説明

導電性樹脂フィルム及びその製造方法

【課題】オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂に金属粒子を分散させた導電性フィルムに対して、フィルム表裏面を研磨しても樹脂との界面で金属粒子が剥離して樹脂層に隙間を生じたり、金属粒子が脱落することのない導電性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂である母材樹脂中に、極性基で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂で表面を被覆された金属粒子を分散させ、上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの母材樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面を研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂フィルム及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、薄い樹脂フィルムの厚さ方向には導電性を有するが、樹脂フィルムの幅や長さ方向には導電性を有しない性質を備えた導電性樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性樹脂フィルムは、液晶ディスプレーをはじめとしたフラットディスプレーの基板とこれに画像信号を送るドライバICとを接続する用途など、具体的には以下のように利用されている。
【0003】
特許文献1には、導電性粉末が樹脂シート中に単一分散され、かつ導電性粉末の両端がシートの両端から露出し、且つシート厚さ方向中央部に外向きに膨出している異方導電シートが開示され、また、特許文献2には、フッ素樹脂に導電材を均一に分散しシート状に成形後、シート両面をスパッタエッチングして導電材の両端を露出させる方法が開示されている。これらの技術においては、圧延により金属粒子をつぶすことが示唆されている。更に、導電性粉末の両端又は両端部を露出させるために、シート表面を有機溶剤で溶出する方法、または、スパッタエッチングあるいはイオンプレーティングで洗浄する方法を用いることが記載されている。
【0004】
しかしながら、延伸による方法では導電性粉末の表面の樹脂を十分除去させることは不可能であり、更に有機溶剤による洗浄ではオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂などの耐溶剤性の優れた樹脂を溶解することができる溶剤は存在しないといった問題を有していた。また、スパッタエッチングあるいはイオンプレーティングによる方法は、超真空下でアルゴンイオンなどを用いるエッチング方法で、そのエッチング深さはオングストロームのオーダーであり、ミクロンオーダーのエッチングを用いることは経済的ではない。
【0005】
また、特許文献3には、樹脂シートヘ金属材料を埋め込み、表裏に金属材料の一部を露出させた異方導電シート及びそれを用いた電子部品の接続が開示されている。しかしながら、樹脂シートに金属を埋め込むには十分樹脂を軟化させないと金属と樹脂の接着が不十分となり、更に金属のサイズが小さい場合には大面積に一定の押し圧をかける必要もあり工程的には無理があった。
【0006】
さらに、特許文献4には、樹脂フィルムに貫通孔を設け、表面に導電膜が形成された変形可能な球体を、フィルム両面から突出した状態で貫通孔に配置し、各接点を絶縁樹脂で充填した電気接続用コネクタが開示されている。しかしながら、フィルムに100μm以下の穴を多数設けること及びその穴に球体を配置することは極めて生産性の悪い工程であり、更に液状の絶縁樹脂を注入する作業も煩雑で、さらにはフィルムとの接着性も必要があり使える材料に制限が出てくるなどといった欠点の多い技術であった。
【0007】
また、特許文献5には、導電性粒子を粘着材面に粘着固定し、該粘着材と非相溶なフィルム形成樹脂を導電性粒子間に充填し、該フィルム形成樹脂を乾燥又は硬化後、フィルム形成樹脂から粘着材を剥離する異方導電性樹脂フィルム状成形物の製造法が開示されている。しかしながら、この技術では、粘着材に予め導電性粒子を固定することや、液状のフィルム形成樹脂をそこに充填する、硬化後粘着材を剥離するなど工程が煩雑である。また、実施例ではフィルム形成樹脂としてポリイミドをアルカリ水溶液で溶解させているが、この方法では使用できる樹脂に限りがあり、更に溶かしだす樹脂厚さもきわめて薄いものに限られるといった問題があった。
【0008】
