説明

導電性樹脂組成物

【目的】本発明は安定した帯電防止性能を保持し、貯蔵中においても塗料中の導電性フィラーの沈降が少なく、作業性に優れた導電性樹脂組成物を提供することにある。
【手段】繊維長が80μmから150μm、繊維径が10〜15μmの範囲にあるステンレスファイバー、沈降防止剤、樹脂及び配合材を含む導電性樹脂組成物を特徴とする。本発明の導電性樹脂組成物を床用上塗り材として用いることで、上記の課題を解決することができる。つまり、導電性樹脂組成物に対し優れた沈降防止性を付与し、塗膜物性に対し安定した導電性の発現を可能とする床用上塗り材の成膜層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定した帯電防止性能を保持し、貯蔵中においても塗料中の導電性フィラーの沈降が少なく、作業性に優れた導電性樹脂組成物を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
従来、電気不良導体の表面に導電性を付与するための導電性樹脂組成物には、導電性フィラーとして、金属、酸化亜鉛などの電気良導体の粉末、導電性カーボンブラック、炭素繊維が配合されている。(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)さらに、安定した帯電防止性能を保持し、耐久性に優れる導電性フィラーとして、繊維長が80μmから150μm、繊維径が10〜15μmの範囲にあるステンレスファイバーを配合した導電性樹脂組成物が提案されている。(特許文献4参照)しかし、これらの導電性フィラーは粒子径が大きく、比重も大きいために塗料中で容易に沈降が生じるといった問題があった。そのため、親水性コロイダルシリカとフッ素を含有する水溶解可能な又は水に分散可能なエチレンオキシドリンケージ及び非イオンフッ化炭化水素重合体である界面活性剤を用いることにより、メタリック塗料の顔料の沈降を遅らせ、塗料の安定性及び性能を改善できることが開示されている。(特許文献5参照)しかし、無機シリカを用いていることから、粉塵の問題があった。さらに、炭素数2〜12を有するプライマリージアミンと、前記ジアミンに対し過剰の、不飽和脂肪酸を重合して得られる二量体ジカルボン酸(一般名ダイマー酸)、又はダイマー酸と炭素数3〜21を有する他のジカルボン酸及び/又は炭素数2〜22を有するモノカルボン酸の混合物とを反応して得られるポリアマイドを、中和用塩基を用いて中和後に水を主体とする媒体中に分散させる、沈降防止方法が提供されている。(特許文献6)しかし、この沈降防止剤では水系塗料にしか添加することができないといった問題がある。
【特許文献1】特開平4−298536
【特許文献2】特開平5‐43823
【特許文献3】特開平10−195406
【特許文献4】特願2004‐037817
【特許文献5】特開平4−234461
【特許文献6】特開平10−310726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来より沈降防止剤として多種のものが提案されているにもかかわらず、導電性樹脂組成物に用いられる導電性フィラーとして、金属、酸化亜鉛などの電気良導体の粉末、導電性カーボンブラック、炭素繊維、あるいはステンレスファイバーなどは、粒子径が大きく、比重も大きいため沈降を防止するには効果が不十分であるといった問題を抱えていた。
【0004】
本発明者は、このような問題を解決するため新しい導電性樹脂組成物中に配合する沈降防止剤を探索する中で、顔料や導電性フィラーの沈降を防止して、施工後の導電性を均一に発現することができる導電性樹脂組成物を見いだすことに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、導電性樹脂組成物に対し優れた沈降防止性を付与し、塗膜物性に対し安定した導電性の発現を可能とする導電性硬質ウレタン樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、繊維長が80μmから150μm、繊維径が10〜15μmの範囲にあるステンレスファイバー、沈降防止剤、樹脂及び配合材を含む導電性樹脂組成物を特徴とする。本発明の導電性樹脂組成物を床用上塗り材として用いることで、背景技術に記載した上記の問題点を解決することができる。つまり、導電性樹脂組成物に対し優れた沈降防止性を付与し、塗膜物性に対し安定した導電性の発現を可能とする床用上塗り材の成膜層を形成することができる。
【0006】
本発明の導電性樹脂組成物中に含まれるステンレスファイバーは繊維状のため樹脂内部でネットワークを形成し高い導電性を付与できる。さらに、繊維長が80μm以下だと導電性が得られず、150μmより長いと仕上がり外観が悪くなるため、繊維長は80μmから150μmの範囲が望ましい。また、繊維径は、塗膜の均一性、作業性を損なわない限り特に制限されないが、電気導電性、作業性を低下させない範囲として、10〜15μmの範囲が好ましい。ステンレスファイバーとしては、具体的には、川崎テクノリサーチ株式会社製、不定形微細繊維状SMF(ステンレス・スチール・マイクロ・ファイバー)等が挙げられる。
【0007】
