説明

導電性樹脂組成物、印刷インキ、透明電極基板及び電磁波シールド材

【課題】 導電性、分散安定性、透明性に優れ、印刷インキに使用した際に、印刷精度及び乾燥性に優れる導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の導電性樹脂組成物は、(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、及び、(B)増粘剤を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物、印刷インキ、透明電極基板及び電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の発達に伴い、電気回路等に利用される微細な導電性パターンを、精度よくしかも効率よく形成する技術の重要性が高まる傾向にある。導電性パターンには、線幅が微細であっても、表面が平坦でかつエッジがシャープに再現されており、しかも断線などの不良を生じないことが必要とされている。これを満たす技術開発が行われている。また、導電性パターンの形成技術を用いて、有機又は無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイなどの表示デバイスやタッチパネルなどの軽量化、フレキシブル化、生産性向上のための検討が盛んに行われている。
【0003】
従来、これらのデバイスにおける電極は、主にITOスパッタリング膜のエッチングにより形成されてきたが、製造コストが高く、生産性に問題があることから、プリンテッドエレクトロニクスと呼ばれる印刷手法を利用した製造方法が検討されている。
このような製造方法においては、透明な導電性パターンを形成するための印刷インキが求められ、印刷インキとしては、例えば、ITOの微粉末を配合したインキが提案されている。
しかしながら、ITO微粉末を使用した印刷インキは、導電性や透明性が不充分であるという問題がある。さらに、金属粉末を主成分としており、この導電性ペーストを用いた印刷回路基板や電子部品を焼却しても金属成分は残留してしまうため、環境負荷は多大なものとなってしまう。また、金属粉末を使用する導電性ペーストは、加熱により揮発性分散媒が揮散し、金属粒子の焼結温度以上の温度での加熱により、金属粒子同士が焼結して固体状となり、複数の金属製部材同士を強固に接合させることで導電性を確保しているため、焼結温度を低くする技術の開発は困難であった。
【0004】
また、導電性高分子を配合した印刷インキも提案されている。
具体的には、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]/ポリ(スチレンスルホネート)[PSS]水分散体、増粘剤、及び、充填剤の溶液又は分散液を含有する印刷インキが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、導電性ポリマーと、アルコール類、ケトン類、シクロアルカン類、アレン類、エステル類、グリコールエーテル類及びそれらの混合物等の有機溶媒を含む含水媒体とを含むコーティング組成物(印刷インキ)が開示されており、本文献の実施例には、0.02〜0.1重量%のPEDOT及び2〜8重量%の水を含むコーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−532307号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1081546号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された印刷インキは、溶剤が水であるため、印刷後の乾燥に時間を要するとの問題を抱えていた。
また、特許文献2に開示されたコーティング組成物は、配合されるポリマーが、チオフェンを単量体とするポリチオフェン誘導体であり、このポリマーは、有機溶剤やその他の構成成分に対する分散安定性が悪く、ゲル物が発生し、導電性が低下するといった問題が起こっていた。
【0008】
本発明は、導電性、分散安定性、透明性に優れ、印刷インキに使用した際に、印刷精度及び乾燥性に優れる導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。さらには、これを用いた印刷インキ、この印刷インキを用いて形成した導電性パターンを備えた透明電極基板及び電磁波シールド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマーである特定の複素環含有芳香族ポリマーと、増粘剤とを含有する導電性樹脂組成物が、導電性パターンを形成するための印刷インキとして特に好適であり、加えて、この印刷インキが透明電極基板や電磁波シールド材の導電性パターンを形成するのに好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の導電性樹脂組成物は、
(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、及び
(B)増粘剤、
を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の導電性樹脂組成物において、上記複素環含有芳香族化合物は、下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物であることが好ましく、
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表す。また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
下記構造式(2−1)〜(2−12)で表される複素環含有芳香族化合物のなかの少なくとも1つであることがより好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明の導電性樹脂組成物において、上記増粘剤は、ポリアクリル酸系樹脂、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、及び、セルロースエーテル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明の印刷インキは、本発明の導電性樹脂組成物を含有することを特徴とする。
上記印刷インキは、スクリーン印刷ペーストであることが好ましい。
【0017】
本発明の透明電極基板は、基板上に本発明の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする。
また、本発明の電磁波シールド材は、基材上に本発明の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の導電性樹脂組成物は、導電性高分子として、チオフェン環基とピロール環基とが直接結合したカップリング体を単量体とする特定の複素環含有芳香族ポリマーを含有しており、この複素環含有芳香族ポリマーは、導電性に優れるとともに、増粘剤との相溶性に極めて優れるため、本発明の導電性樹脂組成物は、導電性塗膜を形成するための印刷インキとして好適に使用することができる。
また、本発明の導電性樹脂組成物は、上述した複素環含有芳香族ポリマーの特性に起因して、長期間に渡って構成成分の沈殿や、ゲル化等がみられず、分散安定性に優れる。
加えて、上記導電性樹脂組成物は透明性に優れ、透明の導電性パターン(透明電極)を形成するのに好適である。
【0019】
また、本発明の導電性樹脂組成物を含有する印刷インキは、上記導電性樹脂組成物を含有するため、保存安定性に優れ、塗膜(導電性パターンを含む)を基板上に形成した際に、塗膜の強度及び基板との密着性に優れ、かつ、乾燥性に優れる。更に、上記印刷インキにより形成された塗膜は、耐熱性及び耐候性に優れ、長期間に渡って所望の機能(導電性等)を維持することができる。また、上記塗膜は、金属粉末を使用する導電性ペーストを焼結させる温度よりも低温で形成することができるため、基材等に与えるダメージを低減することができる。
また、本発明の透明電極基板及び電磁波シールド材のそれぞれは、本発明の印刷インキを用いて、従来知られている印刷方法で形成することが可能であり、それらの印刷方法により形成された導電性パターンを備えるため、その製造が容易かつ安価である。さらに、所望の機能(導電性等)を長期間に渡って維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の導電性樹脂組成物について説明する。
本発明の導電性樹脂組成物は、
(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、及び、
(B)増粘剤
を含有する。
以下、本発明の導電性樹脂組成物を構成する各成分について、順に説明する。
【0021】
(A)複素環含有芳香族ポリマー
上記複素環含有芳香族ポリマーは、下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする。
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)
【0022】
ここで、チオフェン環基とは2−チエニル基のことをいい、炭素原子上に置換基を有してもよい。
また、ピロール環基とは2−ピロリル基のことをいい、炭素原子上又は窒素原子上に置換基を有してもよい。
【0023】
上記一般式(1)におけるMで表される置換チオフェン環基としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
(各式中、nは1から10の整数を示す。)
【0026】
上記一般式(1)におけるNで表される置換ピロール環基としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
(各式中、nは1から10の整数を示す。)
【0029】
【化5】

