説明

導電性樹脂組成物を用いた樹脂フィルムの製造方法

【課題】原料塗布液が長期間にわたってゲル化せず、安定的に樹脂フィルムを製造することのできる樹脂フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂フィルムの製造方法は、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して導電性樹脂組成物を調製する方法を含む。好ましい実施形態においては、上記樹脂フィルムの製造方法は、上記導電性樹脂組成物と耐熱性樹脂とを含む塗布液を支持体に供給して、該支持体上に塗膜を形成する工程をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物を用いた樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンをドーピングして得られる導電性ポリアニリンは、安定な導電性高分子として注目を集めており、種々の分野において、有用であることが知られている。例えば、ドープされていないポリアニリン(エメラルジンベース)をN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)のような極性溶媒中に溶解させ、そこにドーパントとしてプロトン酸を加えてドープ状態のポリアニリン溶液(エメラルジン塩)とし、当該ポリアニリン溶液をポリアミック酸溶液に溶解した後、これを支持体に供給して、フィルム化を行い、導電性ポリイミドフィルムを得る方法が検討されている(例えば特許文献1参照)。しかし、ポリアニリン溶液は数時間程度でゲル化してしまうため、導電性ポリイミドフィルムを量産化する際にその原料液を長期間保存するのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−194528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、塗布液原料(ポリアニリン溶液)が長期間にわたってゲル化せず、安定的に樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して導電性樹脂組成物を調製する工程を含む。
好ましい実施形態においては、上記導電性樹脂組成物と耐熱性樹脂とを含む塗布液を支持体に供給して、該支持体上に塗膜を形成する工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記塗布液中において、前記加熱混練により生成するプロトン酸によりドーピングされた導電性ポリアニリンの算術平均粒径が10μm以下である。
好ましい実施形態においては、上記耐熱性樹脂が、ポリアミドイミド系樹脂である。
好ましい実施形態においては、上記導電性樹脂組成物が、上記ポリアニリンの添加量を、樹脂フィルムに含まれる耐熱性樹脂100重量部に対して、1重量部〜5重量部の範囲内となるように調整して用いられる。
本発明の別の局面によれば、樹脂フィルムが提供される。この樹脂フィルムは、上記製造方法により製造される。
本発明の別の局面によれば、シームレスベルトが提供される。このシームレスベルトは、上記樹脂フィルムを含む。
本発明の別の局面によれば、導電性樹脂組成物が提供される。この導電性樹脂組成物は、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して得られる。
本発明の別の局面によれば、ポリアニリン溶液が提供される。このポリアニリン溶液は、上記導電性樹脂組成物を、非極性溶媒、または非極性溶媒とN−メチル−2−ピロリドンとの混合溶媒に混合して得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂フィルムの製造方法によれば、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して導電性樹脂組成物を調製することにより、当該導電性樹脂組成物を含む塗布液原料(ポリアニリン溶液)が長期間にわたってゲル化せず、安定的に樹脂フィルムを得ることができる。また、このような導電性樹脂組成物を用いることにより、ポリアニリンの添加量が少量であっても、所望の(例えば、画像形成装置の中間転写ベルトに適当な)表面抵抗率を有する樹脂フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】参考例7〜9の樹脂溶液から得られた樹脂フィルムの表面抵抗率(ρs)および体積抵抗率(ρv)を示すグラフ図である。
【図2】参考例1〜3で得られたポリアニリン溶液の吸光度を示すグラフ図である。
【図3】分子鎖が絡み合ったポリアニリンの吸光度を示すグラフ図である。
【図4】参考例4〜6で得られたポリアニリン溶液の吸光度を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.樹脂フィルムの製造方法
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して導電性樹脂組成物を調製する工程を含む。
【0009】
A−1.導電性樹脂組成物
上記導電性樹脂組成物は、エメラルジンベース状態のポリアニリン(以下、単にポリアニリンともいう)とプロトン酸とを加熱混練して得られる。加熱混練することにより、プロトン酸によりドーピングされた導電性ポリアニリン(エメラルジン塩(以下、単に導電性ポリアニリンともいう))を含む導電性樹脂組成物を得ることができる。このように加熱混練して得られた上記導電性樹脂組成物は、極性溶媒に溶解して長期間(例えば、1ヶ月以上)にわたって保存しても、ゲル化することがなく、保存安定性に優れる。
【0010】
上記エメラルジンベース状態のポリアニリンは、下記式(1)で示されるような、酸化型構造単位(キノンイミン構造単位)と還元型構造単位(フェニレンジアミン構造単位)とが略等しいモル分率で存在する基本骨格を繰り返し単位として有する。
