説明

導電性樹脂組成物

【課題】導電粉、レゾール型フェノール樹脂およびイソシアネート化合物を含み、安定した物性の硬化物を得ることができる導電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)レゾール型フェノール樹脂、(B)ピラゾール化合物、(C)イソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物である。また、(A)レゾール型フェノール樹脂、(F)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物である。(E)水酸基を含有するシロキサン化合物が、水酸基を含有するシリコン変性樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリシロキサンのうち1種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物に関し、詳しくは、はんだ耐熱性および耐摩耗性に優れる硬化物を得ることのできる導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パソコンやテレビのリモコン、携帯電話などのキーパッド接点部に用いられる導電回路は、金めっき法などの方法により形成されている。しかしながら、近年、製造工程簡略化や低コスト化、さらには耐マイグレーション性などの観点から、導電性ペーストの利用が検討されている。
このような導電性ペーストとしては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなるバインダー樹脂に、銀や銅などの金属粉や、カーボンブラック、グラファイトといった炭素導電粉を配合・分散させたものが従来から用いられている。導電性ペーストには、導電性、印刷性、密着性、はんだ耐熱性、高温耐熱性、耐湿性、耐サーマルショック性、耐摩耗性などの特性が要求され、それらの要求特性を満足させるべく、様々な樹脂成分、導電粉が提案されている。
【0003】
これら導電性ペーストのバインダーとして利用される熱硬化性樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂が知られている。レゾール型フェノール樹脂は耐熱性に優れ、また、導電性ペーストに用いた場合、自己縮合による体積収縮の結果、配合した導電粉同士の接触面積が増大し、抵抗値が下がって導電性が良好になることが期待される。さらに、比較的低価格でありながら、耐熱性の他、接着性、機械的特性、電気的特性等に優れ、バインダーとしてのみならず、各種基材の成型材料や接着剤、コーティング剤としても幅広く使用されている。特許文献1には、レゾール型フェノール樹脂を含む樹脂組成物を導電性ペーストのバインダー樹脂として用いることが開示されている。
一方で、レゾール型フェノール樹脂には、印刷性のさらなる向上、硬化塗膜の脆さ、保存安定性の改善などが求められている。
【0004】
また、接着性や屈曲性、耐摩耗性に優れるものとして、水酸基を有する化合物にポリイソシアネート化合物を付加反応させて得られるバインダー樹脂も提案されている。例えば、特許文献2、3には、ポリエステルポリオール、イソシアネート化合物および導電粉を含む導電性ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−194822号公報
【特許文献2】特開2006−100081号公報
【特許文献3】特開2006−302825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、レゾール型フェノール樹脂を使用したバインダー樹脂系の特性改善を目的として、レゾール型フェノールにイソシアネート化合物を混合し、ピラゾール化合物存在下で加熱硬化させることにより、競争的に起こるレゾール型フェノール自身の縮合反応と、イソシアネート化合物との付加反応系を制御し、硬化物性の安定化・高性能化について先に出願している。これにより、硬化塗膜の脆さを改善し、機械的特性や電気的特性などバランスの取れた硬化物を安定して得ることが可能になった。
【0007】
また近年、環境に対する負荷を軽減する動きが高まり、これら組成物の構成に際しても環境管理物質の使用を制限する傾向が見られるようになった。フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合により合成されるレゾール型フェノールにおいても、合成後に樹脂系内に残存するフェノールやホルムアルデヒドがその対象となるため、その削減は重要な試みである。
その一方で、レゾール樹脂中の残存フェノールは、レゾール樹脂が熱硬化する際に、一旦該フェノールにメチロール基が付加して縮合化する際の架橋剤として作用し、硬化物の強度を改善する効果があることが知られている。
そのため、残存フェノール量と残存ホルムアルデヒド量を低減させた環境に優しいレゾール樹脂を用いて、はんだ耐熱性や耐摩耗性などの塗膜特性に優れた導電性ペーストの開発することは重要課題である。
【0008】