【0030】
(各式中、nは1から10の整数、Rは、置換基を有していてもよい芳香族基又は炭素数1から10のアルキル基を示す。)
【0031】
上記チオフェン環基の置換基としては、例えば、後述の有機基等が挙げられるが、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましい。
上記ピロール環基の置換基としては、例えば、後述の有機基等が挙げられるが、炭素原子上の置換基としては、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましく、窒素原子上の置換基としては、炭素数1から10のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
ここで、チオフェン環基やピロール環基の置換基であるアルキル基又はアルコキシ基には、ハロゲン元素やカルボン酸基、スルホン酸基などの官能基が結合していてもよい。
【0032】
上記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(1)ともいう)において、チオフェン環とピロール環とは、環構造に含まれない原子を介して結合することはなく、両環に含まれる原子間の結合によって、直接結合している。
複素環含有芳香族化合物(1)としては、溶剤溶解性や耐熱性、耐候性の観点から、チオフェン環基又はピロール環基の3位又は4位に結合している置換基の数の合計が、2個以上である化合物が好ましい。また、3位又は4位に結合している置換基の数の合計が4個である場合(すなわち、すべての3位及び4位に置換基が結合している場合)、立体障害を避けるために、M又はNの少なくとも一方において、3位の置換基と4位の置換基が結合して環構造を形成していることが好ましい。
【0033】
上記複素環含有芳香族化合物(1)は、Mで示されるチオフェン環上の炭素原子のうち少なくとも1つは無置換であり、かつ、Nで示されるピロール環上の炭素原子のうち少なくとも1つは無置換である。このような複素環含有芳香族化合物(1)を単量体として酸化重合すると、無置換の炭素原子間でカップリング反応が進行することで、複素環含有芳香族ポリマーとして、繰り返し単位が−M−N−で示される直鎖状重合体が得られる。
M、Nによって表されるチオフェン環及びピロール環は、一方の2位の炭素原子間で互いに結合し、他方の2位の炭素原子が無置換であることが好ましい。
【0034】
上記複素環含有芳香族化合物としては、下記一般式(2)又は(3)のいずれかによって表される複素環含有芳香族化合物が好ましい。
これらの複素環含有芳香族化合物を単量体として酸化重合を行うと、酸化重合は、チオフェン環上の2位の無置換の炭素原子や、ピロール環上の2位の無置換の炭素原子において進行する。
【0035】
下記一般式(2)で表される複素環含有芳香族化合物は、一般式(1)におけるMが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるチオフェン環基であり、Nが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるピロール環基である。
【0036】
【化6】

【0037】
一般式(2)中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表す(ケースi)か、あるいは、RとRがともに水素原子を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、有機基を表す(ケースii)。
ここで、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよく、また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、例えば、エチレンジオキシ基により形成される環構造が挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表される複素環含有芳香族化合物は、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物や、ケースiiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物が好ましく、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物がより好ましい。
【0039】
さらに好ましくは、ケースiにおいて、RとRが互いに結合してエチレンジオキシ基を表す下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物である。
【0040】
【化7】

【0041】
特に好ましくは、高い導電性と安定性を両立する為には、バンドギャップが小さく、酸化電位が高い化合物であり、下記構造式(2−1)〜(2−12)で表される化合物である。
これらの化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマーは、増粘剤との相溶性及び溶剤溶解性に極めて優れるとともに、上記複素環含有芳香族ポリマーは、バンドギャップが小さく、酸化電位が高いことに起因して、本発明の導電性樹脂組成物に、優れた導電性を付与することができるからである。
更に、これらの化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマーは、増粘剤との相溶性が極めて高いため、増粘剤の配合適用範囲が極めて広い(どんな種類の増粘剤も可能、何種類でも配合可能、配合量の添加量範囲も広い)との効果も奏する。
【0042】
【化8】

【0043】
下記一般式(3)で表される複素環含有芳香族化合物は、一般式(1)におけるMが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるチオフェン環基であり、Nが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるN−置換ピロール環基である。
【0044】
【化9】

【0045】
一般式(3)中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表す(ケースi)か、あるいは、RとRがともに水素原子を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、有機基を表す(ケースii)。
ここで、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよく、また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、例えば、エチレンジオキシ基により形成される環構造が挙げられる。また、一般式(3)中、Rnは有機基を表す。
【0046】
一般式(3)で表される複素環含有芳香族化合物は、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物や、ケースiiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物が好ましく、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物がより好ましい。
【0047】
さらに好ましくは、ケースiにおいて、RとRが互いに結合してエチレンジオキシ基を表す下記一般式(3′)で表される複素環含有芳香族化合物である。
【0048】
【化10】

【0049】
特に、一般式(3′)において、R及びRが水素原子を表し、Rnが置換基を有していてもよいフェニル基を表す下記式(3″)で示される化合物が好ましい。
【0050】
【化11】

