説明

導電性樹脂成形用材料

【課題】導電性充填剤、殊にCNTに代表される導電性炭素ナノ材料を含有する導電性樹脂成形用材料においては、高度な導電性の発現、並びに導電性の射出速度依存性のごとき、導電性のばらつきの改善といった技術的課題が存在するところ、かかる課題を解決し、高度な導電性を発現し、かつ導電性の射出速度依存性のごとき、導電性のばらつきを改善した導電性樹脂成形用材料を提供する。
【解決手段】A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)5〜98.9重量%、導電性充填剤(B成分)0.1〜50重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜45重量%からなる導電性樹脂成形用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状熱可塑性ポリマー、導電性充填剤、および大環状オリゴマーからなる導電性樹脂成形用材料、かかる成形用材料から形成された導電性樹脂成形品、かかる成形用材料の製造方法、並びに成形用材料の製造に用いることができる配合用濃縮物に関する。より詳しくは、該成形用材料は、射出成形して成形品を得る際に問題となる、導電性の射出速度依存性を低減しており、幅広い用途ならびに種々の成形品形状に対応可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器を構成する樹脂成形品には、それらの高度な進歩に従い、良好な導電性が求められている。樹脂成形品に導電性を付与する方法の1つとして、樹脂材料に導電性充填剤を配合する方法がある。かかる方法においては導電性充填剤の樹脂への好ましくない影響、例えば高比重化、成型加工性の悪化、並びに外観の悪化などを低減すべく、導電性充填剤量の低減が継続的に検討されている。例えばカーボンナノチューブ(以下“CNT”と略称することがある)の如き導電性炭素ナノ材料は、低含有量においても良好な導電性が得られる導電性充填剤として知られている。
【0003】
しかしながら、従来熱可塑性樹脂と導電性炭素ナノ材料からなる導電性樹脂成形用材料においては、以下の射出成形品における射出速度依存性の問題があった。即ち、かかる成形用材料からプレス成形や押出成形等を用いて得られた成形体であるならば十分な導電性を発揮する導電性充填剤の含有量にもかかわらず、射出成形の如き成形時に溶融樹脂に剪断力が作用する成形方法で得られた成形体では、同様の導電性を発揮できず、更にかかる導電性は高い射出速度になるほど低くなるとの問題点がある。したがっていかなる成形体の部位でも均一の導電性を持つ成形体を得るには、プレス成形や押出成形時に必要とされる導電性が発揮される導電性充填剤量よりはるかに多い量を配合することになり、結果として相対的に樹脂の持つ特性を損ない、またかかる導電性充填剤に期待される効果を損なう結果となっていた。
【0004】
少量の導電性充填剤を用いてより良好な導電性を得る方法の1つとして、非相溶の2種の樹脂をブレンドし、海島構造を形成させ、かかる海相に導電性材料を含有させる方法が知られている(特許文献1〜5参照)。かかる方法は、1相に導電性材料を凝縮することでその濃度を高め、導電性充填剤間の接触確率を高めて、電気導通路相を形成させると考えられている(特許文献1参照)。そのため、例えばかかる島相のサイズが閾値を超えて小さくなると、体積抵抗が増大することも示されている(特許文献2参照)。即ち、相溶性の良好な成分では改善された導電性は得られないことが示唆されていた。
【0005】
一方、大環状オリゴマーから得られるポリマーおよび緩やかに組み合わされたナノファイバーの網状構造を含んでなる組成物であって、CNTがマトリックス中に分散され、特定の導電率を示す組成物が公知である(特許文献6参照)。より具体的には、該文献には大環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマーとCNTとを溶融混合し、その後スズ化合物の触媒を添加して、より高温下で攪拌することでポリブチレンテレフタレート/CNT複合材料が得られた旨が記載されている。
【0006】
ポリブチレンテレフタレートに代表されるポリマーにクレイの如きフィラー粒子を分散した分散体の製造方法であって、該フィラー粒子を少なくとも10重量%含有する大環状オリゴマーのマスターバッチを形成する工程と、ポリマーと該マスターバッチとを混合し、該大環状オリゴマーとのポリマーとの混合物中にフィラー粒子を分散する工程とからなる製造方法は公知である(特許文献7参照)。しかしながら該文献は、該製造方法のマトリックスポリマーとして、大環状ブチレンテレフタレートオリゴマーから重合されたポリブチレンテレフタレートを示すに留まる。更に該文献は、ポリエチレンテレフタレート、大環状ブチレンテレフタレートオリゴマーおよび有機化クレイとの溶融混練は、大環状ブチレンテレフタレートオリゴマーのポリマーへの転換が不十分であるため、試験片が成形できない旨を記載する。即ち、ポリブチレンテレフタレート以外のマトリックス樹脂に対して、該製造方法が有効であることを明示するものではなかった。
【0007】
大環状オリゴマーとそれとは異なる構成単位からなる他の線状熱可塑性ポリマーとの物理的混合物、並びに該混合物は概して流動性に優れた均質ブレンドとなることは公知である(特許文献8参照)。例えば、該文献には、大環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマーとビスフェノールAポリカーボネートとの溶液キャスト法から得られた単一相の透明なフィルムが記載されている。
また、ポリカーボネートに灰化残渣が特定量以下のCNTを配合した樹脂組成物、並びに更にリン系安定剤を含有する樹脂組成物が公知である(特許文献9参照)。
【0008】
【特許文献1】特開昭62―004749号公報
【特許文献2】特表2002−544308号公報
【特許文献3】特開平01−263156号公報
【特許文献4】特開平02−113068号公報
【特許文献5】特開2006−083195号公報
【特許文献6】特表2006−511652号公報
【特許文献7】WO2006/028541号パンフレット
【特許文献8】特開平06−016949号公報
【特許文献9】特開2006−306960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のごとく、導電性充填剤、殊にCNTに代表される導電性炭素ナノ材料を含有する導電性樹脂成形用材料においては、高度な導電性の発現、並びに導電性の射出速度依存性のごとき、導電性のばらつきの改善といった技術的課題が存在するが、かかる課題は未だ知られておらず、その解決方法も開示されていないのが現状である。したがって、本発明の目的は、かかる課題を解決し、高度な導電性を発現し、かつ導電性の射出速度依存性のごとき、導電性のばらつきを改善した導電性樹脂成形用材料を提供することにある。
【0010】
かかる目的を達成すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、導電性充填剤、殊にCNTに代表される導電性炭素ナノ材料を含有する熱可塑性樹脂組成物に、かかる熱可塑性樹脂と均質ブレンドを与える大環状オリゴマーを配合したところ、驚くべきことに、良好な導電性が発揮され、かつ導電性の射出速度依存性が改善されることを見出した。本発明のかかる導電性改良方法は、従来の非相溶成分を配合する方法に反する手法である。更に驚くべきことに、得られた導電性樹脂組成物における導電性充填剤の分散状態を確認すると、導電性充填剤が存在しない場合には、均質ブレンドを与える大環状オリゴマーを配合しているにも関わらず、明確な相分離構造が形成されていた。かかる相構造が形成される理由は明確ではないが、かかる相構造から、導電性の向上並びにその射出速度依存性の改善される機構は、結果的には従来の非相溶成分の配合と同様と考えられる。かかる発見に基づき、更に検討を進めて、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記本発明の目的は、(1)A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)5〜98.9重量%、導電性充填剤(B成分)0.1〜50重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜45重量%からなる導電性樹脂成形用材料によって達成される。ここで、A成分の「線状」とは、C成分の大環状オリゴマーとを明確に区別するために使用する用語であり、いわゆる分岐成分を含有するポリマーを排除するものではない。即ちA成分は、単一線状鎖からの熱可塑性ポリマー、分岐鎖を有する熱可塑性ポリマーのいずれをも含有する。分岐鎖を有する熱可塑性ポリマーにはグラフトポリマーも含まれる。尚、分岐構成単位は、全構成単位中5モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましい。
【0012】
また、本発明の導電性樹脂成形用材料において、C成分の構成単位はA成分の構成単位と異なることが好ましい。即ち、A成分はC成分の重合によって生成するポリマーとは異なるポリマーを主成分とすることが好ましい。更に、好ましい各成分の割合は、A成分〜C成分の合計100重量%を基準として、A成分50〜94.5重量%、B成分0.5〜15重量%、およびC成分5〜35重量%であり、より好ましくはA成分58〜89重量%、B成分1〜12重量%、およびC成分10〜30重量%であり、更に好ましくはA成分60〜83重量%、B成分2〜10重量%、およびC成分15〜30重量%であり、特に好ましくはA成分65〜80重量%、B成分2〜5重量%、およびC成分15〜30重量%である。B成分およびC成分が上記範囲の下限未満では良好な導電性および射出速度依存性の改善が十分でなく、またB成分およびC成分が上記範囲の上限を超えると樹脂成形品の耐熱性および機械的強度が損なわれるようになる。
【0013】
本発明の好適な態様の1つは、(2)上記C成分は、A成分80重量部とC成分20重量部とを配合し溶融混練した樹脂組成物において、均質ブレンドを与えるものである上記構成(1)の導電性樹脂成形用材料である。ここでC成分の構成単位は上記と同様、A成分の構成単位と異なることが好ましい。本発明は従来知見に反して、かかる態様において良好な導電性が達成するとの従来にない特徴を含み、その結果、従来の非相溶成分の配合に比して、より良好な導電性を達成できる。
【0014】
本発明の好適な態様の1つは、(3)上記C成分は、大環状ポリエステルオリゴマーである上記構成(1)〜(2)の導電性樹脂成形用材料である。大環状ポリエステルオリゴマーは入手容易であり、かつ本発明の好適な線状熱可塑性ポリマーとの相溶性も高く、好適である。殊に大環状ポリ(アルキレンジカルボキシレート)オリゴマーが、C成分として好ましい。
【0015】
本発明の好適な態様の1つは、(4)上記B成分は、導電性炭素材料を主成分とする導電性充填剤である上記構成(1)〜(3)の導電性樹脂成形用材料である。本発明のB成分の導電性充填剤は、導電性炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料、並びに導電性ポリマーなどを含み、特に導電性炭素材料が好ましい。導電性炭素材料は、低比重および良導電性を満足する。中でも導電性炭素ナノ材料を主成分とする導電性充填材がB成分として好ましい。該材料は、導電性の射出速度依存性も大きく、本発明の効果がより発揮されるからである。尚、ここで“主成分”とは、100重量%のB成分中50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含有することをいう。
【0016】
導電性炭素材料は、導電性カーボンブラック、黒鉛およびCNTの如き導電性炭素ナノ材料を含む。またC成分の導電性炭素ナノ材料としては、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層CNT、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層CNT(多壁CNT)、単層CNTの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーン、並びにかかるカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体等を例示することができる。さらに、導電性炭素ナノ材料は、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル、並びにカルビン系材料等が包含される。なお、本発明においてこれらの導電性炭素ナノ材料は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。これらの中でも特にカーボンナノチューブを主成分とするものが好ましい。
【0017】
本発明の好適な態様の1つは、(5)上記A成分は、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアルキレンナフタレート、およびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を主成分とする上記構成(1)〜(4)の導電性樹脂成形用材料である。かかる好適な熱可塑性ポリマーは、いずれも高耐熱性および高粘度のポリマーであり、導電性樹脂成形用材料の射出速度依存性が大きいため、本発明の効果がより発揮される。中でもポリカーボネートが好適である。ここで“主成分”とは、100重量%のA成分中50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含有することをいう。尚、ここで、主成分以外のポリマーには好適なポリマー以外のポリマーを含むことができる。上述の従来技術とおり、低い相溶性でミクロ相分離構造を形成する他のポリマーを更に配合することで、より導電性を高めることも可能だからである。
【0018】
本発明における別の態様の1つは、(6)上記構成(1)〜(5)の導電性樹脂成形用材料を、40mm/秒以上の速度で射出成形することにより得られた導電性樹脂成形品である。本発明では、かように高速の射出速度で射出成形した場合にも良好な導電性を有し、かつ導電性の導電性樹脂成形品を製造することが可能となる。
【0019】
本発明の導電性樹脂成形用材料から製造された成形品の表面抵抗率は、好ましくは1012〜10−1Ωで、より好ましくは1010〜10−1Ωである。より好適な導電性樹脂成形用材料は、該樹脂組成物から製造された成形品の、静電気帯電放電(ESD)特性試験における半減衰時間が20秒未満であることを満足する。ここでESD特性試験は、導電性の指標の1つであり、0.05μmの平滑平板の試験片を用いて測定される。かかるESD特性を満足するには、導電性充填剤としてCNTを利用することが好ましい。
【0020】
本発明の導電性樹脂成形用材料の特徴は、その射出成形品が上記の導電性を低減された射出速度依存性において発揮する点にある。本発明の構成(6)における射出速度の上限は、800mm/秒が適切であり、好ましく400mm/秒、より好ましくは300mm/秒、更に好ましくは100mm/秒である。またかかる構成(6)において、A成分、B成分およびC成分の好ましい態様は、上記構成(2)〜(5)と同様である。
【0021】
