説明

導電性樹脂組成物

【課題】高度な導電性を有し、かつ変形特性の改善された成形品を与える導電性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、導電性炭素化合物(B成分)0.1〜15重量部を含有してなる導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。より詳しくはポリカーボネート樹脂と導電性炭素化合物を含有する導電性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明はポリカーボネート樹脂の有する良好な変形特性を損なわない、導電性に優れた樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、芳香族もしくは脂肪族ジオキシ化合物を炭酸エステルにより連結させたポリマーであり、その中でも2,2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)より得られるポリカーボネート樹脂(以下「PCーA」と称することがある)は、透明性、耐熱性に優れ、また耐衝撃性等の機械特性に優れた性質を有することから多くの分野に用いられている。
【0003】
一般的にポリカーボネート樹脂は石油資源から得られる原料を用いて製造されるが、石油資源の枯渇が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の製造が求められている。
【0004】
生物起源物質を原料として使用されたバイオマス材料の代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、更に、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。しかしながら、ポリ乳酸は、工業材料として使用するに当っては、その耐熱性が不足し、また生産性の高い射出成形によって成形品を得ようとすると、結晶性ポリマーとしてはその結晶性が低いため成形性が劣るという問題がある。こういった意味からもバイオマス材料の工業材料への展開を考えた場合、ポリカーボネート樹脂のような非晶性を有するバイオマス材料が求められている。
【0005】
生物起源物質を原料として使用されたポリカーボネート樹脂としては、ポリ乳酸樹脂の他に、糖質から製造可能なエーテルジオール残基から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂が検討されている。
【0006】
例えば、下記式(a)
【化1】

に示したエーテルジオールは、たとえば糖類およびでんぷんなどから容易に作られ、3種の立体異性体が知られているが、具体的には下記式(b)
【化2】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール(本明細書では以下「イソソルビド」と呼称する)、下記式(c)
【化3】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーマンニトール(本明細書では以下「イソマンニド」と呼称する)、下記式(d)
【化4】

に示す、1,4:3,6ージアンヒドローLーイジトール(本明細書では以下「イソイディッド」と呼称する)である。
【0007】
イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドはそれぞれDーグルコース、Dーマンノース、Lーイドースから得られる。たとえばイソソルビドの場合、Dーグルコースを水添した後、酸触媒を用いて脱水することにより得ることができる。
【0008】
これまで上記のエーテルジオールの中でも、特に、モノマーとしてイソソルビドを中心に用いてポリカーボネートに組み込むことが検討されてきた。特にイソソルビドのホモポリカーボネートについては特許文献1、2、非特許文献1、2に記載されている。このうち特許文献1では、溶融エステル交換法を用いて203℃の融点を持つホモポリカーボネートを報告している。また非特許文献1では、酢酸亜鉛を触媒として用いた溶融エステル交換法において、ガラス転移温度が166℃のホモポリカーボネートを得ているが、熱分解温度(5%重量減少温度)が283℃と熱安定性は充分でない。非特許文献2においては、イソソルビドのビスクロロフォーメートを用いた界面重合を用いてホモポリカーボネートを得ているが、ガラス転移温度が144℃と耐熱性(殊に吸湿による耐熱性)が充分でない。一方、耐熱性が高い例として、特許文献2では昇温速度10℃/分での示差熱量測定によるガラス転移温度が170℃以上であるポリカーボネートを報告しているが、これらの文献に記載されているポリカーボネート樹脂は工業材料への展開を考えた樹脂組成物の検討が一切されていない。
【0009】
導電性炭素化合物を充填した熱可塑性樹脂組成物は、既に多くの提案がなされ一部実用化されている。かかる熱可塑性樹脂にはポリカーボネート樹脂も含まれる。特に導電性炭素化合物としてカーボンナノチューブを配合した複合材料の特徴としては、粒子による汚染が少ないこと、アウトガスが少ないこと、表面仕上がりおよび光沢がよいこと、流動性に優れること、反りが少ないこと、リサイクル性に優れること、および樹脂素材の物性を保持できることなどが知られている(非特許文献3参照)。
【0010】
特に優れたリサイクル性は、環境負荷の低減およびコストの低減において有効な活用が望まれる特徴である。しかしながら、ポリカーボネート樹脂(以下PCと略称する場合がある)とカーボンナノチューブ(以下CNTと略称する場合がある)からなる樹脂組成物は、その引張破断伸度の如き変形特性に劣るという欠点がある。変形特性の不良は、セルフタップ強度特性、および熱曲げ加工の如き二次加工特性の低下を招くものであった。変形特性の不良は、PCのガラス転移温度が高いほど、またPCへの靱性の要求が高い用途ほど顕著となりやすい。
従来、PCとCNTからなる樹脂組成物の知見は多く存在するが、いずれも引張破断伸度の如き変形特性の改善について十分な知見があるとはいい難いのが現状である。
【0011】
非特許文献3の185頁表1によれば、ハイペリオン社よりPCをベースレジンとしたCNTのマスターバッチ(グレード名:MB6015−00)が販売されていることは公知である。またハイペリオン社では、マスターバッチのみを販売しCNT単体の販売を現在一切行っていないことも該文献に記載されている。
【0012】
更に上記文献3の187頁表3には、CNTを3%配合したPCの各種特性が示されている。また上記文献3の194〜201頁には、油化電子(株)製のHIPERSITE W1000シリーズがPCを初めとする熱可塑性樹脂にCNTを複合化した材料であるとして、該シリーズの紹介記事が記載されている。
【0013】
PCにCNTを配合し、特定の衝撃強さおよび体積抵抗率を満足するポリマー組成物は公知である(特許文献3参照)。より具体的にはかかる組成物は、PCにCNTを配合したマスターバッチとPCとを二軸押出機で溶融混練することにより製造されている。本文献によれば、鳥の巣形態(いわゆるBNタイプ)のフィブリル(カーボンナノチューブ)に比較して、コーム糸形態のフィブリルを配合したポリカーボネート樹脂組成物は良好な耐衝撃性を有し、したがって絡み合い度が少ないほど組成物の機械的性質は良好になることが公知である。しかしながら本文献は樹脂組成物の変形特性の改善に関して有用な知見を開示していない。
【0014】
更に、PCにCNTを配合した樹脂組成物に関しては、以下に示す事項が公知である。
PCにハイペリオン社製のBNタイプのCNTを配合した樹脂組成物及びそれから成形された成形品、並びにかかる成形品を粉砕および再成形する操作を繰り返して得られた成形品が公知である(特許文献4参照)。同様の組成物は、特許文献5、6、および7においても公知である。
【0015】
またマスターバッチに関しては、ハイペリオン社製のPCマスターバッチの重量平均分子量が19,500であるとの知見がある(特許文献8参照)。粘度平均分子量が約15,000のPCにハイペリオン社製のBNタイプのCNTを配合した樹脂組成物も公知である(特許文献9参照)。
またCVD法によってトルエンから合成され、非黒鉛性の多層構造を有する微細炭素繊維と、PCとからなる樹脂組成物が公知である(特許文献10参照)。
このように非常に多くのPCとCNTからなる樹脂組成物は開示されているが、かかる樹脂組成物の変形特性を改善する方法については全く記載されていない。
【0016】
【特許文献1】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/013463号パンフレット
【特許文献3】特表平08−508534号公報
【特許文献4】特開2001−310994号公報
【特許文献5】特開2002−175723号公報
【特許文献6】特開2002−275276号公報
【特許文献7】特開2003−082115号公報
【特許文献8】特開2002−214928号公報
【特許文献9】特開2000−044815号公報
【特許文献10】WO2004/070095号パンフレット
【非特許文献1】“Journal of Applied Polymer Science”,2002年, 第86巻, p.872〜880
【非特許文献2】“Macromolecules”,1996年,第29巻,p.8077〜8082
【非特許文献3】カーボンナノチューブの合成・評価、実用化とナノ分散・配合制御技術 (株)技術情報協会、2003年2月26日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のごとく、導電性炭素化合物、特にカーボンナノチューブを含有するポリカーボネート樹脂組成物の高度な導電性を発揮しかつその変形特性を改善するとの技術的課題は未だ知られておらず、その解決方法も開示されていないのが現状である。従って、本発明は高度な導電性を有し、かつ変形特性の改善された導電性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、特定のポリカーボネート樹脂に、導電性炭素化合物および所望により無水マレイン酸共重合体を配合した導電性ポリカーボネート樹脂組成物が上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明によれば、
1.下記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、導電性炭素化合物(B成分)0.1〜15重量部を含有してなる導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
【化5】