さらに、特許文献6には、非導電性ベースと、この非導電性ベースにより互いに接触しない状態に保持されている導電性粒子とからなる混合体を導電性粒子の大きさにほぼ等しい厚さのシート状に成形した導電性接着シートが開示されている。 非導電ベースとしては、電気的に絶縁性で加熱することで溶融する材料が用いられる。この材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、低融点ガラスが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリ四フッ化エチレン、アクリルアミドが例示されている。しかしながら、その製法については全く開示されておらず、本発明者等による実験では、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属粒子をポリエチレンテレフタレート、ポリ四フッ化エチレン、アクリルアミドなどの樹脂中に混合し、この混合物によりフィルムを形成し、そのフィルムを研磨すると、いずれの場合にも、金属粒子が樹脂との界面から剥離して樹脂層に隙間が形成されたり、金属粒子が樹脂層から脱落してしまうといった問題を生じることを確認している。
【0009】
以上のような従来の導電性樹脂フィルムは、電気的接続部に接着することを目的としたフィルムであるため、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化性アクリル樹脂などの熱硬化性で接着性の良い樹脂が好適に用いられている。そのため、これらの樹脂と導電粒子の密着性は良好であるが、これらの樹脂からなるフィルムは水分透過率及び溶媒に対する耐性が劣っている。
【0010】
また、導電性樹脂フィルムには、オレフィン系熱可塑性樹脂や芳香族酸系ポリエステル樹脂を用いることもできるが、これらの樹脂からなるフィルムは、水分透過率及び溶媒に対する耐性は高いものの、金属粒子を配合した高分子フィルムとした場合には、高分子と金属粒子の密着性が乏しく、フィルム表面を研磨すると研磨によるストレスで樹脂との界面で金属粒子が剥離して樹脂層に隙間を生じたり、金属粒子が脱落するといった問題を有している。樹脂層に隙間が生じると、気体透過性や水分透過性が大幅に悪化したり、金属粒子が脱落したりすると、導電性が不安定となるため、その改善が求められている。
【0011】
【特許文献1】特開昭61−1888189号公報
【特許文献2】特開昭61−200616号公報
【特許文献3】特開平2−239578号公報
【特許文献4】特開平5−74512号公報
【特許文献5】特開平7−302666号公報
【特許文献6】特開昭51−21192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂に金属粒子を分散させた導電性フィルムに対して、フィルム表裏面を研磨しても樹脂との界面で金属粒子が剥離して樹脂層に隙間を生じたり、金属粒子が脱落することのない導電性樹脂フィルムを提供することにある。また、本発明の目的は、上記の導電性樹脂フィルムを、従来と全く同じ簡単な工程で製造する方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の導電性樹脂フィルムは、オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂である母材樹脂中に、極性基で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂で表面を被覆された金属粒子が分散された樹脂フィルムであって、上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの母材樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面が研磨されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の導電性樹脂フィルムの製造方法は、金属粒子と、極性基変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂とを予め混練する工程と、該混練物にオレフィン系樹脂又は芳香族酸系エステル樹脂である母材樹脂を混合し、押出し又は圧延にて上記金属粒子を分散させ、フィルムの厚さが上記金属粒子の厚さ方向の径より大きい樹脂フィルムを形成する工程と、上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面を研磨する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性樹脂フィルムによれば、オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂を母材樹脂として用いた場合にも、金属粒子が極性基変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂により被覆されているため、金属粒子と母材樹脂との密着性が向上され、研磨作業によるストレスを与えても、母材樹脂との界面で金属粒子が剥離して樹脂層に隙間を生じたり、金属粒子が脱落することがなく、これにより、水分透過率及び極性溶媒への耐性に優れた導電性樹脂フィルムが得られる。