そこで本発明の目的は、レゾール型フェノール樹脂中の残存フェノールや残存ホルムアルデヒドを削減してもはんだ耐熱性および耐摩耗性に優れる硬化物を得ることができる導電性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、水酸基を含有するシロキサン化合物を添加することにより、レゾール型フェノール樹脂中の残存フェノールや残存ホルムアルデヒドを削減してもはんだ耐熱性および耐摩耗性に優れる硬化物が得られる導電性樹脂組成物の構成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の導電性樹脂組成物は、(A)レゾール型フェノール樹脂、(B)ピラゾール化合物、(C)イソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の導電性樹脂組成物は、前記(B)ピラゾール化合物が、3,5−ジメチルピラゾールであることが好ましい。前記(C)イソシアネート化合物は、ブロック化イソシアネートであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、(A)レゾール型フェノール樹脂、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の導電性樹脂組成物は、さらに、(F)ポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の導電性樹脂組成物は、前記(D)導電粉が、カーボンブラック、および、グラファイトのうち1種以上であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の導電性樹脂組成物は、前記(E)水酸基を含有するシロキサン化合物が、水酸基を含有するシリコン変性樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリシロキサンのうち1種以上であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の導電性樹脂組成物は、前記(E)水酸基を含有するシロキサン化合物が、水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのうち1種以上であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の導電性樹脂組成物は、前記(A)レゾール型フェノール樹脂の残存フェノールが、前記(A)レゾール型フェノール樹脂に対して、0.1質量%以下であることが好ましく、また、前記(A)レゾール型フェノール樹脂の残存アルデヒドが、前記(A)レゾール型フェノール樹脂に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の導電性樹脂硬化物は前記の導電性樹脂組成物を硬化させて得られることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の導体回路パターンは、前記導電性樹脂硬化物を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レゾール型フェノール樹脂中の残存フェノールや残存ホルムアルデヒドを削減してもはんだ耐熱性および耐摩耗性に優れる硬化物を得ることができる導電性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂の添加率と硬化膜の体積抵抗値との関係を示すグラフである。
【図2】図2は水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂の添加率と硬化膜のはんだ処理後の抵抗変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の導電性樹脂組成物は、(A)レゾール型フェノール樹脂、(B)ピラゾール化合物、(C)イソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物、または、(A)レゾール型フェノール樹脂、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物である。
以下、各成分について具体的に説明する。
なお、本発明において、樹脂とは、(A)、(B)、(C)、(F)および(G)を意味する。
【0023】
<(A)レゾール型フェノール樹脂>
本発明において、(A)レゾール型フェノール樹脂は、導電性ペーストのバインダー樹脂に使用されるものであれば公知のものをいずれも使用可能である。また、アルコキシ基等によって変性されていてもよい。(A)レゾール型フェノール樹脂の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量MWが500から5000であることが好ましい。
レゾール型フェノール樹脂は、例えば、フェノール化合物を塩基の存在下でホルムアルデヒド類にてメチロール化することで得られ、酸性条件下に置くか、加熱することで縮合反応が起こり、ゲル化、硬化が起こる。
【0024】
レゾール型フェノール樹脂の原料となるフェノール化合物としては、例えばフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。硬化性と耐熱性の面より、ビスフェノールA、フェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールが好ましい。
【0025】
前記ホルムアルデヒド類としてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンなどが挙げられ、これらは1種でもよく、2種以上であってもよい。得られたメチロール基は芳香環1核あたり1.0個以上が望ましい。
【0026】