2.ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、リン系熱安定剤(C成分)0.001〜0.5重量部を含有してなる前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
3.ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、酸変性ポリオレフィン系ワックス(D成分)0.01〜1重量部を含有してなる前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
4.ポリカーボネート樹脂(A成分)は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.20〜0.50であり、ガラス転移温度(Tg)が145〜165℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が300〜400℃である前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
5.上記式(1)で表されるカーボネート構成単位は、イソソルビド(1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位である前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
6.導電性炭素化合物(B成分)は、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブである前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
7.導電性炭素化合物(B成分)は、ジブチルフタレート給油量が100ml/100g〜1000ml/100gであるカーボンブラックまたは直径0.7nm〜100nmであり、かつアスペクト比が5以上であるカーボンナノチューブである前項6記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
8.リン系熱安定剤(C成分)は、下記式(2)で表わされる構造(以下「−X」基と表わす)を含むリン系熱安定剤である前項2記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、
【化6】

(上記式(2)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基であり、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。)
9.リン系熱安定剤(C成分)は、下記式(3)、下記式(4)、および下記式(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である前項8記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物、および
【化7】

【化8】

【化9】

(上記式(3)、(4)、および(5)において、「−X」は前記式(2)で示される基である。)
10.前項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品、
が提供される。
【0020】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、前記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂であり、全カーボネート構成単位中、前記式(1)で表わされる構成単位が60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上が特に好ましい。最も好適には、前記式(1)のカーボネート構成単位のみからなるホモポリカーボネート樹脂である。
【0021】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、上記式(1)のカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂であり、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度の下限は0.20以上が好ましく、より好ましくは0.22以上であり、また上限は0.50以下が好ましく、より好ましくは0.45以下であり、さらに好ましくは0.37以下である。比粘度が0.20より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂組成物より得られた成形品に充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.50より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまい好ましくない。また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600secー1で0.4×10〜3.0×10Pa・sの範囲にあることが好ましく、0.4×10〜2.4×10Pa・sの範囲にあることより好ましく、更により好ましくは0.4×10〜1.8×10Pa・sである。溶融粘度がこの範囲であると機械的強度に優れ、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際に成形時のシルバーの発生等が無く良好である。
【0022】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、そのガラス転移温度(Tg)の下限は145℃以上が好ましく、より好ましくは148℃以上であり、また上限は165℃以下が好ましく、より好ましくは163℃以下である。Tgが145℃未満だと耐熱性(殊に吸湿による耐熱性)に劣り、165℃を超えると本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際の溶融流動性に劣る。TgはTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定される。
【0023】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、その5%重量減少温度の下限は300℃以上が好ましく、より好ましくは330℃以上であり、さらに好ましくは350℃以上であり、また上限は400℃以下が好ましく、より好ましくは390℃以下であり、さらに好ましくは380℃以下である。5%重量減少温度が上記範囲内であると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際の樹脂の分解がほとんど無く好ましい。5%重量減少温度はTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定される。
【0024】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、下記式(a)
【化10】

で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)
【化11】

【化12】

【化13】

で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。
【0025】
これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0026】
特に、カーボネート構成単位がイソソルビド(1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位を含んでなるポリカーボネート樹脂が好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。
【0027】
また本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、その特性を損なわない範囲で脂肪族ジオール類または芳香族ビスフェノール類との共重合としても良い。かかる脂肪族ジオールとしては、下記式(6)
【化14】

(式中 mは1〜10の整数)
で表される脂肪族ジオールが好ましく用いられる。具体的にはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状ジオール類や、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルキレン類などが挙げられ、中でも1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、およびシクロヘキサンジメタノールが好ましい。また上記式(1)で表されるエーテルジオールおよび上記式(6)で表されるジオールに加えて他のジオール残基を含むことも好ましい。その他のジオールとしてはジメタノールベンゼン、ジエタノールベンゼンなどの芳香族ジオール、ビスフェノール類などを挙げることができる。
【0028】
また本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、その特性を損なわない範囲で末端基を導入することもできる。かかる末端基は、対応するヒドロキシ化合物を重合時に添加することにより導入することができる。ヒドロキシ化合物としては下記式(7)または(8)
【化15】

【化16】

で表されるヒドロキシ化合物が好ましく用いられる。
【0029】
上記式(7),(8)中、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、または下記式(9)
【化17】

であり、好ましくは炭素原子数4〜20のアルキル基、炭素原子数4〜20のパーフルオロアルキル基、または上記式(9)であり、特に炭素原子数8〜20のアルキル基、または上記式(9)が好ましい。Yは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合が好ましいが、より好ましくは単結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合であり、なかでも単結合、エステル結合が好ましい。aは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、特に1が好ましい。
【0030】
また、上記式(9)中、R,R,R,R及びRは、夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、好ましくは夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基及び炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、特に夫々独立してメチル基及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基が好ましい。bは0〜3の整数であり、1〜3の整数が好ましく、特に2〜3の整数が好ましい。cは4〜100の整数であり、4〜50の整数が好ましく、特に8〜50の整数が好ましい。
【0031】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、植物などの再生可能資源から得られる原料を用いたカーボネート構成単位を主鎖構造に持つことから、これらのヒドロキシ化合物もまた植物などの再生可能資源から得られる原料であることが好ましい。植物から得られるヒドロキシ化合物としては、植物油から得られる炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール類(セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール)などが挙げられる。
【0032】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、前記式(a)で表されるエーテルジオールを含むビスヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合し、エステル交換反応によって生成するアルコールまたはフェノールを高温減圧下にて留出させる溶融重合を行うことによって得ることができる。
【0033】
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましいが、重合反応を適切に進める為には重合温度は180℃〜280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180℃〜270℃の範囲である。
【0034】
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には系を1.3×10−3〜1.3×10−5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0035】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。該重合触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、二価フェノールのナトリウム塩またはカリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。
【0036】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0037】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)の製造に用いる炭酸ジエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜18のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(p−ブチルフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0038】
炭酸ジエステルは全エーテルジオール化合物に対してモル比で1.05〜0.97の割合で用いる事が好ましく、1.03〜0.97の割合で用いる事がより好ましく、1.03〜0.99の割合で用いる事がさらに好ましい。炭酸ジエステルのモル比が1.02より多くなると、炭酸エステル残基が末端封止として働いてしまい充分な重合度が得られなくなってしまい好ましくない。また炭酸ジエステルのモル比が0.98より少ない場合でも、充分な重合度が得られず好ましくない。
【0039】
上記製造法により得られたポリカーボネート樹脂(A成分)に触媒失活剤を添加する事もできる。触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましく、更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の上記塩類やパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸の上記塩類が好ましい。またスルホン酸のエステルとしてベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が好ましく用いられ、その中でもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が最も好ましく使用される。これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた前記重合触媒1モル当たり0.5〜50モルの割合で、好ましくは0.5〜10モルの割合で、更に好ましくは0.8〜5モルの割合で使用する事ができる。
【0040】
本発明に用いる導電性炭素化合物(B成分)は、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブが好ましく、ジブチルフタレート給油量(以下DBP吸油量と略称する場合がある。)が100ml/100g〜1000ml/100gであるカーボンブラック、または直径0.7nm〜100nmであり、かつアスペクト比が5以上であるカーボンナノチューブがより好ましい。
本発明においてB成分として用いるカーボンナノチューブは、筒状のグラフェンシートが軸方向に対する放射方向に積層した構造の繊維状物質である。
【0041】
本発明のカーボンナノチューブの製造法は特に限定されるものではない。アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)、および触媒化学気相成長法(CCVD法)などに代表されるカーボンナノチューブの製造法として公知の方法を利用できる。
【0042】
本発明のカーボンナノチューブの製造法におけるアーク放電法として、容器内に配置された炭素電極からなる陽極と該陽極に対抗配置された炭素電極からなる陰極との間にアーク放電させ、容器内壁および電極に生成された堆積物を回収する方法が好適に例示される。
【0043】
本発明のカーボンナノチューブの製造法におけるレーザー蒸発法として、炭素および1種類以上の周期律表VIII族遷移金属の混合物をレーザーパルスによって気化させ、該混合気体を装置内に凝集させることによって製造する方法が好適に例示される。かかるVIII族遷移金属としては、例えば鉄、ニッケル、およびコバルトが好適に例示される。
【0044】
本発明のカーボンナノチューブの化学気相成長法(CVD法)として、少なくとも1種の遷移金属またはその化合物を触媒として、周期律表の第VI族元素を含有する化合物と、炭素源となる有機化合物または周期律表の第VI族元素を有する有機化合物とを、水素、メタン、または不活性ガスからなるキャリアーガスと共に反応炉に導入して、化学気相成長法により合成する方法が好適に例示される。かかるCVD法においては、遷移金属触媒が担体に担持されて用いられる触媒化学気相成長法(CCVD法)であってもよい。これらの中でも、低コストで大量生産が可能なCVD法およびCCVD法が好ましい。
【0045】
CVD法およびCCVD法を用いて本発明のカーボンナノチューブを製造するとき、大まかには、直接かかる灰化残渣量となるカーボンナノチューブを合成する方法、並びにカーボンナノチューブ中の触媒残渣を洗浄する方法が利用される。触媒残渣は灰化残渣の源になる。もちろん、前者の方法で得られた灰化残渣量の少ないカーボンナノチューブを洗浄することによりその灰化残渣量が更に低減されてもよい。
【0046】
上記前者の合成方法では合成時の触媒量を制御することにより、本発明のカーボンナノチューブが得られる。即ち、導入する炭化水素に対する触媒量を制御する。より少ない触媒量でカーボンナノチューブの合成が可能なCCVD法が有利といえる。但しかかる方法は実用的には触媒およびその担体を安定に作用させることが未だ困難な点がある。CVD法では、灰化残渣が3重量%以下となるよう反応炉への供給する炭化水素量と触媒量とを調整する。一方、洗浄法では、酸性化合物、アルカリ性化合物、および超臨界流体などを用いて、カーボンナノチューブ中の触媒残渣の洗浄を行う。かかる洗浄は、カーボンナノチューブの合成後に行っても、また高温熱処理前の素生成品の段階で行ってもよい。洗浄法による灰化残渣の減量は比較的困難であり、カーボンナノチューブのコスト増につながる。したがって好ましい方法は、直接かかる灰化残渣量となるカーボンナノチューブを合成する方法である。
【0047】
以下、本発明のカーボンナノチューブを合成する好ましい方法である、上記CVD法およびCCVD法について説明する。
【0048】
(カーボンナノチューブの合成原料)