【0051】
上記一般式(2)、(3)及び(3″)において、R〜R、Rn、Rxのそれぞれが表す有機基としては、例えば、炭素数1から10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等)、炭素数1から10の直鎖状、分岐状または環状のアルケニル基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、シクロヘキセニル基等)、炭素数1から5のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等)、置換基を有していてもよいフェニル基(例えば、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基、シクロヘキシルフェニル基等)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基等)等が挙げられる。
さらに、これらの有機基には、例えば、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、水酸基などの官能基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素等が結合していてもよい。
また、R〜Rは、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、水酸基、ハロゲン元素等であってもよい。
なお、以上の有機基はそれぞれ独立して選択される。
【0052】
〜Rが表す有機基としては、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましく、Rnが表す有機基としては、炭素数1から10のアルキル基、又は、フェニル基が好ましく、特にフェニル基が好ましい。
【0053】
隣接するR〜R(RとR、RとR、RとR、RとR)の両方が有機基であり、これらが互いに結合して環構造を形成する場合、環構造としては、特に限定されないが、炭素数2から10の脂環式構造が好ましい。
脂環式構造には酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、窒素原子などを含んでいてもよく、なかでも、特に酸素原子を含んだアルキレンジオキシ基を有する環構造が好ましい。
さらに、脂環式構造が芳香族性を有していてもよく、この場合、複素環含有芳香族化合物(1)のM、Nは、縮環構造を有する(例えば、イソチアナフテン等)事を意味する。
【0054】
次に、上記複素環含有芳香族化合物(1)の製造方法を説明する。
上記複素環含有芳香族化合物(1)は、超原子価ヨウ素反応剤の存在下、2種類の複素環芳香族化合物をカップリングさせることで製造することができる。このようなカップリング反応が超原子価ヨウ素反応剤の存在下では、1:1の比率で効率よく進行する。超原子価ヨウ素反応剤としては後述と同様のものを使用することができる。
【0055】
上記カップリング反応において、超原子価ヨウ素反応剤の使用量は特に限定されず、1種類の原料1モルに対して、好ましくは0.1〜4モル、より好ましくは0.2〜3モルの割合で用い、更に好ましくは0.3〜2モルの割合で用いる。
【0056】
上記カップリング反応では、原料として、置換又は無置換のチオフェン化合物M−H、及び、置換又は無置換のピロール化合物N−Hを使用する。ここで、M及びNは上記と同様である。これらの化合物は、所望の生成物を得るために適宜選択すればよい。
【0057】
上記カップリング反応は、通常、溶媒の存在下で実施する。
上記溶媒としては、原料、複素環含有芳香族化合物(1)、及び、超原子価ヨウ素反応剤を溶解または分散させる溶媒であればよく、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)などの有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0058】
カップリング反応の系中には、添加剤を適宜添加しても良い。超原子価ヨウ素反応剤と添加剤とを併用することで、複素環含有芳香族化合物の収率を向上させることができ、また、超原子価ヨウ素反応剤の量を減らすことができる。
上記添加剤としては、例えば、ブロモトリメチルシラン、クロロトリメチルシラン、トリメチルシリルトリフラート、三フッ化ホウ素、トリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられ、これらのなかではブロモトリメチルシランが好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数で用いてもよい。
上記添加剤の使用量は、複素環含有芳香族化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜4モル、より好ましくは0.2〜3モルの割合であり、更に好ましくは0.5〜2モルの割合である。
【0059】
また、カップリング反応の系中には、フッ素系アルコールを添加しても良い。超原子価ヨウ素反応剤とフッ素系アルコールとを併用することで、複素環含有芳香族化合物の収率を向上させることができ、また、超原子価ヨウ素反応剤の量を減らすことができる。
上記フッ素系アルコールとしては、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロエタノール等が挙げられ、これらのなかでは、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールが好ましい。
上記フッ素系アルコールの使用量は、特に特定されないが、用いる溶剤100重量部に対して1〜80重量部が好ましく、特に、10〜40重量部が好ましい。
【0060】
上記カップリング反応は、通常、各原料、超原子価ヨウ素反応剤、及び、溶剤や他の試薬等を混合して、−50℃〜100℃の温度範囲で、10分から48時間行うことによって、上記複素環含有芳香族化合物を製造することができる。
上記カップリング反応は、0〜50℃の温度範囲で30分〜8時間行うことが好ましく、10〜40℃の温度範囲で1〜4時間行うことがより好ましい。このとき、加える試薬の順序は問わない。
【0061】
次に、上記複素環含有芳香族化合物(1)を単量体として、複素環含有芳香族ポリマーを製造する方法について説明する。
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造では、上記単量体(複素環含有芳香族化合物(1))を、各種酸化剤を用いた化学重合法により酸化重合する。
化学重合法は、簡便で大量生産が可能なため、従来の電解重合法と比べ工業的製法に適した方法である。
【0062】
上記化学重合法に用いる酸化剤としては特に限定されないが、例えば、スルホン酸化合物をアニオンとし、高価数の遷移金属をカチオンとする酸化剤等が挙げられる。この酸化剤を構成する高価数の遷移金属イオンとしては、Cu2+、Fe3+、Al3+、Ce4+、W6+、Mo6+、Cr6+、Mn7+及びSn4+が挙げられる。これらのなかでは、Fe3+およびCu2+が好ましい。
遷移金属をカチオンとする酸化剤の具体例としては、例えば、FeCl、Fe(ClO、KCrO、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム、四フッ化ホウ酸銅等が挙げられる。
また、遷移金属をカチオンとする酸化剤以外の酸化剤としては、過硫酸アルカリ、過硫酸アンモニウム、H等が挙げられる。さらに、超原子価ヨウ素反応剤に代表される超原子価化合物が挙げられる。
【0063】
特に好ましい実施形態は、酸化剤が超原子価ヨウ素反応剤である。
超原子価ヨウ素反応剤とは、3価または5価の超原子価状態にあるヨウ素原子を含む反応剤のことをいう。超原子価ヨウ素反応剤は、より安定なオクテット状態(1価のヨウ素)に戻ろうとする性質を有しているため、鉛(IV)、タリウム(III)、水銀(II)などの重金属酸化剤と類似の反応性を有する。さらに、超原子価ヨウ素反応剤は、このような重金属酸化剤に比べて低毒性であり、安全性に優れ、工業的な製法に適している。
【0064】
上記超原子価ヨウ素反応剤としては特に限定されず、3価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えば、フェニルイオジンビス(トリフルオロアセテート)または(ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン(以下、PIFAという場合がある))、フェニルイオジンジアセテート(ヨードソベンゼンジアセテート(以下、PIDAという場合がある))、ヒドロキシ(トシロキシ)ヨードベンゼン、ヨードシルベンゼン等が挙げられる。これらの反応剤の構造式を以下に示す。
【0065】
【化12】

【0066】
5価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えば、デスマーチンペルヨージナン(Dess-Martin periodinane(DMP))、o−ヨードキシ安息香酸(o-iodoxybenzoic acid(IBX))等が挙げられる。これらの反応剤の構造式を以下に示す。
【0067】
【化13】