本発明の導電性樹脂組成物中に含まれる、ステンレスファイバーの配合量は、1.5重量%以下の配合量では安定した導電性が得られず、5重量%よりも多く配合したときは、仕上がり外観が悪くなるため、導電性樹脂組成物100重量部に対して1.5重量%から5重量%の範囲が望ましい。
本発明の導電性樹脂組成物は、仕上がりに影響の無い範囲で導電性無機質材料とステンレスファイバーの併用も可能である。導電性無機質材料としてはカーボングラファイトや炭素繊維、導電性マイカ、錫、アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、アンチモン、チタン等の金属酸化物、及びこれらの中から選ばれる2種以上の組み合わせが用いられる。
【0008】
本発明の導電性樹脂組成物中に含まれる、沈降防止剤はウレアウレタン、N−メチル-2-
ピロリドン、リチウムクロライドの非水溶性混合物から構成される。具体的にはビック
ケミ−・ジャパン株式会社製、BYK-410(登録商標)等が挙げられる。
【0009】
本発明の導電性樹脂組成物中に含まれる、沈降防止剤の配合量は導電性樹脂組成物に対
して、0.1重量部以下ではその効果が得られず、1.0重量部より多いと塗料の粘度が急激に上がり後の作業性が悪くなるため、0.1〜1.0重量部が望ましい。
【0010】
本発明の導電性樹脂組成物に含まれる樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アクリルエマルジョンなど、通常塗り床材に使われる汎用樹脂が利用でき、必要により組み合わせて用いられる。また、添加剤としては分散剤、可塑剤、顔料、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤等が必要に応じて用いられる。配合材は、樹脂100重量部に対して、1.0〜20重量部、さらに好ましくは5.0〜10重量部の範囲で用いることが好ましい。本発明の導電性樹脂組成物は、上記の成分を溶剤と共に混合して導電性樹脂組成物とする。溶剤としては、例えば、ブタノール、キシレン、ケトン、トルエン、メチルエチルケトン等が用いられる。
【0011】
本発明の導電性樹脂組成物は、最終的に塗膜とした場合に、表面抵抗率が5×104〜1×10Ωとなるよう調整することが好ましい。
【0012】
請求項2、及び3の発明は、請求項1に記載の導電性樹脂組成物中に配合される沈降防止剤を要旨とする。沈降防止剤が、ウレアウレタン、N−メチル-2-ピロリドン、リチウムクロライドの混合物から成ることを特徴とする。すなわち、この沈降防止剤を本発明の導電性樹脂組成物として用いることで、背景技術に記載した上記の問題点を解決することができる。つまり、導電性樹脂組成物に対し優れた沈降防止性を付与し、塗膜物性に対し安定した導電性の発現を可能とする床用上塗り材の成膜層を形成することができる。
【0013】
本発明の導電性塗り床は、導電性上塗りの成膜層以外の構成は、任意のものとすることができる。例えば、導電性中塗りの成膜層よりも下層に、下地調整材から成る層を備えていてもよい。更に、本発明の導電性塗り床は、導電性中塗りの成膜層よりも下層に下地調整材から成る層を備えると同時に、導電性中塗りから成る成膜層よりも上層に、上塗り材から成る層を備えていてもよい。
また、上記中塗り材は、例えば、導電性上塗りと同様に、請求項1記載の導電性樹脂組成物であってもよい。上記上塗り材は、塗膜とした場合に表面電気抵抗値が5×104〜1×10Ωとなるように調整することが好ましい。また、上記上塗り材の施工塗布量は、例えば0.8〜2.0Kg/ m2の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の導電性塗り床では、床用上塗り材の成膜層以外の構成は任意のものとすることができる。例えば、床用上塗り材から成る成膜層よりも下層に、下地調整材から成る層、または導電性中塗りから成る層を備えていても良い。また、本発明の導電性塗り床は、上塗り材から成る成膜層よりも下層に、下地調整材から成る層と、導電性中塗りから成る層との両方を備えていても良い。
上記導電性中塗りは、例えば、床用上塗り材と同様に、請求項1記載の導電性樹脂組成物であってもよい。導電性中塗りの施工塗布量は、例えば、0.1〜0.3Kg/mの範囲が好ましい。上記導電性中塗りは、最終的に塗膜とした場合に表面抵抗率が1.2×105Ω以下となるよう調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性樹脂組成物は、繊維長が80μmから150μm、繊維径が10〜15μmの範囲にあるステンレスファイバー、沈降防止剤、樹脂及び配合材を含む導電性樹脂組成物から成り、貯蔵中においても塗料中の導電性フィラーの沈降が少なく、作業性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができる。さらに、導電性樹脂組成物に対し優れた沈降防止性を付与し、塗膜物性に対し安定した導電性の発現を可能とする床用上塗り材の成膜層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。尚、実施例における、%配合量は重量%
である。