(A)レゾール型フェノール樹脂は、残存フェノールおよび残存ホルムアルデヒドの含有量がそれぞれ0.1質量%以下であるものが、環境に対する負荷を軽減するために好ましく、そのようなレゾール型フェノール樹脂の市販品の例としては、PZ−2011(DIC株式会社製)が挙げられる。また、(A)レゾール型フェノール樹脂の配合量は固形分換算で、組成物中の樹脂固形分に対して、10〜55質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。レゾール型フェノール樹脂の配合量が10質量%未満の場合、導体回路パターンに必要なはんだ耐熱性、高温耐熱性などの特性が低下し、一方で55質量%を超えると、耐煮沸性、屈曲性、印刷性などに悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0027】
<(B)ピラゾール化合物>
その理由は必ずしも明らかではないが、ピラゾール化合物が樹脂組成物中に存在すると、レゾール型フェノール樹脂の縮合反応が抑制され、レゾール型フェノール樹脂およびイソシアネート化合物が含まれる樹脂組成物の反応を制御し、硬化物の物性の安定化を図ることができる。ピラゾール化合物は、樹脂組成物中に単独で含まれていてもよく、また、下記するようにイソシアネート化合物のブロック剤として含まれていてもよい。
本発明において、(B)ピラゾール化合物としては、例えば、無置換のピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、5−メチルピラゾール、3−ペンチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−クロロピラゾール、3,4−ジブロモピラゾールなどのピラゾール環の3、4、5位のいずれか一つ以上が炭素原子数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基またはアセチル基で置換されたピラゾールが挙げられる。これらのピラゾール環上の置換基は1種でもよく、2種以上であってもよい。ピラゾール化合物は、無置換ピラゾール、アルキル置換ピラゾールおよびそれらの誘導体から選ばれる1つ以上のピラゾール化合物であることが好ましく、ブロック剤としての熱解離性と熱安定性のバランスから3,5−ジメチルピラゾールが特に好ましい。
ピラゾール化合物の配合量は固形分換算で、レゾール型フェノール樹脂の固形分に対して1〜35質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。ピラゾール化合物の配合量が1質量%未満の場合、本発明の硬化条件下ではレゾール樹脂の自己縮合を抑制するには十分ではなく、一方で35質量%を超えると、必要以上に反応性を抑制することになり、塗膜特性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0028】
<(C)イソシアネート化合物>
本発明において、(C)イソシアネート化合物としては、導電性ペーストのバインダー樹脂に使用されるものであれば公知のものをいずれも使用可能である。そのようなイソシアネート化合物としては、脂肪族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物、イソシアネート化合物とポリヒドロキシ化合物またはポリアミン化合物とから得られる末端イソシアネートプレポリマーないしは高分子量のイソシアネート基含有ポリマーなどが挙げられる。
イソシアネート化合物の好ましい配合量は固形分換算で、組成物中の樹脂固形分に対して、20〜80質量%であり、35〜75質量%がより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が20質量%未満では、耐煮沸性の低下を引き起こすのに対し、80質量%を超えると、はんだ耐熱性、高温耐熱性などの特性低下を引き起こすため好ましくない。
【0029】
上記脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDIまたはHMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルシクロヘキサン2,4−(2,6)−ジイソシアネート(水素化TDI)、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水素化MDI)、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水素化XDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、N,N′,N″−トリス(6−イソシアネート、ヘキサメチレン)ビウレットなどがある。
【0030】
上記芳香族イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などを挙げることができる。
【0031】
上記末端イソシアネートプレポリマー、及びポリマーを得るために使用する低分子量ポリヒドロキシ化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンアジペート・グリコール、ポリプロピレンアジペート・グリコールなどを挙げることができる。
【0032】