本発明における別の態様の1つは、(7)導電性樹脂成形用材料を射出成形することにより導電性樹脂成形品を製造する際、該成形品の導電性が射出速度の増加に伴い低下することを抑制した導電性樹脂成形品の製造方法であって、かかる導電性樹脂成形用材料として、A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)5〜98.9重量%、導電性充填剤(B成分)0.1〜50重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜45重量%からなる導電性樹脂成形用材料を使用することを特徴とする導電性樹脂成形品の製造方法である。かかる構成(7)において、A成分、B成分およびC成分の好ましい態様は、上記構成(2)〜(5)と同様である。
【0022】
また本発明によれば、別の態様として、(8)A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)0〜98重量%、導電性充填剤(B成分)1〜60重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜99重量%からなる配合用濃縮物を、A成分、またはA成分およびC成分の混合物に配合する上記構成(1)〜(5)の導電性樹脂成形用材料の製造方法が提供される。各種の原料を混合する必要がある樹脂成形用材料の製造においてB成分は概してその取り扱いが困難となりやすい。濃縮物の利用はかかる点を改良できる。C成分は溶融粘度が極めて低く、かつ良好な熱安定性を有する。したがって、高温加工されかつ溶融粘度の高いエンジニアリングプラスック、中でもポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアルキレンナフタレート、およびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーにおける配合用濃縮物のマトリックス剤として好ましい特性を有する。
【0023】
上記構成(8)により、本発明は更に(9)A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)0〜98重量%、導電性充填剤(B成分)1〜60重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜99重量%からなる配合用濃縮物の提供も目的とする。ここで上記構成(8)および(9)の配合用濃縮物における好ましい各成分の割合は、A成分〜C成分の合計100重量%あたり、A成分1〜88重量%、B成分2〜30重量%、およびC成分10〜80重量%、より好ましくはA成分10〜80重量%、B成分5〜20重量%、およびC成分20〜70重量%である。単なるB成分およびC成分からなる配合用濃縮物よりもA成分、B成分およびC成分からなるそれの方が、導電性能の射出速度依存性が低減され、A成分を含有することがより好ましい。尚、上記構成(8)および(9)におけるA成分、B成分およびC成分の好ましい態様は、いずれも上記構成(2)〜(5)と同様である。
【0024】
以下、本発明の詳細について更に説明する。
(A成分:線状熱可塑性ポリマー)
本発明のA成分の線状熱可塑性ポリマーとしては、例えばポリエチレン(LLDPEの如き各種のコポリマーを含む)およびポリプロピレン(無水マレイン酸変性および各種のグラフト変性などの変性ポリマーおよびコポリマーを含む)等の各種オレフィン系ポリマーおよびコポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、無水マレイン酸−スチレンコポリマー、メチルメタクリレート−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレンコポリマー、およびフェニルメタクリレート−スチレンコポリマー等のスチレン系ポリマー、ポリメチルメタクリレートおよびそのコポリマー、ポリアミド、ポリアルキレンテレフタレートおよびポリアルキレンナフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸の如き脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、環状ポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、並びにポリエーテルエーテルケトンなどが例示される。より好ましいA成分は、上述の如くポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアルキレンナフタレート、およびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を主成分とするポリマーである。特にポリカーボネートが好ましい。ここで主成分とするとは、100重量%のA成分中50重量%以上含有されることをいう。上記好適なポリマー以外のポリマーが100重量%のA成分中50重量%以下含まれてもよい。上記好適なポリマーは、100重量%のA成分中、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含有される。
【0025】
本発明では主成分たるポリマーに対して、ミクロ相分離構造を形成する他のポリマーを配合することにより、組成物の導電性を更に向上させてもよい。特に好適なA成分のポリカーボネートであれば、ポリカーボネート以外の他のポリマーのほとんどがミクロ相分離構造を形成し得るが、好適にはオレフィン系ポリマー、脂肪族ポリエステル、スチレン系コポリマー、芳香族ポリエステル、およびアクリル系ポリマーである。
【0026】
(ポリカーボネート)
本発明のA成分のうち、特に好適なポリカーボネートは、従来種々の成形品のために使用されている、それ自体公知のものである。すなわち、二価フェノール、および/または脂肪族および/または脂環式の二官能性アルコールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。上述の如くA成分のポリカーボネートはまた二価のフェノールまたはアルコールに加えて、3官能成分を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、ポリオルガノシロキサン成分、並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0027】
二価フェノールからなる構成単位を有する好適なポリカーボネートは、下記式(i)で表される。
【0028】
【化1】

(Aは下記式(i−1)〜(i−3)および(i−5)からなる群より選択される少なくとも1種の二価の有機残基、単結合、または下記式(i−4)のいずれかの結合を表し、sおよびtはそれぞれ独立して0または1〜4の整数であり、R13およびR14はそれぞれ独立して、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、および炭素数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群より選択される有機残基を表す。)
【0029】
【化2】

(式(i−1)中、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0030】
【化3】

(式(i−2)中、R19およびR20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0031】
【化4】

(上記式(i−3)において、uは4〜11の整数を表し、かかる複数のR21およびR22はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、および炭素数1〜3のアルキル基から選択される基を表す。)
【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

(式(i−5)中、R23およびR24はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、および炭素数1〜10の炭化水素基から選択される基を表す。)
【0034】
次に、前記式(i)の具体例を、該構成単位を誘導するジヒドロキシ化合物の具体例に基づいて説明する。
式(i)におけるAが単結合であるときの化合物としては、4,4’−ビフェノールおよび4,4’−ビス(2,6−ジメチル)ジフェノール等が挙げられる。
【0035】
Aが式(i−1)であるときの化合物としては、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(通常“ビスフェノールM”と称される)、およびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
Aが式(i−2)であるときの化合物としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0037】
Aが式(i−3)であるときの化合物としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、および1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0038】
Aが式(i−4)のいずれかであるときの化合物としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドおよびビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0039】
Aが式(i−5)のいずれかであるときの化合物としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチル−3−メトキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−クロロフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールA”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールC”と称される)、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、および1,1−ビス(2,3−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)デカン等が例示される。
【0040】
更に式(i)以外の構成単位を誘導される二価フェノールとして、好適には2,6−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキノン、レゾルシノール、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたレゾルシノール、3−(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,3−トリメチルインダン−5−オール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン−5−オール、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチルスピロインダン、1−メチル−1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−イソプロピルシクロヘキサン、1−メチル−2−(4−ヒドロキシフェニル)−3−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]シクロヘキサン、1,6−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘキサンジオン、およびエチレングリコールビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル等が例示される。
【0041】
上記二価フェノールの中でも、式(i−1)ではビスフェノールM、式(i−2)では9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、式(i−3)では1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、式(i−4)では3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、並びに式(i−5)ではビスフェノールA、ビスフェノールC、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。
【0042】
かかるポリカーボネートのその他詳細については、例えばWO03/080728号パンフレット、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報、および特開2002−117580号公報等に記載されている。
【0043】
本発明のポリカーボネートの構成単位を誘導する二官能性アルコールとしては脂環式ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロ(5.2.1.02,6)デカンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、スピログリコール、1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール、1,4;3 6−ジアンヒドロ−D−マンニトール、および1,4;3,6−ジアンヒドロ−L−イジトールなどが例示される。
【0044】
更に本発明のA成分として、ポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は、好ましくは、一般式(ii−1)で表される構成単位からなるポリカーボネート部と一般式(ii−2)で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサン部を分子内に有する共重合体を挙げることができる。
【0045】
【化7】

【化8】

【0046】
ここで、(ii−1)式のZは、ポリカーボネート部の構成単位を誘導する二価フェノール、および/または脂肪族および/または脂環式の二官能性アルコールを、HO−Z−OHと表したとき、かかる二価の残基−Z−を表す。R、R、RおよびRは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を示し、同一でも異なっていてもよく、好ましくはメチル基である。Rは脂肪族または芳香族化合物からの二価の有機残基を示し、好ましくは、o−アリルフェノール残基、p−ヒドロキシスチレン残基、4−アリル−2−メトキシフェノール残基、およびイソプロペニルフェノール残基であり、特にo−アリルフェノール残基が好ましい。またnはカッコ内の構成単位の重合度を示すが、かかる構成単位は2種以上の混合物であってもよい。かかるnの範囲はその数平均値において1〜500、好ましくは5〜200、より好ましくは10〜70、更に好ましくは15〜30である。尚、各成分n数の上限は、好ましくは500、より好ましくは200、更に好ましくは70である。
【0047】
