抵抗率の最大値は2Ωcmであった。さらに0.5mm間隔で測定を行ったところ、最大値は2Ωcmであった。実施例1と同様に本材料を転写体材料として用い、網点画像及びベタ画像を形成したときの画像の滲みを目視したところ、顔料の凝集により滲みが抑えられていた。
【0043】
(滲み)
マイクロスコープを用いて、記録紙Sに転写された網点画像のドット形状を観察して滲みの状態を評価した。このとき、ドットが独立している場合を○、やや滲んでいる場合を△、滲んでいる場合を×として判定した。判定の結果を図7に示す。
実施例1は抵抗率も30Ωcmと低く通電量の変動も小さいので十分にシステムが成立しており滲み等がない例を、実施例2は材料の抵抗が2Ωcmと十分に低いため通電量の変動率に拘わらずシステムが成立している例をそれぞれ示している。これに対して、比較例1は市販の従来方法で測定した値が11Ωcmであったが本発明で規定する方法で測定したところ抵抗率3000Ωcmの箇所が存在しさらに通電量の変動率も大きいためにインクジェットシステムが成立しない例を、比較例2は市販の従来の測定方法では20Ωcmと低く計測される材料を本発明で規定する方法で測定したところ抵抗率が140Ωcmと液柱よりも高くシステムが成立しない例をそれぞれ示している。
【0044】
実施例1では網点画像のドットが独立していることが確認された。このことから、インク画像の滲みの発生が抑制されることが判明した。これに対し、比較例1では網点画像のドットに滲みのあることが確認された。このことから実施例1と比較して、通電しない箇所があることから凝集が十分に行われないため、抵抗率が均一な画像形成材料ではないことが判明した。また、比較例2では網点画像のドットがやや滲んでいることが確認された。このことから実施例1と比較して、通電しない箇所があることから凝集が十分に行われないため、抵抗率が均一な画像形成材料ではないことが判明した。実施例2では、網点画像のドットが独立していることが確認された。このことから、インク画像の滲みの発生が抑制されることが判明した。
【符号の説明】
【0045】
10 中間転写体(中間転写ドラム)
11 導電性材料(導電性基体)
12 弾性層
21 記録ヘッド
21a ノズル
30 電圧印加手段(電源)
40 転写手段(転写ローラ)
100 画像形成装置
I 導電性インク
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特開2001−289240号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドと、前記ノズルとの間に前記導電性インクからなる液柱を一時的に形成することによりインク画像を形成することが可能な表面に弾性層を有する導電性材料を含む中間転写体と、前記弾性層と前記導電性インクとの間に対して前記液柱に含まれる水分を電気分解可能な電圧を印加する電圧印加手段と、前記中間転写体に形成されたインク画像を記録媒体に転写する転写手段とを有する画像形成装置に用いられる導電性材料であって、
前記弾性層の表面に対して50μm以上300μm以下の電極を用い、10V以下の電圧を印加して抵抗率を間隔2mm以下の複数点で計測する測定装置によって計測された抵抗率が50Ωcm以下であることを特徴とする導電性材料。
【請求項2】
請求項1記載の導電性材料において、
前記間隔が1mm以下のときの前記抵抗率が50Ωcm以下であることを特徴とする導電性材料。
【請求項3】
請求項1または2記載の導電性材料を有することを特徴とする中間転写体。
【請求項4】
請求項3記載の中間転写体を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate