説明

導電性樹脂組成物及び該組成物から製造される成型体

【課題】表面平滑性に優れた成型体を得ることができる導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明により、(a)熱可塑性ポリアミド12エラストマー、(b)組成物100質量部に対して、1〜30質量部の熱可塑性芳香族ポリエステル或いはその誘導体、及び(c)組成物100質量部に対して、1〜25質量部の導電性カーボンブラックを含有する導電性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性カーボンブラックを含有する導電性樹脂組成物及び該組成物から製造される成型体に関する。詳しくは、電子写真機用各種ローラ、ベルト部材又は自動車部品用各種ホース、チューブ部材等を製造するのに適する導電性樹脂組成物及び該組成物から製造される成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂に導電性カーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物は、電子写真機用各種部材等の柔軟性や靭性、屈折耐性が求められる種々の分野で使用されているが(特許文献1)、カーボンブラックをポリアミド樹脂に混練配合する場合には、カーボンゲルなどを生成して成形加工時に分散不良を招くという問題がある(特許文献2、3)。この問題の解決を目的として種々の方法が提案されている。例えば、ポリアミド樹脂に対してカーボンブラックと特定の共重合体を配合してなる導電性樹脂塑性物が提案されている(特許文献2)。また、ポリアミド樹脂とカーボンブラックとカルボン酸又はその無水物を配合してなる導電性樹脂塑性物が提案されている(特許文献3)。しかし、これらの導電性樹脂組成物から製造される成型体であっても、その表面平滑性は十分であるとはいえない。
【0003】
【特許文献1】特開2001−350347
【特許文献2】国際公開第2006/049139パンフレット
【特許文献3】特開2002−322366
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、柔軟性及び引張り特性を保持しつつ、表面平滑性に優れた成型体を得ることができる導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、表面平滑性に優れた成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂として特定のエラストマーを採用し、これと熱可塑性芳香族ポリエステル又はその誘導体とをすることにより表面平滑性に優れた導電性樹脂組成物が得られることがわかった。即ち、本発明により、(a)熱可塑性ポリアミド12エラストマー、(b)組成物100質量部に対して、1〜30質量部の熱可塑性芳香族ポリエステル又はその誘導体、及び(c)組成物100質量部に対して、1〜25質量部の導電性カーボンブラックを含有する導電性樹脂組成物を提供する。
本発明はまた、上記導電性樹脂組成物から製造される成型体を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、表面平滑性に優れた成型体を与えることができる導電性樹脂組成物を得ることができる。本発明の組成物から製造される成型体はまた、高靭性、高柔軟性、高屈曲耐性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
成分(a)熱可塑性ポリアミド12エラストマー
本明細書において、熱可塑性ポリアミド12エラストマー(PAE12)とは、ポリアミド12をハードセグメント、脂肪族ポリエーテルをソフトセグメント、としたブロック共重合体をいう。熱可塑性ポリアミド12エラストマーは、脂肪族ポリアミド単位としてポリアミド12(通称ナイロン12)と脂肪族ポリエーテル単位とが結合した熱可塑性樹脂であり、該両単位の結合状態(割合、種類等)によって熱的性質(融点、耐熱温度等)、機械的物性(各種強度、硬さ等)などが変化する。
【0008】
本発明において使用できる熱可塑性ポリアミド12エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントを形成するω−ラウロラクタム及びジカルボン酸と、ソフトセグメントを形成するポリエーテルジオールを同時に反応槽に仕込み、ラクタム開環反応させ中間体を生成させ、次いで減圧下でこの中間体とポリエーテルジオールとの縮合反応を行う方法や、ω−ラウロラクタムとジカルボン酸とを反応させてハードセグメントを形成させた後に、ポリエーテルジオールを加えて、高温、減圧下で縮合反応を行う方法により得られるものがあげられる。他にも、ポリアミドユニットとポリエーテルユニットをアミド結合で結合するためにポリエーテルとして末端アミノ変性ポリエーテルを使用したり、末端カルボキシル基変性ポリエーテルとポリアミドの末端アミノ基を重縮合させる方法がある。
前記ジカルボン酸はハードセグメントの分子量調整剤として働く。ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウム、3−スルホイソフタル酸カリウム等の3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。上記例示したものは単独で使用しても良く、あるいは二種類以上を適宜組合せて使用してもよい。これらのうち好ましいものは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩であり、特に好ましいものはアジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸および3−スルホイソフタル酸ナトリウムが挙げられる。
ソフトセグメントの脂肪族ポリエーテル成分は、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシ(1,2−、若しくは1,3−)プロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシエチレンオキサイドとポリオキシプロピレンオキサイドとの共重合ジオール、及びこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0009】
使用できる熱可塑性ポリアミド12エラストマーとしては、ショアD硬度が30〜70のものが好ましい。ショアD硬度が30以上の場合、良好な成型加工性が得られ、ショアD硬度が70以下の場合、成型体の機械的特性(特に柔軟性)がより良好となる。さらには、ショアD硬度が40〜65のものが上記良好な成型加工性及び機械的特性に加えて、より高い表面平滑性を有する成形体を得るうえで好ましい。表面平滑性の高い成形体を得るために特に好ましいのは、ショアD硬度が40〜60のものである。所望のショアD硬度の熱可塑性ポリアミド12エラストマーは、ショアD硬度が30〜70の範囲にある、異なるショアD硬度を有する熱可塑性ポリアミド12エラストマーを適宜混合して調整することができる。なお、本明細書において、ショアD硬度は、用いる熱可塑性ポリアミド12エラストマーが単種の場合は該熱可塑性ポリアミド12エラストマーのショアD硬度の値を、複数種の混合物の場合は、各熱可塑性ポリアミド12エラストマーのショアD硬度と配合比から算出される平均の値を指す。
本件で使用できる熱可塑性ポリアミド12エラストマーは結晶性であり融点が130〜180℃であるものが好ましい。融点が130℃以上の場合、良好な成型加工性が得られ、融点が180℃以下の場合、成型体の機械的特性(特に柔軟性)がより良好となる。表面平滑性の高い成形体を得るためには、さらに145〜170℃であるものが好ましく、特に好ましいのは145〜160℃である。なお、本明細書において、融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
熱可塑性ポリアミド12エラストマーの相対粘度(0.5質量%m−クレゾール溶液、25℃)は、1.1〜3.0が好ましく、更に好ましくは1.2〜2.5である。相対粘度が1.1以下では耐熱性、成形加工性が悪く、3.0を超えると成形性が低下する。
【0010】
熱可塑性ポリアミド12エラストマーとしては、公知の方法により製造したものを使用することもできるし、エムスケミージャパン(株)製 ELY60、宇部興産(株)製 UBESTA XPA9044X2等の市販品を使用することができる。これらのエラストマーは特に、本発明の成型体に高い靭性、柔軟性、屈曲耐性を付与することができる。また本発明の組成物中における導電性カーボンの高分散にも寄与する。
成分(a)は、本発明の導電性樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは50〜98質量部、より好ましくは60〜90質量部、さらに好ましくは65〜80質量部の量で配合する。50質量部以上の場合、本発明の成型体の機械的特性、特に柔軟性が良好であるので好ましい。98質量部以下の場合、導電性カーボンの分散性が良好となるので好ましい。
【0011】
成分(b)熱可塑性芳香族ポリエステル或いはその誘導体
本発明において、熱可塑性芳香族ポリエステル或いはその誘導体は、導電性カーボンブラックとの親和性に優れ、本発明の組成物中における導電性カーボンブラックの分散性を高くすることができる。その結果、本発明の組成物から製造される成型体の表面平滑性を向上することができる。更に、熱可塑性ポリアミド12エラストマーと併用すると、導電性カーボンブラックの量が少なくても所望の導電性を得ることができる。
【0012】
本発明において、熱可塑性芳香族ポリエステルとは、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸と、アルキレングリコールとを主成分として重縮合し生成されるものをいう。配列状態は特に制限がなく、ランダム重縮合物、ブロック重縮合物、線状、分岐、架橋等、いずれであっても良い。
本発明で使用できる熱可塑性芳香族ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートイソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレートポリエチレングリコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートイソフタレート共重合体、ポリエチレンテレフタレートポリエチレングリコール共重合体等のポリアルキレンテレフタレートホモポリマー、コポリマーなどが挙げられる。
本発明において用いることができる熱可塑性芳香族ポリエステルの誘導体としては、脂肪族ポリエーテル或いは脂肪族ポリエステルを上記芳香族ポリエステルに導入した共重合体(芳香族ポリエステルエラストマー)、例えば、ポリブチレンテレフタレートポリエチレングリコール共重合体、ポリエチレンテレフタレートポリエチレングリコール共重合体等のポリアルキレンテレフタレートコポリマー等が挙げられる。
【0013】
このうち、融点が150〜240℃、ショアD硬度が20〜80、及び固有粘度が0.5〜1.5(100mL/g、o−クロロフェノール溶液、25℃)であるものが好ましい。これらを成分(b)として用いることにより、導電性カーボンブラックとの親和性が更に良好となり、より高分散性を付与することが出来る。また、脂肪族ポリエーテルを含有した芳香族ポリエステル誘導体は、更に、機械的特性の改善にも寄与しうるので好ましい。
とりわけ、ポリブチレンテレフタレート或いはその誘導体がより好ましい。本発明の組成物中における導電性カーボンブラックの分散性向上に最も寄与ためである。
【0014】
本発明において使用できる熱可塑性芳香族ポリエステルは、公知の方法により製造したものを使用することもできるし、市販品を使用することもできる。市販品としては例えば、ポリプラスチックス(株)製 ジュラネックス600FPがあげられる。
成分(b)は、本発明の導電性樹脂組成物100質量部に対し、1〜30質量部、好ましくは5〜25質量部、より好ましくは10〜20質量部の量で配合する。成分(b)の量が上記範囲にあると、導電性カーボンの分散性と成型体の表面平滑性及び柔軟性がより良好となる。
本発明において、成分(a)と成分(b)との配合比は、質量比にして2より大きいのが好ましく、3より大きいのが更に好ましい。質量比で2未満であると、柔軟性が不十分な場合がある。
【0015】
成分(c)導電性カーボンブラック
本発明において、導電性カーボンブラックとは、カーボンブラックの中で、ストラクチャー、すなわち連鎖状乃至は枝分かれしたミクロ構造が発達していることにより、樹脂等の分散媒中において有効な導電回路を形成しうるものを言う。
本発明において使用できる導電性カーボンブラックとしては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、オイルファーネス法によって原料油を不完全燃焼させて得られるオイルファーネスブラック、特殊ファーネス法によって製造されるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料として製造されるアセチレンブラック、天然ガスの熱分解によって製造されるサーマルブラック、これらを酸化または還元処理したもの等があげられる。
このうち、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が100〜500mL/100gのものが好ましい。吸油量が100mL/100g以上であると導電性付与効果が良好となり、500mL/100g以下であると樹脂中の分散性により優れる。より好ましくはn−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が100〜300mL/100gのものである。吸油量がこのような範囲にあると、分散性の良好な組成物をより容易に製造できるので好ましい。DBP吸油量は、ASTM D2414に従い、DBPアブソープトメーターを使用して測定することができる。
平均一次粒子径が20〜50nmのものが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲を外れると良好な導電性が得られない可能性がある。
比表面積が50〜1000m2/gのものが好ましい。比表面積が50m2/g未満の場合、電子写真機用各種ローラ等に使用するのに必要な導電性を確保するのに多量の導電性カーボンブラックを配合しなければならず、表面平滑性が低下する可能性もある。1000m2/gを超えると、導電性カーボンブラックを成型体中に均一に分散させるのが困難になる可能性がある。
【0016】
本発明において使用できる導電性カーボンブラックは、市販品を使用することもできる。例えば、TIMCAL社製 Ensaco250Gがあげられる。
成分(c)は、本発明の導電性樹脂組成物100質量部に対し、1〜25質量部、好ましくは5〜25質量部、より好ましくは5〜20質量部の量で配合する。成分(c)の量が上記範囲にあると、特に、5質量部以上の場合、導電性付与効果が良好となり、25質量部以下の場合、組成物中における導電性カーボンブラックの分散性が良好で、所望の機械的特性もまた良好となるので好ましい。
【0017】
その他配合可能な成分(任意成分)
本発明の導電性樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂、導電成分、添加剤等を特に制限なく、目的に応じ、適宜選択、配合することが可能である。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリレート又はメタクリレートと他の化合物との共重合体、スチレン系樹脂、成分(a)以外のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、成分(a)以外の熱可塑性エラストマー、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、等が挙げられる。
導電成分としては、例えば、繊維系カーボン、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属系導電剤、チタン酸塩ウィスカー、イオン導電剤、例えば、無機塩・有機塩といった低分子イオン導電剤又は高分子イオン導電剤等が挙げられる。イオン導電剤が好ましく、特に、低分子イオン導電剤又は高分子イオン導電剤が好ましい。
【0018】
低分子イオン導電剤の例としては、無機または低分子量有機プロトン酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛またはアンモニウム塩があげられる。これらのうち、LiClO4、LiCF3SO3、NaClO4、LiBF4、NaBF4、KBF4、NaCF3SO3、KClO4、KPF6、KCF3SO3、KC49SO3、Ca(ClO42、Ca(PF62、Mg(ClO42、Mg(CF3SO32、Zn(ClO42、Zn(PF62またはCa(CF3SO32が好ましい。
高分子イオン導電剤とは、イオン導電可能なポリマーまたはコポリマーをいう。例として、オリゴエトキシ化アクリレートもしくはメタクリレート、芳香族環についてオリゴエトキシ化されたスチレン、ポリエーテルウレタン、ポリエーテル尿素、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミドまたはポリエーテルエステル等があげられる。このうち、ポリエーテルアミドまたはポリエーテルエステルアミドが好ましい。
低分子イオン導電剤及び高分子イオン導電剤はそのまま樹脂に配合することもできるが、あらかじめ(A)有機ポリマー材料に、前述の(B)高分子イオン導電剤及び/又は(C)低分子イオン導電剤を配合したマスターバッチの形態として使用することが、取り扱いが容易となる点で好ましい。
(A)有機ポリマー材料の例としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリアミド、ポリウレタンまたはポリエステル等があげられる。
(A)に(B)を配合したものとして、ペレスタットNC6321(三洋化成(株)製)が入手できる。
イオン導電剤としては、(A)に(B)と(C)とを配合した組成物、特に、(B)成分としてポリエーテル成分として(CH2−CH2−O)を含み、かつポリアミド成分としてナイロン12またはナイロン6を含むポリエーテルアミド又はポリエーテルエステルアミドと、(C)成分としてNaClO4とを併用するのが好適である。このような過塩素酸ナトリウムを含有するポリエーテルアミドまたはポリエーテルエステルアミドエラストマーは、Irgastat(登録商標)P18およびIrgastat(登録商標)P22(共に、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ・インコーポレーテッド製)として入手することができる。
【0019】
本発明のように、導電性カーボンブラックのような電子伝導性の導電剤を用いた場合、半導電性領域において、印加電圧に対する抵抗値の依存性が大きいという欠点が知られている。本発明では、導電性カーボンブラックに加えてさらにイオン導電剤を加えることで、この印加電圧に対する抵抗値の依存性を抑制することができる。
このような性質は特に、数kV程度までの印加電圧をかけて使用されるレーザープリンターや複写機の帯電ローラやカラーレーザープリンターやカラー複写機の転写ベルトの用途に適する。
例えば、(a)〜(c)からなる本発明の導電性樹脂組成物から製造される帯電ローラを用いる場合、帯電ローラへの印加電圧を100〜1000Vの範囲で変化させたとき、表面抵抗率(surface resistivity:SR)が1.5桁以上変化してしまう場合があるのに対し、イオン導電剤を併用した本発明の導電性樹脂組成物の場合、前記印加電圧範囲におけるSRの変化を1桁以内に抑制することができる。このように印加電圧へのSRの依存性を抑制することで、帯電ローラ上での部分的な帯電不良等による画像欠陥の発生を防ぎ、高解像度の画像を得ることができる。
上記イオン導電剤を、本発明の導電性樹脂組成物100質量部に対し、0.05〜1.25質量部、好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.25〜0.75質量部の量で配合するのが好ましい。上記イオン導電剤の量が上記下限値より大きいと、本発明の導電性樹脂組成物の体積抵抗率(Volume resistivity:VR)を半導電性領域(105〜1012Ω・cm程度)に設定したときの印加電圧に対する抵抗値の依存性を好適に抑制することができる。上限値より小さくすることで、前記抵抗値の湿度への依存性を抑制できる。
【0020】
本発明のイオン導電剤を併用した導電性樹脂組成物から帯電ローラ又は中間転写ベルトを製造する場合、(c)導電性カーボンブラック及び(d)イオン導電剤の配合量を適宜調整することにより、帯電ローラ又は中間転写ベルトの抵抗値を、これら用途に好ましい半導電性領域、即ちSRで109〜1012Ω/□かつVRで105〜109Ω・cmとし、更にSRの常用対数値(LogSR)とVRの常用対数値(LogVR)との差(Δ(LogSR−LogVR))を2以上とすることが好ましい。SRが上記範囲内にあると、帯電ローラ又は中間転写ベルトを介して映し出される画像の解像度が良好となり高画質な画像を得ることができる。また、Δ(LogSR−LogVR)値が2以上であると、帯電ローラ又は中間転写ベルトへの帯電と除電を速やかに繰り返すことができ、連続的に印刷、複写を行う場合に良好な画像を得ることができる。Δ(LogSR−LogVR)値に上限は特にないが、導電性樹脂の物性上、7を超える差とすることは困難であり、この範囲内であれば良好に前記効果を得ることができる。
【0021】
本発明の成型体が帯電ローラ又は中間転写ベルトである場合、これらの製法は特に制限されないが、例えば、二軸混練機により基材の樹脂成分と導電性材料とを混練し、得られた混練物を環状ダイスを使って押出し成形することにより製造することができる。また、一度ペレットを得た後、ペレットを押出成形機にて押出加工することもできる。押出成形機は単軸式、二軸式のどちらでもよい。ダイ形状は、T型ダイ、インフレーションダイ、チューブダイ(円筒状ダイ)の何れもが使用できる。インフレーションダイ/チューブダイを用いると、シームレスチューブ/シームレスベルト(継ぎ目の無いチューブ/ベルト)が得られることからチューブダイが好ましい。押出温度は、160〜260℃で行なうことができ、200〜240℃が好ましい。
上記各種用途に対して、特に前記の過塩素酸ナトリウムを含有するポリエーテルエステルアミドエラストマー型高分子イオン導電剤は、ベースとなる熱可塑性ポリアミド12エラストマーとの相溶性が良好であり、本発明の高い表面平滑性や靭性、柔軟性、屈曲耐性を損なうことなく、上記目的とする性能を付与することができる。
添加剤としては、例えば、難燃剤、顔料、染料、補強剤(炭素繊維など)、充填剤、耐熱剤、耐候剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、相溶化剤、安定剤などが挙げられる。
【0022】
本発明の導電性樹脂組成物は種々の方法により製造することができる。公知の連続式又はバッチ式混練法により調製可能であり、例えば、上記(a)〜(c)成分全て共存下、熱可塑性樹脂(a)及び(b)が加熱溶融された状態で30秒以上混練することにより調製可能である。具体的には、(a)及び(b)成分を予めタンブラー等の混合機で均一に混合し、1軸又は2軸の押出機に供給して溶融混練した後、(c)成分をサイドフィーダーより供給、混練する方法、(a)〜(c)成分を予め均一混合し、1軸又は2軸押出機、又はバンバリーミキサーに供給し溶融混練する方法等が挙げられる。混練温度は、熱可塑性樹脂が溶融する温度より5−50℃高い温度が好ましい。混練温度が低すぎると、溶融不十分により(c)成分の分散不良を引き起こし、混練温度が高すぎると、樹脂分解や異常反応等望ましくない反応を誘発する、可能性がある。混練時間は、30秒〜10分が好ましく、より好ましくは1〜5分である。処理時間が短すぎると、混練不十分により(c)成分の分散不良を引き起こし、処理時間が長すぎると、樹脂分解や異常反応等望ましくない反応を誘発する可能性がある。
【0023】
本発明の導電性樹脂組成物を用いて、射出成型、押出成型、インフレーション成型等公知の成型方法により、フィルム、シート、管状物等の各種導電性成型体を製造することができる。なお、本発明におけるフィルム及びシートなる用語はJIS包装用語規格に従い、厚さが250μm未満のプラスチックの膜状のものをフィルムといい、厚さが250μm以上のプラスチックの薄い板状のものをシートという。本発明の導電性樹脂組成物から製造される成型体は、靭性、柔軟性、屈曲耐性等の機械的特性、特に柔軟性が良好となるため、そのショアD硬度が80以下であるのが好ましい。成型体のショアD硬度が55〜75であるのがより好ましい。55以上のとき、特に良好な成型加工性が得られ、75以下のとき成型体の機械的特性(特に柔軟性)がより良好となる。
【0024】
本発明の導電性樹脂組成物から製造される成型体は、高い表面平滑性(カーボン高分散性)、靭性、柔軟性、屈曲耐性等の特性を有するため、電子写真機用各種ローラ、ベルト部材、自動車用各種ホース、チューブ部材等の使用に適する。例えば、他部位との長期間又は高速での接触機会がある電子写真機用部材、例えば、帯電ローラ、現像ローラ、転写ベルト等の部材に使用されるベルト、チューブのような管状成型体又はその前駆体となるフィルム成型体やシート状成型体としての使用がより好ましい。本発明の導電性樹脂組成物から製造される成型体は、導電性カーボンブラックの分散性が高いため、各部材において導電性の均一性が高く、高品質な印刷特性を発現させることが可能となる。また、靭性、屈曲耐性、柔軟性に優れるため、長期間又は高速での他との接触機会において、自身又は接触対象の歪みや磨耗、破損等が起こらず、初期の良好な状態を維持することが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下の表1に示した成分を用い、下記表2に示される(a)〜(c)成分の配合割合に従って、実施例及び比較例の導電性樹脂組成物を製造した。
実施例1
(a)成分としてエムスケミージャパン(株)製ELY60(以下、PAE12(i))11質量%、(b)成分としてポリプラスチック(株)製 ジュラネック600FP(以下、PBT)15質量%を予めタンブラー等の混合機で均一に混合し、該混合物をシリンダー温度及びダイ温度を240〜260℃とした同方向2軸押出機(NR−II57mm、ナカタニ機械(株)製)の元ホッパーから定量フィーダーにて供給した。完全に溶融した後、(c)成分としてTIMCAL社製 Ensaco250G(以下、CB(i))14質量%及び(a)成分としてPAE12(i)60質量%を各々サイドフィーダーから、定量フィーダーにより押出機に供給、混練、ペレット化して実施例1の導電性組成物を得た。
実施例2
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分として宇部興産(株)製 UBESTA XPA9044X2(以下、PAE12(ii))11質量%、とした以外は実施例1と同様にして実施例2の導電性組成物を得た。
実施例3
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分としてPAE12(ii)28質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)43質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例3の導電性組成物を得た。
【0026】
実施例4
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分としてPAE12(i)6質量%とPAE12(ii)4質量%との混合物、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)37質量%とPAE(ii)24質量%との混合物とした以外は実施例1と同様にして実施例4の導電性組成物を得た。
実施例5
実施例4において、CB(i)8質量%とした以外は実施例4と同様にして実施例5の導電性組成物を得た。
実施例6
実施例1において、成分(a)をPAE12(ii)とした以外は実施例1と同様にして実施例6の導電性組成物を得た。
実施例7
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分PAE12(i)18質量%、(b)成分PBT8質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)60質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例7の導電性組成物を得た。
【0027】
実施例8
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分PAE12(i)16質量%、(b)成分PBT25質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)45質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例8の導電性組成物を得た。
実施例9
実施例1において、(b)成分をPBT10質量%と三菱レイヨン(株)製ダイヤナイトMA−521H−D25(以下、PET)5質量%との混合物とした以外は実施例1と同様にして実施例9の導電性組成物を得た。
実施例10
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分PAE12(i)11質量%、(c)成分としてライオン(株)製ケッチェンブラックEC300J(以下、CB(ii))8質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)60質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例10の導電性組成物を得た。
【0028】
実施例11
実施例5において、CB(ii)8質量%とした以外は実施例5と同様にして実施例11の導電性組成物を得た。
実施例12
実施例1において、元ホッパーに供給するための成分として、(b)成分PBT15質量%と(d)成分として高分子イオン導電剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 Irgastat P18 を10質量%との混合物、サイドフィーダーから供給ための(a)成分としてPAE12(i)40質量%とPAE12(ii)27質量%との混合物、サイドフィーダーから供給ための(c)成分としてCB(i)8質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例12の導電性組成物を得た。
実施例13
実施例1において、元ホッパーに供給するための成分として、(a)成分PAE12(i)6質量%とPAE12(ii)4質量%と(b)成分PBT15質量%との混合物、サイドフィーダーから供給するための成分として、(a)成分PAE12(i)32質量%とPAE12(ii)21質量%と(d)成分Irgastat P18を15質量%との混合物、サイドフィーダーから供給ための(c)成分としてCB(i)7質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例13の導電性組成物を得た。
【0029】
実施例14
実施例13において、サイドフィーダーから供給するための成分として、(a)成分PAE12(i)37質量%とPAE12(ii)24質量%と(d)成分Irgastat P18を5質量%との混合物、サイドフィーダーから供給するための(c)成分としてCB(i)9質量%とした以外は実施例13と同様にして実施例14の導電性組成物を得た。
比較例1
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分PAE12(i)26質量%、(b)成分を使用しなかった以外は同様にして比較例1の導電性組成物を得た。
比較例2
実施例1において、元ホッパーに供給するための(a)成分を使用しない、(b)成分PBT50質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)36質量%、とした以外は同様にして比較例2の導電性組成物を得た。
比較例3
実施例1において、CB(i)30質量%、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)44質量%、とした以外は同様にして比較例3の導電性組成物を得た。
【0030】
【表1】














【0031】
【表2】

【0032】
得られた導電性樹脂組成物を約25℃の水により冷却し、ペレット化し、下記評価を実施した。
〔ブツ個数〕
得られたペレットをインフレーション成型し、厚さ100μmのフィルムを得た。尚、インフレーション成形は、シリンダー温度190℃、スクリュー回転数80rpmにて行い、押出機の制御・駆動部には、東洋精機社製ラボプラストミルME型を、ダイ部には、東洋精機社製25mmΦスパイラル型インフレーションダイIND−25型を使用した。
該フィルムから幅5cm、長さ20cm、試験片を得て測定に供した。
目視で存在が認められる凝集物の直径をノギスを用いて測定し、直径0.2mm以上の凝集物の数(ブツ個数)を計数した。

〔表面平滑性〕
上記計測したブツ個数に対し、下記基準にて成型体の表面平滑性を評価した。
◎ : 3個以下
○ : 4〜12個
△ : 13〜20個
× : 21個以上
【0033】
〔導電性〕
得られたペレットを射出成型し、日本ゴム協会標準規格のSRIS2301−1969に準拠した方法で体積抵抗率を測定した。実施例1−14の組成物の体積抵抗率(Ω・cm)の常用対数値は2.5−11.5であった。
〔機械的特性〕
1)靭性
得られたペレットを射出成型し、ISO527−2/1A/50に準拠して引張強さ、引張破壊呼び歪を測定した。
2)柔軟性