また、一液化・シェルフライフの観点から、イソシアネート化合物は、公知のブロック化剤(封止剤)でブロックされたブロック化イソシアネートを用いることが好ましい。ブロック化剤としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、イソブタノールなどのアルコール類、フェノール、クロルフェノール、クレゾール、キシレノール、p−ニトロフェノールなどのフェノール類、p−t−ブチルフェノール、p−sec−ブチルフェノール、p−sec−アミノフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノールなどのアルキルフェノール類、3−ヒドロキシピリジン、8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキナルジンなどの塩基性窒素含有化合物、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン化合物、アセトアミド、アクリルアミド、アセトアニリドなどの酸アミド類、コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどの酸イミド類、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、2−ピロリドン、ε−カプロラクタムなどのラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトアルドキシムなどのケトンまたはアルデヒドのオキシム類、エチレンイミン、重亜硫酸塩などがあげられる。上記ブロック剤は、1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0033】
<(D)導電粉>
本発明において、(D)導電粉としては、導電性ペーストのバインダー樹脂に使用されるものであれば公知のものをいずれも使用可能である。導電粉としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム合金などの金属粉、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、グラファイト、カーボンブラックとグラファイトの混合物、カーボンナノチューブなどの炭素粉末が挙げられ、カーボンブラック、グラファイト、カーボンブラックとグラファイトとの混合物が好ましい。
(D)導電粉の含有量は、金属粉の場合、組成物中の固形分換算で、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは75〜90質量%であり、炭素粉の場合、組成物中の固形分換算で、好ましくは35〜65質量%、より好ましくは45〜55質量%である。配合量が、上記範囲より少ない場合、十分な導電性が得られないのに対し、上記範囲より多い場合は、硬化膜の機械強度が低下するので好ましくない。
【0034】
<(E)水酸基を含有するシロキサン化合物>
本発明において、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物としては、公知のものをいずれも使用可能であり、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。ここで、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物における、シロキサン化合物とは、シロキサン結合を有する化合物を意味し、ポリエーテル変性ポリシロキサン等のように変性した化合物でもよく、また、シリコン変性アクリル樹脂等のように変性によりシロキサンが付加された化合物でもよい。(E)水酸基を含有するシロキサン化合物における、水酸基を含有するとは、シロキサン化合物が水酸基を有することを意味し、本発明の効果が得られる限り水酸基の位置は特に限定されず、シロキサン部が水酸基を含有していなくとも、変性基等が水酸基を含有していればよい。例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサンの場合、ポリシロキサン部が水酸基を有していなくても、ポリエーテル部が水酸基を有していればよい。水酸基価は、本発明の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、好ましくは10〜80mg KOH/g、より好ましくは20〜50mg KOH/gであり、低すぎると本発明の効果が十分に得られないことがある。
【0035】
(E)水酸基を含有するシロキサン化合物としては、水酸基を含有するポリシロキサン;水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂、シリコン変性ポリエステル樹脂、シリコン変性ポリウレタン樹脂等の水酸基を含有するシリコン変性樹脂;および水酸基を含有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等の水酸基を含有するポリエーテル変性ポリシロキサンが挙げられる。中でも、水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが更に好ましい。なお、本願において、水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂とは、水酸基を含有するシリコン変性メタクリル樹脂も含むものとする。市販品の例としては、BYK−SYLCLEAN 3700(ビックケミー株式会社製、水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂、NV=25%)、および、BYK−SYLCLEAN 3720(ビックケミー株式会社製、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、NV=25%)が挙げられる。
