説明

導電性構造体およびその製造方法ならびに燃料電池用セパレータ

【課題】優れた導電性を有する導電性構造体の製造方法を提供する。また、寸法精度が高く導電性に優れた燃料電池用セパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の導電性構造体の製造方法は、結晶性熱可塑性樹脂と導電性充填材を少なくとも含有する結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体のモールド成形において、溶融した該複合材料が金型内で賦形された後、該複合材料の結晶化温度をTと規定したときに、(T±20)℃の温度範囲において、30℃/分以下の冷却速度で該複合材料を冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、導電性充填材を含む結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなり、該複合材料の結晶化度を高めることにより得られた優れた導電性、耐熱性を有する導電性構造体、および燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高い導電性が必要とされる用途には、金属や炭素材料等が主として用いられてきた。しかしながら、近年のエレクトロニクス、電気化学、エネルギー、輸送機器等の分野における導電性材料の用途の多様化に伴い、導電性材料の一種たる導電性樹脂組成物が果たすべき役割が大きくなってきた。その結果、導電性樹脂組成物は高性能化、高機能性化において目覚ましい発展を遂げて来た。その重要な要因として、高分子材料との複合化により成形加工性が大幅に向上したことが挙げられる。
【0003】
導電性樹脂組成物においては、機械的特性や成形性等を実質的に損わずに、効果的に導電性を発現させることが重要である。導電性が要求される用途としては、従来のものに加え、近年では特に回路基板、抵抗器、積層体、電極等の電子材料や、ヒーター、発熱装置部材、集塵フィルタエレメント、PTC素子、エレクトロニクス部品、または半導体部品等が挙げられる。これらの用途においては、導電性と共に高い耐熱性が要求される。
【0004】
他面では、近年、環境問題、エネルギー問題等の観点から、燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素と酸素を利用して電気分解の逆反応で発電し、水以外の排出物がないクリーンな発電装置である。この燃料電池の分野においても、導電性樹脂組成物が大きな役割を担うことができる。燃料電池は、その電解質の種類に応じて数種類に分類されるが、これらの中でも、固体高分子型燃料電池は低温で作動するため、自動車や民生用として最も有望である。このような燃料電池は、例えば、高分子固体電解質、ガス拡散電極、触媒、セパレータから構成された単セルを積層することによって、高出力の発電が達成できる。
【0005】
上記構成を有する燃料電池において、単セルを仕切るためのセパレータには、通常、燃料ガス(水素等)と酸化剤ガス(酸素等)を供給し、発生した水分(水蒸気)を排出するための流路(溝)が形成されている。それゆえに、セパレータにはこれらのガスを完全に分離できる高い気体不透過性と、内部抵抗を小さくするために高い導電性が要求される。
更には、このセパレータには、熱伝導性、耐久性、強度等に優れていることが要求される。
【0006】
これらの要求を達成する目的で、従来より、この燃料電池用セパレータとしては、金属材料と炭素材料の両方から検討されてきた。これらの材料のうち、金属材料に関しては耐食性の問題から、表面に貴金属や炭素を被覆させる試みがされてきたが、充分な耐久性が得られず、更に被覆にかかるコストが問題になる。
【0007】
一方、炭素材料に関しても多く検討が成され、膨張黒鉛シートをプレス成形して得られた成形品、炭素焼結体に樹脂を含浸させ硬化させた成形品、熱硬化性樹脂を焼成して得られるガラス状カーボン、炭素粉末と樹脂を混合後成形した成形品等が燃料電池用セパレータ用材料の例として挙げられる。
【0008】
例えば、特許文献1には、炭素質粉末に結合材を加えて加熱混合後CIP成形(Cold Isostatic Pressing;冷間等方圧加工法)し、次いで焼成、黒鉛化して得られた等方性黒鉛材に熱硬化性樹脂を含浸、硬化処理した後に、ガス流路の溝を切削加工によって彫るという煩雑な工程が開示されている。
【0009】
また、組成物の工夫によって、セパレータの高性能化が試みられてきた。例えば、特許文献2には、樹脂で被覆された炭素質粉末と、該被覆樹脂よりも高耐熱性の樹脂との複合化により、優れた機械的特性及び電気的特性を兼ね備えたセパレータが開示されている。
特許文献3には、低融点金属、金属粉末、熱可塑性プラスチック、及び熱可塑性エラストマーの混合物からなる樹脂組成物が開示されている。
【0010】
他面では、成形方法の工夫によって、高性能なセパレータを簡易な方法で製造する試みもなされている。例えば特許文献4には、予め金型を熱可塑性樹脂の融点以上の温度に昇温しておき、金型キャビティ内に導電性組成物を加熱状態で充填し、溶融して所定の圧力で均一圧縮して賦形し、金型に圧力をかけたまま、熱可塑性樹脂の熱変形温度より低い温度まで冷却するという導電性成形品の製造方法が開示されている。また、特許文献5及び6には、キャビティー表面温度を熱可塑性樹脂組成物の結晶化温度よりも50℃低い温度よりも高く、該組成物の融点よりも低い温度に設定し射出成形することを特徴とする高導電性樹脂成形品の成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−222241号公報。
【特許文献2】特開2003−257446号公報。
【特許文献3】特開2000−348739号公報。
【特許文献4】特開2003−109622号公報。
【特許文献5】特開2004−35826号公報。
【特許文献6】特開2004−34611号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献に記載の従来の導電性樹脂組成物から成る種々の導電性構造体は、高い導電性を発現させるため、導電性充填材の充填量を大幅に増やす必要があるが、モールド成形性を保持するために樹脂の含有量を多くせざるを得ないため、充分に高い導電性を得ることができなかった。更に、高い導電性を得るために、構造体を1000〜3000℃の高温で長時間加熱を行う焼成の工程を含むと、製造に要する時間が長くなり、且つ、製造工程が煩雑となってコストが上昇してしまうという問題があった。
【0013】
また、成形方法の工夫もなされているが、特許文献4のように金型全体の温度を大きく変化させる方法では、多くの時間やエネルギーが必要なので低コストで成形品を製造することが出来ない。さらには、無造作に金型温度を下げたのでは構造体に要求される導電性を達成することは出来ない。また、特許文献5及び6のようにキャビティー表面温度だけを変化させて成形することは効率的であるが、該表面温度を熱可塑性樹脂組成物の溶融温度より低い温度に設定すると、多量の導電性充填材を含有した、高熱伝導率で固化が非常に速い高導電性組成物を成形する場合は、賦形が完了するまでに樹脂の固化が開始されるので、寸法精度が良好な成形品を得ることが困難な場合が多い。
【0014】
本発明の目的は、上述したような従来技術の欠点を解消した優れた導電性を有する導電性構造体の製造方法を提供することにある。また、寸法精度が高く導電性に優れた燃料電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、結晶性熱可塑性樹脂組成物からなる導電性構造体の結晶化度を高めることにより、簡便でコストが上昇しない方法で高い導電性を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、本発明は、例えば以下に示す[1]〜[15]の事項を含む。
【0016】
[1]
結晶性熱可塑性樹脂と導電性充填材を少なくとも含有する結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体のモールド成形において、溶融した該複合材料が金型内で賦形された後、該複合材料の結晶化温度をTと規定したときに、(T±20)℃の温度範囲において、30℃/分以下の冷却速度で該複合材料を冷却することを特徴とする導電性構造体の製造方法。
[2]
導電性構造体を金型で加圧した状態、または導電性構造体の変形を防止する矯正板に導電性構造体を挟んで加圧した状態で、導電性構造体を冷却することを特徴とする[1]に記載の導電性構造体の製造方法。
[3]
導電性構造体のモールド成形が、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、スタンピング成形の中から選ばれるいずれかの成形方法であることを特徴とする[1]または[2]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[4]