【化1】


(式中、mは繰り返し単位中のキノンジイミン構造単位のモル分率を示し、nは繰り返し単位中のフェニレンジアミン構造単位のモル分率を示し、m+n=1であり、mとnの値は略等しい。)
【0011】
上記ポリアニリンの製造方法は、例えば、特開平3−28229号公報に記載されており、その記載は本明細書に参考として援用される。
【0012】
上記ポリアニリンとして、市販品を用いることができる。市販品のポリアニリンとしては、例えば、商品名「Panipol PA」(Panipol社製)が挙げられる。
【0013】
上記プロトン酸は、上記ポリアニリンをドーピングして導電性を付与し得る限り、任意の適切なものが採用され得る。上記プロトン酸は有機酸であってもよく、無機酸であってもよい。
【0014】
上記プロトン酸の酸解離定数pKa値は、好ましくは4.8以下であり、さらに好ましくは1〜4.8である。このようなプロトン酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウフッ化水素酸、リンフッ化水素酸、過塩素酸等の無機酸;酸溶解定数pKa値が4.8以下の有機酸等が挙げられる。pKa値が1〜4.8のプロトン酸を用いるときは、そのpKa値が小さいほど、すなわち、酸性が強いほど、導電性の高い導電性樹脂組成物が得られる。しかし、pKa値が1よりも小さいときは、得られる導電性樹脂組成物の導電性は、最早、殆ど変化せず、ほぼ一定である。ただし、勿論、必要に応じて、pKa値が1以下のプロトン酸を用いてもよい。
【0015】
上記有機酸としては、例えば、有機カルボン酸等の脂肪族有機酸;フェノール類等の芳香族有機酸または芳香脂肪族有機酸;脂環式有機酸等が挙げられる。これらの有機酸は一塩基酸であってもよく、多塩基酸であってもよい。上記有機酸は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、スルホン酸基、硫酸基、水酸基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。
【0016】
上記有機酸の具体例としては、酢酸、n−酪酸、ペンタデカフルオロオクタン酸、ペンタフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、モノブロモ酢酸、モノクロロ酢酸、シアノ酢酸、アセチル酢酸、ニトロ酢酸、トリフエニル酢酸、ギ酸、シュウ酸、安息香酸、m−ブロモ安息香酸、p−クロロ安息香酸、m−クロロ安息香酸、p−クロロ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、ピクリン酸、o−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、トリメチル安息香酸、p−シアノ安息香酸、m−シアノ安息香酸、チモールブルー、サリチル酸、5−アミノサリチル酸、o−メトキシ安息香酸、1,6−ジニトロ−4−クロロフェノール、2,6−ジニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、p−オキシ安息香酸、ブロモフェノールブルー、マンデル酸、フタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、α−アラニン、β−アラニン、グリシン、グリコール酸、チオグリコール酸、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸等を挙げることができる。
【0017】
スルホン酸基および/または硫酸基を有する有機酸の具体例としては、アミノナフトールスルホン酸、メタニル酸、スルファニル酸、アリルスルホン酸、ラウリル硫酸、キシレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ペンチルベンゼンスルホン酸、ヘキシルベンゼンスルホン酸、ヘプチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、ジエチルベンゼンスルホン酸、ジプロピルベンゼンスルホン酸、ジブチルベンゼンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、ヘプチルナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸、デシルナフタレンスルホン酸、ウンデシルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ペンタデシルナフタレンスルホン酸、オクタデシルナフタレンスルホン酸、ジメチルナフタレンスルホン酸、ジエチルナフタレンスルホン酸、ジプロピルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、ジペンチルナフタレンスルホン酸、ジヘキシルナフタレンスルホン酸、ジヘプチルナフタレンスルホン酸、ジオクチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、トリメチルナフタレンスルホン酸、トリエチルナフタレンスルホン酸、トリプロピルナフタレンスルホン酸、トリブチルナフタレンスルホン酸、カンフアースルホン酸、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸等が挙げられる。
【0018】