(E)水酸基を含有するシロキサン化合物の含有量は組成物中の固形分換算で、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜20質量%である。配合量が、上記範囲より少ない場合、はんだ耐熱性と耐摩耗性が十分に得られないことがあり、上記範囲より多い場合は、体積抵抗値が高くなることがあり好ましくない。
【0036】
<(F)ポリビニルアセタール樹脂>
本発明においては、導電粉の分散性や印刷特性などの観点から、(A)レゾール型フェノール樹脂、(B)ピラゾール化合物、(C)イソシアネート化合物、および、(D)導電粉を含む導電性樹脂組成物、または、(A)レゾール型フェノール樹脂、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、および、(D)導電粉を含む導電性樹脂組成物のいずれであっても、さらに、(F)ポリビニルアセタール樹脂を含有することが好ましい。(F)ポリビニルアセタール樹脂としては、導電性ペーストのバインダー樹脂に使用されるものであれば公知のものをいずれも使用可能である。(F)ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化することで得られる。
【0037】
上記アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなどが挙げられ、ブチルアルデヒドが好ましい。これらのアルデヒドは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリビニルアセタール樹脂で市販されているものの製品名としては、例えば、エスレックBL−1、BL−1H、BL−2、BL−2H、BL−5、BL−10、BL−S、BM−1、BM−2、BM−S、BH−3、BX−1、BX−2、BX−5、BX−55、BX−L、BH−3、BH−S、BM−S、KS−3Z、KS−5、KS−5Z、KS−8、KS−23Z(以上、積水化学工業(株)製)、電化ブチラール4000−2、5000A、6000C、6000EP(以上、電気化学工業(株)製)等が挙げられる。また、これらの樹脂は1種類を使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
ポリビニルアセタール樹脂の配合量は固形分換算で、組成物中の樹脂固形分に対して、1.5〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。配合量が1.5質量%未満では、導電粉の分散性や印刷特性などに添加効果が見られず、配合量が20質量%を超えると、はんだ耐熱性など塗膜の耐熱性を低下させるため好ましくない。
【0040】
<(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物>
本発明の導電性樹脂組成物において、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物が、ピラゾール化合物でブロックされたものである。イソシアネート化合物は、上記(C)イソシアネート化合物で例示したものと同様であり、ピラゾール化合物は、上記(B)ピラゾール化合物で例示したものと同様である。本発明の導電性樹脂組成物が(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物を含む場合、(B)ピラゾール化合物を含んでいてもいなくてもよい。
(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物の配合量は固形分換算で、組成物中の樹脂固形分に対して、25〜85質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
【0041】
<その他の成分>
本発明の導電性樹脂組成物は、上記各成分以外に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、溶剤、消泡剤、チキソトロピー剤、カップリング剤、酸化防止剤、分散剤、レベリング剤等が挙げられ、公知のものをいずれも使用可能である。
【0042】
<導電性樹脂硬化物>
本発明の導電性樹脂硬化物は、上記導電性樹脂組成物を硬化させることで得られるものである。硬化方法は、熱硬化が好ましい。硬化温度は、100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましい。また、本発明の導体回路パターンは、本発明の導電性樹脂硬化物をプリント配線基板上に有するものである。本発明の導体回路パターンは、公知のプリント配線基板に、本発明の導電性樹脂組成物をスクリーン印刷などにより塗布し、硬化させることで得ることができる。
【0043】
<導電性樹脂硬化物の製造方法>
本発明の導電性硬化物の製造方法としては、(A)レゾール型フェノール樹脂、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含む導電性樹脂組成物を100〜200℃で加熱して硬化させる方法が好ましい。導電性樹脂組成物の各成分は上記のとおりである。また、上記したその他の成分を含んでいてもよい。硬化温度は、120〜180℃がより好ましい。加熱方法は特に限定されず、バッチ式オーブン、熱風循環式乾燥炉、遠赤外線のコンベアオーブンなど公知の方法をいずれも採用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、「部」は特に断りがない限り質量部を意味し、「%」は特に断りがない限り質量%を意味する。