カーボンナノチューブの合成原料としては、炭化水素、周期表第VIB族元素を含む化合物、これらの混合物等が使用できる。炭化水素としては芳香族系炭化水素が好ましい。芳香族系炭化水素としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどのアルキル基置換ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(o−、m−及びp−ジクロロベンゼン)、トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン、およびジブロモベンゼンなどのハロゲン化ベンゼン、ナフタレン、並びにメチルナフタレンおよびジメチルナフタレンなどのアルキル基置換ナフタレン化合物などが例示される。
【0049】
上記周期表第VIB族元素を含む化合物としては、酸素または硫黄を含むものが好ましく、特に酸素を含む有機化合物が好ましい。含酸素化合物としては一酸化炭素、二酸化炭素、アルコール類、ケトン類、フェノール類、エーテル類、アルデヒド類、有機酸類、およびエステル類が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、フェノール、クレゾール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、およびこれらの誘導体などが挙げられる。また硫黄を含む化合物としては、硫化水素、二硫化炭素、二酸化硫黄、硫黄、チオール、チオエーテル、チオフェン類、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらの含酸素化合物または含硫黄化合物は単独で使用しされてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0050】
(カーボンナノチューブの合成触媒)
カーボンナノチューブの合成時の触媒としては遷移金属からなる超微粒子が用いられる。遷移金属としては鉄、コバルト、ニッケル、イットリウム、チタン、バナジウム、マンガン、クロム、銅、ニオブ、モリブデン、パラジウム、タングステン、および白金などが例示される。これらの中でも鉄、ニッケル、およびモリブデンから選択される少なくとも1種の元素が好ましい。これらの金属は単体で使用されても、これらの金属を含む化合物として使用されてもよい。金属化合物としては、有機化合物、無機化合物、又はこれらを組み合わせたものが好ましい。有機化合物としては、フェロセン、ニッケルセン、コバルトセン、鉄カルボニル、およびアセトナート鉄などが挙げられる。また無機化合物としては、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などのいずれの形態でもよい。2種以上の金属を組み合わせて使用してもよい。組合せによっては、より大きな触媒効果が得られる。特に有機金属化合物は、該化合物をガス化させて反応炉内に触媒を供給することが容易であることから、CVD法において好適に利用される。
【0051】
上記金属または金属化合物の微粒子をそのまま使用してもよいが、これらの微粒子を無機担体に担持させてもよい。無機担体としては、アルミナ、ゼオライト、炭素、マグネシア、カルシア、およびアルミノリン酸塩などが好ましい。特に耐熱性の高いゼオライトが好ましい。かかる無機担体における担持のために孔は、均一であることが好ましく、その孔径は1nm前後であることが好ましい。
触媒の導入方法としては、単独でガス化する方法、炭素原料と混合してからガス化する方法、キャリアーガスで希釈する方法、または炭素原料に溶解して液状で投入する方法など、いずれの方法でもよい。
【0052】
(カーボンナノチューブ合成時の反応条件)
本発明のカーボンナノチューブを合成する際、より好ましい反応条件は次のとおりである。(a)炉内の滞留時間に関して、物質収支から計算された炭素の滞留時間は、好ましくは2〜10秒、より好ましくは5〜10秒である。(b)炉内温度は、好ましくは1,000〜1,350℃、より好ましくは1,100〜1250℃である。(c)触媒および原料炭素化合物の炉内への投入は、好ましくは300〜450℃、より好ましくは330〜400℃の範囲で予熱してガス状で行う。(d)炉内ガス中の炭素濃度は、好ましくは1〜20容量%、より好ましくは3〜10容量%、更に好ましくは5〜9容量%の範囲に制御する。(e)炉内の圧力は、約98kPaを下限とし、上限を200kPaとすることが好ましい。(f)上記合成原料中における炭素の重量と、上記合成触媒中における遷移金属との重量との合計中、遷移金属の重量は3重量%以下、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.1〜0.8重量%、更に好ましくは0.2〜0.7重量%とする。尚、上記炉内の圧力の下限は98kPaを基本とするが、大気圧中の雰囲気下であれば特に問題がないことを意味する。
【0053】
更に上記の如き条件で得られたカーボンナノチューブを高温熱処理することにより、吸着した炭化水素を分離し、更に高い温度で熱処理することにより結晶の発達を促進する。かかる高温処理により最終的なカーボンナノチューブを得ることが好ましい。
【0054】
(g)上記(a)〜(f)の条件により得られた素生成のカーボンナノチューブを、好ましくは1,100〜1,500℃、より好ましくは1,300〜1,450℃の範囲で熱処理し、炭化水素を分離する。(h)次の段階として、2,000〜3,000℃、好ましく2,500〜3,000℃の範囲で高温熱処理して結晶の発達を促進する。上記(a)〜(h)の条件を満足することにより、本発明のカーボンナノチューブを比較的低コストで、安定して製造することができる。
【0055】
(カーボンナノチューブの構造的特徴について)
本発明のカーボンナノチューブは、グラフェンシートの層数が1層、2層、または2層を超える複数層であってよい。特に2層を超える複数層が好ましい。本発明のカーボンナノチューブの繊維径は、好ましくは0.7〜100nm、より好ましくは7〜100nm、更に好ましくは15〜90nmである。本発明のカーボンナノチューブのアスペクト比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比は、走査型電子顕微鏡倍率3〜10万倍にて長さと直径を測定し、その比より求めることができる。なお、長さの測定は以下の方法で実施する。まずその観察像をCCDカメラに画像データとして取り込む。次に得られた画像データを、画像解析装置を使用して繊維長を算出する。測定本数は5000本以上として行う。また、直径の測定は以下の方法で実施する。まず電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、直径を測定する対象のカーボンナノチューブをランダムに抽出し、中央部に近いところで直径を測定する。なお、断面が円でない場合はその最大値を直径とする。得られた測定値から数平均直径を算出する。近年の電子顕微鏡はその観察画面上の長さを算出する機能が備えられているため、かかる直径も比較的容易に算出可能である。測定本数は1,000本以上として行う。
【0056】
本発明のカーボンナノチューブにおけるグラフェンシート間の距離(層間距離)は、3.354〜3.44nmの範囲であっても、3.44nmを超える範囲であってもよい。層間距離の上限は好ましくは3.65nm、より好ましくは3.6nmである。かかる層間距離は3.44nm超えることが好ましい。したがって本発明のカーボンナノチューブは、いわゆる黒鉛化指数が正の値をとり実質的に黒鉛構造を有するものであっても、黒鉛化指数が負の値をとり非黒鉛性の多層構造であってもよい。より好ましいのは黒鉛化指数が負の値をとり非黒鉛性の多層構造である。
【0057】
本発明のカーボンナノチューブは、そのグラフェンシートの各層が円柱軸に対して実質的に同心円構造を有するものであっても、該シートの間隔が繊維全体に渉り変化するものであってもよい。本発明でより好ましいのは、後者のシートの間隔が繊維全体に渉り変化するものである。またグラフェンシートの積層が繊維軸に対して一定の角度で傾斜した構造であってもよい。かかる場合その傾斜角度は、中心線に対して25〜35度の範囲が好ましい。
本発明のカーボンナノチューブは、各層のカイラリティーが無作為に組み合わされたものが好ましく、またグラフェンシート中に6員環でない炭素環構造が存在してもよい。
【0058】
本発明においてB成分として用いるカーボンブラックとしては、従来公知のケッチェンブラック,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ランプブラック,サーマルブラック,チャネルブラック,ロールブラック,ディスクブラック等を挙げることができる。これらのカーボンブラックの中で、特にケッチェンブラック,アセチレンブラック,ファーネスブラックが好ましい。
【0059】
本発明のカーボンブラックは、好ましくはジブチルフタレート吸油量が100ml/100g〜1000ml/100gであり、さらに好ましくは350ml/100g〜600ml/100gであり、原料や製造方法に特に制限はない。ここでいうジブチルフタレート吸油量とは、ASTM D2414−79に規定された方法に従って測定した値であり、この吸油量が大きいほど、高い電気伝導性を有する。ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g未満の導電性カーボンブラックでは、十分な電気伝導性を得るためには多量の配合が必要となり、その結果成形加工性および成形樹脂の機械的強度が損なわれるので好ましくない。
【0060】
導電性炭素化合物(B成分)の含有量は、A成分を100重量部とした場合、0.1〜15重量部であり、1〜12重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。0.1重量部未満では、電気伝導性に劣り、15重量部を越える量では、成形加工性および樹脂組成物の機械的強度が損なわれるので好ましくない。
【0061】
本発明で用いるリン系熱安定剤(C成分)は、下記式(2)で表わされる構造を含むリン系熱安定剤が好ましい。
【化18】

