説明

導電性樹脂組成物およびチップ型電子部品

【課題】塗布形状が良好で、セラミック素子との密着性が良好な樹脂電極を確実に形成することが可能な導電性樹脂組成物およびそれを用いて形成された樹脂電極を備えたチップ型電子部品を提供する。
【解決手段】分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含有させるとともに、降伏値を3.6Pa以下とする。
また、分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含有させるとともに、導電性粉末として、表面に付着している脂肪酸またはその塩の前記導電性粉末に占める割合が0.5wt%以下のものを用いる。
また、導電性粉末として球形のものを用い、かつ導電性樹脂組成物を構成する固形分中に占める導電性粉末の割合を42〜54vol%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物およびチップ型電子部品に関し、詳しくは、チップ型電子部品の外部電極となる樹脂電極の形成に好適に用いられる導電性樹脂組成物およびそれを用いて形成された樹脂電極(外部電極)を備えたチップ型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チップ型積層セラミックコンデンサなどのチップ型電子部品において、導電成分を含有する樹脂組成物を塗布して硬化させることにより形成される樹脂電極を外部電極として備えたものが用いられるに至っている。
【0003】
このようなチップ型電子部品の一つとして、例えば、図2に示すような構造を有するチップ型コンデンサが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このチップ型コンデンサは、セラミック層52と内部電極53a,53bを備えた積層セラミック素子(チップ基板)51と、積層セラミック素子51の両端面54a,54bに、導電ペーストを塗布して焼き付けることにより形成された端面電極(焼き付け電極)55a,55bと、端面電極55a,55bを覆うように、配設された樹脂電極56a,56bとを備えている。
なお、このチップ型コンデンサにおいては、端面電極55a,55bと樹脂電極56a,56bとが、内部電極53a,53bと導通する外部電極を構成している。
また、このチップ型コンデンサでは、積層セラミック素子(チップ基板)51の最表層のセラミック層52aの厚みをLとした場合に、端面電極55a,55bが、露出面からL×tanθ(θ=30°)以内で、最表層のセラミックス層の表面を覆うようにしており、この端面電極55a,55bを覆うように、樹脂電極56a,56bを配設している。
【0005】
そして、このチップ型コンデンサの場合、端面電極55a,55bを覆う樹脂電極56a,56bが柔軟性を有しているため、積層セラミック素子(チップ基板)51および端面電極55a,55bに対して十分な密着性を有しており、応力によって剥落することがなく、また、焼き付け電極である端面電極55a,55bの端部を基点とするクラックの発生を抑制する機能を果たすとともに、端面電極55a,55bの配設領域が上述のように規定されているため、クラックが発生した場合にも、クラックにより内部電極53a,53bが切断されることを防止できるとされている。
【0006】
また、樹脂電極53a,53bを形成するために用いられる導電性樹脂組成物として、金属粉末、エポキシ樹脂、硬化剤および溶剤を含有し、回転粘度計に於ける回転数1rpmで測定した粘度を回転数5rpmで測定した粘度で除して求めたチクソ比を1.8以下とした導電性樹脂組成物が提案されている(特許文献2の請求項1参照)。
また、上記エポキシ樹脂が、エポキシ当量900g/eq以上のエポキシ樹脂成分(A)と、エポキシ当量900g/eq未満のエポキシ樹脂成分(B)とを含有する混合物であり、エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂成分(A)の含有量が30重量%以上である導電性樹脂組成物が提案されている(特許文献2の請求項2参照)。
【0007】
この特許文献2の導電性樹脂組成物の場合、チクソ指数を1.8以下にすることにより、塗布形状が良好になるとされている。
また、エポキシ当量を上述のように規定することにより、請求項1のチクソ指数が1.8以下の導電性樹脂組成物が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−67239号公報
【特許文献2】特開2005−264095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1のチップ型コンデンサの場合、樹脂電極形成用の導電性樹脂組成物に積層セラミック素子を浸漬して、積層セラミック素子の端面電極上に導電性樹脂組成物を塗布する際に、導電性樹脂組成物のレオロジーが不適切であると、塗布形状が悪くなり、樹脂電極の形状が中央部(積層セラミック素子の端面の中央領域に対応する領域)が盛り上がった山形の形状となる傾向があり、以後のめっき工程におけるめっき付き性や、実装工程における実装性に悪影響を与えるという問題点がある。
【0010】
また、上述の特許文献2の導電性樹脂組成物の場合、塗布形状を左右する因子であるチクソ指数については規定されているものの、樹脂電極を形成する場合に問題となりやすい、形成対象(例えば積層セラミック素子)との密着性の問題については、特に解決の方法が示されていないのが実情である。
