説明

導電性樹脂組成物の製造方法、導電性樹脂組成物及び成形品

【課題】 良好な成形性を付与しうる導電性樹脂組成物、及び優れた導電性と衝撃強度を有する成形品を得ること。
【解決手段】 結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材と、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックである導電材料とを同時に混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な成形性を付与しうる結晶性ポリプロピレン樹脂(以下PP樹脂と略す。)用の導電性樹脂組成物、及び優れた導電性と衝撃強度を有する成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂、特にPP樹脂に、カーボンブラックをはじめとする導電材料を含有させて静電防止対策を講ずることは、帯電圧破壊を受けやすい電子部品を中心に各種成形品に応用されている。PP樹脂は比重が小さいこと、耐薬品性が良好なこと、安価なこと、成形性が良好なことなど数多くの特徴を有していることから、導電コンテナ、シート、トレイ、パイプをはじめとした各種PP樹脂成形品に導電性を付与させることが広く行われている。
【0003】
しかしながら、導電材料がカーボンブラックや金属粉、導電性金属酸化粉である場合、導電性を発現させうるためにはある程度の添加量が必要である。例えばカーボンブラックならば組成物中に10〜25重量%程度の添加が必要となるため、PP樹脂が本来有している耐衝撃性が大幅に低下する欠点がある。
【0004】
この欠点を克服するために従来から用いられる手法としては、PP成分を出来るかぎり高分子量化する方法や、組成物中にエチレン−プロピレン共重合体(以下EPRと略す。)、もしくはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(以下EPDMと略す。)等のオレフィン系ゴム、直鎖状低密度ポリエチレン(以下LLDPEと略す。)、超低密度ポリエチレン等の衝撃改良材を添加する方法(例えば、特許文献1参照。)により耐衝撃性を向上させることが広く行われている。
【0005】
しかし、流動性、成形品の表面光沢は上記衝撃改良材の添加量が増加するにしたがって悪化する。例えば射出成形品の場合、ショートショット、フローマークにより成形品の外観が悪化する傾向があった。また、押出成形品の場合、押出トルクの上昇やダイ内圧の増加により押出機を高トルク型のものを使用する必要のあることや、成形条件、成形品形状に制約を与えてしまう傾向があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−279310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は上記事実に鑑み、導電材料を含有するPP樹脂の流動性、押出加工性を保持し、かつ得られる成形品の耐衝撃性、導電性、表面光沢を保持することを目的として検討をおこなった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電材料としてジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)を選定し、PP樹脂を高分子量化せず、樹脂の流動性を悪化させうる衝撃改良材成分、すなわちオレフィン系ゴムやLLDPE等の添加量を必要最小限に抑えることにより、上記問題を解決したものである。
【0009】
即ち、第1の発明は、結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材と、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを同時に混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法である。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
【0010】
第2の発明は、結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材とを含む混合物60〜90重量%に、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法である。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明に記載の導電性樹脂組成物の製造方法で得られる導電性樹脂組成物である。
【0012】
第4の発明は、第3の発明に記載の導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品である。
【0013】
第5の発明は、表面抵抗値が1×10〜1×1010Ωである第4の発明に記載の成形品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法は、
