説明

導電性樹脂シート

【課題】導電性と共に強度および破断伸度に優れた導電性樹脂シートを提供する。
【手段】カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性シートであり、例えば、体積抵抗値1.0Ωcm以下およびDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有し、この含有量が熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値で2000m2以下である熱可塑性樹脂組成物によってものであって、単位面積あたりの破断伸度30%以上であって原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上、好ましくは、体積抵抗値が109Ωcm以下、および単位面積あたりの破断伸度50%以上であって、原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上である導電性樹脂シート、およびその用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性と共に強度および破断伸度に優れた導電性樹脂シートに関する。本発明の導電性樹脂シートはキャリアーテープやトレイ、さらには複写機、ファクシミリ、ブリンター等の電子写真装置に用いられる導電性シートとして好適である。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性カーボン粉末を多量に含有した樹脂によって形成した導電性樹脂シートが知られている。例えば、カーボンブラックなどの炭素粉末や炭素繊維、これらを混合した導電性樹脂組成物が知られており(特許文献1、2)、また、炭素粉末や炭素繊維に代えてカーボンナノチューブを用いたものや、炭素繊維と共にカーボンナノチューブを配合した導電性樹脂組成物が知られており(特許文献3、4)、これらの樹脂組成物によって導電性シートが形成されている。
【特許文献1】特許第3177606号公報
【特許文献2】特開2004−225003号公報
【特許文献3】特開2004−182842号公報
【特許文献4】特開2002−97375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の導電フィラーを含有する樹脂組成物によって形成された導電性シートは、フィラーの含有量が多いために機械的強度に劣り、しかも伸びが殆どないので二次加工が困難であり、実用性に限界がある。本発明は、従来の導電性樹脂シートにおける上記問題を解決したものであり、高い導電性を有するとともに高い強度と破断伸度を有する導電性樹脂シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の導電性樹脂シートとその用途に関する。
(1)カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性シートであり、単位面積あたりの破断伸度30%以上であって原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上である導電性樹脂シート。
(2)体積抵抗値が109Ωcm以下、および単位面積あたりの破断伸度50%以上であって、原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上である上記(1)の導電性樹脂シート。
(3)体積抵抗値0.1Ωcm以下およびDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成された上記(1)または(2)の導電性樹脂シート。
(4)カーボンナノファイバーの含有量が、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2000m2以下である熱可塑性樹脂組成物によって形成した上記(1)〜(3)の何れかに記載する導電性樹脂シート。
(5)上記(1)〜(4)の何れかに記載する導電性シートを用いた電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シート。
【発明の効果】
【0005】
本発明の導電性樹脂シートは、カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性シートであり、単位面積あたりの破断伸度30%以上であって原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上、好ましくは、体積抵抗値が109Ωcm以下、および単位面積あたりの破断伸度50%以上であって、原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上であるであるので、高い導電性と共に優れた加工性を有し、本発明の導電性樹脂シートを用いることによって高品質の導電性製品を得ることができる。
【0006】
本発明の導電性樹脂シートは、体積抵抗値1.0Ωcm以下およびDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、好ましくは、カーボンナノファイバーの含有量が、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2000m2以下であるものを用いて形成することができる。DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーは樹脂中で分散性が良く、これを上記含有量の範囲で樹脂に配合することによって樹脂の機械的強度や粘性等を損なうことなく、導電性と共に強度および破断伸度に優れた導電性樹脂シートを得ることができる。
【0007】
本発明の導電性樹脂シートは、これを成形したり加工することによって、電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シート等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の導電性樹脂シートは、カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成したものである。この熱可塑性樹脂に配合するカーボンナノファイバーは、例えば、直径が数十ナノメータ以下、長さが数百ミクロンメータ以下であるナノサイズの極微細炭素繊維であり、内部が中空構造のカーボンナノチューブに限らず、内部が充填された構造のものを含み、炭素層が単層構造あるいは多層構造の何れの場合も含み、炭素層が螺旋構造に限らず、また炭素層が繊維の軸長方向に伸びた構造に限らず、炭素層が径方向に伸びた構造のものも含む。
【0009】
熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン(ポリアミド)系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、酢酸セルロース、ABS系の樹脂やそれらの混合物などを用いることができる。
【0010】