また、特許文献2では、所望のチクソ指数を得るための条件として、エポキシ当量のみが構成として規定されているが、実際は導電成分などのフィラーの表面状態や形状などによってレオロジーが異なるため、フィラーとの関係を特に考慮せずにエポキシ当量のみが規定されている特許文献2の導電性樹脂組成物の場合、フィラーとの関係によっては、必ずしも良好な塗布形状が得られなくなる場合があるものと推測される。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、塗布形状が良好で、セラミック素子との密着性が良好な樹脂電極を確実に形成することが可能な導電性樹脂組成物およびそれを用いて形成された樹脂電極を備えたチップ型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の導電性樹脂組成物は、
分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、降伏値が3.6Pa以下であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、
分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、前記導電性粉末は、表面に付着している脂肪酸またはその塩の前記導電性粉末に占める割合が0.5wt%以下のものであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、前記導電性粉末の表面が、トリアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物の少なくとも1種により被覆されていることを特徴としている。
【0015】
なお、前記トリアゾール系化合物としては、1−メチルベンゾトリアゾールを用いることが望ましく、また、前記イミダゾール系化合物としては、2−メチルイミダゾールを用いることが望ましい。
【0016】
また、本発明の導電性樹脂組成物においては、前記導電性粉末が球形であり、かつ前記導電性樹脂組成物を構成する固形分中に占める前記導電性粉末の割合が42〜54vol%の範囲にあることが望ましい。
【0017】
また、本発明の導電性樹脂組成物においては、前記2官能エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが望ましい。
【0018】
また、前記溶剤が2種類以上の混合溶剤であり、かつ、前記混合溶剤は、蒸気圧≧0.8mmHg(25℃)の溶剤を45wt%以下の割合で含有していることが望ましい。
【0019】
本発明のチップ型電子部品は、
電子部品素子と、前記電子部品素子に形成された外部電極とを備えたチップ型電子部品において、
前記外部電極が、本発明の導電性樹脂組成物を塗布、乾燥、硬化させることにより形成された樹脂電極を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の導電性樹脂組成物は、分子量が11000〜40000で、分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、降伏値が3.6Pa以下であることから、適度な流動性を備えており、電子部品素子などの対象に塗布した場合に、良好な塗布形状を確実に得ることが可能になるとともに、本発明の導電性樹脂組成物を用いることにより、形状精度が高く、電子部品素子などへの密着性に優れた樹脂電極を効率よく、しかも確実に形成することが可能になる。
なお、本発明の導電性樹脂組成物においては、導電性粉末として、表面が銀からなる種々の導電性粉末を用いることが可能であり、表面が銀からなる導電性粉末とは、全体が銀からなる銀粉末はもちろん、表面が銀でコーティングされた銅粉末、ニッケル粉末、錫粉末、アルミニウム粉末などを用いることも可能である。
【0021】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、導電性粉末に付着している脂肪酸またはその塩の導電性粉末に占める割合が0.5wt%以下となるようにしていることから、適度な流動性を備えており、電子部品素子などの対象に塗布した場合に、良好な塗布形状を確実に得ることが可能になるとともに、本発明の導電性樹脂組成物を用いることにより、形状精度が高く、電子部品素子などへの密着性に優れた樹脂電極を効率よく、しかも確実に形成することが可能になる。
【0022】
また、分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含む導電性樹脂組成物において、導電性粉末の表面が、トリアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物の少なくとも1種により被覆された構成とした場合、塗布形状が良好で、かつ密着性に優れた樹脂電極を、効率よく、しかも確実に形成することが可能になる。
また、トリアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物は、吸着安定性が高いため、導電性樹脂組成物の作製工程で、吸着反応を促進するための熟成処理を行わなくても、良好な塗布形状を得ることが可能な導電性樹脂組成物を得ることができる。
なお、ここで熟成処理とは、導電性粉末を構成する活性の低いAgとエポキシ樹脂との吸着状態を安定させるために行う処理で、所定の時間加熱して外部エネルギーを与え、吸着を促すために行う処理をいう。
【0023】
また、トリアゾール系化合物として、1−メチルベンゾトリアゾールを用い、イミダゾール系化合物として、2−メチルイミダゾールを用いた導電性樹脂組成物の場合、降伏値が低く、かつ早期に安定するため、良好な塗布形状を得ることが可能になるとともに、密着性に優れた樹脂電極を、効率よく、しかも確実に形成することが可能になる。
【0024】