この構成においては、金属粒子の厚さ方向の径がフィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、フィルムの表裏面から露出することにより、フィルム自体を接着することなく、フィルム表面を軽く接触するだけで導通することができる。
【0016】
また、本発明の導電性樹脂フィルムの製造方法によれば、樹脂の押出しや圧延技術とフィルムの研磨技術という簡単な従来の作業で、上記の優れた特性を有する導電性樹脂フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の導電性樹脂フィルムは、金属粒子が母材樹脂中に分散され、金属粒子の厚さ方向の径がフィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、フィルムの表裏面から露出するように、フィルム表裏面が研磨されているが、金属粒子が被覆樹脂により被覆されていることが最大の特徴である。
【0018】
また、本発明においては、金属粒子は、母材樹脂中に均一分散され、フィルムの面方向に非接触となっていることが好ましい。このような構成によれば、樹脂フィルムの厚さ方向に導電性を有するが、フィルムの面方向に導電性を全く有さない、いわゆる、異方導電性が実現できる。ここで、本発明においては、導電性樹脂フィルムの中で厚さ方向にはほぼ1つの導電粒子が存在していることを「単一分散」と定義した。このように導電粒子を単一分散しその表面を研磨することで厚さ方向を導電性にすることができる。また、フィルムの面方向に導電粒子同士が接触していない状態を「面方向に非接触」と定義した。このように導電粒子がフィルムの面方向に非接触の状態にすることで面方向の導電性は全く無くなる。さらに、本発明においては、フィルムの表裏面から露出した金属粒子の表面が平坦化されるように、フィルム表裏面が研磨されていることが好ましい。
【0019】
本発明における金属粒子としては、電気的に良好な導体で、例えば、鉄、銅、銀、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、などの金属ないし合金粉末を用いることができる。金属粒子の形状は特に限定されるものではないが、樹脂フィルムの成形には略球状であることがより好ましい。この略球状には、真球状だけでなく、楕円状、円筒状、楕円柱状なども含まれ、さらには、小粒子が凝集して略球状になったものなども含まれる。
【0020】
本発明においては、粒子径にばらつきがある金属粒子を用いることもできるが、電気伝導に寄与する金属粒子の割合が増えるため、金属粒子の粒子径がそろっていることがより好ましい。粒子径がそろった金属粒子としては、予め粒子径の揃ったものを用いても良いし、分級により最大径をそろえたり、最大径と最小径をそろえるたものでもよい。また、金属粒子の粒子径は求めるフィルムの厚さで決まるが、例えばフィルム厚さを100μmを狙うのであれば、粒子の最大径は80〜95μmが好ましい。さらに、金属粒子の表面はブラスト処理で凹凸を設けることやメッキやケミカル処理などの樹脂とのアンカー効果などを狙い密着性を改善することもできる。
【0021】
本発明の導電性樹脂フィルムにおける母材樹脂は、オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂であることが必須である。これらの樹脂は、水分透過率が低く、しかもN−メチルピロリドン(NMP)のような極性溶媒で膨潤や溶解など無い優れた耐性を有する樹脂である。オレフィン系熱可塑性樹脂としては、結晶性の高い高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンを共重合したポリプロピレンが例示できる。また、芳香族酸系ポリエステルとしては、フタル酸エステル、ナフタレンジカルボン酸エステル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。フタル酸エステル及びナフタレンジカルボン酸エステルとしては、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートも好ましい。液晶ポリエステルとしては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸を縮合重合した芳香族系ポリエステルが、ガス透過性が低く耐溶媒性も良好であることから好適である。また、これらの熱可塑性樹脂は、フィルム化する時に1軸延伸や2軸延伸することで結晶性がさらに向上し、ガス透過性の低下や耐溶媒性の向上が図れ好ましい。