【0068】
これらのなかでは、3価の超原子価ヨウ素反応剤が好ましく、PIFAが、安定で取り扱いやすく、十分に高い酸化能を有する点でより好ましい。
【0069】
また、超原子価ヨウ素反応剤の中でも、アダマンタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤、テトラフェニルメタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤を選択すると回収再利用できることから好ましい。より具体的には、1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−((4−(ヒドロキシ)トシロキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−(4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン等の3価のアダマンタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤、または、テトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタン等の3価のテトラフェニルメタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤は、安定で取り扱いやすく、十分に高い酸化能を有する上に、脂溶性が高く回収再利用可能なので、さらに好ましい。
5価の超原子価ヨウ素反応剤を用いる場合は、デスマーチンペルヨージナン(DMP)が好ましい。
【0070】
このような超原子価ヨウ素反応剤は、合成により得られたものを用いてもよく、あるいは市販品を用いてもよい。例えば、PIFAは、PIDAにトリフルオロ酢酸を加えて反応させ、その結果、PIFAを反応生成物として析出させることにより得られる(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1985, 757を参照のこと)。PIDAは、ヨードベンゼンを酢酸中、ペルオキソほう酸ナトリウム(4水和物)(NaBO・4HO)を用い酸化することにより得られる(Tetrahedron, 1989, 45, 3299およびChem. Rev., 1996, 96, 1123を参照のこと)。さらに、PIDAは、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)を酸化剤としてヨードベンゼンから得られる(Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 3595を参照のこと)。1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−((4−(ヒドロキシ)トシロキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−(4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、テトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタンは、例えば特開2005−220122号公報に記載の方法で合成できる。
【0071】
上記酸化剤の使用量は特に限定されないが、上記単量体1モルあたり1〜5モルの範囲が好ましく、より好ましくは2〜4モルの範囲である。特に上記酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を使用する場合、上記単量体1モルに対して、好ましくは1〜4モル、より好ましくは1.5〜4モルの割合で用い、更に好ましくは2〜2.5モルの割合で用いる。
超原子価ヨウ素反応剤の量が少ない場合、酸化重合反応が進みにくくなることがある。一方、超原子価ヨウ素反応剤の量が多すぎる場合、過剰酸化が起こり溶媒に全く不溶な生成物が得られることがあり、所望のポリマーの収率が低下することがある。
【0072】
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用してもよい。超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用することで、超原子価ヨウ素反応剤の使用量を減らすことができる。金属を含まない酸化剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸等が挙げられる。
【0073】
上述したように上記超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用する場合、上記超原子価ヨウ素反応剤は酸化触媒として作用し、上記単量体1モルに対して、好ましくは0.001〜0.3モル、より好ましくは0.01〜0.1モルの割合で用いる。一方、金属を含まない酸化剤は、上記単量体1モルに対して、好ましくは1〜4モル当量、より好ましくは1.5〜2.5モル当量の割合で用いる。
【0074】
また、金属を含まない酸化剤と超原子価ヨウ素反応剤とを併用する場合、超原子価ヨウ素反応剤の量が少なすぎると、重合反応が十分に進行しないことがある。一方、超原子価ヨウ素反応剤の量が多すぎても、重合度は、ある一定の重合度より大きくならず、超原子価ヨウ素反応剤が無駄になることがある。
【0075】
なお、超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用する場合は、重合反応を始める際は、超原子価ヨウ素反応剤の前駆体を用いても良い。具体的には、例えば、1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタンの前駆体である1,3,5,7−テトラキス−(4−ヨードフェニル)アダマンタンを触媒量と、化学量論量のメタクロロ過安息香酸を加えることで、反応系中で超原子価ヨウ素反応剤を発生させればよい。
【0076】
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、複素環含有芳香族ポリマーに、ドーパントをドープしてもよい。ドーパントをドープすることによって、得られる複素環含有芳香族ポリマーにより高い導電性が付与され得る。ドーパントは、重合反応前に原料として仕込んでもよく、重合反応中に添加してもよく、あるいは重合反応後に得られる複素環含有芳香族ポリマーに添加してもよい。
【0077】
ドーパントとしては特に限定されないが、例えば、Cl、Br、I、IClなどのハロゲン;PF、BF、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルなどのルイス酸;HF、HCl、HNO、HSOなどのプロトン酸;p−トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの有機酸等が挙げられる。
【0078】
導電性の付与を目的として用いるドーパントは、上記単量体1モルに対して、好ましくは0.05〜6モルの割合で用い、より好ましくは0.2〜4モルの割合で用いる。
上記ドーパントの量が0.05モルよりも少ない場合、複素環含有芳香族ポリマーに、十分な導電性を付与し得ない場合がある。一方、ドーパントの量が6モルよりも多い場合、複素環含有芳香族ポリマーに添加したすべてのドーパントがドープされず、添加量に比例した効果を望めない。また、余剰のドーパントも無駄になる。
【0079】
なお、上記ルイス酸は、ドーパントとして作用するだけではなく、酸化重合反応を促進させる作用も有する。酸化重合反応を促進させる目的でルイス酸を用いる場合、特に、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルが好ましく用いられる。
【0080】
上記酸化重合反応は、通常、溶媒の存在下で実施する。
上記溶媒としては、上記単量体、酸化剤、及び、ドーパントを溶解または分散させる溶媒であればよく、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)等の有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0081】
上記酸化重合反応の温度は、−100℃〜100℃が好ましい。溶媒として有機溶媒を用いる場合および水を用いる場合のいずれの場合も、より好ましくは0℃〜40℃である。反応温度が−100℃よりも低い場合、反応速度が遅くなったり、溶媒によっては凍結したりし、複素環含有芳香族ポリマーの収率が低下するおそれがある。一方、反応温度が100℃よりも高い場合、副反応や過剰酸化が起こり、複素環含有芳香族ポリマーの収率が低下するおそれがある。
【0082】
上記酸化重合反応の反応時間は、特に制限されない。酸化重合反応を促進させるためにルイス酸を用いた場合は12時間程度が好ましく、ルイス酸を用いない場合は20時間程度が好ましい。
【0083】
このようにして得られた複素環含有芳香族ポリマーには、精製処理を施してもよい。
精製方法(精製工程)としては特に限定されないが、例えば、反応後、溶媒をグラスフィルターでろ過し、得られたポリマーを、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ヘキサン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエンなどで洗浄する方法等が挙げられる。その他の精製方法としては、ソックスレー抽出などによる精製等が挙げられる。
【0084】
このような複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、洗浄後、得られた複素環含有芳香族ポリマーを、必要に応じて、通常の手段により乾燥する(乾燥工程)。
ここで、乾燥方法は、重合度、置換基、含まれるドーパントによって適宜決定可能であり、例えば、室温下(約25℃)での減圧(約0.5mmHg)乾燥、常圧下での加熱送風(約60℃)乾燥等が挙げられる。乾燥温度は、100℃以下が好ましく、200℃を超えると、複素環含有芳香族ポリマーが分解する危険性が高くなる。
【0085】
上記酸化重合において、アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤を用いた場合、下記のような方法で回収することが好ましい。例えば、反応を終えた溶液を減圧濃縮し、残渣(ポリマー、アダマンタン構造もしくはテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤、金属を含まない酸化剤、未反応の単量体)にメタノールを加えて混合し、グラスフィルターを用いてろ過することにより、金属を含まない酸化剤及び未反応の単量体はメタノール溶液として除去できる。残渣として残ったポリマー及びアダマンタン構造又はテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤は、ジエチルエーテルを加えて混合しグラスフィルターを用いてろ過することにより、残渣のポリマーと、ジエチルエーテル溶液のアダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤とに分離することができる。そのジエチルエーテルを濃縮することで、アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤を回収することができる。アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤の回収方法は、上記の例に限定されないが、ポリマー、アダマンタン構造又はテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤、金属を含まない酸化剤および未反応の単量体の、溶媒種による溶解性の違いを利用し、適当な溶媒を選択することで、各々の成分を分離することができる。
【0086】
(B)増粘剤
増粘剤を配合することにより、導電性樹脂組成物の粘度やレオロジー特性を調整することができる。従って、本発明の導電性樹脂組成物を印刷インキとして使用する場合に特に重要な役割を果すこととなる。
【0087】
上記増粘剤の具体例としては、例えば、ポリアクリル酸系樹脂(ここで、ポリアクリル酸系樹脂には、架橋したものも含む)、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、カラゲナン類、多糖類、アクリル樹脂(アクリルモノマーのホモポリマー・コポリマーで、分子量が1万を超えるようなもの)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド類、寒天、トラガント、アラビアゴム、アルギネート類、ペクチン類、グアー粉末、イナゴマメ仁粉末、澱粉、デキストリン類、ゼラチン、カゼイン、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル類、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアミド等が挙げられる。
このような増粘剤の市販品としては、例えば、CARBOPOL ETD−2623(架橋性ポリアクリル酸、BF Goodrichi社製)、GE−167(N−ビニルアセトアミドとアクリル酸の共重合体、昭和電工社製)、ジュリマー(ポリアクリル酸、日本純薬社製)、ジャガーC−13(グアガム誘導体:ステインホールスペシャリティーケミカル社製)、ポリビニルピロリドンK−90(ポリビニルピロリドン、日本触媒社製)等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0088】
上記増粘剤は、ポリアクリル酸系樹脂(架橋したものを含む)、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、及び、セルロースエーテル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
この理由は、これらの増粘剤は、上記複素環含有芳香族ポリマーとの相溶性に極めて優れるからであり、相溶性が優れることにより下記の効果を享受することができる。