【0062】
上記式(2)中、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましく、特に水素原子、メチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、またはtert−ペンチル基が好ましい。
【0063】
は炭素原子数4〜10のアルキル基であり、炭素原子数4〜6のアルキル基が好ましく、特にイソブチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、またはシクロヘキシル基が好ましい。
【0064】
は水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数6〜10のアリール基が好ましく、特に水素原子、または炭素原子数1〜10のアルキル基が好ましい。
【0065】
上記式(2)で表わされる構造を「−X」基と表わした時、本発明で用いられるリン系熱安定剤は、下記式(3)、(4)および(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0066】
【化19】

【化20】

【化21】

【0067】
上記式(3)の好ましい具体例として、トリス(2−イソブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ペンチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−6−メチルフェニル)ホスファイトが挙げられ、特にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0068】
上記式(4)の好ましい具体例として、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトが挙げられ、特にテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0069】
上記式(5)の好ましい具体例として、ビス(2−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−tert−ペンチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−シクロヘキシルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられ、特にビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0070】
また、本発明で用いるリン系熱安定剤(C成分)は、下記式(10)で表わされるリン系熱安定剤も好ましく使用できる。
【化22】

上記式(10)中、Xは炭素原子数5〜18のアルキル基であり、炭素原子数8〜18のアルキル基が好ましく、炭素原子数10〜18のアルキル基が特に好ましい。
【0071】
式(6)の具体例として、トリス(2−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−6−メチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ー4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2―tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられ、特にジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0072】
かかるC成分の化合物は、1種または2種以上の混合物であってもよい。
本発明で用いるリン系安定剤(C成分)の量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.5重量部であり、0.005〜0.5重量部がより好ましく、0.005〜0.3重量部がさらに好ましく、0.01〜0.3重量部が最も好ましい。リン系安定剤がこの範囲内にあると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の分子量低下や色相悪化などを抑える事ができる。
【0073】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、さらにヒンダードフェノール系熱安定剤を加えても良い。ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えばオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5ービス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル(アルキルは炭素数7〜9で側鎖を有する)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−イソプロピリデンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−tert−ペンチル−6−(3−tert−ペンチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルメタクリレート、2−tert−ペンチル−6−(3−tert−ペンチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ブチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ブチルフェニルメタクリレート、および2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルメタクリレートなどが挙げられる。
【0074】
ヒンダードフェノール系熱安定剤の配合量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0005〜0.1重量部が好ましく、0.001〜0.1重量部がより好ましく、0.005〜0.1重量部がさらに好ましく、0.01〜0.1重量部が特に好ましい。
【0075】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、高度な溶融熱安定性を維持しつつ、良好な電気伝導性のある成形品を得るために、酸変性ポリオレフィン系ワックス(D成分)を加えることが好ましい。この酸変性ポリオレフィン系ワックスとは、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基およびホスフィン酸基に代表される酸性基を有する酸変性ポリオレフィン系ワックスである。
【0076】
酸変性ポリオレフィン系ワックスとして好適な態様は、上記に例示された酸性基の少なくとも1種を有する酸変性ポリオレフィン系ワックスであり、特に好適には、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有する酸変性ポリオレフィン系ワックスである。酸変性ポリオレフィン系ワックスにおいてその酸性基の濃度は、好ましくは0.05〜10meq/gの範囲、より好ましくは0.1〜6meq/gの範囲、さらに好ましくは0.5〜4meq/gの範囲である。
【0077】
オレフィン系ワックスとしてはパラフィンワックス類としてパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、およびα−オレフィン重合体などが例示される。
【0078】
かかる酸変性ポリオレフィン系ワックスにカルボキシル基類を結合する方法としては、例えば、(a)カルボキシル基類を有する単量体とα−オレフィン単量体とを共重合する方法、(b)上記滑剤に対してカルボキシル基類を有する化合物または単量体を結合または共重合する方法等を挙げることができる。
【0079】
上記(a)の方法では、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等のラジカル重合法の他、リビング重合法を採用することもできる。さらに一旦マクロモノマーを形成した後重合する方法も可能である。共重合体の形態はランダム共重合体の他に、交互共重合体、ブロック共重合体、テーパード共重合体等の各種形態の共重合体として使用することができる。上記(b)の方法では、酸変性ポリオレフィン系ワックスに、必要に応じて、パーオキサイドや2,3−ジメチル−2,3ジフェニルブタン(通称“ジクミル”)等のラジカル発生剤を加え、高温下で反応または共重合する方法を採用することができる。かかる方法は酸変性ポリオレフィン系ワックス中に熱的に反応活性点を生成し、かかる活性点に反応する化合物または単量体を反応させるものである。反応に要する活性点を生成するその他の方法として、放射線や電子線の照射やメカノケミカル手法による外力の付与等の方法も挙げられる。さらに酸変性ポリオレフィン系ワックス中に予め反応に要する活性点を生成する単量体を共重合しておく方法も挙げられる。反応のための活性点としては不飽和結合およびパーオキサイド結合などが挙げられ、さらに活性点を得る方法としてTEMPOに代表されるニトロキシド介在ラジカル重合が挙げられる。
【0080】
前記カルボキシル基類を有する化合物または単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、および無水シトラコン酸などが例示され、特に無水マレイン酸が好適である。
【0081】
酸変性ポリオレフィン系ワックスとしてより好適であるのは、カルボキシル基類含有滑剤1g当たり、カルボキシル基類を好ましくは0.05〜10meq/gの範囲、より好ましくは0.1〜6meq/gの範囲、さらに好ましくは0.5〜4meq/gの範囲で含有するカルボキシル基類含有オレフィン系ワックスである。さらにオレフィン系ワックスの分子量は1×10〜1×10が好ましく、5×10〜1×10がより好ましい。尚、かかる分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)における標準ポリスチレンより得られた較正曲線を基準にして算出された重量平均分子量である。
【0082】
酸変性ポリオレフィン系ワックスとしてさらに好適な態様として、α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体を挙げることができ、かかる共重合体であってさらに上記のカルボキシル基含有割合、および分子量を満足するものが特に好適である。かかる共重合体は、常法に従いラジカル触媒の存在下に、溶融重合あるいはバルク重合法で製造することができる。ここでα−オレフィンとしてはその炭素数が平均値として10〜60のものを好ましく挙げることができる。α−オレフィンとしてより好ましくは炭素数が平均値として16〜60、されに好ましくは25〜55のものを挙げることができる。
【0083】
酸変性ポリオレフィン系ワックスの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部を基準として0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部である。酸変性ポリオレフィン系ワックスの含有量がこの範囲にあれば高度な溶融熱安定性を維持しつつ、良好な電気伝導性のある成形品を得ることができる。