上記有機酸として、分子内に2つ以上のスルホン酸基を有する多官能有機スルホン酸も用いることができる。当該多官能有機スルホン酸の具体例としては、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、ヘキサンジスルホン酸、ヘプタンジスルホン酸、オクタンジスルホン酸、ノナンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、エチルベンゼンジスルホン酸、プロピルベンゼンジスルホン酸、ブチルベンゼンジスルホン酸、ジメチルベンゼンジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、ジプロピルベンゼンジスルホン酸、ジブチルベンゼンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンジスルホン酸、ブチルナフタレンジスルホン酸、ペンチルナフタレンジスルホン酸、ヘキシルナフタレンジスルホン酸、ヘプチルナフタレンジスルホン酸、オクチルナフタレンジスルホン酸、ノニルナフタレンジスルホン酸、ジメチルナフタレンジスルホン酸、ジエチルナフタレンジスルホン酸、ジプロピルナフタレンジスルホン酸、ジブチルナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ナフタレンテトラスルホン酸、アントラセンジスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、フェナントレンジスルホン酸、フルオレノンジスルホン酸、カルバゾールジスルホン酸、ジフエニルメタンジスルホン酸、ビフエニルジスルホン酸、ターフェニルジスルホン酸、ターフェニルトリスルホン酸、ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物、フェナントレンスルホン酸−ホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸−ホルマリン縮合物、フルオレンスルホン酸−ホルマリン縮合物、カルバゾールスルホン酸−ホルマリン縮合物等が挙げられる。上記多官能有機スルホン酸が芳香環を有する場合、当該芳香環におけるスルホン酸基の位置としては、任意の適切な位置が選択され得る。
【0019】
上記有機酸は、ポリマー酸であってもよい。当該ポリマー酸の具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化スチレン−ブタジエン共重合体、ポリアリルスルホン酸、ポリメタリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリハロゲン化アクリル酸、ポリイソプレンスルホン酸、N−スルホアルキル化ポリアニリン、核スルホン化ポリアニリン等が挙げられる。ナフイオン(米国デュポン社登録商標)として知られている含フッ素重合体も、ポリマー酸として好適に用いられる。
【0020】
上記プロトン酸の添加量は、上記ポリアニリンの還元型構造単位(フェニレンジアミン構造(イミノ−p−フェニレン構造)単位)1mol当たり0.01mol〜1molであることが好ましい。プロトン酸の添加量がこのような範囲であれば、プロトン酸が十分にドーピングされた導電性ポリアニリンを得ることができる。
【0021】
上記導電性樹脂組成物は、目的等に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、摺動性フィラー、熱伝導性フィラー、断熱性フィラー、耐摩耗性フィラー等が挙げられる。
【0022】
上記導電性樹脂組成物は、上記ポリアニリンと上記プロトン酸とを加熱混練して得られる。加熱混練されて得られる導電性ポリアニリンは、分子鎖の絡み合いがほどけていると考えられる。上記加熱混練に用いることのできる装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の密閉式混練装置またはバッチ式混練装置;単軸押出機、二軸押出機等の連続式混練装置が挙げられる。
【0023】
上記加熱混練の際の混練温度は、好ましくは120℃〜200℃であり、特に好ましくは140℃〜180℃である。混練温度がこのような範囲であれば、ポリアニリンの分子鎖の絡み合いがほどかれ、その結果、上記プロトン酸が十分にドープされた導電性ポリアニリンを得ることができ、さらに、極性溶媒中でゲル化し難い導電性樹脂組成物を得ることができると推定される。
【0024】
上記加熱混練の際の混練時間は、好ましくは1分〜60分である。混練時間がこのような範囲であれば、上記プロトン酸が十分にドープされた導電性ポリアニリンを得ることができ、さらに、極性溶媒中でゲル化し難い導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
A−2.成形
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、好ましくは、上記導電性樹脂組成物と耐熱性樹脂を含む塗布液を支持体に供給して、支持体上に塗膜を形成する工程を含む。
【0026】
上記塗布液における導電性樹脂組成物は、上記ポリアニリンの添加量を、樹脂フィルムに含まれる耐熱性樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部、さらに好ましくは1.5重量部〜4.5重量部、特に好ましくは2重量部〜3重量部の範囲内となるように調製して用いられる。本発明の樹脂フィルムの製造方法によれば、上記のように、導電性樹脂組成物中のプロトン酸によりドーピングされた導電性ポリアニリンは、分子鎖の絡み合いがほどけているので、このようにポリアニリンの添加量が少なくても、導電性に優れる樹脂フィルムが得られると推定される。
【0027】