(1)上記複素環含有芳香族ポリマーの分散安定性に優れ、そのため、貯蔵安定性に優れる、
(2)ヘイズが低下し透明性が向上する、
(3)印刷基材への密着性が向上する、
(4)微細な導電性パターンをより高精度に形成できる、
(5)ポリマー・増粘剤を配合した導電性樹脂組成物の、耐湿熱性が向上する、及び、
(6)上記(1)〜(5)の理由により印刷インキとして好適である。
【0089】
上記増粘剤の配合量は、上記導電性樹脂組成物全量の100重量部に対して、0.01〜50重量部であることが好ましく、0.1〜20重量部であることがより好ましい。これらの範囲で用いると、適度な粘度が得られるからである。
【0090】
本発明の導電性樹脂組成物は、(A)複素環含有芳香族ポリマー、及び、(B)増粘剤に加えて、必要に応じて、(C)バインダー樹脂、(D)充填剤、(E)架橋剤、(F)添加剤、(G)顔料及び/又は染料、(H)溶剤等を含有していてもよい。
以下、上記(C)〜(H)の各成分について説明する。
【0091】
(C)バインダー樹脂
バインダー樹脂を配合することにより、導電性樹脂組成物中の配合物同士を結合させ、より確実に塗膜(導電性パターンを含む)を形成することができる。具体的には、例えば、耐水性や耐溶剤性等の塗膜耐性や、基材との密着性をより向上させることができる。
上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂(アクリルオリゴマー(例えば、ウレタンアクリレートやエポキシアクリレートのような光硬化性オリゴマー))や、スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル及びアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される2種以上のモノマーから構成された共重合体等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0092】
上記バインダー樹脂の配合量は、上記複素環含有芳香族ポリマー(A)の固形分100重量部に対して、10〜5000重量部が好ましく、30〜2000重量部がより好ましい。
上記バインダー樹脂の配合量が5000重量部を超えると、透明性および導電性が低下する場合がある。一方、10重量部未満の場合は、塗膜耐性や基材との密着性が不充分となる場合がある。
【0093】
(D)充填剤
充填剤を配合することにより、導電性樹脂組成物のレオロジー特性を調整することができる。
上記充填剤としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物、インジウム−錫オキサイド、アンチモン−錫オキサイド等の導電性金属酸化物、銀、銅、金、パラジウム、白金等の金属、二酸化珪素、珪酸塩類、シリカ類、ポリ珪酸類、ゼオライト類、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、フィロ珪酸塩類、モンモリロン石、ベントナイト等の粘土鉱物等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0094】
上記充填剤の配合量は、上記充填剤を除く全量の組成物100重量部に対して、0.5〜50重量部添加するのが好ましく、より好ましくは1〜50重量部である。
【0095】
(E)架橋剤
架橋剤を配合することにより、上記増粘剤を架橋したり、架橋密度を増加させたりすることができ、それにより塗膜(導電性パターンを含む)の強度や基材との密着性を向上させることができる。
上記架橋剤は特に限定されず、上記増粘剤の種類に応じて適宜選択すれば良いが、具体例としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等の加水分解物、ジ−又はオリゴ−イソシアナート、酸無水物、フェノール樹脂、ポリアミン等のエポキシ樹脂硬化剤、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のアクリルモノマー等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0096】
上記架橋剤の配合量は、上記増粘剤及び上記バインダーの合計100重量部に対して、1〜70重量部が好ましく、5〜50重量部がより好ましい。
【0097】
(F)添加剤
上記添加剤としては、例えば、消泡剤、レオロジーコントロール剤、導電性向上剤、界面活性剤、pH調整剤、重合開始剤等が挙げられる。
これらを適切に配合することで、導電性樹脂組成物に所望の特性を付与することができる。
【0098】
上記消泡剤は、導電性樹脂組成物中に配合することにより、導電性樹脂組成物の泡立ち、泡かみを防止することができる。そのため、上記導電性樹脂組成物を印刷インキに用いる場合には、上記消泡剤を配合することが好適である。
上記消泡剤としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
上記消泡剤の配合量は、上記導電性樹脂組成物全量の100重量部に対して、0.005〜20重量部であることが好ましく、0.01〜10重量部であることがより好ましい。
【0099】
上記レオロジーコントロール剤は、導電性樹脂組成物中に配合することにより、導電性樹脂組成物のレオロジー特性を調整することができる。そのため、上記導電性樹脂組成物を印刷インキに用いる場合には、上記レオロジーコントロール剤を配合することにより、印刷性や、印刷インキの安定性を向上させることができる。
上記レオロジーコントロール剤としては、例えば、増粘剤を水素結合で架橋し、チクソ性を向上させる変性ウレア(例えば、ビックケミー社製、BYK−411等)、上記充填剤の一例であるシリカ類と併用し、シリカのシラノール基を架橋してシリカの網目構造を補強することによりチクソ性を向上させる水酸基含有化合物(例えば、ビックケミー社製、BYK−405等)等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0100】
上記レオロジーコントロール剤の配合量は、上記導電性樹脂組成物全量の100重量部に対して、0.005〜20重量部であることが好ましく、0.01〜10重量部であることがより好ましい。
【0101】
上記導電性向上剤は、配合することにより、上記複素環含有芳香族ポリマーの導電性を向上させることができる。
上記導電性向上剤としては、例えば、2−アミノエタンスルホン酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸、トリエチレングリコール、2−フェノキシエタノール等のアルコール類、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ベンズアミド等のアミド類、N−メチルピロリドン等のラクタム類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、安息香酸エチル、サリチル酸エチル等のエステル類、フェノール、2,6−ジメチルフェノール、クレゾール、ナフトール、カテコール等のフェノール化合物、イミダゾール類、ビフェニル等の芳香族炭化水素類、テトラシアノエチレン等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0102】
上記導電性向上剤の配合量は、複素環含有芳香族ポリマー(A)の固形分100重量部に対して0.1〜5000重量部が好ましく、5〜100重量部がより好ましい。
【0103】
上記界面活性剤は、配合することにより、導電性樹脂組成物の塗布性を向上させることができる。
上記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド等の非イオン性界面活性剤、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキル4級アンモニウム、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0104】
上記界面活性剤の配合量は、導電性樹脂組成物全量の100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、0.1〜20重量部であることがより好ましい。
【0105】
上記pH調整剤は、上記増粘剤として、pHによって増粘度合いを調整することができる増粘剤、例えば、ポリアクリル酸系樹脂、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、ゼラチン、カラゲナン、寒天、カゼイン、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等を含有する場合に配合する。
上記pH調整剤には、アルカリ物質と酸性物質とがあり、上記アルカリ物質としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、トリエチルアミン等が挙げられる。一方、上記酸性物質としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、クエン酸、ホスホン酸誘導体、リン酸等の有機酸等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
また、上記pH調整剤は、上記増粘剤の種類にもよるが、通常、pHが2〜9になるように添加するのが好ましく、3〜7になるように添加するのがより好ましい。
【0106】
上記重合開始剤は、上記導電性樹脂組成物が上記(C)バインダー樹脂を含有する場合に、必要に応じて配合すればよい。
上記重合開始剤としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテン、2−メチルチオキサンテン、2−イソプロピルチオキサンテンなどのイオウ化合物;2−エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノンなどのアントラキノン類;アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、クメンパーオキシドなどの有機過酸化物;および2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどのチオール化合物等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
【0107】
上記重合開始剤の配合量は、上記バインダー樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
【0108】
(G)顔料及び/又は染料
顔料及び/又は染料を配合することにより、着色された塗膜(着色された導電性パターンを含む)を形成することができる。
顔料や染料としては、例えば、Rhodamine 6G、銅フタロシアニン等のフタロシアニン顔料、青−緑顔料(例えば、BAYER社製、FlexonylR Blau BZG)、黒顔料(例えば、BAYER社製、LevanylR A−SF;Degussa社製のカーボンブラック分散液であるKL1925;Mikuni社製のカーボンブラック分散液であるMHI Black 8102M等)、二酸化チタン顔料等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用してもよい。
これらの顔料や染料は、形成する塗膜(導電性パターンを含む)の色に応じて適宜配合すればよい。
【0109】
(H)溶剤
溶剤は無くても良いが、上記溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)等の有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0110】
これらのなかでは、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、酢酸グリコール、酪酸グリコール、酢酸メトキシプロピル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム、トルエン、キシレン、酢酸エチル、又は、酢酸ブチルが好ましい。
これらの溶剤は工業的に汎用であるからである。
【0111】
上記導電性樹脂組成物は、例えば、各成分を混合機で混合することにより製造することができる。
このとき、各成分の投入方法は特に限定されず、例えば、全成分を同時に投入すればよい。
このような構成からなる本発明の導電性樹脂組成物は、例えば、印刷インキ用組成物として好適に使用することができ、特に、スクリーン印刷用ペーストとして好適である。
【0112】
次に、本発明の印刷インキについて説明する。
本発明の印刷インキは、本発明の導電性樹脂組成物を含有することを特徴とする。
上記印刷インキは、少なくとも複素環含有芳香族ポリマーと増粘剤とを含有する上記導電性樹脂組成物を含有するため、下記の点で優れる。
(1)上記複素環含有芳香族ポリマーは、上記増粘剤との相溶性が高いため、上記複素環含有芳香族ポリマーは、上記導電性樹脂組成物中に均一に分散しやすく、少ない添加量であっても所望の導電性を獲得することができるため、透明インキに適している。
また、上記相溶性が高いことに起因して、上記複素環含有芳香族ポリマーは分散安定性に優れるため、本発明の印刷インキは保存安定性に優れる。
【0113】
(2)本発明の印刷インキは、上述したように、上記複素環含有芳香族ポリマーと上記増粘剤との相溶性が高いため、この印刷インキを用いて塗膜(導電性パターンを含む)を基板上に形成した際に、塗膜の強度、及び、基板との密着性に優れる。
特に、スクリーン印刷により導電性パターンを形成する分野においては、微細かつ高アスペクト比のパターン形成が求められているが、上述したように、本発明の印刷インキを用いて形成した導電性パターンは、基板の密着性に優れるため、パターン形状のバラツキが小さく、高アスペクト比のパターンを形成するのに適している。
【0114】
(3)本発明の印刷インキは、複素環含有芳香族ポリマーと増粘剤との相溶性が高いことから、印刷インキ(導電性樹脂組成物)の状態でも安定に存在するため、耐熱性及び耐候性に優れる。そのため、長期間に渡って所望の機能(導電性等)を維持することができる。
