説明

導電性樹脂組成物

【課題】溶融時の流動性が高く、得られる成形体の導電性に優れるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体を提供する。
【解決手段】融点が320℃〜420℃のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂45〜89質量%、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック2〜7.5質量%、DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラック9〜33質量%、及び無機充填材0〜33質量%(全ての成分の合計が100質量%)を配合してなり、それから得られる成形体の体積固有抵抗が1×10〜1×109Ω・cmであることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形時の流動性に優れ、かつそれから得られる成形体が導電性に優れる、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂あるいはその組成物は、剛直な分子構造に由来する溶融成形時の優れた流動性、及び優れた耐熱性、機械的特性を有し、射出成形による電気・電子部品を中心にその利用が拡大している。一方、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂あるいはその組成物からなる成形品の用途によっては、帯電防止あるいは電磁波シールド、その他を目的として、導電性の付与が求められる場合がある。絶縁体である合成樹脂に導電性を付与する方法として、導電性を有する無機充填材、例えばカーボンブラック、黒鉛、金属粉末、金属フレーク、金属繊維、カーボン繊維、金属コーティングしたガラス繊維及びカーボン繊維等を合成樹脂に配合することが行われる。中でもカーボンブラック、特に導電性カーボンブラックと呼ばれるものが多く使用される。サーモトロピック液晶ポリマー及びその組成物への導電性の付与についても同様である。
【0003】
特許文献1(段落0008)には、液晶ポリエステルとタルクからなる樹脂組成物に、必要な導電性になるまで導電性カーボンブラックを配合すると、溶融粘度が著しく上昇し、成形時に薄肉部に該組成物が十分充填されないだけでなく、衝撃強度が著しく低下する旨の問題点の記載がある。またその解決手段として、液晶ポリエステルに特定の黒鉛を配合した樹脂組成物が開示されている。しかし、望みの導電性樹脂組成物を得るためには、黒鉛の配合量を増加せざるを得ず、その結果、樹脂本来の特性を損なう恐れがある。
【0004】
特許文献2には、液晶ポリマーと導電性フィラーとからなる導電性樹脂組成物が開示され、製造・成形が容易で、強度、導電性、シール性に優れる樹脂組成物等が提供されるとの記載がある。該技術では、複数の導電性フィラーの組み合わせが開示されているが、異なる種類のカーボンブラックの組み合わせ、及びそれらの配合率と導電性及び樹脂組成物の流動性に関する記載はない。また、黒鉛は分散性が良好でないため配合量を多くする必要があり、結果として樹脂本来の特性を損なう恐れがある。
【0005】
特許文献3には、熱可塑性樹脂、DBP吸油量及び比表面積が異なる複数のカーボンブラック、及びカルボン酸及び/又はその無水物からなる導電性熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかし、該特許文献にはサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物に関する記載、及び組成物の組成と流動性、及び導電性に関する詳細な記載がない。また、製造あるいは成形時に400℃付近の温度まで加熱されるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物においては、カルボン酸及び/又はその無水物の添加は、樹脂の分解を誘発し、得られる樹脂組成物及び/又は成形品の機械的物性の低下を招く。さらに成形品において、カルボン酸及び/又はその無水物の表面への移行が起こり、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物の主要な用途である電気・電子部品への使用が難しいという問題もある。
【0006】
以上のように、容易に製造が可能であり、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂のもつ溶融時の高い流動性を維持し、それから得られる成形体が高い導電性を有し、かつ電気・電子部品としての実用性をもつ、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物は未だ得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平6-207083号公報(段落0008)
【特許文献2】特開2000-17179号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002-322366号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、成形時の流動性に優れ、かつそれから得られる成形体が導電性に優れる、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来技術の問題点に鑑み、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂に、特定の異なるDBP吸油量を有する複数のカーボンブラック、及び必要により無機充填材を、それぞれ特定の比率にて配合することにより、成形時の流動性に優れ、かつ成形品の導電性に優れるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれからなる成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第1は、融点が320℃〜420℃のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂45〜89質量%、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック2〜7.5質量%、DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラック9〜33質量%、及び無機充填材0〜33質量%(全ての成分の合計が100質量%)を配合してなり、それから得られる成形体の体積固有抵抗が1×10〜1×109Ω・cmであることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物である。
【0010】
本発明の第2は、前記無機充填材がガラス繊維及び/又はタルクであることを特徴とする前記第1の発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第3は、前記第1又は第2のいずれかの発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物からなることを特徴とする導電性を有する成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物は、成形、特に射出成形時の流動性に優れることから、精細な構造、薄肉部を有する構造等の成形体を容易に成形することが可能であり、得られる成形体は高い導電性を有することから、帯電防止性又は導電性が求められる電気・電子分野向け部品等の用途に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂とは、異方性溶融体を形成するものであり、これらの中で、実質的に芳香族化合物のみの重縮合反応によって得られる全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0014】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物を構成するサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられ、具体的構造単位としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【化1】

【0016】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【化2】

【0017】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【化3】


【0018】
耐熱性、機械的物性、加工性のバランスの観点から、好ましいサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂は、上記構造単位(A1)を30モル%以上有するもの、更に好ましくは(A1)と(B1)をあわせて60モル%以上有するものである。
【0019】
特に好ましいサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂は、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、及び、(I)(II)(III)のいずれかと脱縮合反応可能な他の芳香族化合物0〜20モル%を重縮合してなる融点320〜420℃の全芳香族液晶ポリエステル樹脂、または、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を90〜99モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、及び、(I)(II)(III)と脱縮合反応可能な他の芳香族化合物1〜10モル%(両者を合わせて100モル%とする。)を重縮合してなる融点320〜420℃の全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。ここで、320℃〜420℃の範囲に融点を有するとは、DSCまたはTMA分析において、この温度範囲に融解ピークが検出されることをいい、この温度範囲外に別個のピークが検出されてもよい。
【0020】
上記構造単位の組み合わせとしては、
(A1)
(A1)、(B1)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C2)
(A1)、(B1)、(B3)、(C1)
(A1)、(B1)、(B3)、(C2)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)
(A1)、(A2)、(B1)、(C1)
が好ましく、特に好ましいモノマー組成比としては、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%と、これら以外の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群から選択される芳香族化合物0〜20モル%(両者を合わせて100モル%とする。)とを重縮合してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸4,4’−ジヒドロキシビフェニルが80モル%以下になると、耐熱性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0021】
本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、溶融重合のみによる製造方法、あるいは溶融重合と固相重合の2段重合による製造方法を用いることができる。具体的な例示としては、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物、及び芳香族ジカルボン酸化合物から選択されたモノマーを反応器に仕込み、無水酢酸を投入してモノマーの水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルを窒素雰囲気下の反応器に投入し、無水酢酸を加えて無水酢酸還流下にアセトキシ化を行い、その後昇温して150〜350℃の温度範囲で酢酸を留出しながら脱酢酸溶融重縮合を行うことにより、ポリエステル樹脂を製造する方法が挙げられる。重合時間は、1時間から数十時間の範囲で選択することができる。本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の製造においては、製造前にモノマーの乾燥を行ってもよく、行わなくてもよい。
【0022】
溶融重合により得られた重合体についてさらに固相重合を行う場合は、溶融重合により得られたポリマーを固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素などの不活性雰囲気下において200〜350℃の温度範囲で1〜30時間熱処理するなどの方法が好ましく選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0023】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重縮合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチアネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
【0024】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置などが挙げられる。
【0025】
本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の形状は、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでもよいが、充填材との混合時の分散性の観点から、粉末状あるいは顆粒状が好ましい。