保存安定性試験
内径3cm、高さ30cmの透明チューブに、下記表1の主剤に示す配合で、実施例1、比較例1用の導電性樹脂組成物を充填し、50℃の恒温槽に14日間静置後、両者の比較を行った。
評価の項目は○、×で示した。結果は表2に示した。
○:外見に変化は無く、導電性樹脂組成物中の顔料、導電フィラー等の沈降も確認されなかった。
×:導電組成物中の導電フィラーが透明チューブの底に約10cm沈殿していた。






【0017】
表1


【0018】
2週間保存(50℃)後の上塗り電気抵抗試験
上塗り電気抵抗試験はNFPA99に規定する試験方法により行った。90cm×90cm×0.4cmのスレート板上に、まず、下地調整材を0.6 kg/m2コテを用いて塗装した後、導電性中塗り(アイカ工業(株)製、商品名:JJ-160)を0.2 kg/m2ローラーを用いて重ねて塗装した。その後、25℃で3日間養生後、上記方法により保存安定性試験を実施した後、表1に記載の、導電性上塗りの成膜層の特性を測定した。測定方法は、500Vテスターを使用し、測定間隔91.4cmで、床用上塗り材の成膜層の表面電気抵抗値を測定した。結果は表2に示した。
【0019】
実施例1
基材上に、下地調整材(アイカ工業(株)製、商品名:JJ-100)をコテにて、0.6kg/mの密度で2回塗布した後、導電性中塗り(アイカ工業(株)製、商品名:JJ-160)をローラーにて0.2kg/m塗布した。その後、25℃で3日間養生後、上記方法により保存安定性試験を実施した後、表1に示す床用上塗り材(アイカ工業(株)製、商品名:JJ-165)として、主剤、硬化剤を4/1の割合で配合し、コテにて1.2kg/m塗布し、本発明の導電性塗り床を得た。尚、上記表1における各成分の配合量は、溶剤、不揮発分を含む。
【0020】
比較例1
比較例1として、従来品の配合例を説明する。実施例1と同様な手段にて、基材上に下地調整材を2回塗布した後、導電性中塗り(アイカ工業(株)製、商品名:JJ-160)をローラーにて0.2kg/m塗布した。その後、25℃で3日間養生後、上記方法により保存安定性試験を実施した後、床用上塗り材として、表1に示す導電性上塗り組成物の主剤、硬化剤を4/1の割合で配合し、コテにて1.2kg/m塗布し、導電性塗り床を得た。この比較例1における上塗り材は、沈降防止剤を含まないため、本発明の範囲外である。尚、上記表1における各成分の配合量は、溶剤、不揮発分を含む。
【0021】
表2



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が80μmから150μm、繊維径が10〜15μmの範囲にあるステンレスファイバー、沈降防止剤、樹脂及び配合材を含む導電性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の沈降防止剤が、ウレアウレタン、N−メチル-2-ピロリドン、リチウムクロライドの非水溶性混合物から成ることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1、2に記載の沈降防止剤が導電性樹脂組成物に対して、0.1〜1.0重量部含まれていることを特徴とする導電性組成物。

【公開番号】特開2006−36994(P2006−36994A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221205(P2004−221205)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】