説明

導電性樹脂組成物

【課題】剥離等に拠るクリーンルームの清浄度の低下がなく、半導体等の重量増加がない、半導体等に使用可能な導電性樹脂組成物の提供。
【解決手段】中球金属ボールを含有し、残部が樹脂からなる導電性樹脂組成物、または、さらに、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーから選ばれた導電性補助剤を含有する導電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物に関し、特に、静電気防止対策が必要な半導体や、電磁ノイズ防止が要求される各種電子機器筐体の材料として好適な導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体のように静電気防止対策が要求される製品・部品を製造する場合や、電磁ノイズ防止が要求される各種電子機器筐体を製造する場合、カーボンブラック、カーボンファイバー等を樹脂に均一に分散した導電性樹脂組成物が材料として使用されている。しかし、該導電性樹脂組成物の場合、カーボンブラック、カーボンファイバー等が剥離し、汚染源になるため、清浄さが厳しく要求されるクリーンルーム内での使用に支障があった。これを解決する材料として、金属繊維を樹脂に分散した導電性樹脂組成物が提案されている[特許文献1]。該金属繊維の場合、カーボンブラック、カーボンファイバー等のカーボン系のような発塵がなく、清浄さが要求される用途に好適とされている。
しかし、該金属繊維を用いた場合には、導電性樹脂材料の重量増加があり、大量配合できないという問題があり、用途、用法が制限されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−9090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記問題点、すなわち、剥離等に拠る発塵に起因するクリーンルームの清浄度の低下がなく、半導体等の重量増加の問題がなく、半導体製造等に使用することが可能な導電性樹脂組成物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本願発明は下記のとおりである。
(1)中球金属ボールを含有し、残部が樹脂からなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
(2)前記中球金属ボールの含有量が20〜80vol%であることを特徴とする(1)に記載の導電性樹脂組成物。
(3)中球金属ボール、ならびに、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤を含有することを特徴とする導電性樹脂組成物。
(4)導電性樹脂組成物全体に対し、中球金属ボールを3〜80質量%、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤を3〜70質量%含有し、残部が樹脂からなることを特徴とする(3)に記載の導電性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性樹脂組成物は、該組成物を成形してなる成形物中の導電剤である中空金属ボールや、導電性補助剤が剥離して発塵することがなく、したがって、クリーンルームの清浄度の低下がなく、成形体の重量増加の問題がない導電性樹脂組成物であり、特に、静電気防止対策が必要な半導体用や、電磁ノイズ防止が要求される各種電子機器筐体用の材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の導電性樹脂組成物、すなわち、中空金属ボール、好ましくは、さらに、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤を含有する導電性樹脂組成物について具体的に説明する。
【0008】
本発明に使用される樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよいが、導電性樹脂の成形性等の点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂(ABS)等の汎用樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール等のエンジニアリング樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0009】
本発明に使用される中空金属ボールは、樹脂組成物に導電性を付与する導電剤であるが、補強剤としても作用する。該中空金属ボールは、充実金属ボールに比べ軽量であり、重量増加の問題がないことから、半導体等の微小部品の材料として好適である。該中空金属ボールは、カーボンブラック、カーボンファイバーのように、半導体(成形体)としたときに、剥離し、クリーンルームを汚染することがない。
該中空金属ボールの材質は特に限定されるものではないが、コストの点から鉄、鉄合金が好ましい。
【0010】
特に好ましいのは、表面処理した中空金属ボールである。該中空金属ボールの表面処理は、配合対象の樹脂との親和性・接着性を向上することができる表面処理剤によるものであれば、特に限定されない。該表面処理剤は、加熱すると溶融し、その後冷却すると固化する、ポリオレフィン系接着剤、フェノール系接着剤、ポリアミド系接着剤等、または、加熱すると溶融固化する、エポキシ系接着剤、メラミン系接着剤、ユリア系接着剤等、数百度(摂氏)に加熱すれば溶融する亜鉛等のメッキ剤である。表面処理剤は、配合対象の樹脂と同種のものを使用すれば、より好都合である。
【0011】
該中空金属ボールの形状は特に限定されるものではないが、球状または塊状などの球体に近い形状であることが好ましく、球状がより好ましい。
該中空金属ボールの平均粒子径は0.5〜1.5mmが好ましい。0.5mm未満の場合には、軽量化と両立する殻厚が極端に薄くなり、強度が不足するため、樹脂との混練時に該中空金属ボールが破損する恐れがある。また、1.5mm超の場合には、成形体の薄肉化に不利となり用途が限定される。平均粒子径が異なる該中空金属ボールを2種以上併用することもできる。
該中空金属ボールの見掛密度は0.2〜2.3g/cmが好ましい。0.2g/cm未満の場合には、殻厚が極端に薄くなり、強度が不足するため、樹脂との混練時に該中空金属ボールが破損する恐れがある。また、2.3g/cm超の場合には、導電性樹脂組成物の軽量化が不十分になり、好ましくない。ここで、見掛密度とはボール重量を4/3Π(ボール半径)で割った数値である。