【0026】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物に用いるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の、前記樹脂組成物全体に対する配合の割合は、45〜89質量%、好ましくは50〜89質量%である。この下限未満の場合には、得られる前記樹脂組成物の流動性が低下し、該樹脂組成物の製造及び成形が困難になる。一方、この上限を超える場合には、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック及びDBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラックを所定の比率にて配合することができない。
【0027】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物においては、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックを配合することにより、少量のカーボンブラックの配合により高い導電性が付与される。
【0028】
DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックとしては、ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製のケッチェンブラック(商品名)が使用される。ケッチェンブラックは特殊ファーネス法により製造され、中空構造を有するカーボンブラックである。ケチェンブラックとしては、ケッチェンブラックEC300J(DBP吸油量360ml/100g(カタログ値))、ケッチェンブラックEC600J(DBP吸油量495ml/100g(カタログ値))が使用される。なお、DBP吸油量は、ASTM D2414に準拠して測定される。
【0029】
ここで、「DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック」及び「DBP吸油量が220ml/100gであるカーボンブラック」との記載については、それぞれの数値範囲に特別な意味があるのではなく、前者はケッチェンブラックを、後者はケッチェンブラック以外のカーボンブラックを意味するものである。
【0030】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物に用いるDBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックの配合量は、前記樹脂組成物全体に対して2〜7.5質量%、好ましくは3〜7質量%、さらに好ましくは、4〜6質量%である。この下限値未満の場合には、得られる前記樹脂組成物からなる成形体の導電性が十分でない傾向にある。一方、この上限値を越える場合には、得られる前記樹脂組成物の溶融時の流動性が不十分となり、成形性が低下する傾向にある。
【0031】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物においては、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックと併せて、DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラックを配合する。DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラックは特に限定されないが、具体的な例としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャネルブラック等が挙げられる。アセチレンブラックはアセチレンの熱分解により製造され、ファーネスブラックは炭化水素油や天然ガスの不完全燃焼により製造される。また、サーマルブラックは天然ガスの熱分解により製造される大粒子径のカーボンブラックである。ランプブラックは閉鎖空間での原料の直燃により製造され、チャネルブラックは拡散炎をチャネル鋼の底面に接触させて補足して製造される。
【0032】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物に用いるDBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラックの配合量は、9〜33質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。この下限値未満の場合には、得られるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の導電性が十分でない傾向にある。一方、この上限値を越える場合には、樹脂組成物の製造が困難となる傾向にある。
【0033】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物に用いる無機充填材とは、カーボンブラックを除く無機充填材である。その種類について特に制限はなく、公知のものが使用でき、これらの充填により、機械的特性及び耐熱性の上昇の効果、あるいは成形体の収縮率の異方性の低減の効果が得られる。無機充填材の具体的な例示をすれば、二硫化モリブデン、タルク、マイカ、ガラスフレーク、クレー、セリサイト、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維、炭素繊維、各種ウィスカー等が挙げられる。これらは、単独で使用しても2種類以上使用してもよい。これら無機充填材の中でも、タルク、マイカ、ミルドガラス、ガラス繊維が成形性、耐熱性等のバランスに優れるので好ましい。さらに、タルク及び/又はガラス繊維が特に好ましい。
【0034】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物において、無機充填材としてタルクを用いる場合は、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のタルクであれば特に制限はない。タルクの理論上の化学構造は含水ケイ酸マグネシウムであるが、特に天然物である場合は、酸化鉄、酸化アルミニウム等の不純物を含むことがある。
【0035】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物において、無機充填材としてガラス繊維を用いる場合は、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のガラス繊維であれば特に制限はないが、平均繊維径1〜20μm、平均繊維長3mm以下であるガラス繊維を用いることが好ましい。
【0036】
上記無機充填材の配合量は、前記樹脂組成物全体に対し、0〜33質量%である。この上限値を越える場合には、樹脂組成物の製造及びこれを用いた成形体の成形が困難となる傾向になり、好ましくない。