(4)また、本発明の印刷インキは、乾燥性に優れる(乾燥時間に要する時間が短い)。一般的に、有機溶剤は水よりも乾燥させやすい。本発明の印刷インキは溶剤として有機溶媒を使用することができる(上記複素環含有芳香族ポリマーは有機溶媒に対する溶解性が高いため)ため、水を溶剤とする印刷インキに比べてその乾燥時間が短い。
(5)さらに、本発明の印刷インキを用いることにより、金属粉末を使用する導電性ペーストを焼結させる温度よりも低い温度で、乾燥及び/又は硬化処理を施すことで塗膜を形成することができ、そのため、基材等に与えるダメージを低減することができる。
なお、硬化処理は、印刷インキの構成成分(バインダー、増粘剤、架橋剤等)として、硬化性官能基を有する化合物を含有している場合に行えばよく、更に、この場合には、プレ乾燥処理を行った後、硬化処理を行うことが望ましい。
【0115】
本明細書において、印刷ペーストとは、粘度やレオロジー特性に特徴のある印刷インキの下位概念であり、本発明の印刷インキは、特にスクリーン印刷用ペーストとして好適である(即ち、スクリーン印刷に好適に使用することができる)。好ましい理由は、スクリーン印刷に必要とされる粘度やレオロジー特性を容易に調整、付与できる為である。
スクリーン印刷法において、スキージーによりインキを落とし込む際には、インキの粘度が低いほうが好ましく、且つスクリーン印刷版に落とし込まれた後は、インキ粘度が高いほうが好ましい点に着目し、スクリーン印刷用インキ組成物のレオロジー特性を重視した印刷要因を検討する必要がある。本発明の印刷インキは、増粘剤他、樹脂や溶剤の配合適用範囲が広いため、(樹脂の適合種類が広い、何種類でも配合可能、配合量の添加量範囲も広いため)、その印刷要因に合った調製を容易に行うことができる。
【0116】
本発明の印刷インキを使用することができる印刷方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷等の通常の印刷方法に使用することができる。これらのなかでは、スクリーン印刷が好ましい。
【0117】
本発明の印刷インキの印刷対象は特に限定されず、樹脂、金属、ガラス・セラミックス等からなる部材が挙げられる。
【0118】
次に、本発明の透明電極基板について説明する。
本発明の透明電極基板は、基板上に、本発明の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする。
上記導電性パターンの形成は、上記印刷インキを塗布した後、乾燥及び/又は硬化処理を施すことで行うことができるため、上記導電性パターンは、金属粉末を使用する導電性ペーストを焼結させる温度よりも低い温度で形成することができる。
そのため、金属粉末の焼結温度に耐えることが出来ない樹脂基板上においても容易に導電性パターンを形成することが可能であり、基板の適用範囲が広がる。また、硬化温度が低温となるため、透明樹脂基板の白化や黄変を抑制でき透明性を保持することができる。加えて、低温で形成することができる利点としては、形成時のランニングコストを抑えることができる、高温での形成によって生じる導電性が低下するとの不具合を回避できる、ことがある。
本発明の透明電極基板は、例えば、有機又は無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等の表示デバイス、タッチパネル等用の透明電極基板として使用することができる。
【0119】
上記透明電極基板において、導電性パターンを形成する印刷インキは、その構成成分として、硬化性官能基を有する化合物を含有しているものが望ましい。この場合、導電性パターンは硬化処理を経て形成されることとなり、その結果、形成された導電性パターンは、強度及び基板との密着性がより優れたものとなり、更に、耐熱性及び耐候性により優れ、長期間に渡って所望の機能(導電性等)を維持することができるからである。
また、上記硬化処理は、金属粉末を使用する導電性ペーストを焼結させる温度よりも低い温度で行うことができる。
【0120】
上記硬化処理は、上記印刷インキを基板上に印刷した後、例えば、加熱、光照射等により行えばよい。
上記加熱は、50〜200℃、好ましくは100〜180℃で、1分〜30分の条件で行えばよい。
また、上記光照射は、波長300〜400nmにおける照度が1〜200mW/cmである紫外線を、光量100〜10000mJ/cm、好ましくは500〜5000mJ/cm程度照射する条件で行えばよい。
また、上記硬化処理の前には、特に光照射の前には、予めオーブンあるいはホットプレート等で印刷インキをプリベーグ(乾燥)させることが好ましく、上記プリベーグは50〜200℃、好ましくは80〜150℃で、30秒〜10分の条件で行えばよい。
【0121】
上記基板としては特に限定されず、例えば、ガラス基板、透明樹脂基板等が挙げられる。
上記導電性パターンは、本発明の印刷インキを用いて形成される。上記導電性パターンの形成方法は特に限定されず、既に説明した印刷方法を採用することができる。
ここで、導電性パターンの形成方法は、スクリーン印刷が好ましい。
この理由は、スクリーン印刷は、装置が簡便で、装置や印刷コストが安価であり、曲面への印刷・複数回印刷が可能で、微細な導電性パターンを高精度で形成するのに特に優れるからである。
一般に、スクリーン印刷されるパターンの線幅は、原理上、スクリーン版の線幅より少し太くなる傾向があるが、本発明の印刷インキは密着性が高い印刷インキであるため、線間隔のズレやパターンの歪みがほとんど発生せず、スクリーン版のパターンに対しほぼ忠実な、高アスペクト比のパターンを基板上に再現することとなる。少し太くなる傾向を避けたい場合、スクリーン版のスリット幅を、基板に形成される所望の線幅よりも小さく設定すればよく、当業者であればかかる設定は容易に行うことができる。
また、上記透明電極基板において、導電性パターンの設計は特に限定されず、透明電極基板の要求特性に応じて適宜設計すればよい。
【0122】
次に、本発明の電磁波シールド材について説明する。
本発明の電磁波シールド材は、基材上に、本発明の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする。
本発明の電磁波シールド材は、例えば、表示デバイス用フィルター、窓用フィルム、コンピュータールームや電波暗室等のシールドルームのパーティション、電子機器(高周波・プラズマ・超音波発生置・計測機器・医療機器、ハードディスクドライブ等々)のシールドカバー等に使用することができる。
【0123】
上記基材としては特に限定されず、例えば、ガラス基板、樹脂基板、金属板、セラミックス板等が挙げられる。
上記導電性パターンは、本発明の印刷インキを用いて形成される。上記導電性パターンの形成方法は特に限定されず、既に説明した印刷方法を採用することができる。
ここで、導電性パターンの形成方法は、スクリーン印刷が好ましい。
スクリーン印刷は、装置が簡便で、装置や印刷コストも安価であり、曲面への印刷が可能で、さらに、樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の幅広い材料を選択できるという利点を有するからである。また、スクリーン印刷法で導電性パターンを形成すると、工程数が少なく簡便でありコスト面でも有利であり、電磁波シールド材の大量生産性及び連続生産性も高いとの利点も有する。
また、上記電磁波シールド材において、導電性パターンの設計は特に限定されず、電磁波シールド材の要求特性に応じて適宜設計すればよい。
【0124】
上記電磁波シールド材において、導電性パターンを形成する印刷インキは、その構成成分として、硬化性官能基を有する化合物を含有しているものが望ましい。この場合、導電性パターンは硬化処理を経て形成されることとなり、その結果、形成された導電性パターンは、強度及び基板との密着性がより優れたものとなり、更に、耐熱性及び耐候性により優れ、長期間に渡って所望の機能(導電性等)を維持することができるからである。
また、上記硬化処理は、金属粉末を使用する導電性ペーストを焼結させる温度よりも低い温度で行うことができる。
【0125】
また、上記電磁波シールド材において、基材が透明性に優れる場合、本発明の印刷インキにより形成された導電性パターンは透明性に優れるため、上記電磁波シールド材自体が高い透明性を有することとなる。そのため、この場合は、高い透明性が要求される用途(例えば、表示デバイス用フィルター等)に好適に使用される。
【実施例】
【0126】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0127】
(製造例1)
200mLのビーカーに、120gのイソプロパノール(IPA)、13.91gのp−トルエンスルホン酸鉄(III)(40%ブタノール溶液)、1.6g(3.3mmol)の上記構造式(2−4)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(2−4)ともいう)を加えた。
その後、室温下(内温20〜25℃)で2時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−4)の消失を確認した。これにより、p−トルエンスルホン酸ドープの複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体110g(固形分1.5%)を得た。
【0128】
この複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−4)が完全に消失していることと、以下に示す導電性樹脂組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体が生成していることが明らかである。
【0129】
(製造例2)
200mLのビーカーに、120gのメチルエチルケトン(MEK)、8.0gのメタノール、10.0gの硫酸鉄(III)(1%水溶液)、10.0gの過硫酸アンモニウム(10%水−メタノール水溶液)、13.91gのジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(DEHS)、1.3g(3.2mmol)の複素環含有芳香族化合物(2−3)を加えた。
その後、室温下(内温20〜25℃)で2時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−3)の消失を確認した。これにより、DEHSドープの複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体110g(固形分1.5%)を得た。
【0130】
この複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−3)が完全に消失していることと、以下に示す導電性樹脂組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体が生成していることが明らかである。
【0131】
(比較製造例1)
2000mLの三口フラスコに、1.53g(10.9mmol)の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、410gのイオン交換水、253gの12.8質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液、16.5g(0.41mmol)の1%硫酸鉄(III)水溶液を加えた。次いで、11.8g(5.7mmol)の10.9質量%ペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。その後、室温下(約25℃)で24時間撹拌し、HPLCにてEDOTの消失を確認し、ポリスチレンスルホン酸ドープのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)水分散体を650g(固形分1.3%)得た。
【0132】
このPEDOT水分散体については、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を使用しているため、GPC測定では、PEDOTそのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、EDOTが完全に消失していることと、以下に示す導電性樹脂組成物の試験結果により本水分散体が導電性を示す結果が得られたことから、PEDOTが生成していることが明らかである。
【0133】
次に、下記の方法により、導電性樹脂組成物を製造した(実施例1、2、及び、比較例1)。なお、表1には、実施例及び比較例で製造した導電性樹脂組成物の配合を示した。
【0134】
(実施例1)
製造例1で得たp−トルエンスルホン酸ドープの複素環含有芳香族化合物(2−4)重合体IPA分散体2.8g、増粘剤として架橋性ポリアクリル酸(BF Goodrich社製、CARBOPOL ETD−2623)0.2g、25%アンモニア水0.2g、アルキルフェノン系光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)0.003g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製、KAYARAD DPHA)0.028g、エチレングリコール1.8gを混合し、導電性樹脂組成物を製造した。
【0135】
(実施例2)
製造例2で得たDEHSドープの複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体2.8g、増粘剤としてポリビニルピロリドン(日本触媒社製、ポリビニルピロリドンK−90)0.1g、バインダー樹脂としてUV硬化型シルセスキオキサン(東亜合成社製、OX−SQ)0.07g、アゾビスイソブチロニトリル0.003g、イソプロパノール1.8gを混合し、導電性樹脂組成物を製造した。
【0136】
(比較例1)
比較製造例1で得たポリスチレンスルホン酸ドープのPEDOT水分散体3.0g、増粘剤として水溶性ポリアクリル酸(日本触媒社製、アクアリック(登録商標)L、H)0.2g、ポリエステルバインダー(東亜合成社製、アロニックM6100)0.1g、10%アンモニア水0.2g、エチレングリコール1.6g、水1.0gを混合し、導電性樹脂組成物を製造した。
【0137】
【表1】

