説明

導電性樹脂成形物の製造方法

【課題】金属を用いなくても高導電性(低体積固有抵抗値)を発現し、柔軟性に優れる薄膜状の導電性樹脂成形物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)、導電性ポリアニリン(B)、導電性炭素(C)、及び溶媒又は分散剤(D)を含む導電性樹脂組成物をキャスト法により製膜し,溶媒又は分散剤(D)を除去してなる導電性樹脂成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体として金属を含有しないにも関わらず極めて高い導電性能を発現し、かつ柔軟性を有する薄膜状の導電性樹脂成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂は絶縁性に優れた材料として有効活用されてきたが、近年、技術の発展と共に様々な分野で樹脂製品に導電性が求められており、帯電防止、電磁波シールド、静電塗装性を発現させるための導電性付与のための様々な試みがなされている。一般的な手法として、樹脂にカーボンブラックや金属といった導電体を配合することにより、導電性の樹脂組成物及び成形品が得られることが知られており、更に耐食性を兼ね備えた高分子材料の開発が求められている。
例えば、水系電解液を用いる電気二重層コンデンサーにおいては、より高い出力電圧を得る目的で、複数のコンデンサーを、直列や並列にて接続し使用する場合がある。しかし、これらコンデンサーを複数接続してなる複合体は、複合体全体が有する内部抵抗が大きくなってしまい、低い出力電流しか得られない場合がある。このようなことから、個々のコンデンサーが有する内部抵抗を出来るだけ小さくすることが望まれている。また、電解液として25〜50%程度の硫酸水溶液を使用するため、集電体に対しては同時に耐食性も要求されている。
導電性樹脂成形物中に含まれる導電体に金属を用いたものは、酸性環境下では導電性が不安定であるという欠点があり、耐食性の良い貴金属を用いると極めて高価になるという問題がある。
【0003】
上記解決手段の一つとして、耐食性のある導電性炭素を用いる手段が挙げられる。しかし、炭素系の導電材料は金属に比べて導電性がやや低く、充分な導電性が得られないという欠点があるため高導電性を得るためには、多量の導電体を樹脂成形物中に配合する必要がある。炭素材料にはさまざまな炭素がありその組み合わせにより高導電性を発現させる検討もなされている。しかし、高濃度添加でも高い導電性の発現には限界があり、さらにこれにより得られる成形品の機械物性が低下することが2次的な問題となってきていた。
そこで、機械物性と導電性のバランスをとるために、炭素繊維とカーボンブラックを熱可塑性樹脂に配合した導電性繊維強化複合材料(特許文献1)や、ガラス繊維で強化した繊維強化複合材料にカーボンブラックを配合した電気的性質の優れた熱可塑性樹脂組成物(特許文献2)などが提案されている。
しかし、これらの技術では、剛性や弾性率は向上するが、一方において柔軟性が低下する。つまり、例えば成形品をフィルム状にしても形状を自由に変形することができるといった樹脂本来の特徴を失ってしまい用途が限られてしまう。また、特許文献3にあるようなガラス繊維のチョップドストランドを通常の押出機を使用して混練する方法では、繊維が混練工程で短く切断され、これを更に射出成形することにより繊維は更に短く破損することとなり、この結果、剛性や弾性率の向上は図れても、耐衝撃性の向上効果は得られず、用途に限りが生じるという問題があった。
【0004】
また、カーボン以外の非金属導電体として、導電性高分子がある。導電性高分子には、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、などがある。その中でもポリアニリンは他の導電性高分子に比べ安価に製造することができ、発展性が期待されている物質である。ポリアニリンは化学的に安定であって、プロトン等が付加された、いわゆるドープされた形態で良好な導電性を有することが知られている。例えば、特許文献4では、ポリアニリンまたはその誘導体とプロトン酸を接触させ、その接触時または接触後に金属化合物を添加することによって、良好な熱可塑性導電性プラスチックを得ている。
【0005】
本発明者らは、高い導電性を有する導電性炭素及び導電性ポリアニリンを組み合わせて用いることにより、導電体として導電性炭素のみを含む樹脂成形物、または、導電性ポリアニリンのみを含む樹脂成形物と比較して、導電体が予想外の相乗効果により極めて高い導電性を発現できることを見出した(特許文献5)。すなわち、導電性炭素に比べ分散性に優れている導電性高分子を利用することにより、点在している導電性炭素間の導電性を高めることができ、効率的に樹脂成形物内部の導電性回路を形成することができ、更に付随的に、導電性炭素が有する本来の導電性を十分に発揮し、かつ柔軟性といった熱可塑性樹脂本来の性能を損なわない樹脂含有量範囲で高い導電性を得ることができた。
【0006】