上記塗布液中において、上記導電性樹脂組成物中のプロトン酸によりドーピングされた導電性ポリアニリンの算術平均粒径は、好ましくは10μm以下である。塗布液中における導電性ポリアニリンの算術平均粒径がこのような範囲であれば、塗布液中での分散性がよく、表面抵抗率(ρs)の表裏差が小さい樹脂フィルムを得ることができる。このように、算術平均粒径の小さい導電性ポリアニリンは、エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練(好ましくは、上記温度で加熱混練)することにより得ることができる。加熱混練すれば、エメラルジンベース状態のポリアニリンは、分子鎖の絡み合いがほどかれてプロトン酸のドープがされやすくなり、その結果、得られる導電性ポリアニリンは塗布液中の溶媒に対する溶解性または分散性が高くなり、塗布液中での算術平均粒径が小さくなると推定される。なお、算術平均粒径は、例えば、レーザー散乱式粒度分布測定法によって測定された粒径分布から算出される。
【0028】
上記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフイド系樹脂、ポリベンズイミダゾール系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは、ポリアミドイミド系樹脂またはポリイミド系樹脂であり、特に好ましくはポリアミドイミド系樹脂である。なお、耐熱性樹脂は、耐熱性樹脂を得るための前駆体であってもよい。前駆体としては例えば、ポリイミド系樹脂の前駆体であるポリアミド酸が挙げられる。
【0029】
上記耐熱性樹脂としてポリアミドイミド系樹脂を用いれば、容易に高強度の樹脂フィルムを得ることができる。また、ポリアミドイミド系樹脂は、比較的低温度(例えば、200℃)でフィルム化を行うことができるので、導電性樹脂組成物のプロトン酸の熱分解を防ぐことができる。その結果、少量のプロトン酸を添加して得られた導電性樹脂組成物を用いても、所望の導電性特性を有する樹脂フィルムを得ることができる。また、ポリアミドイミド系樹脂を用いれば、上記のようにプロトン酸の熱分解を防ぐことができるので、後述のように上記塗布液を筒状の金型内に供給して金型内面に塗膜を形成した後、加熱処理により溶剤を除去(乾燥)することにより樹脂フィルムを作製する際、乾燥工程において作製途中のフィルムが剥離し難い。また、上記耐熱性樹脂としてポリイミド系樹脂を用いれば、強度および耐熱性が顕著に優れる樹脂フィルムを得ることができる。
【0030】
上記ポリアミドイミド系樹脂は、例えば、酸成分と、ジアミンまたはジイソシアネートとを、任意の適切な方法により縮重合して製造することができる。具体的には、酸成分とジアミンまたはジイソシアネートとを、N,N’−ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の極性溶剤中、所定温度(通常、60℃〜200℃程度)に加熱しながら撹拌することにより製造することができる。
【0031】
上記酸成分としては、例えば、トリメリット酸、トリメリット酸無水物または酸塩化物の他、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリット酸),ビフェニルテトラカルボン酸,ビフェニルスルホンテトラカルボン酸,ベンゾフェノンテトラカルボン酸,ビフェニルエーテルテトラカルボン酸,エチレングリコールビストリメリテート,プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸およびこれらの無水物、シュウ酸,アジピン酸,マロン酸,セバチン酸,アゼライン酸,ドデカンジカルボン酸,ジカルボキシポリブタジエン,ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン),ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸,1,3−シクロヘキサンジカルボン酸,4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸,ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸,イソフタル酸,ジフェニルスルホンジカルボン酸,ジフェニルエーテルジカルボン酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記ジアミンまたはジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートや、1,4−シクロヘキサンジアミン,1,3−シクロヘキサンジアミン,イソホロンジアミン,4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートや、m−フェニレンジアミン,p−フェニレンジアミン,4,4’−ジアミノジフェニルメタン,4,4’−ジアミノジフェニルエーテル,4,4’−ジアミノジフェニルスルホン,ベンジジン,o−トリジン,2,4−トリレンジアミン,2,6−トリレンジアミン,キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートや、1,5’−ジイソシアナトナフタレン、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル等が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記ポリアミドイミド系樹脂として、市販品を用いることができる。例えば、日立化成工業株式会社製のHPCシリーズ、東洋紡績株式会社製のバイロマックス等が挙げられる。
【0034】
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムは、上記耐熱性樹脂(例えば、ポリアミドイミド)に、上記導電性樹脂組成物を含む塗布液原料(ポリアニリン溶液)を溶解させて、当該耐熱性樹脂および上記導電性樹脂組成物を含む塗布液を調製し、得られた塗布液を支持体に供給して、支持体上に塗膜を形成した後、加熱処理により溶媒を除去することにより形成することができる。本発明によれば、塗布液原料がゲル化し難いので、安定的に樹脂フィルムを得ることができる。
【0035】