結晶性熱可塑性樹脂複合材料がさらにエラストマーを含むことを特徴とする[1]から[3]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[5]
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をポリマー成分としたときに、該ポリマー成分と導電性充填材との合計を基準(100質量%)として、該ポリマー成分が40〜2質量%、導電性充填材が60〜98質量%であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[6]
前記結晶性熱可塑性樹脂に含まれる少なくとも1成分がポリオレフィンであることを特徴とする[1]から[5]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[7]
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をあわせたポリマー成分が、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレン ブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン ブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレン ブロックコポリマー及びスチレン・ブタジエン・スチレン ブロックコポリマーのいずれか1種または2種以上と、ポリオレフィンを少なくとも含有することを特徴とする[1]から[6]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[8]
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をあわせたポリマー成分がポリ弗化ビニリデンと軟質アクリル樹脂とを少なくとも含むことを特徴とする[1]から[7]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[9]
前記導電性充填材が金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラーまたは金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]から[8]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[10]
前記導電性充填材が、0.05〜5質量%のホウ素を含む炭素質材料であることを特徴とする[1]から[9]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[11]
前記導電性充填材が、気相法炭素繊維および/またはカーボンナノチューブを0.1〜50質量%(これらを含む導電性充填材全体が基準)含むことを特徴とする[1]から[10]のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
[12]
気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブが、0.05〜5質量%のホウ素を含むことを特徴とする[11]に記載の導電性構造体の製造方法。
[13]
[7]、[8]または[10]のいずれか1項に記載の製造方法で製造された導電性構造体。
[14]
[1]から[12]のいずれか1項に記載の製造方法により製造され、かつ、X≧0.8×Y(式1)で表される関係を満たすことを特徴とする導電性構造体。
(但し、式1中、Xは導電性構造体の一部を試料とし、示差走査熱量計を用いて20℃/分の昇温速度で25℃から熱可塑性樹脂複合材料の結晶融解温度:Tmよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。また、Yは結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、示差走査熱量計を用いて、Tmよりも60℃以上高い温度で10分間保持した後、5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し25℃で10分間保持した後、さらに20℃/分の昇温速度でTmよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。)
[15]
[13]または[14]のいずれか1項に記載の導電性構造体を使用してなる燃料電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0017】
上記した構成を有する本発明の製造方法により製造された導電性構造体は、導電性に優れ、且つ放熱性にも優れるため、従来実現が困難であった領域の材料、例えば、エレクトロニクス分野、電気製品、機械部品、車輌部品等の各種用途・部品に広く適用可能であり、特に燃料電池用セパレータとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】貫通抵抗の測定方法を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0020】
(結晶性熱可塑性樹脂複合材料)
本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料は、結晶性熱可塑性樹脂(A成分)と、導電性充填材(B成分)を少なくとも含む複合材料である。
【0021】
(導電性構造体)
本発明の導電性構造体とは当該結晶性熱可塑性樹脂複合材料が射出成形などにより一定の形状に賦形されたものをいう。もとの結晶性熱可塑性樹脂複合材料と組成的にはまったく同一であるが、成形時の熱履歴により、結晶化度などが異なる。
【0022】
(ポリマー成分)
本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料には結晶性熱可塑性樹脂(A成分)以外に、エラストマー成分(C成分)や、非晶性熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などその他の高分子化合物を含んでいても良い。A成分、C成分、その他の高分子化合物をあわせてポリマー成分と呼ぶ。
(結晶性熱可塑性樹脂:A成分)
本発明の結晶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデンや四フッ化ポリエチレン等のフッ素樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホン等の中から選ばれた1〜2種類以上の組み合わせが使用可能である。これらの中で、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマーが好ましい。また、大きな曲げ歪が得られ、耐加水分解性が高いという理由で、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0023】
(エラストマー:C成分)
また、本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料には、エラストマー成分が含まれていても良い。エラストマーは、常温付近でゴム状弾性を有する高分子である。エラストマー成分としては特に限定されないが、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合ゴム、エチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ポリエーテル系特殊ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ノルボルネンゴム、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、軟質アクリル樹脂等の中から選ばれた1〜2種類以上の組み合わが使用可能である。
【0024】
本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料に含まれるエラストマーの含量としては、特に限定はされないが、ポリマー成分を基準(100質量%)として、0.01〜50質量%が好ましい。エラストマー成分が50質量%以上になると、この発明の効果が小さくなる。
さらに、この発明の効果が大きく現れ、高い曲げ歪と曲げ強度が同時に得られるという理由で、0.01〜30質量%が特に好ましい。
【0025】
上記のエラストマーを含んだポリマー成分の中で好ましいのは、ポリプロピレン/スチレン系熱可塑性エラストマーブレンド、ポリフッ化ビニリデン/フッ素系エラストマーブレンド、ポリフッ化ビニリデン/軟質アクリル樹脂ブレンド、ポリフェニレンスルフィド/スチレン系熱可塑性エラストマーブレンド等が好ましい。さらにこの中でも、大きな曲げ歪が得られ、耐加水分解性が高いという観点から、ポリプロピレン/スチレン系熱可塑性エラストマーブレンド、ポリフェニレンスルフィド/スチレン系熱可塑性エラストマーブレンドが特に好ましい。
【0026】