分岐ポリカーボネートに使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、および4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。かかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、他の二価成分からの構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.03〜1モル%、より好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。
【0048】
また分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、かかる分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0049】
A成分のポリカーボネートは、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートを含む。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、およびイコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が好ましく挙げられる。
【0050】
ポリカーボネートの粘度平均分子量(M)は、好ましくは1×10〜5×10であり、より好ましくは1.4×10〜3×10であり、さらに好ましくは1.4×10〜2.4×10である。粘度平均分子量が1×10未満のポリカーボネートでは、実用上十分な靭性や割れ耐性が得られない場合がある。一方、粘度平均分子量が5×10を超えるポリカーボネートから得られる樹脂組成物は、概して高い成形加工温度を必要とするか、または特殊な成形方法を必要とすることから汎用性に劣る。更に溶融粘度の増加により、射出速度依存性も高くなりやすい。
【0051】
なお、上記ポリカーボネートは、その粘度平均分子量が上記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、上記値(5×10)を超える粘度平均分子量を有するポリカーボネートは、樹脂組成物の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形およびブロー成形における成形加工性を改善できる。かかる改善効果は、上記分岐ポリカーボネートよりもさらに良好である。
【0052】
より好適な態様としては、A成分が粘度平均分子量7×10〜2×10のポリカーボネート、および粘度平均分子量1×10〜3×10のポリカーボネート樹脂からなり、その粘度平均分子量が1.6×10〜3.5×10であるポリカーボネート樹脂(以下、“高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂は上記各成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。
【0053】
ポリカーボネートの粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0054】
尚、本発明の導電性樹脂成形用材料における粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0055】
(ポリアルキレンナフタレート)
本発明のA成分のうち、好適なポリマーであるポリアルキレンナフタレートは、2,6−ナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、アルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ここで主たるとは、80モル%以上、好ましくは85モル%以上の割合であることをいい、したがって20モル%以下の他の酸成分、グリコール成分、およびオキシ酸成分が共重合されるか、またはかかる成分からなるポリエステルが混合物として含有されていてもよい。またここで、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分とは、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位をいい、2,6−ナフタレンジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体により、ポリマー中に導入することが可能である。また他の酸成分もかかる酸自体またはそのエステル形成性誘導体によってポリマー中に導入することが可能である。ここでエステル形成性誘導体としては、低級アルキルエステル、フェニルエステル、および酸無水物などが挙げられる。
【0056】
本発明においてより好適なポリアルキレンナフタレートは、ポリエチレンナフタレート(以下“PEN”と略称する)およびポリブチレンテレフタレート(以下“PBN”と略称する)が好ましい。かかるPENおよびPBNは上述のとおり、PENでは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分およびエチレグリコール成分以外の成分を、PBNでは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分およびテトラメチレングリコール成分以外の成分を含有することができる。かかる他の成分は、100モル%の全ジカルボン酸成分または全ジオール成分中、好ましくは15モル%以下、より好ましくは12モル%以下である。ここでかかる2,6−ナフタレンジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分は、イソフタル酸成分および/またはテレフタル酸成分が好ましい。これら以外にも例えば、2,7−ナフタレンジカルボン酸、tert−ブチルフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、フェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、およびジフェニルスルフィドジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、およびドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、デカリンジカルボン酸、およびテレラリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、並びにかかる酸のエステル形成性誘導体から誘導される酸成分が利用できる。
【0057】
PEN中に含有されてもよい、エチレングリコール以外のグリコール成分としては、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびジエチレングリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールおよびトリシクロデカンジメチロールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールA、レゾルシン、ハイドロキノン、およびジヒドロキシジフェニルなどの二価フェノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコール、ポリエチレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどポリオール、並びにビスヒドロキシエトキシフェニルフルオレンの如きフルオレンから誘導されるグリコール成分が例示される。特にジエチレングリコール成分は、全ジオール成分100モル%中2〜5モル%の範囲で含有されることが、結晶性を適度に低下させ、かつ延伸された場合に十分な延伸配向が達成される点で好適である。PBN中には、エチレングリコール、並びに上述された成分のうちテトラメチレングリコール以外の成分を含有することができる。
【0058】
また、ポリアルキレンナフタレート中に含有されてもよいオキシ酸成分としては、オキシ安息香酸成分およびヒドロキシジフェニルカルボン酸成分等が例示される。
さらにポリアルキレンナフタレートは、本発明の目的を損なわない範囲において3官能以上の酸成分またはグリコール成分を含有することができる。3官能以上の酸成分としてはトリメリット酸成分などが例示され、3官能以上のグリコール成分としてはグリセリン、トリメチルプロパン、およびペンタエリスリトールから誘導される成分などが例示される。3官能以上の成分は各構成成分100モル%中好ましくは2モル%以下、より好ましくは1モル%以下の割合で使用される。
【0059】
ポリアルキレンナフタレートは、その25℃のオルトクロロフェノール溶媒中において測定された極限粘度が0.55dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.6dl/g以上である。一方かかる極限粘度は好ましくは1.3dl/g以下、より好ましくは1.2dl/g以下である。
【0060】
ポリアルキレンナフタレートの重合には、従来公知の各種重合方法を適用することが可能である。その一例として、エチレングリコールの如きアルキレングリコール、並びに2,6−ナフタレンジカルボン酸のジメチルエステルおよび共重合成分(テレフタル酸ジメチルエステルなど)を、メチルアルコールを留去しながらエステル交換させ、その後減圧下で重縮合を行う方法が例示される。本発明においては、特にさらに極限粘度を上げる為に固相重合を行うことが好ましい。エステル交換触媒としては、酢酸カルシウムや酢酸マグネシウムなどが好適に例示される。またエステル交換触媒としてはその他にも、マグネシウム、マンガン、カルシウム、および亜鉛などの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またかかるエステル交換触媒を失活するためにトリメチルホスフェートなどのリン化合物をエステル交換反応後に添加することが好ましい。また重合反応触媒としては、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、およびアンチモン化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが例示される。
【0061】
(ポリアリレート)
本発明の好適なA成分であるポリアリレートについて説明する。本発明のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と二価フェノールまたはその誘導体とから得られるものである。ポリアリレートの調製に用いられる芳香族ジカルボン酸としては、二価フェノールと反応し満足な重合体を与えるものであればいかなるものでもよく、1種または2種以上を混合して用いられる。
好ましい芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、およびイソフタル酸が挙げられる。またこれらの混合物であってもよい。
【0062】
二価フェノール成分の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2’−ビス(4ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ハイドロキノンなどが挙げられる。これら二価フェノール成分はパラ置換体であるが、他の異性体を使用してもよく、さらに二価フェノール成分にエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどを併用してもよい。
【0063】
上記の中でも好ましいポリアリレートとしては、芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、二価フェノール成分として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)からなるものが挙げられる。テレフタル酸とイソフタル酸との割合は、テレフタル酸/イソフタル酸=9/1〜9/1(モル比)が好ましく、特に溶融加工性、性能バランスの点で7/3〜3/7が望ましい。
【0064】
他の代表的なポリアリレートとしては、芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸からなり、二価フェノール成分がビスフェノールAおよびハイドロキノンからなるものが挙げられる。かかるビスフェノールAとハイドロキノンとの割合は、ビスフェノールA/ハイドロキノン=50/50〜70/30(モル比)が好ましく、55/45〜70/30がより好ましく、60/40〜70/30が更に好ましい。
【0065】
本発明におけるポリアリレートの粘度平均分子量は約7,000〜100,000の範囲が物性および押出加工性から好ましい。またポリアリレートは界面重縮合法およびエステル交換反応法のいずれの重合方法も選択できる。
【0066】
(ポリフェニレンエーテル)
本発明の好適なA成分であるポリフェニレンエーテル(以下“PPE”略称する)は、フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールのポリマーまたはコポリマーである。更に本発明のPPEは、かかるポリマーまたはコポリマーにスチレン系ポリマーを含有するポリマーブレンドの態様を含む。かかるポリマーブレンド(いわゆる変性ポリフェニレンエーテル)が、ポリフェニレンエーテル単体に比して汎用され、入手容易だからである。
【0067】
フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールのポリマーの代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。この中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが特に好ましい。
【0068】
フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールのコポリマーの代表例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとのコポリマー、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとのコポリマーあるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノール及びo−クレゾールとのコポリマー等がある。
【0069】
上記のPPEの製造方法は特に限定されるものではないが例えば米国特許4,788,277号明細書(特願昭62−77570号)に記載されている方法に従って、ジブチルアミンの存在下に、2,6−キシレノールを酸化カップリング重合して製造することができる。
【0070】
また、PPEの分子量および分子量分布も種々のものが使用可能であるが、分子量としては、0.5g/dlクロロフォルム溶液、30℃における還元粘度が0.20〜0.70dl/gの範囲が好ましく、0.30〜0.55dl/gの範囲がより好ましい。
【0071】
また、本発明のPPE中には、本発明の主旨に反しない限り、従来ポリフェニレンエーテル系樹脂中に存在させてもよいことが提案されている他の種々のフェニレンエーテルユニットを部分構造として含んでいても構わない。少量共存させることが提案されているものの例としては、特願昭63−12698号公報及び特開昭63−301222号公報に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや、2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂の主鎖中にジフェノキノン等が少量結合したものも含まれる。