また、本発明の導電性樹脂組成物において、導電性粉末として球形のものを用い、かつ導電性樹脂組成物を構成する固形分中に占める導電性粉末の割合を42〜54vol%の範囲とした場合、適度な流動性を備え、電子部品素子などの対象に塗布した場合に、形状精度が高く、密着性やめっき付き性が極めて良好な樹脂電極を形成することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0025】
また、本発明の導電性樹脂組成物において、2官能エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることにより、耐熱性を向上させることが可能になる。
【0026】
また、溶剤として、2種類以上の混合溶剤を用いるとともに、混合溶剤が、蒸気圧≧0.8mmHg(25℃)の溶剤を45wt%以下の割合で含有するようにした場合、樹脂電極を形成するにあたって、塗布後の乾燥工程において、高い昇温速度で乾燥を行う場合にも、樹脂電極にマイクロクラックが発生することを抑制して、特性の良好な樹脂電極を形成することができる。
【0027】
また、本発明のチップ型電子部品は、電子部品素子と、電子部品素子に形成された外部電極とを備えたチップ型電子部品において、外部電極が、本発明の導電性樹脂組成物を用いて形成した、形状が良好で、電子部品素子への密着性に優れた樹脂電極を備えているので、例えば実装基板に実装された状態で実装基板に応力が加わったような場合にも、電子部品素子に割れが生じたりすることを防止することが可能な信頼性の高いチップ型電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の導電性樹脂組成物を用いて形成した樹脂電極を備えたチップ型電子部品を示す断面図である。
【図2】従来の樹脂電極を備えたチップ型コンデンサの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0030】
この実施例1では、まず、本発明の実施例にかかる導電性樹脂組成物を作製した。
そして、作製した導電性樹脂組成物を用いて、図1に示すような、樹脂電極を備えたチップ型電子部品(この実施例では積層セラミックコンデンサ)を作製した。すなわち、この実施例で作製したチップ型電子部品(積層セラミックコンデンサ)は、図1に示すように、セラミック層2と内部電極3a,3bを備えた積層セラミック素子(コンデンサ素子)1と、積層セラミック素子(コンデンサ素子)1の両端面4a,4bに、導電ペーストを塗布して焼き付けることにより形成された端面電極(焼き付け電極)5a,5bと、端面電極5a,5bを覆うように配設された樹脂電極6a,6bとを備えている。なお、樹脂電極6a,6bは、本発明にかかる導電性樹脂組成物を用いて形成したものである。
以下、説明を行う。
【0031】
[1]導電性樹脂組成物の作製
まず、以下の方法で、樹脂電極形成用の導電性樹脂組成物を作製した。導電性樹脂組成物を作製するにあたっては、表1の試料番号1〜3の組成となるように各原料を秤取し、小型ミキサーを用いて混合した後、3本ロールで混練した。その後、吸着反応を促進すべく熟成処理を行った。
【0032】
なお、表1の各導電性樹脂組成物では、
(a)分子量が11000〜40000の範囲のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、
(b)水酸基当量が105g/eqのノボラック型フェノール樹脂と、
(c)イミダゾールと、
(d)球状で、表面に脂肪酸などを付与するための表面処理の行われていない銀粉末(導電性粉末)と、
(e)溶剤であるブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)と
を原料として用いた。
【0033】
そして、溶剤であるブチルカルビトールの量を調整することにより、粘度を30±2Pa・sに調整した。なお、粘度はE型粘度計(東機産業製TVE−30)で、1°34′×R24のコーンを用い、回転数1rpmで測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
[2]評価用の積層セラミックコンデンサ(試料)の作製
この実施例では、評価用の積層セラミックコンデンサとして、上述のように、図1に示すような積層セラミックコンデンサを作製した。そして、樹脂電極6a,6bの形成には、上述のようにして作製した導電性樹脂組成物を用いた。
【0036】
(1)積層セラミック素子(コンデンサ素子)の作製
評価用の積層セラミックコンデンサ(試料)を作製するにあたっては、まず、セラミック層2と内部電極3a,3bを備えたセラミック焼結体である積層セラミック素子(コンデンサ素子)1を準備した。
この積層セラミック素子1は、寸法が、長さL=3.2mm、幅W=1.6mm、厚みt=1.6mmで、静電容量10μFのコンデンサ素子である。
【0037】
(2)端面電極(下層電極)の形成
そして、用意したコンデンサ素子1の一方端面4aを、300μm厚でスキージした、表2に示す組成の導電ペースト(端面電極形成用の導電ペースト)に浸漬し、コンデンサ素子1の一方端面4aに導電ペーストを塗布した。
なお、導電ペーストを構成する銅粉末としては、球状の銅粉と扁平状の銅粉を混合して用いた。
それから、オーブンで120℃/15minの条件で乾燥させた。
次に、コンデンサ素子1の他方端面4bに対しても同様の方法で、上記導電ペーストを塗布し、乾燥させた。
【0038】
【表2】

【0039】
その後、ピークトップ温度750℃で熱処理して、端面電極(焼き付け銅電極)5a,5bを形成した。
【0040】
(3)樹脂電極の形成