このように、特許文献5で開示されている導電性樹脂成形物は、導電性が高く柔軟性も良好であるものの、導電性樹脂組成物の溶融粘度が非常に高いため、フィルム等の厚みの薄い成形体を得ることは実際的には困難である。また、同文献に開示されている成形物の導電性のレベルは体積固有抵抗値で10Ω・cm前後であり、導電性を高めるには、成形物を水に浸漬するかまたは水で洗浄して、成形物中に含まれる過剰の分散剤を除去することが必要である。また、更に高い導電性を得るには、洗浄後の成形物を塩酸等のドーパントを含有する溶液に浸漬するかまたは当該溶液で洗浄することが必要とされる。このように、高いレベルの導電性を得るには、分散剤の水での洗浄、及び再ドープという追加的な工程が必要となり、工程全体が複雑で手間がかかるものとならざるを得なかった。他方、このような追加工程をなくすためには、ドデシルベンゼンスルホン酸などを過剰量添加しないことが考えられるが、その場合には、導電性組成物を溶融混練すること自体が困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−116818号公報
【特許文献2】特公昭51−45297号公報
【特許文献3】特開平10−158443号公報
【特許文献4】特開平7−258559号公報
【特許文献5】特開2010−90222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属を用いなくても高導電性(低体積固有抵抗値)を発現し、柔軟性に優れる薄膜状の導電性樹脂成形物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂、導電体として導電性ポリアニリンと導電性炭素を溶媒又は分散剤に溶解・分散させることにより、溶液又は分散液の粘度調整が可能となり、キャスト法により厚みの薄い成形物を得ることができることを知見した。更に、溶媒又は分散剤がポリアニリン−ドーパントの分散剤としての役割も果たし、成形物中での導電性ポリアニリンの分散性を高めることができ、高いレベルの導電性を有する薄膜状成形物を得ることができることを見出した。
しかして、本発明は、
(1)熱可塑性樹脂(A)、導電性ポリアニリン(B)、導電性炭素(C)、及び溶媒又は分散剤(D)を含む導電性樹脂組成物をキャスト法により製膜し,溶媒又は分散剤(D)を除去してなる導電性樹脂成形物の製造方法、
(2)前記導電性ポリアニリン(B)が,ポリアニリンをドーパントによりドープしてなる(1)に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(3)前記ドーパントが炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)を含んでなる(2)に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(4)前記導電性樹脂組成物が,導電性ポリアニリン(B)及び炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)を予め溶融混練してなる組成物と,熱可塑性樹脂(A)及び導電性炭素(C)を予め溶融混練してなる組成物と,溶媒又は分散剤(D)とを混合してなる(3)に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(5)前記炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)がドデシルベンゼンスルホン酸(e)を含んでなる(3)又は(4)に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(6)導電性炭素が導電性炭素繊維を含んでなる(1)〜(5)のいずれか1に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(7)導電性炭素繊維の径が100nm以下である(6)に記載の導電性樹脂成形物の製造方法、
(8)(1)〜(7)に記載の製造方法により得られる成形物であって、体積固有抵抗値が1×10Ω・cm以下である導電性樹脂成形物、
(9)厚みが1mm未満である(8)に記載の導電性樹脂成形物、
(10)導電性樹脂成形物中における導電性炭素(C)の量が50質量%以下である(8)又は(9)に記載の導電性樹脂成形物、に関るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法を用いることにより、従来技術では製造することが困難であった厚みの薄い(例えば、1mm未満)導電性樹脂成形物を得ることができる。更に、本発明の製造方法においては、溶媒又は分散剤がポリアニリン−ドーパントの分散剤としての役割も果たし、成形物中での導電性ポリアニリンの分散性を高めることができ、高いレベルの導電性を有する薄膜状の成形物を得ることができる。従って、本発明により、従来技術で必要とされた、成形物を水に浸漬または洗浄するといった追加的な工程を用いなくても、高導電性を発現し、柔軟性に優れる薄膜状の導電性樹脂成形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1 VGCF含有量と体積固有抵抗値の関係
【図2】導電性樹脂成形物のモルフォロジー観察結果(A1法で導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を調製)
【図3】導電性樹脂成形物のモルフォロジー観察結果(B1法で導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を調製)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の導電性樹脂成形物の実施の形態を詳細に説明する。