【0012】
該中空金属ボールの製造方法を、鉄の場合の1例により説明するが(特開2007−9278号公報、特開2008−24958号公報参照)、もとより、これに限定されるものではない。
(1)PVA水溶液中で、発泡スチロールボールと酸化鉄を攪拌混合し、発泡スチロールボールを核に酸化鉄を造粒する(発泡スチロールボールに酸化鉄をコーテイングする)。
(2)得られた造粒物を大気中で加熱し、発泡スチロールボールを熱分解、気化して、酸化鉄の中空ボールを得る。
(3)該中空酸化鉄ボールを水素中で加熱し、発泡スチロールボールを熱分解、気化して、該中空酸化鉄ボールを還元し、中空鉄ボールを得る。
【0013】
該中空金属ボールの配合量は、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤の配合がない、単独使用の場合には、導電性樹脂組成物全体の20〜80vol%であることが好ましい。20vol%未満の場合には、該中空金属ボール同士の接触機会が少なく、電気的接点が不足して、電気抵抗が大きくなる。また、80vol%超の場合には、相対的に樹脂の量が減少し、成形体の強度が不十分になるので、好ましくない。
該中空金属ボールの配合量は、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤との併用の場合には、導電性樹脂組成物全体の3〜80質量%が好ましい。3質量%未満の場合には、該中空金属ボールと該導電性補助剤との接触機会が少なく、電気的接点が不足して、電気抵抗が大きくなる。また、80質量%超の場合には、相対的に樹脂の量が減少し、成形体の強度が不十分になるので、好ましくない。
【0014】
本発明に使用される導電性補助剤である金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーは、それら自体が導電性を付与する材料であるが、むしろ、本発明においては、分散した該中空金属ボール間に介在して電気的に接合する作用を担うものである。該導電性補助剤の配合により、該中空金属ボール単体の場合よりも配合量を減量しても、導電性樹脂組成物の導電性を同程度に付与することができる。そのため、相対的に樹脂の配合量を増量でき、導電性樹脂組成物の成形性や成形体の強度を増大することができる。
【0015】
該金属繊維は、直径5〜30μm、長さ1〜15mmの直線状のものが好ましい。波状、渦巻き状等であっても差しつかえない。5μm未満では、細すぎて成形時の剪断力により破断しやすい。30μm超では、アスペクト比が小さくなり、好ましくない。また、1mm未満では、長さが不足し、金属繊維同士の絡み合いが少なく、導電性の向上が十分でない。15mm超では、長いので金属繊維の凝集性が大となり、好ましくない。
該金属繊維の材質は特に限定されないが、耐食性の点からステンレス鋼が好ましい。
該金属繊維は、例えば、ステンレス鋼を研削して、繊維状にした後、振動篩等を用いて分級して製造される。また、引抜伸線法で得た繊維を所望の長さに切断して製造される。
【0016】
カーボンブラックはその種類、製法に特に限定されないが、アセチレンブラックも含む。導電性の高いアセチレンブラックが好ましい。
【0017】
該導電性補助剤は金属繊維、カーボンブラック、カーボンファイバーの併用でも構わない。
【0018】
本発明の導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に中空金属ボール、さらには、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤を一軸押出機等により混練し、造粒することにより製造される。前記混練の際に、各種添加剤を配合してもよい。
本発明の導電性樹脂組成物は、その後、射出成形、押出成形等の成形手段により所望の形状に成形され、所望の成形体になる。
熱可塑性樹脂の代わりに熱硬化性樹脂を用いた場合は、本発明の導電性樹脂組成物は混合機、混練機を用いて製造される。そして、加熱溶融した導電性樹脂組成物を金型に充填して、注型成形され、成形体になる。
【実施例】
【0019】
表1に示す樹脂、中空鉄ボール、導電性補助剤を、表1に示す方法で、3×150×150mmの大きさに成形した。得られた成形体の電気抵抗を測定した。結果を表1に示した。
電気抵抗は、電極間距離15mm、印加電圧9Vで測定した時の電極間の表面抵抗値(Ω/sq)で評価した。
また、発塵評価のため、摩耗テスト(JIS K7218)を行った。荷重14kgfの鋼材を60分/900mm滑らせた時の体積摩耗量を相対値比較した。
【0020】
表1から、本発明の導電性樹脂組成物は軽量性、導電性、低発塵性を併せもった材料であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の導電性樹脂組成物は、静電気防止対策が必要な半導体用や、電磁ノイズ防止が要求される各種電子機器筐体用の材料として好適に使用することができる。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中球金属ボールを含有し、残部が樹脂からなることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記中球金属ボールの含有量が20〜80vol%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
中球金属ボール、ならびに、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助剤を含有することを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項4】
導電性樹脂組成物全体に対し、中球金属ボールを3〜80質量%、金属繊維、カーボンブラックおよびカーボンファイバーからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性補助材を3〜70質量%含有し、残部が樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の導電性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−26362(P2011−26362A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170103(P2009−170103)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】