本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料に用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレン ブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン ブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレン
ブロックコポリマー、スチレン・ブタジエン・スチレン ブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、結晶性熱可塑性樹脂中の分散性が良いという理由で、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレン ブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン ブロックコポリマーが好ましい。
【0027】
(非晶性熱可塑性樹脂)
また、本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料には、本発明の効果が失われない範囲で非晶性熱可塑性樹脂が含まれていても良い。そのような非晶性熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン等の中から選ばれた1〜2種類以上の組み合わが使用可能である。
【0028】
さらに、本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料に用いる熱可塑性樹脂にはなるべく高分子量の樹脂を用いるのが、優れた曲げ特性が得られるという理由で好ましい。例えば、結晶性熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合は、メルトフローレート(MFR)が10以下のポリプロピレンを用いるのが好ましい。特に好ましいのは、優れた曲げ歪と曲げ強度が両立すると言う理由で、MFRが2以下のポリプロピレン樹脂である。ここでMFRはJIS K 6921−2に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0029】
(その他成分)
この他ポリマー成分中には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱硬化性樹脂、モノマー、可塑剤、硬化剤、硬化開始剤、硬化助剤、溶剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、難燃剤、または親水性付与剤等から選ばれる成分を添加することができる。
【0030】
(ポリマー成分の製造方法)
本発明のA成分の製造方法は特に制限されないが、例えば、溶液法、エマルション法、溶融法等の物理的方法、あるいはグラフト重合法、ブロック重合法、IPN(相互入高分子網目)法等の化学的方法による製造法が挙げられる。
【0031】
異種ポリマーのブレンドによるポリマー成分の製造の場合は、多様性の点からは溶融法が好ましい。この溶融法の具体的な手法は特に制限されないが、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等の混練機械を用いてブレンドする方法等が挙げられる。
【0032】
(導電性充填材:B成分)
本発明において、上記したA成分とともに結晶性熱可塑性樹脂複合材料を構成するB成分は、導電性充填材である限り特に制限されない。導電性の点からは、このB成分は、金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラー、または金属酸化物の中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが好ましい。より好ましくは、炭素質材料、および/または金属材料である。
【0033】
(金属材料)
金属材料としては、導電性の点からは、Ni、Fe、Co、B、Pb、Cr、Cu、Al、Ti、Bi、Sn、W、P、Mo、Ag、Pt、Au、TiC、NbC、TiCN、TiN、CrN、TiB、ZrB、FeBのいずれか1種類または2種類以上の複合材料であることが好ましい。更に、これらの金属材料を粉末状、あるいは繊維状に加工して使用することができる。
【0034】
(炭素質材料)
炭素質材料としては、導電性の点からは、カーボンブラック、炭素繊維、アモルファスカーボン、膨張黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンの中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0035】
更に、炭素材料の導電性向上の点からは、炭素質材料中にホウ素が0.05〜5質量%含まれることが好ましい。ホウ素量が0.05質量%未満では、目的とする高導電性の黒鉛粉末が得られない可能性が高くなる。他方、ホウ素量が5質量%を超えて含まれていても、炭素材料の導電性向上への寄与の程度が低下する傾向がある。炭素質材料に含まれるホウ素の量の測定方法は特に制限はなく、どのような測定方法でも測定できる。本発明では誘導型プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP」と略す。)又は誘導型プラズマ発光分光質量分析法(以下、「ICP−MS」と略す。)により測定した値を用いる。具体的には試料に硫酸および硝酸を加え、マイクロ波加熱(230℃)して分解(ダイジェスター法)し、更に過塩素酸(HClO)を加えて分解したものを水で希釈し、これをICP発光分析装置にかけて、ホウ素量を測定する。
【0036】
(ホウ素の含有方法)
ホウ素を含有させる方法としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ等の単品、あるいはそれらの1種以上の混合物にホウ素源として、B単体、BC、BN、B、HB0等を添加し、よく混合して約2300〜3200℃で黒鉛化処理することによって、炭素質材料中にホウ素を含有させる方法を用いることができる。ホウ素化合物の混合が不均一な場合には、黒鉛粉末が不均一になるだけでなく、黒鉛化時に焼結する可能性が高くなる傾向がある。ホウ素化合物を均一に混合させるために、これらのホウ素源は50μm以下、好ましくは20μm以下程度の粒径を有する粉末にして、コークス等の粉末に混合することが好ましい。
【0037】
ホウ素を添加しない場合、黒鉛化すると黒鉛化度(結晶化度)が下がり、格子間隔が大きくなり、高導電性の黒鉛粉末を得ることの困難性が増大する傾向がある。また、黒鉛中にホウ素および/またはホウ素化合物が混合されている限り、ホウ素の含有の形態は特に制限されないが、黒鉛結晶の層間に存在するもの、黒鉛結晶を形成する炭素原子の一部がホウ素原子に置換されたものも、より好適なものとして挙げられる。また、炭素原子の一部がホウ素原子に置換された場合のホウ素原子と炭素原子の結合は、共有結合、イオン結合等どのような結合様式であっても構わない。
【0038】
(カーボンブラック)
上述した炭素質材料の一例であるカーボンブラックとしては、天然ガス等の不完全燃焼、アセチレンの熱分解により得られるケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭化水素油や天然ガスの不完全燃焼により得られるファーネスカーボン、天然ガスの熱分解により得られるサーマルカーボン等が挙げられる。
【0039】
(炭素繊維)
上記した炭素繊維としては、重質油、副生油、コールタール等から作られるピッチ系と、ポリアクリロニトリルから作られるPAN系が挙げられる。
【0040】
(アモルファスカーボン)
上記したアモルファスカーボンを得るためには、フェノール樹脂を硬化させて焼成処理し粉砕して粉末とする方法、または、フェノール樹脂を球状、不定形状の粉末の状態で硬化させて焼成処理する方法等がある。導電性の高いアモルファスカーボンを得るためには2000℃以上に加熱処理することが適する。
【0041】
(膨張黒鉛電極)
上記した膨張黒鉛粉末は、例えば、天然黒鉛、熱分解黒鉛等高度に結晶構造が発達した黒鉛を、濃硫酸と硝酸との混液、濃硫酸と過酸化水素水との混液の強酸化性の溶液に浸漬処理して黒鉛層間化合物を生成させ、水洗してから急速加熱して、黒鉛結晶のC軸方向を膨張処理することによって得られた粉末や、それを一度シート状に圧延したものを粉砕した粉末である。
【0042】
(人造黒鉛)
上記した人造黒鉛を得るためには、通常は先ずコークスを製造する。コークスの原料は石油系ピッチ、石炭系のピッチ等が用いられる。これらの原料を炭化してコークスとする。コークスから黒鉛化粉末にするには一般的にコークスを粉砕後黒鉛化処理する方法、コークス自体を黒鉛化した後粉砕する方法、あるいはコークスにバインダーを加え成形、焼成した焼成品(コークスおよびこの焼成品を合わせてコークス等という)を黒鉛化処理後粉砕して粉末とする方法等がある。原料のコークス等はできるだけ、結晶が発達していない方が良いため、2000℃以下、好ましくは1200℃以下で加熱処理したものが適する。