[(A)熱可塑性樹脂]
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、溶液又は分散液のキャスト法に使用できる様々な熱可塑性樹脂を用いることができる。たとえばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド類、ポリスチレン、ポリスチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0013】
このうち、熱可塑性樹脂でもオレフィン系樹脂が柔軟性、汎用性の観点から特に有用である。オレフィン系樹脂としては特に制限はなく、様々なオレフィン系樹脂を用いることができる。たとえば、エチレンの単独重合体;エチレンを主成分とした、プロピレン、1−ブテン等の他のα−オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のビニル単量体等の1種又は2種以上との共重合体等のエチレン系樹脂;プロピレンの単独重合体;プロピレンを主成分とした、エチレン、1−ブテン等の他のα−オレフィン等の1種又は2種以上との共重合体等のプロピレン系樹脂;1−ブテンの単独重合体;1−ブテンを主成分とした、エチレン、プロピレン等の他のα−オレフィン等の1種又は2種以上との共重合体等のブテン系樹脂;等が挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、単独重合体であっても、共重合体でも良く、また、ランダム共重合体であっても良いし、ブロック共重合体であっても良い。
なお、上記の「主成分」とは、共重合体の構成成分中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上含まれるものを指す。
オレフィン系樹脂の重合方法は、樹脂状物が得られる限り、如何なる重合方法を採用しても差し支えないが、気相法、溶液法であるものが特に好ましい。
本発明の導電性樹脂成形物には、ポリオレフィン系樹脂はその1種のみが含まれていても良く、2種以上が混合して含まれていても良い。
熱可塑性樹脂中ポリオレフィン系樹脂は50〜100質量%であるのが好ましい。更に熱可塑性樹脂中エチレン系樹脂が50〜100質量%であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、熱可塑性樹脂として、ポリスチレン共重合体も好適に使用することができる。ポリスチレン共重合体の中でも、とりわけ、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIR)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)などの熱可塑性エラストマーが、成形物の強度を向上できることから特に好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂の含有量は導電性樹脂成形物中30〜85質量%、更に好ましくは30〜75質量%である。含有量が多いと高導電性を得られず、少ないと柔軟性の低下が著しくなり脆くなる。
【0016】
[(B)導電性ポリアニリン]
本発明で用いる導電性ポリアニリンは、構成単位の基本骨格がアニリン及び/またはアニリン誘導体であれば特に制限はない。導電性ポリアニリンとしては、ドーパントによりドープされたポリアニリンが挙げられる。
該ドーパントとしては、導電性ポリマーのベースとなるπ共役高分子化合物等をドープすることができるドーピング剤であれば任意のものが使用でき、特に限定されないが、その具体例としては、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素などのハロゲン化合物;硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸などのプロトン酸;これらプロトン酸の各種塩;三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素、五フッ化アンチモンなどのルイス酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、ポリエチレンカルボン酸、ギ酸、安息香酸などの有機カルボン酸;これら有機カルボン酸の各種塩;フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノールなどのフェノール類;これらフェノール類の各種塩;ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物などの有機スルホン酸;これら有機スルホン酸の各種塩;ポリアクリル酸などの高分子酸;プロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、ヘキシルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステル;これらリン酸エステルの各種塩;ラウリル硫酸エステル、セチル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル、ラウリルエーテル硫酸エステルなどの硫酸エステル;これら硫酸エステルの各種塩;等が挙げられる。