【0037】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物は、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂を溶融して他の成分と混練して得られるが、溶融混練に用いる設備及び運転方法は、一般にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の溶融混練に使用するものであれば特に制限はない。中でも2軸混練機と呼ばれる、一対のスクリュウを有する混練機を使用して溶融混練し、押し出してペレット化する方法が好ましい。2軸混練機の中でも、切返し機構を有することで充填材の均一分散を可能とする異方向回転式であるもの、食い込みが容易となるバレル−スクリュウ間の空隙が大きい30mmφ以上のシリンダー径を有するもの、スクリュウが2条タイプのもの、及び、スクリュウ間の噛合いが大きいもの、具体的には、噛合い率が1.45以上のものが特に好ましい。
【0038】
2軸混練機を用いて組成物の製造を行う場合は、通常、原料であるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック、DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラック、及び必要により無機充填材を、リボンブレンダー、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて撹拌、混合し、混合物を必要によりオーブン等の設備により乾燥し、2軸混練機のホッパーより供給する方法がとられる。また、無機充填材としてガラス繊維を用いる場合には、組成物中のガラス繊維長を極力維持する目的で、ガラス繊維を2軸混練機のバレル途中に供給(サイドフィード)してもよい。
【0039】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物から成形体を得るための成形方法は特に限定されず、射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押出射出成形等、熱可塑性樹脂の分野で汎用の種々の成形方法が使用される。中でも射出成形が好ましい。
【0040】
本発明に用いる成形機及び成形条件は、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂及びその組成物の成形に一般に使用されている公知のものであれば特に制限は無く、当業者であれば、用途及び形状に応じ、適宜容易に選択することができる。
【0041】
更に、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤及び熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤及び離型剤、染料、可塑剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することもできる。ただしこれらの添加剤や他の熱可塑性樹脂は、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物の製造及び成形の際の400℃付近の温度において分解等が起こらず、また樹脂に悪影響を及ぼさないものである必要がある。
【0042】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の体積固有抵抗は、1×10〜1×109Ω・cm、好ましくは1×10〜1×10Ω・cmである。本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物の用途としては、この下限値程度の導電性であれば問題がない。一方、前記体積固有抵抗の上限値を超える場合には、成形体の帯電防止性あるいは導電性が不十分となる傾向にあり、好ましくない。
【0043】
以上述べたように、理由は明確ではないが、本発明者らは、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂にDBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックを配合する場合、該カーボンブラックの前記樹脂組成物全体に対する配合率が7〜8質量%の間で、前記樹脂組成物の溶融粘度が急激に上昇すること、該樹脂組成物にさらにDBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラック、加えて他の無機充填材を配合した場合でも、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックの配合率が7〜8質量%の間で急激に上昇することを見出した。なお、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂及びその組成物は、溶融時の優れた流動性を生かした、電気、電子部品向けの細密な構造の射出成形体が主たる用途であることから、上記のような急激な溶融粘度の上昇は、成形性に対して重大な問題となる。さらに、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラックの配合率が7〜8質量%より少ない特定の領域において、加えてここにDBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラックを特定の比率で配合することにより、得られる樹脂組成物の溶融粘度の実質的な上昇を伴わずに、必要とされる水準まで導電性を向上できることを見出したのである。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
試験方法:
実施例及び比較例におけるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体の性能の測定方法および評価方法を以下に示す。
(1)溶融粘度の測定
サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(インテスコ株式会社製、Model 2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec-1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、350℃における見掛け粘度を求め、試験値とした。なお、試験には、予めエアーオーブン中、150℃、4時間乾燥した樹脂組成物ペレットを用いた。
(2)体積固有抵抗の測定
成形体の体積固有抵抗は、JIS K6271に準拠し測定した。即ち、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH-1000)にて60mm角、厚み1mmの試験片を作成し、デジタルオームメーター(株式会社川口電気製作所製、R-506)にて測定した。
【0046】
製造例(サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂の製造):