【0045】
(実施例1〜2、比較例1〜6)
下記表1に示した実施例1〜2及び比較例1〜6の成分を、三本ロールミルで混合分散し、導電性ペーストを作製した。各シロキサン化合物の添加量は、組成物固形分に対して、それぞれメーカーの推奨量とした。
【0046】
【表1】

※1:DIC株式会社製 PZ−2011(NV=50%)
※2:積水化学工業株式会社製 エスレックBM−Sのブチルカルビトールアセテートカットワニス (NV=20%)
※3:Baxenden社製 BI−7982(NV.=70%)
※4:ライオン株式会社製 ケッチェンブラックEC−300J
※5:日本黒鉛株式会社製 SP−20
※6:ビックケミー株式会社製 BYK−SILCLEAN3700(NV=25%)
※7:ビックケミー株式会社製 BYK−SILCLEAN3720(NV=25%)
※8:ビックケミー株式会社製 BYK−330(NV=51%)
※9:ビックケミー株式会社製 BYK−333(NV=100%)
※10:ビックケミー株式会社製 BYK−337(NV=15%)
※11:ビックケミー株式会社製 BYK−307(NV=100%)
※12:協和発酵ケミカル株式会社製 ブチルカルビトールアセテート
【0047】
得られた導電性ペーストを用いて作製したプリント配線板を使用して、下記の評価試験法により、体積抵抗値、密着性、耐テープピール性、はんだ耐熱性、煮沸耐性、鉛筆硬度試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0048】
(1)体積抵抗値
電極を形成したガラスエポキシ基板の銅回路部に、上記実施例1〜2及び比較例1〜6の導電性ペーストを、それぞれスクリーン印刷法により塗布し、幅1mm×100mmのパターン皮膜を形成した。次いで熱風循環式乾燥炉において、150℃で30分間加熱硬化させた。次に、得られた硬化膜について、ミリオームハイテスター(HIOKI社製 3540 mΩHiTESTER)により抵抗値(R)を測定し、体積抵抗率を算出した。体積抵抗値の測定は、サーフコーダーを用いて導電成形体の厚み(t)を測定し、光学顕微鏡を用いて反射光に基づく導電成形体の正確なライン幅(w)および長さ(l)を測定し、これら測定値に基づいて、体積抵抗値を式「ρ=R・w・t/l」から算出した。ここで、ρは体積抵抗率(Ω・cm)、Rは抵抗値(Ω)、wは幅(cm)、tは厚さ(cm)、lは長さ(cm)を表している。なお、体積抵抗値は、数値が小さいほど好ましい。
【0049】
(2)密着性・耐テープピール性(耐摩耗性)
ガラスエポキシ銅張積層板の銅箔面15mm×15mmのパターン皮膜を上記(1)と同様にスクリーン印刷法により形成し、加熱硬化した。得られた硬化膜に、カッターナイフで1mm×1mmの升目を100個作り、その上からセロハンテープで塗膜を引き剥がした時の基板上に残った升目の個数を調べ、密着性を評価した(JIS K5400−8.5)。升目残りが多い方が好ましい結果を示す。また、耐テープピール性(耐摩耗性)の評価は、得られた硬化膜にセロハンテープを貼り付け、塗膜に対して90°でテープを剥離して、テープの付着物を目視で確認する。評価基準は以下の通り。
○:セロハンテープに付着物が全くないもの
×:セロハンテープに付着物があるもの
【0050】
(3)はんだ耐熱性
上記(1)と同様に作製したプリント配線板を、260℃のはんだ槽に10秒間浸漬した後、処理後の硬化膜につき、ミリオームハイテスター(HIOKI社製 3540 mΩHiTESTER)により抵抗値を測定した。算出した体積抵抗値から、処理前の体積抵抗値を基準に変化率を算出した。なお、はんだ処理後の変化率は、絶対値が小さい方が好ましい。
【0051】
(4)煮沸耐性
煮沸水中に上記(1)と同様に作製したプリント配線板を、2時間浸漬し煮沸した。煮沸処理後の硬化膜につき、ミリオームハイテスター(HIOKI社製 3540 mΩHiTESTER)により抵抗値を測定し、変化率を算出した。なお、はんだ処理後の変化率は、絶対値が小さい方が好ましい。
【0052】
(5)鉛筆硬度
(1)と同様に作製したプリント配線板を、JIS K5600−5−6の試験方法に従って、鉛筆硬度試験機を用いて荷重1kgを掛けたときの塗膜に傷が付かない最も高い硬度をもって表示した。使用した鉛筆は三菱ハイユニ(三菱鉛筆(株)製)である。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例3〜5、比較例7)
下記表3に示した実施例3〜5及び比較例7の成分を、三本ロールミルで混合分散し、導電性ペーストを作製した。
【0055】
【表3】

※1:DIC株式会社製 PZ−2011(NV=50%)
※2:積水化学工業株式会社製 エスレックBM−Sのブチルカルビトールアセテートカットワニス (NV=20%)
※3:Baxenden社製 BI−7982(NV.=70%)
※4:ライオン株式会社製 ケッチェンブラックEC−300J
※5:日本黒鉛株式会社製 SP−20
※6:ビックケミー株式会社製 BYK−SILCLEAN3700(NV=25%)
※12:協和発酵ケミカル株式会社製 ブチルカルビトールアセテート
【0056】