【0072】
本発明のPPEにおけるフェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールのポリマーまたはコポリマー(単に“PPEポリマー”と称する)と、スチレン系重合体との割合は、これらの合計100重量%中、PPEポリマーが少なくとも20重量%以上であることが必要である。PPEポリマーは30重量%以上であることがより好ましい。より好ましくはPPEポリマーが30〜80重量%の範囲である。
【0073】
スチレン系重合体に利用されるスチレン系モノマーとしては、スチレンのほか、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン等の重合体、及びこれら1種以上と他のビニル化合物の少なくとも1種以上との共重合体、これら2種以上の共重合体が挙げられる。かかるスチレン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物類、無水マレイン酸等の酸無水物などが挙げられる。スチレン系重合体としては、ポリスチレン(シンジオタクチックポリスチレンを含む。)が好ましい。
【0074】
(B成分:導電性充填剤)
上述の如く本発明のB成分は、導電性炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料、並びに導電性ポリマーなどを含み、特に導電性炭素材料を主成分とするものが好ましい。かかる導電性炭素材料は、導電性カーボンブラック、黒鉛およびカーボンナノチューブの如き導電性炭素ナノ材料を含み、特にカーボンナノチューブを主成分とすることが好ましい。
【0075】
(導電性カーボンブラック)
炭素を主成分とする非繊維状の炭素充填材である。具体的にはカーボンブラック、黒鉛、フラーレンであり、機械的強度、帯電防止性の点から、カーボンブラック、黒鉛が好ましい。カーボンブラックとしては、DBP吸油量が100ml/100g〜500ml/100gであるカーボンブラックが導電性の点で好ましい。かかるカーボンブラックは、一般的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラックである。具体的には、例えば電気化学工業(株)製のデンカブラック、キャボット社製バルカンXC−72およびBP−2000、ライオン(株)製ケッチェンブラックEC−300JDおよびケッチェンブラックEC−600JD等が挙げられる。
【0076】
(黒鉛)
黒鉛としては、鉱物名で石墨とされる天然黒鉛、または各種の人造黒鉛のいずれも利用することができる。天然黒鉛としては、土状黒鉛、鱗状黒鉛(塊状黒鉛とも称されるVein Graphite)および鱗片状黒鉛(Flake Graphite)のいずれを利用することもできる。また人造黒鉛は、無定形炭素を熱処理し不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般炭素材料に使用される人造黒鉛の他、キッシュ黒鉛、分解黒鉛、および熱分解黒鉛などを含む。一般炭素材料に使用される人造黒鉛は、通常石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として黒鉛化処理により製造される。本発明の黒鉛は、鱗片状黒鉛を酸処理に代表される処理をすることで、熱膨張可能とした膨張黒鉛、または該膨張処理済みの黒鉛を含んでもよい。更に、本発明の黒鉛は、遊星ボールミル、ハンマーミルおよびアトリションミル等の機械的粉砕手段により粉砕処理されたものでもよい。本発明の黒鉛の平均粒径は好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは10μm以下である。平均粒径の下限は1μmが適切である。黒鉛の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求められる。
【0077】
本発明の黒鉛の固定炭素量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは98重量%以上である。また本発明の黒鉛の揮発分は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。また黒鉛の表面は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて熱可塑性樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
【0078】
(導電性炭素ナノ材料)
導電性炭素ナノ材料としては、上述のとおり、単層CNT、多層CNT、カーボンナノホーン、およびカーボンナノホーン集合体等が包含されるが、中でもCNTが好ましい。
本発明のCNTは、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層CNT、並びに筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層CNTのいずれであってもよいが、組成物の射出速度依存性がより低減できる点で、多層CNTが好ましい。更に本発明のCNTのより好ましい態様は、上記特許文献8に開示されているが如く、その灰化残渣が3重量%以下、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.1〜0.8重量%、更に好ましくは0.2〜0.7重量%を満足するものである。
【0079】
かかる灰化残渣は、少なくとも鉄、ニッケル、およびモリブデンから選択される少なくとも1種の元素を主成分として含有するものである。ここで“少なくとも鉄、ニッケル、およびモリブデンから選択される少なくとも1種の元素を主成分として含有する”とは、灰化残渣を蛍光X線測定して得られるピーク強度から算出される各元素の重量割合において、鉄、ニッケル、およびモリブデンの元素の合計割合が70重量%以上占めることをいう。かかる合計割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0080】
蛍光X線測定から元素の重量比を算出する操作は、通常各元素の標品から求められた元素量とピークの強度から算出される較正線に基づき算出することができる。近年は蛍光X線測定装置に定量可能なプログラムが内蔵され、該装置から直接元素の重量比を求めることができる。該装置としては例えば(株)堀場製作所製MESA−500型を例示することができ、本発明の灰化残渣の蛍光X線測定に好適に利用することができる。かかる算出は、MESA−500型における基礎パラメータ法により行われる。
【0081】
本発明のCNTの製造法は特に限定されるものではない。アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)、および触媒化学気相成長法(CCVD法)などに代表されるCNTの製造法として公知の方法を利用できる。これらの中でも、低コストで大量生産が可能なCVD法およびCCVD法が好ましい。
【0082】
(CNTの製造方法)
かかるアーク放電法として、容器内に配置された炭素電極からなる陽極と該陽極に対抗配置された炭素電極からなる陰極との間にアーク放電させ、容器内壁および電極に生成された堆積物を回収する方法が好適に例示される。上記レーザー蒸発法として、炭素および1種類以上の周期律表VIII族遷移金属の混合物をレーザーパルスによって気化させ、該混合気体を装置内に凝集させることによって製造する方法が好適に例示される。かかるVIII族遷移金属としては、例えば鉄、ニッケル、およびコバルトが好適に例示される。
【0083】
上記CVD法として、少なくとも1種の遷移金属またはその化合物を触媒として、炭素源となる有機化合物を、水素、メタン、または不活性ガスからなるキャリアーガスと共に反応炉に導入して、化学気相成長法により合成する方法が好適に例示される。かかるCVD法においては、遷移金属触媒が担体に担持されて用いられる触媒化学気相成長法(CCVD法)であってもよい。CCVD法における無機担体としては、アルミナ、ゼオライト、炭素、マグネシア、カルシア、およびアルミノリン酸塩などが好ましい。特に耐熱性の高いゼオライトが好ましい。かかる無機担体における担持のために孔は、均一であることが好ましく、その孔径は1nm前後であることが好ましい。
【0084】
CVD法およびCCVD法を用いて、より灰化残渣の低減されたCNTを製造するには、初期の触媒量を調整する方法、高温アニール処理により触媒である金属微粒子を昇華させる方法、磁性体除去槽を通過させて触媒である金属微粒子を除去する方法、並びにCNT中の触媒残渣を洗浄する方法などあり、これらは単独で、好ましくは組み合わされて利用される。触媒残渣は灰化残渣の源になる。より少ない触媒量での合成が可能なCCVD法は、灰化残渣量の低減に有利であるが、工業的には触媒およびその担体を安定に作用させることが未だ困難である。したがって、より実用的には、CVD法において上述の方法を用いて灰化残渣量の低減を行うことが好ましい。
【0085】
上述の高温アニール処理による方法は、素生成の(いわゆるas−grownの)CNTを、好ましくは2400℃〜3000℃の範囲で処理し、触媒であるCNT内に残存する金属微粒子をCNT外に昇華させる方法をいう。但しかかる方法のみでは、再凝固した金属分が単体で、もしくはCNT表面に付着した状態でB成分のCNT中に残留する場合がある。よって、更なる灰化残渣の減少が必要な場合には、高温アニール処理によって生成したCNTを、磁性体除去槽に通過させる方法が好ましく組み合わされる。かかる方法により触媒である金属微粒子が除去され、結果として灰化残渣量が低減される。かかる方法のより好ましい態様は、サイクロン気流中に磁石を配した構成の磁性体除去槽を通す方法であり、かかる方法の詳細は特開2006−327915号公報に記載されている。
【0086】
CNT中の触媒残渣を洗浄する方法では、酸性化合物、アルカリ性化合物、および超臨界流体などを用いて、CNT中の触媒残渣の洗浄を行う。かかる洗浄は、CNTの合成後に行っても、また高温熱処理前の素生成品の段階で行ってもよい。しかしながら、かかる洗浄法による灰化残渣の減量は工業的には効率が低く、CNTのコスト増につながる。したがって好ましい方法は、上記の如く、高温アニール処理による方法、または高温アニール処理と磁性体除去槽の通過とを組み合わせた方法である。即ち、本発明の好適なB成分は、素生成のカーボンナノチューブを、2400〜3000℃の範囲で処理することにより、かかる粗生成のカーボンナノチューブから灰化残渣が低減されたカーボンナノチューブ、または該カーボンナノチューブがサイクロン気流中に磁石を配した構成の磁性体除去槽を通されることにより更に灰化残渣が低減されたカーボンナノチューブである。後者の方法は灰化残渣が低減されるがコスト増を招く点を勘案して利用される。
【0087】
本発明のより好適なCNTは、以下の(i)〜(iii)の工程からなるCVD法で製造されたものであり、より好適には更に(iv)の工程を含む方法で製造されたものである。即ち、(i)炭素源を300〜450℃の温度に加熱して、不活性ガスおよび/または水素ガス雰囲気中で、触媒と共に反応炉に供給し、気相中1000〜1350℃で熱分解させて第1中間体を得る工程、(ii)該中間体を不活性ガス中で800〜1250℃の範囲で焼成して少なくとも未反応原料およびタール分を除去して第2中間体を得る工程、並びに(iii)かかる第2中間体を更に1500〜3000℃で高温アニール処理してカーボンナノチューブを得る工程からなる方法である。更に必要に応じて(iv)得られたカーボンナノチューブをサイクロン気流中に磁石を配した構成の磁性体除去槽を通し、金属微粒子を除去する工程が含まれる。
【0088】
上述の炭素源としては、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどの芳香族炭化水素、一酸化炭素、並びにエタノールの如きアルコール類などが使用できるが、中でも芳香族炭化水素が好ましく、トルエンおよびキシレンがより好ましい。更に、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2以上の化合物を用いることが好ましい。なお、ここで2以上の化合物を用いるとは、熱分解反応過程を通して系内に分解温度の異なる2以上の炭素化合物が含まれる態様を含む。例えば、トルエンやキシレンは、水素脱アルキル化の如き反応を生じて分解温度の異なる2以上の炭素化合物の混合物となる。したがって、2以上の化合物を用いるとは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用することを必要としない。
【0089】
工程(i)の雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素のが利用でき、特に水素が存在する還元性の雰囲気が好ましい。
触媒は、鉄、ニッケル、コバルト、銅、およびモリブデンに代表される遷移金属、並びにかかる遷移金属の化合物が挙げられる。遷移金属化合物としては、フェロセンおよび酢酸金属塩などが例示され、特にフェロセンが好ましい。かかる触媒に加えて、助触媒として硫黄あるいはチオフェンおよび硫化鉄などの硫黄化合物を併用することがより好ましい。遷移金属化合物は、反応炉内で分解されて金属原子となり、次いでクラスターを形成、更に成長して触媒として作用する金属微粒子が形成される。触媒の導入方法としては、単独でガス化する方法、炭素原料と混合してからガス化する方法、キャリアーガスで希釈する方法、または炭素原料に溶解して液状で投入する方法など、いずれの方法でもよい。
【0090】
上記工程における反応炉は、CVD法において公知の各種の反応炉が利用でき筒状反応炉が好ましい。かかる反応炉は通常、原料混合ガスを反応炉内に導入させる導入ノズルと、該反応炉内を加熱する加熱手段とを備える。より好ましくは該反応炉は、反応炉内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させる均一化手段を備える。かかる均一化手段としては、導入ノズルの導入口近傍に混合ガスを衝突させる衝突部を備えることにより、かかる混合ガス流に乱流を生ぜしめる手段が好適に用いられる。またかかる反応炉は、特開2007−146316号公報に開示されているように、その内壁にアモルファスカーボン層が形成されていることが、炭素質スケールの容易な除去および効率的な製造を可能にすることから好ましい。
【0091】
反応炉におけ物質収支から計算された炭素の滞留時間は、好ましくは2〜10秒、より好ましくは5〜10秒である。反応炉における炉内温度は、好ましくは1,000〜1,350℃、より好ましくは1,100〜1250℃である。触媒および原料炭素化合物の炉内への投入は、好ましくは300〜450℃、より好ましくは330〜400℃の範囲で予熱してガス状で行う。炉内ガス中の炭素濃度は、好ましくは1〜20容量%、より好ましくは3〜10容量%、更に好ましくは5〜9容量%の範囲である。炉内の圧力は、約98kPaを下限とし、上限を200kPaとすることが好ましい。より好ましくは98kPaを超え110kPa以下である。上記合成原料中における炭素の重量と、上記合成触媒中における遷移金属との重量との合計中、遷移金属の重量は3重量%以下、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.1〜0.8重量%、更に好ましくは0.2〜0.7重量%とする。
【0092】