【0043】
黒鉛化方法は、粉末を黒鉛ルツボに入れ直接通電するアチソン炉を用いる方法、黒鉛発熱体により粉末を加熱する方法等を使用することができる。
【0044】
コークス、人造黒鉛および天然黒鉛等の粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。また、微粉砕機であるスクリーンミル、ターボミル、スーパーミクロンミル、ジェットミルでも条件を選定することによって使用可能である。これらの粉砕機を用いてコークスおよび天然黒鉛等を粉砕し、その際の粉砕条件の選定、および必要により粉末を分級し、平均粒径や粒度分布をコントロールする。
【0045】
コークス粉末、人造黒鉛粉末および天然黒鉛粉末等を分級する方法としては、分離が可能であれば何れでも良いが、例えば、篩分法や強制渦流型遠心分級機(ミクロンセパレーター、ターボプレックス、ターボクラシファイアー、スーパーセパレーター)、慣性分級機(改良型バーチュウアルインパクター、エルボジェット)等の気流分級機が使用できる。また湿式の沈降分離法や遠心分級法等も使用できる。
【0046】
(気相法炭素繊維/カーボンナノチューブ)
本発明のB成分中には、気相法炭素繊維、および/またはカーボンナノチューブを0.1〜50質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.1〜45質量%であり、更に好ましくは、0.2〜40質量%である。0.1質量%未満では、導電性の向上に効果がない。また、50質量%を超えると成形性が悪くなる傾向にある。
【0047】
更に気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブ中には0.05〜5質量%のホウ素を含有することが好ましい。より好ましくは、0.06〜4質量%であり、更に好ましくは、0.06〜3質量%である。0.05質量%未満では、ホウ素を添加したことで導電性を向上させる効果が小さい。また、5質量%を超えた添加では、不純物量が多くなり、他の物性の低下をもたらす傾向がある。
【0048】
気相法炭素繊維とは、例えばベンゼン、トルエン、天然ガス等の有機化合物を原料に、フェロセン等の遷移金属触媒の存在下で、水素ガスとともに800℃〜1300℃で熱分解反応させることによって得られる、繊維径が約0.5μm〜10μm。更に、その後約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理することが好ましい。より好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理する。
【0049】
カーボンナノチューブとは、近年その機械的強度のみでなく、電界放出機能や、水素吸蔵機能が産業上注目され、更に磁気機能にも目が向けられ始めている。この種のカーボンナノチューブは、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバー等とも呼ばれており、繊維径が約0.5nm〜100nmのものである。カーボンナノチューブにはチューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブがある。本発明では、単層および多層カーボンナノチューブのいずれも使用可能であるが、単層カーボンナノチューブを用いた方が、より高い導電性や機械的強度の組成物が得られる傾向があるため好ましい。
【0050】
カーボンナノチューブは、例えば、斉藤・板東「カーボンナノチューブの基礎」(P23〜P57、コロナ社出版、1998年発行)に記載のアーク放電法、レーザ蒸発法および熱分解法等により作製し、更に純度を高めるために水熱法、遠心分離法、限外ろ過法、および酸化法等により精製することによって得られる。より好ましくは、不純物を取り除くために約2300℃〜3200℃の不活性ガス雰囲気中で高温処理する。更に好ましくは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒とともに、不活性ガス雰囲気中、約2300℃〜3200℃で高温処理する。
【0051】
(組成)
本発明における、ポリマー成分とB成分の組成は、(ポリマー成分+B成分)を基準(100質量%として)ポリマー成分が40〜2質量%、B成分が60〜98質量%であることが好ましい。より好ましくは、ポリマー成分が30〜5質量%、B成分が70〜95質量%である。更に好ましくは、ポリマー成分が25〜5質量%、B成分が75〜95質量%である。ポリマー成分が2質量%未満では、成形性が悪くなる傾向がある。他方、ポリマー成分が40質量%超えると、体積固有抵抗が1Ωcm以上になり易い傾向が生ずる。
【0052】
(添加剤)
更に本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料には、必要に応じて、硬度、強度、導電性、成形性、耐久性、耐候性、耐水性等を改良する目的で、更にガラスファイバー、ウィスカー、金属酸化物、有機繊維、紫外線安定剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、低収縮剤、親水性付与剤等の添加剤を添加することができる。
【0053】
(製造方法)
本発明における結晶性熱可塑性樹脂複合材料の製造方法は特に制限されないが、例えば、上記した各成分をロール、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー(登録商標)、プラネタリーミキサー等の樹脂分野で一般的に用いられている混合機、混練機を使用し、なるべく均一に混合させるのが好ましい。
【0054】
また、上記したポリマー成分を予め製造したのちB成分と混合する方法と、B成分の存在下でポリマー成分の各成分を混練する方法等が挙げられるが、限定されるものではない。
【0055】
本発明における結晶性熱可塑性樹脂複合材料は、混練または混合した後、モールド成形機や金型への材料供給を容易にする目的で、必要に応じて、粉砕あるいは造粒することができる。粉砕には、ホモジナイザー、ウィレー粉砕機、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル、ブレンダー)等が使用でき、材料同士の凝集を防ぐため冷却しながら粉砕することが好ましい。造粒には、押出機、ルーダー、コニーダー等を用いてペレット化する方法、あるいはパン型造粒機等を使用することができる。
【0056】
(導電性構造体の製造方法)
本発明における導電性構造体の製造方法の詳細を以下に示す。
【0057】
(製造方法1)
上記の結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体のモールド成形で、金型内で溶融した該複合材料の賦形が完了するまでは、金型キャビティー表面温度をT以上に保ち、賦形された後、(T−20)℃以上で、かつ(T+20)℃以下の金型キャビティー表面温度で、該複合材料が固化させ、金型から取り出す。なお、Tは結晶融解温度、Tは結晶化温度であり、その測定方法は後述する。ここで、モールド成形とは、金型あるいは金枠を用いて成形品を成形する方法の総称であるが、例えば、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、スタンピング成形などが挙げられる。これらの中で、寸法精度が高い導電性構造体が得られるという理由では、圧縮成形法、スタンピング成形が好ましい。また、成形サイクルタイムが短いという理由で、射出成形、射出圧縮成形が好ましい。さらに、射出成形では避けられない成形品表面のスキン層による導電性の低下が起こらないという理由で、射出圧縮成形が特に好ましい。成形加工時に構造体中のボイドを取り除く為に、金型内あるいは金型全体を真空状態にして成形することもできる。
【0058】
ここで賦形とは、溶融した複合材料に圧力をかけて金型キャビティーの形状を複合材料に転写することを表し、具体的には、圧縮成形、スタンピング成形、射出圧縮成形の場合は、金型の圧縮が終了するまでの動作を示し、射出成形の場合は射出が完了するまでの動作を示す。また固化とは、該構造体を金型から取り出す時に、該構造体が破損したり変形したりしない程度に該複合材料が固まることを示す。該構造体を金型から取り出した後に、該複合材料の後結晶化により該構造体が変形することもあるが、そのような時は変形しないように該構造体を矯正する必要がある。
【0059】
製造方法1で特に重要な、緻密に制御されるべき成形条件は金型温度及び金型のキャビティー表面温度である。上記のように該複合材料が金型内で導電性構造体に賦形されるまでは該表面温度はT以上に保たれ、賦形完了後、(T−20)℃以上で、かつ(T−20)℃以下の該表面温度で複合材料を冷却・固化させるように、金型温度及びキャビティー表面温度を制御しなくてはならない。特に好ましいのは、より寸法精度が高い構造体が成形できるという理由で、賦形時にはキャビティー表面温度を(T+5)℃以上を保つことである。しかし、余りに高い該表面温度で腑形を完了すると冷却に時間を要し成形サイクル時間が長くなり、効率的な導電性構造体の製造ができなくなる。従って、賦形完了時のキャビティー表面温度は(T+10)℃以下になるのが好ましい。