これらの中でも、プロトン酸、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸、リン酸エステル、硫酸エステル、これらの各種塩であるのが好ましく、具体的には、塩酸、硝酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、樟脳スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物、これらの金属塩等各種塩であるのが好ましい。
また、上記一次ドーパントと呼ばれるものに、二次ドーパントと呼ばれる置換フェノール誘導体を含んでもよい。
【0017】
本発明においては、ドーパントは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ドーパントには樹脂との混合性をよくするために炭素数6以上のアルキル基を有する酸、特に炭素数6以上のアルキル基を有するスルホン酸またはこれらの金属塩をドーパント中に50〜100質量%含むのが好ましい。また、ドーパントがドデシルベンゼンスルホン酸またはその金属塩を50〜100質量%含むのがより好ましい。
ドーパントの添加量は、導電性樹脂成形物中の導電性ポリアニリン中の窒素原子(ただし、ドーパント由来の窒素原子を含まない)とドーパント(導電性ポリアニリンのドーピングに使用されず該成形物中に存在しているドーパントも含む)の量比がモル比で窒素原子:ドーパント=1:0.001〜1:15好ましくは1:0.5〜1:3であるのがドーパントとして役割を果たす最適値なので好ましい。
本発明の導電性樹脂成形物には、導電性ポリアニリンは、その1種のみが含まれていても良く、2種以上含まれていても良い。
導電性ポリアニリンの導電性樹脂成形物中の含有量は0.9〜10質量%である。なお、導電性ポリアニリンがドーパントによりドーピングされたものである場合は、前記の導電性ポリアニリンの含有量には、導電性ポリアニリンのドーパント由来部は含まれない。
導電性ポリアニリンの含有量が少ないと優れた導電性が得られず、多すぎると柔軟性の低下が著しくなり脆くなる。含有量が1.5〜10質量%であると導電性がより良好となるので好ましい。
【0018】
[(C)導電性炭素]
本発明で用いる導電性炭素としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックの他、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブやカーボンナノワイヤー等の導電性炭素繊維等が挙げられる。これらを1種又は2種以上使用してもよい。これらの中では、少量の添加で導電性付与効果が出る高導電性の、アセチレンブラックやファーネスブラックや導電性炭素繊維等が好ましい。さらに好ましくは、高導電性で、且つ他の導電体との接触効率の高い高アスペクト比を有することから導電性炭素繊維が好ましい。繊維状導電体を用いて導電性樹脂成形物を製造する時、導電体そのものの導電性が同じならば、導電性は導電体が細く長い方が導電体同士が接触しやすいため導電性は優れた結果となる。導電性炭素繊維の例としては気相成長炭素繊維、シングルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性炭素繊維の径に特に制限はなく、その製造様式は繊維状物が得られる限り、如何なる製造様式を採用しても差し支えない。導電性炭素を含有する導電性樹脂成形物において、成形物の導電性能に大きな影響を与える要因として導電体の接触が挙げられる。成形物中において導電体の接触が多いほど導電性は優れる。そのため、導電性炭素繊維のような高アスペクト比を有する導電性炭素を用いるほうが成形物中で効率よく導電回路が形成されるため好ましい。
また、導電性炭素繊維の径は、200nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。径が100nm以下であると導電性炭素繊維の分散性が向上し、高い導電性を得ることが可能である。
本発明の導電性樹脂成形物には、導電性炭素は、その1種のみが含まれていても良く、2種以上が混合して含まれていても良い。導電性炭素は導電性炭素繊維を50〜100質量%含有するのが好ましい。
導電性炭素の含有量は該成形物中6〜60質量%であることが好ましい。含有量が少ないと極めて高い導電性が得られず、多いと柔軟性の低下が著しくなり脆くなる。導電性炭素の含有量は12〜60質量%であると成形物の導電性と柔軟性が良好となるのでより好ましい。
【0019】
なお、本発明が対象とする導電性材料として極めて優れた体積固有抵抗値は、10(Ω・cm)以下を指す。一般的には10(Ω・cm)以下、10(Ω・cm)以上の導電性材料を静電防止材と呼び、10(Ω・cm)以下、10(Ω・cm)以上を導電性材料、10(Ω・cm)以下を高導電性材料という。例えば自動車部品では10(Ω・cm)以下、10(Ω・cm)以上の静電防止材領域が、電極用材料では10(Ω・cm)以下、10(Ω・cm)以上の導電性材領域が一般的に必要とされる。中でも10−1(Ω・cm)以下となると従来、金属の使用により得ていた極めて高い導電性能になる。
【0020】