キャリアガスとしては、アルゴン、キセノンおよびヘリウム等の希ガス、並びに水素および窒素等を用いることができる。これらのキャリアガスのうち、水素ガスを用いて還元雰囲気とすることがCNTの収量を増す上で好ましい。
【0093】
上記工程(i)で得られる第1中間体は、生焼け状態であり、欠陥が多く、未反応原料、CNT以外の炭化物、タール分、並びに触媒金属を含む。工程(ii)は、かかる第1中間体をから未反応原料やタール分を揮発させ効率的に除去する。これにより純度の高いCNTを得ることができる。かかる工程(ii)は、アルゴンの如き希ガスおよび窒素などの不活性ガス雰囲気において、800〜1200℃で加熱する。加熱時間としては10〜60分が好適である。
【0094】
上記工程(iii)は、第2中間体を2400〜3000℃、好ましくは2500〜2700℃の範囲のでアニール処理することにより、第1中間体における炭素原子からなるパッチ状のシート片を、それぞれ結合させて複数のグラフェンシート状の層を形成する工程である。かかる工程も不活性ガス中で行われ、特に希ガス中において行うことが好ましい。この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0095】
更に、CNTは通常、互いに密に絡み合った凝集状態で生成する。かかる点は上記工程から製造されたCNTにおいても同様である。よってCNTは、マトリックスポリマー中での分散をより高めるため、通常各種の方法により細分化処理がなされるが、上記工程(i)〜(iii)により製造されたCNTにおいても同様の細分化処理がなされることが好ましい。好適な細分化処理の詳細については特開2007−204857号公報に記載されている。尚、かかる細分化処理は、第1中間体、第2中間体、もしくはアニール処理品のいずれが使用されてもよい。
【0096】
(CNTの構造的特徴)
本発明のCNTは、グラフェンシートの層数が1層、2層、または2層を超える複数層であってよい。特に2層を超える複数層が好ましい。本発明のCNTの繊維径は、好ましくは0.7〜100nm、より好ましくは7〜100nm、更に好ましくは15〜90nmである。本発明のCNTのアスペクト比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比は、走査型電子顕微鏡倍率3〜10万倍にて長さと直径を測定し、その比より求めることができる。なお、長さの測定は以下の方法で実施する。まずその観察像をCCDカメラに画像データとして取り込む。得られた画像データを、画像解析装置を使用して、繊維長を算出する。測定本数は5000本以上として行う。また、直径の測定は以下の方法で実施する。まず電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、直径を測定する対象のCNTをランダムに抽出し、中央部に近いところで直径を測定する。なお、断面が円でない場合はその最大値を直径とする。得られた測定値から数平均直径を算出する。近年の電子顕微鏡はその観察画面上の長さを算出する機能が備えられているため、かかる直径も比較的容易に算出可能である。測定本数は1,000本以上として行う。
【0097】
本発明のCNTにおけるグラフェンシート間の距離(層間距離)は、3.354〜3.44nmの範囲であっても、3.44nmを超える範囲であってもよい。層間距離の上限は好ましくは3.65nm、より好ましくは3.6nmである。かかる層間距離は3.44nm超えることが好ましい。したがって本発明のCNTは、いわゆる黒鉛化指数が正の値をとり実質的に黒鉛構造を有するものであっても、黒鉛化指数が負の値をとり非黒鉛性の多層構造であってもよい。よって、より好ましいのは黒鉛化指数が負の値をとり非黒鉛性の多層構造である。尚、黒鉛化指数に関してはWO2004/070095号パンフレットが参照される。
【0098】
本発明のCNTは、そのグラフェンシートの各層が円柱軸に対して実質的に同心円構造を有するものであっても、該シートの間隔が繊維全体に渉り変化するものであってもよい。本発明でより好ましいのは、後者のシートの間隔が繊維全体に渉り変化するものである。またグラフェンシートの積層が繊維軸に対して一定の角度で傾斜した構造であってもよい。かかる場合その傾斜角度は、中心線に対して25〜35度の範囲が好ましい。
発明のカーボンナノチューブは、各層のカイラリティーが無作為に組み合わされたものが好ましく、またグラフェンシート中に6員環でない炭素環構造が存在してもよい。
【0099】
(C成分について)
本発明のC成分の大環状オリゴマーは、大環状ポリカーボネートオリゴマー、大環状ポリエステルオリゴマー、大環状ポリイミドオリゴマー、大環状ポリエーテルイミドオリゴマー、および大環状ポリフェニレンエーテルオリゴマーを含む。中でも大環状ポリエステルオリゴマーおよび大環状ポリカーボネートオリゴマーが好ましく、大環状ポリエステルオリゴマーがより好ましい。かかる大環状ポリエステルオリゴマーは、大環状ポリアリールエステルオリゴマーおよび大環状ポリ(アルキレンジカルボキシレート)オリゴマーのいずれも含む。かかる大環状オリゴマーは、異なる構成単位からなるコオリゴマーであってもよく、更に構成単位の異なる2種以上の大環状オリゴマーのブレンド物であってもよい。
【0100】
本発明の特に好適な大環状ポリ(アルキレンジカルボキシレート)オリゴマーは、下記一般式(iii)で表される構成単位を含む大環状オリゴマーである。
【0101】
【化9】

[式中、Rは、それぞれ独立に、アルキレン、シクロアルキレン、モノまたはポリオキシアルキレン基であり、Xは、それぞれ独立に、二価芳香族または非環式基である]
【0102】
好ましくは、Xはメタまたはパラ結合した単環式芳香族または非環式基である。より好ましくは、Xは炭素数6〜10の単環式芳香族または非環式基である。好ましくは、Rは炭素数2〜8のアルキレン、またはモノもしくはポリオキシアルキレン基である。より好ましいC成分は、上記式(iii)の単位が、1,4−ブチレンテレフタレート、1,3−プロピレンテレフタレート、1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート、1,2− エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる大環状オリゴマー、またはかかる大環状オリゴマーの2種またはそれ以上からなる大環状コオリゴマーである。
【0103】
本発明の大環状オリゴマーは、上記線状熱可塑性ポリマー(A成分)80重量部と大環状オリゴマー(C成分)20重量部とを配合し溶融混練した樹脂組成物において、均質ブレンドを与えるものである。
【0104】
本発明の大環状オリゴマーは、その平均重合度が2〜30であり、より好ましくは2〜10である。かかる平均重合度は、大環状オリゴマーを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて算出することができる。かかる場合、各重合度のオリゴマーを分離操作し、その量とそれに対応するピーク面積との検量線を予め作成しておく。
本発明の大環状オリゴマーの製造法は特に限定されず、公知の方法で製造したものが利用できる。
【0105】
大環状ポリカーボネートオリゴマーを製造する方法は、基本的には対応するビスクロロホーメート化合物、アルカリ金属水酸化物、および第3級アミン類を、かかる反応混合物の反応物質の濃度を下げた希薄溶液下で反応させる。更にかかる反応の効率を上げるため、例えば特開平02−001733号公報で開示される擬似希釈条件での反応が使用できる。C成分の大環状ポリカーボネートオリゴマーの構成単位を誘導する二価フェノール、並びに脂肪族および脂環式の二官能性アルコールは、上記A成分のポリカーボネートにおいて記載したものと同様のものが利用できる。更にその好ましい態様も同様であるが、特に二価フェノールが好ましく利用できる。大環状ポリカーボネートオリゴマーはかかる群から選択される2種以上の構成単位を含むコオリゴマーであってもよい。
【0106】
本発明の大環状ポリエステルオリゴマーの製造も公知の方法が利用できる。かかる方法は基本的には、直鎖状ポリエステルオリゴマーを形成した後、該オリゴマーを環化触媒に接触させて反応を行い、大環状ポリエステルオリゴマーを生成する。かかる環化触媒としては、テトライソプロピルチタネートおよびテトラブチルチタネート等のテトラアルコキシチタネート、並びにモノブチルヒドロキシスズオキシドおよびジブチルスズオキシド等の有機スズ化合物等が例示される。更に環化反応に用いる溶媒としては、α−メチルナフタレン、オルト−、メタ−またはパラ−テルフェニル等の炭化水素が例示される。環化触媒の添加量は、得られるポリマーに対して金属重量で、0.01重量%〜2重量%であることが、環化反応の反応速度及び経済性の点から好ましく、0.1重量%〜1重量%であることがさらに好ましい。更に他の製造方法は、直鎖状ポリエステルオリゴマーを、もしくは該オリゴマーおよびジオール類化合物を加水分解酵素で反応させて大環状ポリエステルオリゴマーを生成する方法を含む。かかる方法は、例えば特開2004−248564号公報に開示されている。更に直鎖状ポリエステルオリゴマーを環化触媒に接触させるに際して、該触媒を担持させたメソポーラス物質を用いて、大環状ポリエステルオリゴマーを生成する方法を含む。かかるメソポーラス物質を用いる方法の詳細は特開2003−082081号公報に開示されている。
【0107】
(D成分:リン系安定剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料は、更にリン系安定剤を含有することが好ましい。かかるリン系安定剤は製造時または成形加工時の熱安定性を大きく向上させる。その結果、機械的特性、色相、および成形安定性を向上させる。かかるリン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。これらの中でも特に、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、およびホスホン酸、トリオルガノホスフェート化合物、およびアシッドホスフェート化合物が好ましい。尚、アシッドホスフェート化合物における有機基は、一置換、二置換、およびこれらの混合物のいずれも含む。該化合物に対応する下記の例示化合物においても同様にいずれをも含むものとする。
【0108】
トリオルガノホスフェート化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、およびトリブトキシエチルホスフェートなどが例示される。これらの中でもトリアルキルホスフェートが好ましい。かかるトリアルキルホスフェートのアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜22、より好ましくは1〜4である。特に好ましいトリアルキルホスフェートはトリメチルホスフェートである。
【0109】
アシッドホスフェート化合物としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、およびビスフェノールAアシッドホスフェートなどが例示される。これらの中でもアルキル基の炭素数が10以上、より好ましくは14〜22の長鎖ジアルキルアシッドホスフェートが熱安定性の向上に有効であり、該アシッドホスフェート自体の安定性が高いことから好ましい。
【0110】
その他ホスファイト化合物としては、例えば、トリデシルホスファイトの如きトリアルキルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイトの如きジアルキルモノアリールホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイトの如きモノアルキルジアリールホスファイト、トリフェニルホスファイトおよびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトの如きトリアリールホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのペンタエリスリトールホスファイト、並びに2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトおよび2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどの環状ホスファイトが例示される。
【0111】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、およびビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく例示され、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、およびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0112】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。第3級ホスフィンとしては、例えばトリフェニルホスフィンが例示される。
【0113】
リン系安定剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部を基準として好ましくは0.0001〜2重量部、より好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。またC成分は、その100重量%中50重量%以上がトリアルキルホスフェートおよび/またはアシッドホスフェート化合物であることが好ましく、特にその100重量%中50重量%以上がトリアルキルホスフェートであることが好ましい。
【0114】
(その他の成分)
本発明の導電性樹脂成形用材料には、通常樹脂に配合される各種の添加剤、および強化剤などを更に配合することができる。
【0115】
(架橋ポリマー)