【0022】
本発明の導電性樹脂フィルムにおける被覆樹脂は、極性基で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂又はポリエステル樹脂であることが必須である。なお、極性基としては、エポキシ基、無水マレイン酸、水酸基、アミノ基、カルボン酸基、チオール基、アミド基、ウレタン基等が挙げられ、また、ジエン系樹脂としては、ブタジエン又はイソプレンのようなジエン系樹脂だけではなく、スチレン、アルファーメチルスチレンなどと共重合されたジエン系樹脂も含んでいる。
【0023】
より具体的に示すと、エポキシ基変性樹脂としては、住友化学社製のボンドファストとして販売されているエチレンとグリシジルメタクリレート(GMA)の共重合体、エチレンとGMAと酢酸ビニルの共重合体、エチレン、GMA、アクリル酸メチルの共重合体が例示される。また、ダイセル化学工業社製でエポフレンドとして販売されているスチレンとブタジエンのブロック共重合体及びその水添物を過酢酸で処理し分子中にエポキシ基を導入したものも例示できる。無水マレイン酸変性樹脂としては、三菱化学社製のモディックとして販売されているポリエチレンやポリプロピレンの無水マレイン酸変性樹脂、旭化成社製のタフテックとして販売されている無水マレイン酸変性水添スチレン−ブタジエン−ブロック共重合体や末端アミノ基変性水添スチレン−ブタジエン−ブロック共重合体も例示できる。クラレ社製のセプトンとして販売されている水酸基変性水添スチレン−イソプレン−ブロック共重合も用いることができる。また、三井デュポンポリケミカル社製のハイミランとして販売されているエチレン−メタクリル酸共重合体も用いることができる。
【0024】
これらの中で金属粒子との密着性と母材樹脂との相溶性及びフィルムの成形性から、母材樹脂がオレフィン系熱可塑性樹脂の場合、被覆樹脂はエポキシ基変性、無水マレイン酸変性、またはカルボン酸変性のオレフィン系熱可塑性樹脂とジエン系水添ブロック共重合体であることが好ましい。さらに、母材樹脂が芳香族酸系エステル樹脂の場合、被覆樹脂は、エポキシ基変性、無水マレイン酸変性のオレフィン系熱可塑性樹脂とジエン系水添ブロック共重合体であることが好ましい。
【0025】
また、被覆樹脂による金属粒子の被覆の方法は、被覆樹脂と金属粒子を加圧ニーダーや2軸押出し機により混練する方法、または、被覆樹脂の溶液に金属粒子を浸漬した後に乾燥する方法も採用できる。本発明においては、これらの中で加圧ニーダや2軸押出し機により混練を行いペレタイザーにてペレット化する方法が生産性が高く望ましい。
【0026】
さらに、被覆樹脂は、極性基を持っているため、極性溶剤であるNMPなどに対し膨潤や浸透しやすく、特に高い温度においては溶解する場合がある。そのため、本発明の導電性樹脂フィルムがNMPと接する環境で使用されると、NMPの浸透や、樹脂フィルムの強度低下や波うちなど変形が生じてしまう。したがって、母材樹脂に対する被覆樹脂の配合割合は、少ないほうが好ましく、母材樹脂100部に対して0.1部〜30部であることがより好ましく、1〜20部であることが最も好ましい。被覆樹脂の配合割合がこの範囲であると、金属粒子の脱粒等も抑えられ、且つNMPに対して樹脂フィルムの膨潤や変形も生じない。
【0027】
本発明の導電性樹脂フィルムの製造方法は、金属粒子と、極性基変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂とを予め混練する工程と、該混練物にオレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系エステル樹脂である母材樹脂を混合し、押出し又は圧延にて上記金属粒子を分散させ、フィルムの厚さが上記金属粒子の厚さ方向の径より大きい樹脂フィルムを形成する工程と、上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面を研磨する工程とを備えている。
【0028】