上記塗布液における耐熱性樹脂の濃度は、好ましくは10重量%〜40重量%であり、さらに好ましくは10重量%〜35重量%である。
【0036】
上記塗布液原料は、上記導電性樹脂組成物と有機溶媒とを混合して得ることができる。
【0037】
上記有機溶媒は、極性溶媒であってもよく、非極性溶媒であってもよい。極性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。なかでも好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである。N−メチル−2−ピロリドンであれば、上記耐熱性樹脂(例えば、ポリアミドイミド)との相溶性がよい。上記導電性樹脂組成物は、このような極性溶媒中において長期間(例えば、1ヶ月以上)保存しても、ゲル化することがない。非極性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、上記有機溶媒は、極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒であってもよい。非極性溶媒または極性溶媒と非極性溶媒との混合液を用いれば、塗布液中において平均粒径の小さい(例えば、上記のように算術平均粒径が10μm以下)導電性樹脂組成物を得ることができ、その結果、表面抵抗率(ρs)の表裏差の小さい樹脂フィルムを得ることができる。また、非極性溶媒または極性溶媒と非極性溶媒との混合液を用いれば、導電性ポリアニリンからの脱ドープの進行を遅らせることができる。
【0038】
上記支持体の材料としては、例えば、金属、ガラス、高分子フィルム等が挙げられる。
【0039】
上記支持体として、円筒状の金型を用いれば、シームレスベルト用の樹脂フィルムを作製することができる。シームレスベルト用の樹脂フィルムは、例えば、上記塗布液を円筒状の金型内に供給して金型内面に塗膜を形成した後、加熱処理により溶剤を除去(乾燥)することにより作製される。
【0040】
上記シームレスベルト用の樹脂フィルム作製時の塗膜の形成方法としては、任意の適切な方法が採用される。例えば、回転する金型内に塗布液を供給し、遠心力により均一な塗膜とする方法、ノズルを金型内面に沿うように挿入し、回転する金型内に塗布液をノズルから吐出させて、ノズルまたは金型を走行させながら螺旋状に塗布する方法、螺旋状の塗布を粗く行った後に、金型との間に一定のクリアランスを有する走行体(弾丸状、球状)を走行させる方法、塗布液中に金型を浸潰して内面に塗布膜を形成した後、円筒状ダイス等で成膜する方法、金型内面の片端部に塗布液を供給した後、金型との間に一定のクリアランスを有する走行体(弾丸状、球状)を走行させる方法等が挙げられる。
【0041】
上記加熱処理の温度は、好ましくは100℃〜300℃であり、さらに好ましくは150℃〜250℃である。加熱処理の時間は、好ましくは10分〜60分である。
【0042】
上記加熱処理は、二段階で行ってもよい。加熱処理を二段階で行うことにより、表面に欠陥の無い樹脂フィルムを得ることができる。最初の加熱処理(初期乾燥)は、好ましくは、金型内面に形成された塗膜の流動性がなくなり得る程度に行う。好ましい実施形態においては、初期乾燥は金型の外側から熱風をあてることにより行う。熱風をあてることにより、表面に欠陥の無い樹脂フィルムを得ることができる。二段階で加熱処理を行う場合、初期乾燥温度は、好ましくは75℃〜85℃である。加熱時間は、好ましくは10分〜60分である。二回目の加熱処理の加熱温度は、好ましくは150℃〜300℃である。加熱時間は、好ましくは10分〜60分である。
【0043】
別の実施形態においては、上記樹脂フィルムは、上記導電性樹脂組成物とポリアミド酸とを含む塗布液を支持体に供給して、支持体に塗膜を形成した後、加熱処理を行いポリアミド酸からポリイミド系樹脂を生成することにより形成することができる。具体的には、(1)上記導電性樹脂組成物を含む有機極性溶媒(塗布液原料)と、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体と、ジアミン化合物とを混合した後、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物とを重合反応させてポリアミド酸を生成して、導電性樹脂組成物およびポリアミド酸を含む塗布液を調製し、(2)塗布液を支持体上に供給して塗膜を形成した後、加熱処理し、ポリアミド酸の閉環イミド化反応を進行させてポリイミド系樹脂を生成することにより成形することができる。本発明によれば、塗布液原料がゲル化し難いことはもとより、塗布液がポリアミド酸を含んでいてもゲル化し難いので、安定的に樹脂フィルムを得ることができる。
【0044】
上記有機極性溶媒は、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物とを重合反応させ得る限り任意の適切な溶媒を採用し得る。上記有機極性溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。なかでも好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドである。このように低分子量の溶媒であれば、蒸発、置換又は拡散により塗布液から容易に除去することができる。上記有機極性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。なかでも好ましくは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。
【0046】
上記ジアミン化合物の具体例としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。なかでも好ましくは、p−フェニレンジアミンまたは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルである。