上述のようにして作製した表1の試料番号1〜3の導電性樹脂組成物(上層電極(樹脂電極)ペースト)を600μm厚でスキージした槽に、コンデンサ素子1の、上記端面電極(下層電極)5aが形成された一方端面側を浸漬し、端面電極(下層電極)5aを覆うように導電性樹脂組成物をディップ塗布した。なお、導電性樹脂組成物へのコンデンサ素子1の突入速度は0.2mm/s、引上速度は3.0mm/s、下死点保持時間は1.5sとした。
それから、導電性樹脂組成物が塗布されたコンデンサ素子1に塗布をプログラムオーブンに入れ、150℃/15min(150℃までの昇温時間11℃/min)の条件で乾燥させた。
続いてコンデンサ素子1の他方端面に対しても、同様の方法で端面電極(下層電極)5bを覆うように導電性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた。
次に、ピークトップ温度=200℃、保持時間=2h、雰囲気=Air雰囲気の条件で導電性樹脂組成物を熱硬化させることにより樹脂電極(上層電極)6a,6bを形成した。
【0041】
(4)めっき膜の形成
上述のようにして、端面電極および樹脂電極からなる外部電極を形成したコンデンサ素子をバレルに入れ、湿式電解バレルめっきを行って、樹脂電極上に以下のめっき膜を形成した。
a)第1めっき膜(下層):Ni(厚み=約3.5±1.5μm)
b)第2めっき膜(上層):Sn(厚み=約3.5±1.5μm)
これにより、図1に示すような構成を有する積層セラミックコンデンサが得られる。なお、図1においては、第1および第2めっき膜は図示していない。
【0042】
[3]特性の評価
上記[1]で作製した導電性樹脂組成物、および、上記[2]で作製した積層セラミックコンデンサ(評価用チップ)について、以下に説明する方法で特性を調べた。
【0043】
(1)導電性樹脂組成物の降伏値
まず、上記[1]で作製した導電性樹脂組成物について、E型粘度計TVE−30(東機産業製)を用いて、以下の条件で、せん断応力を測定した。
使用したロータ:1号ロータ(コーン1°34×R24)
測定温度 :25℃
測定回転数 :1.5rpm/5min
1.0rpm/5min
0.6rpm/5min
0.3rpm/5min
そして、測定で得られた各回転数における「せん断速度」の平方根と、「せん断応力」の平方根を二軸にプロットし、当該プロットから最小二乗法近似で得た直線の切片を読み取り、当該切片値の二乗を降伏値(単位Pa)とした。
なお、各回転数におけるせん断速度は以下の通りである。
1.5rpm:5.745[s−1]
1.0rpm:3.830[s−1]
0.6rpm:2.298[s−1]
0.3rpm:1.149[s−1]
【0044】
(2)樹脂電極の形状特性(導電性樹脂組成物の塗布形状)
作製した積層セラミックコンデンサ(試料)の樹脂電極の端面形状(山形の形状となっている度合い)を定量化するため、樹脂固めした後、DPAを行い、樹脂電極の端面ツノ部角度を200倍のマイクロスコープで確認した(n=20)。端面ツノ部角度が163°以上のものを良(○)、163°未満のものを不良(×)と評価した。
【0045】
(3)はんだ浸漬後の樹脂電極の密着性
作製した積層セラミックコンデンサを、270℃に加温したはんだ浴(Sn−3.0Ag−0.5Cuはんだ浴(M705、千住金属工業株式会社製))に10s浸漬した。
その後、積層セラミックコンデンサを樹脂固めした後、DPAを行い、樹脂電極の縁部の剥離の有無を500倍の実体顕微鏡で観察した(n=20)。なお、ここでいう樹脂電極の縁部とは、図1を用いて説明すると、樹脂電極6a,6bがコンデンサ素子1の側面1aに回り込んだ部分のうち、先端側のコンデンサ素子1に接している部分10をいう。また、樹脂電極の剥離とは、樹脂電極6a,6bのコンデンサ素子1に接している部分10が、コンデンサ素子1から剥がれている状態をいう。はんだ浸漬後に樹脂電極の剥離が認められないものを密着性が良(○)、剥離が認められたものを不良(×)と判定した。
【0046】
(4)樹脂電極端面のマイクロクラックの発生状態
コンデンサ素子1の端面4a,4b上に形成された樹脂電極6a,6bの表面を光学顕微鏡(30倍)で観察し、マイクロクラック(ヒビ割れ)の有無を確認し、マイクロクラックの発生状態を調べた(n=5)。そして、マイクロクラックの発生していないものを良(○)、微小クラックがあるものの実用上問題のない程度のものを可(△)、マイクロクラックが多数認められ、実用上問題となりうるものを不良(×)と評価した。
(5)導電性樹脂組成物の塗布作業性
導電性樹脂組成物をコンデンサ素子に塗布する際に、溶剤の蒸発により導電性樹脂組成物の粘度が上昇して塗布に悪影響を与えるおそれがあるかどうかを調べるものであり、特に問題のないものを良(○)、特に問題はないがいくらか作業性の低下を招くおそれのありそうなものを可(△)と評価した。
【0047】
[4]評価結果
特性の測定結果を他の条件とともに表3Aに示す。
【0048】
【表3A】

【0049】
実施例1で作製した試料番号1〜3の導電性樹脂組成物(上層電極(樹脂電極)ペースト)の場合、表面に脂肪酸などを付与する処理を施していない導電性粉末を用いているので、高分子のエポキシ樹脂と導電性粉末の間の相互作用が小さくなる。
その結果、実施例1〜3の導電性樹脂組成物の場合、降伏値(表3Aの「ペースト特性」の欄における「降伏値」参照)が低くなり、各導電性樹脂組成物の塗布、乾燥、硬化を行って樹脂電極を形成する場合における、コンデンサ素子の端面への導電性樹脂組成物の塗布形状(表3Aの「チップ特性」の欄における「樹脂電極の端面形状」参照)が良好になることが確認された。
また、高分子のエポキシ樹脂を用いているため、コンデンサ素子(セラミック素子)との密着性(表3Aの「チップ特性」の欄における「はんだ浸漬後の樹脂電極の密着性」参照)が良好な樹脂電極を備えた、信頼性の高い積層セラミックコンデンサが得られることが確認された。