上記の予備混練する工程においては、金属粒子と被覆樹脂とを予め混練することにより、次工程の樹脂フィルムを形成した際に、金属粒子が被覆樹脂で被覆された構成とすることができる。次の樹脂フィルム形成工程においては、上記の混練物に母材樹脂をさらに混練した後、フィルム厚さを金属粒子の径より5〜50%厚めに設定して、押出し機にてTダイスより押出しを又はカレンダーロールにて圧延を行い、フィルム状に成形する。この際、押出しにおいてダイスのリップ幅を金属粒子の粒子径より5〜50%厚めに設定することで金属粒子を単一分散させることができる。さらに、押出し後にフィルムを延伸することにより金属粒子の単一分散が促進されるので研磨による金属表面の樹脂を除去しやすくなるメリットがある。このような工程により、樹脂中に金属粒子が単一分散され、金属粒子同士をフィルムの面方向に非接触とすることができる。
【0029】
また、本発明においては、金属粒子を母材樹脂に対して0.1〜20体積%範囲で配合することが好ましい。金属粒子の配合量が0.1体積%以下であると、抵抗値が上昇し、導電性が低下してしまう。一方、配合量が20体積%を越えると、フィルムの厚さが金属粒子の径よりもはるかに厚くなり、研磨により厚さを整えたとしても金属粒子の樹脂からの脱粒が生じやすくなりフィルムに空隙が生じるので好ましくない。フィルムの厚さを金属粒子の径よりも1〜3割高めに調整でき、研磨による脱粒の起こりにくく、導電性も優れた最も好ましい金属粒子の樹脂に対する配合割合は、0.5〜3.0体積%である。また、ダイスを用いた押出し成形の場合、Tダイスより押出されたフィルムは引き取りロールにて押し圧をかけることが望ましい。
【0030】
次いで、上記工程により形成された樹脂フィルムにおいては、フィルムの厚さが金属粒子の厚さ方向の径より大きいため、金属粒子の厚さ方向の径がフィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、フィルムの表裏面から露出した金属粒子の表面が平坦化されるように、次のフィルム表裏面の研磨工程により、樹脂フィルムを研磨する。
【0031】
研磨方法には水をかけながら研磨する湿式研磨と、水をかけない乾式研磨の二つがある。本発明においては、湿式研磨は水により研磨熱が冷やされるためフィルムが熱により変形しにくく好ましい。また、研磨には、バフ研磨、研削ベルトによる研磨、研磨紙をロール状にしたロール研磨があるが、本発明では導電性樹脂フィルムの樹脂部の厚さが金属粒子の厚さ方向の径よりも薄くできるバフ研磨ないしは研削ベルトによる研磨が好ましい。さらに、バフ研磨に用いるバフ材は硬度の柔らかいものが好ましく、研削ベルトによる場合はコルクのような柔らかい材料を用いた研削ベルトを用いるか、被研磨物の下に柔らかいゴム材を敷くと、導電性樹脂フィルムの厚さ制御を効果的に行なうことができ好ましい。このように導電性樹脂フィルムの樹脂部の厚さを金属粒子の厚さ方向の径よりも薄くすることで体積抵抗率が安定して20Ωcm以下に制御できる。
【0032】
また、本発明においては、上記研磨工程により、樹脂フィルム中に配合された金属粒子がフィルムの表裏面から露出され、この露出された金属粒子の表面がさらなる研磨により平坦化されて、接触面積が広くなるため、抵抗値が低減され、金属粒子の添加量が少なくても導電性が達成できる。さらに、この金属粒子の平坦化は、使用する金属粒子の直径が多少ばらついていても研磨で頭出しができるため、金属粒子の選択の幅が広いといった効果も奏する。また、本発明の導電性樹脂フィルムの製造方法においては、金属粒子の添加量を低減することができ、さらには、粒子径を大きく、形状を略球状とすることで、樹脂フィルム形成材料の粘度を低く抑えることができ、押出しにて極めて薄いフィルムを製造することができる。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
メルトフローレート3.2g/10分の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(商品名:モディックP604V、三菱化学社製)を被覆樹脂として用い、この被覆樹脂100部に、ステンレスSUS304の球状ビーズを90〜106μmに分級した金属粒子100部を混合し、これを2軸押出し機(商品名:HK−25D、L/D=41、パーカーコーポレーション製)を用いて混練してペレットを得た。得られた混練ペレットを100℃で3時間乾燥した。
【0034】