【0084】
本発明の樹脂組成物には、他のポリマーやエラストマーを本発明の効果が発揮される範囲で更に配合することができる。かかる範囲の目安としては、100重量部のA成分を基準として他のポリマーやエラストマーの総量が200重量部以下、好ましくは100重量部以下、更に好ましくは50重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。
【0085】
かかる他のポリマーとしては、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリアリレート(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、並びにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、および環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン、スチレン系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマーなどが例示される。
【0086】
また、エラストマーとしては、例えばオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、およびポリウレタン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが例示される。更にゴム基質にグラフト鎖が結合したゴム質グラフト共重合体もエラストマーとして好適に例示される。ゴム基質とは、ゴム弾性を有し、ガラス転移温度が10℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下である、グラフト重合体のグラフト幹となる重合体である。かかるゴム基質としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体またはブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルとブタジエンとの共重合体、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、アクリル系ゴム、およびシリコーン系ゴムなどが例示される。ゴム質グラフト共重合体のグラフト鎖を誘導する単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルなどが好適に例示される。ゴム質グラフト共重合体の具体例としては、SB(スチレン−ブタジエン)重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)重合体、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、およびメチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)重合体などを挙げることができる。ゴム基質はゴム質グラフト共重合体100重量%中40重量%より多く、50重量%以上が好ましく、55〜85重量%の範囲がより好ましい。
【0087】
また上記スチレン系ポリマーとしては、ポリスチレン(PS)(シンジオタクチックポリスチレンを含む)、AS(アクリロニトリル−スチレン)共重合体、MS(メチルメタクリレート−スチレン)共重合体、およびSMA(スチレン−無水マレイン酸)共重合体などが例示される。スチレン系ポリマーは、上記ゴム質グラフト共重合体と予め一体化された混合物を利用できる。例えば市販されるAS共重合体とABS共重合体の混合物として市販のABS樹脂が利用できる。尚、かかる共重合体にはいわゆる透明ABS樹脂を含む。スチレン系ポリマーは、エポキシ基および酸無水物基などに代表される各種の官能基で変性されていてもよい。これらスチレン系ポリマーは、2種以上混合して使用することも可能である。
【0088】
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等の他、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレート(いわゆるPET−G)、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレートのような共重合ポリエステルも使用できる。なかでも、PET、PBT、PENおよびPBNが好ましい。上記の芳香族ポリエステルは2種以上を混合することができる。またこれらの芳香族ポリエステルは、他の芳香族ジカルボン酸に由来する単位または他のグリコールに由来する単位を50モル%以下、好ましくは1〜30モル%の範囲で共重合した共重合ポリエステルであってもよい。芳香族ポリエステルの分子量については特に制限されないが、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.2、好ましくは0.5〜1.15である。
【0089】
本発明の樹脂組成物には、強化フィラーとして公知の各種充填材を配合することができる。かかる充填材としては、各種の繊維状充填材、板状充填材、および粒状充填材が利用できる。ここで、繊維状充填材はその形状が繊維状(棒状、針状、またはその軸が複数の方向に伸びた形状をいずれも含む)であり、板状充填材はその形状が板状(表面に凹凸を有するものや、板が湾曲を有するものを含む)である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含むこれら以外の形状の充填材である。
上記繊維状や板状の形状は充填材の形状観察より明らかな場合が多いが、例えばいわゆる不定形との差異としては、そのアスペクト比が3以上であるものは繊維状や板状といえる。
【0090】
板状充填材としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリン、メタルフレーク、カーボンフレーク、およびグラファイト、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した板状充填材などが好ましく例示される。その粒径は0.1〜300μmの範囲が好ましい。かかる粒径は、10μm程度までの領域は液相沈降法の1つであるX線透過法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、10〜50μmの領域ではレーザー回折・散乱法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、50〜300μmの領域では振動式篩分け法による値である。かかる粒径は樹脂組成物中での粒径である。板状充填材は、各種のシラン系、チタネート系、アルミネート系、およびジルコネート系などのカップリング剤で表面処理されてもよく、またオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂などの各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどにより集束処理されるか、または圧縮処理された造粒物であってもよい。
【0091】
繊維状充填材は、その繊維径が0.1〜20μmの範囲が好ましい。繊維径の上限は13μmが好ましく、10μmが更に好ましい。一方繊維径の下限は1μmが好ましい。
ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形品を溶剤に溶解するかもくしは樹脂を塩基性化合物で分解した後に採取される残渣、およびるつぼで灰化を行った後に採取される灰化残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。
【0092】
かかる繊維状充填材としては、例えば、ガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、カーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、およびセピオライトなどの繊維状無機充填材、アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表される繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維状充填材などが例示される。異種材料を表面被覆した充填材としては、例えば金属コートガラスファイバー、金属コートガラスフレーク、酸化チタンコートガラスフレーク、および金属コートカーボンファイバーなどが例示される。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。
【0093】
ここで繊維状充填材とは、アスペクト比が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である繊維状の充填材をいう。アスペクト比の上限は10,000程度であり、好ましくは200である。かかる充填材のアスペクト比は樹脂組成物中での値である。繊維状充填材も上記板状充填材と同様に各種のカップリング剤で表面処理されてもよく、各種の樹脂などにより集束処理され、また圧縮処理により造粒されてもよい。
かかる充填材の含有量は、100重量部のA成分を基準として200重量部以下、好ましくは100重量部以下、更に好ましくは50重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。
【0094】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて離型剤を配合することができる。本発明の樹脂組成物には高い寸法精度が要求されることが多い。したがって樹脂組成物は離型性に優れることが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、および蜜蝋などを挙げることができる。かかる離型剤は樹脂組成物100重量%中0.005〜2重量%が好ましい。
【0095】
本発明の脂肪酸エステルは、部分エステルおよび全エステル(フルエステル)のいずれであってもよい。脂肪酸エステルにおいて、酸価は20以下(実質的に0を取り得る)、水酸基価は0.1〜30の範囲、ヨウ素価は10以下(実質的に0を取り得る)が好ましい。これらの特性はJIS K 0070に規定された方法により求めることができる。
【0096】
本発明の樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物は高熱雰囲気下で利用される場合もあることから、その耐加水分解性の改良が求められる場合がある。かかる場合にポリカーボネート樹脂の加水分解改良剤として従来知られた化合物を、本発明の目的を損なわない範囲において配合することができる。かかる化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、シラン化合物およびホスホン酸化合物などが例示され、特にエポキシ化合物およびオキセタン化合物が好適に例示される。エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに代表される脂環式エポキシ化合物、および3−グリシジルプロポキシ−トリエトキシシランに代表される珪素原子含有エポキシ化合物が好適に例示される。かかる加水分解改良剤は、樹脂組成物100重量%中1重量%以下とすることが好ましい。