結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材と、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを同時に混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
または、結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材とを含む混合物60〜90重量%に、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
なので、導電材料が最初に衝撃改良材成分と濡れることが可能となり、ゴム成分同士を介在させる役割を果たすことができる。
従って、流動性が改善され、良好な導電性樹脂組成物が得られる。
【0015】
また、本発明の成形品は上記導電性樹脂組成物を用いて得られるので、導電性が良好であるだけでなく優れた衝撃強度を発現することが可能となる。
【0016】
更に、本発明の成形品の表面抵抗値は1×10〜1×1010Ωなので、帯電防止能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明で用いられるPP樹脂は、ポリプロピレンモノマーをZiegler−Natta触媒、MgCl触媒、SHAC触媒、メタロセン触媒等により重合された、重量平均分子量が概ね数万〜数十万程度の結晶性プロピレン樹脂である。
【0018】
分子量分布は使用される成形品により任意に制御されるが、平均分子量は10万〜20万が好ましい。例えば、フィルム用途では高い引き裂き強度を得るため、意図的に高分子サイドをブロードな分布としたり、ヒートシール性、耐発煙性を改善するために低分子サイドを少なくしたりすることができる。また、射出成形用では、高い金型充填性を得るために平均分子量を低く、且つ高分子サイドを少なくする所作がおこなわれることが多い。
【0019】
本発明の導電性樹脂組成物におけるPP樹脂の含有量は57〜82重量%である。
【0020】
本発明で用いられる衝撃改良材としてEPR、EPDM、LLDPE等エチレン系の衝撃改良材が挙げられる。これらの1種、または2種以上が用いられる。
これらの衝撃改良材は、衝撃改良材自体が高い衝撃吸収能を有すること、マトリクスであるPP樹脂中に一定の粒子径を有するドメインとして存在すること、PP樹脂と良好な相溶性を示すことが必須条件である。
【0021】
本発明の導電性樹脂組成物における衝撃改良材の含有量は3〜20重量%である。
また、PP樹脂に衝撃改良材が予め含有された市販品等の樹脂組成物を用いる場合は、導電性樹脂組成物における上記樹脂組成物の含有量は60〜90重量%である。また、この場合、導電性樹脂組成物におけるPP樹脂の含有量は57〜82重量%、衝撃改良材の含有量は3〜20重量%である。
【0022】
EPR、EPDMは一般的にZiegler−Natta触媒で重合されるが、重合時にエチレン−プロピレン比を任意に制御することが可能であるため、例えばドメインの衝撃吸収能を高くしたい場合にはエチレン成分を多く、PP樹脂との界面で高い接着強度を得たい場合にはプロピレン成分を多くすることが有効である。
【0023】
LLDPEは、ポリエチレンとα−オレフィンとの共重合体である。α−オレフィンとしては1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが共重合体成分として用いられる。
【0024】
LLDPEは、大別してZiegler−Natta触媒により重合されるもの(以下チーグラーLLDPEと略す。)と近年開発されたメタロセン触媒により重合されたLLDPE(以下メタロセンLLDPEと略す。)に分類されるが、いずれも好ましく用いることができる。
【0025】
メタロセン触媒とは具体的にチタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、ニオブ、プラチナ等の4価の遷移金属に、シクロペンタジエニル骨格を有するリガンドが少なくとも1つ以上配位する触媒の名称である。
【0026】
シクロペンタジエニル骨格を有するリガンドとしては、シクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、エチルシクロペンタジエニル基、n−もしくはi−プロピルシクロペンタジエニル基、n−、i−、sec−、tert−、ブチルシクロペンタジエニル基、ヘキシルシクロペンタジエニル基、オクチルシクロペンタジエニル基等のアルキル一置換シクロペンタジエニル基、
【0027】
ジメチルシクロペンタジエニル基、メチルエチルシクロペンタジエニル基、メチルプロピルシクロペンタジエニル基、メチルブチルシクロペンタジエニル基、メチルヘキシルシクロペンタジエニル基、エチルブチルシクロペンタジエニル基、エチルヘキシルシクロペンタジエニル基等のアルキル二置換シクロペンタジエニル基、
【0028】
トリメチルシクロペンタジエニル基、テトラメチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基等のアルキル多置換シクロペンタジエニル基、メチルシクロヘキシルシクロペンタジエニル基等のシクロ置換ヘキシルシクロペンタジエニル基、インデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0029】