【0138】
実施例及び比較例で製造した導電性樹脂組成物を用いて導電層を形成し、この導電層について下記の評価を行った。
即ち、導電性樹脂組成物を、青板ガラス基板上にワイヤーバーにより塗布し、100℃、5分でプリベークした後、2000mJ/cmの紫外線を照射して製膜することで厚さ5μmの導電層を形成した。
そして、この導電層について、下記の方法により、表面抵抗率(SR)、全光線透過率(Tt)、ヘイズ値、及び、密着性(碁盤目試験)を測定した。結果を表2に示した。
【0139】
表面抵抗値(SR)
JIS K 6911に従い、三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP−HT450)を用いて測定した。
【0140】
全光線透過率(Tt)/ヘイズ値
JIS K 7150に従い、スガ試験機(株)製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。
【0141】
密着性(碁盤目試験)
JIS K 5400の碁盤目剥離試験に従って行った。
【0142】
解像度
また、実施例及び比較例で製造した導電性樹脂組成物を印刷インキとして使用した際の解像度を下記の方法で評価した。結果を表2に示した。
即ち、青板ガラス上に、様々な線幅のラインアンドスペースパターン(L/S)を有するスクリーンを配置し、その上からワイヤーバーにて導電性樹脂組成物の塗布を行った後、上記と同様に条件で製膜(パターン形成)を行った。
その後、描かれたパターンを顕微鏡観察し、欠陥無く描かれる最も数値の小さな線幅を解像度とした。
【0143】
耐湿熱性
所定条件下で一定時間経過前後の表面抵抗値(SR)の上昇率、及び、液外観を指標に耐湿熱性を評価した。結果を表2に示した。
即ち、上述した方法で導電層を形成し、そのとき測定した表面抵抗値(SR)を初期表面抵抗率とし、更に測定後、導電層を形成した基板を恒温恒湿器で、60℃、相対湿度93%の条件で240時間保管し、保管後に測定した表面抵抗値(SR)を試験後表面抵抗率とし、試験後表面抵抗率を初期表面抵抗率で除することにより表面抵抗値(SR)の上昇率を算出した。
【0144】
また、実施例及び比較例で製造した導電性樹脂組成物について、製造直後の導電性樹脂組成物、及び、上記と同様の条件で恒温恒湿器に保管した後、恒温恒湿器から取り出し、1時間静置した後の導電性樹脂組成物のそれぞれの液状体を目視観察し、下記の基準で1〜3の3段階で評価した。
3:沈殿物は観察されない。
2:わずかに沈殿物が観察される。
1:大量の沈殿物が観察される。
【0145】
粘度
実施例及び比較例で製造した導電性樹脂組成物を恒温槽に入れて25℃に保ち、B型粘度計にて粘度を測定した。結果を表2に示した。
【0146】
【表2】