次いで、メルトフローレート2.4g/10分のポリプロピレン樹脂(商品名:FY6C、三菱化学社製)を母材樹脂として用い、この母材樹脂90部に、上記の混練ペレット20部をドライブレンドし、Tダイ押出し機(創研社製、L/D=38、ダイ幅300mm)にて、スクリュー温度:200℃、ダイスのリップ幅:140μmで押出し、導電性樹脂フィルムを得た。得られた導電性樹脂フィルムは厚さが120μmであり、この状態の体積抵抗率は1015Ωcmのオーダーであった。
【0035】
続いて、導電性樹脂フィルムの表裏面に対して、研磨装置(商品名:10P600、石井表記社製)及びバフ(商品名:スコッチブライトHDSFフラップブラシ、住友スリーエム社製)を用いて研磨を行ない、本発明の実施例1の導電性樹脂フィルムを作製した。研磨された実施例1の導電性樹脂フィルムは、厚さ105μm、体積抵抗率6Ωcmであり、体積抵抗を飛躍的に低減させることができた。
【0036】
上記のようにして製造された実施例1の導電性樹脂フィルムついて、研磨後の導電性樹脂フィルム表面の電子顕微鏡写真を図1及び2に示した。なお、図1は真上から撮影した写真、図2は60°斜め上方から撮影した写真であり、(a)は倍率100倍、(b)は倍率300倍の写真である。これらの図1及び2から明らかなように、研磨後は金属粒子の表面の樹脂が研削されてなくなり、金属粒子の厚さ方向の径がフィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、フィルムの表裏面から露出した金属粒子の表面が平坦化されていることが観察された。
【0037】
また、本発明の実施例1の導電性樹脂フィルムについて、金属粒子の脱落や空隙が生じているか試験するためにエタノール浸透試験を行った。このエタノール浸透試験は、白い紙の上に置いた10cm角のフィルムの表面において、エタノール液を浸したガーゼを往復10回こすりつけ、白い紙に液体の滲み(シミ)が観察されるか否かを観察する試験である。その結果、実施例1の導電性樹脂フィルムでは、シミは全く観察されず、金属粒子の脱粒などが生じていないことが示された。さらに、この導電性樹脂フィルムの表面において、NMPを滴下して100℃にて浸透性や溶解性、フィルム変形などを観察したが、全く変化がなく、NMPに対しても優れた耐性を有することが示された。なお、水分透過率は10g/m/日であった。
【0038】
<実施例2>
メルトフローレート7g/10分のエポキシ変性のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(商品名:エポフレンドAT501、ダイセル化学社製)を被覆樹脂として用い、この被覆樹脂10gを酢酸エチル100gに溶解し、これにステンレスSUS304の球状ビーズを浸漬して、被覆樹脂を被覆させ、乾燥後、被覆樹脂が球状ビーズに対し10%被覆された被覆ビーズを得た。
【0039】
次いで、実施例1と同様のポリプロピレンを母材樹脂として用い、この母材樹脂100部に上記被覆ビーズ11部をドレイブレンドした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の導電性樹脂フィルムを製造した。なお、得られた導電性樹脂フィルムは、厚さが研磨前で140μm、研磨後で105μmであった。さらに、体積抵抗率は研磨前で1015Ωcm、研磨後で10Ωcmであり、体積抵抗を飛躍的に低減させることができた。また、実施例1と同様に、実施例2の導電性樹脂フィルムの表面を電子顕微鏡で撮影したところ、研磨による導電粒子の脱粒が無いことが確認された。さらに、エタノール浸透試験では全くシミは観測されず、また、NMPに対しても優れた耐性を有することが示された。
【0040】
<実施例3>
ポリエチレンテレフタル酸エステル樹脂である(商品名:SA1346P、ユニチカ社製、溶融粘度IV値1.09)母材樹脂として用い、この母材樹脂100部に、実施例2で用いた被覆ビーズ11部をドライブレンドした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の導電性樹脂フィルムを製造した。なお、得られた導電性樹脂フィルムは、厚さが研磨前で120μm、研磨後で105μmであった。さらに、体積抵抗率は研磨前で1014Ωcm、研磨後で19Ωcmであり、体積抵抗を飛躍的に低減させることができた。また、実施例1と同様に、実施例3の導電性樹脂フィルムの表面を電子顕微鏡で撮影したところ、研磨による導電粒子の脱粒が無いことが確認された。さらに、エタノール浸透試験では全くシミは観測されず、また、NMPに対しても優れた耐性を有することが示された。
【0041】
<比較例1>