本発明の導電性樹脂成形用材料には、線状ポリマー以外にゴム質ポリマーに代表される架橋ポリマーを配合することができる。かかる配合量の目安としては、A成分〜C成分の合計100重量部を基準として好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部、更に好ましくは1〜15重量部である。ゴム質ポリマーは、ゴム基質にグラフト鎖が結合したゴム質グラフトコポリマーが好ましい。ここでゴム基質とは、ゴム弾性を有し、ガラス転移温度が10℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下である、グラフト重合体のグラフト幹となる重合体である。かかるゴム基質としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダムコポリマーまたはブロックコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルとブタジエンとのコポリマー、エチレンとα−オレフィンとのコポリマー、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとのコポリマー、エチレンと脂肪族ビニルとのコポリマー、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、アクリル系ゴム、およびシリコーン系ゴムなどが例示される。ゴム質グラフトコポリマーのグラフト鎖を誘導するモノマーとしては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルなどが好適に例示される。ゴム質グラフトコポリマーの具体例としては、SB(スチレン−ブタジエン)コポリマー、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)コポリマー、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)コポリマー、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)コポリマー、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)コポリマー、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)コポリマー、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)コポリマー、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)コポリマー、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)コポリマー、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴムコポリマー、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレンコポリマー、およびメチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)コポリマーなどを挙げることができる。ゴム基質はゴム質グラフトコポリマー100重量%中50重量%以上が好ましく、55〜85重量%の範囲がより好ましい。
【0116】
(充填材)
本発明の導電性樹脂成形用材料には、B成分以外にも強化フィラーとして公知の各種充填材を配合することができる。かかる充填材としては、各種の繊維状充填材、板状充填材、および粒状充填材が利用できる。ここで、繊維状充填材はその形状が繊維状(棒状、針状、またはその軸が複数の方向に伸びた形状をいずれも含む)であり、板状充填材はその形状が板状(表面に凹凸を有するものや、板が湾曲を有するものを含む)である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含むこれら以外の形状の充填材である。上記繊維状や板状の形状は充填材の形状観察より明らかな場合が多いが、例えばいわゆる不定形との差異としては、そのアスペクト比が3以上であるものは繊維状や板状といえる。
【0117】
板状充填材としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、およびカオリン並びにこれらの充填剤に対して異種材料を表面被覆した板状充填材などが好ましく例示される。その粒径は0.1〜300μmの範囲が好ましい。かかる粒径は、10μm程度までの領域は液相沈降法の1つであるX線透過法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、10〜50μmの領域ではレーザー回折・散乱法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、50〜300μmの領域では振動式篩分け法による値である。かかる粒径は導電性樹脂成形用材料中での粒径である。板状充填材は、各種のシラン系、チタネート系、アルミネート系、およびジルコネート系などのカップリング剤で表面処理されてもよく、またオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂などの各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどにより集束処理されるか、または圧縮処理された造粒物であってもよい。
【0118】
繊維状充填材は、その繊維径が0.1〜20μmの範囲が好ましい。繊維径の上限は13μmが好ましく、10μmが更に好ましい。一方繊維径の下限は1μmが好ましい。ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形品を溶剤に溶解するかもくしは樹脂を塩基性化合物で分解した後に採取される残渣、およびるつぼで灰化を行った後に採取される灰化残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。
【0119】
かかる繊維状充填材としては、例えば、ガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、およびセピオライトなどの繊維状無機充填材、アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表される繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填剤に対して異種材料を表面被覆した繊維状充填材などが例示される。ここで繊維状充填材とは、アスペクト比が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である繊維状の充填材をいう。アスペクト比の上限は10,000程度であり、好ましくは200である。かかる充填材のアスペクト比は導電性樹脂成形用材料中での値である。繊維状充填材も上記板状充填材と同様に各種のカップリング剤で表面処理されてもよく、各種の樹脂などにより集束処理され、また圧縮処理により造粒されてもよい。
【0120】
かかる充填材の含有量は、A成分〜C成分の合計100重量部を基準として好ましくは0.1〜200重量部、より好ましくは1〜100重量部、更に好ましくは3〜50重量部、特に好ましくは5〜30重量部である。
【0121】
(離型剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料には、必要に応じて離型剤を配合することができる。本発明の導電性樹脂成形用材料には高い寸法精度が要求されることが多い。したがって導電性樹脂成形用材料は離型性に優れることが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、および蜜蝋などを挙げることができる。かかる離型剤はA成分〜C成分の合計100重量部に対して0.005〜2重量部が好ましい。
【0122】
本発明の脂肪酸エステルは、部分エステルおよび全エステル(フルエステル)のいずれであってもよい。脂肪酸エステルにおいて、酸価は20以下(実質的に0を取り得る)、水酸基価は0.1〜30の範囲、ヨウ素価は10以下(実質的に0を取り得る)が好ましい。これらの特性はJIS K 0070に規定された方法により求めることができる。
【0123】
(難燃剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料には、その難燃性の改良が求められる場合がある。かかる場合に難燃剤、難燃助剤、および滴下防止剤が配合される。本発明の難燃剤としては、各種のハロゲン系難燃剤、有機リン酸エステル系難燃剤、無機系難燃剤、有機アルカリ(土類)金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤、およびホスファゼン系難燃剤などが好適に例示される。
【0124】
ハロゲン系難燃剤としては、テトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAのオリゴマー、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカーボネート、ブロム化ポリスチレン、ブロム化架橋ポリスチレン、ブロム化ポリフェニレンエーテル、ポリジブロムフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイドビスフェノール縮合物および含ハロゲンリン酸エステルが例示される。
【0125】
有機リン酸エステル系難燃剤としては、モノホスフェート化合物としてトリフェニルホスフェート、縮合リン酸エステルとしてレゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、およびビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、その他ペンタエリスリトールジフェニルジホスフェートなどが例示される。
【0126】
無機系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム塩、リン酸アルミニウム、およびリン酸ジルコニウムなどの無機系リン酸塩、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムなどの無機金属化合物の水和物、並びにホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、および酸化アンチモンなどの金属酸化物が例示される。
【0127】
有機アルカリ(土類)金属塩系難燃剤としては、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸カリウム、および竅|ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物などが例示される。
【0128】
シリコーン系難燃剤としては、ポリカーボネート樹脂の難燃性を改良する公知のシラン化合物またはシリコーン化合物が利用でき、例えばアリール基を高濃度に含むシリコーン化合物、アリール基とアルコキシ基とを含むシラン化合物またはシリコーン化合物、Si−H基を含有する(特にアリール基を高濃度に含む)シラン化合物またはシリコーン化合物、およびオルガノシロキサンとポリカーボネート樹脂との共重合体などが例示される。
【0129】
ホスファゼン系難燃剤としては、フェノキシホスファゼンオリゴマーや環状フェノキシホスファゼンオリゴマーが例示される。
【0130】
難燃助剤としては、アンチモン酸ナトリウムおよび三酸化アンチモンなどが挙げられ、滴下防止剤としてはフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンを代表的に例示できる。かかるポリテトラフルオロエチレンの配合時の形態は、導電性樹脂成形用材料中でポリテトラフルオロエチレンの分散性を改良するため、分散液、分散液と他のポリマーとを共凝集した混合物、または分散液もしくは固体とタルクに代表されるすべり性のある無機充填材との予備混合物であってもよい。
【0131】
難燃剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましく、難燃助剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンの正味の量として)の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.01〜2重量部が好ましい。
【0132】
(ヒンダードフェノール系安定剤およびその他の酸化防止剤)
ヒンダードフェノール系安定剤は、導電性樹脂成形用材料の耐熱老化を防止するのに効果がある。本発明の導電性樹脂成形用材料は高熱雰囲気下で利用される場合もあることから、かかる場合に特に好適に配合される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、およびテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。中でもオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましく利用される。
【0133】
また上記ヒンダードフェノール系安定剤以外の他の酸化防止剤を使用することができる。かかる他の酸化防止剤としては、例えば3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤(かかる安定剤の詳細は特開平7−233160号公報に記載されている)、並びにペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有系安定剤が挙げられる。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これら安定剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.005〜0.5重量部である。
【0134】
(加水分解改良剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料は、高熱雰囲気下で利用される場合もあることから、その耐加水分解性の改良が求められる場合がある。かかる場合には、例えばポリカーボネート樹脂の加水分解改良剤として従来知られた化合物を、本発明の目的を損なわない範囲において配合することができる。かかる化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、シラン化合物およびホスホン酸化合物などが例示され、特にエポキシ化合物およびオキセタン化合物が好適に例示される。エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに代表される脂環式エポキシ化合物、および3−グリシジルプロポキシ−トリエトキシシランに代表される珪素原子含有エポキシ化合物が好適に例示される。かかる加水分解改良剤は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.005〜1重量部とすることが好ましい。
【0135】
(流動改質剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料には高い寸法精度が要求されることが多い。かかる場合に良好な流動性が求められる場合がある。かかる場合に流動改質剤の配合が効果的である。したがって、流動改質剤として従来知られた化合物を、本発明の目的を損なわない範囲において配合することができる。かかる流動改質成分としては例えば、可塑剤(例えばリン酸エステル、リン酸エステルオリゴマー、ホスファゼンオリゴマー、脂肪酸エステル、脂肪族ポリエステル、および脂肪族ポリカーボネート等に代表される)、線状オリゴマー(例えば、スチレン、アクリロニトリル、およびポリメチルメタクリレートから選択された少なくとも1種の成分を重合してなるオリゴマー、並びにポリカーボネートオリゴマーなどに代表される)、並びに滑剤(例えば鉱物油、合成油、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリオルガノシロキサン、オレフィン系ワックス、ポリアルキレングリコール、およびフッ素オイルなどに代表される)などが例示される。ここでオリゴマーは2〜30、好ましくは2〜10の平均重合度を有するものである。
【0136】
上記可塑剤の配合量はA成分〜C成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部、上記高剛性かつ高流動性の他の熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂オリゴマーは0.5〜30重量部、液晶ポリマーは0.5〜30重量部、剛直型分子は0.1〜15重量部、滑剤は0.1〜10重量部の範囲が好ましい。
【0137】