【0047】
上記重合反応においては、好ましくは、触媒を添加する。当該触媒は、任意の適切な触媒が採用され得る。当該触媒の具体例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等が挙げられる。なかでも、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が好ましい。上記触媒の使用量は、塗布液中のアミド酸1モル当量に対して0.04モル当量〜0.4モル当量、好ましくは0.05モル当量〜0.4モル当量である。触媒の添加量が0.04当量モル以下では触媒の効果が十分ではなく、また0.4当量以上添加しても効果の向上は見られない。
【0048】
上記重合反応時のモノマー濃度(溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物成分およびジアミン成分の合計濃度)は、好ましくは5重量%〜30重量%である。
【0049】
上記重合反応時の反応温度は、好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは5℃〜50℃である。また、反応時間は、好ましくは、5時間〜10時間である。
【0050】
上記導電性樹脂組成物およびポリアミド酸を含む塗布液の溶液粘度は、好ましくは、B型粘度計で1Pa・s(25℃)〜1000Pa・s(25℃)である。当該塗布液の溶液粘度は、上記重合反応後に得られた塗布液をさらに加熱、撹拌することにより、所望の粘度とすることができる。当該加熱温度は、好ましくは、50℃〜90℃である。
【0051】
上記重合反応後、導電性樹脂組成物およびポリアミド酸を含む塗布液を支持体上に供給して塗膜を形成した後、ポリアミド酸の閉環イミド化反応を進行させてポリイミド系樹脂を生成することにより、樹脂フィルムが形成される。当該支持体および塗膜の形成方法は、上述のとおりである。
【0052】
上記閉環イミド化反応は、加熱によって行われる。当該加熱により、溶媒の除去も行われ得る。当該加熱温度は、任意の適切な温度に設定され得る。好ましくは多段加熱方式が採用される。多段加熱方式においては、まず、80〜180℃程度の低温で加熱して溶媒を蒸発除去し、ついで250〜400℃程度に昇温して閉環イミド化反応を行うことが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて適宜に設定され得る。通常、低温加熱およびその後の高温加熱とも10〜60分程度である。このような多段加熱方式を用いれば、イミド転化に伴い発生する閉環水や溶媒の蒸発に起因する微小ボイドの発生を防止し得る。
【0053】
B.樹脂フィルム
上記製造方法により得られる樹脂フィルムは、上記導電性ポリアニリンおよび上記耐熱性樹脂を含む。上記導電性ポリアニリンの含有割合は、上記耐熱性樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部であり、さらに好ましくは1.5重量部〜4.5重量部、特に好ましくは2重量部〜3重量部である。
【0054】
上記樹脂フィルムの表面抵抗率(ρs)は、用途に応じて任意の適切な値に設定され得る。本発明の製造方法によれば、ポリアニリンの添加量が少なくても、広範囲で表面抵抗率の調整された樹脂フィルムを得ることができる。例えば、樹脂フィルムを中間転写ベルトとして用いる場合、樹脂フィルムの表面抵抗率(ρs)は、好ましくは6(logΩ/□)〜15(logΩ/□)、さらに好ましくは9(logΩ/□)〜12(logΩ/□)に設定される。
【0055】
上記樹脂フィルムの表面抵抗率(ρs)の表裏差は、好ましくは0(logΩ/□)〜1(logΩ/□)である。
【0056】
上記樹脂フィルムの体積抵抗率(ρv)は、用途に応じて任意の適切な値に設定され得る。本発明の製造方法によれば、ポリアニリンの添加量が少なくても、広範囲で体積抵抗率の調整された樹脂フィルムを得ることができる。例えば、樹脂フィルムを中間転写ベルトとして用いる場合、樹脂フィルムの体積抵抗率(ρv)は、好ましくは6(logΩ/cm)〜15(logΩ/cm)、さらに好ましくは9(logΩ/cm)〜12(logΩ/cm)に設定される。
【0057】
上記樹脂フィルムの厚みは、用途に応じて任意の適切な厚みに設定され得る。代表的には、50μm〜100μmである。
【0058】
C.シームレスベルト
本発明のシームレスベルトは、上記樹脂フィルムを含む。当該シームレスベルトは、上記樹脂フィルムにより形成された層以外の層を含み得る。
【0059】
上記シームレスベルトの体積抵抗率(ρv)は、好ましくは6(logΩ/cm)〜15(logΩ/cm)、さらに好ましくは9(logΩ/cm)〜12(logΩ/cm)である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
ポリアニリン(PANIPOL社製、商品名「PANIPOL PA」)23.1gとドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製、pKa値=2.55)81.9gをあわとり練太郎(シンキー社製、mixingモード)を用いて、3分間、混合した。得られた混合物をラボプラストミル50MR(東洋精機社製)を用いて、180℃で30分間、加熱混練を行い導電性樹脂組成物を得た。
得られた導電性樹脂組成物を、濃度が3重量%となるようにNMPに溶解させ、2時間スターラーで撹拌し、ポリアニリン溶液を得た。
【0062】
[実施例2]
実施例1のようにポリアニリン溶液を得た直後、ポリアミドイミド樹脂溶液(日立化成社製、商品名「HPC−7200」、溶媒NMP、固形分濃度30%)と実施例1で得られたポリアニリン溶液とを、実施例1で添加したポリアニリン2重量部に対してポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合して樹脂溶液を得た。