また、本発明においては、後述するように、導電性炭素の含有量が50質量%程度であっても体積固有抵抗値が10−1(Ω・cm)以下とすることが可能である。したがって、成形物の柔軟性を保持しながら高いレベルの導電性を実現するためには、導電性樹脂成形物中の導電性炭素の含有量は50質量%以下であることが好ましい。
【0021】
[(D)溶媒又は分散剤]
本発明で使用できる溶媒又は分散剤は、使用する熱可塑性樹脂を溶解又は分散し、キャスト可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アニソール、ジエチルエーテル等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、キシレン、エチルトルエン等の芳香族系溶剤、塩化メチレン、クロルベンゼン等の含ハロゲン系溶剤、テトラヒドロフラン等の複素環式化合物系溶剤等が挙げられ、これらを2種以上混合して用いることもできる。本発明では、導電性ポリアニリンを溶解させる点から、トルエンを好適に使用することができる。
【0022】
[その他の成分]
本発明の導電性樹脂組成物は、上記成分(A)〜(D)を必須成分として含有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、他の樹脂(エラストマー(ゴム)を含む)、添加剤、充填材等の成分を含有していても構わない。ただし、導電性樹脂成形物中には、前記(A)〜(C)の必須成分を合計で50質量%以上含んでいることが好ましく、70質量%以上含んでいることが特に好ましい。
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、分散剤、難燃剤、導電性高分子用ドーパント、着色剤の他、熱可塑性樹脂に通常用いられる各種添加剤等を挙げることができる。
このうち酸化防止剤としては、例えば、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、フェニレンジアミン系のもの等が挙げられる。これらの中では、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系の酸化防止剤が、酸化防止効果が高いことから好ましい。酸化防止剤を使用する場合は、成分(A)〜(C)の合計量に対し、通常、0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%用いる。酸化防止剤が0.01質量%以上であると、酸化防止剤の使用による酸化防止効果が有効に発現しやすく、また、5質量%以下である方が、使用量に見合った効果が得られ経済的である。
また、前記充填材としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、チタニア、炭酸カルシウムの他、熱可塑性樹脂に通常用いられる各種充填剤等を挙げることができる。
【0023】
前記導電性高分子用ドーパントとしては、先述したものを挙げることができる。特に、ポリアニリンのドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸が優れており、ドーパントとしての機能としての他、樹脂との分散剤としての機能も持つ。またドデシルベンゼンスルホン酸以外に、ドデシルスルホン酸やカンファースルホン酸といった長鎖アルキル基を有するスルホン酸が挙げられる。
【0024】
[導電性樹脂組成物の調製方法]
本発明において、導電性樹脂組成物の調製方法は特段限定されず、種々の方法で調製することができ、例えば、熱可塑性樹脂、導電性炭素、導電性ポリアニリン、及び添加する場合はドーパントを溶媒又は分散剤に溶解、分散させて調製することがきる。また、導電性ポリアニリンとドーパントを予め混合又は混練し、得られた組成物(混練組成物)と、熱可塑性樹脂及び導電性炭素とを溶媒又は分散剤に溶解、分散して導電性樹脂組成物を調製することができる。更に、導電性樹脂組成物中での各成分の分散性を高めるために、熱可塑性樹脂、導電性炭素、導電性ポリアニリン及びドーパントを混合又は混練し、得られた混練組成物を破砕して、これを溶媒又は分散剤に溶解、分散することが好ましい。このような混練組成物を調製する方法としては、(1)熱可塑性樹脂、導電性炭素、導電性ポリアニリン及びドーパントを一斉に混合又は混練する方法、(2)導電性ポリアニリンとドーパントを予め混合又は混練し、得られた混練組成物を熱可塑性樹脂、導電性炭素と再び混合又は混練する方法、(3)導電性ポリアニリンとドーパントを予め混合又は混練し、これとは別に、熱可塑性樹脂と導電性炭素を混合又は混練し、得られた各々の混練組成物を合わせて溶媒又は分散剤に溶解、分散する方法などが挙げられる。ここで、混合は、熱をかけずに各成分を混合することもできるが、加熱して各成分を混合することが好ましい。また、混練組成物中で各成分を均一に分散させるためには、溶融混練することが好ましい。
また、導電性ポリアニリンとドーパントの混練組成物を得る場合は、単に加熱して混合するよりも、せん断をかけて溶融混練することが特に好ましい。
上記の溶融混練は、2本ロールミル、ニーダー、インターミックス、バンバリーミキサー等の混練機により混合・混練して行うことができる。
【0025】
本発明の導電性樹脂組成物においては、溶媒又は分散剤(D)を添加する前の、熱可塑性樹脂、導電性ポリアニリン及び導電性炭素の組成が、例えば各々30〜85質量%、0.9〜10質量%、6〜60質量%となるように、各成分の配合量を適宜決定する。