【0060】
また、賦形完了後、該複合材料を冷却し固化する時の金型温度及びキャビティー表面温度は、(T−20)℃以上で、かつ(T+20)℃以下の温度である事が必要であり、好ましくは(T−10)以上で、かつ(T+15)℃以下の温度である事が必要である。この金型温度及びキャビティー表面温度で該複合材料を溶融状態から冷却する事により、該複合材料の結晶化が大きく促進され、導電性構造体の体積固有抵抗や貫通抵抗が大きく低下する。さらに、本発明の効果が大きいという理由で、該複合材料を冷却し固化する時の金型温度及びキャビティー表面温度は、T以上で、かつ(T+15)℃以下の温度である事が特に好ましい。また、射出成形あるいは射出圧縮成形の場合は、導電性構造体の反りやヒケを防止するために、該複合材料が賦形された後に金型キャビティー内に保圧を印加しても良い。
【0061】
上記のように金型温度及びキャビティー表面温度を制御する方法としては、水あるいはオイルを金型内に循環させたり、金型ヒーターで金型温度やキャビティー表面温度を精密に制御できる温度プロファイル金型の使用が挙げられる。また、金型温度を該複合材料の冷却時の温度に設定し、成形直前にキャビティー表面温度や複合材料温度を誘導加熱、赤外線、超音波、電界や磁界で一時的に加熱して成形する方法も使用できる。キャビティー表面に断熱層を設けた断熱金型も使用できる。また、成形コストを下げるために、複数のキャビティーを有する金型を用いて、一度に複数個の導電性構造体を製造しても良い。
【0062】
金型温度やキャビティー表面温度を測定する方法としては、市販されている金型温度計を用いることもできるし、金型内や、キャビティー表面あるいは表面近傍に温度センサーを仕込んで測定する事もできる。
【0063】
結晶性熱可塑性樹脂複合材料の結晶融解温度Tは、示差走査熱量計(以下、DSCと略す。)を用いて以下の通りに測定する。結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンを試料が完全に融解する温度(この時点では正確な融解温度はわからないが、試料に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶融解温度より60℃以上高い温度を目安とする。)で10分間保持し、その後その温度から25℃まで20℃/分の冷却速度で冷却する。その後25℃で10分間保持した後、20℃/分の昇温速度で、試料が完全に融解する温度まで再び加熱する。この時に生じた結晶の融解による吸熱ピークの頂点の温度をTとする。吸熱ピークが複数存在する場合は、一番高温の吸熱ピークの頂点をTとする。
【0064】
また、結晶性熱可塑性樹脂複合材料の結晶化温度Tは、DSCを用いて以下の通りに測定する。結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンをTより60℃以上高い温度で10分間保持し、その後その温度から25℃まで20℃/分の冷却速度で冷却する。この時に生じた結晶化による発熱ピークの頂点の温度をTとする。発熱ピークが複数存在する場合は、該複合材料中で一番大きな体積分率を有する結晶性熱可塑性樹脂による発熱ピークをTとする。
【0065】
(製造方法2)
上記の結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体のモールド成形で、金型内で溶融した該複合材料が賦形された後、(T+20)℃から(T−20)℃以下までの温度範囲を、30℃/分以下の冷却速度で該複合材料を冷却し、固化させた後に、導電性構造体を金型から取り出す。金型内で該複合材料が賦形される条件としては、前記製造方法1と同じである。成形後の冷却時に、該温度範囲を、30℃/分以下、このましくは20℃/分の冷却速度で冷却する。これにより、該複合材料の結晶化が大きく促進され、導電性構造体の体積固有抵抗や貫通抵抗が大きく低下する。さらに、本発明の効果が大きいという理由で、該温度範囲を10℃/分の冷却速度で冷却するのが特に好ましい。
【0066】
(製造方法3)
上記の結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体の製造において、導電性構造体のモールド成形後、金型から取出した後に、T以下で、かつその(T−30)℃以上で熱処理(アニール)することにより、優れた導電性を有する導電性構造体を製造する。この製造方法3では、モールド成形後に熱処理をする限りにおいて導電性構造体のモールド成形について何ら制限はない。ただし、モールド成形中に結晶化を大きく促進してしまうと、モールド成形後の熱処理による結晶化促進効果が大きく現れない。従って、モールド成形後の熱処理効果を大きくするには、モールド成形時に結晶化を促進しない方が好ましい。熱処理する温度としてはT以下で、かつその(T−30)以上で、好ましくはT以下で、かつ(T−20)℃以上である。これにより、該複合材料の結晶化が大きく促進され、導電性構造体の体積固有抵抗や貫通抵抗が大きく低下する。さらに、本発明の効果が大きいという理由で、T以下で、かつ(T−20)℃以上で熱処理するのが特に好ましい。
【0067】
(導電性構造体の変形防止)
上記製造方法1及び2において該複合材料を固化・冷却する時、及び/又は、上記製造方法3において該導電性構造体を熱処理する時の変形を防止するために、導電性構造体を金型で加圧したり、または導電性構造体の変形を防止する矯正板に導電性構造体を挟んで加圧するのが好ましい。なぜなら、冷却や熱処理により該複合材料の結晶化が大きく促進されるので、該導電性構造体が変形してしまう可能性が大きいからである。
【0068】
以下に、上記製造方法の具体的な例を紹介する。しかし、本発明は以下の例に何ら制限されるものではない。
【0069】
(圧縮成形法)
本発明における導電性構造体の圧縮成形法の例を以下に示す。圧縮成形の金型には金型キャビティー表面温度を緻密に自由に変動できるような温度プロファイル装置を取り付ける。金型温度(成形温度)は、本発明における結晶性熱可塑性樹脂複合材料が溶融する温度で、かつ該複合材料が熱分解しない温度であれば特に限定されないが、(T+50)℃以上であることが特に好ましい。温度設定の後、該複合材料の粉末、あるいは塊を金型キャビティー上に配置する。この時、厚み精度の良い導電性構造体を得るためには、押出機、ロール、カレンダー等を用いて予め成形された所定の厚み、大きさを有する予備成形体を、金型キャビティー上に配置しても良い。より厚み精度が高い導電性構造体を成形するためには、押出機で予備成形体を成形後、ロールやカレンダーで圧延することが好ましい。予備成形体中のボイドやエアーをなくすためには、真空状態で押出成形することが好ましい。その後、金型を閉じて該複合材料が溶融するのに十分な時間、予熱を行い、加圧し圧縮成形を行う。この時、複数の金型キャビティーを持つ金型や多段圧縮成形機で複数の金型を用いて1度に複数個の導電性構造体を成形しても良い。欠陥が実質的に無い良品を得るためには、キャビティー内を真空にすることが好ましい。溶融成形後は、成形温度から(T−20)℃まで10℃/分の冷却速度でキャビティー表面を冷却し、金型から導電性構造体を取り出す事により本発明の導電性構造体が得られる。
【0070】
(射出圧縮成形法)
本発明における導電性構造体の射出圧縮成形法の例を以下に示す。可塑化シリンダーの設定温度は、本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料が溶融し、かつ該複合材料が熱分解を起さない温度であれば特に限定はしないが、Tよりも30℃から60℃程度高い温度が好ましい。また、金型には金型キャビティー表面温度を緻密に自由に変動できるような温度プロファイル装置を取り付け、金型キャビティー温度及び金型表面温度を(T+5)℃に設定する。シリンダー温度と金型温度が一定になったことを確認して、本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなるペレットを、射出圧縮成形機のホッパーに投入する。計量、射出速度、射出圧、2次圧、型締め力、冷却時間等の射出圧縮成形条件については特に制限はなく、導電性構造体が好適に得られる条件を設定する。溶融した該複合材料を金型キャビティー内に射出・充填し、圧縮する。その後、金型キャビティー表面温度を(T+10)℃まで、20℃/分の冷却速度で冷却し該複合材料を固化させた後に、導電性構造体を金型から取り出す。導電性構造体を取出した後は、さらに冷却するために、該構造体の変形を防止する為の矯正板に該構造体を挟んで加圧して冷却しても良い。
【0071】
また、本発明の導電性構造体を射出成形あるいは射出圧縮成形する時には、金型温度を緻密に自由に変動できるような温度プロファイル装置を取り付けた金型以外にも、金型キャビティーの壁面に断熱層を設けた断熱金型を用いても良い。また、誘導加熱、赤外線、超音波などにより金型キャビティー表面を成形開始前に一時的に加熱した後に、成形を開始しても良い。さらには、金型キャビティー内に該複合材料を充填した後に、金型キャビティーに電界や磁界を印加して該複合材料の固化を制御する成形方法も有効である。また、成形性を高めるために、炭酸ガスを成形機シリンダーの途中から注入し、材料中に溶かし込んで超臨界状態で成形することができる。