シクロペンタジエニル骨格を有するリガンド以外のリガンドとしては、例えば塩素、臭素等の一価のアニオンリガンド、二価のアニオンキレートリガンド、炭化水素基、アルコキシド、アミド、アリールアミド、アリールオキシド、ホスフィド、アリールホスフィド、シリル基、置換シリル基等が挙げられる。
【0030】
上記炭化水素基としては、炭素数1〜12程度のものが挙げられ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セシル基、デシル基、セシル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、ネオフィル基等のアラルキル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0031】
シクロペンタジエニル骨格を有するリガンドが配位したメタロセン化合物としては、シクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−p−n−ブチルフェニルアミドジルコニウムクロリド、メチルフェニルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−tert−ブチルアミドハフニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンダジエニル−tert−ブチルアミドハフニウムジクロリド、インデニルシタニウムトリス(ジエチルアミド)、インデニルチタニウムビス(ジ−n−ブチルアミド)インデニルチタニウムビス(ジ−n−プロピルアミド)等が挙げられる。
【0032】
これらの重合は、上記した四価の遷移金属を含むメタロセン系触媒の他に、共触媒として例えばメチルアミノキサンや硼素化合物等を加えた触媒系で行うことが出来る。
この場合、メタロセン触媒に対するこれらの触媒の割合は、1〜100万倍molであ
ることが望ましい。
【0033】
メタロセンLLDPEは、特に低結晶化度の直鎖状ポリエチレンにおいては分子量分布を狭く制御出来、低分子量物を効率よく削減出来るため、低結晶化度ゆえのべたつき性、融点の必要以上の低下、成形時の発煙防止等、他の熱可塑性エラストマーに比較して高い光沢、良好な流動性の発現等多くの特徴を有している。
【0034】
メタロセンLLDPEが優れた耐衝撃性、優れた表面光沢性、流動性を有する理由は次のように考えられる。
第1に、メタロセンLLDPEが優れた耐衝撃性を有する理由は、メタロセンLLDPEは非架橋樹脂であるものの、常温においては微細な結晶−結晶間がタイ分子の存在があるため結合されており、擬似的な3次元網目構造となり他のゴム状物質と同様な構造をとるためである。
【0035】
タイ分子の存在は通常の直鎖状低密度ポリエチレンでも確認されるが、メタロセンLLDPEは上記タイ分子の存在通常のものよりも2〜4倍多く、それだけ耐衝撃性が発現しやすいと考えられている。
【0036】
第2に、メタロセンLLDPEが優れた光沢を有する理由は、他のオレフィン系ゴムではゴム分散粒子径が数〜数十ミクロンであるのに対し、メタロセンLLDPEの場合は上記のような分散粒子径を有する物質がないからである。よって、成形品表面に凹凸を形成せずに高い光沢を付与することが出来る。
【0037】
本発明で用いられる導電材料は、ジブチルフタレート(以下、DBPと略す。)吸油量が100ml/100g以上であるカーボンブラックである。
尚、本発明におけるDBP吸油量とは、JIS K 6217−4(2001)に準拠した方法で測定した値である。
【0038】
DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックは、ハイストラクチャーであるためオレフィン系樹脂との濡れ性が良い。よってPP樹脂中に島状に存在している衝撃改良成分のドメインの間に入り込むことが可能であり、その結果、ドメイン同士を結び、擬似的に巨大な衝撃改良成分のドメインが形成されて衝撃吸収能が向上すると考えられる。
DBP吸油量が100ml/100g未満のカーボンブラックは嵩高く分散が悪く耐衝撃値が低くなる傾向があるので、本発明においては不適である。
【0039】
本発明の導電性樹脂組成物におけるDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックの含有量は、効果を発現させかつ生産効率の観点から10〜40重量%である。
また、本発明の成形品におけるDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックの含有量は8〜30重量%が望ましい。10重量%を下回ると、帯電防止に有効な表面抵抗値1010Ω以下をクリヤーできず導電性成形品としての機能が発現されない傾向がある。また、30重量%を上回ると、カーボンブラックの混練に多大なトルクが必要となるばかりでなく、流動性が極端に悪くなるため導電性樹脂組成物や成形品の成形時に支障をきたす傾向がある。
【0040】