【0097】
本発明の樹脂組成物に耐候性の改良や紫外線吸収性が要求される場合、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。紫外線吸収剤としては、紫外線吸収剤として公知のベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、環状イミノエステル系化合物、およびシアノアクリレート系化合物などが例示される。より具体的には、例えば2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および1,3−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパンなどが例示される。さらにビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等に代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も使用することが可能である。かかる紫外線吸収剤、光安定剤の含有量は、樹脂組成物100重量%中0.01〜5重量%が好ましい。
【0098】
本発明の樹脂組成物に帯電防止剤を併用することもできる。かかる帯電防止剤としては、例えばポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、および無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。かかる帯電防止剤の含有量は、樹脂組成物100重量%中0.5〜20重量%が好ましい。
【0099】
上記以外にも本発明の樹脂組成物には、摺動剤(例えばPTFE粒子および高分子量ポリエチレン粒子など)、着色剤(例えばカーボンブラックおよび酸化チタンなどの顔料、並びに染料)、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、無機もしくは有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、および微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤(ATO微粒子、ITO微粒子、ホウ化ランタン微粒子、ホウ化タングステン微粒子、およびフタロシアニン系金属錯体など)、フォトクロミック剤、並びに蛍光増白剤などが配合できる。
【0100】
本発明の樹脂組成物の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではない。しかしながら二軸押出機を使用してA成分〜D成分およびその他成分を溶融混練することが好ましい。
【0101】
二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner & Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。その他、FCM(Farrel社製、商品名)、Ko−Kneader(Buss社製、商品名)、およびDSM(Krauss−Maffei社製、商品名)などの溶融混練機も具体例として挙げることができる。上記の中でもZSKに代表されるタイプがより好ましい。かかるZSKタイプの二軸押出機においてそのスクリューは、完全噛合い型であり、スクリューは長さとピッチの異なる各種のスクリューセグメント、および幅の異なる各種のニーディングディスク(またそれに相当する混練用セグメント)からなるものである。
【0102】
二軸押出機においてより好ましい態様は次の通りである。スクリュー形状は1条、2条、および3条のネジスクリューを使用することができ、特に溶融樹脂の搬送能力やせん断混練能力の両方の適用範囲が広い2条ネジスクリューが好ましく使用できる。二軸押出機におけるスクリューの長さ(L)と直径(D)との比(L/D)は、20〜50が好ましく、更に28〜42が好ましい。L/Dが大きい方が均質な分散が達成されやすい一方、大きすぎる場合には熱劣化により樹脂の分解が起こりやすい。スクリューには混練性を上げるためのニーディングディスクセグメント(またはそれに相当する混練セグメント)から構成された混練ゾーンを1個所以上有することが必要であり、1〜3箇所有することが好ましい。
【0103】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。またカーボンナノチューブの分散性を高めたり、樹脂組成物中の不純物を極力除去するため、水、有機溶剤、および超臨界流体などの添加を行ってもよい。更に押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0104】
B成分、任意のC成分やD成分およびその他添加剤(以下の例示において単に“添加剤”と称する)の押出機への供給方法は特に限定されないが、以下の方法が代表的に例示される。(i)添加剤をポリカーボネート樹脂とは独立して押出機中に供給する方法。(ii)添加剤とポリカーボネート樹脂粉末とをスーパーミキサーなどの混合機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法。(iii)添加剤とポリカーボネート樹脂とを予め溶融混練してマスターペレット化する方法。
【0105】
上記方法(ii)の1つは、必要な原材料を全て予備混合して押出機に供給する方法である。また他の方法は、添加剤が高濃度に配合されたマスター剤を作成し、該マスター剤を独立にまたは残りのポリカーボネート樹脂等と更に予備混合した後、押出機に供給する方法である。尚、該マスター剤は、粉末形態および該粉末を圧縮造粒などした形態のいずれも選択できる。また他の予備混合の手段は、例えばナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などがあるが、ヘンシェルミキサーのような高速撹拌型の混合機が好ましい。更に他の予備混合の方法は、例えばポリカーボネート樹脂と添加剤を溶媒中に均一分散させた溶液とした後、該溶媒を除去する方法である。
【0106】
二軸押出機より押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。更に外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0107】
上述のとおり、本発明によれば、A成分100重量部当たり、B成分0.1〜15重量部、および任意にC成分0.001〜0.5重量部、D成分0.01〜1重量部、を混合することを特徴とする製造方法が提供される。かかる製造方法で利用されるA成分、B成分、C成分、およびD成分の詳細は上述のとおりである。かかる混合には、樹脂組成物の製造方法で説明したとおり、ベント式二軸押出機が最も好適に利用できる。
【0108】
かかる溶融混練では、シリンダ温度を好ましくは220〜320℃、より好ましくは240〜300℃に設定し、スクリュー回転数を好ましくは60〜500rpm、より好ましくは70〜200rpmに設定する。
【0109】
上記の如く得られた本発明の樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、二軸押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、および射出成形品にすることも可能である。
【0110】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。より好ましいのは低射出速度でも成形が可能な射出圧縮成形および射出プレス成形である。
【0111】
また本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物は回転成形やブロー成形などにより成形品にしてもよい。
【0112】
更に本発明の樹脂組成物からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。
【発明の効果】
【0113】
本発明の樹脂組成物は、特定のポリカーボネート樹脂に導電性炭素化合物、および特定のリン系安定剤と特定の酸変性ポリオレフィン系ワックスを所望により配合することにより、優れた導電性と改善された溶融熱安定性とを有するものである。かかる特性によって、樹脂組成物は幅広い成形条件に対応し、かつその成形は割れ耐性に優れることから、幅広い用途に適用可能な導電性材料が提供できる。かかる用途としては、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(LCD、有機EL、電子ペーパー、プラズマディスプレー、およびプロジェクタなど)、送電部品(誘電コイル式送電装置のハウジングに代表される)が例示される。かかる用途としては、例えばプリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)が例示される。かかる用途としては、VTRカメラ、光学フィルム式カメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ用レンズユニット、防犯装置、および携帯電話などの精密機器が例示される。特に本発明の樹脂組成物は、カメラ鏡筒、デジタルカメラの如きデジタル画像情報処理装置の筐体、カバー、および枠に好適に利用される。
【0114】
その他更に本発明の樹脂組成物は、マッサージ機や高酸素治療器などの医療機器;画像録画機(いわゆるDVDレコーダーなど)、オーディオ機器、および電子楽器などの家庭電器製品;パチンコやスロットマシーンなどの遊技装置;並びに精密なセンサーを搭載する家庭用ロボットなどの部品にも好適なものである。
【0115】
また本発明の樹脂組成物は、各種の車両部品、電池、発電装置、回路基板、集積回路のモールド、光学ディスク基板、ディスクカートリッジ、光カード、ICメモリーカード、コネクター、ケーブルカプラー、電子部品の搬送用容器(ICマガジンケース、シリコンウエハー容器、ガラス基板収納容器、およびキャリアテープなど)、帯電防止用または帯電除去部品(電子写真感光装置の帯電ロールなど)、並びに各種機構部品(ギア、ターンテーブル、ローター、およびネジなど。マイクロマシン用機構部品を含む)に利用可能である。
したがって本発明の樹脂組成物は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0116】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。尚、評価としては以下の項目について実施した。
(I)評価項目
(I−1)表面抵抗率