【0072】
(導電性構造体)
本発明において、結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体は、X≧0.8×Y(式1)で表される関係を満たすことが好ましい。
式1において、Xは導電性構造体の一部の約10mgを試料とし、示差走査熱量計を用いて20℃/分の昇温速度で25℃からTよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。また、Yは結晶性熱可塑性樹脂複合材料の約10mgを試料とし、示差走査熱量計を用いて、Tよりも60℃以上高い温度で10分間保持した後、5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し25℃で10分間保持した後、さらに20℃/分の昇温速度でTよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。なお、Tの値はあらかじめ、結晶性熱可塑性樹脂複合材料をDSC測定して求めておく。
【0073】
式1中で、Yは結晶性熱可塑性樹脂複合材料の結晶化度が極限近くまで上昇した時の融解熱を代表する値である(無論、結晶化温度近傍で長時間(数時間)アニールすれば若干結晶化度は上昇し、融解熱も前記条件での測定値より増加するが、測定に時間がかかりすぎる。)。従って、式1は、本発明の導電性構造体の結晶化度が、該複合材料の結晶化度極限値の8割以上であることを表している。式1を満たすような導電性構造体は、導電性に優れ、高い曲げ強度、曲げ弾性率を有する。
【0074】
(セパレータ)
本発明の結晶性熱可塑性樹脂複合材料を用いて、燃料電池用セパレータを製造する方法は特に制限されない。この製造方法の具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法が挙げられるが、これに限定するわけではない。より好ましくは、成形加工時に金型内あるいは金型全体を真空状態にして成形する。
【0075】
圧縮成形において成形サイクル速度を上げるには、多数個取り金型を用いることが好ましい。更に好ましくは、多段プレス(積層プレス)方法を用いると小さな出力で多数の製品を成形できる。平面状の製品で面精度を向上させるためには、一度シートを成形してから圧縮成形することが好ましい。
【0076】
射出成形においては、更に成形性を向上させる目的で、炭酸ガスを成形機シリンダーの途中から注入し、材料中に溶かし込んで超臨界状態で成形することができる。製品の面精度を挙げるには、射出圧縮方法を用いることが好ましい。射出圧縮法としては、金型を開いた状態で射出して閉じる方法、金型を閉じながら射出する方法、閉じた金型の型締め力をゼロにして射出してから型締め力をかける方法等を用いる。
【0077】
(金型)
本発明において成形の際に使用すべき金型については前記の温度制御が可能であれば特に制限されない。例えば、材料の固化が速く、流動性が悪い場合は、キャビティー内に断熱層を仕込んだ断熱金型を用いることが好ましい。また、金型温度を成形時に上下できる温度プロファイルシステムを導入した金型がより好ましい。温度プロファイルのやり方としは、誘導加熱と冷媒(空気、水、オイル等)の切換えによるシステム、熱媒(熱水、加熱オイル等)と冷媒の切換えによるシステム等が挙げられるが、制限されるものではない。
【0078】
金型温度は結晶性熱可塑性樹脂複合材料の種類やT、Tに応じて最適温度を選定、探索することが重要である。例えば、90℃〜200℃の温度範囲で、10秒間〜1200秒間という範囲で適宜決定することができる。成形品を高温で取出した場合、冷却する場合があるが、その方法は制限されるものでない。例えば、反りを抑制する目的で、成形品を冷却板で挟んで冷却する方法、または、金型ごと冷却する方法等が挙げられる。
【0079】
本発明の両面または片面にガスを流すための流路が形成された燃料電池用セパレータは、本発明の導電性樹脂組成物を上記した成形法により成形することにより得ることができる。ガスを流すための流路は導電性樹脂組成物の成形体を機械加工により、当該流路(溝等)を形成してもよい。また、ガス流路の反転形状を有する金型を使用し圧縮成形、スタンプ成形等によってガス流路形成を行ってもよい。
【0080】
本発明のセパレータの流路断面形状や流路形状は特に制限されない。例えば、流路断面形状は長方形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。流路形状は、ストレート型、蛇行型等が挙げられる。流路の幅は0.1〜2mm、深さ0.1〜1.5mmが好ましい。
【0081】
本発明のセパレータの最薄部は1mm以下が好ましい。より好ましくは0.8mmである。1mm以上では、セパレータが厚くなるため、セパレータの抵抗によるセルの電圧降下が大きくなり好ましくない。
【0082】
本発明の燃料電池用セパレータには、ガスや水を流すためのマニホールドとしての役割を果たす貫通孔を形成することが好ましい。貫通孔の形成方法としては、成形時に貫通孔を形成させる方法、成形後に切削により形成させる方法等が挙げられるが制限されない。
【0083】
(導電性構造体の用途)
本発明の導電性構造体は、導電性に優れ、高い曲げ強度、曲げ弾性率を有するので燃料電池用セパレータのように高導電性と高機械特性を要求される構造体として最適である。
更に、本発明の導電性構造体は黒鉛の導電性を限りなく再現でき、成形精度等に優れる点で極めて高性能なものが得られる。従って、エレクトロニクス分野、電機、機械、車輌等の各種部品等の各用途に有用であり、特に、コンデンサー用または各種電池用集電体、電磁波遮蔽材、電極、放熱板、放熱部品、エレクトロニクス部品、半導体部品、軸受、PTC素子、ブラシ及び燃料電池用セパレータに好適な材料として挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。まず、成形体の物性の測定方法を以下に示す。体積固有抵抗は、JIS
K7194に準拠し、四探針法により測定した。
【0085】
貫通抵抗は、図1で示す四端子法によって測定される。具体的には、試験片(50mm×50mm×2mm)を4枚重ね、それを2つの金メッキ真鍮板で挟んで2MPaで均一に加圧し、金メッキ真鍮板間に1Aの定電流を貫通方向に流して、電圧を測定することで抵抗(R)を算出する。同様に試験片を2枚重ね、金メッキ真鍮板で挟んで、同様な測定を行うことで抵抗(R)を算出する。更に、次項に示す式2のように、抵抗(R)と抵抗(R)差を取り、接触面積(S)を乗じて、2枚分の試験片の厚み(t)で割ることで貫通抵抗を算出する。
【0086】
〔式2〕
Rt=(R−R)×S/t ・・・・(2)
Rt:貫通抵抗(Ωcm)、 S:接触面積(cm
:測定1により算出した抵抗(Ω)
:測定2により算出した抵抗(Ω)
t :試験片2枚分の厚さ(cm)
【0087】
曲げ強度、曲げ弾性率および曲げ歪みは、島津製作所(株)製のオートグラフ(AG−10kNI)を用いて測定を行った。JIS K6911法で、試験片(80mm×10mm×4mm)をスパン間隔64mm、曲げ速度1mm/minの条件で3点式曲げ強度測定法により測定した。
【0088】
導電性構造体中の結晶の融解熱Xは、DSC(パーキンエルマー社製 DSC7型)を用いて以下の手順で測定した。導電性構造体の一部を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンを20℃/分の昇温速度で25℃からTよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。
【0089】
結晶性熱可塑性樹脂複合材料中の結晶の融解熱の極限を代表する値Yは、DSCを用いて以下の手順で測定した。結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンを、Tよりも60℃以上高い温度で10分間保持した後、5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し25℃で10分間保持した後、さらに20℃/分の昇温速度でTよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。
【0090】
結晶性熱可塑性樹脂複合材料の融解温度Tは、DSCを用いて以下の通りに測定する。結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンを試料が完全に融解する温度(この時点では正確な融解温度はわからないが、試料に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶融解温度より60℃以上高い温度を目安とする。)で10分間保持し、その後その温度から25℃まで20℃/分の冷却速度で冷却する。その後25℃で10分間保持した跡、20℃/分の昇温速度で、試料が完全に融解する温度まで再び加熱する。この時に生じた結晶の融解による吸熱ピークの頂点の温度をTとする。吸熱ピークが複数存在する場合は、一番高温の吸熱ピークの頂点をTとする。