(紫外線吸収剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料に耐候性の改良や紫外線吸収性が要求される場合、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。紫外線吸収剤としては、紫外線吸収剤として公知のベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、環状イミノエステル系化合物、およびシアノアクリレート系化合物などが例示される。より具体的には、例えば2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および1,3−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパンなどが例示される。さらにビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等に代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も使用することが可能である。かかる紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。
【0138】
(帯電防止剤)
本発明の導電性樹脂成形用材料に帯電防止剤を併用することもできる。かかる帯電防止剤としては、例えばグリセリンモノステアレート、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、および無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。更にA成分として、帯電防止性能を有するポリエーテルエスルアミドを含有してもよい。かかる帯電防止剤の配合量は、A成分〜C成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部が好ましい。
【0139】
(その他付加的成分)
上記以外にも本発明の導電性樹脂成形用材料には、摺動剤(例えばPTFE粒子および高分子量ポリエチレン粒子など)、着色剤、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、無機もしくは有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、および微粒子酸化亜鉛など)などが配合できる。
【0140】
(導電性樹脂成形用材料の製造)
本発明の導電性樹脂成形用材料の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではない。しかしながら、導電性充填剤の分散には優れた混練性能が必要とされることから、二軸押出機を使用してA成分、B成分、C成分およびその他成分を溶融混練することが好ましい。
【0141】
二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner & Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。その他、FCM(Farrel社製、商品名)、Ko−Kneader(Buss社製、商品名)、およびDSM(Krauss−Maffei社製、商品名)などの溶融混練機も具体例として挙げることができる。上記の中でもZSKに代表されるタイプがより好ましい。かかるZSKタイプの二軸押出機においてそのスクリューは、完全噛合い型であり、スクリューは長さとピッチの異なる各種のスクリューセグメント、および幅の異なる各種のニーディングディスク(またそれに相当する混練用セグメント)からなるものである。
【0142】
二軸押出機においてより好ましい態様は次の通りである。スクリュー形状は1条、2条、および3条のネジスクリューを使用することができ、特に溶融樹脂の搬送能力やせん断混練能力の両方の適用範囲が広い2条ネジスクリューが好ましく使用できる。二軸押出機におけるスクリューの長さ(L)と直径(D)との比(L/D)は、20〜50が好ましく、更に28〜42が好ましい。L/Dが大きい方が均質な分散が達成されやすい一方、大きすぎる場合には熱劣化により樹脂の分解が起こりやすい。スクリューには混練性を上げるためのニーディングディスクセグメント(またはそれに相当する混練セグメント)から構成された混練ゾーンを1個所以上有することが必要であり、1〜3箇所有することが好ましい。CNTの如きナノ繊維状充填剤においては、混練ゾーンにおける繊維の切断に配慮して、適切なセグメント構成を取る必要がある。即ち、混練中の過剰な剪断力の負荷を避けるよう配慮する。また材料の供給ゾーンおよび圧縮ゾーンにおいても急な圧縮の構成は繊維の切断を促進するため、かかる点に配慮し、圧縮比の低減および圧縮ゾーンのL/Dを長めにとることが必要となる。
【0143】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。またカーボンナノチューブの分散性を高めたり、導電性樹脂成形用材料中の不純物を極力除去するため、水、有機溶剤、および超臨界流体などの添加を行ってもよい。更に押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を導電性樹脂成形用材料から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0144】
B成分、C成分およびその他添加剤(以下の例示において単に“添加剤”と称する)の押出機への供給方法は特に限定されない。各添加剤は、ドライブレンドした後供給しても、ドライブレンドすることなく独立に押出機に供給してもよい。各添加剤は、A成分および添加剤の一部または全部を、溶融ブレンドまたは溶液ブレンドして配合用濃縮物を製造し、かかる濃縮物の形態で押出機に供給してもよい。またドライブレンドにおいても、一旦、添加剤が高濃度に配合されたマスター剤を作成し、該マスター剤を独立にまたは残りのポリマー等と更に予備混合した後、押出機に供給してもよい。尚、該マスター剤は、粉末形態および該粉末を圧縮造粒などした形態のいずれも選択できる。予備混合の手段は、例えばナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などがあるが、ヘンシェルミキサーのような高速撹拌型の混合機が好ましい。他の予備混合の方法は、例えばポリマーと添加剤を溶媒中に均一分散させた溶液とした後、該溶媒を除去する方法である。
【0145】
押出機より押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。更に外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0146】
(配合用濃縮物)
導電性充填剤、中でも好適なCNTのポリマー中への配合には、マスターバッチ、即ち配合用濃縮物が多く用いられている。かかる濃縮物は、導電性充填剤の配合操作を容易にする。したがって、上述の本発明の導電性樹脂成形用材料からなるペレットの製造において、押出機に供給する原料として、A成分の一部、B成分およびC成分からなる配合用濃縮物を予め製造し、かかる配合用濃縮物を利用し、その結果、導電性および生産性に優れた導電性を有する導電性の成形品を得ることができる。明確な理由は不明であるが、B成分およびC成分のみからなる配合用濃縮物では、得られる導電性成形用材料の射出速度依存性が十分に改良されない場合がある。また配合用濃縮物中のA成分、即ち線状熱可塑性ポリマーは、該ポリマーと異種のポリマーであることができる。
【0147】
かかる配合用濃縮物において、A成分はポリカーボネートが好ましく、B成分はCNTが好ましい。かかる配合用濃縮物におけるポリカーボネートは、その二価フェノール成分がビスフェノールAであることがより好ましい。更に配合用濃縮物より単離されたA成分の粘度平均分子量は17,000〜30,000の範囲であることが好ましい。該粘度平均分子量はより好ましくは、19,000〜28,000、更に好ましくは20,000〜26,000である。本発明の配合用濃縮物におけるCNT、並びに大環状オリゴマーの内容およびその好適な態様はB成分と同じである。
【0148】
更に本発明の配合用濃縮物には、導電性樹脂成形用材料と同様にD成分のリン系安定剤が、A成分〜C成分の合計100重量部を基準として0.0001〜2重量部配合されることが好ましい。該配合量は、より好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。また配合用濃縮物においてもD成分は、その100重量%中50重量%以上がトリアルキルホスフェートおよび/またはアシッドホスフェート化合物であることが好ましく、特にその100重量%中50重量%以上がトリアルキルホスフェートであることが好ましい。
【0149】
配合用濃縮物のうち、CNT配合用濃縮物は、該濃縮物を空気中600℃で6時間加熱処理した後の灰化残渣が0.5重量%以下であることが好ましい。かかる灰化残渣は好ましくは0.001〜0.5重量%、より好ましくは0.005〜0.2重量%、更に好ましくは0.015〜0.15重量%である。上記灰化残渣量に調整されたCNT配合用濃縮物は、A成分がポリカーボネートの場合、その特性劣化が抑制されている。したがって該濃縮物を用いて製造された導電性樹脂成形用材料の割れ耐性や寸法精度をより向上させることが可能である。
【0150】
本発明の配合用濃縮物は、上述の導電性樹脂成形用材料の製造方法と同様に製造することができ、特にA成分、B成分およびC成分の所定量を溶融混練することが好ましい。かかる溶融混練には、加圧ニーダー、バンバリーミキサーおよび各種の押出機などを用いることができる。またかかる混練において水、有機溶剤、および超臨界流体などの添加を行ってもよいことも導電性樹脂成形用材料の場合と同様である。配合用濃縮物の製造においては、B成分とC成分とをC成分の溶融状態で混合した後、A成分を加えて更に溶融混練してもよい。また、B成分の分散をより容易とするため、混練に先立って水、有機溶剤、および超臨界流体などにB成分を分散させた後、他の成分と混合してもよい。溶融混練以外の方法としては、A成分および/またはC成分の溶液、並びにB成分またはその分散液とを混合し、媒質を分離させて混合物を得てもよい。かかる混合にはその周速が30m/秒を超えるような高せん断型の高速ミキサーを利用することができる。
【0151】
配合用濃縮物は公知の冷却方法および切断方法を用いて、ペレット形状または不定形とされる。ペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mmである。
【0152】
(配合用濃縮物を用いた導電性樹脂成形用材料の製造方法)
上述のとおり、本発明によれば上記構成(8)の製造方法が提供される。かかる製造方法で利用されるA成分〜C成分、並びに配合用濃縮物の詳細は上述のとおりである。かかる混合には、導電性樹脂成形用材料の製造方法で説明したとおり、ベント式二軸押出機が最も好適に利用できる。
【0153】
かかる成形用材料の製造では、シリンダ温度を好ましくは250〜320℃、より好ましくは270〜310℃に設定し、スクリュー回転数を好ましくは60〜500rpm、より好ましくは70〜200rpmに設定する。かかる溶融混練では配合用濃縮物は、原料のA成分の樹脂と同一の供給口から供給する方法であっても、また該濃縮物を押出機途中から溶融樹脂に対して供給する方法であってもよい。また該濃縮物を複数の供給口から分割して供給することもできる。
【0154】
(本発明の導電性樹脂成形用材料からなる成形品について)
本発明の導電性樹脂成形用材料は、通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、二軸押出機で溶融混練された成形用材料を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、および射出成形品にすることも可能である。
【0155】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。より好ましいのは低射出速度でも成形が可能な射出圧縮成形および射出プレス成形である。
【0156】
また本発明の導電性樹脂成形用材料は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の導電性樹脂成形用材料は回転成形やブロー成形などにより成形品にしてもよい。
【0157】
更に本発明の導電性樹脂成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。
【発明の効果】
【0158】
本発明の導電性樹脂成形用材料は、熱可塑性ポリマーに導電性充填剤と大環状オリゴマーとを合わせて配合することにより、優れた導電性、殊に低減された射出速度依存性を有する。かかる特性によって、導電性樹脂成形用材料は幅広い成形条件の射出成形に対応し、その結果幅広い用途の成形品形状に適用可能である。かかる用途としては、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(LCD、有機EL、電子ペーパー、プラズマディスプレー、およびプロジェクタなど)、送電部品(誘電コイル式送電装置のハウジングに代表される)が例示される。かかる用途としては、例えばプリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)が例示される。かかる用途としては、VTRカメラ、光学フィルム式カメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ用レンズユニット、防犯装置、および携帯電話などの精密機器が例示される。特に本発明の導電性樹脂組成物は、カメラ鏡筒、デジタルカメラの如きデジタル画像情報処理装置の筐体、カバー、および枠に好適に利用される。
【0159】
その他更に本発明の導電性樹脂成形用材料は、マッサージ機や高酸素治療器などの医療機器;画像録画機(いわゆるDVDレコーダーなど)、オーディオ機器、および電子楽器などの家庭電器製品;パチンコやスロットマシーンなどの遊技装置;並びに精密なセンサーを搭載する家庭用ロボットなどの部品にも好適なものである。
【0160】
また本発明の導電性樹脂成形用材料は、各種の車両部品、電池、発電装置、回路基板、集積回路のモールド、光学ディスク基板、ディスクカートリッジ、光カード、ICメモリーカード、コネクター、ケーブルカプラー、電子部品の搬送用容器(ICマガジンケース、シリコンウエハー容器、ガラス基板収納容器、およびキャリアテープなど)、帯電防止用または帯電除去部品(電子写真感光装置の帯電ロールなど)、並びに各種機構部品(ギア、ターンテーブル、ローター、およびネジなど。マイクロマシン用機構部品を含む)に利用可能である。
したがって本発明の導電性樹脂成形用材料は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0161】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0162】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。尚、評価としては以下の項目について実施した。
【0163】
(I)評価項目
(I−1)表面抵抗率