【0063】
[実施例3]
実施例1で添加したポリアニリン2.5重量部に対して、ポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合した以外は、実施例2と同様にして樹脂溶液を得た。
【0064】
[実施例4]
実施例1で添加したポリアニリン3重量部に対して、ポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合した以外は、実施例2と同様にして樹脂溶液を得た。
【0065】
[比較例1]
ポリアニリン(PANIPOL社製、商品名「PANIPOL PA」)0.5gとドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製、pKa値=2.55)1.8gとを、濃度が3重量%となるようにNMPに溶解させた後、25℃で2時間、スターラー撹拌を行いポリアニリン溶液を得た。
【0066】
[比較例2]
比較例1のようにポリアニリン溶液を得た直後、ポリアミドイミド樹脂溶液(日立化成社製、商品名「HPC−7200」、溶媒NMP、固形分濃度30%)と比較例1で得られたポリアニリン溶液とを、比較例1で添加したポリアニリン5重量部に対してポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合して樹脂溶液を得た。
【0067】
[比較例3]
比較例1で添加したポリアニリン10重量部に対して、ポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合した以外は、比較例2と同様にして樹脂溶液を得た。
【0068】
[比較例4]
比較例1で添加したポリアニリン15重量部に対して、ポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるように混合した以外は、比較例2と同様にして樹脂溶液を得た。
【0069】
[参考例1]
ポリアニリン(PANIPOL社製、商品名「PANIPOL PA」)23.1gとドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製、pKa値=2.55)81.9gをあわとり練太郎(シンキー社製、mixingモード)を用いて、3分間、混合した。得られた混合物をラボプラストミル50MR(東洋精機社製)を用いて、180℃で30分間、加熱混練を行い導電性樹脂組成物を得た。
得られた導電性樹脂組成物を、含有割合が3重量%となるようにトルエンに混合させ、2時間スターラーで撹拌し、ポリアニリン溶液を得た。
【0070】
[参考例2]
加熱混練時の温度を160℃とした以外は、参考例1と同様にしてポリアニリン溶液を得た。
【0071】
[参考例3]
加熱混練時の温度を140℃とした以外は、参考例1と同様にしてポリアニリン溶液を得た。
【0072】
[参考例4]
導電性樹脂組成物を、含有割合が0.1重量%となるようにNMPに混合させた以外は、参考例1と同様にして、ポリアニリン溶液を得た。
【0073】
[参考例5]
導電性樹脂組成物を、含有割合が0.1重量%となるようにトルエンに混合させた以外は、参考例1と同様にして、ポリアニリン溶液を得た。
【0074】
[参考例6]
導電性樹脂組成物を、含有割合が0.1重量%となるようにNMPとトルエンとの混合溶媒(NMP/トルエン=50/50(重量比))に混合させた以外は、参考例1と同様にして、ポリアニリン溶液を得た。
【0075】
[参考例7]
参考例1で得たポリアニリン溶液に、2時間、超音波処理を行った。その後、ポリアニリン溶液に、ポリアミドイミド樹脂溶液(日立化成社製、商品名「HPC−7200」、溶媒NMP、固形分濃度30%)を、添加ポリアニリン1.9重量部に対してポリアミドイミド樹脂固形分が100重量部となるようにして樹脂溶液を得た。
【0076】
[参考例8]
参考例1で得たポリアニリン溶液に代えて、参考例2で得たポリアニリン溶液を用いた以外は、参考例7と同様にして樹脂溶液を得た。
【0077】
[参考例9]
参考例1で得たポリアニリン溶液に代えて、参考例3で得たポリアニリン溶液を用いた以外は、参考例7と同様にして樹脂溶液を得た。
【0078】
<評価>
(保存安定性)
実施例1および比較例1で得られたポリアニリン溶液について、24時間経過後および30日経過後の状態を目視観察した。評価結果を表1に示す。
(表面抵抗率)
実施例2〜4および比較例2〜4で得られた樹脂溶液をガラス板にキャストした後、200℃で加熱して、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、ハイレスタUP MCP−HTP16(三菱化学社製、プローブ:URS)を用いて、25℃/60%RHの環境下、印加電圧500V/10秒間の測定条件で、空気面側(ガラス板とは反対側)の表面抵抗率を測定した。測定結果を表2に常用対数値にて示す。
また、参考例7〜9で得られた樹脂溶液をガラス板にキャストした後、200℃で加熱して、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、ハイレスタUP MCP−HTP16(三菱化学社製、プローブ:URS)を用いて、25℃/60%RHの環境下、印加電圧100V/10秒間、250V/10秒間および500V/10秒間の測定条件で、空気面側およびガラス板側の表面抵抗率(ρs)を測定した。測定結果を図1に示す。
(体積抵抗率)
参考例7〜9で得られた樹脂溶液をガラス板にキャストした後、200℃で加熱して、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、ハイレスタUP MCP−HTP16(三菱化学社製、プローブ:URS)を用いて、25℃/60%RHの環境下、印加電圧100V/10秒間、250V/10秒間および500V/10秒間の測定条件で、空気面側およびガラス板側の体積抵抗率(ρv)を測定した。測定結果を図1に示す。