【0091】
また、結晶性熱可塑性樹脂複合材料の結晶化温度TCは、DSCを用いて以下の通りに測定する。結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、試料約10mgを正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、そのアルミニウムパンを、試料を入れていない空のアルミニウムパンと共にDSCにセットする。両アルミニウムパンをTより60℃以上高い温度で10分間保持し、その後その温度から25℃まで20℃/分の冷却速度で冷却する。この時に生じた結晶化による発熱ピークの頂点の温度をTCとする。発熱ピークが複数存在する場合は、該複合材料中で一番大きな体積分率を有する結晶性熱可塑性樹脂による発熱ピークをTCとする。
【0092】
用いた材料を以下に示す。
ポリマー成分:表1記載のものを用いた。
ポリプロピレン:サンアロマー(株)製のサンアロマーPW201Nスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS):クレイトンポリマージャパン(株)製のクレイトンG1652水添スチレンブタジエンラバー(H−SBR):JSR(株)製のダイナロン1320Pを用いた。
ポリ弗化ビニリデン(PVDF):ダイキン工業(株)製のネオフロンVW−410軟質アクリル樹脂:クラレ(株)製のパラペットSA−FW001
【0093】
【表1】

【0094】
B成分:導電性充填材<B1>:ホウ素含有黒鉛微紛
非針状コークスであるエム・シー・カーボン(株)製MCコークスをパルベライザー(ホソカワミクロン(株)製)で2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕した。その後、分級により所望の粒径に調整した。5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用い、気流分級を行った。この調整した微粉砕品の一部14.4kgに炭化ホウ素(BC)0.6kgを加え、ヘンシェルミキサー(登録商標)にて800rpmで5分間混合した。これを内径40cm、容積40リットルの蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れてアルゴンガス雰囲気下2900℃の温度で黒鉛化した。これを放冷後、粉末を取り出し、14kgの粉末を得た。得られた黒鉛微粉は、平均粒径20.5μm、B含有量1.9質量%であった。
【0095】
<B2>:気相法炭素繊維(以下、「VGCF」と略す。昭和電工、登録商標)とB1(黒鉛微粉)との混合物。B1成分95質量%とVGCF5質量%をヘンシェルミキサー(登録商標)にて混合した。得られた炭素材料混合物の平均粒径は12.4μm、B含有量1.3質量%であった。
【0096】
気相法炭素繊維は、昭和電工社製 VGCF−G(繊維径0.1〜0.3μm、繊維長10〜50μm)を用いた。
【0097】
<B3>:カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略す。)とB1(黒鉛微粉)との混合物。B1成分95質量%とCNT5質量%をヘンシェルミキサー(登録商標)にて混合した。得られた炭素材料混合物の平均粒径は9.2μm、B含有量1.2質量%であった。カーボンナノチューブは以下の方法で得た。
【0098】
直径6mm、長さ50mmのグラファイト棒に、先端から中心軸に沿って直径3mm、深さ30mmの穴をあけ、この穴にロジウム(Rh):白金(Pt):グラファイト(C)を質量比率1:1:1の混合粉末として詰め込み、陽極を作製した。一方、純度99.98質量%のグラファイトからなる、直径13mm、長さ30mmの陰極を作製した。これらの電極を反応容器に対向配置し、直流電源に接続した。そして、反応容器内を純度99.9体積%のヘリウムガスで置換し、直流アーク放電を行った。その後、反応容器内壁に付着した煤(チャンバー煤)と陰極に堆積した煤(陰極煤)を回収した。反応容器中の圧力と電流は、600Torrと70Aで行った。反応中は、陽極と陰極間のギャップが常に1〜2mmになるように操作した。
【0099】
回収した煤は、水とエタノールが質量比で1:1の混合溶媒中に入れ超音波分散させ、その分散液を回収して、ロータリエバポレーターで溶媒を除去した。そして、その試料を陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムの0.1%水溶液中に超音波分散させた後、5000rpmで30分間遠心分離して、その分散液を回収した。更に、その分散液を350℃の空気中で5時間熱処理することによって精製し、繊維径が1〜10nm、繊維長が0.05〜5μmのカーボンナノチューブを得た。
【0100】
以下の各実施例・比較例において使用したA成分およびB成分の種類および量比を、下記の表2に纏めて示す。また、各複合材料の結晶化温度と結晶融解温度及び融解熱YをDSCにより測定した結果を表2に纏めて示す。また、0.8×Yの値も表2に同時に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
(参考例1〜参考例5)
上記の表1、表2に示した組成の原材料をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル100C100)を用いて温度200℃、45rpmで7分間混練し、結晶性熱可塑性樹脂複合材料を得た。その複合材料を100mm×100mmの平板(厚さは物性試験項目ごとに異なる)ができる金型に投入し、50t圧縮成形機A(NIPPO ENGINEERING社製 E−3013)を用いて温度230℃、予熱3分後、圧力15MPaで3分間加圧加熱した。その後、圧縮成形機Aから金型を熱いまま取出して即座に、表3に示す熱処理温度に設定した50t圧縮成形機B(NIPPO ENGINEERING社製 E−3013)を用いてその金型を圧力15MPaで10分間加圧した。その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させて導電性構造体を得た。
【0103】
(参考例21〜参考例25)
上記の表1、表2に示した組成の結晶性熱可塑性樹脂複合材料は、上記参考例1〜5と同様の手順で得た。その混練物を100mm×100mmの平板(厚さは物性試験項目ごとに異なる)ができる金型に投入し、50t圧縮成形機Aを用いて温度230℃、予熱3分後、圧力15MPaで3分間加圧加熱した。その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させて導電性構造体を得た。上記の各参考例により得られた結果を、下記の表3に纏めて示す。
【0104】
【表3】

【0105】
参考例1〜参考例5においても上記の式1は満たされており、一方、参考例21〜参考例25においても上記の式1は満たされていない。同じ複合材料を用いて熱処理を行った参考例1〜参考例5と熱処理を行わなかった参考例21〜参考例25を比べると、何れの複合材料も参考例1〜参考例5のほうが体積固有抵抗、貫通抵抗が小さくなり、曲げ強度、曲げ弾性率は大きくなっている。一方、曲げ歪は小さくなるが、燃料電池セパレータに要求されている目標値(1%以上)よりも遥かに大きい。
【0106】
(参考例6〜参考例9、参考例26)
複合材料5を用いた以外は上記の参考例1〜参考例5と同様の手順で導電性構造体を得た。上記の各参考例により得られた結果を、下記の表4に纏めて示す。
【0107】
(比較例7)
複合材料5を用い、熱処理温度を変更した以外は上記の参考例21〜参考例25と同様の手順で導電性構造体を得た。上記の各参考例・比較例により得られた結果を、下記の表4に纏めて示す。
【0108】
【表4】

【0109】
参考例6〜参考例9においても上記の式1は満たされており、一方、参考例26及び比較例7においても上記の式1は満たされていない。同じ複合材料5を用いて熱処理を行った場合でも、複合材料5の結晶化温度129.3℃以上で結晶化温度よりも20℃高い149.3℃以下の温度で熱処理を行った参考例6〜9と149.3℃以上の150℃で熱処理を行った参考例26を比べると、参考例6〜参考例9の方が体積固有抵抗、貫通抵抗が小さくなる。また、参考例6〜9と熱処理を行わなかった比較例7を比べても、参考例6〜参考例9の方が体積固有抵抗、貫通抵抗が小さくなる。
【0110】
(参考例10)
複合材料5を100mm×100mmの平板(厚さは物性試験項目ごとに異なる)ができる金型に投入し、50t圧縮成形機Aを用いて温度230℃、予熱3分後、圧力15MPaで3分間加圧加熱し、その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させて導電性構造体を得た。その導電性構造体をさらに金型に挿入し、155℃に設定した50t圧縮成形機Bを用いてその金型を圧力15MPaで120分間加熱加圧した。その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させて導電性構造体を得た。参考例10により得られた結果を、下記の表5に纏めて示す。