また、分散剤を用いることにより、導電性ポリアニリンと熱可塑性樹脂の混合性が良くなり、導電性ポリアニリンが樹脂全体に広がりやすく、より高い導電性を得ることができる。
【0026】
熱可塑性樹脂、導電性炭素、導電性ポリアニリン及び添加する場合はドーパント、或いは、上記した混練組成物を、溶媒又は分散剤に溶解、分散させるには、スターラーやホモミキサーを用いて所定時間攪拌し、場合により超音波をかけて行うこともできる。
【0027】
[導電性樹脂成形物の製造方法(キャスト法)]
本発明において、導電性樹脂組成物からキャスト法によって導電性樹脂成形物を作製する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、コンマコーター、リップコーター、ドクターブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、ダイコーター、カーテンコーター等のコーターヘッドを用いて支持体上に均一にキャスティングし、溶媒又は分散剤を除去して、上記支持体上に形成された成形物を該支持体から剥離して導電性樹脂成形物を作製することができる。また、導電性樹脂組成物を鏡面処理された熱金属ドラムに押し当てて乾燥する方法を使用してもよい。ウェット法、リウェット法、ゲル化法等の公知の方法が使用できる。
溶媒又は分散剤を除去するには、乾燥機等で加熱・乾燥する等、キャスト法で通常使用される手段を用いることができる。
支持体としては、ガラス、アルミ板、PETフィルム等のキャスト法で通常使用される支持体を用いることができる。
【0028】
キャスト用樹脂溶液又は分散液として使用する液の濃度は、特に限定されるものではなく、目的とするキャスト樹脂フィルムの物性、厚さ、組成物の溶解性又は分散性、使用する塗布方式等によって適宜設定されるが、例えば、1質量%〜50質量%、好ましくは5質量%〜30質量%である。
【0029】
本発明の方法で得られる成形物は、薄膜成形物であり、フィルム又はシート状の成形物である。フィルム又はシートの厚みは、その取扱性から、通常1mm未満、好ましくは0.5mm未満、さらに好ましくは0.3mm未満とするのがよい。
【0030】
本発明の導電性樹脂成形物は、優れた導電性能を有し、また、柔軟性を維持していることから、ハンドリングが容易であり二次加工適正に優れ燃料電池セパレータ部材や太陽電池部材など、電子材料などの成形品等として工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例により限定されるものではない。
【0032】
実施例、比較例で用いた材料及び評価方法は以下に示す通りである。
[使用材料]
・SEPS:(株)クラレ製 スチレン−(エチレン−プロピレン)−スチレンブロックコポリマー セプトン2063
・VGCF:昭和電工(株)製 導電性炭素繊維(平均繊維径150nm、平均繊維長8μm、アスペクト比53)
・VGCF−S:昭和電工(株)製 導電性炭素繊維(平均繊維径100nm、
平均繊維長10μm、アスペクト比100)
・VGCF−X:昭和電工(株)製 導電性炭素繊維(平均繊維径 15nm、
平均繊維長3μm、アスペクト比200)
・Panipol PA:panipol社製 ポリアニリン
・DBSA:関東化学(株)製 ドデシルベンゼンスルホン酸
【0033】
[評価方法]
<体積固有抵抗値>
ダイアインスツルメンツ社製ロレスターを用いて23℃、90Vにて実施例及び比較例において得られた成形物の体積抵抗値を測定した。結果を各表に示した。
【0034】
<造膜性>
キャスト法により導電性樹脂組成物から薄い連続被膜を形成することができるかについて目視にて以下の基準で評価した。
○:表面が平滑で均一な厚みの薄い連続被膜を形成できる。
△:薄い連続被膜を形成できるが、表面の平滑性が劣り、または厚みが不均一である。
×:薄い連続被膜を形成できない。
【0035】
[実施例1〜3]
(第1工程:導電性ポリアニリンとDBSA混練組成物の製法(A1法))
絶縁性を示すエメラルジン塩基のポリアニリンであるPanipol
PA3.5gと、DBSA12.5gを室温にて10分間、ガラス棒を用いて手動で予備混練した後、プレス機を用いて加熱して、導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を得た。なお、プレスには東洋精機製作所製ミニテストプレスを用い、真ちゅう製の24mmφ×1.0mm厚の型にて140〜180℃、1MPaで3分間プレスした。
(第2工程:導電性樹脂成形物の製造(溶液キャストA法))
SEPS、導電性炭素(VGCF)及び導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を、表1にある組成(質量%)となるように配合し混練した。混練にはラボプラストミルを用い、180℃、50rpm、1分間行った。得られた混練品を室温まで冷ました後、細かく破砕した。この破砕品を、トルエンに溶解、分散してトルエン溶液を得た。当該トルエン溶液中、トルエンは全体の90質量%を占める。トルエン溶液をスターラーで2時間攪拌し、その間30分は超音波をかけて攪拌を行った。