(導電性ポリアニリンの粒径)
参考例1〜3で得たポリアニリン溶液に、2時間、超音波処理を行った。その後、ポリアニリン溶液を、導電性樹脂組成物の含有割合が1重量%となるようにトルエンで希釈し、さらに0.05重量%となるようにトルエンで希釈した。得られた溶液について、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)を使用して粒度分布測定を行い、算術平均粒子径を算出した。また、参考として、ポリアニリン(PANIPOL社製、商品名「PANIPOL PA」)の含有割合が0.05重量%となるようにトルエンに混合した混合液を準備し、同様に、算術平均粒径を算出した。結果を表3に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
表1から明らかなように、本発明の樹脂フィルムの製造方法に用いる導電性樹脂組成物は、極性溶媒中に溶解しても、長期間にわたってゲル化せず、保存安定性に優れる。
【0083】
表2において、実施例2〜4と比較例2〜4とを比較すれば明らかなように、ポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して得られた導電性樹脂組成物を用いれば、ポリアニリンの添加量が少なくても、広範囲で表面抵抗率の調整された樹脂フィルムを得ることができる。なお、実施例2〜4および比較例2〜4はいずれも、樹脂溶液作製に用いるポリアニリン溶液はゲル化していなかった。
【0084】
参考例1〜3で得られたポリアニリン溶液の吸光度を、U−4100分光高度計(日立製作所製、1mmセル使用)を用いて測定した。結果を図2に示す。参考例1〜3で得られたポリアニリン溶液は、分子鎖が絡み合ったポリアニリン由来の吸収ピーク(図3に示すように600〜800nmに発現する吸収ピーク)を有さない。すなわち、参考例1〜3で得られたポリアニリン溶液中の導電性ポリアニリンは、分子鎖の絡み合いがほどかれた状態にあると考えられる。このような導電性ポリアニリンは、分子鎖の運動性が向上し、プロトン酸が十分にドープして、トルエン中で溶解または分散しやすく、表3に示すように粒径が小さくなると考えられる。また、このようなポリアニリン溶液を用いれば、表裏で表面抵抗率(ρs)の差の小さい樹脂フィルムを得ることができる(参考例7〜9、図1)。このような効果は、混練温度が高い場合により顕著に得られる(参考例1および7)。
【0085】
参考例4〜6で得られたポリアニリン溶液について、溶液調製直後および調製して24時間経過後の吸光度を、U−4100分光高度計(日立製作所製、1mmセル使用)を用いて測定した。結果を図4に示す。非極性溶媒であるトルエンを含む溶媒を用いて調製したポリアニリン溶液(参考例5および6)は、24時間経過後も未ドープ状態のポリアニリン由来の吸収ピーク(図3に示すように600nm付近に発現する吸収ピーク)が現れておらず、脱ドープが抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により得られる導電性樹脂組成物および樹脂フィルムは、例えば、電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止材、画像形成装置部品、電子デバイス等に好適に用いられ得る。本発明により得られるシームレスベルトは、例えば、電子写真方式で像を形成記録する画像形成装置の中間転写ベルト等に好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して導電性樹脂組成物を調製する工程を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記導電性樹脂組成物と耐熱性樹脂とを含む塗布液を支持体に供給して、該支持体上に塗膜を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記塗布液中において、前記加熱混練により生成するプロトン酸によりドーピングされた導電性ポリアニリンの算術平均粒径が10μm以下である、請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂が、ポリアミドイミド系樹脂である、請求項3に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記導電性樹脂組成物が、前記ポリアニリンの添加量を、樹脂フィルムに含まれる耐熱性樹脂100重量部に対して、1重量部〜5重量部の範囲内となるように調整して用いられる、請求項2から4のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により製造された、樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂フィルムを含む、シームレスベルト。
【請求項8】
エメラルジンベース状態のポリアニリンとプロトン酸とを加熱混練して得られる、導電性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性樹脂組成物を、非極性溶媒、または非極性溶媒とN−メチル−2−ピロリドンとの混合溶媒に混合して得られる、ポリアニリン溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−4102(P2012−4102A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21395(P2011−21395)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】