また、他の特性(導電性樹脂組成物の降伏値、塗布形状、および密着性以外のクラックの発生状態や塗布作業性など)に関しても、特に問題となるような挙動は認められなかった(表3Aの「その他のチップ仕上がり状態」の欄における「樹脂電極塗布時のペースト作業性」参照)。
【実施例2】
【0050】
実施例1のビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いて表3Aの試料番号4の導電性樹脂組成物を作製した。
詳しくは、実施例1の試料番号1で用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量Mw=31000、エポキシ当量2600g/eq)を、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(分子量Mw=30000、エポキシ当量2231/eq)に変更して試料番号4の導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同一とした。
【0051】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
なお、他の条件は、上記実施例1の場合と同一とした。
【0052】
この実施例2の導電性樹脂組成物(試料番号4)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Aに併せて示す。
表3Aの試料番号4に示すように、この実施例2の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいては、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例3】
【0053】
この実施例3では、導電性樹脂組成物を構成する導電性粉末(銀粉末)の粒径を変更して導電性樹脂組成物を作製した。
詳しくは、実施例1で用いた導電性粉末(銀粉末)の平均粒子径D50を0.5μmから0.3μm(試料番号5)および1.0μm(試料番号6)に変更して導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同じである。
【0054】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この実施例3の導電性樹脂組成物(試料番号5および6)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Aに併せて示す。
【0055】
表3Aの試料番号5および6に示すように、この実施例3の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいて、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例4】
【0056】
この実施例4では、実施例1で用いた導電性粉末すなわち銀粉末の代わりに、表面が銀でコーティングされた導電性粉末(銀コート銅粉末)を用いて、表3Aの試料番号7の導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同じである。
【0057】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この実施例4の導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Aに併せて示す。
【0058】
表3Aの試料番号7に示すように、この実施例4の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいて、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例5】
【0059】
この実施例5では、実施例1で用いた導電性粉末(銀末)の表面に、脂肪酸(パルミチン酸)(表3Bの試料番号8)および脂肪酸(ステアリン酸)(表3Bの試料番号9)を約0.5wt%付着させた(コーティングした)銀粉末を用いて導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同じである。
【0060】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この実施例5の導電性樹脂組成物(試料番号8および9)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Bに併せて示す。
【0061】
【表3B】

【0062】
表3Bの試料番号8および9に示すように、導電性粉末(銀粉末)の表面に脂肪酸(パルミチン酸あるいはステアリン酸)を付着させるようにした場合にも、少量であれば降伏値の増大は見られず、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
また、実施例5の各導電性樹脂組成物(試料番号8および9)を用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいても、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
なお、脂肪酸が脂肪酸塩である場合にも、この実施例5の場合と同様の結果が得られることが確認されている。
【実施例6】
【0063】
この実施例4では、導電性粉末の配合割合を、実施例1の試料番号1〜3の導電性樹脂組成物における48vol%から、42vol%(表3Bの試料番号10)および54vol%(表3Bの試料番号11)に変更して導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同一とした。