その後、ベーカー式アプリケーター(テスター産業社製)を用いて、wet厚みが1mmとなるようにトルエン溶液を基材(50μm厚みのポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布し、これを90℃のオーブン中に2分間静置してトルエンを蒸発させて導電性樹脂成形物(薄膜成形品)を得た。
【0036】
[比較例1〜3]
第1工程は実施例1〜3と同様である。
(第2工程:導電性樹脂成形物の製造(プレス法))
SEPS、導電性炭素(VGCF)及び導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を、表1にある組成(質量%)となるように配合し混練した。混練にはラボプラストミルを用い、180℃、50rpm、1分間行った。得られた混練品を室温まで冷ました後、細かく破砕した。破砕品はプレス機を用いてプレス成形し、導電性樹脂成形物(プレス成形品)を得た。なお、プレスには東洋精機製作所製ミニテストプレスを用い、真ちゅう製の24mmφ×1.0mm厚の型にて180℃、5MPaで1分間、その後180℃、20MPaで4分間プレスした。
【0037】
表1に実施例1〜3と比較例1〜3で得られた導電性樹脂成形物の評価結果を、また、図1に、各成形品についてVGCF含有量を横軸に体積固有低効値を縦軸にとったグラフを示す。表1及び図1から、実施例1〜3で得られた薄膜成形品が比較例1〜3で得られたプレス成形品に比べて体積固有低効値が低くなっていることが分かる。特に、プレス成形品ではVGCFの含有量に比例して体積固有抵抗値が低下し、60質量%程度で10−2のオーダーに達するのに対して、薄膜成形品ではVGCFの含有量が50質量%程度で10−2のオーダーに達しその後ほぼ一定値となっている。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例4〜6]
実施例1〜3に記載した導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物の製法(A1法)において、加熱温度を140℃、160℃、180℃とし、夫々の温度条件において、導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を得た。各々の導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物と、SEPS、導電性炭素(VGCF)とを、表2にある組成(質量%)となるように配合し混練し、溶液キャストA法と同様の手順により、導電性樹脂成形物を得た(実施例4〜6)。
【0040】
[実施例7及び8]
(第1工程:導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物の製造(B1法))
Panipol PA3.5gと、DBSA12.5gを室温にて10分間、ガラス棒を用いて手動で予備混練した後、ラボプラストミルを用いて160℃又は180℃、450rpmで3分間混練し、導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を得た。
(第2工程:導電性樹脂成形物の製造(溶液キャストB法))
SEPSと導電性炭素(VGCF)を質量比が3:5となるように混練した。混練には前記のラボプラストミルを用い、180℃、50rpm、1分間行った。得られたSEPS/導電性炭素混練組成物を室温まで冷ました後、細かく破砕した。この破砕品と、第1工程の各々の温度条件で得られた導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物の粉砕品とをトルエンに溶解、分散してトルエン溶液を得た。当該トルエン溶液中、トルエンは全体の90質量%を占める。トルエン溶液をスターラーで2時間攪拌し、その間30分は超音波をかけて攪拌を行った。その後、ベーカー式アプリケーター(テスター産業社製)を用いて、wet厚みが1mmとなるようにトルエン溶液を基材(50μm厚みのポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布し、これを90℃のオーブン中に2分間静置してトルエンを蒸発させて導電性樹脂成形物(薄膜成形品)を得た。
【0041】
表2に実施例4〜8で得られた導電性樹脂成形物の評価結果を示す。実施例5と7、実施例6と8の比較から、導電性ポリアニリンマスターバッチの製造においてラボプラストミルによりせん断をかけることによって体積固有抵抗値が低下していることが分かる。これは、導電性ポリアニリンとDBSAを予め溶融混練することにより、導電性樹脂組成物の分散性が向上したことによるものと考えられる。この点を確認するため、以下の実験を行った。
【0042】
【表2】

【0043】
(導電性樹脂成形物のモルフォロジー観察)