幅45mm×長さ80mm×厚み2mmの角板を射出速度10mm/secおよび50mm/secの2種の射出条件で成形した。パージ直後から2、4、6、8、および10ショット目の成形品を抜き出し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気で24時間放置した後、かかる5つの角板をデジタル絶縁計(東亜電波工業(株)製)および低抵抗率計(三菱化学(株)製)で表面抵抗率を測定し、その平均値を算出した。
【0164】
(I−2)静電気帯電放電(ESD)特性
上記(I−1)の評価に用いた角板のうち、射出速度50mm/secで成形したものを用いて、5つの角板を帯電電圧測定装置(シシド静電気(株)製)で10kVの帯電電圧で電荷を飽和させた後の帯電電圧の半減衰時間を測定し、その平均値を算出した。尚、表中0秒の表記は、いずれのサンプルも飽和帯電圧に到達しなかったことを示す。
【0165】
(II)導電性樹脂成形材料および成形品の製造
表記載の配合割合からなる導電性樹脂成形材料を以下の要領で作成した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表に記載成分を表中の配合割合(重量部)でポリエチレン袋中に量り入れ、かかる袋を上下方向および左右方向に十分に回転させることにより、各成分を均一にドライブレンドした。得られた混合物をスクリュー径15mmのベント式二軸押出機(テクノベル(株)製KZW15−25MG)を用いて、最後部の第1投入口に供給した。シリンダー温度およびダイ温度は、それぞれ、実施例4および比較例4では290℃、実施例8および比較例6では310℃、並びにそれら以外の実施例および比較例では270℃とした。またスクリュー回転数250rpm、1時間当りの吐出量2kg/h、およびベントの真空度3kPaで行った。尚、スクリューセグメントの構成は、ベントの位置の上流および下流側にニーディングディスクにより構成された混練ゾーンを有していた。押出されたストランドを水浴において冷却した後、ペレタイザーで切断しペレット化した。
得られたペレットを90℃で10時間、熱風乾燥機にて乾燥した後、射出成形機((株)日本製鋼所製J75EIII型)を用いて、幅45mm×長さ80mm×厚み2mmの角板成形品を成形した。シリンダー温度は、実施例1〜7、9および比較例8では280℃、実施例8、比較例1〜4および7では300℃、実施例10では260℃、比較例5では320℃、並びに比較例6では340℃とし、金型温度は全て90℃とした。射出速度は、上述のとおり10mm/secおよび50mm/secの2条件で実施した。
上記実施例および比較例で使用した原材料は、下記のとおりである。
【0166】
(A成分)
PC−1: 粘度平均分子量22,500の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトL−1225WP(商品名))
PC−2: 粘度平均分子量28,500の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトK−1285WQ(商品名))
PC−3: 下記製法により製造されたガラス転移温度171℃、吸水率0.2重量%である耐熱性ポリカーボネート
PAR: ポリアリレート樹脂(ユニチカ(株)製 UポリマーU−100)
PEN: 2,6−ジメチルナフタレート92モル%およびジメチルテレフタレート8モル%とエチレングリコールを常法に従ってエステル交換反応および溶融重合反応させたIV:0.70のポリエチレンナフタレート(帝人化成(株)製「テオネックス TN8770」)
PPE: ポリフェニレンエーテル系樹脂(旭化成工業(株)製ザイロン300H)
【0167】
(A成分および架橋ポリマーとの混合物)
ABS−1: 遊離のアクリロニトリル−スチレンコポリマー成分80重量%およびアクリロニトリル−スチレン−ブタジエングラフトコポリマー成分20重量%からなるポリブタジエン成分含有量が全体の約12重量%である連続塊状重合法で製造されたABS樹脂[日本エイアンドエル(株)製サンタックUT−61]
【0168】
(PC−3の製法)
温度計及び撹拌機付き反応器にイオン交換水19580重量部および48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液3850重量部を仕込み、これに9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称する)1175重量部およびビスフェノールA(以下“BPA”と略称する)2835重量部およびハイドロサルファイト9重量部を溶解した後、塩化メチレン13210重量部を加えて激しく撹拌しながら15℃で約40分を要してホスゲン2000重量部を吹込み反応させた。ホスゲン吹き込み終了後、28℃に上げてp−tert−ブチルフェノール94重量部と48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液640重量部を加えて乳化させた後、トリエチルアミン6重量部を加えて1時間撹拌を続けて反応を終了した。反応終了後有機相を分離し、塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところでニーダーにて塩化メチレンを蒸発して、BCFとBPAの比がモル比で20:80である無色のパウダー4080重量部を得た。この芳香族ポリカーボネートパウダーの粘度平均分子量は20,300であった。
【0169】
(A成分とB成分との混合物)
CNT−1: カーボンナノチューブの灰化残渣が9重量%であり、カーボンナノチューブ配合用濃縮物における灰化残渣が1.3重量%であり、これらの灰化残渣の蛍光X線測定装置(((株))堀場製作所製MESA−500型)から算出される元素の重量割合は鉄63重量%、アルミニウム28重量%およびニッケル3重量%であり、カーボンナノチューブ濃度が15重量%であり、直鎖状芳香族ポリカーボネートをマトリックス成分とするカーボンナノチューブ配合用濃縮物(ハイペリオン社製カーボンナノチューブマスターMB6015−00)
CNT−2:下記の製法により製造されたカーボンナノチューブの灰化残渣が0.4重量%であり、カーボンナノチューブ配合用濃縮物における灰化残渣が0.1重量%であり、該灰化残渣の蛍光X線測定装置((株)堀場製作所製MESA−500型)から算出される元素の重量割合は鉄がほぼ100重量%であるカーボンナノチューブ濃度が5重量%であるカーボンナノチューブ配合用濃縮物
【0170】
(CNT−2のカーボンナノチューブの製造)
内径76mm、長さ1500mmのシリコンカーバイト製の炉心管を有し、該炉心管を外部から加熱可能な縦型反応路を用いた。該反応路の塔頂部より反応原料を投入し、反応生成物は下部の回収缶から回収した。雰囲気水素は半分を原料と共に供給し、残り半分は塔頂部から独立に供給した。雰囲気水素はセパレーターにより分離して循環使用した。原料は、予めフェロセンが1.6重量%、およびチオフェンが1.6重量%となるようにトルエンに混合し、この液を炉内滞留時間が8秒となる速度で供給し、炉内温度1200℃で反応させた。炉内圧力はほぼ常圧とし、また炉内ガス中のトルエン濃度は7容量%とした。
得られた素生成物を回収し、更に1200℃まで昇温して30分間炭化水素分離処理を行い、その後2800℃で高温熱処理して結晶性を高めた。最終的な生成物は外径が約60nmのカーボンナノチューブであった。
【0171】
(CNT−2の配合用濃縮物の製造)
上記で得られたカーボンナノチューブ、メタノール、水、およびメチルセルロースを重量比20:20:9:1で混合し、グラニュレーターにより15分造粒し、その後110℃の熱風乾燥機中で乾燥し、カーボンナノチューブの造粒物を得た。100重量部の上記PC−1に対して18重量部のかかる造粒物および0.2重量部のトリメチルホスフェートをスーパーミキサーで予備混合した後、該予備混合物をスクリュー径15mmのベント式二軸押出機(テクノベル(株)製KZW15−25MG)に供給して溶融混練しペレットを得た。条件は樹脂組成物の製造と同様とした。
【0172】
(B成分)
CNT−3: 韓国CNT社製多層カーボンナノチューブCTUBE100((株)寺田から入手)
CB: 導電性カーボンブラック(DBP吸油量495ml/100g)[ライオン(株)製ケッチェンブラック EC−600JD(商品名)]
【0173】
(C成分)
CBT: ポリブチレンテレフタレート環状オリゴマー(米国Cyclics Corporationから入手)
【0174】
(B成分およびC成分の混合物)
CNT−4: 20重量部(83.3重量%)の上記C成分のCBT、および4重量部(16.7重量%)の上記B成分のCNT−3を容器に入れ、該容器内容物を高粘度対応のマグネチックスターラーで攪拌できるようにした。容器を80℃にオイルバスに浸漬して1時間真空ポンプによる減圧状態で保持した後、かかる減圧状態のまま200℃までオイルバスを昇温してCBTを溶融させ、2時間攪拌を行い均一物とした。得られた均一物をテフロン(登録商標)パンに移注して冷却固化した後、粉砕ミルで粉砕をしてB成分およびC成分の混合物を作成した。
【0175】
(A成分、B成分およびC成分の混合物)
CNT−5: 20重量部の上記C成分のCBT、および6重量部の上記A成分のPC−1とを130重量部の塩化メチレンに溶解し、均一溶液とした後、塩化メチレンを蒸発させてこれらの混合物を得た。かかる混合物26重量部と4重量部の上記B成分のCNT−3とをスクリューローター型のニーダーを用いて、真空ポンプによる減圧下20分間混練して混練物を得、該混練物を粉砕して混合物を作成した。
【0176】
(D成分:リン系安定剤)
TMP:トリメチルホスフェート(トリメチルホスフェート(大八化学工業(株)製TMP(商品名))
AX71:モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェート(旭電化工業(株)製アデカスタブAX−71(商品名))
【0177】
【表1】

【0178】
【表2】

【0179】
【表3】

【0180】
上記実施例9の成形材料を用いて、肉厚5mm、高さ7cmのプリフォームを成形し、その後、石英ヒーターで約150℃に加熱して、型内に入れ、約3MPaの圧縮空気を吹き込み、面倍率約12.5倍のブロー成形体を得た。かかる成形体における表面抵抗率は10E+2Ωであり、良好な導電性の成形品が得られた。
【0181】
また、上記実施例1および3の成形品について、その切断面の透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、図1および図2に示されるとおり、CNTの偏在構造が観察された。かかる明確な偏在構造により、良好導電性および射出速度依存性の改善が達成されていると考えられる。図3には比較例3における同様の観察写真を示すが、図2の実施例3の場合と比較して、その偏在構造が不明瞭でCNTが全体的に分散していることが分かる。一方で、C成分の大環状ポリエステルがポリカーボネートと均一に相溶することを考慮すると、かかる偏在構造が発現することは、全く予想外の結果であった。尚、上記実施例で使用したPC−1:80重量部およびCBT:20重量部を実施例と同様の押出機および成形機を用いて、280℃で押出してペレットを製造し、90℃で10時間乾燥機の後、かかるペレットをシリンダー温度270℃および金型温度90℃で成形して得られた2mm厚の平滑な板状成形品において、そのHazeは0.6%、および全光線透過率は90%であり、CBTが20重量%においてポリカーボネートと完全に相溶することを確認した。かかる良好な相溶性は従来の公知文献に開示されたとおりであった。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】実施例1の射出速度50mm/secにおいて成形した角板成形品から切り出した、厚み方向に平行な断面の透過型電子顕微鏡写真である。尚、切り出し位置は、他の写真においてもほぼ同様とした。
【図2】実施例3の射出速度50mm/secにおいて成形した角板成形品から切り出した、厚み方向に平行な断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例3の射出速度50mm/secにおいて成形した角板成形品から切り出した、厚み方向に平行な断面の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)5〜98.9重量%、導電性充填剤(B成分)0.1〜50重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜45重量%からなる導電性樹脂成形用材料。
【請求項2】
上記C成分は、A成分80重量部とC成分20重量部とを配合し溶融混練した樹脂組成物において、均質ブレンドを与えるものである請求項1に記載の導電性樹脂成形用材料。
【請求項3】
上記C成分は、大環状ポリエステルオリゴマーである請求項1または請求項2記載の導電性樹脂成形用材料。
【請求項4】
上記B成分は、導電性炭素材料である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導電性樹脂成形用材料。
【請求項5】
上記A成分は、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアルキレンナフタレート、およびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を主成分とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の導電性樹脂成形用材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の導電性樹脂成形用材料を、40mm/秒以上の速度で射出成形することにより得られた導電性樹脂成形品。
【請求項7】
導電性樹脂成形用材料を射出成形することにより導電性樹脂成形品を製造する際、該成形品の導電性が射出速度の増加に伴い低下することを抑制した導電性樹脂成形品の製造方法であって、かかる導電性樹脂成形用材料として、A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)5〜98.9重量%、導電性充填剤(B成分)0.1〜50重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜45重量%からなる導電性樹脂成形用材料を使用することを特徴とする導電性樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)0〜98重量%、導電性充填剤(B成分)1〜60重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜99重量%からなる配合用濃縮物を、A成分、またはA成分およびC成分の混合物に配合する上記請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の導電性樹脂成形用材料の製造方法。
【請求項9】
A成分〜C成分の合計を100重量%としたとき、線状熱可塑性ポリマー(A成分)0〜98重量%、導電性充填剤(B成分)1〜60重量%、および大環状オリゴマー(C成分)1〜99重量%からなる配合用濃縮物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−197056(P2009−197056A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37468(P2008−37468)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】