【0064】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この実施例6の導電性樹脂組成物(試料番号10および11)および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Bに併せて示す。
【0065】
表3Bの試料番号10および11に示すように、導電性樹脂組成物における導電性粉末の配合割合を変化させた実施例6の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいて、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例7】
【0066】
この実施例7では、積層セラミックコンデンサの下層電極(下地導体)を、実施例1の試料番号1〜3の焼き付け銅電極から、めっきにより形成しためっき銅電極に変更した以外は、上記実施例1の場合と同じ導電性樹脂組成物を用い、実施例1の場合と同じ条件で積層セラミックコンデンサ(表3Bの試料番号12)を作製した。
【0067】
この実施例7で作製した積層セラミックコンデンサについて調べた特性を、表3Bに併せて示す。
表3Bの試料番号12に示すように、下層電極(下地導体)をめっき銅電極とした実施例6の積層セラミックコンデンサにおいても、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例8】
【0068】
この実施例8では、導電性樹脂組成物を用いて樹脂電極を形成する際の、導電性樹脂組成物を塗布した後の乾燥温度を、実施例1における11℃/minから、25℃/minに変更して樹脂電極を形成した(表3Cの試料番号13〜17)。
また、導電性樹脂組成物の溶剤組成を、試料番号13では、BC(ブチルカルビトール):DAA(ジアセトンアルコール)=100:0と、上記実施例1(試料番号1〜3)と同じ組成とし、試料番号14では、BC:DAA=85:15、試料番号15では、BC:DAA=70:30、試料番号16では、BC:DAA=55:45、試料番号17では、BC:DAA=40:60と変化させた。
そして、得られた導電性樹脂組成物(表3Cの試料番号13〜17)を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
【0069】
この実施例8の導電性樹脂組成物(表3Cの試料番号13〜17)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などの測定結果を表3Cに併せて示す。
【0070】
【表3C】

【0071】
表3Cに示すように、乾燥時の昇温速度が25℃/minの場合、溶剤組成が実施例1の試料番号1〜3の場合と同じ組成(BC=100wt%)のときには、端面電極の上に形成された樹脂電極に微小なマイクロクラックが発生した(試料番号13)。
また、溶剤BCに対するDAAの置換比率が15wt%の試料番号14の場合にも、端面電極の上に形成された樹脂電極に微小なマイクロクラックが少し発生した。
なお、試料番号13および14におけるマイクロクラックの発生は、実使用には問題のないものであったが、外観上はあまり好ましくないものである。
【0072】
一方、溶剤BCに対するDAAの置換比率が30wt%を超えると、端面電極の上に形成された樹脂電極のマイクロクラックが抑制され、外観特性が良好な積層セラミックコンデンサが得られることがわかった(試料番号15〜17)。
これは、蒸気圧が高く、速乾性の溶剤であるDAAの比率が増えることにより、乾燥の進行が早まり、乾燥時のペーストの流動が抑制されたことによるものであると推測される。但し、溶剤BCに対するDAAの置換比率が60wt%を超えた試料番号17の場合のように、DAAの比率が多くなると、塗布作業時の粘度が上昇して、実用可能ではあるものの、作業性がやや低下する傾向が見られた。したがって、溶剤組成はそのような点も含めて、使用条件などを考慮して定めることが望ましい。
なお、その他の点においては、この実施例8の各試料においては、実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例9】
【0073】
この実施例9では、上記実施例8の試料番号15の導電性樹脂組成物において用いた溶剤のDAA(ジアセトンアルコール)を、その他の速乾性溶剤(ベンジルアルコール(表3Dの試料番号18)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表3Dの試料番号19)、プロピレングリコールメチルエーテル(表3Dの試料番号20))に置換して導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例7の場合と同じである。
【0074】
【表3D】

【0075】
そして、得られた導電性樹脂組成物(試料番号18〜20)を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この実施例8の導電性樹脂組成物(試料番号18〜20)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Dに併せて示す。
【0076】
表3Dの試料番号18〜20に示すように、この実施例9の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいて、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【実施例10】
【0077】
この実施例10では、導電性粉末(導電粉)として、球形でD50が0.5μmの銀粉末であって、その表面が、トリアゾール系化合物、または、イミダゾール系化合物により被覆されている銀粉末を用いたことを除いて、上記実施例1の試料番号1の導電性樹脂組成物と同じ組成の導電性樹脂組成物(上層電極(樹脂電極)ペースト)を作製した。