【0147】
以上の結果より、実施例に係る導電性樹脂組成物及びこの導電性樹脂組成物を用いて形成した導電層は、他の導電性高分子(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))を含有する導電性樹脂組成物(比較例1)及びこの導電性樹脂組成物を用いて形成した導電層に比べ、耐熱性及び耐湿性に優れ、導電性が経時劣化しにくいことが明らかとなった。また、保存安定性にも優れることが明らかとなった。
さらに、印刷インキとして高い解像度を備えていることも明らかとなった。これは、導電層を形成した際の強度及び基板との密着性に優れるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の導電性樹脂組成物は、例えば、印刷インキに好適に使用することができる。本発明の導電性樹脂組成物を含有する印刷インキを用いることで、透明電極基板や電磁波シールド材を得ることができる。
また、本発明の透明電極基板は、有機又は無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等の表示デバイス、タッチパネル等に好適に使用することができる。
また、本発明の電磁波シールド材は、基材として透明基材を用いた場合、高い光透過性および電磁波シールド性を有しているので、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)のディスプレイ用フィルターに好適に用いられ、特に、透明性が要求される用途(PDPや液晶ディスプレイなどの表示デバイス用フィルター等)に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、及び、
(B)増粘剤
を含有することを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記複素環含有芳香族化合物は、下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物である請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【化1】

(式中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表す。また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項3】
前記複素環含有芳香族化合物は、下記構造式(2−1)〜(2−12)で表される複素環含有芳香族化合物のなかの少なくとも1つである請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
前記増粘剤は、ポリアクリル酸系樹脂、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、及び、セルロースエーテル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を含有することを特徴とする印刷インキ。
【請求項6】
スクリーン印刷ペーストである請求項5に記載の印刷インキ。
【請求項7】
基板上に、請求項5又は6に記載の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする透明電極基板。
【請求項8】
基材上に、請求項5又は6に記載の印刷インキにより形成された導電性パターンを備えることを特徴とする電磁波シールド材。

【公開番号】特開2012−17398(P2012−17398A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155234(P2010−155234)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】