本発明の導電性樹脂組成物は、PP樹脂と、衝撃改良材と、導電材料とを必須とする。そして、その製造時において、(i)PP樹脂と、衝撃改良材と、導電材料とを同時に混合する系、(ii)PP樹脂と衝撃改良材の混合物に、導電材料を混合する系、の2種類の配合系を選択する。
【0041】
上記以外の、例えばPP樹脂と導電材料の混合物に、衝撃改良材を混合する系で製造された導電性樹脂組成物を用いて得られた成形品は、良好なアイゾット衝撃強度が得られないため、本発明において用いない。
【0042】
これは以下の実験から確立されたものである。
(1)PP樹脂とDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックのみの配合系
成形品において、衝撃吸収能の向上は見られない。これは、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック単体ではゴムのような衝撃吸収能が発現されないためと解釈される。
【0043】
(2)以下の2つの製造方法で得られた導電性樹脂組成物(同じ組成に設定)を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃強度の比較
A:PP樹脂と衝撃改良材をあらかじめ混合し、その後にDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックを配合し混合後、溶融混練して導電性樹脂組成物を得た。次いで成形樹脂としてPP樹脂を加え、再び混練、成形して得られた成形品。
B:PP樹脂とDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックをあらかじめ混合し、その後に衝撃改良材を含んだPP樹脂を配合し混合後、溶融混練して導電性樹脂組成物を得た。これに成形樹脂としてPP樹脂を加え、再び混練、成形して得られた成形品。
アイゾット衝撃強度 A>>B
【0044】
Aにおいては、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックが最初に衝撃改良材成分と濡れることが可能となるため、ゴム成分同士を介在させる役割を果たすことができ、結果として成形品におけるアイゾット衝撃強度が高くなったという事実を裏付けられるものと思われる。Bにおいては、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックの表面がPP樹脂により被覆されてしまうため、衝撃改良材成分に濡れることが困難となり、良好なストラクチャーが構築できず、アイゾット衝撃強度が高くならないものと思われる。
【0045】
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法において、例えば加圧ニーダ−、バンバリーミキサー等のバッチ式混練機や単軸および2軸押出機、タンデム型混練機、コニーダー等の連続式混練機を用いて上記構成成分を混練することができる。
【0046】
混練をおこなう際に、樹脂の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤を必要に応じて添加しても良い。酸化防止剤としては樹脂の加工時の熱劣化防止のためフェノール系、リン系、硫黄系、ラクトン系からなる酸化防止剤を単独または複合化して添加すればよく、屋外用途で耐候性が必要な場合は紫外線吸収剤や光安定剤としてベンゾフェノン系、サルシレート系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、ヒンダートアミン系化合物が用いれば良い。混練時および成形時の滑性付与をおこなうために用いられる滑剤としては、ポリオレフィンワックス、高級脂肪酸金属塩もしくはアミド、エステル化合物を添加すれば良い。
【0047】
本発明の導電性樹脂組成物は、導電材料濃度が高く、成形の際に成形樹脂(希釈樹脂)であるPP樹脂が配合されるいわゆるマスターバッチでも良い。また、成形品と同じ組成であり、成形の際にそのまま用いられるコンパウンドでも良い。マスターバッチの場合、成形の際に配合される樹脂としてはPP樹脂が好ましい。
【0048】
本発明の成形品は、本発明の導電性樹脂組成物を射出成形、押出成形等の成形により得られる。成形品としては、ICトレー、導電性コンテナ、導電性ダンボール、フィルム、シート等が挙げられる。本発明の成形品は、導電性だけでなく、衝撃強度にも優れているため、これらの特徴を生かしたあらゆる成形品に適用できる。
【0049】
尚、本発明の成形品は、表面抵抗値が印加電圧500Vでの測定で1×10〜1×1010Ωの範囲の場合帯電防止の観点から良好である。
【0050】
また、本発明の成形品は、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックを導電材料として用いているが、衝撃改良材成分と大きな網目構造を形成させることにより、導電材料添加前の樹脂組成物による成形品よりも高い衝撃強度を得ることができる。すなわち、本発明の導電性樹脂組成物から得られた成形品のアイゾット衝撃強度―(1)、及び(1)からDBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックを除いた樹脂組成物(DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックの代わりにPP樹脂を配合)から得られた成形品のアイゾット衝撃強度―(2)とすると、以下の値が得られる。