すなわち、この実施例10では、表面がトリアゾール系化合物またはイミダゾール系化合物により被覆された以下に説明する銀粉末を用い、この銀粉末と、上記実施例1の試料番号1の導電性樹脂組成物において用いたものと同じエポキシ樹脂、硬化剤および溶剤を、表3Eに示すような割合で秤取し、小型ミキサーを用いて混合した後、3本ロールで混練することにより、表3Eの試料番号24,25,26,および27の導電性樹脂組成物を作製した。
なお、上記実施例1において行った、活性の低いAgとエポキシ樹脂との吸着状態を安定させるための熟成処理は、この実施例10では行わなかった。
【0078】
そして、試料番号24〜27の導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の条件で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
【0079】
<実施例10で用いた銀粉末について>
この実施例10において、表3Eの試料番号24および試料番号25の試料では、トリアゾール系化合物として、常温で固体の1−メチルベンゾトリアゾールを用いて表面を被覆(コーティング)した銀粉末を使用した。
1−メチルベンゾトリアゾールの被覆量は、試料番号24では、被覆後の銀粉末の0.5wt%、試料番号25では、被覆後の銀粉末の1.5wt%となるような割合とした。
【0080】
また、試料番号26および試料番号27の試料では、イミダゾール系化合物として、常温で固体の2−メチルイミダゾールを用いて表面を被覆した銀粉末を使用した。
2−メチルイミダゾールの被覆量は、試料番号26では、被覆後の銀粉末の0.5wt%、試料番号27では、被覆後の銀粉末の1.5wt%となるような割合とした。
【0081】
なお、トリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物により導電性粉末(この実施例では銀粉末)の表面を被覆する場合、導電性粉末の表面全体を覆うことが好ましいが、一部露出している部分があってもよい。
【0082】
この実施例10の導電性樹脂組成物(試料番号24〜27)の組成、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性を表3Eに併せて示す。
なお、表3Eには、実施例1の表3Aの試料番号1のデータを併せて示している。
【0083】
【表3E】

【0084】
表3Eに示すように、この実施例10の場合にも、導電性樹脂組成物、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサにおいては、実施例1の場合と同様の特性が得られることが確認された。
【0085】
なお、この実施例10の導電性樹脂組成物を用いた場合、銀粉末の表面を被覆するトリアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物が、エポキシ樹脂との濡れ(相性)が良好であることから、導電性樹脂組成物(ペースト)の塗布形状は十分に良好であることが確認された。
【0086】
また、この実施例10の導電性樹脂組成物は、銀粉末の表面処理を行っていない場合(上記実施例1の場合)と比較して、降伏値はいくらか高い傾向にあるものの、吸着安定性が高いため、熟成処理を実施しなくても(上述のように、この実施例10における導電性樹脂組成物の作製工程では、吸着反応を促進するための熟成処理を行っていない)、良好な塗布形状を維持できることが確認された。
【0087】
[比較例1]
比較用の導電性樹脂組成物として、実施例1の導電性樹脂組成物で用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂よりも分子量が小さいビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いて、表4に示すような組成の導電性樹脂組成物(表4および表3Dの試料番号21参照)を作製した。なお、他の条件は、上記実施例1の場合と同じである。
【0088】
【表4】

【0089】
そして、得られた比較用の導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この比較例1の導電性樹脂組成物(試料番号21)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Dに併せて示す。
【0090】
表3Dの試料番号21に示すように、この比較例1の導電性樹脂組成物の場合、低分子のエポキシ樹脂を用いているため、本発明の要件を備えた導電性樹脂組成物を用いた場合に比べて、形成された樹脂電極のコンデンサ素子に対する密着性が低いことが確認された。
また、導電性粉末として表面処理がなされていない表面が無垢の銀粉末が用いられており、表面状態が親水側に傾く一方で、エポキシ樹脂として低分子のものが用いられているため、エポキシ樹脂との相互作用が大きくなり、結果として、導電性樹脂組成物の降伏値が高くなり、下層電極を介して形成されたコンデンサ素子の端面上の樹脂電極の形状が悪化することが確認された。
【0091】
[比較例2]
この比較例2では、実施例1で用いた導電性粉末(銀粉末)の表面に、脂肪酸としてパルミチン酸(表3Dの試料番号22)およびステアリン酸(表3Dの試料番号23)を約2.5wt%付着させた(コーティングした)導電性粉末を用いて導電性樹脂組成物を作製した。他の条件は、上記実施例1の場合と同一とした。
【0092】