これらの導体性ペーストを用いて作製したプリント配線板を使用して、上記の評価試験法により、体積抵抗値、密着性、耐テープピール性、はんだ耐熱性、煮沸耐性、鉛筆硬度試験を行った。結果を下記表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
比較例1のように環境負荷低減の観点から残存フェノールが0.1%以下のレゾール樹脂を用いた場合、フェノールの添加により残存フェノールが3%となる比較例2よりも、その硬化膜のはんだ処理後の抵抗変化率は大きくなり、はんだ耐熱性に劣る。このことはレゾール樹脂内の残存フェノールが架橋剤もしくは硬化促進剤として作用する可能性を示唆しており、該硬化物の架橋密度等にも影響し、耐熱性が低下するものと推測する。比較例3〜6から、硬化膜の耐テープピール性を向上させるためにシロキサン化合物を添加すると、硬化膜の抵抗値が高くなり、はんだ処理後の抵抗変化率も大きくなることがわかる。このことは、添加剤が系内で可塑剤として作用して、耐熱低下を引き起こし、さらにはこれらの添加により組成内の導電粉濃度が減少するため、導電劣化を引き起こすものと思われる。さらには、これらの添加により、硬化膜の耐テープピール性に効果は得られなかった。一方で、実施例1、2のように、本発明の組成で架橋点となり得る水酸基を含有するシロキサン化合物を添加すると、はんだ耐熱性と耐摩耗性(耐テープピール性)がともに向上することがわかる。また実施例3〜5と比較例7から、これらの水酸基を含有するシロキサン化合物の添加量とともに抵抗値は高くなるが、はんだ耐熱性と耐摩耗性(耐テープピール性)が向上することもわかる。すなわち、水酸基を含有するシロキサン化合物を添加することにより、はんだ耐熱性および耐摩耗性の向上を同時に達成できることがわかる。また、残存フェノールを減少させることではんだ耐熱性が低下したレゾール樹脂であっても、水酸基を含有するシロキサン化合物を添加することにより、はんだ耐熱性および耐摩耗性を向上できることがわかる。
以上のことより、本発明の導電性ペーストを用いて形成された硬化膜は、優れたはんだ耐熱性と耐摩耗性(耐テープピール性)を示し、さらに高い導電性と優れた基材への密着性を有していることから、プリント配線板の回路形成やキーパッド接点部等の形成に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レゾール型フェノール樹脂、(B)ピラゾール化合物、(C)イソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)ピラゾール化合物が、3,5−ジメチルピラゾールである請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)イソシアネート化合物が、ブロック化イソシアネート化合物である請求項1または2記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)レゾール型フェノール樹脂、(G)ピラゾールでブロックされたイソシアネート化合物、(D)導電粉、および、(E)水酸基を含有するシロキサン化合物を含むことを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(F)ポリビニルアセタール樹脂を含む請求項1〜4のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)導電粉が、カーボンブラック、および、グラファイトのうち1種以上である請求項1〜5のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(E)水酸基を含有するシロキサン化合物が、水酸基を含有するシリコン変性樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリシロキサンのうち1種以上である請求項1〜6のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(E)水酸基を含有するシロキサン化合物が、水酸基を含有するシリコン変性アクリル樹脂、および、水酸基を含有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのうち1種以上である請求項1〜7のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(A)レゾール型フェノール樹脂の残存フェノールが、前記(A)レゾール型フェノール樹脂に対して、0.1質量%以下である請求項1〜8のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(A)レゾール型フェノール樹脂の残存アルデヒドが、前記(A)レゾール型フェノール樹脂に対して、0.1質量%以下である請求項1〜9のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の導電性樹脂組成物を硬化させて得られることを特徴とする導電性樹脂硬化物。
【請求項12】
請求項11記載の導電性樹脂硬化物を用いることを特徴とする導体回路パターン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214643(P2012−214643A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81290(P2011−81290)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591021305)太陽ホールディングス株式会社 (327)
【Fターム(参考)】