(1)/(2)>2.0
【実施例1】
【0051】
以下に実施例、比較例を記して本発明を更に詳細に説明する。%とは重量%を示す。材料の説明は表1、各特性値の測定結果は表2、表3に記載した。
【0052】
[実施例1]
EPR含有PP樹脂−(1)79.5%と、カーボンブラック−(1)20%、酸化防止剤0.1%、滑剤0.4%をバンバリーミキサーにて混練した後、直径3mm長さ3mmの円柱状ペレットに造粒し、導電性樹脂組成物を得た。
得られたペレットはJIS K7210(230℃、2160g荷重)に準拠してメルトフローレート(M.F.R.)を測定した。
【0053】
このペレットを用いて型締圧75tの射出成形機にて200mm×400mmの平板を作製し、この平板の表面抵抗値を測定(印加電圧500V)した。1×10〜1×1010Ωの範囲を良好とした。
また、厚さ5mmのアイゾット試験片を成形し、衝撃強度を測定した(A)。同様に、カーボンブラックを含有しない樹脂組成物(EPR含有PP樹脂−(1)99.5%、酸化防止剤0.1%、滑剤0.4%)ペレットを製造してアイゾット試験片を成形し、表面抵抗値を測定し(B)、(A)/(B)の値を求めた。
【0054】
[実施例2]
実施例1で用いたEPR含有PP−(1)をEPR含有PP−(2)に変更した他は、実施例1と同様の所作をおこなった。
【0055】
[実施例3]
実施例1で用いたEPR含有PP樹脂−(1)の代わりに、ホモPP64.5%、LLDPE−(1)10%とした他は実施例1と同様の所作をおこなった。
【0056】
[実施例4]
実施例3において、LLDPE−(1)をLLDPE−(2)に変更した他は実施例3と同様の所作をおこなった。
【0057】
[比較例1]
EPR含有PP−(1)89.5%、カーボンブラック−(1)10%、酸化防止剤0.1%、滑剤0.4%とした他は実施例1と同様の所作をおこなった。
【0058】
[比較例2]
EPR含有PP−(1)59.5%、カーボンブラック−(1)40%、酸化防止剤0.1%、滑剤0.4%とした他は実施例1と同様の所作をおこなった。
【0059】
[比較例3]
樹脂成分をホモPPにした他は、実施例1と同様の所作をおこなった。
【0060】
[比較例4]
樹脂成分をランダムPPに変更した他は、実施例1と同様の所作をおこなった。
【0061】
[比較例5]
カーボンブラック−(1)をカーボンブラック−(2)20%に変更し、また、酸化防止剤15%、滑剤20%とした他は、実施例1と同様の所作をおこなった。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
[表の説明]
各実施例の配合では良好な導電性、流動性、高いアイゾット衝撃強度を有していることがわかる。また、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックを添加し樹脂を導電化することにより、添加前のアイゾット衝撃値を上回る値が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の成形品は導電性だけでなく衝撃強度にも優れているため、これらの特徴を生かしたあらゆる用途の成形品に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材と、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを同時に混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
【請求項2】
結晶性プロピレン樹脂と、
エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である衝撃改良材とを含む混合物60〜90重量%に、
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラック(アセチレンブラックを除く。)である導電材料とを混合する導電性樹脂組成物の製造方法であって、
導電性樹脂組成物における各成分が以下の含有量である導電性樹脂組成物の製造方法。
(a)結晶性プロピレン樹脂57〜82重量%
(b)衝撃改良材3〜20重量%
(c)導電材料10〜40重量%
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物の製造方法で得られる導電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品。
【請求項5】
表面抵抗値が1×10〜1×1010Ωである請求項4に記載の成形品。

【公開番号】特開2006−52276(P2006−52276A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233845(P2004−233845)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】