そして、得られた導電性樹脂組成物を用いて、上記実施例1の場合と同様の方法で樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサを作製した。
この比較例2の導電性樹脂組成物(試料番号22および23)、および、それを用いて作製した樹脂電極を備えた積層セラミックコンデンサの特性などを表3Dに併せて示す。
【0093】
表3Dの試料番号22および23に示すように、比較例2の導電性樹脂組成物の場合、導電性粉末(銀粉末)の表面に2.5wt%と多量の脂肪酸(パルミチン酸またはステアリン酸)が付与されているため、導電性粉末の表面状態が疎水性に傾き、高分子のエポキシ樹脂との相互作用が大きくなり、導電性樹脂組成物の降伏値が高くなった。そして、その結果、下層電極を介して形成されたコンデンサ素子の端面上の樹脂電極の形状が悪化することが確認された。
【0094】
上述のように、上記実施例1〜9および比較例1〜3の結果から、本発明の要件を備えた導電性樹脂組成物は適度な流動性を備えており、本発明の導電性樹脂組成物を用いることにより、形状精度が高く、コンデンサ素子などの電子部品素子への密着性に優れた樹脂電極を効率よく、しかも確実に形成できることが確認された。
【0095】
また、導電性粉末の表面に付着している脂肪酸の量、導電性粉末の形状および配合割合、導電性樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂の種類、溶剤の種類などに関し、本発明の従属請求項に規定されている条件を備えるようにした場合、より特性が良好で信頼性の高い導電性樹脂組成物およびチップ型電子部品が得られることが確認された。
【0096】
なお、上記実施例では、樹脂電極の下地となる下層電極が焼き付け電極、あるいはめっき電極である場合を例にとって説明したが、本発明の導電性樹脂組成物は、コンデンサ素子などのチップ型電子部品素子の端面に直接に樹脂電極を形成する場合にも適用することが可能である。
【0097】
また、上記実施例では、樹脂電極の形成対象であるチップ型電子部品が積層セラミックコンデンサである場合を例にとって説明したが、本発明は、チップ型コイル部品、チップ型LC複合部品などの種々のチップ型電子部品に樹脂電極を形成する場合に適用することが可能である。
【0098】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、内部電極の構成材料、電子部品素子の具体的な形状、導電性樹脂組成物に用いられる導電性粉末の構成、溶剤の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 積層セラミック素子(コンデンサ素子)
1a コンデンサ素子の側面
2 セラミック層
3a,3b 内部電極
4a,4b コンデンサ素子の端面
5a,5b 端面電極(下層電極)
6a,6b 樹脂電極
10 樹脂電極が回り込んでコンデンサ素子に接している部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、降伏値が3.6Pa以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、前記導電性粉末は、表面に付着している脂肪酸またはその塩の前記導電性粉末に占める割合が0.5wt%以下のものであることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項3】
分子量が11000〜40000で、かつ分子末端にグリシジル基を持つ直鎖状の2官能エポキシ樹脂と、表面が銀からなる導電性粉末と、溶剤とを含み、かつ、前記導電性粉末の表面が、トリアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物の少なくとも1種により被覆されていることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記トリアゾール系化合物が、1−メチルベンゾトリアゾールであることを特徴とする請求項3記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
前記イミダゾール系化合物が、2−メチルイミダゾールであることを特徴とする請求項3記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記導電性粉末が球形であり、かつ前記導電性樹脂組成物を構成する固形分中に占める前記導電性粉末の割合が42〜54vol%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
前記2官能エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
前記溶剤が2種類以上の混合溶剤であり、かつ、前記混合溶剤は、蒸気圧≧0.8mmHg(25℃)の溶剤を45wt%以下の割合で含有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
電子部品素子と、前記電子部品素子に形成された外部電極とを備えたチップ型電子部品において、
前記外部電極が、請求項1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を塗布、乾燥、硬化させることにより形成された樹脂電極を備えていることを特徴とするチップ型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−137128(P2011−137128A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52124(P2010−52124)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】