【0111】
(実施例11)
50t圧縮成形機Bの熱板にはオイルを循環させることが出来る。オイル温調機から緻密に温度制御されたオイルを熱板に循環させることにより、熱板の温度を精密に制御することが出来る。複合材料5を100mm×100mmの平板(厚さは物性試験項目ごとに異なる)ができる金型に投入し、50t圧縮成形機Bを用いて温度230℃、予熱3分後、圧力15MPaで3分間加圧加熱し、その後、金型を圧力15MPaで加圧した状態で5℃/分の冷却速度で熱板の温度が100℃になるまで冷却する。その後、冷却プレスを用いて温度25℃、圧力15MPaの条件で2分間冷却させて導電性構造体を得た。実施例11により得られた結果を、下記の表5に纏めて示す。
【0112】
【表5】

【0113】
参考例10、実施例11のいずれにおいても上記の式1は満たされており、一方、比較例7においては上記の式1は満たされていない。成形後に155℃で2時間アニールをした参考例10、賦形後に5℃/分の冷却速度で徐冷した実施例11と熱処理を行わなかった比較例7を比べても、実施例の方が体積固有抵抗、貫通抵抗が小さくなる。
【0114】
(参考例12、参考例28)
複合材料1を用いて、貫通孔6ヶ、280×200×1.5mmのサイズで溝幅1mmピッチ、溝深さ0.5mmの溝が両面に形成された平板を成形できる金型を350t射出圧縮成形機に取り付けて、導電性構造体を射出圧縮成形した。シリンダー温度は280℃、金型温度140℃に設定した。成形開始直前にキャビティー表面を、外部からヒーターで表6に記載のキャビティー表面温度にまで加熱して、射出圧100MPa、圧縮力50t、冷却時間150秒で射出圧縮成形し、燃料電池用セパレータ状の平板を得た。その平板の体積固有抵抗と平板中央の厚みを測定し、その結果を表6に示した。
【0115】
【表6】

【0116】
表6に示すように、金型温度を複合材料1の結晶融解温度以上に加熱した参考例12は、金型キャビティーの形状通りの平板を得られたが、結晶融解温度未満の温度にしか加熱しなかった参考例28は、金型キャビティー形状よりも厚い平板しか得られなかった。
【0117】
上記した表3〜表6に示すように、原料の結晶性熱可塑性樹脂複合材料を用いた場合でも、本発明の製造方法で成形した導電性構造体は、本発明の製造方法で製造しなかった導電性構造体に比べて、寸法精度が高く低い体積固有抵抗と低い貫通抵抗を達成した。従って、本発明の製造方法は、寸法精度が高く優れた導電性が要求される導電性構造体の製造方法として好適であり、特に優れた寸法精度と導電性が要求される燃料電池用セパレータの製造方法として最適である。
【符号の説明】
【0118】
1…試験片、2…金メッキ真鍮、3…電圧計、4…定電流発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性熱可塑性樹脂と導電性充填材を少なくとも含有する結晶性熱可塑性樹脂複合材料からなる導電性構造体のモールド成形において、溶融した該複合材料が金型内で賦形された後、該複合材料の結晶化温度をTと規定したときに、(T±20)℃の温度範囲において、30℃/分以下の冷却速度で該複合材料を冷却することを特徴とする導電性構造体の製造方法。
【請求項2】
導電性構造体を金型で加圧した状態、または導電性構造体の変形を防止する矯正板に導電性構造体を挟んで加圧した状態で、導電性構造体を冷却することを特徴とする請求項1に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項3】
導電性構造体のモールド成形が、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、スタンピング成形の中から選ばれるいずれかの成形方法であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項4】
結晶性熱可塑性樹脂複合材料がさらにエラストマーを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項5】
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をポリマー成分としたときに、該ポリマー成分と導電性充填材との合計を基準(100質量%)として、該ポリマー成分が40〜2質量%、導電性充填材が60〜98質量%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項6】
前記結晶性熱可塑性樹脂に含まれる少なくとも1成分がポリオレフィンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項7】
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をあわせたポリマー成分が、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレン ブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン ブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶 ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレン ブロックコポリマー及びスチレン・ブタジエン・スチレン ブロックコポリマーのいずれか1種または2種以上と、ポリオレフィンを少なくとも含有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項8】
結晶性熱可塑性樹脂、エラストマーおよびその他の高分子化合物をあわせたポリマー成分がポリ弗化ビニリデンと軟質アクリル樹脂とを少なくとも含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項9】
前記導電性充填材が金属材料、炭素質材料、導電性高分子、金属被覆フィラーまたは金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項10】
前記導電性充填材が、0.05〜5質量%のホウ素を含む炭素質材料であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項11】
前記導電性充填材が、気相法炭素繊維および/またはカーボンナノチューブを0.1〜50質量%(これらを含む導電性充填材全体が基準)含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項12】
気相法炭素繊維またはカーボンナノチューブが、0.05〜5質量%のホウ素を含むことを特徴とする請求項11に記載の導電性構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項7、8または10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された導電性構造体。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項に記載の製造方法により製造され、かつ、X≧0.8×Y(式1)で表される関係を満たすことを特徴とする導電性構造体。
(但し、式1中、Xは導電性構造体の一部を試料とし、示差走査熱量計を用いて20℃/分の昇温速度で25℃から熱可塑性樹脂複合材料の結晶融解温度:Tmよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。また、Yは結晶性熱可塑性樹脂複合材料を試料とし、示差走査熱量計を用いて、Tmよりも60℃以上高い温度で10分間保持した後、5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し25℃で10分間保持した後、さらに20℃/分の昇温速度でTmよりも60℃以上高い温度まで昇温した時に観測される結晶の融解熱を、試料の質量で割った値を表し、単位はJ/gである。)
【請求項15】
請求項13または14のいずれか1項に記載の導電性構造体を使用してなる燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25164(P2012−25164A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196491(P2011−196491)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【分割の表示】特願2005−141697(P2005−141697)の分割
【原出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボン樹脂モールドセパレータの開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】