幅45mm×長さ80mm×厚み2mmの角板をシリンダー温度300℃、金型温度80℃、射速20mm/sec、および成形サイクル約60秒の条件で射出成形により成形した。パージ直後から2、4、6、8、および10ショット目の成形品を抜き出し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気で24時間放置した後、かかる5つの角板をデジタル絶縁計(東亜電波工業(株)製)および抵抗率計(三菱化学(株)製)で表面抵抗率を測定し、その平均値を算出した。なお、1.0×1014Ω以下の場合表面抵抗率は良好であるといえる。
(I−2)溶融熱安定性
幅45mm×長さ80mm×厚み2mmの角板を、成形サイクル30秒になる条件で射出成形により成形した。その成形品を粉砕し、粘度平均分子量を本文記載の方法により測定した。一方、成形サイクル600秒になる条件で射出成形により成形し、粉砕後の粘度平均分子量も同様に測定した。かかる成形サイクル30秒の成形品の分子量を100%とした時の成形サイクル600秒とした時の分子量を百分率であらわし、分子量保持率として評価した。かかる分子量保持率が高いほど溶融熱安定性が良好といえる。
(I−3)引張破断伸度
ISO527−1および527−2に準拠して引張破断伸度を測定した。試験形状は、長さ175mm×幅10mm×厚み4mmであった。上記と同様に5本のサンプルの平均値を算出した。なお、試験速度は5mm/minで行なった。
【0118】
参考例1 ポリカーボネート樹脂の製造
イソソルビド7307重量部(50モル)とジフェニルカーボネート10709重量部(50モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを4.8重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10ー4モル)、および水酸化ナトリウムを5.0×10ー3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10ー6モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10ー3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10ー3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0119】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10ー3MPaで10分間、1.33×10ー3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10ー5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃、6.66×10ー5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.32のペレットを得た。このペレットの生物起源物質含有率は85%であり、ガラス転移温度は165℃、5%重量減少温度は355℃であった。これらの値は下記の方法で測定した。
【0120】
比粘度 ηsp;ペレットを塩化メチレンに溶解、濃度を約0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMRー0525・PC)を使用して測定した。なお、比粘度ηspは下記式から求めた。
ηsp=t/t−1
t :試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
生物起源物質含有率;ASTM D6866 05に従って、放射性炭素濃度(percent modern carbon;C14)による生物起源物質含有率試験から、生物起源物質含有率を測定した。
ガラス転移温度;ペレットを用いてTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定した。
5%重量減少温度;ペレットを用いてTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定した。
【0121】
実施例1〜5および比較例1〜2 樹脂組成物および成形品の製造
表1記載の含有割合からなる樹脂組成物を以下の要領で作成した。なお、表1記載の含有割合においてB−1成分についてはカーボンナノチューブの正味量を記載した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表1に記載成分をV型ブレンダーにて混合して混合物を作成した。尚、PC以外の少量の添加剤は、その含有率が10重量%となる予備混合物を、スーパーミキサーを用いて製造した。かかる複数の予備混合物を残りのPCと共にV型ブレンダーで均一に混合した。
【0122】
スクリュー径30mmのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所TEX−30XSST)を用いて、V型ブレンダーによる混合物を最後部の第1投入口に供給した。かかる押出機は、第1供給口から第2供給口の間にニーディングディスクによる混練ゾーンがあり、その直後に開放されたベント口が設けられていた。ベント口の長さはスクリュー径(D)に対して約2Dであった。かかるベント口の後にサイドフィーダーが設置され、サイドフィーダー以後に更にニーディングディスクによる混練ゾーンおよびそれに続くベント口が設けられていた。かかる部分のベント口の長さは約1.5Dであり、その部分では真空ポンプを使用し約3kPaの減圧度とした。押出は、シリンダー温度250℃〜300℃(スクリュー根元のバレル〜ダイスまでほぼ均等に上昇)、スクリュー回転数180rpm、および時間当りの吐出量20kgの条件で行った。押出されたストランドを水浴において冷却した後、ペレタイザーで切断しペレット化した。
得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、いずれもシリンダー温度280℃、金型温度80℃、射速20mm/sec、並びに成形サイクル約60秒の条件で、上記評価項目の試験片を作成した。
【0123】
上記実施例および比較例で使用した原材料は、下記のとおりである。
(A成分:ポリカーボネート樹脂)
A−1:参考例1にて製造したポリカーボネート樹脂ペレットを押出機投入前に100℃で24時間乾燥したものを用いた。
(B成分:導電性炭素化合物)
B−1:直径20nm、アスペクト比5以上のカーボンナノチューブ濃度が15重量%であるカーボンナノチューブ配合用濃縮物(ハイペリオン社製カーボンナノチューブマスターMB6015−00(商品名))
B−2:ジブチルフタレート給油量が495ml/100gの導電性カーボンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル(株)製ケッチェンブラックEC−600JD(商品名))
(C成分:リン系安定剤)
C−1:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト((株)アデカ製 アデカスタブPEP−36)
(D成分:変性ポリオレフィン系ワックス)
D−1:α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合によるオレフィン系ワックス(三菱化学(株)製;ダイヤカルナ30M(商品名))
【0124】
表1から明らかなように、本発明によればポリカーボネート樹脂とカーボンナノチューブからなる樹脂組成物の引張破断伸度の如き変形特性を改善され、よってこれらの特性と良好な電気伝導性とを併有する樹脂組成物が達成されていることがわかる。
【0125】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、導電性炭素化合物(B成分)0.1〜15重量部を含有してなる導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、リン系熱安定剤(C成分)0.001〜0.5重量部を含有してなる請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、酸変性ポリオレフィン系ワックス(D成分)0.01〜1重量部を含有してなる請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂(A成分)は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.20〜0.50であり、ガラス転移温度(Tg)が145〜165℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が300〜400℃である請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
上記式(1)で表されるカーボネート構成単位は、イソソルビド(1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位である請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
導電性炭素化合物(B成分)は、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブである請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
導電性炭素化合物(B成分)は、ジブチルフタレート給油量が100ml/100g〜1000ml/100gであるカーボンブラックまたは直径0.7nm〜100nmであり、かつアスペクト比が5以上であるカーボンナノチューブである請求項6記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
リン系熱安定剤(C成分)は、下記式(2)で表わされる構造(以下「−X」基と表わす)を含むリン系熱安定剤である請求項2記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(上記式(2)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基であり、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。)
【請求項9】
リン系熱安定剤(C成分)は、下記式(3)、下記式(4)、および下記式(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項8記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

【化4】

【化5】

(上記式(3)、(4)、および(5)において、「−X」は前記式(2)で示される基である。)
【請求項10】
請求項1記載の導電性ポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。

【公開番号】特開2008−285518(P2008−285518A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129351(P2007−129351)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】