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298g(2.16キロモル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)134kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)90kg(0.54キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)30kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kg、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.10kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸390kg(3.82キロモル)を添加し、攪拌翼の回転速度45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が305℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却装置で冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により2.0mmメッシュ以下に粉砕してプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で10時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が295℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂を得た。
【0047】
無機充填材:
以下の実施例で使用した無機充填材を示す。
(1)ガラス繊維:オーウェンスコーニング製造(株)製、PX-1
(2)タルク:林化成社製、MSKY(平均粒径24μm、アスペクト比7)
【0048】
(実施例1)
前記製造例にて得た粉末状サーモトロピック液晶ポリエステルを全樹脂組成物に対して87質量%、顆粒状のケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラック・インターナションナル株式会社製、DBP吸油量376ml/100g)3質量%、カーボンブラック REGAL99I(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、DBP吸油量63ml/100g)10質量%をリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。シリンダーの最高温度を380℃に設定したシリンダー径30mmの2軸押出機(池貝鉄鋼社製PCM-30:2条タイプ)を用い、そのホッパーに前記の乾燥した混合物を投入し、押出速度10kg/hrにて溶融混練して目的のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットをエアーオーブン中、150℃、4時間乾燥し、前記の試験方法にて、溶融粘度の測定を行った。結果を表1に示す。
また、得られたペレットをエアーオーブン中、150℃、4時間乾燥し、日精樹脂工業株式会社製射出成形機、UH-1000を用い、射出成形により試験片を成形した。得られた試験片を用い、前記の試験方法により体積固有抵抗の測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2〜6)及び(比較例1〜6)
実施例1で使用したものと同一のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂、ケッチェンブラックEC300J、カーボンブラック REGAL99Iを用い、必要によりガラス繊維又はタルクを配合し、それぞれ表1に記載した組成とした以外は、実施例1と同様の設備、操作方法により、それぞれのサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物を製造した。なお、実施例5においてガラス繊維は、全量2軸混練機のバレル途中に供給(サイドフィード)した。また、実施例6においてタルクは他の材料と共に混合して、2軸混練機のホッパーより供給した。それぞれの例において得られた樹脂組成物について、実施例1と同様に溶融粘度を測定し、また実施例1と同様に射出成形により試験片を成形し、体積固有抵抗の測定を行った。結果を表1に示す。なお、比較例6は、ブランク試験として、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂のみを同一条件にて混練したものである。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例3〜6と比較例2及び4とを比較すると、ケッチェンブラックEC300Jの樹脂組成物全体に対する配合比率が7〜8質量%以上の領域において、該組成物の溶融粘度が急激に上昇することが判る。また、本発明の組成範囲内でケッチェンブラックEC300Jとカーボンブラック REGAL99Iとを組み合わせて使用することにより、樹脂組成物の溶融粘度が著しく上昇することなく、優れた導電性を示すことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、溶融時の流動性が高く、成形性に優れることから、特に射出成形により、細密な構造あるいは薄肉部を有する構造等を持つ成形体が容易に成形可能であり、かつ得られる成形体の体積固有抵抗が小さいことから、帯電防止性、導電性に優れた電気・電子部品が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が320℃〜420℃のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂45〜89質量%、DBP吸油量が300〜600ml/100gであるカーボンブラック2〜7.5質量%、DBP吸油量が220ml/100g以下であるカーボンブラック9〜33質量%、及び無機充填材0〜33質量%(全ての成分の合計が100質量%)を配合してなり、それから得られる成形体の体積固有抵抗が1×10〜1×109Ω・cmであることを特徴とするサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材がガラス繊維及び/又はタルクであることを特徴とする請求項1又は2記載のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物からなることを特徴とする導電性を有する成形体。

【公開番号】特開2008−247985(P2008−247985A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88206(P2007−88206)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】