本発明の導電性樹脂シートにおいて、引張強度、および破断伸度は、引張試験機を用いて測定したものである。試験片の大きさは、シートを長さ100mm、幅10mmに切り取り測定した。引張強度は断面積あたりの強度に換算した値である。原熱可塑性樹脂に対する強度比とは、同一条件で作成したシートについて、カーボンナノファイバーを含有しない熱可塑性樹脂の引張強度POに対して、同一の熱可塑性樹脂にカーボンナノファイバーを配合してなる熱可塑性樹脂組成物の引張強度PXの比(PX/PO)を%値で示したものである。破断伸度は、試験前の長さL0に対して、破断時の長さLXの比(LX/LO)を%値で示したものである。
【0011】
本発明の導電性樹脂シートは、上記破断伸度が30%以上であって上記強度比100%以上である。好ましくは、体積抵抗値が109Ωcm以下、および上記破断伸度50%以上であって上記強度比100%以上である。一方、熱可塑性樹脂にカーボンブラック等を配合してなる従来の導電性樹脂シートにおいて、実用に適う程度の導電性を有するものの破断伸度は10%以下であり、また原熱可塑性樹脂に対する強度比は概ね80%以下である。従って、本発明の導電性樹脂シートは、従来の導電性樹脂シートよりも強度および加工性が格段に優れている。
【0012】
本発明の導電性樹脂シートは、体積抵抗値1.0Ωcm以下およびDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成することができる。DBP吸油量が150ml/100gよりも少ないカーボンナノファイバーは樹脂中の分散性が劣り、凝集しやすいので樹脂組成物の導電性が不均一になり、さらに樹脂組成物の加工性が低下するので好ましくない。また、体積抵抗値が1.0Ωcmより大きいカーボンナノファイバーは導電性が不十分である。
【0013】
体積抵抗値1.0Ωcm以下およびDBP吸油量が150ml/100g以上のカーボンナノファイバーは、触媒を用いた気相成長法において、触媒および原料の混合ガス組成を調整することによって製造することができる。具体的には、例えば、触媒粒子としてFe、Ni、Co、Mn、Cuの酸化物から選ばれた1種または2種以上と、Mg、Ca、Al、Siの酸化物から選ばれた1種または2種以上の混合酸化物粉末を用い、400℃〜800℃の温度で、一酸化炭素または二酸化炭素と水素の混合ガスを上記触媒粒子に接触させて、カーボンナノファイバーを製造する気相成長法において、触媒としてCo酸化物とMg酸化物の混合酸化物あるいは、Mg酸化物にCo酸化物が被覆された複合酸化物を用い、原料混合ガスを一酸化炭素および/または二酸化炭素と水素とし、その混合比をCO/H2=50/50〜99/1に調整し、好ましくは、さらに反応後に連続して反応温度と同一温度下で水素ガスで10分間以上処理することによって、体積抵抗値が低くDBP吸油量が高いカーボンナノファイバーを製造することができる。
【0014】
本発明において用いるカーボンナノファイバーは、直径5〜100nmおよびアスペクト比10以上であるものが好ましい。このサイズのものは極微細な繊維であるので樹脂中に均一に分散しやすく、かつ互いに接触しやすいので、均一な導電性を得るのに都合が良い。
【0015】
また、上記カーボンナノファイバーはBET比表面積400m2/g以下、好ましくは300m2/g以下であるものが良い。BET比表面積がこれより大きいと樹脂との接触面積が過大になり、樹脂の物性が損なわれ、樹脂自体が本来有する強度や混練時ないし成形時の粘度が高くなり、流動性が失われるので好ましくない。
【0016】
本発明の導電性樹脂シートを形成する樹脂組成物のカーボンナノファイバーの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2000m2以下が好ましい。カーボンナノファイバーの含有量がこれより多いと引張強度や伸度などの樹脂物性が大きく低下するので好ましくない。
【0017】
上記樹脂組成物は、カーボンナノファイバーと共に、機械的強度等を大きく損なわない範囲内で、カーボンブラックなどの導電性微粒子や難燃剤、分散安定剤などを含有してもよい。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、PCシートの作成方法および評価方法は下記のとおりである。また、本発明の導電性樹脂シートにおいて、引張強度および破断伸度は引張試験機を用いて測定した。試験片の大きさは、シートを長さ100mm、幅10mmに切り取り測定した。引張強度は、断面積あたりの強度に換算して計算した。
〔PCシートの作成方法〕:予め所定量のカーボンナノファイバーを含有したPC樹脂コンパウンドを作成し、それを射出押し出しフィルム成形加工で所定の厚みに成形することにより導電性シートを得た。
〔体積抵抗値〕:市販の測定装置(油化電子社製:ロレスタ−AP)を用い、4端子法により体積抵抗を求めた。
【0019】
本発明の導電性樹脂シートはカーボンナノファイバーの配合量が3〜7重量%であるものは、カーボンブラックを15重量%配合した比較例1よりも体積抵抗値が小さく、導電性に優れている。また、比較例1の破断伸度は5%、引張強度45%であるのに対して、本発明の導電性樹脂シートは破断伸度90〜130、引張強度57〜63であり、伸長性が格段に優れており、引張強度も大きい。さらに、DBP吸油量が少ない従来のカーボンナノフィバーを用いた比較例2はカーボンナノファイバーの配合量が3重量%でシート状に成形することができず、格段に加工性が劣る。
【0020】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性シートであり、概シートの破断伸度が30%以上であって原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上である導電性樹脂シート。
【請求項2】
体積抵抗値が109Ωcm以下、および概シートの破断伸度が50%以上であって、原熱可塑性樹脂に対する強度比100%以上である請求項1の導電性樹脂シート。
【請求項3】
体積抵抗値1.0Ωcm以下およびDBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物によって形成された請求項1または2の導電性樹脂シート。
【請求項4】
カーボンナノファイバーの含有量が、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2000m2以下である熱可塑性樹脂組成物によって形成した請求項1〜3の何れかに記載する導電性樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載する導電性シートを用いた電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シート。


【公開番号】特開2006−152132(P2006−152132A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345425(P2004−345425)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】