メルトフローレート2.4g/10分のポリプロピレン(商品名:FY6C、日本ポリプロ社製)を母材樹脂として用い、この母材樹脂100部に、ステンレスSUS304の球状ビーズを90〜106μmに分級した金属粒子100部を混合し、これを2軸押出し機(パーカーコーポレーション製HK−25D、L/D=41)を用いて混練してペレットを得た以外、実施例1と同様な方法で比較例1の導電性樹脂フィルムを得た。すなわち、比較例1の導電性樹脂フィルムにおける金属粒子は何も被覆されていない構成とした。なお、得られた導電性樹脂フィルムは、厚さが研磨前で120μm、研磨後で100μmであった。さらに、体積抵抗率は研磨前で1015Ωcm、研磨後で10Ωcmであり、体積抵抗を低減させることができた。
【0042】
しかしながら、上記のようにして製造された比較例1の導電性樹脂フィルムついて、研磨後の導電性樹脂フィルム表面の電子顕微鏡写真を図3及び4に示したが、比較例1の導電性樹脂フィルムでは、研磨により金属粒子が母材樹脂の層から脱離してしまっていることが観察された。なお、図3は真上から撮影した写真、図4は60°斜め上方から撮影した写真であり、(a)は倍率100倍、(b)は倍率300倍の写真である。また、得られた比較例1の導電性樹脂フィルムに対するエタノール浸透試験では、10cm角のサンプルで2箇所のエタノールの浸透が観察され、金属粒子の脱落や空隙が生じていることが観測され、被覆樹脂を用いない場合には金属粒子の脱粒などが生じていることが示された。
【0043】
<比較例2>
ポリエチレンテレフタル酸エステル樹脂(商品名:SA1346P、ユニチカ社製、溶融粘度IV値1.09)を被覆樹脂として用いた以外は、実施例2と同様にして、被覆ビーズを作製し、被覆樹脂と同様のポリエチレンテレフタル酸エステル樹脂(商品名:SA1346P、ユニチカ社製、溶融粘度IV値1.09)を母材樹脂として用い、この母材樹脂90部に、上記被覆ビーズ20部をドライブレンドした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の導電性樹脂フィルムを製造した。なお、得られた導電性樹脂フィルムは、厚さが研磨前で140μm、研磨後で105μmであった。さらに、体積抵抗率は研磨前で1014Ωcm、研磨後で19Ωcmであった。
【0044】
しかしながら、上記のようにして製造された比較例2の導電性樹脂フィルムついて、研磨後の導電性樹脂フィルム表面の電子顕微鏡写真を図5に示したが、比較例2の導電性樹脂フィルムでは、研磨により母材樹脂との界面層から金属粒子が剥離して隙間が生じていることが観察された。なお、図5は真上から撮影した写真であり、(a)は倍率300倍、(b)は倍率1000倍、(c)は倍率3000倍の写真である。また、エタノール浸透試験においては、シミが発生し、金属粒子の脱落や空隙が生じていることが観測され、被覆樹脂が本発明に規定されたものでない場合には金属粒子の脱粒などが生じていることが示された。
【0045】
<比較例3>
メルトフローレート3.2g/10分の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(商品名:モディックP604V、三菱化学社製)を母材樹脂として用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の導電性樹脂フィルムを製造した。なお、得られた導電性樹脂フィルムは、厚さが研磨前で140μm、研磨後で105μmであった。さらに、体積抵抗率は研磨前で1015Ωcm、研磨後で10Ωcmであり、体積抵抗を低減させることができた。また、エタノール浸透試験においても全くシミは観測されなかった。しかしながら、比較例3の導電性樹脂フィルムでは、NMPに対しては、フィルムが膨潤し、しかも、水分透過率が100g/m/日と悪化した。すなわち、被覆樹脂と母材樹脂がともに極性基で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかを用いた場合には、母材樹脂の極性が高いためNMPのような極性溶媒に対する抵抗性が劣ることが示された。
【0046】
<実施例4〜7>
メルトフローレート7g/10分のエポキシ変性ポリエチレン樹脂(商品名:ボンドファースト7M、住友化学社製)を被覆樹脂として用い、この被覆樹脂及びステンレスSUS304の球状ビーズを90〜106μmに分級した金属粒子を表1に示す比率で混合し、2軸押出し機(商品名:HK−25D、L/D=41、パーカーコーポレーション製)を用いて混練しペレットを得た。次いで、ポリプロピレン樹脂(商品名:FY6C、三菱化学社製)を母材樹脂として用い、この母材樹脂及び上記の混練ペレットを表1に示す比率で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜7の導電性樹脂フィルムを得た。なお、得られた導電性樹脂フィルムの研磨後の厚さ及び体積抵抗率並びにエタノール浸透試験及びNMPへの耐性についても表1に示した。