得られたペレットを射出成型し、JIS K7215 に準拠してショアD硬度を測定した。
上記実施例及び比較例の評価結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
上記表3の結果から、実施例1〜14は、導電性カーボンブラックの分散性が良好であり、成型体が高靭性、高柔軟性、高屈曲耐性を有する、という優れた特性があることが分かった。これに対し、比較例1〜3は、上記特性全てを満足しえないことが分かった。
【0036】
実施例15
実施例1において、元ホッパーに供給するための成分として、(b)成分PBT15質量%と、(d)成分として高分子イオン導電剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 Irgastat P18を5質量%との混合物、サイドフィーダーから供給するための(a)成分としてPAE12(i)43質量%とPAE12(ii)28質量%との混合物、サイドフィーダーから供給するための(c)成分としてCB(i)9質量%、とした以外は実施例1と同様にして導電性組成物のペレットを得た。
このペレットを単軸押出機(東洋精機社製ベント式単軸押出機D2020型)に供給し、環状ダイスを用いて押出したあと直ぐにブロアにて強制冷却して外径40mm、厚み100μmの円筒状チューブを得た。得られた円筒状チューブを切り開き、得られたフィルムをSR及びVR測定用の試料とした。なお、該押出機の制御・駆動部には、東洋精機社製ラボプラストミルME型を、ダイ部には、東洋精機社製25mmΦスパイラル型インフレーションダイIND−25型を使用した。押出温度は、シリンダーの溶融ゾーンからダイ温度まで全て240℃で行い、スクリュー回転数は80rpmで行った。
実施例16、17、比較例4
表4に示す組成の導電性樹脂組成物から実施例15と同様の方法でペレットを製造し、これを使用して実施例15と同様の方法で円筒状チューブからフィルムを製造し、SR及びVR測定用の試料とした。
【0037】
[抵抗率の測定]
SR及びVRの測定は、ASTM D257−93に従って行った。測定は、実施例15−17及び比較例4において製造した試料を、23℃、50%RHの条件下に24時間保った後、下記抵抗測定装置及び電極を使用し、試料に電圧を印加して1分後の抵抗値を測定することにより行った。SRは100、500及び1000Vの各電圧で印加して、得られた値であり、VRは100Vの電圧で印加して得られた値である。試料の外周面(円筒状チューブを切り開いて得たフィルムの面のうち、切り開く前にチューブの外周面であった方の面)のSRおよび厚み方向のVRを測定した。測定は5点行い、その平均値を採用した。なお、ASTM D257−93に記載の導電ペイント(銀ペイント)は測定するのに必要がなかったため使用しなかった。
結果を表4に示す。各測定電圧におけるSR(Ω/□)及びVR(Ω・cm)は、測定値の常用対数をとった値として示す。SRの電圧依存性は、測定電圧1000VにおけるSRの常用対数値と100VにおけるSRの常用対数値との差として示す。
抵抗測定機器 : アドバンテスト社製 エレクトロメータR8340
電極 : アドバンテスト社製 レジスティビティチャンバR12702A
【0038】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性ポリアミド12エラストマー、
(b)組成物100質量部に対して、1〜30質量部の熱可塑性芳香族ポリエステル又はその誘導体、及び
(c)組成物100質量部に対して、1〜25質量部の導電性カーボンブラック
を含有する導電性樹脂組成物。
【請求項2】
(b)成分が、ポリブチレンテレフタレート或いはその誘導体であることを特徴とする請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
(c)成分が、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が100〜500mL/100gである導電性カーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに(d)イオン導電剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性樹脂組成物から製造される導電性樹脂成型体。
【請求項6】
ショアD硬度が80以下である請求項5記載の成型体。
【請求項7】
フィルムまたはシートの形態である請求項5又は6記載の成型体。
【請求項8】
管状物の形態である請求項5又は6記載の成型体。

【公開番号】特開2008−115384(P2008−115384A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267865(P2007−267865)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】