導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物の製法A1、B1において、加熱温度を160℃とした場合及び加熱温度を180℃とした場合について得た、各々の導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物を、VGCFとともにトルエンに溶解、分散させてトルエン溶液を調製した。当該トルエン溶液中の各成分の濃度は、トルエン:VGCF:導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物=99:0.5:0.5(質量%)である。各トルエン溶液をPETフィルム上に滴下し、乾燥機中でトルエンを蒸発させて薄膜成形物を得た。各々の薄膜成形物の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。A1法による導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物(加熱温度:160℃、180℃)を使用した場合と、B1法による導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物(加熱温度:160℃、180℃)を使用した場合についてのSEM写真を、夫々、図2及び図3に示す。図2では、成形品の表面に10μm程度の凝集体が存在することが認められる。一方、図3では凝集体は見られず、VGCFにコートするようにポリアニリン/DBSAが存在していることが認められる。このような成形品のモルフォロジーの違いが、表2で示した体積固有抵抗値の差と関係していると考えられる。
【0044】
[実施例9〜10]
(導電性樹脂成形物の製造(溶液キャストC法))
SEPS、導電性炭素(VGCF−S)、導電性ポリアニリン(Panipol
PA)及びDBSAを、ラボプラストミルを用いて一斉に混練した。混練は、180℃、50rpm、3分間又は5分間行った(夫々、実施例9、10)。得られた混練品を室温まで冷ました後、細かく破砕した。この破砕品を、溶液キャストA法と同様の手順により、トルエンに溶解、分散し、トルエン溶液からキャスト法により導電性樹脂成形物を得た。
【0045】
[実施例11〜12]
(導電性樹脂成形物の製造(溶液キャストD法))
SEPS、導電性炭素(VGCF−S)、及び導電性ポリアニリン/DBSA混練組成物の破砕品を、ラボプラストミルを用いて混練した。混練は、180℃、50rpm、1分間又は2分間行った(夫々、実施例11、12)。得られた混練品を室温まで冷ました後、細かく破砕した。この破砕品を、A法と同様の手順により、トルエンに溶解、分散し、トルエン溶液からキャスト法により導電性樹脂成形物を得た。
【0046】
表3に実施例9〜12で得られた導電性樹脂成形物の評価結果を示す。SEPS、導電性炭素、導電性ポリアニリン及びDBSAを一斉に混練した場合においても、10−2オーダーの体積固有抵抗値が得られた。一方、実施例11〜12のように、予め導電性ポリアニリンとDBSAを混練して混練組成物を製造した場合には、体積固有抵抗値をより低減することができた。
【0047】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、導電性ポリアニリン(B)、導電性炭素(C)、及び溶媒又は分散剤(D)を含む導電性樹脂組成物をキャスト法により製膜し,溶媒又は分散剤(D)を除去してなる導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項2】
前記導電性ポリアニリン(B)が,ポリアニリンをドーパントによりドープしてなる請求項1に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパントが炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)を含んでなる請求項2に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項4】
前記導電性樹脂組成物が,導電性ポリアニリン(B)及び炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)を予め溶融混練してなる組成物と,熱可塑性樹脂(A)及び導電性炭素(C)を予め溶融混練してなる組成物と,溶媒又は分散剤(D)とを混合してなる請求項3に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項5】
前記炭素数6以上のアルキル基を有する酸(E)がドデシルベンゼンスルホン酸(e)を含んでなる請求項3又は4に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項6】
導電性炭素が導電性炭素繊維を含んでなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項7】
導電性炭素繊維の径が100nm以下である請求項6に記載の導電性樹脂成形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の製造方法により得られる成形物であって、体積固有抵抗値が1×10Ω・cm以下である導電性樹脂成形物。
【請求項9】
厚みが1mm未満である請求項8に記載の導電性樹脂成形物。
【請求項10】
導電性樹脂成形物中における導電性炭素(C)の量が50質量%以下である請求項8又は9に記載の導電性樹脂成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49801(P2013−49801A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189040(P2011−189040)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(501496201)
【Fターム(参考)】