【0047】
その結果、被覆樹脂を配合比率が、母材樹脂100部に対して5又は20部である実施例4及び5では、金属粒子の脱粒等が抑えられ、優れた特性が得られたのに対して、配合比率が30又は40部である実施例6及び7では、NMPに対する耐性が低下してくることが示された。
【0048】
【表1】



【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1の導電性樹脂フィルムの研磨後の表面を真上から撮影した電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1の導電性樹脂フィルムの研磨後の表面を斜め上方から撮影した電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1の導電性樹脂フィルムの研磨後の表面を真上から撮影した電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1の導電性樹脂フィルムの研磨後の表面を斜め上方から撮影した電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2の導電性樹脂フィルムの研磨後の表面を真上から撮影した電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系ポリエステル樹脂である母材樹脂中に、極性基で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂で表面を被覆された金属粒子が分散された樹脂フィルムであって、上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの母材樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面が研磨されていることを特徴とした導電性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記金属粒子は、前記母材樹脂中に単一分散され、前記フィルムの面方向に非接触であることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記金属粒子は、前記フィルムの表裏面から露出した表面が平坦化されていることを特徴とした請求項1又は2に記載の導電性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記被覆樹脂は、前記母材樹脂100部に対して0.1〜30部の配合比率であることを特徴とした請求項1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂フィルム。
【請求項5】
金属粒子と、極性基変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂、ジエン系樹脂、水添ジエン系樹脂及びポリエステル樹脂のいずれかである被覆樹脂とを予め混練する工程と、
該混練物にオレフィン系熱可塑性樹脂又は芳香族酸系エステル樹脂である母材樹脂を混合し、押出し又は圧延にて上記金属粒子を分散させ、フィルムの厚さが上記金属粒子の厚さ方向の径より大きい樹脂フィルムを形成する工程と、
上記金属粒子の厚さ方向の径が上記フィルムの樹脂部の厚さより大きく、且つ、上記フィルムの表裏面から露出するように、上記フィルム表裏面を研磨する工程とを備えることを特徴とした導電性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記金属粒子は、前記母材樹脂中に単一分散され、前記フィルムの面方向に非接触とすることを特徴とする請求項5に記載の導電性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記金属粒子は、前記フィルムの表裏面から露出した表面が平坦化されることを特徴とする請求項5又は6に記載の導電性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−153307(P2010−153307A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332702(P2008−332702)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】